Title
子宮内膜癌の浸潤・転移における性ステロイドによる内分
泌関与とその臨床的意義( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
市古, 哲
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学)甲 第340号
Issue Date
1997-03-25
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/14786
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏名 (本籍) 学位の種類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与の要件 学位論文題目 審 査 委 員 市
古
哲(愛知県) 博士(医学)
甲第 340 号 平成 9年
3 月 25 日学位規則第4条第1項該当
子宮内腹痛の浸潤・転移における性ステロイドによる内分泌関与と
その臨床的意義
(主査)教授 玉舎
輝 彦
(副査)教授森
秀
樹
教授 岡野
幸
雄
輪 文 内 容 の 要 旨一掛こ知られているように,女性生殖器の機能は.主に性ステロイドであるエストロゲン,プロゲス≠ロンに
よって調節されている。女性生殖器に由来する婦人科癌の発育・増殖にもこの性ステロイドが関与していること がある。したがって,性ステロイドが婦人科癌の浸潤および転移に,どのように関連しているか.また,このことと関係し,治療た対してもどのように関連しているかという点が着眼すべき点として浮かび上がっている。
癌の浸潤・転移には多くのステップがある。すなわち,最初に原発巣から癌細胞が遊離し,ついで周辺組織や 脈菅へ浸潤し.脈管内を移動後,脈管外へ遊出する。その結果,癌細胞は遠隔組織へ接着,浸潤し,そこに転移 する。そして,そこには周辺組織から癌細胞への血管新生が必要である。 そこでまず,婦人科癌.特に子宮内膜癌の浸潤・転移の種々のステップに対する各々の現象をモデル化し.性 ステロイドの関与を検討した。すなわち,癌細胞間の接着能を癌細胞の凝集能やカドヘリン/カテニンmRNA の発動こよ?て,癌細胞の浸潤能を再構築した基底膜,問質,血管.腹膜によって,癌細胞の血管新生能を FGF活性,FGFmRNAの発現,plasminogenactivatorinhibitor-1(PAI-1)の発現(mRNA/蛋白)によって 臨床検体および培養細胞株において検討した。 研究方法 1)検体の研究への供与に了解が得られた子宮内膜癌の患者26人(46-69歳).子宮頚癌の患者28人(39-75歳),卵 巣癌の患者21人(36-68歳)から癌組織を得て,また正常月経周期を有する子宮筋腫の婦人30人(32-45歳)から.正 常子宮内膜および正常子宮頚部を得た。 2)培養細胞は.子宮内膜癌由来のIshikawa細胞.HHUA細胞.HEC-l-A細胞.AN3CA細胞,正常子宮内膜由 来の繚維芽細胞,子宮頚癌由来のHeL細胞,MS751細胞,じ33A細胞,正常子宮頚部由来の線維芽細胞.卵巣 癌由来のCaov-3細胞.SK-0V-3細胞,MCAS細胞を使用した。 性ステロイドおよび他の薬剤を添加する48時間前には,フェノールレッドおよびFBSは含まない状態で培養し た。 3)湿重量10-20mgの組織および細胞をHG緩衝液中でポリトロンホモゲナイザ一にてホモゲナイズした。 この懸濁液を12,000rpmで3分間遠沈し,核分画を除去し,この上清を試料とした。試料の蛋白濃度はBradford法で測定した。Plasminogem activatorinhibitor(PAI)-1の量は,TintElize kit,塩基性fibroblast growth
factor(FGF)の量は.Biotrakを用いてELISAにて測定した。 4)湿重量50-100mgの組織または細胞から,グアニジンーアシドフェノール法にて総RNAを抽出しこのうち1〟1 のRNAを.1.2%アガロース・ゲルで電気泳動して,RNAの質と皇を確認した。 5)総RNA3FLgとrandom hexamer50ngで容量が12FLlとなるように調整し.PCRのテンプレートを得た。 PCRは,総容量100FElで施行した。それぞれ増幅されたDNAの量的評価のため同時にハウス・キーピング遺伝 子であるglyceraldehyde-3-Phosphatedehydrogenase[GAPDH]を増幅した。 6)PCR産物を1.2%アガロース・ゲルで電気泳動し,ethidium bromide染色にてPCR産物の大きさと量を確認 した。さらに,電気泳動で分離されたアガロース内のPCR産物をキャピラリー・トランスファー法で
Immobilon-S transfer membrane上に移行させ.ビオチン化されたブロープでハイプリダイズし蛍光を発光さ
せ,これにⅩ線フイルムを密着させ10分間露光した。検出した特異的バンドの強さはデンシトメータで測定した。 7)癌細胞間の接着能を,癌細胞の凝集能で解析した。癌細胞を1mM CaC12と0.01%トリプシンで処理し.単離
細胞にした。単離細胞(1.5XlO5cell/well)をl%のアルブミンで処直した24穴のプレートで60分間」80rpmで振
遣培養した。このとき再び癌細胞の凝集塊が生じれば,アドヘレンスジャンクションの機能が回復していると考 えられる。元の単離細胞数に対する生じた凝集塊数と残存した単離細胞数の和の比が凝集インデックスである。 このインデックスにて癌細胞凝集能を評価した。 8)ポイデン・チャンバーのフィルターの上面にcollagen typeIVを混入したEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)腫 瘍抽出液を塗布して再構築した基底膜を作成した。また,対照正常組織からえられた線維芽細胞をフィルターの-37-上面に敷き詰め・CollagentypeIVを混入したEHS腫瘍抽出液をフィルターの下面に塗布して再構築した問質 を・さらに一 ウシ頚動脈内皮由来のHH細胞をフィルターの上面に敷き詰め.CollagentypeIVを混入したEHS 腫瘍抽出液をフィルターの下面に塗布して竿構築した血管を.また.ラット胸膜由来の4/4RM-4細胞をフィル タ,の上面に敷き詰め,Co11agentypeIVを混入したEHS腫尉由出液をフィルターの下面に塗布して再構築し た腹膜を作成した。チャンバー内の培地(フェノールレッド.FBSを含まない)に性ステロイドを添加し,チャ ンバ,に単離した癌細胞(2-5Ⅹ104/chamber)を播いた。それぞれの細胞のもっ浸潤能に応じて.癌細胞はこの 膜を通過し下面に至たる。この通過した癌細胞数を数えることによって癌細胞の基底膜や問質への浸潤能および それにおよばす性ステロイドの影響を評価した。 これらの現象に関わっているシグナルの一つで内分泌関与が強いのは,Plasminogen activatorinhibit。,_1 (PAI-1)である0そこで・子宮内膜癌でのPAI-1発現をELISAで,そのmRNAの発現をRT-PCR-サザンプット法 でtそれぞれの正常組織を対照にして検討した。さらに最も内分泌関与のある子宮内膜癌細胞でのこれらの発現 を子宮内膜由来の繰維芽細胞を対象として検討した。 9)癌組織を紬切してt単離細胞にした0この単離細胞(105cell/ml)を二重寒天培地で約3週間培養すると癌細胞 のみコロニーをつくる0このとき性ステロイドを添加後できたコロニー数を数えて,この癌細胞の増殖が性ステ ロイドによって(コントロールに比して30%)抑制できるかどうかを検討した。このコロニーを回収し,ポリト ロンホモゲナイザ一にてホモゲナイズし・0・22FLmMillex-GVfilterで濾過した0この濾過液(最終濃度:5mg 湿重量/ml)を線維芽細胞であるBALB/3T3クローンA31細胞(FGF刺激により増殖する細胞)の培地に加え て,その増殖に及ぼす影響からFGF活性のバイオアッセイをした。 血管新生に関わっている主なシグナルの一つは・FGFファミリーである0そのなかでどのシグナルが最も本 質的に関わっているか知るために,invivoで血管新性能のある酸性FGF(FGF-1),塩基性FGF(FGF-2),hst_1 蛋白(FGF-4)のmRNAの発現をRT-PCR-サザンプロット法で検討した0次に,子宮内膜癌,子宮頚癌,卵巣癌 組織での塩基性FGF発現をELISAで・そのmRNAの発現をRT-PCR-ifザンプロット法で,それぞれの正常組織 を対照にして検討した0さらに最も内分泌関与のある子宮内膜癌細胞でこれらの発現を子宮内膜由来の緑維芽細 胞を対照として検討した。 結 果 婦人科癌特に子宮内膜癌の転移の主なステップに対する性ステロイドの関与を検討した。 1)アドヘレンスジャンクションを構成するE-カドヘリン・aおよびβカテニン(mRNA)は臨床的悪性度が増 すほど低下傾向を示し-接着能が低下すると考えられる○高分化型子宮内膜癌細胞(Ishikawa)の細胞間接着 能やE-カドヘリン・aおよぴβカテニン(mRNA)は,エストラジオールー17βで低下し,この低下は,プロゲ ステロンならびに酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)で抑制しえた。 2)高分化型子宮内膜癌細胞(Ishikawa)の基底膜および問質への浸潤能は,エストロゲンで元進し,この浸潤 能の元進はプロゲステロンならびにプロゲスチンで抑制された○浸潤の抑制に働くPAト1の発現は,臨床子宮内 膜癌では抑制されていてt一方高分化型子宮内膜癌細胞(Ishikawa)ではエストロゲンによって誘導され,さ らにプロゲステロンを作用させると相乗的に誘導されるoPAの発現がPAI-1の発現以上に性ステロイドで誘導 されるならば.結果的に浸潤が元進することになると考えられる。 3)癌細胞による血管新生能(FGF活性)と関連し・婦人科癌,特に子宮内膜癌では塩基性FGF(mRNA)は悪 性度が増すはど発現が増加し,血管新生能が増加していると考えられた。 分化型子宮内膜癌細胞(Ishikawa)に対しては・プロゲステロン,MPAがエストロゲンによる塩基性FGF分 泌を抑制し・また低分化型子宮内膜癌細胞(AN3CA)に対してはt TNP-470がエストロゲンの有無にかかわら ず塩基性FGFの分泌を抑制するのでtこれらの併用療法はt子宮内膜癌の血管新生能を効率よく抑制すると考 えられる。 婦人科癌・特に子宮内膜癌において・エストロゲンは●浸潤,転移に関して促進的に作用し,抗エストロゲン 作用をもつプロゲステロンやプロゲスチンはt抗増殖効果とは別に,エストロゲンによって誘導された浸潤,転 移能を打ち消す働きをすると考えられる。 論文審査の結果の要旨 申請者市古 哲はt婦人科癌・特に子宮内膜癌の浸潤・転移における性ステロイドによる内分泌関与につい て・アドヘレンスジャンクションを構成するE-カドヘリン・aおよびβカテニン(mRNA)の発現および機能 について・浸潤能について,また血管新生能に関与する因子として塩基性FGFやPAI-1(mRNA)の発現につい て性ステロイドとの関連性を検討した0これらの研究成果はt子宮内膜癌の治療にあたり,一つの指針になるも のが得られたと考えられ,今後の子宮内膜癌の治療の進展に少なからず寄与するものと認める。 [主論文公表誌] 子宮内膜癌の浸潤・転移における性ステロイドによる内分泌関与とその臨床的意義 平成9年1月発行 岐阜大医紀 45(1):133∼146