音刺激 に対 す る魚 の反応行動 の検討*
西 ノ首 英 之 ・藤 田 伸 二
On the Response of Fish to the Acoustic Stimulus*
Hideyuki NISHINOKUBI and Shinji FUJITA
It was most important to understand the behaviour of fish in case of the betterment of the current fishing gear and methods or the development of the fishing method by
acoustics.
This investigation has been attempted to provide for the prediction of the response action of fish to acoustic sound.
As the acoustic sounds for stimuli, the pure tones of the sine wave form at the frequencies of 500, 800, 900, 1000, 1500, 2000, 4000 and 6000 Hz were used. The over all length of the silver crucian carp, Carassius auratus (Japanese name HIBUNA) used in the experiment was 42mm in overall length and 3.45 g. in weight. The results obtained were as follows:
1) The characters of the response action were obtained by the statistical analysis of the stochastic processes, and this method was effectual.
2) The behaviour of the fish under the stimulus had two-sidedness, i. e., two contrary tendencies to rise or to diminish the action which the fish had shown at no stimulus.
These tendencies depended on the frequencies.
3) In this experiment, the frequency equivalent to the boundary of two-sidedness mentioned above was 900 Hz, which was in agreement with the resonance frequency of the air bladder of the fish.
緒 口
水 中 騒音 と漁 獲 との 関 係,水 中放 声 に よ る魚 群 の誘 致,威 嚇1)お よび テ ンプ ラノ イ ズ2)な ど,種 々 の研 究 に よ り水 棲 動 物 が水 中生 活 を す る上 で 音 響 を 最 大 限 に利 用 して い る ことが 明 らか に な りつゝ あ る。
漁 具 漁 法 の設 計,改 良,開 発,ま た音 響 に よ る漁法 の 研 究 開発 に お いて,最 も基本 的 あ るい は根 元 的 に必 須 の情 報 は魚 の 習性,行 動 の メカ ニ ズ ムで あ る。 魚 類 に か ぎ らず 動 物 の行 動 とい う現 象 は きわ めて 複 雑 で あ り, か つ 多 くの側 面 を も って い る。 行 動 の社 会 学 的 意 味 づ け まで 行 な い,行 動 を 生 物 学 的 に解 明 し行 動 の管 理技 術 を 確 立す る とい う事 が終 局 の 目的 に 沿 う事 で あ ろ う。 しか し,こ れ は至 難 の事 で あ る。 そ こで こ こで は 漁具 漁 法 の 改 良 の為 の魚 の行 動 のmachineryと い う一面 につ い て 基 礎 的 実験 研 究 を 試 み た 。
筆 者 は 漁船 漁 具 の 発 す る水 中騒 音 に 関 して,オ ッター トロール 網,以 西底 曳 網 お よび 旋 網 の操 業 中 の 水 中 騒 音 を集 測 した 。 これ ら測定 され た騒 音 の 周波 数 分 析 結 果 か ら騒 音 が 対 象 とす る魚 の反 応 行 動 に有 意 的 な 影 響 を 与 えて い る事 を考 察3)し だ 。 そ こで さ らに魚 の反 応 行 動 を よ り定 量 的 に考察 す るた め に本 研 究 を行 な い二,三
の知 見 を 得 た ので 報 告 す る。
本 論 に先 だ ち,本 研 究 の 機会 を与 え られ,実 験 計 測 器 の 利 用 に多 大 の便 宜 を 与 え られ た本 学 水 江一 弘 教 授,
*本 研 究 の一 部 は文 部 省 科学 試験 研 究 費 に よ って行 った。
36 西ノ首・藤田:音刺激に対する魚の反応行動の検討
竹村陽助教授に深く感謝する。
実験および解析の方法
1.実験水槽および刺激音放声装置
実験水槽はFig・1に示すような長さ150cm・幅90㎝・深さ20㎝の水槽を用い,水槽内1壁には刺激音の乱反射 を利用した吸音材として厚地の布を波型にし(波型の深さ約5 cm)内張りした。放声装置は水槽の長さ方向 120㎝の所を仕切り,図のように設置した。従って水槽 C 内で魚の行動出来る範囲はX軸方向に90㎝,Y軸方向に 、、 E 120㎝である。また水槽の底面には魚の行動軌跡の位置
NOOoヨ
ノ ノ ノ 1 , ノ 1 ノ ノ ノ 1 / / / ノ ノ ノ
︐ノノ
s N N N N N N N N t N N N N t N O. Ul D
9ヨ
。 E,
o→llよ×了一llO ΦO∩ヨー1⊥
o−50d8 0o8︒
o
−40 0
む む
一30 −10 0 0
O / O 1 0
o /o o( o
Ok O O N O o o
︒ご 0 O\O
120cm 一30cm一,l
O−y 120
Fig. 1. Experimental installation.
A: underwater speaker B: cloth for sound absorption C: continuous recording camera D: water tank
謹一魚
丁
魚群の場合には破線で示すような出力である行動そのものが互に他の魚に対してさらに入力となることが考 えられる。本実験においては一尾の単体実験であるからこのフィードバック系は考慮しない。不規則な出力の 確率過程とする時系列データは次のようにして得られる。実験水槽の横と縦をX,Y座標にとり,1秒間隔に
読み取り用として,10㎝間隔の線を縦横共に目盛った。
刺激音としてはサイン波形の純音を用い,その周波数は 500,800,900,1000,1500,2000,4000および6000Hz の8種類とさらに比較検討のために無刺激の場合につい て魚の行動を測定した。なお実験水槽内の音圧分布は不 均一で特にY軸方向はその差が大きい。各周波数につい て測定を行ったが一例としてFig.1に500Hzの場合を
示す。
2.供試魚およびその行動の記録装置
数十尾を一緒に飼育中のrヒブナ』の群がら実験水槽 に対して大き過ぎずまた約2m上方からのカメラ撮影に 可能な体長の一尾を選び実験に用いた。体長は42mm,体 重は3.45gであった。刺激純音の各周波数ごとに魚の行 動軌跡を1秒間隔に800コマ (約13分間)シンクロスコ ープ用連続撮影装置により連続記録した。記録に際し て,周波数の異なる刺激音を放声する一実験ごとに約15 分の休息をとり,その間は供試魚は一たん実験水槽から 他の水槽に移しておいた。実験水槽に放声開始してから 供試魚を放しその後さらに1分経過してから記録を開始 した。これは水槽に対する魚のrなれ』と行動の過渡現 象記録を避けるためである。
3.魚の運動の応答特性の統計的性質
魚の行動は多面的であるが行動するのは個々の個体で ある。従って行動のmachineryを考える場合には,行 動は個体のある種の刺激となる入力に対する応答であ る。よって本実験の場合,音刺激を入力として出力が魚 の応答系の行動である。またこれらには定常性,エルゴ ート性の近似が成り立つと仮定すれば次のような線形応 答系が考えられる。
行 動
1
9 (出力)i
読み取られた魚の位置をX(t),Y(t)とする。すなわち記録から魚の位置を時間tの関数として読みとる。次 にX(t),Y(t)の微分係数X(t), Y(t)を定常時系列として変動現象の解析によく用いられる相関法4〕により自 己相関係数およびパワースペクトラム計算を行い魚の行動現象を線形モデルとしてのアプローチを試みた。
結果および考察
実験水槽にx軸,Y軸方向共に幅10cmの間隔をそれぞれとり魚の運動の相対度数分布をFig.2に示す。この 図から,魚は刺激音すべての周波数に対して,また無刺激の場合においても側壁に沿って運動している事がわ e/o
50
x
40 30 20
10
O P
Y 0 0.5KHご
x O.8 ら j O.9 . A 1.5 ・・
口 2.0 ・
. Nit
/
Fig. 2.
かる。なお省略した4000,および6000Hz % についても2000Hzにほぼ等しい分布で 30 あった。Fig.1に示したように水槽内の音 圧分布は最大55dBの差があるが900Hzを 除いては度数分布から見て音圧差の影響は 認められない。X軸について,音圧分布は 水槽の中心に対してほぼ左右対称であり,
度数分布もほぼ対称形である。x, Y共に20 900Hzの場合のみ他の周波数と異なる分布 をしている。特にY軸について音圧の高い 所に多く分布している。実際,実験時の観 察でも放声器の近くで魚が長い時間静止し ている現象からたびたび見られた。Fig・3 は1秒間に平面内で魚が実際に動いた距10
0
23456789VO 1234 567
×10cm xlOcm
Distribution of fish in the experimental water tank.
離すなわちD(1)一V文(1)・+マ(1)・,
1=1,2,…,Nで表わされる量の1 cm毎 の度数分布を示す。この図によれば,各周 波数における魚の行動の相違が明らかに認 められる。分布型としては900Hzを除き レイレイ分布をなしているが500および 800Hzでは分布の対称の中心がσだけ移
︒ 撚
Ili .VL>fi
li :・
●・︑
D
媒
X1\
X
8 9 1011 12
O O・5 KHz E=1 1 7. 79 1 95
x O.8 = 70.51851 e O.9 = 12.51003 0 1.0 一 = 31.54083 A 1.5 = 21.35411
ロ 2.0 ・・ = 36.44039 X 4.0 = 27. 594 30
. 6.0 = 2734529
・ Nil F 38.97594
鮒
︑
Fig. 3.
5 10 1−5
Distribution of fish s speed.
20 25cm
38 西ノ首・藤田:音刺激に対する魚の反応行動の検討
適した正規分布とも見なされる。900Hzのみは他に較べ特異な分布をなし運動量は少なく大部分が3 cm/sec以 内である。Fig・4,5はX(t), Y(t)の各周波数におけるパワースペクトラムを示す。この図から,魚は500お
2cm;sec
2xlO
20
10 ︑ h︵ x\\〜臨
︐﹂.﹁ ︒X
o O.s KHz o 2=1 67.7 75 96 x O認3 ・ け二98.58170 e O.9 一 = 23.48993 0 1.0 一 = 54.395 54 A 1.5一 ・, = 37.79364 ロ 2.0〃 〃 = 43.56520 図4.0 )t二40.84679
. 6.0 ,t = 3954t93
・ N = 53.99tO3
0 80 40 20 10 8
Fig. 4. Power spectra of longitudinal component of fish s speed.
2crnちsec
2
i.10
20
10
ノ捌 樋嵐 ︐Y
x
O o.sKHz o 2=268.ssssg x O.8 ・t =147.56593 e O.9 ,, ・・ = 15.96611 e 1.0 n = 57 .18259
▲ 1.5 り 〃 二 37.71124 ロ 2.0 り ・, = 82.77354 團 4.0 ・ 〃 = 55.78136
. 6.0 一= 54.89919
・ Nit .= 87.93098
tr x:『浄x o
6,4 sec 80 40 20 10 8 6.4 se c.
Fig. 5. Power spectra of transversal component of fish s speed.
よび800Hzの刺激音に対して約32秒の卓越した周期をもつ運動をしている。周波数が高くなるに従い運動周 期も長くなり無刺激の場合と等しい50〜60秒となる。運動量もまた少なくなっている。なかでも900Hzに対 する運動が最も少なぐ運動の周期成分も認め難い程度である。Fig.6はX(t), Y(t)およびD(t)の平均値を 各周波数ごとにプロットしたものである。図において,実線,破線および一点鎖線で示された直線は無刺激の
mO
ハし1邑
5
o
.
Q. ・X・YD 一=昌
O●X
Fig. 6.
v
Nit .s .9 2 4 6 KHz
Characteristics of fish s average speed in response to acoustic stimulus at various frequencies.
場合の運動量の平均値である。この図から500,800Hz と周波数が高くなるに従って魚の運動は少くなる傾向に あり,900Hzで最少となる。さらに周波数が高くなる と運動量の平均値は高くなるが無刺激の場合の平均値に 等しくなる。Y(t)は他に較べやx少ない2割減となっ
ている。
以上のような魚の刺激音に対する反応行動の統計解析 結果から,実験に用いたrヒブナ』について言える事は 最も影響を及ぼしている刺激音の周波数は900Hzであ り次いで800Hzまたは500Hzと考えられ,現象とし ては二面性が認められる。すなわち,行動が鈍くなる面
と逆に活発となる性質である。本実験においてはこの両 面の境界ともいえるべき周波数は800あるいは900Hzで ある。これら周波数の値から次のような事が考えられ る。魚の音に関する感知器官としてrうき袋』が重要な 役割を持っている事はよく知られている。うき袋の音に 対する共振周波数は,魚が水中で常に中正比重を有する と仮定して,魚体重よりうき袋の半径が求められる5)。さらに半径より共振周波数が算出できる。体重3.45g,
魚の平均遊泳水深15㎝,魚肉比重1.060,水の比重1.000から計算したうき袋の半径は3.53mmである。さらに共 振周波数は903Hzとなった。一方,実験終了後に供試魚を解剖、し水深15㎝の所で得られたうき血中の空気容量 はうき袋の大きい方で1.15C.a,小さい方でO.270aであった。それぞれの容量よりうき袋が球と仮定して逆算し た半径は6.5mmと4.OMIIvとなり,この半径に対する共振周波数はそれぞれ491Hz,797Hzである。これらの事
か ら行 動 に影 響 を 与 え て い る と考 え た刺 激音 の周 波 数,900,800お よ び500Hzが 妥 当 で あ りま た線 形 モ デ ル に よ る定 量 化 が 適 当 で あ った と考 え られ る。 さ らに今 後 の 課 題 と して,大 き さの 異 な る魚 を対 象 に検 討 を 重 ね,水 槽 の形 や 音 圧 分 布 の改 善,群 行 動 の考 察,ま た うき袋 の な い魚 につ いて の 実験 検 討 な ど多 くの問 題 が残 され て い る。
要 約
体 長42㎜,体 重3.45gの『 ヒ ブナ』 を用 い て,入 力 と して8種 類 の周 波 数 の 刺 激純 音 を与 え,こ れ に対 す る 魚 の反 応 行 動解 析 を試 み た。 実験 の結 果 は次 の 通 りで あ っ た。
1)不 規 則 な生 物 行 動 現 象 の解 析 に おい て も確 率 過 程 と して の取 扱 い が 有効 で あ った。
2)魚 の音 に対 す る反 応 行 動現 象 は音 の 周 波 数 の相 違 によ り運 動 が よ り活 発 に な る傾 向 と逆 に 不活 発 と な る 傾 向 の 二面 が あ る。
3)上 記 した二 面 性 の境 界 と もい うべ き音 の周 波 数 は 魚 の うき袋 の共 振 周 波 数 と一 致 して お り,反 応 行 動 と う き袋 の役 割 り との 関係 が充 分 考 え られ る。
文 献
1)橋 本 富 壽,間 庭 愛信:音 響 に よ る魚 群 の誘 致 威 嚇 に関す る研 究(2) .漁 船 研 技 報,20(3),1‑5(1966) 2) TAKEMURA, A.: Studies on the underwater sound—II. *7,14-;, 28, 31-41 (1969)
3)西 ノ首 英 之:漁 船 お よび 網 漁具 の操 業 中 に発 す る水 中騒 音 につ い て.本 誌,29,91‑102(1970)
4) CAPEN, R. L.: Swimbladder morphology of some mosopelagic fish in relation to sound scattering, U. S. Navy Electronic Laboratory Research Report. 1447, (1967)
5)椹 木 義 一,砂 原 善 文:統 計 学 的 手 法 に よ る 自動 制御 理 論,オ ー ム社,東 京,29‑72(1967)