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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 杉 木 孝 司

学 位 論 文 題 名

重症左心不全患者に対する左室形成術の 心筋酸素代謝効率からみた治療効果の検討

学位論文内容の要旨

【背景と目的】重症左心不全症例に対してわれわれは左室形成術(SVR)や僧帽弁複合体再建 術(MCR)を行 い臨床症 状の改善 を得ている。しかし臨床症状の改善と左室駆出率(EF)など の 収 縮機 能 の 指標 と は 必ずし も一致せ ず,臨床 症状改 善のメカ ニズム は不明で ある。

  SVRは左室 容積を減 少させ, 左室形態を楕円形に整えることで心筋酸代謝効率を改善す ると 期待でき る術式 である。SVRは拡張型心筋症(DCM)や虚血性心筋症くiclvDによる心不 全患者において,その予後を改善するとされる。

  当科 では重 症心不全 症例に対 しSVRを積極的に施行し比較的良好な成績を得てきた。そ こ で ,当 科 で 外科 的 に 重症左 心不全症 例に対し てSVRを施行し た前後 でiiC‑酢酸PETお よび 心エコー を用い て非侵襲 的かつ定量的に心筋代謝効率を評価し,SVRによる臨床症状 改善のメカニズムを検討した。

【 方 法】2006年9月か ら2008年8月ま で に 北海 道 大 学病 院 で 手術 を 施 行し たEF40% 未 満 のDCM症 例5例 ,ICM症 例5例 を 研 究 対 象 と し , 正 常 心 機 能MR症 例7例 を 比 較 対 象 とし た。平均 年齢62.8土10.9歳,男 性12例,女 性5例。手術 術式は 症例によ り必要な術 式 を 選択 し た 。そ の 内 容と し て ,SVR群(DCM,ICM症例 ) に 対し て はSVR10例 ,MVP10 例 を 施行 し た 。併 施 手 術と し てICM症 例 に対 す る 冠動 脈 バ イパ ス(CABG)5例 ,MAZE手 術6例, 三 尖 弁形 成 術(TAP)10例を施行 した。 また,MVP単独施 行群(MR症例) に対し て はMVP7例 を 施 行 し , 併 施 手 術 と し てCABG2例 ,MAZE手 術5例,TAP4例 を 施 行し た 。 対 象 症例 に 対 して 手 術 前後で 経胸壁心 エコーに よりEDV,ESV,SV,EFを 測定した 。ま た ,MRを 治 療し た こ とを 考慮し 手術前後 でのforward EF (forward EF=SV7EDV)を評価 した。

【心 筋酸素代 謝:11C―酢酸PET] PETにより計測できる11C‑酢酸の洗い出し速度を計測す るこ とでTCA回路の 機能を評 価し,非侵襲的かっ定量的に心筋全体や局所心筋での心筋酸 素代謝を評価することができる。

【心筋酸素代謝効率:  Work Metabolic Index (WMD】心筋酸素代謝効率を定量的に評価す る た めにWork Metabolic Index (WMDを 求 めた 。WMIは11C― 酢 酸PETを 用い て 計測し た 酢 酸の 代 謝 速度 定 数 (km。n0) を 用 い次 式 で 算出 した。WMI=SVIX HRX SBP7kmono.

【結果】

・ SVR施行群

  手術 死 亡 例は な か った 。NYHA分類 は3.1土0.6か ら1.2土0.4(Pく0.01)と有 意に改善 し た 。HR (/min)は70士11か ら84士18Qく0.05)と 有 意に増 加した。 また,収 縮期血 圧 mmHgは103土18カゝら96土13(Pく0.05)と有意に減少した。rate pressure product (RPP:

HRX SBP  mmHg7min)は7,194土1,524から7,964土1,470 (P=0.09)と増加する傾向があ った。EF(%)は24.8土7.1から30.2土5.9 (P=0.07)と改善する傾向があった。forward EF(%)

は18.9土6.8から35.6土12.2くPく0.01)と有意に改善した。ESVI (111l/I12)は108.1土29.2 か ら66.4土26.5(Pく0.01)と有意に 減少し た。SVLVOT(mDは42.2土7.4から49.0土14.0

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くP=O.10)と有 意な 変 化は 認め なか った 。kmono( /riiri)は術 前は0.046土0.005と 当院におけ る 基 準 値0.059よ り 有 意 に 低値 くPく0.01)であ り, 術後 は0.048土0.005 (P=0.28)と 変 化し な か っ た 。WMI(mmHg.ml/m2)は(4.04+1.30)Xl06か ら(5.09土0.99)Xl06くPく0.05)と 有 意 に 増 加 し た 。 ま た ,kmonoに つ い て は 前 下 行 枝 領 域, 回旋 枝領 域, 右 冠動 脈領 域で の 領域 別 の 変 化 を 解 析 し た が , い ず れ も 有 意 な 変 化 を 認 め な か っ た 。 ま た ,DCM群 とICM群 で の 各 数 値 の 変 化 に つ い て 解 析 し た が , い ず れ の 数 値 もDCM群 とICM群 で 手 術 前 後 で の 変 化 量にっい ては有意差を認めなかった。

・ MVP単 独施行群

  MR症 例 で はESVI(IIll/II12)は26.4土13.5か ら23.7士5.8(P=0.64),SVLVOT(mDは62.3 土10.2か ら50.6土11.2 (P=0.14)と い ず れ も 有 意 な 変 化 は 認 め な か っ た 。EF(%) は64.1土 9.4か ら53.7土5.9(Pく0.05)と 有 意 に 低 下 し た 。RPP mmHg/minは6,963土1,428か ら 8,872士1,480(Pくo.o01)と有意に 増加した。ForwardEF(%) は48.0土18.7から60.7土9.5

(P〓0.27冫と変化は認めなかった。kエ。n0(/min)は0.060士0.009と当院における基準値と有 意差はな く,術後は0.054土O.008(Pく0,01)と有意に減少し た。WMI(mmHg.mVm2)は(4.53 土1.40)X106か ら (5.25土0.85)X106く P=0.36) と 変 化 は 認 め な か っ た 。

【 考 察 】 本 研 究 に お い てMR群 で はMVPに よ りkエ0n0は 有 意 に 減 少 し た 。 こ れ は 左 室 容 量 負 荷 に よ り 増 大 し たkエon0が 低 下 し た も の と 考 え ら れ る 。 す な わ ちMR例 で のMVPの 効 果 は,亢進 していた酸素代謝を低下させ ることにあると思われた。

  DCM,ICM症 例 に 対 し て は 左 室 縮 小 手 術 を 施 行 し て い る た め 有 意 に 左 室 容 量 は減 少 した 。 ま た , こ れ に も 関 わ ら ずSVが 増 加 す る 傾 向 に あ っ た こ と は , オ ー バ ー ラ ッ ピ ング 型 の左 室 形 成 術 で 左 室 の 形 態 を 整え る こと によ り循 環動 態 が改 善し ぃ′LvoTの 増加 にっ なが っ たと 考 えられた 。

  今 回 の 検 討 で はSVR群 で は 術 前kエono値 は 基 準 値 よ り 低 い 数 値 を 示 し て い た が , 手 術 後 のkエ 。n0は 術 前 と 有 意 な 変 化 を 認 め な か っ た 。 両 群 と もMRを 術 前 に 合 併 し て お り .MRを 修 正 し 左 室 容 量 負 荷 が 減少 し たこ とで 心筋 酸素 代 謝は 減少 する こと に なる が, それ と 相殺 す る よ う に 左 室 形 成 術 に よ り 術 前 か ら 低 下 し て い た 心 筋 酸 素 代 謝 が 増 加 す る も のと 考 えら れ た 。 虚 血 心 筋 に 対 す る 血 行 再 建 で も 心 筋 酸 素 代 謝 が 増 加 す る が , 本 研 究 に お い てDCM群 と IC:M群 で は そ の 変 化 に 違 い は 認 め ら れ な か っ た こと から ,拡 大し た 左室 容量 を減 少 させ , 左 室 の 形 態 を 整 え る こ と が 心 筋 酸 素 代 謝 を 増 加 さ せ る こ と に っ な が る も の と 考え ら れた 。   SVR施 行 群 で は ,Simpson法 で のEFで は 有 意 差 は な ぃ が 改 善 す る 傾 向 に あ り , ま た , forwardEFは 有 意 に 改 善 し た こ と か ら 、SVRに よ り 循 環 動 態 が 改 善 し た こ と を 示 し て い る と考えら れ、臨床症状の改善を示して いると考えられた。

  本 研 究 に お い て , 正 常 心 機 能 のMR症 例 で は 術 後 にkエ0n0が 減 少 し ,WMIは 変 化 し な か っ た が ,DCM,ICM症 例 で は 術 後 にkロ10n0が 変 化 せ ず ,WMIが 増 加 し た 。 こ の こ と よ り , MCRを 伴 う 左 室 形 成 術 の 効 果 はMRを 修 正 す る こ と に よ る も の と は 異 な り , 心 筋 酸 素 代 謝 を 変 化 さ せ る こ と な く , 心 筋 代 謝 効 率 を 増 加 さ せ る こ と に よ る と 考 え ら れ た 。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

重症左心不全患者に対する左室形成術の 心筋酸素代謝効率からみた治療効果の検討

  本研究の目的は,重症左心不全患者に対する左室形成術および僧帽弁形成術の治療効果 が心筋酸素代謝や心筋代謝効率に対してどのような変化を及ばすかについて検討すること である.

  2006年9月 か ら2008年8月 ま で に北 海 道 大学 病 院 で手 術 を 施行 し たEF40% 未満 の DCM症 例5例 ,ICM症 例5例 を 研 究 対 象 と し ,SVR群 と し た . ま た , 正 常 心 機 能MR 症例7例を比 較対象 とし,MVP単独 施行群と した. 平均年齢62.8土10.9歳. 手術術式 は 症例によ り必要 な術式を 選択し た.対象症例に対して手術前後で経胸壁心エコーにより EDV,ESV,SV,EFを測定し た.ま た,MRを治 療した ことを考 慮し手術前後でのforward EF (forward EF=SV/EDV)を評価した.

  心筋酸素 代謝はPETによ り計測 できる11C一酢 酸の洗い 出し速度を計測することでTCA 回路の機能を評価し,非侵襲的かつ定量的に心筋全体や局所心筋で評価することができる.

  心筋酸素 代謝効 率を定量 的に評 価するた めにWork Metabolic Index (WMDを求めた.

WIVIIは11C―酢酸PETを用いて計測した酢酸の代謝速度定数くkD1。n0)を用い次式で算出した.

WMI=SVIX HRX SBP7kmono.

  手 術 施行 全 例 にお い て 手術 死亡 例はなか った.SVR群で はNYHA分類 は有意に 改善し た.HRは有 意に増加した.また,収縮期血圧は有意に減少した,rate pressure product は増加す る傾向 があった .EFは改 善する傾向があった,forward EFは有意に改善した.

ESVIは有意に減少した.SVLVOTは有意な変化は認めなかった.kmonoは術前は当院におけ る基 準 値 より 有 意 に低 値 で あり , 術 後 は変 化 し なか っ た,wrvnは 有意に 増加した .   MVP単 独 施 行群 で はESVI,SVLVOTはいずれ も有意 な変化は 認めな かった,EFは有意 に低下 した.RPPは有 意に増加 した,Forward EFに変化 は認めな かった .kmonoは 当院 における 基準値と有意差はなく,術後は有意に減少した.wrviiは変化は認めなかった.

  本研究 におい てMVP単 独施行 群ではkmonoは有 意に減少 したこと から, 左室容量 負荷 により 増大し たkmonoが 低下し たものと 考えられ る.す なわちMR例 でのMVPの効果 は,

亢進していた酸素代謝を低下させることにあると考えられた.

  SVR群に 対しては左室縮小手術を施行しているため有意に左室容量は減少した,また,

これにも 関わら ずSVが増加 する傾 向にあったことは,オーバーラッピング型の左室形成 術で左室 の形態 を整える ことに より循環動態が改善しSVLVOTの増加にっながったと考え

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郎 良

喜 長

居 木

松 玉

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

られた.今回の検討では

SVR

群では術前kmono値は基準値より低い数値を示していたが,

手術後のkエ。n。は術前 と有意な変化を認めなかった.本研究においてDCM群とICM群で はその変化に違いは認め られなかったことから,拡大した左室容量を減少させ,左室の形 態 を 整 え る こ と が 心 筋 酸 素 代 謝 を 増 加 さ せ る こ と に っ な が る も の と 考 えら れた .

  SVR

施行 群で は,

Simp son

法でのEFでは有意差はなぃが改善 する傾向にあり,また,

forward EF

は有 意に改善したこと から、SVRにより循環動態が 改善したことを示してい ると考えられ、臨床症状 の改善を示していると考えられた。

  

本研究において,正常 心機能のMR症例では術後にkmonoが減少し,WIvIIは変化しなか ったが,DCM,ICM症例で は術後にkmon。が変化せず,wrviiが増加した,このことより,

MCR

を 伴う 左室 形成 術 の効 果は

MR

を 修正 する こと によ るも のと は異 なり ,心筋酸素代 謝 を 変 化 さ せ る こ と な く , 心 筋 代 謝 効 率 を 増 加 さ せ る こ と に よ る と 考 えら れた .

  

公開 発表 では ,副査の筒井教授 からWMIと術前,術後での変 化の臨床的な規定因子,

臨床症状との関連,心機 能との関連に関して,玉木教授からwrviiの意義について,MVP 単 独施 行群 で術 後の

wrvn

が増 加し ない こと に関して,主査の 松居教授からwrvnと予後 の 関係 ,本 研究 に正常心筋である

MVP

症例も同時に施行した理 由について等,質問がな された.これらの質問に 対し,申請者は自らの研究の結果,この分野に関する文献などを 基に,誠実にかっ妥当な 回答を成しえた.

  

本研 究は

SVR

によ る心筋酸素代謝からみた治療効果,臨床症 状を改善する機序解明の 一端を担ったものであり ,心筋症に対する治療の適応やその予後の評価に関して重要な寄 与をしうるものと評価さ れる.

  

審査員一同は,申請者 の学識に合わせて,この研究が関連領域研究と臨床成績の進展に 成果を評価し,大学院課 程に韜ける研鑽や単位取得なども併せ申請者が博士(医学)の学 位を受けるのに充分な資 格を有するものと判定した.

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参照

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