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<論説>「公訴事実の同一性」概念について(3・完)

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(1)「公訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 に つ い て(3・ 完). 「公 訴 事 実 の 同 一 性」 概 念 に つ い て(3・. 完). 典. 辻. :は _ド. 央. じめ に イ ツ に お け る 「所 為 」 論. 1.刑. 事 手 続 に お け る 「所 為 」(Tat)の. 2.所. 為 に関 す る諸 原 則. 3.所. 為 に関 す る判 例 の 展 開(以 上53巻2号). 4.所. 為 に関 す る学 説 の 展 開. 5。 小 検 2.公. 位置づ け. 括(以 上54巻3号) 討. 1.概. 観 訴 事 実 の 単一 性. 3.狭. 義 の 公 訴 事 実 の 同 一性. 4.若. 干 の検討. 四. 本. ま とめ(以 上 本 号). 三. 検. 討. 我 が 国 に お け る 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 論 は,「 い ま だ 定 説 が な い 」ω と の 指 摘 に 見 ら れ る よ う に,「 学 説 は,さ. な が ら覇 を 競 う が ご と く多 彩 に オ ンパ. レ ー ドを く り ひ ろ げ て い る の 観 が あ る 」(2)。 そ の よ う な 学 説 状 況 は,「 議 論 全 体 の 見 通 し の 悪 さ 」 か ら,「 公 訴 事 実 論 簡 素 化 の 必 要 性 」 が 指 摘 さ れ て 久 し い(3)。 (1)鈴. 木茂嗣. 「刑 事 法 学 の 動 き ・上 口 裕. 『公 訴 事 実 の 同 一 性 』」 法 時74巻6号120. 頁(2002年)。 (2)田. 宮裕. 『刑 事 訴 訟 法 ・新 版 』205頁(1996年,有. (3)鈴. 木(前. 掲 注(1))「 刑 事 法 学 の 動 き 」120頁. 一95一. 斐 閣)。 。.

(2) 激. 曳湯 三.・'. 近畿大学法学. 第55巻第2号. も っと も,従 来 の判 例 及 び学 説 に お け る議 論 を 見 る と,い. くつ か の 観 点. に お い て,少 な くと も,議 論 の 対 象 と され るべ き共 通 の 基 盤 が 構 築 され て い る。 それ ゆえ,本 章 で の 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 概 念 につ い て の 検 討 に 先 立 ち,我 が 国 に お け る従 来 の 議 論 を 概 観 し,問 題 点 を 整 理 して お こ う。. L概. 観. (1)「 訴 因」 と 「公 訴 事 実 」 との 関係 我 が 国 の 刑 訴 法 上,本 稿 の 関心 とのか か わ りに お いて,「 訴 因 」,「公訴 事 実 」,「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 とい う三 つ の 法 律 概 念 を 如何 に解 釈 す るか が 問 題 で あ る。 旧 刑 訴 法291条1項. に お い て「公 訴 ヲ提 起 ス ル ニ ハ被 告 人 ヲ指 定 シ犯罪 事. 実 及 罪 名 ヲ示 スヘ シ」 と定 め られ て い た よ うに,右 三 概 念 は,旧 法 時代 に は法 律 文 言 と して 使 用 され て い な か った。 も っ と も,判 例 及 び学 説 上,古 くか ら 「公 訴 事 実 」ω な い し 「公 訴 犯 罪 事 実 」⑤ と い う概 念 は一 般 的 に使 用 され て き た。 これ に対 し,「訴 因 」 は,現 行 刑 訴 法 下 に お い て全 く初 め て 登 場 した 概 念 で あ る⑥。 現 行 法 に入 り,こ の 「訴 因」 と 「公訴 事 実 」 とい う概 念 が刑 訴 法 に導 入 され た こ とか ら,刑 事訴 訟 に お け る審 判 対 象 は 「訴 因」 か 「公 訴 事 実 」 か と い う問 題 が か つ て盛 ん に論 じ られ た の は,周 知 の とお りで あ る。 そ し て,刑 訴 法 施 行 直 後 の 時 代 に お い て は,特 に 裁 判 官 等 の実 務 家 を 中 心 に 「公 訴 事 実 」 を 審 判 対 象 で あ る とす る見 解 が 有 力 に主 張 され た が,間. もな. く,学 説 か らの強 い批 判 を受 け,現 在 で は,判 例 及 び学 説 に お い て,「訴 因」 (4)宮 本 英 脩 『刑 事 訴 訟 法 大 綱』157頁(1936年,松. 華 堂 書 店 。1986年 復 刻 版,成. 文 堂)。 (5)小 野 清 一 郎 『刑 事 訴 訟 法 講 義 ・全 訂 第3版 』194頁(1933年,有. 斐 閣)。. (6)規 定 の立 法 経 緯 に つ い て,松 尾 浩也 『刑 事 法 学 の 地 平 』122頁(2006年,有 閣。 初 出 「 訴 因 に 関す る規 定 の沿 革 」 法 協92巻2号(1975年))。 一96一. 斐.

(3) 「公 訴 事実 の 同一 性 」 概 念 に つ い て(3・ 完). を審 判 対 象 で あ る とす る見 解 が 支 配 的 とな って い る。 も っ と も,現 在 で は,少 な くと も現 行 法 にお け る 「訴 因 」 と 「公 訴 事 実 」 と い う概 念 の 解 釈 の 問 題 と して は,そ. もそ も両者 を異 質 の もの と捉 え た上. で,そ の い ず れ が 審 判 対 象 で あ るか とい う問題 の設 定 自体 が見 直 され るべ きで あ る との 見 解 が,有 力 に主 張 され て い る。 例 え ば,松 尾 浩 也 は,「起 訴 状 に書 い て あ るの は,公 訴 事 実 で あ り,訴 因 で あ りま す。 用 語 が二 重 に な って い るの は,刑 事 事 件 に お け る審 判 の対 象(=公 主 義 的 な もの(=訴. 訴 事 実)が,当. 事者. 因)で あ る こ とを 示 す た め に ほ か な りませ ん。」 と述. べ(7),現 行 法 にお け る両 概 念 を 同義 の もの と して 理 解 す べ き で あ る と主 張 す る。 三 井 誠 は,「[審 判 対 象 につ い て]訴 因 説 を妥 当 で あ る とす る限 り, 現 行 法 に あ る 『公 訴 事 実 』 は,旧 法 下 で 展 開 され た公 訴 事 実 と は 内実 を異 に す るだ け で な く,積 極 的 な 実 質 を伴 った 概 念 で は な い こ と に な る。[原 文 改 行]し. た が って,も. し 『訴 因 』 の ほか に 『公 訴 事 実 』 が あ るた め に解. 釈 論 上 の 混 乱 を ひ き お こ して い る の で あ れ ば,立 法 論 と して は,『 公 訴 事 実 』 の語 を現 行 法 の 条 文 か ら削 除 す るの が 筋 で あ ろ う」 と述 べ⑧,や は り 両 概 念 が 同 義 で あ る こ とを 前 提 に,「 公 訴 事 実 」 概 念 の無 意 味 さ を 強 調 す る。 こ の よ うに,三 井 が 主 張 す る よ うな 立 法 論 と して 「公 訴 事 実 」 概 念 を 廃 止 す べ きか ど うか の 問 題 はお くと して,現 行 法 の 解 釈 と して は,起 訴 状 に 記 載 され るべ きで あ るの は 「公 訴 事 実 」 で あ り(刑 訴 法256条2項2号), た だ 「公 訴 事 実 は,訴 因 を 明 示 して これ を 記 載 しな けれ ば な らな い。」(刑 訴 法256条3項1文)と. され て い る こ とか らす る と,双 方 の 法 律 概 念 を 同. 義 ・同 質 の もの と理 解 す る こ とが 適 切 で あ る と思 わ れ る。. (7)松. 尾(前 掲 注(6))『刑 事 法 学 の 地平 』70頁(初. 出 「刑 事 訴 訟 法 の 基 礎 理 論 」法. 教86号(1987年))。 (8)三. 井 誠 『刑 事 手 続 法1』182頁(2003年,有 一97一. 斐 閣)。.

(4) 近畿大学法学. 第55巻第2号. (2)「 公 訴 事 実 の 同 一 性」 の意 義 こ の よ うに 「訴 因 」 と 「公 訴 事 実 」 と は同 義 ・同 質 の もの で あ り,こ れ を審 判 対 象 で あ る とす る見 解 を 前 提 とす るな らば,「公 訴 事 実 の 同一 性 」の 意 義 を如 何 に解 す るか が 問 題 とな る。 す な わ ち,「公 訴 事 実 の 同一 性 」概 念 の訴 因 変 更 の 限界 を画 す る機 能 との 関 係 にお い て,旧 法 時 代 の よ うに,検 察 官 の主 張(「 訴 因」)を 離 れ た 社 会 的 嫌 疑 で あ る"公 訴 事 実"を 審 判 対 象 で あ る とす る と,「 公 訴 事 実 の 同 一 性 」 は ま さ に 「審 判 対 象 の 同一 性 」 を 指 し,そ の範 囲 内で 一 方 当事 者 で あ る検 察 官 の 主 張 も変 更 しう る もの と理 解 す べ き こ と と な り,そ の 概 念 自体 が 実 質 的 な 意 味 を 持 つ もの とな る。 こ れ に対 し,検 察 官 の 主 張(「 訴 因」=「 公 訴 事 実 」)を 審 判 対 象 で あ る とす る と,訴 因(=「. 公 訴 事 実 」)の 変 更 は,そ れ 自体 が 審 判 対 象 の 変 更 とい. う意 味 を 持 つ もの とな る。 そ れ ゆ え,「 公 訴 事 実 の 同 一 性 」 概 念 は,審 判 対 象 の変 更 が あ る と き にそ の 限 界 を 画 す る機 能 を 与 え られ る こ と とな り, そ こで い う 「公 訴 事 実 」 は,訴 因 と同 義 ・同 質 で あ る 「公 訴 事 実 」 とは 異 な る もの と して 理 解 して おか な けれ ば な らず,そ の 意 義 を 如 何 に 理 解 す べ きか が 問 題 と な るの で あ る。 こ の問 題 につ いて,①. 「同 一 性 」 を 一 元 的 に 捉 え,そ の 対 象 で あ る 「公. 訴 事 実 」 の 内実 を理 論 的 に解 明 しよ う とす る見 解,②. 「公 訴 事 実」 の 文言. に実 質 的 意 味 を認 めず,「公 訴 事 実 の 同一 性 」を 訴 因 変 更 の 限 界 を 画 す る機 能 概 念 に過 ぎ な い と理 解 す る見 解,③ ② 説 と同 様 「公 訴 事 実 の 同 一 性」 を 機 能 概 念 と捉 え つ つ,公 訴 事 実 の 「同 一 性 」 を 「同 一 性 」 と 「単 一 性」 と に分 析 して 実 質 的 基 準 論 を展 開 す る見 解,に 分 類 され る(9)。この うち,② 説 は,「条 文 の文 言 に そ れ相 当 の定 義 を与 え る こ とな く,単 に 機 能 概 念 だ と. (9)鈴 木 茂 嗣 「公 訴 事 実 の 同一 性 」 『田宮 裕博 士 追 悼 論 集 上 巻』93,94頁(2001 年,信. 山社),白. 取 祐 司 「刑 事 訴 訟 法 ・第4版 』272頁(2007年,日 一98一. 本 評 論 社)。.

(5) 「公 訴事 実 の 同一 性 」 概 念 に つ い て(3・ 完). 割 り切 る と こ ろ に解 釈 論 と して の 不 十 分 さ」 が 認 め られ る⑩ との指 摘 に あ る よ う に,実 質 的 に は,① 説 と③ 説 の対 立 と して展 開 さ れ て き た と い っ て よい 。 ま ず,③ 説 か ら概 観 す る と,そ の論 者 らは,以 下 の よ うに主 張 す る。 平 野 龍 一 は,例 え ば,殺 人 予備 罪 と殺 人 罪 と の関 係 につ い て,こ れ は 「単 一 性 の 問題 で あ って,同 一 性 の 問題 で は な い」 と 区別 しつ つ,窃 盗 教 唆 罪 と 賊 物 収 受(盗 品 関与)罪. との 関 係 に つ い て,「 こ の 間 に 公 訴 事 実 の 単 一 性. が な く,し た が って そ の 同一 性 とい う こ と もあ りえ な い」 と述 べ て い るaD。 松 尾 浩 也 は,訴 因 の変 更 を端 的 に審 判 対 象 の 変 更 で あ る と しつ つ,「公 訴 事 実 の 同一 性 」 は訴 因変 更 に よ って もな お審 判 対 象 と して の 同一 性 が 失 わ れ な い こ と⑰ を定 め た概 念 で あ る,そ の 上 で,罪 数 論 に よ る規 整 が さ ら に訴 因変 更 の 限界 を画 す る もの と して妥 当す る と述 べ,あ え て 同 一 性 と単 一性 と の分 析 方 法 を 避 け て い る⑬。 田 宮 裕 は,単 一 性 を 「訴 訟 の あ る 時点 で 公 訴 事 実 が 一 個 で あ るか の 問 題 」,同 一 性 を 「異 な る時 点 で 比 べ て み て 同 じ 事 実 と い え る か の問 題 」 で あ る と分 析 した 上 で,前 者 は 旧 法 時 代 の よ うな 公 訴 不 可 分 の 原 則 に よ る もの で は な く,い わ ば 「(新)単 一 性 」 と して 公 訴 事 実 の 同一 性 に お け る 「一 分 野 と構 成」 す る゜ の 。 これ に対 し,① 説 の 論 者 と して,鈴 木 茂 嗣 が 挙 げ られ る。 鈴 木 は,か ね て よ り,公 訴 事 実 の 同一 性 論 にお い て,③ 説 と同様,狭 義 の 同一 性 と単 一 性 との 区 分 を 前 提 に,前 者 を 「訴 訟 課 題」 の 同一 性 の 問題,後 者 を訴 訟 課 題 の 解 決 案 と して 示 され る 「公 訴 犯 罪 事 実 」の 単 一 性 の 問 題 で あ る と して,. ⑩. 鈴 木(前 掲 注(9))「公 訴事 実 の 同一 性 」96頁 。. (ID平 野 龍 一 『刑 事 訴 訟 法』142頁(1958年,有 ⑫. 斐 閣)。. 松 尾(前 掲 注(6))『刑 事法 学 の地 平 』181頁(初. 出 「公 訴 事 実 と訴 因」 法 教5. 号,7号(1981年))。 ⑬. 松 尾 浩 也 『刑事 訴訟 法上 ・新 版 』306頁(1999年)。. qの 田 宮(前 掲 注(2))『刑 事訴 訟 法 』203頁 。 一99一.

(6) 近 畿大学法 学. 第55巻第2号. 「公 訴 事 実 」 は 同一 性 と単 一 性 と で 同 じ も の で は な い と主 張 し⑮,こ れ に 「証 拠 の共 通 性 」 の 基 準 も取 り込 ん で,① 訴 訟 課 題 の 同一 性,②. 公訴犯罪. 事 実 の単 一 性,③ 証 拠 の共 通 性 が 公 訴 事 実 の 同一 性 の 実 質 的 根 拠 で あ る と 主 張 す る に至 った⑯。 も っと も,鈴 木 は,そ の 後,従 来 の 右 自説 も公 訴 事 実 の 同一 性 と単 一 性 とい う 「伝 統 的 分 析 枠 組 」 に と らわ れ て いた 点 にな お 不 十 分 さ が あ った と して,そ の 実 質 的 基 準 を 維 持 しつ つ,端 的 に 「審 判 対 象 た る 『公 訴 犯 罪 事 実 』 が 変 化 して も,依 然 同 一 の 審 判 手 続 きの 対 象 とな し うる条 件 いか ん 」 を議 論 す べ きで あ る との 理 解 か ら,そ の 理 論 構 成 に つ い て 以 下 の よ う に主 張 す る に至 った 。 す な わ ち,「 『同 一 性 』 を 『同 一 ・審 判 対 象 性 』 と解 す る通 説 」 に反 対 し,「 同一 な の は,実 は 『審 判 手 続 』 で あ っ て,『 公訴 犯 罪 事 実 』 で は な い。 『公 訴 犯 罪事 実 』 は 変 化 して も,そ れ が 同 一 審 判 手 続 の 対 象 た る性 格 を 有 して い る限 度 で あ れ ば ,訴 因 ・罰 条 の変 更 が 認 め られ る にす ぎな い の で あ る。 この 『同一 審判 ・対 象性 』 を,法 は簡 単 に 『同 一 性 』 とい う語 で 表 現 して い るに す ぎ な い … … 『公訴 事 実 の 同一 性 』 は,『 公 訴 事 実 』 が 同 じこ と(実 質 的 意 味 で の 『同 一 性 』)を 意 味す る の で は な く,『公 訴 事 実 』が 同一 審 判手 続 の対 象 とな り うる性 質 を有 す る こ と(『 同一 審 判 手 続 対 象 性 』)を 意 味 す る の で あ る か ら,… … 『公 訴 事 実 』 の 『同 一 性』 あ るい は 『単 一 性 』 とい う発 想 を前 提 とす る こ とな く,端 的 に 訴 因 変 更 の 限 界 基準 を検 討 す れ ば よ い」 と⑰。 (3)上. 口 ・鈴 木論 争. 近 時,上 口裕 と鈴 木 茂 嗣 との 間 で繰 り広 げ られ た 「公 訴 事 実 の 同一 性 」 に つ い て の論 争 は,こ の概 念 の本 質 を検 討 す る上 で非 常 に注 目 され る。 現. ⑮. 鈴 木 茂 嗣 『続 ・刑 事 訴訟 の 基 本構 造上 巻 』345頁(1996年,成 事実 の 同一 性 』再 論 一. 文 堂。 初 出 「 『公 訴. 私 見 へ の諸 批 判 に応 え て」 犯罪 と刑 罰4号(1988年))。. ⑯. 鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法 ・改 訂 版 』114頁(1990年,青. ⑰. 鈴 木(前 掲 注(9))「公 訴 事 実 の 同 一 性 」100頁 。 一100一. 林 書 院)。.

(7) 「公 訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 につ いて(3・. 完). 在 の学 説 の水 準 を知 る た め に,概 観 して お こ う。 この論 争 は,ま ず,上 口 が2001年 に発 表 した論 文 「公 訴 事実 の 同一 性 」⑱ に 端 を 発 す る。 上 口は,こ の 論 文 に お い て,「 公 訴 事 実 の意 義 」 と して, 公 訴 事 実 の単 一 性 と狭 義 の 同一 性 と を分 析 す る方 法 を と る学 説 を検 討 し, 自説 を展 開す る。 す な わ ち,上 口 は,平 野 龍 一 の 創 唱 にか か る訴 因 間 の 両 立 性 ・非 両 立 性 の分 析 に つ い て,「 新 旧訴 因 が 非 両 立 で あ り共 通 性 が あ る 場 合 は 同一 性 が あ り,新 旧訴 因 は両 立 す るが 一 罪 の 関 係 に あ る場 合 は単 一 性 が あ る」 と の判 断 基 準 を基 本 的 に支 持 す る(但. し,平 野 の この よ うな 見. 解 は 明確 に根 拠 付 け られ て い な い点 を 批 判 す る)。 も っ と も,上 口 は,従 来 の学 説 が両 立 性 ・非 両 立 性 を あ たか も先 験 的 概 念 で あ るか の よ う に扱 って き た点 を批 判 し,そ れ は 「罪 数 論 上 の 一 罪 性 の 構 造 の 違 い に対 応 す る もの にす ぎ な い」 と分 析 す る。 す な わ ち,上 口 に よ る と,罪 数 論 にお け る一 罪 性 は そ の構 造 に お い て 単 一 で は な く,公 訴 事 実 の 同 一 性 の 判 断 に お い て も,そ れ は 「一 罪 性 の 観 点 か らみ て 両 訴 因 が どの よ うな 関 係 にた つ か,す な わ ち一 罪 性 の 構 造 の 違 い に影 響 され るか ら,同 一性 の 判 断 基準 は そ れ に 応 じて 異 な って よ い。 … … 非 両 立 性 は単純 一 罪 と して の 同一 性 を,両 立性 は科 刑 上 一 罪 と して の 同 一 性 を 肯 定 す るた め の 要件 と位 置 づ け る こ とが で き る」。 上 口 は,こ の よ うな公 訴 事 実 の 同一 性 につ いて の 理 論 的 考 察 か ら, そ の 判 断 基 準 と して,「 同一 事 件 に関 す る異 な る主 張 」に す ぎ な い と言 え る ほ どの 新 旧訴 因 の 同 質 性 を 提 唱 す る。 以 上 の 上 口の 論 稿 に対 し,鈴 木⑲ は,以 下 の よ うに検 討 を加 え た。 鈴 木 は,上 口が 公 訴 事 実 の 同 一 性 ・単 一性 とい う分 析 を所 与 の もの と して き た 従 来 の 学 説 に疑 問 を 提 示 す る点 を は じめ,そ の主 張 に基 本 的 な賛 意 を示 し. ⑱. 上 口裕 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」『光 藤 景 咬 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 上 巻 』379頁(2001 年,成 文 堂)。. ⑲. 鈴 木(前 掲 注(1))「刑 事法 学 の動 き」120頁 。 一101一.

(8) 近畿大学法学. 第55巻第2号. つ つ,「 上 口 が 『罪 数 論 』 を 同 一 性 の統 一 基 準 とす る点」 に つ い て批 判 を 加 え る。 鈴 木 は,上 口が 検 討 の 姐 上 にお い た 三 つ の 学 説(平 野 龍 一,小 田 中聰 樹,田 宮 裕)に つ いて,前 二 者 は 訴 訟 法 的 発 想 に 由 来 す る者 で あ るの に対 し,後 者 は 実 体 法 的 発 想 に 基 づ く者 で あ って,「田 宮 の 刑 罰 関心 同一 説 に よ りつ つ,他 方 で 平 野 流 の 訴 因 の 共 通 性 と い った 基 準 を 単 純 に 導 入 す る」 上 口 の 手 法 に疑 問 を 提 示 す る(疑 問 ①)。 ま た,鈴 木 は,「 上 口が 両 立 ・非 両 立 の 関 係 を,単 純 一 罪 と科 刑上 一 罪 の 関係 に対 応 さ せ る点 」 に も 批 判 を 加 え る。 す な わ ち,鈴 木 は,同 一 殺 人 事 件 の犯 行 日時 や場 所 に ズ レ が 生 じた とい う典 型 的 な 非 両立 事 例 を挙 げ,こ の場 合 に新 旧訴 因 に 同一 性 が 認 め られ るの は 両訴 因 が一 罪 で あ る か らで は な く,刑 罰 関 心 の 同一 性 が 認 め られ る か らで あ り,こ の場 合 に罪 数 論 の問 題 と して処 理 す る こ と は疑 問 で あ る こ と(疑 問 ②),逆. に,住 居 侵 入 ・窃 盗 とい う科 刑 上 一 罪(牽 連. 犯)の 場 合 に お い て は,刑 罰 関 心 の 「同一 性 」 と い う よ りも 「単 一 性 」 が 問題 とさ れ て い るべ き で あ る と して,上. 口の よ う に両 立 ・非 両 立 の 関 係 を. 科 刑 上 一 罪 と単 純 一 罪 に対 応 させ る こ と は妥 当 で はな く,む しろ,刑 罰 関 心 の単 一 性 と 同一 性 に 対 応 させ る べ き で あ る と主 張 す る(疑 問 ③)。 鈴 木 は,上 口 の 出発 点,す. なわ ち公 訴 事 実 の 単 一性 ・同 一性 の 分 析 か ら出 発 す. る方 法 論 へ の 疑 問 は妥 当で あ る と しつ つ,単 一 性 ・同一 性 とい う問題 の立 て 方 自体 は有 用 で あ り,実 体 法 的 観 点 か らは,「 『刑 罰 関心 』 の 『同一 性 』 と 『単 一 性 』 を 区 別 しつ つ,機 能概 念 と して の 『公 訴 事 実 の 同一 性 』 の基 準 を統 一 的 に 解 明 す る こ とが 肝 要 で あ[る 。]… … 他 方,訴 訟 法 的 観 点 か らは,… … 『証拠 共通 』 とい う観 点,そ. して そ こか ら導 か れ る 『行 為 ま た. は結 果 の共 通 性 』 とい う基 準 も,訴 因変 更 の観 点 と して は有 用 で あ る と思 わ れ る。」(疑 問④)と. の 自説 を展 開す る。. 鈴 木 の 前 述 批 判 に対 し,上 口は,直 ち に 以 下 の よ うな反 論 を 行 っ た⑳。 ⑫① 上 口裕 「 公 訴 事 実 の 同一 性 一. 鈴 木 茂 嗣 教授 の 批 判 に接 して 」 法 時74巻10号/ 一102一.

(9) 「公 訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 につ い て(3・. 完). 上 口は,ま ず,鈴 木 の疑 問① につ い て,平 野 の見 解 は,確 か に証 拠 共 通 説 か ら着 想 され た もの で あ る と して も,罪 数 論 を念 頭 に お い た両 立 ・非 両 立 関係 の基 礎 付 け,行 為 又 は結 果 の共 通 性 と い う基 準 が 単 純 一 罪 に関 す る も の で あ る こ と な どか ら,「 実 体 法 的 な 評 価 と い う観 点 が 平 野 説 の背 景 を な して い る と解 さ れ る」 と主 張 す る。 ま た,疑 問 ② につ いて は,自 説 は新 旧 両 訴 因 が 「同一 の一 罪 に関 す る異 な る主 張 で あれ ば公 訴 事 実 の 同 一 性 を 認 め て よ い とい う もの で あ り」,「単 純 一 罪 の 場 合 の 同一 性 判 断 を 実 体 法 で い う罪 数 論 の 問題 だ とす る わ け で は な い」 と主 張 す る。 疑 問 ③ につ いて は, 科 刑 上 一 罪 の 場 合 に刑 罰 関 心 を 複 数 で あ る とす る分 析 もあ りう る が,「 一 個 の手 続 の対 象 は単 純 一 罪 にせ よ,科 刑 上 一 罪 にせ よ,一 罪 で あ る と い う 前 提 に そ っ て訴 因 変 更 基 準 を組 み 立 て る こ と にあ るか ら,科 刑 上 一 罪 の 場 合 の刑 罰 関 心 は一 個 だ と考 え う る」 と主 張 す る。 そ して,疑 問④ につ い て は,証 拠 の 共 通 性 を 第 三 の 基 準 と して要 求 す る こ とは,「法 益 侵 害 が 公 訴事 実 の 同一 性 基 準 と して 厳 格 す ぎ る」との疑 問 を 呼 ぶ だ け で な く,「異 質 な 基 準 を併 用 す る こ とで 鈴 木 説 の 統 一 性 。簡 明 性 が 損 な わ れ る」 との 批 判 を 向 けて い る。 両 者 の 論 争 は,疑 問 ① や 疑 問 ③ に対 す る応酬 を 見 る限 り,各 々の基 本 的 立 場 の 違 いか ら議 論 が 噛 み 合 って いな い よ う に思 わ れ る部 分 もあ るが,特 に公 訴 事 実 の 単 一 性 ・同 一 性 と罪 数論 の 関係 に つ い て の 各 自の認 識 に お け る共 通 点 及 び対 立 点 が 明 らか に され た こ とか ら,学 説 に お け る議 論 の今 後 の 方 向 性 を 示 す もの と して,今 後 の 展 開 が 注 目 され る と ころ で あ る。 筆 者 は,後 述 の とお り,公 訴 事 実 の 単 一性 と同一 性 とい う分 析 方 法 は,基 本 的 に維 持 され るべ き もの と考 え るが,そ の 際 に は,両 者 か ら提 示 され た 問題 点 も十 分 意 識 しな けれ ば な らな い。. \69頁(2002年)。. 一103一.

(10) 近畿 大学法学 2.公. 第55巻第2号. 訴 事 実 の単 一 性. (1)裁 半咀列 裁 判 実 務 は,「 公 訴 事 実 の 同 一性 」 の判 断 に お い て 「公訴 事 実 の単 一 性 」 と 「公 訴 事 実 の 同一 性(狭. 義)」 とに分 析 す る と い う手 法 を,当 然 の こ と. と理 解 して い る よ うに 思 わ れ るeD。例 え ば,最 判 平 成15年10月7日 巻9号1002頁enは,実. 刑 集57. 体 的 に は常 習 特 殊 窃 盗 罪 を 構 成 す る個 別 の 窃 盗 行 為. につ い て,前 訴 と後 訴 と で各 々単 純 窃 盗 罪 で 公 訴 提 起 され た場 合 の 一 事 不 再 理 効 の成 否 が 問題 と な っ た事 例 で あ るが,そ. こで は,一 事 不 再 理 効 の 範. 囲 を 「公 訴 事 実 の 同一 性 」 の 範 囲 とす る通 説 的 見 解 を前 提 に,「 両 訴 因 間 に お け る公 訴 事 実 の単 一 性 の有 無 」 が 問 わ れ て お り,公 訴 事 実 の 同 一 性 に お い て そ の単 一 性 が 一 つ の側 面 を構 成 す る もの と理 解 して い る。 また,東 京 地 判 昭 和49年4月2日. 判 時739号131頁 は,科 刑 上 一 罪(観 念 的 競 合)の. 関 係 に あ る一 部 の 行 為 につ いて 判 決 が 確 定 した 後,残. りの 行 為 につ いて な. さ れ た公 訴 提 起 の 有 効 性 が 問 題 と な った 事 例 で あ る が,「 単 一 の公 訴 事 実 に属 す る数 罪 中の 一 部 の 罪 につ いて の 確 定 裁 判 の 既 判 力 」 の 成 否 が 問 わ れ て お り(結 論 と して 既 判 力 は 及 ば な い と した),や. は り,公 訴 事 実 の単 一. 性 が 公 訴 事 実 の 同一 性 の 一 要 素 で あ る こ とを 前 提 にす る もの とい え よ う。 さ ら に,大 阪 高 判 昭和50年8月27日. 高刑 集28巻3号321頁. は,前 訴 で 公訴 事. 実 と と も に実 質 的 に処 罰 す る趣 旨で 考 慮 され た 余 罪 が 後 訴 で 公訴 事 実 と し て な され た 公 訴 提 起 の 有 効 性 が 問 題 とな った事 例 で あ るが,そ. こで は 「既. 判 力 な い し一 事 不 再 理 の 効 力 は 同 時 審 判 の 可能 性 の故 に訴 因 を超 え て 公訴 事 実 全 体 に 及 ぶ と解 され る」 と判 示 さ れ て お り,「 同 時 審 判 の可 能 性 」 と い う表 現 が 用 い られ て い るが,そ れ は や は り前 出 裁 判例 と同 様,公 訴 事 実. ⑳. 藤 永 他 編[高 橋 省 吾]『 大 コ ン メ ン ター ル 刑 事 訴 訟 法 第4巻 』741頁(1995年, 青 林書 院)。. ⑳. 辻本 典 央 「判 例 研 究 」近 法54巻3号287頁(2006年)。 一104一.

(11) 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 概 念 につ い て(3・. 完). の単 一 性 が 同 時審 判 の 限界 を画 す る公 訴 事 実 の 同一 性 の 一 要 素 で あ る こ と を認 め た もの と理 解 で き る⑳。 こ の よ う に,裁 判 実 務 に お いて,公 訴 事 実 の 単 一 性 は,公 訴 事 実 の 同 一 性 の一 側 面(又. は一 要 素)で. あ る との 理 解 が 一 般 的 で あ り,そ れ は実 体 法. 上 の罪 数 論 に従 属 す る との 理 解 と共 に,所 与 の 前 提 と され て い る。 そ れ ゆ え,そ. の関 心 は,訴 因 変 更 の 場 面 で は顕 在 化 せ ず,も. っぱ ら,一 事 不 再理. 効 と公 訴 事 実 の 同一 性 との 関 係 如 何 と い う点 にお か れ て い る とい え よ う。 筆 者 は,す で に前 稿 ⑳ にお い て,① 一 事 不再 理 効 の 範 囲 は公 訴事 実 の 同一 性 の 範 囲 と一 致 す るべ き もの で あ る こ と,② 公 訴事 実 の 単 一 性 は 実 体 法上 の 罪 数 論 に必 ず しも従 属 す る もの で はな い こ と(実 体 法 上 一 罪 の場 合 に は 必 ず 公 訴 事 実 は単 一 で あ るが,数 罪 の 場 合 で も単 一 性 が肯 定 され る場 合 が あ る こ と)を 指 摘 した 。① の 点 は 別 の機 会 に詳 細 な検 討 を 加 え る と して, ② の 点 は,本 稿 で 後 に詳 論 した い と思 う。 も っ と も,一 部 の,特. に覚 せ い 剤 自己使 用 罪 に 関 す る判 例 を 見 る と,裁. 判 実 務 にお い て も公 訴事 実 の 単一 性 と狭 義 の 同一 性 との 関係 は必 ず し も一 義 的 に決 定 され て い る とい うわ け で は な い。 例 え ば,最 決 昭和63年10月25 日刑 集42巻8号1100頁. は,被 告 人 が 昭和60年10月26日 午 後5時30分. ころ栃. 木 県芳 賀 郡所 在 の 被告 人方 で覚 せ い剤 を使 用 した との訴 因 か ら,同 日午 後 6時30分 こ ろ茨 城 県下 館 市 所 在 の ス ナ ッ クで使 用 した との訴 因 へ の変 更 の 可 否 が 問題 とな った事 例 で あ るが,最 高 裁 は,「事 実 上 の 共 通 性 が あ り,両 立 しな い 関係 に あ る」 との理 由 か ら公 訴 事 実 の 同一 性 を認 め,訴 因変 更 を. ㈱. そ の他,い. わ ゆ る 「か す が い 現 象 」 の 罪 数 論 上 の 処 理 に よ り一 事 不 再 理 効 や. 二 重起 訴 禁止 の 範 囲 如 何 とい う手 続 法 上 の 問 題 に 影 響 を 与 え る こ とが あ るが, この 問題 も,公 訴 事実 の 単 一 性 を 前 提 に した もの と いえ よ う。 辻 本 典 央 「罪 数 論 と手 続 法 と の 交 錯 一. か す が い 現 象 につ い て」 『鈴 木 茂 嗣 先 生 古 稀 祝 賀 記 念. 論 文 集 下 巻』541頁(2007年,成 ⑳. 文 堂)参 照 。. 辻 本(前 掲 注⑳)「 判 例 研 究 」300頁 。 一105一.

(12) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 適 法 と した。 右 判 示 か ら,後 述 の と お り,判 例 上 確 立 した 狭 義 の 公 訴 事 実 の 同一 性 につ い て の判 断 基 準 を用 いて い る と認 め られ る こ とか ら,こ の 裁 判 例 を狭 義 の公 訴 事 実 の 同一 性 を 判 断 した もの と理 解 す るの が 一 般 的 で あ る㈱。 こ の裁 判 例 の 基 礎 とな った事 例 は,し ば しば 覚 せ い剤 自 己使 用 罪 に 関 す る訴 因 の特 定 性 ㈱ が 問 題 と され,公 訴事 実 の 同 一 性 の 検 討 に お い て も 右 問 題 を 如 何 に解 す るか に よ って そ の 判 断 基 準 が 異 な って くる。 最 高 裁 調 査 官 解 説[川 口宰 護]⑳ に よ る と,本 裁 判 例 は,旧 訴 因 と新 訴 因 との 間 で一 回 の 使 用 行 為 だ けが 認 め られ る場 合 に限 り公 訴事 実 の 同 一性 を 認 め る見解 を 前 提 に,犯 行 の 詳 細 につ い て 被 告 人 の 自白 に頼 ら ざ るを 得 な い とい う本 犯 罪 類 型 の 特 殊 性 か ら,「旧訴 因 と新 訴 因 との 間 に,被 告 人 の 尿 中 か ら検 出 され た 覚 せ い 剤 に関 す る使 用 行 為 で あ る とい う こ とで共 通 性 が認 め られ れ ば,原 則 的 に,公 訴 事 実 の 同一 性 を肯 定 して よ い とす る 見解 」 で あ る。 こ の よ うな 見 解 に つ い て,確 か に,例 え ば実 務 上 支 配 的 で あ る とさ れ る い わ ゆ る 「最 終1回 行 為説 」 を前 提 とす る な らば,狭 義 の 同一 性 が 問 わ れ た事 例 で あ る とい え よ う。 しか し,本 裁 判 例 は,「両 訴 因 は,そ の 間 に覚 せ い剤 の 使 用 時 間,場 所,方 法 に お い て多 少 の差 異 が あ る もの の,い ず れ も被 告 人 の 尿 中 か ら検 出 され た 同一 覚 せ い剤 の使 用 行 為 に 関す る もの」 と も判 示 して お り,こ の点 か らみ る と,「 両 立 しな い 関係 に あ る」 と は直 ち に は い え な い事 例 で あ る と思 わ れ る。 そ れ ゆ え,具 体 的 証 拠 関 係 を も公 訴 事 実 の 同一 性 の 判 断 に取 り込 み,「 両 訴 因 間 で1回. の覚 せ い 剤 使 用 しか認 め られ. な い事 案 」 で あ る こ とが確 定 さ れ た場 合 の判 断 基 準 が 示 され た もの と理 解 す る の で あ れ ば 格 別 で あ る が㈱,具 体 的 証 拠 関 係 を 離 れ て両 訴 因記 載 の 事 ㈱ ㈱. 植 村 立 郎 ・刑 訴 法 判 例 百 選 第8版106頁(2005年)。 辻 本 典 央 「訴 因 の研 究 一. 訴 因の特定性 について一. (2007年)o ⑳. 川 口宰 護 ・昭 和63年 最 判 解 刑 事 篇374,386頁(1991年)。. ㈱. 植 村(前 掲 注 ㈱)刑 訴 法 判 例 百 選107頁 。 一106一. 」 近 法54巻4号171頁.

(13) 「公訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 に つ い て(3・ 完). 実 を 対 比 して 考 察 す るな らば,本 件 両訴 因 は排 他 的 ・非 両立 の 関係 に あ る とは い え な い 。 そ れ ゆ え,覚 せ い 剤 自己使 用 罪 の罪 数 論 の 問題 は お く と し て も,本 事 例 は,む. しろ 単一 性 の レベ ル で考 察 さ れ る べ き もの で あ り,最. 高 裁 と して も,そ の 判 示 に か か わ らず,実 質 的 に は,犯 行 の 日時,場 所, 方 法 等 に 「多 少 の差 異 」 しか な か った こ と(さ. らに は 同一 犯 罪 で あ る こ と. か ら被 害 法 益 も共 通 す る こ と)か ら,両 訴 因 の 同一 性(厳 密 に は単 一 性) を肯 定 した もの と理 解 す べ き で は な い だ ろ う か。 (2)学. 説. 学 説 上 も,伝 統 的 に,「 公 訴 事 実 の 同 一 性 」 は,公 訴 事 実 の 単 一 性 と狭 義 の 同一 性 と に分 析 して論 じ られ て き た。 (i)公 訴 不 可 分 の原 則 か らの ア プ ロ ー チ 公 訴 事 実 の単 一 性 と狭 義 の 同一 性 とを 区 別 す る と い う見 解 は,小 野 清 一 郎 ⑳ の 創 唱 に よ る。 小 野 は,旧 刑 訴 法 時 代,訴 訟 の 客 体 で あ る 「犯 罪 事 実 」 につ いて,従 来 の学 説 が 事 件 の 「単 一 性 」(Einheitlcihkeit)と. 「同 一 性 」. (ldentitat)と を十 分 明 らか に分 別 して こな か っ た点 を批 判 し,一 回 の 手続 で 審 判 され,裁 判 が 確 定 した 後 に既 判 力 を 生 じる 「其 の 事 件 」 は,「 手 続 上 不 可 分 な る一 個 の もの で あ り,而. して 彼 此 同一 の もの で な け れ ば な らぬ. の で あ る。」 と主 張 した 。 そ して,小 野 は,事 件 の 単 一 性 と は 「手 続 上 不 可 分 な る一 個 の 事 件 と して 取 扱 は る る こ とを謂 ふ」 と した上 で,そ れ は, 「原 則 と して 刑 法 各 本 条 に 於 け る構 成 要 件 を 標 準 と して 其 の 一 回 の 充 足 あ る と きを 一 罪」 で あ る と説 明 す る。 も っ と も,科 刑 上 一 罪,す. な わ ち(現. 在 は 廃止 され た)連 続 犯 及 び牽 連 犯 に つ い て も,本 来 的 に数 罪 で あ る との 理 解 を前 提 に な お も 「刑 法 上 特 に之 を一 罪 と して処 断 す べ き もの」 と され て い る こ と か ら,「 刑 事 訴 訟 法 の 関 係 に於 て も之 を 一 罪 と して 取 扱 はね ば. ⑳. 小 野(前 掲 注(5))『刑 事 訴 訟 法 講 義 』192頁 。 一107一.

(14) 近畿大学法学. 第55巻第2号. な らぬ」 と して,事 件 の単 一 性 は実 体 法 上 の罪 数 論 に よ って規 整 さ れ るべ き こ とを提 唱 す る。 事 件 の単 一 性 に 関す る こ の よ うな理 解 は,公 訴 の効 力 は一 罪 の 全部 に 及 び,例 え ば,連 続 犯 や牽 連 犯 の一 部 につ い て公 訴 提 起 が な され た場 合 で もそ の効 力 は一 罪 全 体 に及 ぶ と さ れ る,い わ ゆ る 「公 訴 不 可 分 の原 則 」 を事 件 の単 一 性 と い う概 念 に よ っ て説 明 し,裁 判 所 が 一 回 の 手 続 で審 判 し うる範 囲及 び既 判 力 の範 囲 を,事 件 の単 一 性 の観 点 に お いて は実 体 法 上 の罪 数 論 に よ っ て画 す る と い う こ と を明 確 に した点 に お いて 注 目 さ れ るべ き もの で あ る。 小 野 は,旧 法 時 代 に提 唱 した この よ うな 見 解 を 現 行 刑 事 訴 訟 法 の下 で(現 行 法 解 釈 の 問 題 と して)発 展 させ,「 単 一 性 は, 一 個 の事 件 と して不 可 分 に取 り扱 はれ る範 囲 の 問 題 で あ り ,い はば 空 間 的 な統 一 性 で あ る。 之 に反 して,同 一 性 は,手 続 の 前 後 にお け る事 件 の 連 続 性 の 問 題 で あ り,い は ば時 間 的 自 己 同一 性 で あ る。」 と主 張 した⑬ ①。 も っ と も,公 訴 事 実 の 単 一 性 に関 す る小 野 の 右 見 解 は,旧 法 時 代 に お け る公 訴 不 可 分 の 原 則 を 前 提 とす る もの で あ り,現 行 刑 事 訴 訟 法 の 下 で も,審 判 対 象 を 訴 因 で は な く,"公 訴 事 実"と す る見 解 か ら主 張 され る もの で あ る こ とに 注 意 が 必 要 で あ る。 す な わ ち,小 野 は,現 行 法 下 で も,旧 法 時 代 と 同 じ く, 科 刑 上 一 罪 の う ち一 部 の 犯 罪 に つ い て 公訴 提 起 が な され た場 合 で も,な お そ の 余 の 犯 罪 に つ い て も審 判 で き る と し,こ の こ と を ま さ に 「一 個 の 事 件 」 (=公 訴 事 実 の 単 一 性),す. な わ ち 公訴 不 可 分 の原 則 に よ って基 礎 付 け る こ. とを試 み て い る⑳。 小 野 の右 見解 は,団 藤 重 光 に よ り継 承 さ れ た。 団藤 は,審 判 対 象 を,潜 在 的 に は 「起 訴 状 に記 載 され た犯 罪 事 実 と単 一 かつ 同一 で あ る か ぎ りのす べ て の事 実 」 で あ り,既 判 力 もそ の全 部 に及 ぶ(但. ⑳. 小 野 清 一 郎 『新 刑 事 訴 訟 法 概 論 』130頁(1948年,法. ⑳. 小 野(前 掲 注 ⑳)『 新 刑 事 訴 訟 法 概 論 』134頁 。 一108一. し,現 実 的 な審 判 の対. 文 社)。.

(15) 「公 訴事 実 の 同一 性 」 概 念 に つ い て(3・ 完). 象 は 訴 因 事 実 で あ る)と の 見 解⑳ を前 提 に,公 訴 事 実(団. 藤 は 「事 件 」 と. 呼 ぶ)の 単 一 性 及 び 同 一 性 に つ い て,以 下 の よ うに説 明 す る。 す な わ ち, 「事 件 の単 一 性 お よ び 同一 性 の問 題 」は,公 訴 の効 力 及 び判 決 の既 判 力 に加 え て,押 収 や 勾 留 とい った捜 査 手 続 に も妥 当 す る べ き,刑 事 訴 訟 全 体 を通 じた 「法 律 関 係 の 単 位 」 と して重 要 な 意 味 を持 つ。 事 件 の 単 一 性 は,「 訴 訟 の 発 展 を しば ら く捨 象 して,い わ ば横 断 的 に静 的 に観 察 した ば あ い に事 件 が 一 個 で あ る こ と」 を い い,他 方,事 件 の 同 一 性 は,「 手 続 の発 展 に着 眼 して,い わ ば縦 断 的 に動 的 に観 察 さ れ る ば あ い に,事 件 が 前 後 同一 で あ る こ と」 を い う。 そ して,団 藤 は,前 者(事 件 の単 一 性)に つ いて,事 件 が単 一 で あ る か ぎ り公 訴 の効 力 もそ の全 体 に及 ぶ の で あ り,こ れ を 「公 訴 の不 可 分 ま た は審 判 の不 可 分 」 と称 し,事 件 の 一 部(例 え ば科 刑 上 一 罪 の うち一 部 の犯 罪)に つ い て公 訴 提 起 が あ った 場 合 で も,観 念 的 な い し潜 在 的 に は事 件 の単 一 性 が 認 め られ る全 体 が 審 判 の 対 象 で あ り,判 決 の 効 力 も ま た そ の 全 体 に及 ぶ と述 べ て い る㈱。 団 藤 は,こ の よ う に して,公 訴 事 実 (事件)の 単 一 性 を,小 野 と 同様 や は り公 訴 不 可 分 の 原 則 との 結 び つ きに お いて 理 解 し,審 判 対 象 及 び既 判 力 が 及 ぶ 範 囲 を事 件 の 単 一 性 とい う基 準 に よ って 画 す る こ とを 試 み る点 に特 徴 が 見 られ る。 同様 の 見 解 は,平 場 安 治 鱒 及 び 高 田 卓爾 欝 に も見 られ る。 平 場 は,や は り公 訴 不 可 分 の 原 則 が 妥 当 す べ き こ とを前 提 に,事 件 の単 一 性 と同一 性 と を 区 別 し,そ の 範 囲 内 にお い て訴 訟 係 属,判 決 の効 力 が生 じ る とい う。 平 場 に よ る と,事 件 の 単一 性 とは,実 体 形 成 過 程 の あ る時点 の心 証 に お い て 事 件 が 一 個 で あ る こ と,す な わ ち そ れ は,実 体 形 成 の浮 動 を捨 象 した静 的. 紛. 団藤 重 光 『 新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 ・7訂 版 』204頁(1967年,創. ㈱. 団藤(前 掲 注鋤. ㈱. 平 場 安 治 『刑 事 訴 訟 法 講 義 ・改 訂 再 版 』118頁(1955年,有. ⑳. 高 田卓 爾 『刑 事 訴 訟 法 ・2訂 版 』137頁(1984年,青. 文 社)。. 「新 刑 事 訴 訟 法 綱 要 』145頁 。. 一109一. 斐 閣)。. 林 書 院)。.

(16) b凶 し.'」. 近畿大学法学. 第55巻第2号. な観 察 に基 づ く もの で あ り,事 件 の 同一 性 と は,一 定 の 時 間 的 経 過 を 挟 ん で前 後 同一 で あ る か,す な わ ち動 的 観 察 に基 づ く もの で あ る,つ ま り,単 一 性 は ,「 事 件 の は ば の 問 題 」 で あ るの に対 し,同 一 性 は 「事 件 のず れ の 問題 」 で あ る。 高 田 も,や は り公 訴 不 可 分 の 原 則 を 所 与 の もの と し,事 件 の単 一 性 に つ いて,「 訴 訟 法 上 不 可 分 な一 個 の 客 体 と して 取 り扱 わ れ る場 合 」,す な わ ち 「訴 訟 の発 展 面 を 捨 象 して 横 断 的 ・静 的 に 観 察 した場 合 に 事 件 が 一 個 と考 え られ る こ と」 で あ る と説 明 す る。 そ して,こ の単 一 性 に つ い て は,実 体 法 上 の 罪 数 論 に よ るべ き もの と主 張 され て い る㈱。 も っ と も,両 者 は,審 判 の 対 象 につ いて 前 二者 とは 見解 を異 に す る。 平 場 は,審 判 の 対 象 は公 訴 事 実 で あ るが,審 判 の主 題 は訴 因 で あ る と して,訴 因審 判 対 象 説 に一 定 の理 解 を 示 す ⑳。 他 方,高. 田 は,は. っき り と訴 因 審 判 対 象 説. を 支 持 す る こ とを 表 明 して い る⑳。 そ れ ゆ え,両 者 に お い て,公 訴 事 実(事 件)の 単一 性 は 審 判 対 象 如何 の 問題,特. に訴 因 を超 え た"公 訴 事 実"を 審. 判 対 象 と理 解 す る見解 とは切 り離 され た点 に特 徴 が見 られ る。 ㈲. 公訴 不 可分 の原 則 を 否定 す るア プ ロー チ. 前 述 の 見解 は,そ れ ぞ れ 旧刑 訴 法 時代 に一 般 に是 認 さ れ て き た公 訴 不 可 分 の原 則 を前 提 に,訴 因 を離 れ た何 らか の実 体 を基 に公 訴 事 実 の単 一 性 を 論 じ る もの で あ った。 これ に対 し,訴 訟 に お け る審 判 対 象 を検 察 官 が 主 張 す る訴 因 で あ る とす る理 解 を前 提 に,訴 訟 に お いて 訴 因 を離 れ た実 体 を認 め る こ とを否 定 す る見 解 が有 力 に主 張 され て い る。 そ の先 駆 的 論 者 で あ る 平 野 龍 一 は,当 時 の公 訴 不 可 分 の原 則 を肯 定 す る通 説 と は一 線 を画 した 上 でell,「 公 訴 事 実[の 同一 性]を 訴 因 と訴 因 との 関 係 」ua,すな わ ち 「訴 因 は ㈲. 高 田卓 爾 『公 訴 事 実 の 同一 性 に関 す る研 究 』139頁(1953年,有. ⑳. 平 場(前 掲 注 ㈱)『 刑 事 訴 訟 法 講 義 』428頁 。. ㈱. 高 田(前 掲 注 ㈲)『 刑 事 訴 訟 法 』411頁 。. ㈱. 平 野(前 掲 注 ⑪)『 刑 事 訴 訟 法 』145頁 。. ㈲. 平 野 龍 一 『訴 因 と証 拠 』160頁(1981年,有 一110一. 斐 閣)。. 斐 閣。 初 出 「公 訴 事 実 の 単 一 性 と/.

(17) 「公 訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 につ いて(3・. 完). 主 張 で あ るか ら,公 訴 事 実 の 同一 性 とは,主 張 され た事 実(訴 因)と 主 張 され た事 実(訴 因)と の 比較 の 問題 で あ る」ω と主 張 す る。 そ の上 で,平 野 は,小 野 が提 唱 し,そ の後 広 ま った,公 訴 事 実 の 単 一 性 は 「一 個 の 事 件 と して 不 可 分 に取 り扱 わ れ る範 囲 の 問 題 」,つ ま り 「空 間 的 統 一 性」 で あ る の に 対 し,狭 義 の 同 一 性 は 「手 続 の前 後 に お け る事 件 の 連 続 性 の 問題 」, つ ま り 「時 間 的 自 己統 一 性 」 で あ る との理 解 につ い て,「 択 一 的 ま た は 予 備 的訴 因 の場 合 に は,空 間的 に も同一 性 が 問 題 とな り,他 方,は. じめ 一 個. の犯 罪 事 実 の一 部 が訴 因 とされ た ば あ い に は,訴 因 の 変 更 に よ って,単 一 性 も時 間 的 に 変 化 す る」 と批 判 し,結 局,「 同一 性 とは,両 立 しえ な い 訴 因 の 間 の関 係 で,単 一 性 は,両 立 しう る訴 因 の 間 の 関 係 を い う」 と主 張 す る働。 そ して,平 野 は,単 一牲 の 例 と して 法 条 競 合 や 科 刑 上 一 罪 を 挙 げ,例 え ば,住 居 侵 入 罪 の訴 因 に 当該 住 居 内 で の 窃 盗 罪 を 追 加 す るだ けで な く, 変 更 も可 能 で あ る と い うの は,両 事 実 は両 立 す るが,単 一 性 が 肯 定 され る こ とに よ る,ま た,公 務 員 に よ る暴 行 を 手 段 とす る職 権 濫 用 罪 の 場 合 も, 暴 行 罪 か ら職 権 濫 用 罪 へ の 訴 因 変 更 が 認 め られ るの は,や は り両 事 実 間 の 両 立 性 を前 提 に単 一 性 が 肯 定 され る こ と に よ る と説 明 す る。 逆 に,窃 盗 教 唆 罪 の訴 因 か ら盗 品 関 与(賊 物 故 買)罪 へ の訴 因変 更 が認 め られ な い の は, 同 じ く両 事 実 聞 の 両 立 性 を 前 提 に,両 罪 が 併 合 罪 で あ る こ とゆ え に 単 一性 が 否 定 され る こ と に よ る,従 って 狭 義 の 同 一 性 の 問 題 で は な く,単 一性 の 問 題 で あ る と説 明 す る。 この よ う に して,平 野 は,公 訴 事 実 の 単 一性 と狭 義 の 同一 性 との 関 係 につ いて,前 者 は 訴 因 間 に 両 立 関 係 が 認 め られ る場 合 の 問題. 後 者 は 両 立 関 係 が 認 め られ な い 場 合 の 問 題 で あ る と 区 別 した 上. で,単 一 性 につ いて は,実 体 法 上 の 罪 数 論 に よ って 決 定 され るべ き もの で. \ 同 一 性 」 法 セ ミ41号(1959年))。 (4D平. 野(前. 掲 注(ID)『 刑 事 訴 訟 法 』139頁. 。. (4D平. 野(前. 掲 注qD)『. 。. 刑 事 訴 訟 法 』135頁. 一111一.

(18) 近畿 大学 法学. 第55巻第2号. あ る とす る㈱。 田 宮 裕㈹ は,公 訴 事 実 の 同一 性 は平 野 が 提 唱 す る よ う な訴 因 と訴 因 と の 比較 の 問題 で あ る,「訴 因制 度 の導 入 に よ り,右 の公 訴 不 可 分 の原 則 は な く な[っ た]」 との 理 解 を 前 提 に,公 訴事 実 の 同一 性 論 は 両訴 因 間 の 「ず れ」 の 問題 で足 りる こ とに な った と主 張 す る。 す なわ ち,公 訴 事 実 の単 一 性 と は,従 来,「 訴 訟 の あ る時 点 で 公訴 事 実 が一 個 で あ るか の 問題 」,す な わ ち 「ど こ まで 広 が るか」 とい う 「は ば の 問題 」 で あ る の に対 し,同 一 性 とは, 「異 な る時 点 で 比 べ て み て 同 じ事 実 とい え る か の 問題 」,す な わ ち 「か れ こ れ 同 じか 」 と い う 「ず れ の 問 題 」 で あ る と理 解 され て きた が,特. に前 者 に. つ いて は公 訴 不 可 分 の 原 則 の 否 定 に よ って 概 念 自体 不 要 の もの とな った と い う。 も っ と も,田 宮 は,「 同 一 性(ず れ)が. 問題 とな る場 合 に二 種 あ る. と考 え る 方 が 便 利 で あ る」 と して,「 ず れ て も罪 数 論 上 一 罪(包 括 一 罪 は も ち ろん,科 刑 上 一 罪 を も含 む)の 範 囲 に入 るた め に 同一 性 が肯 定 され る 場 合 」と,「ず れ が 一 罪 の 外 に また が るに もか か わ らず 同一 性 が肯 定 され る 場 合 」 と を挙 げ,前 者 を 「新 単 一 性 」,後 者 を 「新 同一 性 」 と呼 び,前 者 は実 体 法 上 の 罪 数論 に 従属 す る もの で あ る か ら,訴 訟 上 特 に議 論 され るべ きで あ るの は 後者 で あ る と述 べ る。 田宮 は,こ の よ うに,そ の名 称 は と も か く単 一 性 と同一 性 との 区別 を維 持 しつ つ,平 野 が提 唱 した両 立 性 ・非 両 立 性 か らの 区別 基 準 が 曖 昧 で あ る こ とか ら,自 説 を 「簡 明 な説 明 」 と して 提 唱 した もの と説 明す る。 田宮 も,従 来 の議 論 と 同様,単 一 性 の問 題 を実 体 法 上 の罪 数 論 に従 属 させ る点 に お い て実 際 の 結 論 に変 化 が 生 じる もの で は な い が,彼 の見 解 の特 徴 は,公 訴 不 可 分 の 原 則 との 明 確 な 決 別,つ. まり. 「旧 法 で は,公 訴 事 実 は事 件(訴 訟 物)の ユ ニ ッ トで あ っ た か ら,単 一 か つ 同一 の とき に 同一 事 件 と され たが,私 見 で は,基 準 に この 二 種 が あ る と ㈲. 平 野(前 掲 注 ㈲)『 訴 因 と証 拠 』156頁 。. ㈹. 田宮(前 掲 注(2))『刑 事 訴 訟 法 』202頁 。 一112一.

(19) 「 公 訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 につ いて(3・. 完). 考 え るの で,単 一 ま た は 同一 で あ れ ば公 訴 事 実 の 同一 性 は肯 定 され る とい う こ と に な る。」㈲ と の 説 明 に あ る もの と思 わ れ る㈱。 す な わ ち,平 野 に よ って提 唱 され た,訴 因 を審 判 対 象 で あ る と し,訴 訟 で は あ くまで 訴 因 に よ って顕 在 化 した事 実 の み が重 要 とな る の で あ って,そ. の背 後 に あ る"公. 訴 事 実"の 存 在 及 び そ れ に伴 う法 的効 果 を否 定 す る とい う見 解 は,田 宮 に よ って よ り明確 な もの と され た とい え よ う。 ㈹. 「公 訴 事 実 」 概 念 を 二 元 的 に 理 解 す る見解. 以 上 の とお り,公 訴 事 実 の 同一 性 は,旧 法 時 代 に お け る公 訴 不 可 分 の 原 則 を採 用 す る か否 か で説 明 の違 い は あ るが,公 訴 事 実 の 単 一 性 と狭 義 の 同 一 性 とに 区別 して議 論 し ,前 者 につ いて 実 体 法 上 の 罪 数 論 に従 属 す る との 見 解 が支 配 的 で あ った。 鈴 木 茂 嗣⑳ は,こ の よ うな 支 配 的 思 考 方 法 を 基 本 的 に 維 持 しつ つ,「 議 論 を平 明 化 し,か つ 実 態 に即 した 議 論 を展 開 す る」 た め に,従 来 の 「『公 訴 事 実 とは,公 訴 犯 罪 事 実 を い う』 と の ドグマ,さ らに は 『同一 性 も単 一 性 も,と もに この 公 訴 犯 罪 事 実 につ いて 論 じる』 と の ドグ マ」 を打 破 し,「 『公 訴 事 実 』 概 念 を 二 つ に分 析 す る と と も に,同 一 性 ・単 一 性 を論 じる公 訴 事 実 は,そ れ ぞ れ 別 個 の 事 実 で あ る こ とを 明 確 に す る こ と」 を主 張 す る。 鈴 木 は,具 体 的 に は,狭 義 の 「同 一 性 を 論 ず べ き 『公 訴 事 実 』 とは,公 訴 『犯 罪 事 実 』 で は な く,む しろ公 訴 犯 罪 事 実 が 解. ㈲ ㈹. 田宮(前 掲 注(2))『刑 事 訴 訟 法 』204頁 。 田 口守 一 『刑 事 訴 訟 法 ・第4版 補 正 版 』(2006年,弘. 文 堂)327頁. は,田 宮 の. 新 単 一 性 論 を 支 持 しつ つ,「公 訴 事 実 が単 一 で あ る こ と を前 提 と して,公 訴 事実 の 同一 が 問題 と な る(し た が っ て,単 一 性 な き事 実 に つ い て の 同一 性 は認 め ら れ な い)」 と述 べ て い る が,こ れ に よ る と広 義 の 同 一 性 が 肯 定 され るた め に は 単 一 性 か つ 同一 性 が 必 要 と な り ,単 一 性 又 は 同一 性 を要 求 す る 田宮 の 見 解 とは 異 な る もの と理 解 され るべ きで あ ろ う。 ㈲. 鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 の基 本 構 造 』214頁(1979年,成 観 念 につ いて 一. 文 堂 。 初 出 「公 訴事 実 の. 公 訴 問 題 事 実 と公 訴 犯 罪事 実 」 『 現 代 の 刑 事 法 学㈲ ・平場 安治. 博 士 還 暦 祝 賀 』(1977年,有. 斐 閣))。 一113一.

(20) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 答 と して 予 定 され て い る 『社 会 的 問 題』 そ れ 自体,す. な わ ち 公訴 『問題 事. 実 』 で あ る」,他 方,「 『単 一 性 』 を 問題 に す べ き 公 訴 事 実 とは,公 訴 問 題 事 実 で は な く,現 に公 訴 が 提 起 され 主 張 され て い る犯 罪 事 実,す. なわ ち. 『公 訴 犯 罪 事 実 』な の で あ る。 そ れ は,内 容 的 に は全 く訴 因 と同一 で あ る。」 と説 明 す る。 特 に 後者 に つ い て,鈴 木 は,科 刑 上 一 罪 の場 合 の訴 因 は数 個 で あ り(通 説 的見 解 は一 個 と理 解 す るの に対 し),た だ こ の場 合 の公 訴 犯 罪 事 実 は単 一 で あ って,そ れ ゆ え審 判 対 象 は訴 因 そ の もの で は な く,訴 因 と 罰条 とに よ って構 成 さ れ る公 訴 犯 罪 事 実 で あ る と の独 自 の理 解 を前 提 に理 論 の平 明化 を 図 りつ つ,こ の よ うに理 解 され る公 訴 犯 罪 事 実 と公 訴 問 題 事 実 との 違 い を明 確 に意 識 して お く こ とに よ って,「 種 々 の法 律 効 果 の 及 ぶ 範 囲 を 考 え る に あ た っ て も具 体 的 に妥 当 な 解 釈 が 可 能 に な る」 と主 張 す る。 鈴 木 は,公 訴 事 実 の単 一 性 につ いて,実 体 法 上 の 罪 数 論 に よ って これ を画 す る と い う従 来 の見 解 自体 に は異 論 が な い と しつ つ,し か し,「この 意 味 で の単 一 性 が,常 に訴 訟 法 上 の 効 果 の 単 位 にな る とす るの は,い さ さか 性 急 にす ぎ る」 と批 判 し,公 訴 事 実 の 単 一 性 が 問 題 とな る場 面 で 従 来 の 見 解 が 犯 罪 の不 可 分 性 と い う観 点 か ら検 討 を 加 え て いた 点 が 妥 当で はな く, 「む しろ 如 何 な る次 元 の 犯罪 を 基準 とす る 問題 か」と い う視 点 が 必 要 で あ る と主 張 す る㈱。 以 上 の と お り,鈴 木 の 見 解 は,公 訴 事 実 の 単 一 性 と狭 義 の 同 一 性 とを 区 別 して 論 じる と い う従 来 の 枠 組 み は維 持 しつ つ,両 者 は そ もそ も質 的 に 異 な る もの で あ る との 分 析 か ら,訴 訟 上 の 効 果 に 関 す る具 体 的 検 討 に お い て 従 来 の 通 説 的 見 解 とは 異 な る結 論 を 導 く点 に 特 徴 が 見 られ る(鈴 木 に よ る と,例 え ば,公 訴 時 効 の 停 止 の 範 囲 につ い て,「 現 実 的 訴 訟 対 象 とな って い. ㈱. 鈴 木(前 掲 注 ㈲)『 刑 事 訴 訟 の 基 本 構 造 』235頁(初 『 現 代 刑 法 講 座 第 三 巻』(1979年,成. 文 堂))。. 一114一. 出 「罪 数 論 」 中 山 ほ か編.

(21) 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 概 念 につ い て(3・. 完). る と こ ろ の公 訴 問題 事 実 を 同一 にす る限 りで 及 ぶ の で あ り,未 だ 現 実 的 審 判 対 象 とな って いな い単 一 の犯 罪 事 実 に まで は及 ば な い」㈲)。各 々 の 基 準 自体 に つ いて は検 討 の 余 地 が あ る と思 わ れ る が(後 述),従. 来,公 訴 事 実. の単 一 性 が 公 訴 事 実 の 同一 性 の 問 題 と して 論 じ られ る際,こ れ を 独 自の も の とす る こ と につ いて 訴 訟 法 上 どの よ うな 意 義 が あ るか に つ い て必 ず し も 明 らか に され て こな か った 点 を 批 判 し,議 論 の 方 向 性 及 び 実 践 に お け る明 確 な 結 論 を 提 示 す る点 に,鈴 木 の 見 解 の 意 義 が 認 め られ る。 ㈹. 公 訴 事 実 の 単 一 性 ・同 一 性 の 分 析 を 否 定 す る見 解. 前 述 の よ うな 公 訴 事 実 の 同 一 性 を 公 訴 事実 の単 一 性 と狭義 の 同一 性 とに 分 析 して 論 じる とい う支 配 的 見 解 に 対 し,小 田 中聰 樹 ⑳ は,「訴 因 変 更 の許 容 範 囲 の 限 界 と して の 『公訴 事 実 の 同一 性(広 義)』 を論 ず るに 際 し,公 訴 事 実 の 単 一 性 とい う概 念 を と くに 定 立 す る必 要 は な い」 と して反 対 す る。 小 田 中 は,訴 因 を 審 判 対 象 で あ り,公 訴 事 実 の 同一 性 とは訴 因 と訴 因 と の 関 係 性 を示 す 概 念 で あ る と の理 解 を 前 提 に,「 訴 因 変 更 の許 容 範 囲 を論 定 す るに 当 た って 重 要 な の は,訴 因変 更 の許 容 に よ って受 け る被 告 人 の防 御 上 の 不 利益(お. よ び検 察 官 の 有罪 追 求 上 の利 益)と,訴. い生 ず る一 事 不再 理 効 の 拡 大 に よ る被 告 人 の利 益(お. 因変 更 の許 容 に伴 よび検 察 官 の不 利 益). とを比 較 衡 量 す る こ と」 で あ り,か つ それ だ けで 結 論 が 導 か れ う る と主 張 す る。 小 田 中 は,こ の よ うな 「考 察 が ビジ ブル(可 視 的)に 明 示 的 に な さ れ る た め に も,訴 因 の共 通 性 が基 準 と され るべ きで あ る」 と して,両 訴 因 間 の 「重 要 部 分 」 が重 な る か否 か に よ って 訴 因 変 更 の 可 否 が 決 定 され る と 説 明す る。 そ して,従 来 公 訴 事 実 の単 一 性 の 問 題 と して 論 じられ て きた 科. ⑲ 鈴 木(前 掲 注㈱)『 刑 事 訴 訟 の 基 本 構 造 』268頁(初 一 性 一 訴 訟 対 象 論 試 論(2)」論 叢92巻3号(1972年) 6① 小 田中 聰 樹 『ゼ ミナ ール 刑 事 訴 訟 法 ㈲ 閣)。 一115一. 争点編. 出 「公 訴 事 実 の 同 一性 と単 。 』161頁(1987年,有. 斐.

(22) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 刑 上 一 罪 の 関係 に あ る犯 罪 につ いて も,観 念 的 競 合 の 場 合 は重 要 部 分 に重 な りが あ る の で 当然 に訴 因変 更 が 許 容 され る,牽 連 犯 の 場 合 も,前 述 の よ うな 「利 益 衡 量 的観 点 」 か らみて 訴 因 変 更 の 許 容 に問 題 はな い と して,い ず れ も公 訴 事 実 の 同一 性 を肯 定 す べ きで あ る と述 べ て い る。 こ の よ うに,小 田 中 の見 解 は,公 訴 事 実 の 同 一 性 の 議 論 にお い て 公 訴事 実 の単 一 性 概 念 を否 定 し,い わ ば一 元 的 に説 明 しよ う とす る点 に特 徴 が 見 られ る。 も っと も,小 田 中 は,従 来 の 公 訴 事 実 の 単 一 性 が 一 罪 一 訴 因 原 則 の反 射 に ほ か な らな い と の理 解 を前 提 とす る もの で あ り,結 局 の と こ ろ公 訴 事 実 の単 一 性 を公 訴 事 実 の 同一 性 と は別 の 問 題 に置 き換 え る もの に す ぎ な い と い え よ う。 そ の証 左 と して,前 述 の よ う に,観 念 的 競 合 の 場 合 は と もか く,牽 連 犯 の類 型 につ いて 公 訴 事 実 の 同 一 性 を 肯 定 す る にあ た り,小 田 中 は,「 利 益 衡 量 的 観 点 」 か ら訴 因変 更 の 許 容 に 問 題 はな い,も 一 訴 因(一 罪)と. ともと. して 構 成 しう る ほ どの 「不 可 分 一 体 的 な 関 係」 が あ る こ. とか ら,重 要 部 分 に共 通 性 が な い に もか か わ らず 共 通 性 が あ る場 合 に 「準 ず る場 合 」 で あ る と説 明 して い るが,こ の よ うな 説 明 は,む. し ろ小 田 中 の. 考 察 法 も従 来 の公 訴 事 実 単 一 性 論 と径 庭 が な く,自 身 の 見 解 が 「一 罪性 が あ るか ら必 然 的 に訴 因 変 更 を 許 容 す べ きで あ る(単 一性 が あ る)と す る思 考 と は異 な って お り,一 罪 性 が あ る場 合 で も訴 因 変 更 が 許 容 され な い場 合 が あ る こ とを 認 め て い こ う とす る考 え方 に発 展 す る契 機 を 内 臓 して い る」6D と は必 ず し もい え な い こ と を示 す もの で は な い だ ろ うか。 松 尾 浩 也 は,訴 因 審 判 対 象 説 を 徹 底 させ る形 で,「 公 訴 不 可 分 の原 則 が, 現 行 法 に もあ て は ま る と主 張 す る こ と な ど は,す べ て 当 を 得 て い な い」働 と主 張 した上 で,実 体 法 上 の罪 数 論 に よ る規 整 を 公 訴 事 実 の 同 一 性 論 か ら. (5D小. 田 中聰 樹 『ゼ ミナ ール 刑 事 訴 訟 法 ㈲ 一. 演習編一. 閣)。 6D松. 尾(前 掲 注(6))『刑 事 法 学 の 地 平 』182頁 。 一116一. 』144頁(1988年,有. 斐.

(23) 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 概 念 につ いて(3・. 切 り離 し,訴 訟 法 上 別 個 の観 点,す. 完). な わ ち 「一 訴 因 一 罪 の 原 則 」 と い う観. 点 か ら訴 追 活 動 に及 ぼ そ う とす る㈹。 松 尾 は,公 訴 事 実 の単 一 性 とい う考 え方 を採 用 しな い こ と につ い て必 ず しも明 快 な 説 明 を 行 って は いな い が, お そ ら く単 一 性 概 念 が従 来 公 訴 不 可 分 の 原 則 との 結 びつ き にお い て 論 じら れ て き た こ と を意 識 した もの と思 わ れ る。 す な わ ち,松 尾 は,一 罪 一 訴 因 原 則 も,「 公 訴 提 起 の 効 力 が実 体 法 上 の罪 数 の観 念 に よ って規 整 さ れ る点 」 に お い て は,公 訴 不 可 分 の 原 則 と同 様 の 機能 を持 ち うる が,「公 訴 不 可 分 の 原 則 は公 訴 提 起 の 効 力 を一 罪 の 範 囲 まで 拡 大 す る もの で あ るの に 対 し,一 罪 一 訴 因 の 原 則 は一 罪 の 範 囲 に限 定 す る もの で あ る」 と説 明 し,両 原 則 の 本 質 的 差 異 を 強 調 す る。 松 尾 の 見 解 は,前 述 田 宮 の 新 単 一性 論 と基 本 的考 え 方 の み な らず,具 体 的 結 論 にお い て も実 体 法 上 の 罪 数論 に よ る規整 とい う点 で 共 通 す る もの で あ る。 但 し,罪 数 論 に よ る規整 とい う理 論 構 成 か ら は,両 訴 因 間 で 単 一 性 が 問 題 とな る場 合,訴 因 の 「変 更 」で はな く 「補 正 」 の 問 題 で あ る との 指 摘 が あ る こ とに 注 意 が必 要 で あ る6m。 光 藤 景 咬 ㈲ は,公 訴 事 実 の単 一 性 は 一 罪 と扱 う こ と の で き る範 囲 で あ り,罪 数 論 上 一 罪 の 関 係 に あ る事 実 は 単一 性 が あ る との理 解 を 「一 応 」 前 提 と して,公 訴 事 実 の 同 一性(広 義)が 認 め られ る もの と して,①rA訴 因 事 実 とB訴 因 事 実 が 事 実 と して は 両立 しな い場 合 」,② 「AとBは して は 両 立 し… …[な い]が,法. 行為 と. 的観 点 か らみ る と,犯 罪 と して は,一 見. 両 立 す るよ うに み え つ つ 結 局一 罪 しか成 立 しな い場 合(法 条 競 合)と 両 立 す るが 処 罰 は 一 個 の 場 合(観 念 的競 合),③rAとBは. 事 実 と して 両 立 す. る けれ ど も,両 者 の 密 接 な 関 係 か ら一 罪 と して扱 わ れ る場 合 」(牽 連 犯, 不 可 罰 的事 後 行 為,包 括 一 罪)を 挙 げ る。 光 藤 は,右 いず れ の ば あ い も,. ㈱. 松 尾(前 掲 注a3))『刑 事 訴 訟 法 上 』182頁 。. 64)田 ㈲. 宮(前 掲 注(2))『刑 事 訴 訟 法 』204頁 。. 光 藤 景 咬 『刑 事 訴 訟 法1』314頁(2007年,成 一117一. 文 堂)。.

(24) 近畿大学法学. 第55巻第2号. 独 立 に刑 罰権 を発 生 させ る もの と して,AとBと る(③ の場 合 も,AとBと. が 「非 両 立 の関 係 」 に あ. が両 方 主 張 され た場 合,そ れ ぞれ 独 立 に併 合 罪. 扱 い で処 罰 を要 求 す る こ とは で き な い)と. して,両 訴 因 間 の 処 罰 非 両 立 性. が広 義 の公 訴 事 実 の 同一 性 の基 準 とな る と主 張 す る。 す な わ ち,こ の 処 罰 非 両 立 とい う基 準 の下 に,単 一 性 と狭 義 の 同一 性 とが 統 合 され う る と い う わ け で あ る。 大 澤 裕 ㈱ は,「同一 性 と単 一・ 性 は そ も そ も区 別 され るべ きか 」との 関 心 か ら,公 訴 事 実 の 同一 性 論 にお け る両 概 念 の 統 合 性 を 追 求 す る。 大 澤 は,従 来,公 訴 事 実 の 単 一 性 が 実 体 法 上 の 刑 罰 権 の 一 個 性 か ら基 礎 付 け られ て き た点 は,旧 法 時 代 か らの 訴 因 の 背 後 に"公 訴 事 実"を 認 め る もの で あ る と 批 判 しつ つ,「 矛 盾 裁 判 の 回 避 と い う訴 訟 上 の考 慮 」 か ら,実 体 法 上 一 罪 の 関 係 にあ る訴 因 間 で 訴 因 変 更 等 を 許 容 す べ き(つ ま り公 訴事 実 の 同一 性 を 肯 定 す べ き)理 由 は十 分 に 存 在 す る と主 張 す る。 そ して,矛 盾 裁 判 が 回 避 され るべ きで あ るの は,問 題 とな る両 訴 因 間 が ま さに 非 両 立 の 関係 に あ る場 合 で あ るか ら,結 局 の と ころ,「別訴 で 同 時 に 有罪 とす る こ とが1個 の 刑 罰 権 に対 す る二 重(多 重)処 罰 の実 質 を有 す る訴 因 に つ い て は,別 訴 そ の もの を 許 さ ず,訴 因 変 更 に よ る1回 的 処 理 を 図 る こ と が 合 理 的 と い え る。 この よ うに 見 るな らば,両 者[単 一性 と狭 義 の 同一 性]の 判 断 の性 格 は 接 近 す る。」 と説 明 す る。 上 口裕紛 は,公 訴 事 実 の単 一 性 と狭 義 の 同一 性 と を 自覚 的 に 区別 す る こ とな く,「『同一 事 件 に 関 す る異 な る主 張 』 にす ぎ な い と い う新 旧訴 因 の 同 質 性 」 を 公訴 事 実 の 同一 性 の統 一 的 な判 断 基 準 と して提 示 す る。 上 口 は, 「一 罪[同 一 事 件]と. ㈹. され る場 合 で あ って も,そ の一 罪 性 の 構 造 は 単 一 で. 大 澤 裕 「公訴 事 実 の 同一 性 と単 一 性 ㈹ ・(下)」 法 教270号56頁,272号85頁(2003 年)。. ㈱. 上 口(前 掲 注 ⑱)「 公 訴 事 実 の 同一 性 」379頁 。 一118一.

(25) 「 公 訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 につ い て(3・ 完). な い。 した が って,新 旧訴 因 が 同一 事 件 に 関す る主 張 の違 い にす ぎ な い か ど うか は,一 罪 性 の観 点 か らみ て両 訴 因 が ど の よ うな 関係 に たつ か,す な わ ち一 罪 性 の構 造 の違 い に影 響 さ れ る か ら,同 一 性 の判 断 基 準 は そ れ に応 じて異 な」 る と述 べ,特 に従 来 公 訴 事 実 の単 一 性 の 問題 と して検 討 さ れ て き た科 刑 上 一 罪 の類 型 に つ い て,① 両 訴 因 の両 立 性,② 本 来 的数 罪 を科 刑 上 一 罪 の 関係 に あ る こ とを要 件 に 「同一 事 件 にお け る異 な る主 張 」,す な わ ち 公 訴 事 実 の 同一 性 を 肯 定 す る。 上 口は,「 一 罪 性 を 公 訴 事 実 の 同 一 性 の 基 準 とす る こ と」につ いて,「訴 因制 度 の基 本 に あ る一 罪 一 訴 因 の原 則 そ の もの が罪 数 論 を前 提 にす る の で あ るか ら,実 体 法 上 の観 念 が 重 要 な役 割 を 果 た す こ と は避 け られ な い。」 と述 べ,刑 罰 関 心 の 同一 性,或. いは処罰 の. 非 両 立 性 と い った従 来 の見 解 と の接 近 を図 って い る。 (3)小. 括. 以 上,公 訴 事 実 の単 一 性 に関 す る従 来 の 議 論 を概 観 した。 後 述 の 検 討 の た め,小 括 して お く。 我 が 国 に お け る公 訴 事 実 の単 一 性 論 は,前 述 の と お り小 野 の 創 唱 にか か る もの で あ る が,当 時 の 旧刑 事 訴 訟 法 に お け る審 判 対 象 論,す. なわ ち事 件. の 同一 性 に関 す る 「公 訴 不 可 分 の原 則 」 を 所 与 の 前 提 と し,一 罪 の 一 部 が 起 訴 さ れ た場 合 で あ っ て もそ の効 力 は一 罪 全 体 に及 ぶ こ と を説 明 す る た め に用 い られ た概 念 で あ る こ とが 確 認 され な けれ ばな らな い。 す な わ ち,旧 刑 訴 法 と は異 な り 「訴 因」 の概 念 が 持 ち込 まれ た 現 行 刑 訴 法 に お いて,な お も旧刑 訴 法 時 代 と 同様 に訴 因 の背 後 に あ る社 会 的 事 実(="公. 訴 事 実"). を審 判 対 象 で あ る と理 解 し,一 罪 の 関 係 に あ る全 体 に訴 訟 係 属 を認 め る と 理 解 す る な らば,公 訴 事 実 の単 一 性 は いわ ば事 件 の ユ ニ ッ トを定 め る もの と して依 然 有 効 な概 念 で あ る と いえ よ う。 もっ と も,現 在 支 配 的 と な っ た訴 因 を 審 判 対 象 と し,訴 訟 内 に お いて 訴 因 の背 後 に あ る何 らか の実 体 を認 めな い との 見 解 を前 提 とす るな らば,公 一119一.

(26) ・ゴ. 近畿大学法学. 第55巻第2号. 訴 事 実 の単 一 性 の意 義 も見 直 され な けれ ば な らな くな った 。 訴 因 審 判 対 象 説 の先 駆 的 論 者 で あ る平 野 は,両 訴 因 間 の 関 係 性 に着 目 し,両 立 又 は 非 両 立 の分 析 か ら,公 訴 事 実 の 単 一 性 を 両 訴 因 が 両 立 す る場 合 の 関 係 性 如 何 に 関 す る問 題 で あ る と捉 え,そ. の 点 に公 訴 事 実 の 単 一 性 概 念 の意 義 を求 め. た。 もっ と も,単 一 性 如 何 に関 す る具 体 的 基 準 は,従 来 の 単 一 性 論 と同 じ く実 体 法 上 の罪 数 論 に従 属 す る もの と され た た め,単 一 性 が 肯 定 され るべ き具 体 的 結 論 に お いて,旧 来 の 公 訴 不 可 分 の 原 則 を 前 提 とす る見 解 との 間 で 差 異 はな い。 そ れ ゆえ,公 訴 事 実 の 単 一 性 論 自体 に 訴 訟 法 上 の 意 義 を 認 め ず,実 体 法 上 の 罪 数 論 か らの 規 整,す な わ ち一 罪 一 訴 因 原 則 の 問 題 と し て 把 握 しよ う とす る見 解 が 生 じた の も,無 理 か らぬ こ とで あ った。 そ れ で もな お,訴 訟 にお け る実 体 形 成 とい う観 点 か らは,公 訴 事 実 の 単 一 性 と狭 義 の 同 一 性 とを 分 析 して 考 察 す る とい う手 法 は ,便 宜 で あ るば か りで な く,相 応 の 意 義 が 認 め られ る もの とい え よ う。 例 え ば,鈴 木 は,同 一 性 が 問 題 と され る 「公 訴 事 実 」 概 念 の 二 元性 に 解 決 を 求 め,単 一 性 が 問 題 と され るべ き 「公 訴 犯 罪 事 実 」 とは,複 数 の訴 因 が成 立 し うる に もか か わ らず,な お も実 体 法 上 の 罪 数 論 か らの一 罪 性,す. な わ ち手 続 の一 回性 が. 求 め られ るべ き概 念 で あ る と理解 す る。 鈴 木 の主 張 す る 具体 的 問題 に 関 す る見 解 は ひ と まず お くと して,公 訴 犯罪 事 実 を罪 数 論 に よ る規 整 で あ る と 捉 え る の で あ れ ば,従 来 の 見 解 との 間 で説 明 の 仕 方 が 異 な っ た に 過 ぎ な い。 しか し,か か る公 訴 犯 罪事 実 は論 理 必 然 的 に罪 数 論 に従 属 す る もの で は な く,一 回 的 解 決 とい う観 点 か ら発展 性 を示 す概 念 で あ る と思 わ れ る。 そ れ ゆ え,仮 に,公 訴 犯 罪事 実 概 念 が実 体 法 上 の罪 数 論 に従 属 す る もの で は な く,訴 訟 法 の観 点 か ら独 自 に決 定 さ れ るべ き もの で あ る とす るな ら ば,公 訴 事 実 の 単 一 性 を 独 自に議 論 す べ き意 味 を見 出 す こ とが で き る の で は な い だ ろ うか。 この 点 は,後 述 で 改 め て検 討 す る。. 一120一.

(27) 「公訴 事 実 の 同一 性 」 概 念 につ い て(3・ 完). 3.狭. 義 の 公 訴 事 実 の 同 一性. (1)裁. 半IJ修 可. (i)基. 本 的 事実 の 同一 性. 一 般 に,裁 判実 務 は,狭 義 の公 訴 事 実 の 同一 性 を判 断 す る に あ た り,い わ ゆ る 「基 本 的事 実 同一 説 」 に立 つ もの と理 解 され て い る。 こ の 同一 性 が 問 わ れ るべ き基 本 的事 実 関係 の対 象 は何 か と い う点 につ いて,裁 判 例 で は 必 ず し も明言 され て い な い が,一 般 に,「犯 罪 を構 成 す る事 実 関 係 の 基 本 た る部 分」⑬,す な わ ち 「法 益 侵 害 な い し結 果 の 同 一 性 ・一 体 性 」働 に 着 目 さ れ て い る と いえ,当 該 事 実 に つ い て 「社 会 通 念 上 同 一 事 実 」(最 決 昭 和25 年6月17日. 刑 集4巻6号1013頁)と. 言 え るか ど うか と い う観 点 か ら検 討 さ. れ て い る。 も っ と も,判 例 が この 基 本 的 事 実 の 同 一 性 を 基 礎 付 け る につ い て,一 般 に,両 訴 因 事 実 の共 通 性 を問 う もの と,両 訴 因 事 実 の 非 両 立 性 を 問 う もの とに分 析 され る と理 解 され て い る。 両 訴 因 事 実 の共 通 性 か ら公 訴 事 実 の 同 一 性 を 基 礎 付 けた もの と して,最 決 昭 和27年10月30日 刑 集6巻9号1122頁(窃. 盗 共 同正 犯 ・盗 品運 搬 罪)は,. 「[本件]事 実 関 係 は 出来 事 の 推 移 につ き多 少 の 異 同 あ るに 止 ま りそ の 同 一 性 を失 わ な い」,最 判 昭和28年5月29日 有 離 脱 物 横 領 罪)は,「[両. 刑 集7巻5号1158頁(詐. 欺 罪 ・占. 事 実 は]犯 罪 の 日時,場 所 に お い て近 接 し,し. か も同 一 財 物,同 一 被 害 者 に対 す るい ず れ も領 得 罪 で あ って,そ の 基 本事 実 関 係 に お いて 異 な る と こ ろ が な い」,最 判 昭和29年8月24日 号1426頁(詐. 欺 罪 ・窃 盗 罪)は,「. 刑 集8巻8. 基 本 的 事 実 関 係 と して は,い ず れ も同. 一 物 件 につ い て 車 票 の 差 換 に よ る不 法 領 得 とい う同 一 行 為 に 関 す る もの で あ って,一 は 所 論 の 日時 場 所 に お け る貨車 の転 送 を も って 窃盗 既 遂 と断 し. ㈱. 田 口(前 掲 注㈲)『 刑 事 訴訟 法』328頁 。. 69)鈴. 木 茂 嗣 「公 訴 事 実 の 同 一 性 」 松 尾 ・井 上 編 『刑 事 訴 訟 法 の争 点 ・第3版 』. 122頁(2002年,有. 斐 閣)。 一121一.

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