乳癌の骨髄韓四移による特磯蟹性骨折
東京女子醤學專門學校外科教室︵主任淺見教授︶武 田 榮 久
子
135 一般に血行性の癌轄移は淋巴系統によるものに比し稀ではあるが肺臓、肝臓に來る事最も多く、骨系統へ の癌轄移も叉之れによると云はれて居る。 外國にては閃8甕乙σ・憂暮冨氏其他の報告によるに骨轄移替の原黄塵として最も多く見らる\ものは擁護線 癌腫にして六六・六%、衣に乳癌の五二・三%ついで直腸癌︵一〇。五%︶食道癌︵六・九%︶子宮癌︵五・〇三%︶ 腎癌︵二・五%︶の順位なりとす。而して其の轄移部位として脊万骨次に大腿骨、骨盤、肋骨、胸骨、上臆骨、 扁卒頭蓋骨、下腿骨、前搏骨の順なりと云ふも我國に於ける骨轄移癌の記載例は未だ其藪多しとせす。私最 近乳癌の切痛手術後に於ける骨系統の著明なる面前並びに骨折を起せし一例に灌曝せるにより絃に報告し諸 家の御教示を仰がんとす。 實験例 患者 宮○や〇 六十五歳 女 入院當時の主訴 一、右側脊部に於ける疹痛 武田口乳癌の骨髄韓移による特獲性骨折 第三巻 一三五136 武田ほ而孔癌の骨晶髄麟⋮移による特獲性骨折 第三巻 一三六 二、左大腿部の疹痛及び歩行障碍 家庭歴 爾親は背嚢にて下れ、兄弟は六人なりしも総て死亡し中一入は騰盗血なりしと云ふも他は死因不 明、夫は踏盗血で死し、子供三人は皆生後問もなく死亡せりと、癌の唇面は認められす。 既往歴 幼時より健康にして四十五歳の時子宮に極る腫瘍を生じ手術をうけし他著録なかうしと。 現症の登病及び経過 昭和六年五月頃より左乳房内に示指頭大の腿痛並びに自登痛な硬き腫物を認め次第に増大する傾向を示 す。 昭和七年五月頃に至り其の部の皮膚少し一褐赤色を帯び間もなく其の中央部に小なる潰瘍を形成す、六月 初め腫物は既に鶉卵大に干し同時に輕度の疹痛を謂えるに至れり。六月十六日我等の外來を訪つれ帥日入院、 十八日乳癌の診断の下に乳房切噺術を施行す、其の際腋窩淋巴腺の轄移すでに栂指頭大を超・へ且つ腋窩静賑 との癒着強なりし痛め僅に其の一部を切除せしのみなり、切断せられし腫瘍は粗織的には硬性癌なり。 其の後憂過良好にして六月廿入日全治退院せしも 當時左上搏の墨上総動僅に害せられ把るを認む。 七月四日頃より左大腿部に歩行時の疹痛を訴へ時と共に増強する傾向を示し省同月廿五日より更に右脊部 及び腰部に時々疹痛を畳えるに至れり。 八月廿五日由り全く歩行不能となりしが左脚の蓮動は疹痛を訴へつ、も街可能なりしと云ふ。疹痛漸次増 張し爲めに睡眠妨げらる、に及び九月十九日再び入院す。 當時の所見 膿格小、榮食不良、かなり醸痩し、皮膚蒼白、且つ少しく乾燥域あり、意織明瞭、顔貌少々苦櫛を帯び、
137 版搏七十五、整緊張大さ殆ど正常、舌は少しく乾燥し舌苔なし、胸腹部には、異常を認めす。 局所症歌としては膿位凝換非常に困難なる黒め詳細に即するを得ざりしも項部に於ける耳痛有り頭部を僅 かに基げ得るのみにて其の際頭重威を訴ふ、頸椎に曙痛あり。右屠獣に於て第入i第九肋骨に相當する附近 にも疹痛並びに塵痛存するも此等の部に何等の凝化を認めす。左大腿骨の上興部の深部に於ける強き屡痛存 するも外見上の攣化なし、左側股鮪節及び膝關節の運動障碍は認められす、爾側の膝蓋随反射は少し一賜き のみ、他に病的反射を見す、左上謄には築き浮腫を認めπるも墜痛なし、左腕の墨上野動黒く妨げらる。左 腋窩より同側の側胸部にかけて長き腫脹及び歴痛存在す、倫其の腋窩部に凡そ示指頭大の非常に硬き淋巴腺 腫脹を鯛る。 入院以來封戸療法として鎮痛測の投與及び﹁プロカノン﹂の静脹内注射を行ひ局部には器法を施しπるも何 等其の効認められす。 九月廿五日夜より左大腿部の影壁急にその度を増し左下肢の運動難く不能となり且つ又僅かに持ち基げ得 πる腰が此の時より全く動かし得ざるに至る、よって之を直するに、左脚の短縮著明且つ極度に内轄位を取 ク少しく尖足業を示せり、左大腿の上三分の一は非常に太一なり其の部.の上三分の一と中三分の一との境の 邊.で強く内方に屈曲し持に舌痛強く其人に骨折皆様のものを論る、も骨の肥厚、捻髪昔等は謹明し得す、皮 膚には何等の異常を認め得す、 大腿の長さ、右四〇。五糎 左、三入・五糎。 下腿の長さ、爾⋮側土ハ同じく三〇。0糎﹁レントゲン﹂槍査に依り大腿骨の上三分の一は殆んど全部斑鮎歌に なり、しかも蜂窩様に配列せる澄明部を以て満され其の中央部は恰も引きちぎられし如くに骨組織清失せる 武田H乳癌の骨髄韓移による特議性骨折 第三国 一三七
13g 武田n乳癌の骨髄轄移による特獲性骨折 第三巻 =二八 を認む、帥ち大腿骨轄移癌による骨折の特有なる像を示せるものなり。 其れ故副木繍帯を施し詑るに艀臨時には殆んドζ疹痛を訴へざbしも少しく動作を加ふる時は強き疹痛を惹 起せり、益身歌語次第に悪く、九月廿八日には左脚の短縮及び内轄更に著明となり、大腿部は一暦太さを増 し且つ轡曲の度を強め︵約百二〇度位に屈曲す︶其の部の筋肉は非常に萎縮し骨折端をよく鯛れる、屡痛ま す/、ひどく大腿の長さは三五糎の短縮を示せり,杢身極度に臓斉し衰弱次第に加はり十月十一日よう、全 く飲食物を囁らす、黄色の血膿を時々嘔吐す、意識次第に不明瞭となウ嗜眠状態を呈するに至る。 十三日より輕度の咳圃時々あり此の頃より右下に出て時々摩擦昔を聞く事ありたるも濁音は鐙明一得す、 且つ叉打診時に当て益胸部に眼痛を訴ふるもの、如し、十八日頃より鷹野も不確實となり杢身状態一層陰悪、 賑搏も少しく微賜となれり。 十九日より左前腋窩線上で第四肋骨の部と左乳線で笛三肋骨の邊に各一個宛の小指頭大位の硬き皮膚轄移 を、畿見す、爾叉右第三肋骨の部少しく階没し腿痛特に甚しき如し。 廿日全く昏睡状態に照り賑搏不整、あまり頻数ならざりしも非常に微弱となり骨百即ち乳房切噺術後凡 そ四ヶ月にて遽に鬼籍に入る。 解剖的所見 強度に痩創せる女性屍にして膿格小なク。全身に輕度の浮腫あり。皮膚蒼自。黄疽は認められす。 右側乳房は萎縮し左側乳房は手術的に切除せられ腋窩に至る約二〇糎の疲痕あり。 左側大腿は股關節の部に於て外方に突出し、右側下肢に比し約三糎短縮す。且左側下肢の筋肉は右側に比 し萎縮せり。頭蓋骨及硬麟膜内面には麩化なし。蒼黒量一三三〇琵。頬側旛孕球は封等、縫隔資静臓には血
139. 栓なし。軟隅膜は血腫性、右側後頭葉の部分に出血あう。爾側石階腱の出血めり。旛底には二化なし。中大 磯動脹及踏底血管の震幅あり。小粋軟膜浄腫性、地幅断に於て雨前鑑室は輕度に面罵す。﹁エペンヂユーム﹂ の獲化なし。街菱形窩の出血、モンロー氏孔の擾張あう、麟内に癌腫轄暇なし。 胸部 切割するに皮下脂肪組織約一糎、深黄色を呈す。左側第三一第五肋骨の表面に於て癩痕形成あり、 此部を切割するに粟粒大友自色の結節あるも腫瘍組織なし。此前の皮膚に小結節状の風師あう。街腋窩に硬 き多数の大豆大の散在性韓移あり。 第二肋骨乳線上に於て母指頭大の腫瘍胸廓の内面に突出せり。右側第三肋骨は胸骨より約五糎の部位に於 て自然骨折あり。爲めに論稿す。第三肋問は約三画面りて、第四肋骨第五肋骨は重なりπる如く見ゆ。 胸骨は言動性にして、第三−第五肋骨の高さに於ては次自色の腫瘍組織より成り骨質は全く溝失せり。 胸腺は既に脂肪攣性せり。 縦隔餐淋巴腺には腫瘍の轄移なし。 肺臓 左側癒着なし。左肺は多少容積の増加あう。肺肋膜は滑澤にして﹁チアノーゼ﹂あう。硬度増加す。 割面にて僅かに浄腫及欝血あり。下葉の膨脹不絡めるも肺炎竃なし。右側は杢く胸廓と癒着し肺肋膜は繊維 性、割面に於て浄腫あり。 心臓 心嚢液減少す。心嚢内面には凝化なし。心臓は普通より大にして、右室は三度に籏張す。心筋の褐 色萎縮認めらる。辮膜の硬愛あるも閉塞二恩なし。心内膜凝血なし。大動脈起始部は嚢状に弓張し此の部の 動脈巾は約一〇糎を算す。内面に多歎の電縫板及﹁アテローム﹂雨性あり。 肝臓 表面微細穎潜血にして落縁鋭にして萎縮あり、硬度軟、割面に於て一般に混濁及脂肪浸潤あり。肝 武田11乳癌の骨髄韓移による特獲性骨折 第三巻 一三九
ユ40 武田闘乳癌の骨髄鯨一移による特叢性骨折 第三巻 一四〇 被膜の輕度の肥厚及問質の増殖認めらる。 脾臓 八×七×権幕僅に小にして硬度増加せり。割面に於て髄骨の輕度の増加及淋巴濾胸脾材は著明に見 らる。 腎臓 右側一〇×六×四竃、軟にして被膜剥離は容易なり。表面は不卒なる疲痕性陥凹あり。割面に於て 皮質は非常に不規則にして疲痕様陥凹部に相博する部は皮質の登下消失せる所あり。 左側一〇×五×三面、硬度軟にして被膜は容易に剥離し得。右側に比し爾高度の疲痕様萎縮あり。皮質髄 質共に非常に侠にして腎孟高度に籏張す。 副腎髄質登育良好にして皮質﹁リポイド﹂多し。 胃 腸管の如くに萎縮し内腔は謄汁によりて浸潤され把る粘液僅に存し.食物の残渣なし。潰瘍を認めす。 粘膜浮腫性にして黄緑色の粘液にて被はる。 腸管 粘膜は俘腫性、潰瘍を認めす。 子宮 小筋腫あり、テ宮内膜に高度の出血あり。 脊椎 頸椎棘歌突起は全部に煮て侵され、全く易動性にして且容易に切断せらる。割面に於て全く腫瘍組 織を以て浸潤せらる。頸椎以下第七胸椎まで腫瘍⋮組織の浸潤を認めらる。 左側大腿骨 大韓子より約七糎下方に於て自然骨折あわ。骨折端は不正、鋸歯状を呈す、此部の骨髄は全 く腫瘍組織を以て充され、術之は骨膜を通して筋肉内に迄浸潤す。周園の筋肉内には出血ありて骨折端を鯛 れる事を得。 解刻的診断 一、乳癌の再螢、二、骨破壊性癌の廣汎なる骨性轄移︵胸骨、肋骨、頸椎、胸椎、左大腿骨
141 々折︶三、心筋の褐色萎縮、四、心肺下葉の浮腫及欝血。五、右側の繊維性癒着性肋膜炎、六、繊維性肝被 膜炎及肝問質増殖、七、脾臓濾胞の萎縮、入、動脈糧嚢性萎縮腎、九、腸管加答留、十、子宮筋腫及子宮卒 申十一、騰の浮腫、十二、儀餓による三水血症、十三、全身の輕度の浄腫、十四、薦骨部の褥創 組織的所見、肉眼的に轄移を認められ記る脊椎骨、胸骨、肋骨、左側大腿は殆ど同様なる組織的所見を示 しπるを以て一括して述べんとす。脱走を要せすして﹁ッ舌ロィヂン﹂切片を調製し、﹁ヘマトキシリン、エ オヂン﹂染色にて観察せり。 一部輩純癌の像を示すも大部分は硬性癌にして即ち萎縮せる癌索は細胞多き繊維性問質の問に存す。骨髄 は全く消失し、癌組織を以て充さる。骨質は窩歌に吸牧せられ或は吸牧縁選一なるあり僅かに残れる骨粗織 は愁嘆状に散在す。骨質の吸牧には直接癌細胞の緩緩せるを認めらる㌧所もあるも懸樋吸牧部には多く軍挾 にして小なる紡維奉職を有する細胞の横はれるもの多し。細石友璽類が次第に章章せられて骨様組織となり だる部分が癌の間質内に介在す。其の部は﹁エオヂン﹂にて染まる骨梁を見る事を得。骨膜にも癌細胞の浸潤 性磯育あり。 大腿骨骨折部の筋肉には出血及び蝋様凝性あり。 心筋、褐色萎縮 肺臓、浮腫、小毛細血管の欝血等張及び肺胞の膨脹不全あり。 肝臓 一般に脂肪沈着及び欝血あり。 間質の増殖及び肝被膜の肥厚あり。之の部に日本住血吸鹸卵あ︶。術血管の硬愛あり。 肝細胞の褐色萎縮あり。 武田口阿鼻癌の骨一髄晶響覇移に、,帆る牌嚢性骨一折 第∼三巻 一四一
42 武田”乳癌の骨髄韓移による特獲性骨折 第三雀 一四二 脾臓 欝血あり。淋巴濾胞は一般に退縮す。中心動脈及淋巴濾胞の硝子様凝性あり。脾材増加す。 腎臓 血管の硬憂著名、糸球膿硝子様磁性は殆どない、細尿管の萎縮懸樋張、問質の増殖あり。間質には 一般に欝血あり。 胃腸 胃粘膜に間質結締織の増殖あり。其部に元形細胞の浸潤及欝血めり。淋巴嘘胞の硝子檬罎性あり。 粘膜下結締織の小血管の地響あり。廻腸結腸に於て日本住血吸懸樋あり。 子宮 萎縮性子宮内膜炎、内膜部の高度の出血、小血管の著名なる硬攣筋腫。 考案 骨系統の轄移癌は臨床上之を旺別し、其の第一型は圭として四肢の管歌骨に登生する轄移癌にして僅少な る外力により特登性骨折を起すもの。 第二型は圭に躯幹骨を侵し種々の障碍に加へて慢性癌腫性の骨肥厚を認むるもの、との分類あり。 本例に於ては此の爾型相隣って居るもの\如くなるも之を病雁によりて見るに先づ管歌骨を侵しついで躯 幹骨に及びしものと思はる。 而して其の原登竈としては勿論乳癌を基ぐべきなれども此の例は既に完登に切断せられて居る故當時切除 し残されたる腋窩淋己七番移が第二の原登呂とも云ふべき役割をなし此の癌細胞がそれに癒着せる血管壁を 侵し血行内に入り途に骨髄内に浸入し把る堅め乳房切断後比較的早期にすでに廣汎なる骨轄移を起せるもの と推察す。 骨髄轄移癌に於ての骨の憂化に就きては種々論せられて居るも大骨次の如し。 帥ち癌細胞は骨を浸蝕破潰し之が吸牧を促がすと同時に一方又骨組織を刺戟し再生機甲を起きしめ之によ
.2励. vね国国 .t.D・.
M
耀旧臣..曜マヤ
勧
解
夢. 親‘ 翁.預謎 .鴨㌦,㌔ ,塾瀦 . ﹂ 、 E, 廉 ン4 、詩魂難
轍諾欝
劉三論譲 ↑ ..螂 r ∼羨鵯翻
’、 “雛.動.襯
墾』.
瀞莇忌鼠鉱蛭、」訟.二 {L4, 武 田 論 文 附 圖 乳癌の骨髄韓移による左大腿骨特螢骨折り假骨形成を見ると云ふ。 而して其の性質により骨破壊性癌と骨形成癌とに匿別さる。 本例の肉眼的に轄移を認めわ凡る脊椎骨、左大腿骨、胸骨、肋骨につき組織的に之を楡したるに何れも骨髄 は杢く消失し、癌組織を以て満され、骨質は大部分窩歌に吸牧され僅かに残りし骨組織は嶋喚歌に散在す、 樹石次臨皿の吸牧せられて骨様組織となうたる部もあり、叉骨質の吸牧に直接癌細胞の墾加せるあり、骨膜に も癌細胞の浸潤性瑳育あり、帥ち骨破壊性癌にして骨形成像を即せす。 以上により何等骨に肥厚其他の憂化をみとめす、特登性骨折を以て初めて注意せらる㌦に至りし理由も首 肯せらるべし。 臨床上、自然骨折、短骨の慢性腫脹及び共の塵迫症状、原因不明の疹痛あり、既往歴及び現症に癌叉は其 の疑ある時は癌の骨轄移を疑・湖べきなりとの記載あるに鑑み、本例に於ての既往症、自然骨折、原因不明の 疹痛等剖見上より省一層之の論に一致するものなるを知る。 墨筆に臨みて御懇篤なる御指導御校閲を賜り懐しπ淺見先生、[、レントゲン﹂及び病理の諸先生に厚く戚謝 の意を表す。 143 武田11乳癌の骨髄軸移による特聚性骨折 第三巷 四三