貝殼 中微 量 重 金 属 の キ レー ト樹 脂 フ レー ム原 子 吸光 に よ る分 析 法 の検 討
井 上 節 子 武 田 三千代
貝殻 中 の微 量 金 属(Cd,Cu,Fe,Mn,Pb,Zn)をChelex100樹 脂 を用 い て分 離 定 量 した 。塩 酸 で H形 に したChelex100樹 脂 をpH6に 保 ち,そ こへ250ml溶 液 に溶 か した 貝殻 試 料 を通 し,微 量 金属 を吸着 させ,カ ル シ ウ ムか ら分 離 し た 。微 量 重 金 属 の回 収 率 は(70〜115)%で あ った 。
諸 言
わ た した ち は,微 量 分析 に 最適 な原 子 吸 光 分 析 を用 い て,Cd,Cu,Fe,Mn,Pb,Znの6種 類 の 重 金 属 の 貝 殻 中 に含 まれ る程 度 にお け る分析 方 法 を検 討 し て来 た 。特 に 貝 殻 中の 微 量 元 素Cd,Pbは,濃 縮 しな い限 り測 定 は不 可 能 で あ る 。 また,貝 殻 中 には 炭酸 カ ル シ ウム が95%も 含 まれ て い るの で,カ ル シ ウ ムの 妨 害 を除 か な くて は な
らな い 。 これ らの 事 に関 し て私 た ち は,先 に硫 安 に よる 方 法1),溶 媒 抽 出 法i),Zr共 沈 法1)で検 討 した が,硫 安 に よ る方 法 は再 現 性 が非 常 に悪 く,ま た,溶 媒 抽 出 法 は, 妨 害 元 素 か らの分 離 濃 縮 に有 効 で あ るが,操 作 が 煩 雑
で あ る な どの 点 に 問題 が あ っ た 。
前 処 理 に キ レー ト樹 脂 を利 用 した例2)〜4)にみ られ る よ うに,Chelex100樹 脂 は 中性 付 近 で多 くの 重 金 属 と,極 め て強 い 親 和 性 を示 す 反 面,ア ル カ リ金 属 ハ ロゲ ン元 素 とは ほ とん ど親 和 性 を持 たず5),上 記 の3つ の 方法 に 比 べ て,カ ル シ ウ ム除 去 の 前 処 理 が 簡 単 で あ る こ とが 知 られ て い る 。 そ こで この 樹 脂 を用 い て,含 有 元 素 の 濃 縮 カ ル シ ウ ム の除 去 とい う2点 に注 目 し,前 法 と比 較
し なが ら検 討 を進 め た 。
実 験
1.試 薬
塩 酸:和 光,SSG,硝 酸:和 光,SSG,酢 酸 ア ン モ ニ ウ ム 緩 衝 液:酢 酸(和 光,SSG)に,ア ン モ ニ ア(和 光, SSG)を 加 え て,pHメ ー タ ー でpH6に し,Chelex‑100 脂 を 通 し て 緩 衝 液 と し た 。 蒸 留 水100m1に 対 し て,こ の 緩 衝 液1mlの 割 合 で 加 え て 洗 液 と し た 。 炭 酸 カ ル シ ウ ム:和 光,特 級 各 種 金 属(Cd,Cu,Fe,Mn,Pb,Zn)標
準 溶 液:和 光,原 子 吸 光 分 析 用(1000ppm)を 適 宜 希 釈 し て 用 い た 。 キ レ ー ト樹 脂:Chelex‑100(100〜200
mesh)
2.装 置
フ レー ム原 子 吸 光:島 津AA‑610形
イ オ ン交 換 カ ラ ム:内 径15mm高 さ100mm の ガ ラ ス製 カ ラ ム 。
3.試 料
貝 殻:シ ジ ミ(4月 千 葉 県採 収, ハ マ グ リ(7月 入 手) 4.灰 化 操 作
先 に報 告1)し た 方 法 と同 じ 。 5.カ ル シ ウ ム 除 去 操 作
7月 山 中湖 採 収),
5‑1樹 脂 の調 整
市 販 のNa形 樹脂 を2drygを,2.0規 定 塩 酸 を加 え, 1時 問 ス ター ラー で攪 拌 して,H形 に した 後,よ く水 洗 して カ ラム に詰 めた 。次 に,2.0規 定 硝 酸100m1を 通 し, 最 後 にpH6の 洗 液 で,カ ラ ム内 の水 素 イ オ ン濃 度 をpH
6付 近 に した 。pHの 確 認 は,溶 出液 をpH試 験 紙 で調 べ た 。
5‑2イ オ ン交 換 処 理
試 料 溶 液(先 の1)抽出 法,Zr共 沈法 と同様)を 作 り, 含 有 量 の 多 い,Fe,Mn,Znの 場 合 は5ml(貝 殻29相 当), 含 有 量 の少 な い,Cd,Cu,Pbの 場 合 は25m1(貝 殻109 相 当)取 り,蒸 留水250mlを 加 え,次 い で3mlの 酢 酸 ア ンモ ニ ウム緩 衝 液 を加 え て,ア ンモ ニ ア水(1:1)を 添 加 しな が ら攪 拌 し,pHメ ー タ ー でpH6に 調 整 す る 。 流 速1.8ml/min以 内 で樹 脂 柱 の 中 を流 し て,Cd,Cu, Fe,Mn,Pb,Znを 樹 脂 に吸 着 させ,カ ル シ ウム か ら分 離
した 。 さ らに,約50m1の 酢 酸 ア ンモ ニ ウ ム洗 液 を流 し て,残 っ てい る カ ル シ ウ ム を除 去 した 。次 に,2.0規 定
(16)
研 究 紀 要 第22集 表1溶 液量 の回収率 への影響
Cd Cu Pb
CaCO3(g) 1液量(m1)醜 尹膿 釧 響i僑 袈鼻1婆 階 凹 野 欟 量1瓣i同 野
io
1
25040.OI37.593.8140.OI40.511011001'101101
10 500
49.4139.899.51‑40.038.OI97.811001.97.8197.8
20 500
40.030.275.5140.OI39.OI97.51 .100186..OI86.0
C・C・・(訓 液 量(ml) Fe Mn Zn
10
1
250100.{96.596.5110017.0017.00140.OI30.OI75.0
ra
1
500100195.6195.6100
一L40 .OI35.7189.320
i 500 ,.1100186.8186.8110016.4516.45.140.OI27.OI70ti2
硝 酸 を流 し て,吸 着 してい る微 量 元 素 をCd,Cu,Pbに っ い ては,20mlの メ ス フ ラス コ で定 量 捕 集 し,Fe,Mn,Zn に つ い ては,50mlの メ ス フ ラ ス コで 定 量捕 集 した 。 こ れ を原 子 吸 光 に か け定 量 した 。
6.測 定条 件
先 に報 告1)し た 方法 と同 じ。
結果 と考 察
諭
1.吸 着 へ のPHの 影 響
pH5〜7の 間 で,Cd,Cu,Fe,Mn,Pb,Znは 樹 脂 に 捕 集 さ れ る2),5)。 今 後 の 実 験 はpH6で 行 っ た 。
2.試 料 量 の影 響
共 存 す る カ ル シ ウ ム が,各 測 定 元 素 の回 収 率 に どの よ うな影 響 す る か を,炭 酸 カ ル シ ウム を試 料 と して 検 討 し た 。 図1の よ うに,Cd,Cu,Pbに つい て は,樹 脂29の
とき は,液 量250m1に 対 して,4%試 料 量 く らい まで が適 当 と思 わ れ る 。Fe,Mn,Znに つい て は,1%試 料 量 以 下 が適 当 と思 わ れ る 。
3.溶 液 量 の 影 響
試 料 に 炭酸 カ ル シ ウム を使 用 して溶 液 量 の 影響 を検 討 した 。 表1の よ うに,溶 液 量 は250m1で も500m1で も, 回 収 率 は ほ とん ど同 じで あ る 。 しか し溶 液 量 が 多 くな っ て も,試 料 量 が 多 くな る と回 収 率 が低 下 す る 。 この 点 に つ い て は,樹 脂 量 を変 えた 場 合 の 変 化 を現 在 検 討 中 で あ
る 。
4.溶 離 剤
溶離 剤 と して2規 定 硝 酸 を使 用 した 。塩 酸 の揚 合 は溶 離 帯 の 幅 が 広 が る傾 向 に あ る2)。Cd,Pbに つ い て は極 微 量 なの で,な る べ く少 量 で 溶 離 させ る必 要 が あ る 。 こ の 点 につ い て 検 討 した と ころ,表2の よ うに,2規 定 硝 酸 20m1で も,溶 離 が可 能 で あ る 。
5.残 存 力 ル シ ウ ム の 影 響
試 料 中 に カ ル シ ウム が 多量 に含 まれ て い る の で,Che‑
lex‑100脂 に 目的 元 素 と と もに,カ ル シ ウム が 吸 着 し て い る と考 え られ る 。事 実溶 離 剤 で溶 か した 最 終 測 定 試 料 溶 液 中に,約1000ppmく らい,含 くまれ てい る 。 こ の カル シ ウ ムが,原 子 吸 光 測 定 時 に,特 定 の 波 長 領 域 で 強 い 分 子 吸 光 を示 す6)卍11)6図2に,カ ル シ ウ ム を塩 酸 に
表2溶 離剤 の回収率へ の影響
溶 離 剤 ・} Cd Cu Pb
2N‑HNO3 (ml)
20 50
添 加量 (μ9)
測 定 量 (μ9)
40.0 37.5
40.0 39.5
回 収 率 (%)
添 加 量 (μ9)
測 定 量(
μ9)
回 収 率(%
)
添 加 量 (μ9)
93.S 40.0 40.5 101 100
.. 40.0 39.5 ... 100
測 定 量 (μ9)
回収率 (%)
1011101
99.2 99.2 試 所;CaCO310g溶 液 量:250ml
とか した もの,カ ル シ ウ ム を硝 酸 に 溶 か した もの の 吸光 曲線 を 示 した 。塩 化 カ ル シ ウム,硝 酸
カ ル シ ウム を蒸 留水 に溶 か した もの も,同 様 な 吸 光 曲線 を示 し た 。通 常 の方 法 で 測定 す る と, 目的 元 素 に よる,原 子 吸 光 値 と, カ ル シ ウム の分 子 吸光 値 との2 つ の 値 が 加 算 され て くる12)。従 っ て,そ の補 正 に は,光 源 に重 水 素 ラ ンプ を使 用 し,分 析 線 の 波 長 を,少 しは ず した所 で吸 光 度 を測 定 し,ホ ロカ ソー ドラ ン
プ で得 られ た吸 光 度 か ら差 し 引 い た 。 こ の よ うに して,そ れ ぞ れ の元 素 の標 準 曲線 につ い て検 討 した 。以 下 に各 元 素 ご との補 正 の結 果 を示 す 。
5‑1Cd,Zn
塩 酸 溶 液 中 で も,硝 酸 溶 液 中 で も,重 水 素 ラ ンプ を 使 用 し て,分 子 吸 光 値 を差 し 引 くこ と で,標 準 曲線 と等 し くな る 。従 って試 料 中 の カ ル シ ウ ム濃 度 を 別 に測 定 す る こ とな く,重 水 素 ラ ン プ に よ る測 定 値 を差 し引 く こ とで,標 準 曲 線 を利 用 す る こ とが 可 能 で あ っ た 。
5‑2Cu
塩 酸 溶 液 中 と硝 酸 溶 液 中 とで は,原 子 吸 光 値 が 違 うの で,別 々 の 標 準 曲線 が 必 要 で あ る 。 し か しそ の お の お の につ い て 重 水 素 ラ ンプを 使 用 し て,カ ル シ ウ ム に よ る分 子 吸 光 値 を差 し引 く こ とで,標 準 曲 線 を利 用 す る こ
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ZnCdFeMnPb,
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波 長(nm)
図2.カ ル シ ウ ムの 分 子 吸 光 曲 線
Ca塩 酸 溶 液:一 〇‑Ca4000ppm添 加Ca硝 酸 溶 液:一 △‑Ca4000ppm添 加 Ca塩 酸 溶 液:一 ●‑Ca2200ppm添 加
(is)
研 究 紀 要 第22集
とが 可 能 で あ った 。 5‐3Fe,Mn,Pb
塩 酸 に とか した とき は,重 水 素 ラ ンプ を使 用 して カ ル シ ウム の 分子 吸光 値 を差 し引 くこ とで,標 準 曲線 を利 用 す る こ とが で き る が,図3,図4,図5,に 示 す よ う
に,硝 酸 に溶 か した場 合 は重 水 素 ラ ンプ で,カ ル シ ウム の分 子 吸 光値 を差 し引 い て も標 準 曲線 と同 じに な らず, 低 い値 とな っ た 。 ま た,添 加 カ ル シ ウム濃 度 を 大 き く
す る と,そ れ に伴 っ て低 い 値 と な った 。そ れ 故 に,標 準 曲線 は測 定 試 料 中 の カ ル シ ウ ム濃 度 と同 濃 度 とな る よ う に,カ ル シ ウ ム を硝 酸 中 に入 れ 求 めた 。
6.結 果 と再 現 性
5‑2イ オ ン交 換 処 理 の 操 作 に従 って,各 測 定 目的 元 素 の貝 殻 中濃 度 の測 定 結 果 を,表3に 示 した 。今 ま で の3 方 法1)に 比 較 し て,良 効 な回 収 率 を得 る こ とカミで き た 。
表3樹 脂 法 に よ る シ ジ ミ,ハ マ グ リの分 析 結 果
元 素
Cd
Cu
Pb
元 素
Fe
Mn
Zn
試 料
シ ジ ミ*1 ハ マ グ リ*2
シ ジ ミ*1 ハ マ グ リ
シ ジ ミ ・i
添 加 量(
pug/ml) 0:09 0.09 0.45 0.45 2.25 ハ マ グ リ1
試 料
シ ジ ミ*3 ハ マ グ リ
シ ジ ミ*3 ハ マ グ リ シ ジ ミ*3 ハ マ グ リ
2.25
添 加 量(
,ug/ml) 10.o 10.o
i
2.000.20 2.00 2.00
測 定 量
(fig/ml) 0.09 N.D.
0.44
1
0.522.20
回 収 率(%)
100
[
試 料 濃 、度 (PPm) 0.02
1
97.8 116
1
2.05
測 定 量
(;ug/ml) 9.00 9.07 2.20 0.23 1.4s 1.71
97.8 91.1
回 収 率(%)
90.心
90.7
N.D.
1
2.070.47 0.65 0.82 試 料 濃 度(
ppm) 353
1
110 115
i
74.04.96
1
69.00.66
1
85.5
27.7 5.26
*i:4月 千葉県採取 試料濃度 は補正値
*2:7月 店 頭Y'て 入 手*3:7月w中 湖採 取
ま と め
キ レー ト樹 脂 に よ る カ ル シ ウ ム除 去 の 方 法 は,比 較 的 回 収 率 が よ く,操 作 が 簡 単 で あ るが,先 のZr共 沈 法 に 比 べ て,残 存 カ ル シ ウム量 が2倍 ほ どあ るの で,測 定 時 に お け る カ ル シ ウム に よる分 子 吸 収 が問 題 と な っ て く る 。今 回 は重 水素 ラ ンプ を使 用 して,分 子 吸 光 値 を差 し 引 く こ と を試 み た が,こ の方 法 に つ い て は,さ らに検 討 す る 必 要 が あ る と思 わ れ る 。 ま た,こ の樹 脂 の吸 着 機 構 を考 慮 した うえ で,使 用 樹 脂 量 と残 存 カ ル シ ウム量,試 料 中 の カ ル シ ウム量 と微 量 元 素 の 吸着 量 な どの 化 学 量 論 的 展 開 も進 め て い く予 定 で あ る 。
参 考 文 献
1)井 上 節 子,武 田 三 千 代:文 教 大 学 女 子 短 期 大 学 部 研 究 紀 要,21,6(19?7)
2)佐 藤 彰,及 川 友 子,斉 藤 憲 光:分 化24,584 ,(1975)
3)広 瀬 昭 夫,小 堀 健,石 井 大 道:日 化 会 誌
,900,(1974) 4)D.G.BiechlerAnal.Chem37,1054 ,(1965) 5)"SeparatingMetalUsingChelex‑100ChelatingRe‑
sin, Bo‑RadLaboratoriesTechnicalBulletin ,114 (1972)
6)H.HaraguchiandK.Fuwa:Anal.Chem .,48,784. .
(1976)
7)S.R.KoirtyohannandE.E.Pickett:Aral.Chem ., 37,601(1965)
8)H.HaraguchiandK.Fuwa:Anal.Chem.,48,784 (1976)
9)S.R:KoirtyohannandE.E.Pickett:Anal.Chem .,
38,585(1966)
10)K.FuwaandB.L.Vallee:Ana1.Chem.,41,188(1969) 11)K.Fujiwara,H.HaraguchiandK.Fuwa:Ana1,
Chem.,47,743(1975)
12)保 田 和 雄,長 谷 川 敬 彦:"原 子 吸 光 分 析,,講 談 社(サ イ ェ ン テ イ フ ィ フ イ ッ ク)