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高齢糖尿病患者に発症し急性の経過を呈した

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Academic year: 2021

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508

感染症学雑誌 第85巻 第 5 号

高齢糖尿病患者に発症し急性の経過を呈した Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis による敗血症性化膿性脊椎炎の 1 例

1)聖マリアンナ医科大学総合診療内科,2)同 感染制御部

鳥飼 圭人

1)

山﨑 行敬

1)

根本 隆章

1)

石井 修

1)

高木 妙子

2)

竹村 弘

2)

松田 隆秀

1)

(平成 23 年 2 月 28 日受付)

(平成 23 年 5 月 19 日受理)

Key words : group C streptococci,Streptococcus dysgalactiaesubsp.equisimilis, osteomyelitis

近年 C 群溶連菌による侵襲性感染症が増加し注目 されているが1),本菌による化膿性脊椎炎の報告例は 多くない.Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis

(SDSE)は C 群溶連菌の一つで,ヒトの咽頭,皮膚,

泌尿器などに常在し,時に敗血症や感染性心内膜炎な どを起こすことが知られている.

今回我々は高齢糖尿病患者に発症し急性の経過を呈 した SDSE による頸胸椎化膿性脊椎炎の 1 例を経験 したため報告する.

患者:70 歳男性.

主訴:頸部痛.

既往歴:65 歳より糖尿病のためアカルボース 400 mg!日を内服中.

個人歴:飲酒歴なし,喫煙歴なし,最近の歯科治療 歴なし,旅行歴なし,森林散策歴なし,ペット飼育歴 なし.

家族歴:弟が喉頭癌.

現病歴:2010 年 2 月 9 日より頸部の違和感を自覚 した.2 月 11 日に頭部から背部にかけての疼痛が増 悪したため当院救急外来を受診した.全身倦怠感が強 く,敗血症などの重症感染症が疑われ入院となった.

入 院 時 現 症:血 圧 120!69mmHg,脈 拍 101 回!分

(整),体温 39.8℃,呼吸回数 18 回!分,SpO298%(room air).

意識清明,呼吸音は清で心雑音は聴取しなかった.

頸部回旋・屈曲で疼痛の増強あり,項部硬直,Kernig

徴候は陰性であった.四肢に運動障害や感覚障害は認 めず,深部腱反射は正常で病的反射も認めなかった.

入院時検査所見(Table 1):好中球優位の白血球数 増多と CRP の上昇,赤沈の亢進を認め,プロカルシ トニンは陽性であった.

入院後経過(Fig. 1):体温と脈拍より systemic in- flammatory response syndrome(SIRS)の診断基準 を満たし,プロカルシトニンが陽性であったことより 敗血症と診断した.救急外来での画像を含めた各種検 査でも敗血症の focus ははっきりしなかった.糖尿病 の治療中で易感染性であり,入院後に血圧も低下傾向 となり重症感染症と判断し,髄膜炎も考慮し mero- penem(MEPM)を開始した.なお,その後腰椎穿 刺を施行し髄液細胞数は 6!μL と髄膜炎は否定的で あった.入院時の血液培養から SDSE(C 群溶連菌)

が同定されたため,benzylpenicillin(PCG)200 万単 位×6 回!日に変更し,明らかな focus が不明であっ たことから感染性心内膜炎の可能性も考慮し gen- tamicin(GM)40mg×3 回!日を併用した.抗菌薬治 療を開始後,解熱傾向となり,頸部痛は徐々に改善し,

入院第 7 日目には入院時に困難であった頸部の回旋・

屈曲が可能となった.また,白血球数,CRP などの 炎症反応も速やかに低下し,入院後の血液培養も陰性 であった.なお,その後施行した経食道心臓超音波検 査では明らかな疣贅は指摘されなかった.入院 2 日目 に施行した頸椎単純 MRI では脊椎炎と確定し得る異 常信号は指摘できなかったが,入院 14 日目の造影頸 椎 MRI 脂肪抑制像(Fig. 2)で C7,Th1 の骨髄の信 号が上昇し椎体周囲に造影効果を認め,頸部痛の部位 とも一致していたことから頸胸椎化膿性脊椎炎と確定 診断した.整形外科にコンサルトし,神経症状や骨破

別刷請求先:(〒216―8511)川崎市宮前区菅生 2―16―1 聖マリアンナ医科大学総合診療内科

鳥飼 圭人

(2)

C 群溶連菌による敗血症性化膿性脊椎炎 509

平成23年 9 月20日

Table 1 Laboratory findings

Hematology Blood culture

WBC 9,600 /μL Pathogen:

Neut. 89 % Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis Lymp. 8 % (group C streptococci)

Mono. 3 %

Plt 11.7 104/μL Antimicrobial agent susceptibility

ESR 78 mm/1h (MIC: μg/mL):

Biochemistry PCG ≦0.03

AST 21 IU/L ABPC ≦0.06

ALT 23 IU/L CTX ≦0.06

LDH 181 IU/L CZOP ≦0.06

Cr 1.00 mg/dL S/A ≦0.25

BUN 28.1 mg/dL EM ≦0.12

CK 33 IU/L LVFX 0.5

UA 2.3 mg/L

Glu 274 mg/L

HbA1c 6.2 %

CRP 22.57 mg/dL

PCT 0.86 ng/mL

PCT:  procalcitonin,  MIC:  minimum  inhibitory  concentration,  PCG:  benzylpenicillin,  ABPC:  ampicillin,  CTX:  cefotaxime,  CZOP:  cefozopran,  S/A:  ampicillin・sulbactam,  EM: erythromycin, LVFX: levofloxacin

Fig. 1 Clinical course

MEPM: meropenem, GM: gentamicin, PCG: benzylpenicillin

壊像などは認めなかったことから抗菌薬による保存的 治療を継続した.静注による抗菌薬治療を 6 週間継続 し,CRP の陰性化,赤沈も最高値の半分以下まで低 下したことを確認後,再燃なく入院 45 日目に自宅退 院となった.以後外来で 1 年間経過観察を行っている が,発熱や炎症反応の再上昇,頸部痛の増悪などの再 発は見られていない.

菌種同定法が進歩し,β溶血性を示す連鎖球菌のう ち 1996 年にヒトに感染症を引き起こす SDSE が新た

な菌種として提唱された2).ヒトでは常在細菌叢の一 部として分離され,感染の契機は compromised host の場合が多く,咽頭炎,軟部組織炎,感染性心内膜炎 などの起因菌となる3).主に G 群で一部は C 群,A 群 であり,本菌による侵襲性感染症が増加傾向といわれ ている1).また,Streptococcus pyogenesと同様に劇症 型感染症を引き起こすこともある4).SDSE はS. pyo- genesに 似 た Streptolysin O を コ ー ド す るslo遺 伝 子5),組織壊死に関わる Streptolysin S をコードする sagA 遺伝子4)等を保持している.また,組織への侵

(3)

鳥飼 圭人 他 510

感染症学雑誌 第85巻 第 5 号 Fig. 2 Fat-Suppressed Gadolin-

ium-Enhanced T1-weighted  MRI scan.

High  intensity  areas  in  fat-sup- pression imaging at C7 and Th1  plus  enhancement  around  the  vertebral bodies (arrow).

入に関わる因子としてS. pyogenesと同様のemm遺伝 子にコードされた M タンパクを保持していることが 重要である6)

生方らの報告2)では分離された C 群溶連菌 25 例の うち,血液から分離された例が 44% と著しく多かっ た.また,分離された多い疾患は,①褥瘡や丹毒を含 む閉鎖性の化膿性疾患で,②菌血症・敗血症,③化膿 性関節炎がそれぞれ 28% であった.椎木らは血液培 養から検出された全細菌 8,181 株のうち 11% をStrep-

tococcusspp.が占め,その内訳は肺炎球菌 35%,B 群連

鎖球菌 18%,SDSE 9% で,本菌の検出数は年々増加 していると報告している7).この報告では,菌血症を 発症した患者の平均年齢は 77 歳で女性に多く,ほと んどが院外発症であった.また,64% が蜂窩織炎,次 いで 19% は感染巣が不明な敗血症であった.基礎疾 患として糖尿病(28%)や脳血管障害(25%)が多く,

次いで担癌患者も散見されたとしている.本症例は院 外発症の高齢者で,基礎疾患として糖尿病があった.

比較的急性な経過の重症感染症として救急外来を受診 し,敗血症,化膿性脊椎炎と診断した.

本菌による感染症の死亡率は必ずしも高くなく,ペ ニシリン系抗菌薬の de-escalation を行うなどの適切 な治療により多くは改善する8).基本的には耐性菌は 認められていないが,セフェム系の抗菌力は,ペニシ リン系薬やカルバペネム系薬に比べて明らかに劣る.

本症例において,PCG への de-escalation を行い,適 切な抗菌薬療法により敗血症および化膿性脊椎炎は治 癒した.

化膿性脊椎炎の起因菌として以前はメチシリン感受 性黄色ブドウ球菌(MSSA)が最多であったが,近年 ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やその 他の菌種が増えている.佐藤らの報告では,化膿性脊 椎炎の起因菌は MRSA 25.4%,MSSA 17.9%,メチ シ リ ン 耐 性 表 皮 ブ ド ウ 球 菌(MRSE)7.5%,E. coli 6.0%,その他 10.4% であった9).本症例は SDSE によ る化膿性脊椎炎であるが,このような症例は国際的に も報告が少ない.Kumar らは本菌による化膿性脊椎 炎 3 例を報告しているが,この 3 例はいずれも病歴上 4〜8 週間の背部痛があり,本症例のような急性の経 過を示す例の報告は極めて稀であると思われる10)

早期の脊椎炎の描出には CT よりも MRI の方がよ り感度が高い11).本症例において,入院当初の検査で は敗血症の原因疾患が不明であり確定診断に苦慮し た.入院当初の CT,MRI では脊椎炎を示唆する所見 に乏しく,入院後の造影 MRI で脊椎炎と診断し得た.

発熱と頸部痛を訴える患者において,化膿性脊椎炎を 鑑別に入れることが必要である.また,原因が明らか ではない発熱患者に対して血液培養を採取することの 重要性を再認識した.

今回我々は高齢糖尿病患者に発症し敗血症を呈し た,近年侵襲性感染症が増加し注目されている SDSE による頸胸椎化膿性脊椎炎の 1 例を経験した.今後,

本症例のような重症連鎖球菌感染症はS. pyogenes以 外の連鎖球菌においても引き起こされる可能性があり 注意が必要である.

なお,本稿の要旨は第 59 回日本感染症学会東日本地方 会学術集会(2010 年 10 月 東京)において発表した.

謝辞:本稿を終えるにあたり,本症例の治療に対し御助 言頂いた聖マリアンナ医科大学整形外科の鳥居良昭先生に 感謝致します.

文 献

1)砂押克彦,生方公子:Streptococcus equisimilis感 染症.綜合臨床 2008;57:2686―91.

2)生方公子,砂押克 彦,小 林 玲 子,奥 住 捷 子:C 群および G 群溶血性レンサ球菌による侵襲性感 染 症 に つ い て の ア ン ケ ー ト 調 査.感 染 症 誌 2006;80:480―7.

3)広瀬保夫:A 群以外のレンサ球菌による劇症型 感染症.化学療法の領域 1997;13:2084―8.

4)Hashikawa S, Iinuma Y, Furushita M, Ohkura T, Nada T, Torii K,et al.:Characterization of group C and G streptococcal strains that cause streptococcal toxic shock syndrome. J Clin Mi- crobiol 2004;42:186―92.

5)Gerlach D, Köhler W, Günther E, Mann K:Pu- rification and characterization of streptolysin O secreted by Streptococcus equisimilis(group C).

Infect Immun 1993;61:2727―31.

6)Kalia A, Bessen DE:Natural selection and evo-

(4)

C 群溶連菌による敗血症性化膿性脊椎炎 511

平成23年 9 月20日

lution of streptococcal virulence genes involved in tissue-specific adaptations. J Bacteriol 2004;

186:110―21.

7)椎木創一,遠藤和郎,八幡照幸:当院における Streptococcus equisimilisの動向について.感染症 誌 2008;82:576.

8)千村百合,吉田 敦,鈴木里和,石川貴敏,森 伸晃,安中めぐみ,他:Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis敗血症の臨床像と予後.感染症

誌 2008;82:107.

9)佐藤公昭,永田見生:最近の化膿性脊椎炎の動 向.整・災外 2009;52:21―8.

10)Kumar A, Sandoe J, Kumar N:Three cases of vertebral osteomyelitis caused by Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis. J Med Microbiol 2005;54:1103―5.

11)Werner Z:Vertebral osteomyelitis. N Engl J Med 2010;362:1022―9.

A Case of Acute Septic Osteomyelitis Onset due toStreptococcus dysgalactiaesubsp.equisimilis in an Elderly Diabetic Patient

Keito TORIKAI1), Yukitaka YAMASAKI1), Takaaki NEMOTO1), Osamu ISHII1), Taeko TAKAGI2), Hiromu TAKEMURA2)& Takahide MATSUDA1)

1)Division of General Internal Medicine, Department of Internal Medicine and2)Division of Laboratory Medicine, Department of Infection Control, St. Marianna University School of Medicine

Group C streptococci are increasingly causing invasive infections such as that we report here. A 70- year-old man being treated for diabetes and seen at the emergency room for neck pain and fever was hospi- talized for possible sepsis. His temperature was 39.8℃, regular pulse 101bpm, and pain reinforced in flexing and cervical rotation. Streptococcus dysgalactiaesubsp. equisimilis(SDSE) was cultured from blood. Neck pain gradually decreased with of 2 million units PCG 6 times!day. Magnetic resonance imaging (MRI) of the cer- vical spine showed high-intensity areas in fat-suppression imaging at C7, Th1 and intervertebral disks plus enhancement around the vertebral body, yielding a diagnosis of cervicothoracic vertebral osteomyelitis.

Antimicrobial intravenous therapy continuede 6 weeks. The man was discharged after 45 days without re- lapse.

〔J.J.A. Inf. D. 85:508〜511, 2011〕

Table 1 Laboratory findings

参照

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