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糖尿病性ケトアシドーシスが併存した偶発性低体温症において敗血症性ショックを合併した3症例

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Academic year: 2021

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日臨救急医会誌(JJSEM)2021;24:71-5 71. ©Journal of Japanese Society for Emergency Medicine. はじめに. 2011 年に日本救急医学会により行われた偶発性低 体温症(accidental hypothermia;AH)の全国調査 Hypothermia STUDY 2011 では,高齢で屋内発症し た患者群においては重症度が高く,併存した内因疾患 そのものが低体温の原因となっている可能性が示唆さ れている 1)。. Gale らは,AH 症例の併存内因疾患として,糖尿病. 性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis;DKA)が AH 症例の 11.8%に併存していたと報告している 2)。 また DKA が併存した AH 症例では,高率に敗血症を 合併し,生命予後が不良であったとする報告が存在す る 3)。DKA が併存した AH 症例が感染症を併発する と重症化する可能性が予測されるが,DKA が併存し た AH 症例に関する報告は少なく,特徴や治療戦略 は明らかとなっていない。今回,当センターへ搬送さ れ入院となった DKA が併存した非外因性屋内発症 AH 症例のうち,入院後に敗血症性ショックを合併し た 3 症例を経験したので報告する。症例提示において は,個人情報保護法に基づいて匿名化されており,患 者およびその家族に論文の掲載に関する同意を文書で 得ている。. 症 例. 当センターへ搬送され入院となった DKA が併存し た非外因性屋内発症 AH 症例のうち,入院後に敗血 症性ショックを合併した 3 症例について,以下に入院 中経過を示す(症例 1 〜 3)。表 1に 3 症例の来院時 および入院時の主な検査所見を,図 1〜 3に入院後 24 時間の経過を示す。. Three cases of septic shock associated with accidental hypothermia with coexisting diabetic ketoacidosis. Takahiro YAMAMOTO 1, Yasutaka ODA 2, Masaki TODANI 1, Yoshikatsu KAWAMURA 3, Kotaro KANEDA 1, Motoki FUJITA 4, Ryosuke TSURUTA 4. 1 Advanced Medical Emergency and Critical Care Center, Yamaguchi University Hospital, 2 Call Medical Clinic Hiroshima, 3 Division of Internal Medicine, Yamaguchi Rosai Hospital, 4 Department of Acute and General Medicine, Yamaguchi University Graduate School of Medicine. 1 山口大学医学部附属病院先進救急医療センター,2 コール メディカルクリニック広島,3 独立行政法人労働者健康 安全機構山口労災病院内科,4 山口大学大学院医学系研 究科救急・総合診療医学講座. 〔原稿受付日:2020年5月12日 原稿受理日:2021年1月21日〕. 【要旨】 糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis;DKA)を併存した偶発性低体温症 (accidental hypothermia;AH)が感染症を併発すると重症化する可能性があるが,DKA が併 存した AH 症例に関する報告は少なく,特徴や治療戦略は明らかとなっていない。今回,当セ ンターへ搬送され入院となった DKA が併存した非外因性屋内発症 AH 症例のうち,入院後に 敗血症性ショックを合併した 3 症例を経験した。3 症例ともに来院時 HbA1c が高値であり,血 糖コントロール不良であったことが感染症増悪に寄与したと考えられ,低体温の作用が重なるこ とによってさらなる免疫抑制をきたし,感染コントロールが不良になったと推測された。DKA が併存した AH 症例では,感染症が重篤化し,敗血症性ショックを合併する可能性があるため, 感染源の検索と感染症治療の早期開始が重要である。. 索引用語:糖尿病性ケトアシドーシス,偶発性低体温症,感染コントロール. 糖尿病性ケトアシドーシスが併存した. 偶発性低体温症において敗血症性ショックを合併した3症例. 山本 隆裕 1 小田 泰崇 2 戸谷 昌樹 1 河村 宜克 3. 金田浩太郎 1 藤田 基 4 鶴田 良介 4 . 症例・事例報告. 日臨救急医会誌(JJSEM)2021;24:71-572. 山本 隆裕,他. 〔症例 1〕. 患 者:62 歳,女性。 主 訴:意識障害。 既往歴:詳細不明。 現病歴:来院数日前より呻き声を上げるなど,普段. と様子が異なるようであったという。来院当日,自宅 にて不穏状態になっているのを家族により発見され救 急要請され,低体温の状態のため当センターに搬送さ れた。 来院時現症:意識レベル JCS 3R,血圧 85/50mmHg,. 脈拍数 60 回 / 分,体温 27.4℃(膀胱温)。血液ガス分 析上,pH 7.126,HCO3− 10.0 mmol/L,BE −21.6 mmol/ L と代謝性アシドーシスを認めた。血糖値 571 mg/dL と高血糖を認め,尿中ケトン体が陽性(3+)であっ た。また HbA1c 13.9%と高値であった。 来院後経過:来院時の胸部 CT 検査で肺炎の併発が. 示唆されたため,タゾバクタム / ピペラシリン投与を 開始した。体表加温および加温輸液を行い,速やかに 復温可能であった。また十分な輸液負荷後,ICU に 入室したが,血圧が低下してきたためノルアドレナリ. 表 1 敗血症性ショック合併患者の主な来院時検査所見. 症例 1 症例 2 症例 3. pH 7.126 6.884 6.951 HCO3−(mmol/L) 10.0 6.8 7.4 BE(mmol/L) −21.6 −26.8 −24.8 アニオンギャップ(mmol/L) 23.2 21.2 34.4 ケトン体 尿(3+) 尿(1+) 血清 194μmol/L HbA1c(%) 13.9 14.0 12.9 血液培養 陰性 陰性 陰性. 痰培養 Klebsiella oxytoca(ABPC resistant) 陰性 MSSA, GBS. 尿培養 陰性 Klebsiella pneumoniae(ABPC resistant) 陰性. ABPC:Ampicillin,GBS:group B Streptococcus,MSSA:methicillin-susceptible Staphylococcus aureus. 1.1 1.2 1.3 1.2 1.4 1.6 2.1 1.9 1.9. 0 12 24 (hr). 乳酸値 (mmol/L). 27.4. 37.4. 64. 37.1. 6262. 571. 53344. 213体温(℃). 血糖値(mg/dL). 平均血圧(mmHg). 復温開始. ノルアドレナリン. インスリン. タゾバクタム / ピペラシリン. 48. 図 1 症例 1:来院後 24時間の経過. 日臨救急医会誌(JJSEM)2021;24:71-5 73. DKAが併存した偶発性低体温症. ン投与を開始した。入院時の喀痰培養からはアンピシ リン耐性の Klebsiella oxytoca が検出された。その後 は徐々に循環動態は改善し,第 7 病日に転院となった。. 〔症例 2〕. 患 者:85 歳,女性。 主 訴:意識障害。 既往歴:糖尿病,高脂血症,脳出血,乳癌,白内障。 現病歴:来院 1 カ月前頃より経口摂取量が減少し,. しだいに活動性が低下していたとのことだが,自宅に て呼びかけに反応しなくなったため家族により救急要 請され,ショックおよび低体温の状態のため当セン ターに搬送された。 来院時現症:意識レベル JCS 200,血圧 55/14mmHg,. 脈拍数 46 回 / 分,体温 28.2℃(膀胱温)。血液ガス分 析上,pH 6.884,HCO3− 6.8 mmol/L,BE −26.8 mmol/ L と代謝性アシドーシスを認めた。血糖値 1,073 mg/dL と高血糖を認め,尿中ケトン体が陽性(1+)であっ た。また HbA1c 14.0%と高値であった。 来院後経過:来院時の全身 CT 検査では明らかな感. 染巣を認めず,スルバクタム / アンピシリンの予防投 与を開始した。体表加温および加温輸液を行い,速や. かに復温可能であった。また来院時ショック状態で あったが,十分な輸液負荷を行い,ICU 入室後はいっ たんショックの改善を認めた。その後,徐々に血圧が 低下したためノルアドレナリンの投与,バソプレシン の投与を行った。来院から約 18 時間後に心肺停止と なったが,蘇生術により速やかに自己心拍が再開し た。人工呼吸管理とし,バソプレシンを増量し,抗菌 薬をタゾバクタム / ピペラシリンに変更した。尿培養 よりアンピシリン耐性の Klebsiella pneumoniae が検 出され,尿路感染症と診断した。その後,徐々に血圧 は上昇し,全身状態も安定化し,第 15 病日に転院と なった。. 〔症例 3〕. 患 者:53 歳,女性。 主 訴:意識障害。 既往歴:詳細不明。 現病歴:来院 2 〜 3 日前より体調不良の訴えがあり,. 経口摂取も不良であったとのことだが,自宅にて呼び かけに反応がなくなり,呻吟および冷感著明のため家 族にて救急要請され,ショックおよび低体温の状態の ため当センターに搬送された。. 2.9 2.3 3.2 3.1 1.8 2.5 1.3 1.3. 0 12 24 (hr). 乳酸値 (mmol/L). 27.4. 37.1. 36.8. 75. 55. 47. 28. 1,073. 40 412. 191 203 体温(℃). 血糖値(mg/dL). 平均血圧(mmHg). 胸骨圧迫 アドレナリン 気管挿管. 復温開始. ノルアドレナリン バソプレシン. インスリン. スルバクタム / アンピシリン タゾバクタム / ピペラシリン. 図 2 症例 2:来院後 24時間の経過. 日臨救急医会誌(JJSEM)2021;24:71-574. 山本 隆裕,他. 来院時現症:意識レベル JCS 200,血圧 95/45mmHg, 脈拍数 35 回 / 分,体温 30.4℃(直腸温)。血液ガス分 析上,pH 6.951,HCO3− 7.4 mmol/L,BE −24.8 mmol/ L と代謝性アシドーシスを認めた。乳酸値 10.6 mmol/L と高値であり,血糖値 634 mg/dL と高血糖を認め,血 清ケトン体が 194μmol/L(基準値:28 〜 120μmol/L) と高値であった。また HbA1c 12.9%と高値であった。 来院後経過:来院時の胸部 CT 検査にて肺炎の併発. が示唆されたため,スルバクタム / アンピシリン投与 を開始した。体表加温および加温輸液に加えて,カ テーテルを用いた血管内加温を併用し,速やかに復温 可能であった。また来院時ショック状態であったため, ドパミン投与を開始し,ICU 入室時には血圧は改善 した。来院時 12 誘導心電図検査において,Ⅱ,Ⅲ, aVfで異常 Q 波と ST 上昇を認め,心筋梗塞併発の 可能性も示唆されたが,頭部 CT で小脳出血を疑わせ る所見を認めたことと全身状態を考慮して,心臓カ テーテル検査は施行せず,まずは全身状態の改善を優 先し,保存的加療を継続する方針となった。喀痰培養 からは MSSA および group B Streptococcus が検出さ れた。ICU 入室 24 時間後に再び循環動態が不安定と なり,腎機能が悪化した。そのため持続的血液濾過透 析を行ったが,全身状態の改善は得られず,第 7 病日. に死亡退院となった。. 考 察. Gale ら 2) は,単施設において 7 年間に入院した AH 症例の 11.8%に DKA の併存を認めたと報告してい る。また Guerin ら 3) は,DKA が併存した AH 症例で は高率に感染症を併発して重症化するため,死亡率が 30 〜 60%であったと報告している。したがって DKA が併存した AH 症例が感染症を併発した場合には, 重篤化する可能性が考えられる。この感染症は AH により顕在化あるいは増悪した可能性があり,また DKA の原因となっている可能性もある。. 頭部外傷に対する低体温療法中の患者における報告 では,低体温療法中の患者の好中球および単球の機能 が低下していることが示唆されている 4, 5)。これらの 報告から低体温状態においては免疫能が抑制されてい ることが推測されるが,実際に AH を伴った敗血症 では AH を伴わない場合よりも死亡率や臓器障害の 発生率が高かったと報告されている 6)。一方でコント ロール不良の糖尿病は好中球機能を低下させることが 知られている 7)。また高血糖状態では,免疫グロブリ ンの非酵素的糖化を起こすことで免疫機能が低下して おり,さらにブドウ糖が補体成分 C3 のチオエステル. 10.6 10.1 13.6 8.4 6.4 5.5 3.4 1.9. 0 12 24 (hr). 乳酸値 (mmol/L). 30.4. 36.9. 80. 36.7. 77. 62. 634. 273. 115. 体温(℃). 血糖値(mg/dL). 平均血圧(mmHg). 復温開始. ドパミン インスリン. スルバクタム / アンピシリン. 103. 図 3 症例 3:来院後 24時間の経過. 日臨救急医会誌(JJSEM)2021;24:71-5 75. DKAが併存した偶発性低体温症. 結合を攻撃することで補体立体構造が変化するため, 病原菌に対するオプソニン作用が減弱していると報告 されている 8)。したがって糖尿病患者においては,免 疫能が抑制されて易感染性を呈しており,感染症をき たすことで DKA を発症し,さらに AH が併存すると, 低体温の作用が重なることによってさらなる免疫抑制 をきたし,感染コントロールが不良となることが推測 される。. 症例 1 では,入院当初より広域抗菌薬の投与を行 い,循環動態の改善を認めたが,症例 2 においては, 入院当初の抗菌薬がスルバクタム / アンピシリン投与 であったため,敗血症性ショックの原因病原菌をカ バーできず,循環動態が増悪し,心肺停止状態に陥っ たと考えられた。症例 3 では,投与されたスルバクタ ム / アンピシリンにて敗血症性ショックの原因病原菌 はカバーできており,入院後,敗血症性ショックから は離脱した。また 3 症例ともに来院時 HbA1c が高値 であり,血糖コントロール不良であったことが感染症 増悪に寄与した可能性が考えられる。以上より,血糖 コントロールが不良で DKA が併存した AH 症例で は,感染源の検索と早期からの感染症治療の開始が肝 要と考えられる。. また高血糖状態は,心筋細胞のアポトーシスを助長 し,心室リモデリングを促進することから,心筋梗塞 の予後に関与するとの報告 9) もある。心筋細胞のアポ トーシスは異なるいくつかの分子機構によって行われ ており,それらすべては高血糖によって引き起こされ るミトコンドリアでの活性酸素の過剰産生過程を反映 するとされている 10)。症例 3 では,来院時 12 誘導心 電図検査にて心筋梗塞の併発も示唆されており, DKA により心機能障害が助長され,心機能の増悪か ら死亡に至った可能性も考えられた。したがって, DKA が併存した AH 症例では DKA が併存しない場 合よりも臓器障害が増悪することが予想されるため, 臓器障害という観点でも注意が必要と思われた。. 結 論. 当センターへ搬送され入院となった DKA を併存し た非外因性屋内発症 AH 症例のうち,入院後に敗血 症性ショックを合併した 3 症例を経験した。DKA が 併存した AH 症例では,感染症が重篤化し,敗血症 性ショックを合併する可能性があるため,感染源の検 索と感染症治療の早期開始が重要である。. 利益相反. 本稿のすべての著者には規定された COI はない。. 文 献. 1) 三宅康史, 横田裕行, 井上健一郎, 他: 本邦における低体温症 の実際; Hypothermia STUDY2011 最終報告. 日救急医会 誌 2013; 24: 377-89.. 2) Gale EAM, Tattersall RB: Hypothermia: A complication of diabetic ketoacidosis. BMJ 1978; 2: 1387-9.. 3) Guerin JM, Meyer P, Segrestaa JM: Hypothermia in diabetic ketoacidosis. Diabetes Care 1987; 10: 801-2.. 4) 相引眞幸, 馬越健介, 菊池聡, 他: 低体温療法は効くのか? 二 つの大規模RCTからの教訓. 蘇生 2010; 29: 6-12.. 5) 木村昭夫, 留目優子, 大国寿士, 他: 中等度低体温下における 単球の遊走・貪食並びに殺菌能の検討. 日救急医会誌 1998; 9: 332-5.. 6) Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al: The impact of body temperature abnormalities on the disease severity and outcome in patients with severe sepsis: An analysis from a multicenter, prospective survey of severe sepsis. Crit Care 2013; 17: R271.. 7) Koh GC, Peacock SJ, van der Poll T, et al: The impact of diabetes on the pathogenesis of sepsis. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2012; 31: 379-88.. 8) 斧康雄: 糖尿病患者の好中球機能異常. 日化療会誌 2016; 64: 735-41.. 9) Bäcklund T, Palojoki E, Saraste A, et al: Sustained cardiomyocyte apoptosis and left ventricular remodelling after myocardial infarction in experimental diabetes. Diabetologia 2004; 47: 325-30.. 10) Rahman S, Rahman T, Ismail AA, et al: Diabetes- associated macrovasculopathy: Pathophysiology and pathogenesis. Diabetes Obes Metab 2007; 9: 767-80.

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