氏 名 石井 俊史 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工農博4甲 第 3 号 学 位 授 与 年 月 日 令和2年 3 月 19 日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 Angiopoietin-Like Protein 2 Promotes the Progression of Diabetic Kidney Disease
(Angiopoietin-Like Protein 2 は糖尿病性腎臓病の進展を促進す る) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 井上 克枝 委 員 准教授 三井 貴彦 委 員 講 師 櫻田 庸一
学位論文内容の要旨
【 目 的 】 糖 尿 病 性 腎 臓 病 ( DKD) は , 末 期 腎 不 全 や 早 期 死 亡 の 原 因 と な る . DKDは 進 行 性 の 蛋 白 尿 と 間 質 線 維化 を 来し ,腎機 能 を 低下 さ せる .糸球 体 上 皮細 胞( ポ ドサイ ト )は 足 突起 に ある i ntegrin complexを 介 し て 糸 球 体 基 底 膜 を 覆 っ て い る . DKDで は 選 択 的 な ポ ド サ イ ト の 脱 落 を 来 す こ と が 知 ら れ て お り , 病 態 の 解 明 が 進 め ら れ て い る . Angiopoietin-like protein 2 ( ANGPTL2)は,血管内 皮 細 胞,脂肪 細 胞,マ ク ロ ファ ー ジか ら 産生 さ れ る炎 症 前駆 蛋 白 で あ る . 生 活 習 慣 病 を 背 景 と す る 慢 性 炎 症 に よ り 血 管 内 皮 細 胞 で の 産 生 が 増 加 し , 血 中 濃 度 が 上 昇す る こと が 知ら れ て いる .森 永ら は,一 側 尿 管結 紮 によ る腎 障 害 モデ ル にお い て A NGPTL2欠 損 マ ウス で は腎 線 維 化が 改 善さ れ るこ と を 報告 し てい る .本 研 究 では ,DKDに お い て ANGPTL2の 発 現 が誘 導さ れ る メカ ニ ズム と ,産 生 さ れた ANGPTL2の ポド サ イ トへ の 作用 を i n vitroで 解 析 し,糖 尿病 に お ける 腎 機能 障 害進 展 を 予測 す るバ イ オマ ー カ ーと し ての 血 中 ANGPTL2値 の 有 用 性を 検討 し た . 【 方 法 】 はじめに横断研究および後ろ向きコホート研究を行った.横断研究は石和温泉病院クアハウス石和に おける健康診断受診者を,コホート研究では2005 年から 2007 年に山梨大学附属病院内分泌,腎臓 内科で通院治療を行った患者を対象とした.コホート研究におけるプライマリーエンドポイントは, DKD 進展とした.血中 ANGPTL2 濃度はヒト ANGPTL2 ELISA キットにより測定した.アルブミ ン尿によって,normal ACR(<30mg/g Cr),microalbuminuria(30-300mg/g Cr),macroalbuminuria(>300mg/g Cr)に分類した.また,ANGPTL2 発現制御メカニズムの検討と して,コホート研究対象患者の末梢血由来の単球を用いてバイサルフェイトシーケンス法によって
DNA メチル化の解析を行った.さらにマウスポドサイトを用い,リコンビナント ANGPTL2 投与下 におけるポドサイト障害のメカニズムを解析した.
【 結 果 】
石 和 温 泉病 院 クア ハ ウス 石 和 にお け る健 康 診断 受 診 者 220名 を 調査 した と こ ろ ,血中 ANGPTL 2レ ベ ル 高 値の 受 診者 では ウ エ スト 周 囲径 ,BMI,HOMA-IR,糖 尿 病罹 患歴 ,Fib-4 index( 肝 線 維 化 マー カ ー )は 有意 に 高 く ,HDLや eGFRは低 い 傾 向が み られ た .バ イ サ ルフ ァ イト シ ー ケ ン ス 解析 に よる 50人 の 糖 尿 病患 者 の末 梢 血単 球 で は ,Angptl2プ ロ モ ー タ ー領 域 に あ る Cp G配 列 の 2か 所 の DNAメ チ ル 化 を 認 め , メ チ ル 化 レ ベ ル の 低 い 患 者 で は , 血 中 ANGPTL2レ ベル が 高 か った .一方 で ,Angptl2プ ロ モー タ ー上 流に は イ ンス リ ン感 受 性領 域 が 存在 し てお り, イ ン ス リン は 脱メ チ ル化 に よ る Angptl2mRNA発 現 増 加 を抑 制 した .後ろ 向 き コホ ー ト研 究 で は , 145人 の 患 者 を 対 象 に , 観 察 期 間 中 央 値 7.1年 の 観 察 を 行 っ た . normal ACRで 23/82人 , microalbuminuriaで 14/37人 , macroalbuminuriaで 16/26人 の 腎 症 進 展 を 認 め た . 多 変 量 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 に よ っ て , ANGPTL2は DKD進 展 の 独 立 し た マ ー カ ー で あ っ た . マ ウ ス ポ ド サ イ ト に , 0.3か ら 1.0µg/mLの リ コ ン ビ ナ ン ト ANGPTL2を 投 与 す る と , 濃 度 依 存 性 に ア ル ブ ミ ン 透 過 性 の 亢 進 を 認 め た . ANGPTL2の レ セ プ タ ー と さ れ る integrin-α 5β 1に 対 す る 抗 体 に よっ て ,ANGPTL2に よ る アル ブ ミン 透 過性 亢 進 は抑 制 され た .共 焦 点 顕微 鏡 によ る 観 察 に よ り,ANGPTL2投 与下 で は tight junctionを 構 成 する 蛋 白で あ る ZO-1の 細 胞 質内 へ の局 在 変 化 を 認 め た . FAKイ ン ヒ ビ タ ー を 投 与 す る こ と で , ANGPTL2に よ る ア ル ブ ミ ン 透 過 性 亢 進 が 抑 制さ れ た.
【 考 察 】
本 研 究 では ,肥 満 やイン ス リ ン抵 抗 性患 者 にお い て 血中 ANGPTL2レ ベル が 増 加し て いる こ と, 末 梢 血 単 球 に お け る Angptl2プ ロ モ ー タ ー 領 域 の DNAメ チ ル 化 の 割 合 が ANGPTL2濃 度 に 相 関 す る こ とを 示 した .ANGPTL2蛋 白 の 発 現は エ ピジ ェ ネ ティ ク な制 御 を受 け ,慢 性炎 症 やイ ン ス リ ン 抵抗 性 を合 併 する 糖 尿 病性 腎 症で は ,プ ロ モ ータ ー が脱 メ チル 化 さ れ発 現 が増 加 し, 血 中 濃 度が 増 加し て いる と 考 えら れ る .ま た,ポ ド サ イト に おい て ANGPTL2が integrin-α 5 β 1に 結 合 し , FAK活 性 化 に よ る 細 胞 内 骨 格 蛋 白 ZO-1の 局 在 変 化 を 来 し , ア ル ブ ミ ン 透 過 性 を 亢 進 させ る こと を 示し た .こ れら の 結果 から ,ANGPTL2が 直 接 ポドサ イ ト に作 用 し ,糖 尿 病 患 者 の ア ル ブ ミ ン 尿 進 展 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ る . ANGPTL2は , DKD悪 化 を 予 測 す る バ イ オ マー カ ーと し ての 有 用 性に 加 えて , 新規 の 治 療標 的 にな り うる こ と が示 唆 され た . 【 結 論 】 ANGPTL2は 直 接 的 にポ ドサ イ ト 機能 不 全に 関 与し ,DKD進 展 の 独立 し たマ ー カ ーと な りう る.
論文審査結果の要旨
1. 学位論文研究テーマの学術的意義 糖尿病性腎症による透析導入患者は最近まで増加の一途をたどり、近年我が国の医療費の4%を占めるまでとなっている。糖尿病性腎症の予防は重要な課題である。本研究では、Angptl2 と いうangiopoietin 類似蛋白の、糖尿病性腎症進展における役割を、患者検体での検討から、in vitro 研 究まで一貫して行い、Angptl2 をターゲットとした糖尿病性腎症の治療法や、血中 Angptl2 濃度測定 により腎症発症の予測マーカーとなる可能性を示した。またAngptl2 は、これまで尿細管上皮に作用 して腎硬化を促進することが報告されているが、糸球体内構造に対する作用は不明であった。以上よ り、本研究は糖尿病性腎症の予防や発症予測マーカーの開発に寄与する可能性を秘めた臨床的意義の ある研究であると同時に、腎症発症の病態生理の一端を解明した基礎的に意義のある研究でもある。 2. 学位論文及び研究の争点,問題点,疑問点,新しい視点等 糖尿病(DM)/糖尿病性腎臓病(DKD)患者 145 人を Normal ACR(尿中アルブミン 30 mg/gCr 未満), microalbuminuria(30 ~ 300), macroalbuminuria(300 <)の 3 群に分類し、中 央値7 年間追跡し、DKD の進展(Cre 当たり尿中アルブミンの段階の進行)を検討した。それぞれ、 28%, 37.8%, 61.5%の患者で進行したが、DM 罹病期間と Angptl2 が独立した DKD 進展の危険因子 であった。 DM 患者由来単球やポドサイト細胞株、リコンビナント Angptl2 を用いた in vitro 実験で、 Angptl2 が DKD を進行させる機序を検討し、以下の機序を提唱した。高血糖などにより Angptl2 プロモーターサイトが脱メチル化(インスリンで脱メチル化が抑制される)⇒ 転写因子 FOXO1 がAngptl2 プロモーター内の insulin-responsive element (IRE) 領域に結合⇒ Angptl2 発現増加 ⇒ Angptl2 がポドサイトの integrin alpha5 beta1 に結合⇒ FAK チロシンリン酸化生じる⇒ ZO-1 が細胞膜から細胞質に移動⇒ スリット膜の構造が破壊されアルブミン尿が上昇する。 以上、臨床的、基礎的なデータの裏付けをもって、Angptl2 が DKD を進行させる原因であ る可能性が示され、その機序の一端が明らかとなった。 3. 実験及びデータの信頼性 臨床データはややサンプルサイズが小さいが、きちんと統計的な裏付けがなされている。ま た、細胞を用いたin vitro 実験も信頼に足ると考えられた。 4. 学位論文の改善点、等々
本論文はすでに、Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism に受理されており、本文の 改訂の要求は行われなかった。