5. シリコンの熱酸化
5.1 熱酸化の目的 Siウェーハは大気中で自然酸化して表面に非常に薄いがSiO2の膜で被覆されている。 Siとその上に生じたSiO2膜の密着性は強力である。酸化を高温で行なうと厚い緻密で 安定な膜が生じる。Siの融点は 1412℃であるが、SiO2の融点は 1732℃であり被膜は非 常に高い耐熱性をもつ。全ての金属や半導体が密着性の高い緻密な酸化膜により容易 に被覆される特性を持つ訳ではなく、Siを半導体素子に組み立てる上で実用上非常に 有益な効果として利用されている。最初に発明されたGeのトラジスタがSiのトランジ スタに代わったのもSiと相性のよい電気的・機械的・熱的・化学的特性の優れた絶縁 体のSiO2を熱酸化により形成して、MOSトランジスタ構造やパシベーションに応用で きたからである。 熱酸化温度は800~1100℃で行なわれるが、この温度領域はウェーハ作製工程のその 他の熱処理温度の最高温度範囲に属する。従って熱酸化を行なうと同時に幾つかの熱 処理効果が同時に行なわれる。また本来それよりも低温で行なうべき処理の後では熱 酸化するとそれ以前の処理が無効になる。それ故に熱酸化はウェーハプロセスの初期、 トランジスタ形成以前(FEOL)で使うプロセス技術である。金属配線で使用するAlの融 点は660℃であり、配線処理後には熱酸化は使えないのでSiO2絶縁膜は堆積法で形成す る。図5-1 に各種熱処プロセスとその温度を比較して示す。 図5-1 ウェーハ作製工程における各種熱処理プロセスとその温度 表 5-1 にウェーハ作製工程で使われるSiO2絶縁膜の用途、作製法、代表的膜厚を示 す。ゲート酸化膜は非常に薄く、トランジスタ性能を支配する重要な役割を果たす。表5-1 SiO2絶縁膜の用途及び作製法 作製法方 用途等 厚み 自然酸化膜 ~1nm MOSFET ゲート絶縁膜 1.5~2nm フラッシュメモリー・トンネル絶縁膜 ~10nm 不純物導入用マスク ~0.1μm DRAM スタックキャパシタ絶縁膜 ~0.1μm 熱酸化 アイソレーション用フィールド酸化膜 ~1μm 不純物導入マスク ~0.1μm 多層配線層間絶縁膜 ~1μm 堆積 パシベーション膜 ~1μm 5.2 熱酸化方式 図5-2 熱酸化横型炉(a)加熱炉, (b)ボート, (c)挿入・引出部 熱酸化には酸化に用いるガス の種類によりドライ酸化、ウェ ット酸化、スチーム酸化の 3 方 式がある。ドライ酸化は酸素ガ スを使い、ウェット酸化は酸素 ガスに脱イオン水蒸気を加えて 使い、スチーム酸化は脱イオン 水蒸気のみ使う。水素燃焼スチ ーム酸化方式では炉内に酸素ガ スと水素ガスを流して自然燃焼 して発生するH2Oを使う。 酸化装置方式には横型炉、縦 型炉、RTP(rapid-thermal processing) 装置の3 種類がある。図 5-2 には 横型炉の構造、図5-3 には 4 段横 型炉装置の構成を示す。炉は大 きな石英管でその周囲を電気炉 が取り囲む。ボート上に垂直に 並べた多数のウェーハを炉の内 部に挿入する。表5-2 にドライ酸 化のレシピーの一例を示す。
図5-3 熱酸化 4 段横型炉装置の構成 4 段共に左図と同じ炉 表5-2 ドライ酸化プロセスレシピー(5~10nm SiO2) ①ウェーハRCA 洗浄 ②炉アイドリング:N2フロー@800℃ ③ウェーハ石英/SiC ボートに載せて炉に挿入 ④ウェーハ挿入後炉昇温:~950℃@10~20℃/min ⑤ガス切替、保持・酸化:N2→O2(+Cl) ⑥ガス切替、降温・保持:O2(+Cl)→N2 ⑦炉からボート引出 ③から⑦まで約2H, 150 枚/バッチ 縦型炉は横型炉を垂直にしたような配置であり、垂直配置した石英管またはSiC の 管内部に多数のウェーハが水平に配置される。直径の大きなウェーハは横型炉ではな く縦型炉で処理される。 図5-4 に示す RTP 装置は水平に配置した真空容器内のウェーハを容器外側から石英 窓を介して多数のランプで照射して加熱する方式である。直径の大きなウェーハを 1 度に1 枚処理するので、1度に数十枚から百枚以上までのウェーハを処理する横型炉、 縦型炉に比べて単位時間当たり処理ウェーハ数は少ない。しかし炉では 950℃, 20min 処理のところをRTP では 1100℃, 20sec の高温短時間処理で済ませることができる。極 めて薄い熱酸化膜形成、イオン注入後のアニールと活性化、チタンシリサイドやコバ ルトシリサイドのアニール等への応用に適している。図5-5 には各種 RTP 装置構成を 示す。(a)~(c)はいずれもランプ加熱方式であるが、ランプの形状と配置が異なる。(e) はホットプレート方式で、(d)は冷却用コールドプレートが接触する方式である。
図 5-4 RTP 装置 (a)多数のランプがウェー ハを照射、(b)蜂の巣状のランプ配置 図5-5 RTP 各種チャンバ構成(a)~(c)ランプ方式、 (d),(e)熱接触プレート方式 5.3 熱酸化の理論 ドライ酸化、スチーム酸 化では次の化学反応により リコンが酸化する。 ・・・ (5.1) → SiO2(S) + H2(G) ・・・ (5.2) にそのイ シ ドライ酸化 Si(S) + O2(G) → SiO2(S) スチーム酸化 Si(S) + H2O(G) 酸化はウェーハの表面か ら始まり奥のほうに進行す るが、形成されたSiO2層の 中をO2, H2Oが拡散し、酸化 反応は常にSiO2/Siの境界面 で起こる。図 5-6 図5-6 Si ウェーハの熱酸化反応のイメージ メージを示す。
形成されたSiO2層の厚みの44%に相当する厚みのSiが減少する。換言すればSi層は酸化 酸化膜の形成速度は次の3 つの要因の影響を受ける。 分子の拡散速度 ③ SiO2/Si境界面におけるガスとSiの反応速度 2層 の 厚 み をXo と す る と 形 成 速 度 は eal-Groveの公式で次のように表示される。 Xo(t) = (A/2)[ { 1 + ( t + τ )/( A2/4B )1/2 – 1} ・・・ (5.4) 化が進展して酸化層が厚くなった後の場合に それぞれ次のような近似ができる。 Xo2 = Bt ・・・ (5.6) , 5-9 にドライ酸化とウェット酸化にお る酸化層の厚みと酸化時間の関係を示す。 により2.27 倍の厚みのSiO2層に変化する訳である。 ① SiO2層中のガス ② SiO2層の厚み 酸 化 開 始 か ら 時 間t の 後 に 形 成 さ れ た SiO D Xo2 + AXo = B(t + τ) ・・・ (5.3) 但しA, B は定数であり、τは t = 0 の時にウェーハ表面に存在している酸化層の厚みよ って与えられる係数であり、最初に酸化層が無ければτ = 0 である。(5.3)式は酸化開 始初期の酸化層の厚みが薄い場合と酸 は Xo = (B/A) t ・・・ (5.5) 2 つの近似式は酸化初期には酸化層の厚みは酸化時間に比例するが、長時間後には酸 化時間の平方根に比例することを表す。図 5-8 け 図5-7 ドライ酸化の酸化層厚みと酸化時間 図5-8 ウェット酸化の酸化層厚みと酸化時間 ウェット酸化の方がドライ酸化よりも早く進行するのはSiO2層へのH2Oの溶解度が大
きく、かつ分子が小さいために拡散速度が大きいからである。しかし形成されるSiO2層 の緻密性はドライ酸化の方が高い。従ってドライ酸化は通常1000Å以下の厚みの酸化 形成に使用し、それより厚い酸化層形成にはウェット酸化を使用する。 果がある。添加物として エネルギー電子の照射またはゲート電流等によ 発生し、アニールで除去される。 層 5.4 熱酸化の留意事項 熱酸化における主要留意事項を2 つ説明する。第一はドライ酸化で塩素を添加する ことである。これはSi中に溶けている有害な不純物アルカリ金属原子Naと重金属原子 Fe, Niと塩素原子Clが化合して揮発性物質を形成して取除く効 塩酸HClあるいはジクロルエタノールC2H3Cl2OHが使われる。 第二は酸化層中の有害電荷の発生を抑制する対策である。酸化層絶縁膜中にある電 荷には、①境界面のイオン性Si原子、②アルカリ金属可動イオン(Na+, K+)、③Siダング リングボンド、④バルク欠陥イオンの4 種類がある。境界面 30Åの厚みの層に存在す る正イオン性Si原子の密度は結晶方位依存性が大きく、密度の最も少ない<100>ウェー ハを使いかつ酸化・アニール条件を適正化してその発生を抑制する。可動性イオンの 最大原因は作業環境から入り込むNa+であり、対策はクリーンルームの管理である。 Si結晶境界面のダングリングボンド(不対電子対)は大部分は酸素原子と結合するが残 されたものは水素原子でターミネイト(terminate:終端)する。そのためにICパケージの 直前にチップを 450℃の水素雰囲気中でアニールする。酸化層バルク中の欠陥は通常 は無視できるほど少ないが、X線や高 り 図5-9 酸化層中の有害電荷 4 種類 4 2 1 3
図5-10 Si 結晶境界面のダングリングボンド 図5-11 SiO2 ングボン ドとそのパシベーション /Si 境界面におけるダングリ 図5-12 HRTEM(高分解能透過型電子顕微鏡)に の酸化層は結晶学的 な規則的配列が無い) よるSiO2 層断面の原子配列写真像 (下側の Si 単結晶と上側の poly-Si は Si 原子の 規則正しい配列、中間
5.5 酸化膜の干渉色と厚み ウェーハ上に形成された酸化膜にはその表面とシリコンとの境界面で反射する光 の干渉色が現われる。干渉色は酸化膜の厚みを判定する最も簡便な手段である。表5-3 酸化膜厚と干渉色の関係を示す。 表5-3 ウ 上の酸化膜の と干渉色の関 みの単位:Å 1 次 2 次 3 次 4 次 に ェーハ 厚み 係(厚 ) 干渉色 無色・灰色 100 薄い色彩感 300 茶 500 青 800 紫 1,000 2,800 4,600 6,500 青 1,500 3,000 4,900 6,800 緑 1,800 3,300 5,200 7,200 黄 2,100 3,700 5,600 7,500 橙 2,200 4,000 6,000 赤 2,500 4,400 6,200 (1) FEOL では熱酸化が使われるが、BEOL では使うことができ (3) どのような目的で (4) 酸化よりもウェット酸化(スチーム酸化)の方が酸化速度 (5) 2.25, 2.33g/cm3 とし、SiO2 及び Si のモルグラム分子量はそれぞれ 60, 28 とせよ。 5.6 シリコンの熱酸化の問題 IC ウェーハプロセスの ない理由を説明せよ。 (2) いくつかの熱酸化膜の用途とその厚みを述べよ。 IC ウェーハプロセスで熱酸化により作製する最も薄い酸化膜は 使われるか、またその厚みは現在主流のIC ではどの程度か。 熱酸化方式の中でドライ が大きいのは何故か。 シリコン熱酸化して SiO2 層ができたとき、元の Si の厚みの減少分は形成された SiO2 層の約 45%であることを証明せよ。熱酸化 SiO2 及び結晶 Si の密度はそれぞれ