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神経性食欲不振症患者のRefeeding症候群に対する高リン含有栄養補助食品の利用の試み

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Academic year: 2021

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(1)

【目的】

 Refeeding症候群(Refeeding syndrome;以下、 RSと略)は、低栄養状態の患者に主に糖質を急速に投 与することで発症する体液と電解質異常に関連した症候 群である1)。もっとも著明に現れるのが血清無機リン (Inorganic phosphorus;以下、IPと略)濃度の低下 であり、それは RSの指標となりうる。RSの症状として は心不全、末梢浮腫、痙攣、昏睡など致命的なものが報 告されているため、その予防が大切である。  神経性食欲不振症(Anorexia nervosa;以下、AN と略)は、患者自身によって引き起こされる極端な体重減 少によって特徴づけられる疾患である。従って、AN患者 は治療前と治療開始後において RSのハイリスク群であ り、RSを発症した症例がこれまでに報告されている2)~ 5) 我々は、入院後に血清 IP値が低下傾向を示した AN患 者に対してリンを補給する目的で栄養補助食品アイソカ ル®・アルジネード®(ネスレ日本株式会社 ネスレヘル スサイエンスカンパニー;以下、アルジネード®と略)を使 用してきた6)。また、近年は RSの予防のために入院後早 期よりアルジネード®を投与している6)。今回、アルジネー ド®のRSに対する予防と治療効果を血清 IP濃度を指 標として後ろ向きに検討した。

【対象及び方法】

 2008年から2010年に九州大学病院心療内科に AN の診断で入院した77例を調査したところ、アルジネード® を使用した患者は19例であった。そのうち、入院期間が 14日未満の患者3例、重篤な基礎疾患のある患者1例、

臨床経験

神経性食欲不振症患者の Refeeding症候群に対する

高リン含有栄養補助食品の利用の試み*

keywords:

神経性食欲不振症、Refeeding症候群、低リン血症

山下さきの1)2) Sakino YAMASHITA 河合啓介1)2) Keisuke KAWAI 山口貞子2) Teiko YAMAGUCHI

吉田 実2) Minoru YOSHIDA 大部一成2) Kazunari OOBU 野田英一郎2) Eiichiro NODA

高倉 修1) Shu TAKAKURA 瀧井正人1) Masato TAKII 久保千春3) Chiharu KUBO

須藤信行1) Nobuyuki SUDO

◆九州大学病院 心療内科1) NST2) 病院長3)

Department of Psychosomatic Medicine, Graduate School of Medical Science, Kyushu University1),

Kyushu University Hospital Nutrition Support Team2), The Director of Kyushu University Hospital3)

【目的】神経性食欲不振症(AN)患者にリンを630mg/125mL含有する栄養補助食品(ア ルジネード®)を投与したことによる、低リン血症の予防や治療効果を検討した。【対象及 び方法】入院後4日以内にアルジネード®の投与を開始した AN患者8例をA群、入院後 に血清無機リン(IP)濃度が基準値の範囲未満に低下したためアルジネード®の投与を 開始した5例を B群とし、投与熱量、血清 IP濃度を後ろ向きに比較した。【結果】A群と B群の入院時血清 IP濃度、入院後7日間の平均投与熱量に有意差を認めなかった。A 群の8例中7例は血清 IP濃度が基準値内に保たれていた。B群の血清 IP濃度の平均最 低値は1.9±0.6mg/dLであったが、アルジネード®の投与開始2週間後は基準値内に回 復していた。【結論】入院 AN患者の低リン血症予防と治療に高リン含有の栄養補助食 品を投与することの有効性が示唆された。

(2)

RS予防のためにアルジネード®の投与と経静脈的なリ ン投与を併用した患者2例はアルジネード®単独の効果 を評価できないため今回の検討から除外した。入院後4 日以内に RS予防の目的でアルジネード®の投与を開始 していた8例をA群とし、入院後低リン血症傾向が認め られアルジネード®単独もしくはリン酸二カリウム補正液 の併用投与を開始した5例を B群とした。両群間で入院 時身長、体重、体格指数(Body mass index;以下、 BMIと略)、年齢、病型、血清 IP値、投与熱量、投与リン 量の比較を行った。血清 IP濃度は、入院時、アルジネー ド®もしくはリン酸二カリウム補正液(以下、リン製剤と 略)の投与を開始した時点、その2週間後の計3回測定を 行った。アルジネード®の含有成分を表1に示す。  低体重などで緊急入院した患者に 対しては脱水の改善のために乳酸リン ゲル液などの投与から開始し、その後1 ~ 2日かけて400~ 500kcal/日を末 梢静脈栄養で投与する6)7)。大きな電 解質異常等の問題が改善するか、もし くは入院時に電解質異常が認められ ない場合は、総投与熱量の目 標を30kcal/kg/日程度に設 定して経口摂取を開始する。 その際、経口摂取が困難な場 合は積極的に経鼻経管栄養を 併用している。図1に参考とし て当科の治療プログラムの典 型例を示す。経口摂取量は毎 食複数の病棟スタッフが確認 し、主食と副食に分けてそれ ぞれ全量摂取した場合を10割 として記録を行っている。今回、 経口投与熱量と投与リン量は 提供熱量とリン含有量に摂取 した割合を乗じて算出した。 投与熱量と投与リン量は、経口、 経鼻経管栄養、末梢静脈栄養 を合算し、入院直後7日間の平 均値とした。  検定はすべてSPSS Ver.16 を使用し、2群間の平均値の比較は t検定、アルジネード によるリン投与量の比較は同順位に修正した Mann-Whitney検定、血清 IP濃度の変動は二元配置の分散 分析で評価した。p<0.05を有意とした。  本研究は九州大学病院倫理審査委員会において臨床 研究実施の承認を得ている(認証番号22-56)。対象患者 に対しては、全例紙面による研究への同意を得た。

【結果】

 A群と B群の入院時の臨床データを表2に示す。いず れの項目においても有意差は認めなかった。表3に各群 の入院後7日間の1日平均投与量、リン製剤投与開始時期、 図1 神経性食欲不振症の栄養管理プログラムの一例(文献6)より改変) 入院後、脱水や重篤な電解質異常がある場合は末梢静脈栄養から開始、その後経口摂取に移行。経口 摂取が困難な患者については経鼻経管栄養を併用し、必要な栄養投与を行う。 表1 アルジネード®(ネスレ日本株式会社 ネスレヘルスサイエンスカンパニー)の成分 表2 患者背景 各群の入院時の臨床データに有意差は認められなかった。

(3)

アルジネード®投与期間、血清 IP低下人数を示す。末梢静脈 栄養を併用した患者は A群に 3例、B 群に3例であった。B 群の3例がリン酸二カリウム補 正液を投与されていた。アルジ ネード®は全例、経鼻経管栄 養で投与されており、アルジ ネード®を入院後早期から投 与した A群は、B 群よりも経 口・経腸投与リン量が有意に 多かった(p=0.001)。  A群と B群の血清 IP濃度 の平均値を図2に示す。2群の 血清 IP濃度の時間変動について、二元配置の 分散分析で交互作用を認めた(p=0.014)。A 群の血清 IP濃度の平均値は、入院時からアル ジネード®投与開始2週間後においても基準 値の範囲内に保たれていた。アルジネード® 与中に血清 IP濃度が2.4mg/dLに低下した 症例が1例あった。一方で B群の平均血清 IP 濃度は入院後有意に低下し、リン製剤投与2 週間後に基準値内へ上昇していた。

【考察】

 ANは心理的な因子の関与が大きい疾患で あるが、ANのうつ状態や不安などの精神症 状の改善に栄養状態の回復が関連しているこ とが報告されている8)9)。つまり、ANの治療に おいて適切なスピードで体重を増加させること は心理的問題を解決する上でも重要である。そのため、 私たちは急性期を脱すれば投与熱量を30kcal/kg/日 程度に設定し行動療法学的な治療技法で体重の増加を 図っている。10)11)。この治療において、入院 AN患者の 9%(72例中6例)に血清 IP値の基準値未満の低下が認 められている(投稿準備中)。今回、AN患者に入院して から一週間の平均値で34.0±13.0kcal/kg/日の熱量を 投与すると血清 IPが低下する傾向を認めた(B群)。一方、 アルジネード®を併用すると37.6±9.2kcal/kg/日の投 与でも血清 IP濃度が基準値未満へ低下したのは8例中 1例にとどまった。また、A群と B群では血清 IP値の変 動のパターンに違いが認められた(図2)。この結果から、 経腸的なリンの追加投与が入院 AN患者の血清リン値 の低下予防に有効であると考えられた。  日本人の食事摂取基準で18歳以上の女性のリン摂取 目安量は900mg/日である12)。また、日本人の18~ 28歳 の女性を対象とした試験によると、リンの平衡維持に必 要な摂取量は22.6mg/kg/日と報告されている13)。さら 図2 A群と B群における血清無機リン濃度の比較 各群の入院時、リン投与開始時、2週間後の平均血清 IP 値を示した。A 群は常に血清 IP 値が基準値内にあった。一方、B 群はリン製剤の投与によって血清 IP 値が基準値 内に回復した。 表3 入院後7日間の1日平均投与量、リン製剤の投与開始時期、アルジネード®投与期間、 血清 IP値が低下した人数 A 群と B 群の入院後7日間の投与熱量、アルジネード®を除いたリン摂取量に有意差は認められなかった。 アルジネード®の投与を入院後早期より開始した A 群の方が B 群よりもリン摂取量が有意に多かった。

(4)

てもアルジネード®の投与は有用であると考えられる。 今回の検討は後ろ向き検討で症例数が13例と少なく、ま た対象が BMI 9.4~ 14.4kg/m2と極度にやせが進行 した AN患者に限られていた。これらの事情により、母 集団のデータは正規分布ではなかった。さらに、ノンパ ラメトリック検定を行うにも、十分な症例数でないと考え られる。したがって、今回は大部分の2群間の比較にお いてノンパラメトリック検定よりも検出力の高いt検定を 選択した。また、ノンパラメトリック検定も施行したが、 同様の因子で有意差を得た(データの記載は省略)。  さらに、アルジネード®の投与期間は7~ 77日と一定 でなかった。従って、アルジネード®による経腸的なリン 補給が有効な患者、安定した血清 IP濃度を得るための 使用期間については、アルジネード®の使用を無作為に 分類し、投与期間を考慮した前向き研究で明らかにする 必要があると考える。一方、低栄養患者の栄養管理では 目標とする栄養投与量に達するまで時間を要することが あるため、アルジネード®をRS予防のために併用投与す ることで、目標投与量に達するまでの期間の短縮を示す ことができる可能性がある。今後は低リン血症を発症し やすい患者側の因子を明らかにした上で、効果的なアル ジネード®の使用方法を検討していきたい。

【結論】

 AN患者の低リン血症予防と治療に高リン含有の栄養 補助食品を投与することの有効性が示唆された。

【謝辞】

 本 研究は、科学 研究費助成事業基盤研究(C) (23590884)の助成を受けて行った。  本論文に関連し開示すべき利益相反はない。 に、RSの予防のため維持的なリンの必要量は経口で9.3 ~18.6mg/kg/日と言われている14)。本研究において B 群の経腸的な平均リン摂取量は350±316mg/日と目安 量より低値であった。一方、アルジネード®の投与を行っ た A群の平均リン摂取量は1032±278mg/日であった。 この結果から、入院 AN患者の血清 IP値の低下を予防 するためには少なくとも1000mg/日以上の経腸的なリ ン投与が必要であることが示唆された。なお、アルジネー ド®は1本当たり630mgのリンを含有する。食品として 購入できるアルジネード®の投与は、経静脈的なリンの投 与と比較して生理的かつ簡便であると考える。  AN患者には、RS予防のために10kcal/kg/日から栄 養投与を開始することが推奨されている14)。さらに BMI が14kg/m2以下の場合は、5kcal/kg/日から開始すべ きとも言われている14)。アルジネード®の熱量は1本 125mLあたり100kcalであり、濃厚流動食に比べて含 有熱量が低く急性期に用いやすいことも、アルジネード® を RS予防のために使用する利点であると考える。  リンの吸収率は成人で60~ 70%である15)ことから、入 院時にすでに血清 IP濃度が1.8mg/dL未満の症例に ついてはリンの経静脈的な投与が推奨されている14) 我々の施設でもリンの静脈内投与を行っており、本研究 では3例がリン酸二カリウム補正液の投与を受けていた。 一方で、18歳以上の女性のリン耐容上限量は3000mg/ 日と設定されている12)。食品添加物などを含めた総リン 摂取量が2100mg/日を超えると副甲状腺機能の亢進を きたすという報告もある16)。リンについて上限量が設定 されていることに加えて、AN患者は入院時に腎機能が 低下していることが報告されているため、高リン血症をき たす可能性がある。従って、必要に応じた経静脈的なリ ンの補充と、少なくとも入院後1週間の十分なモニタリン グは不可欠であると考える。  糖代謝においてビタミン B1が不足すると神経障害 (Wernicke脳症)を発症することが知られている。AN 患者は入院前から食事量が少ないためビタミンB群の投 与が提案されている2)。アルジネード®は1本にビタミン B1を0.9mg含有するため、ビタミン B1欠乏症の予防にア ルジネード®は有効であると考えられる。さらに、アルジ ネード®は亜鉛、鉄、銅などの微量元素も豊富に含有し ている。従って、リン以外の微量元素の補給の点におい

(5)

参考文献

1) Solomon SM, Kirby DF. The refeeding syndrome: a review. JPEN J Parenter Enteral Nutr 14: 90-7, 1990. 2) 棚橋徳成,苅部正巳,木 村裕行ほか.神経 性食 欲不振 症の入院中における低リン血症もしくは Refeeding

Syndrome.日本心療内科学会誌8:229-34,2004.

3) 山田祐,河合啓介,玉川恵一ほか . 神経性食思不振症の治療中に Refeeding Syndromeが疑われた1例.Jpn J Psychosom Med 44:209-15,2004.

4) Fisher M, Simpser E, Schneider M. Hypophosphatemia secondary to oral refeeding in anorexia nervosa. Int J Eat Disord 28: 181-7, 2000.

5) Birmingham CL, Alothman AF, Goldner EM. Anorexia nervosa: Refeeding and hypophosphatemia. Int J Eat Disord 20: 211-3, 1996.

6) 河合啓介,山下さきの.神経性食欲不振症の栄養管理の注意点.臨床栄養119:29-32, 2011. 7) 河合啓介,久保千春.神経性食思不振症のメカニズム.Clinical Neuroscience 24: 932-5,2006.

8) Rollyn M. Ornstein, Neville H. Golden, Marc S. Jacobson, et al. Hypophosphatemia during nutritional rehabilitation in anorexia nervosa: implications for refeeding and monitoring. J Adolesc Health 32: 83-8, 2003. 9) Anna Oldershaw, Hannah Dejong, David Hambrook, et al. Emotional processing following recovery from

anorexia nervosa. Eur Eat Dsorders Rev Epub ahead of print, 2012. 10) 河合啓介,久保千春.中枢性異常症.心療内科的アプローチ27:63-7,2000. 11) 河合啓介,久保千春.摂食障害と栄養障害.精神科15:255-7,2009.

12) 日本人の食事摂取基準(2010年版).厚生労働省.http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/sessyu-kijun.html 13) Nishimura M, Kodama N, Morikuni E. Balances of calcium, magnesium and phosphorus in Japanese young

adults. J Nutr Sci Vitaminol 50: 19-25, 2004.

14) Hisham M Mehanna, Jamil Moledina, Jane Travis. Refeeding syndrome: what it is, and how to prevent and treat it. BMJ 336: 1495-8, 2008.

15) Anderson JJB. Nutritional biochemistry of calcium and phosphorus. J Nutr Bilchem 2: 300-9, 1991.

16) Bell RR, Draper HH, Tzeng DYM, et al. Physiological responses of human adult of food containing phosphate additives. J Nutr 107: 42-50, 1977.

参照

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