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〔臨床實瞼〕
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上顎洞根治手術後に見れろ
上顎骨限局性骨髄炎の一例
日本醤科大學第三讐院耳鼻咽喉科(弓長橋本泰彦博士) 稻 イナ 葉 .バ 節 セツ 子 コ (受付 昭和25年5月30日)1.緒
言 上顎洞根治手術後の晩発性合併症として術後性 頗部嚢腫(久保)が著明であるが,其他歯牙に関 連する疾患として歯牙嚢腫,歯根端膿瘍等の歯牙 疾患を惹起することは,諸先輩により屡々報告さ れている。此れらの報告例は明らかに歯根端損傷 の認められるものが多い。然かし上顎骨骨髄炎迄 合併しているものは甚だ稀である。私は最近,歯 牙には肉眼的に異常なく,上顎洞根治手術後4ケ 月にして上顎骨限局性骨髄炎を起した症例に遭遇 し,病理組織学的に検索する機会を得たので蝕に 報告し,文献に追加する次第である。II.症
例患者加藤某17才男子学生
初診昭和24年12月16日
主訴 右側頬部の腫脹 家族歴 父は肺結核にて死亡,母健在,同胞4 入∫長兄は目下肺浸潤に.て療養中,他2人は健 在,悪性腫瘍の遺傳:的関係はない。 既往歴 3才の時,肺炎:に三日、した他は特別全 身疾患はなV・。 現病歴 昨年8月16日両側慢性副鼻腔=炎の診 断の下に,右側上顎洞根治手術,節骨蜂案開放手 術を本院でうけ,同月23日に左側同手術をうけ たQ術後の経過は順調にて特別歯牙の知畳異常は なく,僅に右頬部を圧迫すると右犬歯窩附近に異 常感を訴えた程度で,別に異常はなく8月29日 退院した。退院後20日位通院加療した。而るに 4ケ月後の12月14日より右側頬部の異常感,右 犬歯,第一小臼歯の浮いた感じが現はれ,15日夕 刻には軽度の悪言,及び頬部腫脹を認めた。且鼻 汁が甚だ多くなり,鼻閉塞も増加し,16日には腫 脹は一二増写した爲本院を訪れた。 現症 右側頬部は二丁性に腫脹,鼻二丁は二二, 表面皮膚はや玉浮腫朕を呈し,軽度¢)圧痛あるも 自発痛はなv・。体温・37.8。C,血沈中等価は26。 二二所見 右側鼻腔に点て,下高道側壁退び鼻 腔底は軽度に発赤膨隆し,粘液性鼻汁を多量認め た。下甲介は強度に肥厚し,中鼻道にも粘液性鼻 汁を認めた。前手術の際に開放した顯門部は全く 疲痕肉芽にて閉鎮され,且つ自然孔も消息し得な かった。下三道より試験穿刺を試みたが強い抵抗 を感じ不成功に絡つた。 口腔所見.右犬歯窩部は発赤腫脹し,波動を触 れ,圧痛を認めた。’賴ッせる該粘膜より試験穿刺 を試みたところが多量の膿汁を証明した。 歯牙所見上顎歯牙には鶴歯は全く認めす,僅 に治療中の右下第三大臼歯に鶴歯を認めたのみで ある。右上犬歯,右上第一小臼歯に:浮いた感じを 訴へたが1ピンセットで歯冠を把握し動揺を試み たが肉眼的ICは殆ど動揺はなく,歯牙の打診を試 みたが右回は杢くなかった。 以上の所見から急性上顎洞炎を起し,既に対孔 一 124 一53 が閉鎮されてV・る爲に,犬歯窩引言より炎症が粘 膜下に波及したものではないか,或は少しく時期 が早過ぎるが術後性頬部嚢腫が膿嚢腫となったも のではないかと考え,再手術を施行すべく入院さ せた。 手術所見 浮腫性に腫脹した右側犬歯窩粘膜に 切開を加え,膿汁の排出を計り,肉芽を除去した ところ,第1小臼歯根に相当する歯槽突起骨面に 一致し,小指頭大の骨撰の形成あり,膿汁,肉芽 を満した骨融解竈を認めた。消息子を挿入してみ ると,深さ0.7cm,巾1.5cm消息二丁た。鏡匙 を以て清掃するに第一小臼歯の歯根の露出を認め たが,此れは肉眼的には殆ど健康と思はれた。洞 底との連絡を見る爲に前手術の犬歯窩骨窓迄剥離 し,型の如く上顎洞根治手術を施行したが,町内 は疲痕肉芽組織にて埋められ,平内肉芽組織中に は膿汁は全く認めなかった。疲痕肉芽を骨筆より 旧離摘出し,洞底をみるに底部は粗造なる骨面を :露出し,友黄白色に変じているのを認めた。馨に て犬歯窩骨創を下方に拡大し,洞底及歯槽骨の骨 病変部を除去した。 露出せる第一小臼歯の歯根には肉眼的に全く異 常を認めぬ爲,抜歯を見合はせ,下押道に解方を 設け,軍門部を開放し中鼻道との連絡をつけ,犬 歯窩切開創よりも排膿を計る爲ガーゼを挿入し術 ・を絡つた。 膿汁よりは双球菌を証明した。 術後レントゲン所見 歯牙の所見は第一小臼歯の歯髄には病的陰影を 認めたが,明らかに罹患しているとは断定・L來に くい所見である。犬歯の歯髄には病変は認められ ;ない。 病理組織所見 歯槽突起部は概ね核の染色不良で,屍骨化して いる。所々に周囲より翁忌に上牧された部分もみ られ,中に破骨細胞もみうけられる。又骨小管 と畳しきものが肉芽により窩歌に吸牧されて拡大 してみる部分もある。一般に骨の増殖性変化は少 いが一部若い組織に変化して行く所もみられる。 此等の屍骨は概して,繊維性となった古い肉芽に 組織所見 顯微鏡寓眞
1興齢評
一油壷「、 1鷲罐1・ .強 弓囲まれところどころ僅に若V・肉芽も見うけられ る。 犬歯窩部は骨変化は遙かに軽度で周囲の結締織 も古く,.ラ胞浸潤も極めて少v・。しかし一部には 甲骨化し,新しい肉芽に取囲まれ,一部に窩欺吸 牧の像も見うけられる。 術後経過 術後細事良好にて翌日タンポン除去,2日目に は頬部腫脹も減退し,5日後に退院し,通院加療 となり,問もなく切開創も閉鎮治癒した。n1.考
按 本態は慢性上顎洞炎根治手術4ケ月後に右側頬 部腫脹,軽度の悪露,犬歯窩膿瘍を発現し,一見 久保教授の術後性頬部嚢腫を思はせたが,手術所 見,及び組織学的所見より限局性上顎骨髄炎と診 断された一例である。 本例の発生懸盤として先づ考えられる事は,歯 牙との関係である。本例では不幸にして術前の歯 根レ線撮影をせす,且つシュレーダー氏電氣診断 器を用ひられなかった爲,断言は出來ないが,術 後のレ線撮影で,犬歯の根管が少しくぼやけてみ た。これは手術時根を露出した爲と考へられるの で,先づ歯性疾患は除外されるのではないかと思 う。即ち4ケ月前にうけた上顎洞根治手術が原因一125一一
54 と思はれる。組織学的に此の標本では其肉芽が古 いものが多v・事,膿瘍化してみた割に新鮮な炎症 症朕である細胞浸潤が極めて少いこと等より考へ ると,術後恥部の骨に一部壊死性機轄が起り,此 が肉芽により取り囲まれて無症脚こ経過してみた が,最近の急性副鼻腔炎が誘因となって急激に膿 瘍化したものと老えられる。 此骨壊死に関しては,手術時の歯根端の損傷が 原因で歯根肉芽腫を形成した事も考えられるが, 本例では解剖学的に歯根端が上顎洞内に踊出して いることもなく,根端損傷の梯子も見られないの である。それ故,飯沼,入山両氏の「上顎洞根治 手術の歯牙及周囲組織に及医す影響に関する実駿 的研究」に於て述べている如く手術時の血管叢, 所申経叢の損傷により上顎骨の一部に栄養障碍が惹 起せられ,此が肉芽により囲続され無害化されて みたが,不幸にして急性副鼻腔炎が誘因となり, 急速に膿瘍化して來たものと考えられる。組織学 的にも骨壌死の割合に増殖治癒云云に此較的乏し く,退行変性の像がみられることも静心へをうな つかせるものではないかと思はれる。 上顎洞根治手術時の血管帥経の損傷は通常は他 のものにより代行され,かXる疾患が惹起するC とは臨床上甚だ稀なものであるが,本症の如き例 もあり得るので,手術時出血を拶來るだけ避け, 洞内粘膜剥離も愼重を期すべきものと老へさせら れた次第であるQ