2019 年度 学位論文(修士)
超小型衛星との相性の良い多用途の推進系 の長寿命化に関する研究
Study on Life Extension for Microsatellite-Friendly Multi-Purpose Propulsion System
2020 年 1 月 24 日
首都大学東京大学院
システムデザイン研究科 システムデザイン専攻 航空宇宙システム工学域 博士前期課程
18863629 中村 健二郎
指導教員 佐原 宏典
教授摘要
本論文では,研究室で開発中の「超小型衛星との相性の良い多用途の推進系」(以下,MFMP-PROP)
の寿命評価および長寿命化へ向けた検討を行う.
従来の人工衛星は大・中型衛星に多くの機能を盛り込んだものが主流だったが,
2000
年代初頭に重量50kg
の超小型衛星が提案されて以来,超小型衛星の開発が世界中で広まり,その打上げ機数は年々増加 している.近年,超小型衛星自体の技術実証を目的とした段階から,超小型衛星が実用的なミッション を担う段階に移行している.超小型衛星が実用的なミッションを行うには推進系の搭載が必要となる.従来の大・中型衛星には,推進剤にヒドラジンを用いた推進系が多く搭載されてきた.しかし,ヒドラ ジンは人体に対する高い毒性があり超小型衛星との適合性が低い.そのため,ヒドラジンに代わる低毒 性推進剤を用いた推進系が必要となる.
本研究室では超小型衛星との適合性の高い推進系「MFMP-PROP」の開発を行っている.推進剤には 民生品として入手可能で,人体への毒性の低い
60wt%過酸化水素水とエタノールを利用し,また推進系
の構成部品に民生品を多用することで低コスト化を図り,超小型衛星との親和性を高めている.MFMP- PROP
には,過酸化水素を触媒層で水と酸素に分解して噴射する一液式モードと,過酸化水素とエタノ ールを触媒層で燃焼して噴射する二液式モードがあり,同一のスラスタで作動できる.一液式モードは 軌道上実証済みであり,二液式モードは定常作動及び大気圧下での基本性能取得を完了した段階である.しかし,両モードともに短時間の噴射を複数回繰り返し行うことで性能が低下することが課題となって いる.そのため,本研究では一液/二液式それぞれのモードで長時間作動した時の推進系の寿命評価を行 うこととした.推進系の寿命は触媒の劣化による反応性の低下が主要因であるため,実験前後の触媒を 対象に電子顕微鏡と元素分析装置による観察及び分析を行い,触媒の劣化原因を推定した.さらに,推 進系を長寿命化する方法について検討した結果についても言及した.
目次
第 1 章 序論
1
1. 1
背景 ...11. 1. 1
低毒性推進系 ...11. 1. 2
超小型衛星の利用拡大 ...21. 1. 3
超小型衛星と推進系の適合性 ...31. 2
目的 ...3第 2 章 超小型衛星との相性の良い多用途の推進系
4 2. 1
推進系の概要と,利用する推進剤 ...42. 1. 1
推進系の概要 ...42. 1. 2 60wt%過酸化水素水 ...5
2. 1. 3
エタノール ...52. 2
一液式モードの作動原理と現状 ...62. 3
二液式モードの作動原理と現状 ...72. 4
触媒 ...8第 3 章 一液式モードの寿命評価
9 3. 1
一液式モードの寿命評価 ...93. 1. 1
実験装置 ...93. 1. 2
実験条件 ...103. 1. 3
評価方法 ...103. 1. 4
結果 ...123. 1. 5
考察 ...153. 2
予熱による推進系の長寿命化 ...173. 2. 1
実験概要 ...173. 2. 2
結果 ...173. 2. 3
考察 ...193. 3
触媒の活性回復の検証 ...203. 3. 1
実験概要 ...203. 3. 2
結果 ...203. 3. 3
考察 ...21第 4 章 二液式モードの寿命評価
22 4. 1
二液式モードの寿命評価 ...224. 1. 1
実験装置 ...224. 1. 2
実験条件 ...224. 1. 3
評価方法 ...234. 1. 4
結果 ...234. 1. 5
考察 ...264. 2
混合比の違いによる寿命への影響評価...274. 2. 2
結果 ...284. 2. 3
考察 ...29第 5 章 結論と今後の展望
30
5. 1
結論 ...305. 2
今後の展望 ...30参考文献
31
付録 A 観察・分析装置
33
A. 1
走査型電子顕微鏡(SEM) ...33A. 2
エネルギ分散型X
線分析(EDS) ...34図目次
図 1.1
1-50kg
級超小型衛星の打上げ機数と市場予測1)... 2
図 2.1
MFMP-PROP
のシステム系統図 ... 4図 2.2 過酸化水素水の濃度と凝固点,沸点の関係11)
... 5
図 2.3 過酸化水素水の濃度と分解熱,蒸発潜熱の関係20)
... 5
図 2.4 一液式モードの作動原理 ... 6
図 2.5 一液式モード作動時の様子 ... 6
図 2.6 ほどよし
3
号機に搭載された一液式推進系 外観 ... 7図 2.7
60wt%H
2O
2とエタノールを用いた二液式スラスタの作動原理 ... 7図 2.8 二液式モード動作時の様子 ... 8
図 2.9 白金メタルハニカム触媒の外観 ... 8
図 2.10 白金メタルハニカム触媒の構成... 8
図 3.1 スラスタ概要 ... 9
図 3.2 一液式モード実験系統図 ... 9
図 3.3 チャンバ圧力履歴と定常区間の定義... 10
図 3.4 推進剤使用量と平均圧力・温度の関係 ... 12
図 3.5 長時間噴射実験#1 ... 13
図 3.6 長時間噴射実験#2 ... 14
図 3.7 長時間噴射実験#3 ... 14
図 3.8 長時間噴射実験における推進剤使用量と圧力・温度の関係 ... 15
図 3.9 触媒の構成 ... 16
図 3.10 被毒した触媒 ... 16
図 3.11 推進剤使用量と平均圧力の関係 ... 18
図 3.12 推進剤使用量と平均温度の関係... 18
図 3.13 初期温度と平均温度の関係 ... 19
図 3.14 噴射試験前後の予熱時における燃焼室温度の比較(ヒータ電力
30W) ... 19
図 3.15 燃焼室圧力・温度履歴 ... 20
図 3.16 燃焼室圧力・温度履歴 ... 20
図 4.1 二液式モード実験系統図 ... 22
図 4.2 スラスタ概要 ... 22
図 4.3 二液式モード寿命評価実験#1:不点火 ... 24
図 4.4 二液式モード寿命評価実験#2 ... 24
図 4.5 二液式モード寿命評価実験#3 ... 25
図 4.6 二液式モード寿命評価実験#4 ... 25
図 4.7 最低点火予熱温度探索実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室圧力平均値への影 響 ... 26
図 4.8 二液式モード実験前後の触媒分析結果 ... 27
図 4.9 寿命評価実験(混合比
3) ... 28
図 4.10 混合比の違いによる寿命への影響評価実験後の触媒分析結果 ... 29
図 5.1
SEM
の外観2)... 33
図 5.2 特性
X
線の発生原理3)... 34
図 5.4
EDS
スペクトルの例 ... 34表目次
表 1.1 ヒドラジンおよび代表的な低毒性推進剤の諸元6)-11)
... 2
表 1.2 世界のコンステレーション計画の例12),13)
... 3
表 2.1
MFMP-PROP
の作動モード... 4表 2.2
60wt%過酸化水素水の物性値
10)... 5
表 2.3 エタノールの物性値 ... 5
表 2.4 ほどよし
3
号機に搭載された一液式推進系の諸元 ... 6表 2.5 白金メタルハニカム触媒の諸元 ... 8
表 3.1 一液式モードの寿命評価実験の条件... 10
表 3.2 コールドスタート短時間噴射実験の結果 ... 12
表 3.3 長時間連続噴射実験の結果 ... 13
表 3.4 予熱による推進系の長寿命化実験の条件 ... 17
表 3.5 予熱の影響評価実験の結果 ... 18
表 3.6 触媒の活性回復実験の条件 ... 20
表 4.1 二液式モードの寿命評価実験の条件... 22
表 4.2 二液式モードの寿命評価実験の結果... 23
表 4.3 混合比の違いによる寿命への影響評価実験の条件 ... 28
表 4.4 混合比の違いによる寿命への影響評価実験の結果 ... 28
表 5.1 走査型電子顕微鏡(SEM)諸元1)
... 33
表 5.2 特性
X
線励起電圧 [keV]4)... 35
第 1 章 序論
1. 1 背景
1. 1. 1 低毒性推進系
1957
年に人類初の人工衛星スプートニク1
号が軌道上に打ち上げられてから,現在までに多くの宇宙 機が軌道上に投入されてきた.スプートニク1
号には姿勢を制御する装置は搭載されていなかったが,通信や観測・探査を目的としたミッションにおいて姿勢制御や軌道変更の操作が軌道上で必要となり,
その後の人工衛星には姿勢制御・軌道保持および変更装置としてリアクションホイールや推進系が搭載 されるようになった.宇宙機用の推進系は,高圧のガスを噴射するコールドガスジェットや,液体推進 剤のヒドラジンを触媒で分解した際に生成される高温のガスを噴射する一液式推進系,ヒドラジンと接 触することで発火する自己着火性推進剤を用いた二液式推進系が広く用いられている.しかし,ヒドラ ジンは人体に対する高い毒性を持つため,推進剤の充填時には
SCAPE
スーツの着用が義務付けられて いるなど,取扱い時のコストが高い.また,ヨーロッパでは化学物質の規制法であるREACH
法により ヒドラジンの使用が規制される可能性が高まっている状況である1).そこで,ヒドラジンに置き換わる 低毒性推進剤の開発が各国で進められている.低毒性推進剤としては,ADN(Ammonium DiNitrimide,NH
4N(NO
2)
2)系,HAN(Hydroxyl Ammonium Nitrate, NH3OHNO
3)系,過酸化水素が挙げられる.ヒド ラジン及び代表的な低毒性推進剤の諸元を表 1.1に示す.ADN
系推進剤はADN
に溶媒や燃料成分を添加することにより液化することで一液式推進剤としたも のである.代表的なものにヨーロッパ系研究機関および企業が開発したLMP-103S
がある.ADN=63%,
メタノール=18.4%, アンモニア=4.6%, 水=14%の割合で混合した推進剤である.この
LMP-103S
を用い た1N
級スラスタは,HPGP(High Performance Green Propellant)プログラムにより2010
年に人工衛星「PRISMA」に搭載され宇宙実証に成功している2).
2012
年には100kg
級超小型衛星26
機による地球観 測コンステレーションミッションへの搭載実績 3)や,2020年に打ち上げられる6U-CubeSat
による月探 査ミッション「Lunar Flashlight」に搭載される予定4)がある.HAN
系 推 進 剤 はHAN
に 添 加 物 と し てAN
(Ammonium Nitrate
), メ タ ノ ー ル ,HEAN
(Hydroxyethylhydrazinium Nitrate)や水等を加えて一液式推進剤として利用される.代表的なものに日 本で開発された
SHP163(HAN=73.6%,AN=3.9%,メタノール=16.3%,水=6.2%)や,アメリカで開発
された
AF-M315E
(HAN=44.5%,HEAN=44.5%,水=11.0%)がある. SHP163
を推進剤とした1N
級スラスタ
GPRCS(Green Propulsion Reaction Control System)は JAXA
による公募型軌道上実証プログラムの「革新的技術実証衛星
1
号機」に搭載され,2019年に軌道上実証が行われた7).また,AF-315Eを推進 剤とした推進系がNASA
の低毒性推進剤技術実証プログラムGPIM(Green Propellant Infusion Mission)
にて
2019
年に軌道上に打ち上げられた8).過酸化水素は
ADN
やHAN
系推進剤が開発されるよりも前から宇宙機用推進剤として利用されてき た.宇宙開発黎明期の1960
年代に高濃度過酸化水素水を用いたスラスタが宇宙機に搭載されていたが,ヒドラジンと比較するとその比推力の低さや長時間貯蔵時の自己分解,ヒドラジン用触媒開発等の理由 によりヒドラジンに置き換わっていった.しかし,最近になってヒドラジンが
REACH
法の高懸念物質 に指定されていることから,低毒性推進剤として再び注目を浴びている.表 1.1 ヒドラジンおよび代表的な低毒性推進剤の諸元5)-10)
ADN
系HAN
系 過酸化水素系 ヒドラジン LMP-103SSHP163 AF-M315E Hydrogen
peroxide
60wt%
H
2O
260wt%H
2O
2/Ethanol
凝固点[℃]2 -7 ≤-30 -22 -6 -55 -55/-114
密度[g/cm3] 1 1.3 1.4 1.46 1.4 1.2 0.79/1.2
理論比推力[s]239 255 276 266 182 85 251
密度比推力[g/cm
3・s]241 332 396 390 256 106 289
断熱火炎温度
[℃] 897 1781 2128 1884 - - 906
LD50 [mg/kg] 60 750-800 300-2000 550 - 801-939 6200-17800
*41. 1. 2
超小型衛星の利用拡大2003
年に世界初のCubeSat
が打ち上げられて以降,超小型衛星の打上げ機数は年々増加傾向にあり,Spaceworks
社は図 1.1に示すように超小型衛星市場が拡大していくことを予想している.当初,CubeSat
をはじめとした重量
50kg
以下の超小型衛星は,大学の研究室や有志で集まった社会人や企業の新人向 けのトレーニング教材としてそれ自体の技術実証を目的としたものが主に打ち上げられてきたが,最近 になって超小型衛星を用いた実用的なミッションを行う段階に移行している.日本のアクセルスペース社は
100kg
級衛星「GRUS」50機を用いたコンステレーションミッションにより全地球観測網を築こうと画策している.表 1.2に示すように,500kg以下の小型衛星を含めると,Oneweb社や
SpaceX
社など は数百~数千機規模の衛星コンステレーションにより,全世界通信網を築こうとしており,またPlanet
社や
Spire Grobal
社,PlanetiQ
社などはCubeSat
サイズの衛星によるリモートセンシングミッションを行っている.今後もこのような企業による小型衛星の利用は拡大していくと予想される.
図 1.1
1-50kg
級超小型衛星の打上げ機数と市場予測11)表 1.2 世界のコンステレーション計画の例12),13) 企業名 ミッション 機数 重量
[kg]
Oneweb(英)
通信650 150
SpaceX(米)
通信1.2~3
万400
Axcelspace(日)
リモートセンシング50 95
Planet(米)
リモートセンシング100+ 3
Spire Global(米)
リモートセンシング50 3
PlanetiQ(米)
リモートセンシング12 22
1. 1. 3 超小型衛星と推進系の適合性
コンステレーションといった高度なミッションでは,軌道変換や摂動による軌道のずれを修正するた めに,推進系の搭載が必要となる.
ADN
系推進系は小型衛星向けの製品が登場しているが,欧州製のた めそれ以外の国に輸送する際のコストがかかる.HAN 系はヒドラジンの代替推進剤として開発が進め られており,推進性能は高い.しかし,これらの推進系は.低コスト・短期開発が強みで,熱・電力的 制約の多い超小型衛星との適合性が高いとは言えない.高濃度過酸化水素水についても同様のことがい える.現在,超小型衛星向けの推進系として,水スラスタ14)や小型電気推進系15)-17),気液平衡スラスタ18)などの研究開発が行われているが,これらの推進系は推力が小さく,衛星の軌道変更に時間を要する ため,コンステレーション構築のようなミッションでは要求を満たさない.超小型衛星側では,質量を 抑え,電力が小さく,そこそこの推進性能を持ち,拡張性が高く,推進剤の安全性の高い推進系が望ま れているのが現状である19).
このような状況のもと,本研究室では以下の
4
つのポリシーのもと,推進系の研究開発を行っている. Safety First(安全性最優先)
Border Free(入手・輸送が容易)
Effective COTS(民生品の有効活用)
High Scalability(拡張性が高いシステム)
推進剤としては,世界中の射場国で民生品として入手可能な
60wt%過酸化水素水を利用している.過
酸化水素を触媒層で水と酸素に分解して噴射する一液式モードと,過酸化水素とエタノールを触媒層で 燃焼して噴射する二液式モードがあり,同一のスラスタで作動できる.一液式モードは軌道上実証済み であり,二液式モードは定常作動及び大気圧下での基本性能取得を完了した段階である.1. 2 目的
本研究室でこれまで開発を行ってきた推進系は,性能取得や実現性検証を完了しており,実用化の段 階にある.しかし,複数回の噴射実験を行うことで性能が低下していくことに課題がある.本研究では,
推進系を長時間作動時の特性を取得および寿命評価
触媒の劣化原因の推定
長寿命化へ向けた検討を推進系の作動方式ごとに行うことを目的とする.
第 2 章 超小型衛星との相性の良い多用途の推進系
2. 1 推進系の概要と,利用する推進剤
2. 1. 1
推進系の概要当研究チームでは,超小型衛星と相性の良い多用途の推進システム(Microsatellite-Friendly Multi-
Purpose Propulsion System,以下 MFMP-PROP)を提案し,その開発を行っている.表 2.1
にMFMP-PROP
の作動モードを示す.MFMP-PROPは推進剤に質量濃度
60%の過酸化水素水(以下,60wt%過酸化水素
水)のみを用いた一液式モードと,酸化剤に60wt%過酸化水素水,燃料にエタノールを用いた二液式モ
ードでの作動が可能である.図 2.1に
MFMP-PROP
の系統図の一例を示す.MFMP-PROP
では,推進系のシステム全体を酸化剤タ ンクモジュール(図 2.1中の青線枠内),燃料タンクモジュール(図 2.1中の赤線枠内),推進剤制御モ ジュール(図 2.1中の緑線枠内),スラスタモジュール(図 2.1中の黄線枠内)のように分割し配管や構 造部材などの機械的・熱的I/F
や電源・信号といった電気的I/F
を独立させ,それぞれを1
つのコンポー ネントモジュールとして取り扱う.これらのモジュールをI/F
配管および配線にて接続することで推進 系が構成される.推進剤モジュールの組合せにより,一液式モードのみの構成や二液式モードの構成な ど自由なシステム設計が可能である.表 2.1
MFMP-PROP
の作動モード一液式モード 二液式モード
推進剤
60wt%過酸化水素水
酸化剤:60wt%過酸化水素水燃 料:エタノール
図 2.1
MFMP-PROP
のシステム系統図2. 1. 2 60wt%過酸化水素水
過酸化水素水は大戦中のドイツで
Walter
機関として濃度80wt%のものが使用されてきた.その後,宇
宙機の姿勢制御スラスタの推進剤として90wt%以上のものが使用されるようになってきたが,過酸化水
素は自然分解を起こすため,貯蔵時に注意を要すること,さらに一液式として使用した際の比推力が150
秒程度と低いことから,宇宙機の姿勢制御スラスタの推進剤はヒドラジンに取って代わられるようにな った.しかし,最近になって低毒性推進剤としての再注目されるようになり,各国で過酸化水素スラス タの開発が進められている.このような背景のもと,当研究チームでは
60wt%過酸化水素水を推進剤とした推進系を開発している.
60wt%過酸化水素水の物性値を表 2.2
に示す.密度1.24g/cm
3,凝固点-55.5℃,沸点120℃である.図 2.2
に示すように過酸化水素水の凝固点は
60wt%付近が最も低く,宇宙機用の推進剤としては貯蔵時の凍結
を防ぐ,もしくはヒータ電力を削減できる点に優れている.また,図 2.3に示すように65wt%以下であ
れば分解熱よりも蒸発潜熱の方が大きいため,貯蔵時に衝撃や多少の不純物の混入が起きた際にも,蒸 発潜熱が分解熱を奪うことにより加速的な分解を起こさない.さらに,60wt%過酸化水素水は民生品と して入手が可能である.安全性や入手性で優れるため,当研究室では取扱いの難しい高濃度過酸化水素 水ではなく,60wt%過酸化水素水を推進剤として使用している.表 2.2
60wt%過酸化水素水の物性値
9)Density(@20℃) 1.24 g/cm
3Freezing point -55.5 ℃ Boiling point 120 ℃ Heat of decomposition 1.697 kj/g
Heat of vaporization 1.925 kj/g
図 2.2 過酸化水素水の濃度と凝固点,沸点の関係10) 図 2.3 過酸化水素水の濃度と分解熱,蒸発潜熱の関係20)
2. 1. 3 エタノール
エタノールはアルコールであり,水溶性のある,常温で無力透明の液体である.エタノールの物性値 を表 2.3 エタノールの物性値に示す.エタノールは民生品であり,入手性が良い.また,低毒(酒類 の主成分でもある)であり,取扱性が良い.
表 2.3 エタノールの物性値
Density(@20d℃) 0.79 g/cm
3Freezing point -114.1 ℃
Boiling point 78.3 ℃
2. 2 一液式モードの作動原理と現状
60wt%過酸化水素水を用いた一液式推進系の作動原理を図 2.4
に示す.チャンバ内に封入された触媒に
60wt%過酸化水素水が接触すると分解が促進される.分解によって発生した物質をノズルで増速する
ことにより推力を得る.触媒に接触した
60wt%過酸化水素水は式(2.1)のように水と酸素に分解し,分解
熱を発生する.このとき発生する熱量は,常温の水を全て蒸発するために必要な熱量よりも低いため,図 2.5に示すように,ノズルからは気相の水と酸素に液相の水を含む白色のプルームを噴出する.
図 2.4 一液式モードの作動原理
図 2.5 一液式モード作動時の様子
一液式モードの推進系は,
2014
年に2
機の超小型衛星(「ほどよし1
号機」および「ほどよし3
号機」)に搭載され,軌道上での噴射を複数回行っており,実現性および推進性能の取得にすでに成功している.
ほどよし
3
号機に搭載された推進系の諸元と外観を表 2.4および図 2.6に示す.2機のほどよし衛星に よる一液式推進系の軌道上実証により,推進剤供給系および制御基板,一液式スラスタに用いた民生品 を含む各部品は宇宙実績品となった.表 2.4 ほどよし
3
号機に搭載された一液式推進系の諸元 項目設計推力
350 mN
設計比推力80 s
乾燥重量3.8 kg
推進剤搭載質量2.0 kg
サイズ
270 × 270 × 90 mm
3電力
12.5 W(作動開始時直後のピーク値)
2.3 W(定常作動時)
0.5 W(待機時)
打上げ日
2014/06/20
射場 ロシア,ヤースヌイ宇宙基地
H 2 O 2 + 34
27 H 2 O → 1
2 O 2 + 61
27 H 2 O (2.1)
(a)
供給系(b)
スラスタ 図 2.6 ほどよし3
号機に搭載された一液式推進系 外観現在までに,推進剤タンクにおける
60wt%過酸化水素水の貯蔵方法に関する検討
21)や,スラスタの 応答性に関する検討22),さらには推進剤供給量の違いによる推進性能取得および応答性能の評価,お よびRCS
として用いる場合の性能指標となる最小インパルスビットおよびその遅れ時間の評価23)を行 った.現在,実用化へ向けた検討を行う段階である.2. 3 二液式モードの作動原理と現状
60wt%過酸化水素水を用いた一液式推進系の基本的な作動原理を図 2.7
に示す.二液式スラスタでは,酸化剤として
60wt%過酸化水素水を,燃料としてエタノールを用いている.酸化剤供給ライン側には燃
焼室の直上に一液式推進系と同様の触媒が封入された触媒層が設置されており,ここで二液式モードは酸化剤に
60wt%過酸化水素水,燃料にエタノールを用いた方式で,式(2.2)に示す過酸化水素とエタノー
ルの燃焼反応を引き起こし,発生したガスを噴射することで推力を得る.二液式はこれまで触媒層と燃 焼室を別々に設けていたが,定常作動には至らなかった.図 2.7のように,燃焼室を予熱して,燃焼を 開始するために不足する熱エネルギを補うことにより,点火と定常作動を可能にした.
図 2.8に二液式モード動作時の様子を示す.推進剤混合比
7
で,15
秒間の噴射で火炎を噴出している ときの様子である.このとき比推力は190.3s
と算出された.二液式モードはシステムの成立性が実現可 能であることが示された段階であり23),現状では推進剤の混合方式や,寿命に関して課題がある.図 2.7
60wt%H
2O
2とエタノールを用いた二液式スラスタの作動原理C 2 H 5 OH + 6H 2 O 2 + 68
9 H 2 O → 149
9 H 2 O + 2CO 2 (2.2)
図 2.8 二液式モード動作時の様子
2. 4 触媒
本研究では図 2.9 に示すような触媒を使用している.この触媒は図 2.10 に示すように,ハニカム構 造を有しており,鉄系の金属基材に,アルミナのウォッシュコート層によって,触媒として作用する白 金が担持されている.表 2.5に示すように,1.8-4.0 g/Lの白金(以下,Pt)が担持されている.
触媒は、物質表面の特定の部位、あるいは分子上の特定の位置(活性サイト)に、反応させたい物質 が吸着・配位することで効果を発揮する.白金メタルハニカム触媒の場合,白金表面に酸素原子が吸着 することで過酸化水素を水と酸素に分解する反応が促進される.このとき,触媒の存在しない場合に分 解が進むエネルギよりも少ないエネルギで分解させることが可能となる.
図 2.9 白金メタルハニカム触媒の外観
表 2.5 白金メタルハニカム触媒の諸元 単位 値 基本組成
- Fe-20Cr-5Al
充填比重- 0.4 ~ 0.6
直径
mm 11.0 ~ 12.5
長さ
mm 19.8 ~ 20.5
白金の担持量
g/L 1.8 ~ 4.0
図 2.10 白金メタルハニカム触媒の構成
第 3 章 一液式モードの寿命評価
3. 1 一液式モードの寿命評価
3. 1. 1 実験装置
図 3.1に噴射試験で使用するスラスタ断面図を示す.窒素ガスの調圧方式で,推進剤流量とチャンバ 内圧力および温度を測定する.一液式モードの場合はタンク内に
60wt%過酸化水素水のみを充填して実
験を行う.また,図 3.1に示すように,スラスタには温度調整用のニクロム線ヒータを外周に巻きつけ ている.噴射器やスロートおよびノズルは,ほどよし搭載モデルと同じであり,直径1 mm
で半頂角15
°,開口比100
のコニカルノズルである.実際の実験は大気圧下で行ったため,ノズル開口比を1
と したノズルカットモデルで行った.一液式スラスタの作動を行う場合の配管系統図を図 3.2 に示す.SV は推進剤流量の制御は窒素ガス の圧力を調整して行った.なお,供給圧力はタンク圧力(P-SV直上の圧力計で計測)と定義した.本実 験装置では,タンクからスラスタ直上までに
0.02MPa
程度の圧力損失がある.また,スラスタへの推進 剤供給はM-SV
を開閉することで行った.計測するデータは,推進剤流量とチャンバ内温度・圧力の時 間履歴である.スラスタとM-SV
下流のCV
間の配管は1/16 inch
のPFA
製配管を用いた.図 3.1 スラスタ概要
図 3.2 一液式モード実験系統図
3. 1. 2 実験条件
本実験では,① コールドスタート短時間噴射
② 長時間連続噴射
の二つの条件での寿命評価を行う.
コールドスタート短時間噴射実験では,初期温度を室温程度(40℃以下)とし,10秒間の噴射を繰り 返し行い,作動可能回数及び推進剤使用量を評価する.長時間連続噴射実験では,実験装置のタンクに
400mL
の推進剤を充填し,タンクの中身が空になるまで噴射する.計測した燃焼室圧力および温度より,連続噴射可能時間,および推進剤使用量を評価する.いずれの実験についてもサンプリング周波数は
10 Hz
とした.使用触媒番号は研究室で管理している触媒の個体の識別する番号である.表 3.1 一液式モードの寿命評価実験の条件 初期温度
[℃]
供給圧力
[MPaA]
推進剤充填量
[mL]
サンプリング周波数
[Hz]
使用触媒 番号
①
<40 0.5 400 10 #17
②
<40 0.5 400 10 #34
3. 1. 3 評価方法
図 3.3に一液式モードで
10
秒間の噴射実験を行ったときのチャンバ圧力履歴の一例を示す.図中の「1」と「3」はそれぞれバルブに電圧を印加して,推進剤の供給開始と終了するタイミングを示してい る.「2」は推進剤の供給が終了する
2
秒前の時間とし,「2」から「3」の区間を定常区間として定義し た.圧力および温度の平均値は,定常区間での平均値としている.図 3.3 チャンバ圧力履歴と定常区間の定義
また,推進性能の評価方法については,定常区間における各計測値の平均値用いて
NASA-CEA
(NASAChemical Equilibrium with Applications)による計算を援用し,軌道上での推力・比推力として算出した.
以下に算出方法を述べる.
定常状態における推力
𝐹 23
は式(3.1)を用いて算出した.𝑃 𝑐,23
は,定常区間における燃焼室圧力の平均値であり,𝐴 𝑡
はスロート面積,𝐶 𝐹,𝑎𝑐𝑡,23
は実際の推力係数で ある.実際の推力係数は式(3.2)を用いて算出した.𝜆はノズル修正係数であり, 𝜂 𝐹
は推力係数効率,𝐶 𝐹,𝑡ℎ,23
は定常区間における理論推力係数である.スラスタのノズルはコニカルノズルであるため,ノズル修正係数は式(3.3)で算出した.
ノズルの半頂角は
15 °であるため,ノズル修正係数は 0.983
となる.理論推力係数𝐶 𝐹,𝑡ℎ,45
は,𝑃 𝑐,45
とノ ズル開口比,混合比5
の条件のもと,NASA-CEAを用いて算出した.このとき,軌道上性能を算出する ため,ノズル開口比は100
として入力した.また,推力係数効率𝜂 𝐹
は,文献 24)の値を参考に0.92
とし た.定常区間における比推力𝐼𝑠𝑝,23
は,式(3.4)を用いて算出した.𝑚̇ 23
は定常区間における平均推進剤流量であり,𝑔は重力加速度である.定常区間における実際の特性排
気速度𝑐 ∗𝑎𝑐𝑡,23
は,式(3.5)を用いて算出した.また,𝑐 ∗効率𝜂
𝑐∗
は式(3.6)を用いて算出した.𝑐 ∗ 𝑡ℎ,23
は,前述した計算条件のもとNASA-CEA
を用いて算出した.また,トータルインパルス
𝐼 𝑡𝑜𝑡
は式(3.7)を用いて算出した.𝐼 𝑡𝑜𝑡
は定常状態の値ではなく,バルブの開いている区間の燃焼室圧力の計測値を用いて推力F
に換算し,積分することで算出した.
𝐹 23 = 𝑃 𝑐,23 𝐴 𝑡 𝐶 𝐹,𝑎𝑐𝑡,23 (3.1)
𝐶 𝐹,𝑎𝑐𝑡,23 = 𝜆 𝜂 𝐹 𝐶 𝐹,𝑡ℎ,23 (3.2)
𝜆 = 1
2 (1 + cos𝜃) (3.3)
𝐼 𝑠𝑝,23 = 𝐹 23
𝑚̇ 23 𝑔 (3.4)
𝑐 ∗ 𝑎𝑐𝑡,23 = 𝑃 𝑐,23 𝐴 𝑡,23
𝑚̇ 23 (3.5)
𝜂 𝑐∗ = 𝑐 ∗ 𝑎𝑐𝑡,23
𝑐 ∗ 𝑡ℎ,23 (3.6)
𝐼 𝑡𝑜𝑡 = ∫ 𝐹𝑑𝑡
𝑡
𝑓0
(3.7)
3. 1. 4 結果
コールドスタート短時間噴射
定常区間における各測定値の平均値および推力・比推力と,推進剤使用量を表 3.2に示す.作動回数 が
12
回目のとき,燃焼室圧力の平均値が大気圧と同程度になり,13
回も圧力の上昇がみられなくなり,推進性能の低下を確認したため実験を終了した.実験終了時点での推進剤の累積使用量は
112.7g
であっ た.図 3.4に推進剤使用量と平均圧力・温度の関係を示す.推進剤使用量
52.0g
(実験番号#6)を境に燃焼 室圧力および温度が低下していることが分かる.また,推進剤使用量86.1g(実験番号#10)を境に再び
圧力と温度の低下がみられ,推進剤使用量103.1g
を超えると燃焼室圧力が上昇していないことが分か る.圧力が上昇しなくなった場合においても温度上昇はみられるため,圧力が上昇しなくなったのはチ ョーク条件を満たさなくなったためと考えられる.推進剤の分解反応は生じているが,触媒による分解 促進作用が十分でなくなったために性能低下が起きている.すなわち,触媒が劣化しているといえる.表 3.2 コールドスタート短時間噴射実験の結果
実験番号 初期温度 定常区間における平均値 推進剤使用量
(累計)
流量 圧力 温度 理論推力 理論比推力
[℃] [g/s] [MPaA] [℃] [mN] [s] [g]
#1 <40 0.59 0.297 119.9 417.1 72.3 11.9
#2 <40 0.54 0.326 123.0 458.7 86.5 19.6
#3 <40 0.57 0.316 122.7 444.5 80.0 27.5
#4 <40 0.57 0.321 123.6 451.8 80.4 35.7
#5 <40 0.57 0.313 123.3 439.3 78.4 43.8
#6 <40 0.66 0.259 117.5 364.0 56.3 52.0
#7 <40 0.65 0.261 118.0 367.2 57.2 60.5
#8 <40 0.67 0.252 118.8 353.7 53.9 69.8
#9 <40 0.67 0.252 117.2 353.8 53.6 78.2
#10 <40 0.69 0.231 117.6 325.1 47.9 86.1
#11 <40 0.75 0.186 112.2 261.5 35.6 95.4
#12 <40 N/A 0.119 90.9 166.8 N/A 103.1
#13 <40 0.81 0.114 81.4 160.1 20.1 112.7
図 3.4 推進剤使用量と平均圧力・温度の関係
長時間連続噴射
表 3.3と図 3.5,図 3.6,図 3.7に長時間連続噴射実験の結果を示す.実験は
3
回行い,1
回目は400mL
タンクに充填した推進剤が空になったため実験を終了し,その後再び400mL
タンクに推進剤を充填し,実験を再開した.2 回目は燃焼室圧力の上昇がみられず大気圧と同程度となったところで終了し,3 回 目は充填した推進剤を使い切ったところで実験を終了した.累計の噴射時間は
2723.3 s,トータルイン
パルス
I
totは694.9 Ns,推進剤は 980.8g
使用した.いずれの噴射を見ても,推進剤を供給してから圧力・温度が上昇し最大値に達した後,徐々に下降していることが分かる.2 回目の噴射では,1 回目よりも 最大圧力・温度が低い.また推進剤の供給が開始してから最大の圧力に達するまでの時間を立ち上がり 時間とすると,
1
回目は2s
程度であるのに対して,2
回目は80s,3
回目は30s
であり,立ち上がり時間 が増加することが分かった.表 3.3 長時間連続噴射実験の結果
実験番号 初期温度 噴射時間
I
tot 推進剤使用量[℃] [s] [Ns] [g]
#1 23.25 1352.4 429.4 499.7
#2 24.75 581.0 128.9 242.8
#3 68.85 789.9 136.6 238.3
合計
2723.3 694.9 980.8
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 3.5 長時間噴射実験#1
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 3.6 長時間噴射実験#2
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 3.7 長時間噴射実験#3
3. 1. 5 考察
推進剤使用量と触媒寿命の関係
図 3.8に長時間噴射実験における推進剤使用量と圧力・温度の関係を示す.
1
回目の噴射における推 進剤使用量499.7g
の時点での燃焼室圧力は大気圧よりも高かった.短時間噴射と場合と比較すると,触 媒の寿命は長いようにみえる.しかし,2
回目の噴射で最大の圧力に達するまでの立ち上がり時間が80s
であることとその最大値が寿命初期と比較して小さいことを考慮すると,短時間噴射の場合は圧力およ び温度が立ち上がりきっていない状態での平均値を算出していることになっていると考えられる.立ち上がり時間が噴射ごとに違う理由としては.スラスタ内部の水分によるものと考えられる.1 回 目の噴射以降,推進剤の供給が止まることによりスラスタ内部に未反応の推進剤が残っている状態で噴 射を行っているため,残留した推進剤が立ち上がりを阻害し,立ち上がり時間を長くする要因であると 考えられる.噴射終了時に毎回窒素パージを行うことでスラスタ内部の液体を除去していたが,触媒を 担持しているアルミナは多孔質であるため,窒素パージでは除去できない水膜が形成されていた可能性 がある.
図 3.8 長時間噴射実験における推進剤使用量と圧力・温度の関係
電子顕微鏡による観察および分析
エラー! 参照元が見つかりません。にコールドスタート短時間噴射実験前後の触媒に対し,元素分析 を行った結果を示す.なお,分析は
SEM(Scanning Electron Microscope
,JEOL製JSM-6510A)に付属
する
EDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometer,エネルギ分散型 X
線分析装置)を用いて行った.分析個所は触媒下流断面の同一視野角にて行った.横軸は
X
線励起電圧を示し,縦軸は検出されたX
線の 濃度を示す.X線励起電圧は元素に特有の値であり,この値から検出される元素の識別ができる.縦軸 は検出されるX
線のカウント数を示し,分析時の状況によりその絶対値は変動する.しかし,同一物質 の分析であれば元素ごとの相対的なX
線のカウント数は変わらないため,その違いを比較した. 分析 装置の詳細は付録A
に示した.エラー! 参照元が見つかりません。より,一液式モードの噴射では実験前後で触媒の状態に顕著な違 いは見られなかったが,O と
Pt
の検出濃度が若干上昇していることが分かる.触媒活性物質であるPt
が上流側から移動と考えられるが,触媒上流断面においても同様の分析結果が得られているため,その 可能性は低い.従って,特定の元素が触媒表面上に酸化被膜を形成することにより性能低下が生じてい る可能性がある.劣化原因の推定
実験後の触媒の元素分析の結果より,一液式モードの噴射実験により触媒活性物質である白金の減少 は見られないことが示された.また,長時間試験の結果より,推進性能は徐々に低下していくことが示 されている.このことから,触媒の劣化は,白金の表面上に被膜が形成されることにより反応が阻害さ れることで生じると考えられる.また,推進剤の使用量が増加するごとに進んでいるため,推進剤に含 まれる物質が劣化を進行する要因になっている,すなわち被毒によるものであると考えられる.被毒と は図 3.10 に示すように推進剤に含まれる物質が白金表面上で反応を起こし,被膜を形成することをい う.被毒以外にも熱衝撃による劣化や,繰り返し噴射時の推進剤残留の効果が考えられるため,次節に てスラスタを予熱することによる劣化原因の排除を目的とした実験を行うこととした.
図 3.9 触媒の構成 図 3.10 被毒した触媒
(a)
実験前(b)
実験後3. 2 予熱による推進系の長寿命化
3. 2. 1 実験概要
一液式モードの寿命評価実験では初期温度を室温程度としていたが,噴射後にスラスタ内部に残留し た液体が反応を阻害している可能性が示唆された.そこで,スラスタを予熱することにより,残留した 液体を除去することによる効果を検証する実験を行う.また,予熱温度を上昇していくことで,長寿命 化が可能であるか検証する.実験は大気圧下で行い,供給圧力
0.5MPaA,一回の噴射時間は 10
秒とし ており,噴射ごとに定常区間での平均圧力を算出した.定常区間はバルブが閉じる2
秒前からバルブが 閉じるまでの時間と定義した.性能の低下したところで初期温度を160-250℃まで上昇していった.性
能低下の基準としては平均圧力の低下を目途にした.表 3.4 予熱による推進系の長寿命化実験の条件 供給圧 噴射時間 サンプリング周期
操作 初期温度 使用触媒
[MPaA] [s] [Hz] [℃] [-]
0.5 10 10
初期温度調整<100,160,170,
200.250 No.17
3. 2. 2 結果
表 3.5に予熱の影響評価実験の結果に示す.図 3.11に推進剤累積使用量と平均圧力の関係,図 3.12 に推進剤使用量と平均温度の関係を示す.コールドスタートで使用した場合,推進剤使用量
40-70g
で性 能の低下がみられたため,予熱温度を160℃に昇温したところ,燃焼室平均圧力の上昇がみられた.予
熱温度をさらに170℃まで昇温するとさらに圧力の上昇がみられたが,6-7
回の噴射で性能が再び低下 した.その後予熱温度200℃で 3
回, 250℃での5
回の噴射で平均圧力の上昇を確認し,推進剤の累積使 用量は200g
程度に達した.すなわち,触媒層予熱により,延命は可能であるが,噴射回数が増えるにつ れて,予熱温度を高くする必要があることが分かった.表 3.5 予熱の影響評価実験の結果
実験番号 初期温度 定常区間における平均値 推進剤 流量 圧力 温度 理論推力 理論比推力 使用量
[℃] [g/s] [MPaA] [℃] [mN] [s] [g]
#1
<1000.55 0.328 124.4 460.6 84.9 7.4
#2
<1000.52 0.338 126.1 475.0 93.7 14.8
#3
<1000.50 0.350 128.9 492.4 100.1 22.3
#4
<1000.50 0.350 129.2 491.3 99.6 29.4
#5
<1000.51 0.339 127.5 477.2 95.0 36.8
#6
<100N/A 0.189 112.0 265.2 N/A 41.3
#7
<1000.51 0.337 128.1 473.7 95.0 48.4
#8
<1000.64 0.253 120.4 355.4 56.8 60.9
#9 160 0.57 0.290 126.1 407.3 72.7 69.1
#10 160 0.59 0.292 128.5 409.8 70.7 77.2
#11 160 0.58 0.295 129.6 415.1 72.6 85.3
#12 170 0.50 0.339 136.0 476.7 96.7 92.2
#13 170 0.53 0.322 135.9 451.9 86.4 99.6
#14 170 0.55 0.306 135.5 430.5 79.8 107.0
#15 170 0.58 0.288 134.8 405.5 70.9 114.8
#16 170 0.64 0.253 132.3 355.0 56.3 122.7
#17 170 0.64 0.253 132.3 355.0 56.3 130.7
#18 200 0.57 0.293 138.1 412.2 73.4 138.3
#19 200 0.60 0.281 137.0 394.3 67.6 145.9
#20 200 0.60 0.278 137.2 391.1 67.0 153.1
#21 200 0.75 0.165 118.6 231.3 31.4 162.0
#22 200 0.64 0.251 134.8 353.4 56.4 169.7
#23 250 0.52 0.329 141.7 462.8 91.3 176.9
#24 250 0.51 0.326 143.8 458.5 91.2 183.9
#25 250 0.53 0.316 143.2 444.4 85.7 190.9
#26 250 0.53 0.299 141.7 420.3 80.7 197.4
#27 250 0.54 0.294 141.5 412.6 78.3 203.9
#28 250 N/A 0.120 114.6 168.5 N/A 204.2
#29 250 0.73 0.157 119.5 220.4 30.8 210.9
図 3.11 推進剤使用量と平均圧力の関係 図 3.12 推進剤使用量と平均温度の関係
3. 2. 3 考察
初期温度と平均温度の関係
図 3.13に初期温度と平均温度の関係を示す.寿命初期にあたる初期温度
100℃未満では平均温度が概
ね
130℃程度であることが分かる.性能低下後に初期温度を操作した時の平均温度を見ると,初期温度
が高いほど平均温度が高くなっていることが分かる.すなわち,初期温度を上昇することによる長寿命 化ができたのは,推進剤の分解に必要な熱量を予熱により補うことによる効果であると考えられる.
図 3.13 初期温度と平均温度の関係
予熱時の傾向
図 3.14 に噴射試験前後の予熱時における燃焼室温度の時間推移を比較したグラフを示す.ヒータ電 力は
30W
とし,予熱温度200℃を目標にスラスタを温めたときのグラフである.噴射試験後にスラスタ
を温めた場合,目標温度に達するまでにかかる時間が長くなっていることが分かる.また100℃で一度
温度上昇が止まり,その後再び上昇し始めていることが分かる.このとき,ノズルから蒸気の噴出を確 認しており,スラスタ内部に残留した水分の蒸発が生じていた.水分が蒸発したあとは再び温度が上昇 していくが,1000s 付近で急な温度上昇が再度みられる.これは水以外の物質が液体または固体として スラスタ内部に残っており,その蒸発または昇華が完了したためではないかと考えられる.すなわち,予熱による性能回復は,スラスタ内部に残留している水分の除去による効果もあると考えられ,予め水 分を除去しておくことで立ち上がり時間を短縮する効果があると考えられる.
3. 3 触媒の活性回復の検証
3. 3. 1 実験概要
前節にて噴射試験後のスラスタ内部には推進剤または推進剤により反応後の物質が残留しており,予 熱時にその物質が除去できる可能性が示された.そこで,本実験では性能の低下した触媒を加熱し,活 性が回復するかを検証する.触媒の加熱には小型電気炉(アズワン製
mini-BSⅠ)を用い,現在使用し
ているニクロム線ヒータで温めることのできる温度よりも高い温度の400℃で 1
時間加熱することによ る効果を確かめる.実験条件を表 3.6に示す.表 3.6 触媒の活性回復実験の条件 供給圧 噴射時間 サンプリング周期
操作 使用触媒
[MPaA] [s] [Hz] [-]
0.5 10 10 400℃で 1
時間加熱No.18
3. 3. 2 結果
図 3.15は繰り返し噴射実験を行った後に
10
秒間の噴射を試みたときの燃焼室圧力と温度の履歴であ る.圧力はほとんど上昇していないが,温度はバルブが開いている間に20℃程上昇し,バルブが閉じて
から急激に上昇していることが分かる.性能が低下した触媒においても,その活性は完全には失われて おらず,触媒による推進剤の分解を阻害する物質が触媒表面上に付着していることにより活性が低下し ていると考えられる.バルブが閉じてから温度が上がるということは,スラスタ内部に溜まった推進剤 が触媒により分解され,熱を発しているからであると考えられる.そこで,性能が低下した触媒を加熱 することにより,触媒表面上に付着している物質を除去することを試みた.図 3.16に図 3.15 に示した性能の低下した触媒を
400℃で 1
時間加熱した後に10
秒間の噴射を行っ たときの燃焼室圧力と温度の履歴を示す.圧力・温度ともに新品の触媒を噴射した時の同様の波形を示 した.すなわち,性能の低下した触媒も加熱することで活性を回復できることが分かった.図 3.15 燃焼室圧力・温度履歴
(性能の低下した触媒)
図 3.16 燃焼室圧力・温度履歴
(加熱後の触媒)
3. 3. 3 考察
活性を回復できた理由として,触媒毒の除去による効果であると推察される.被膜を形成する物質は,
推進剤に含まれる添加物が考えられる.過酸化水素水はアルカリ性で自己分解が加速する傾向にあるた め,
ph
調整剤として酸性の物質が安定剤として添加されている24).この安定剤が触媒表面上で化学反応 を起こし,被膜を形成するが,被膜の沸点又は昇華点以上に触媒を熱することで,被膜を除去できたと 考えられる.安定剤を特定し,形成される被膜の除去に必要な加熱温度および時間の特定は今後の課題 とする.第 4 章 二液式モードの寿命評価
4. 1 二液式モードの寿命評価
4. 1. 1 実験装置
図 4.1に噴射試験で使用する実験装置の系統図を示す.スラスタや供給系は一液式モードと同一のも のを用いる.タンク内に
60wt%過酸化水素水とエタノールの混合液を充填して実験を行う.また,図 4.2
に示すように,スラスタ内部に熱電対を二つ挿入し,燃焼室内温度と触媒下流断面温度を計測する.図 4.1 二液式モード実験系統図
図 4.2 スラスタ概要
4. 1. 2 実験条件
表 4.1に二液式モードの寿命評価実験の条件を示す.本実験では,混合比
5
のときに長時間噴射した ときの寿命を評価する.表 4.1 二液式モードの寿命評価実験の条件 供給圧力
[MPaA]
混合比
[-]
推進剤充填量
[mL]
予熱温度
[°C]
サンプリング周波数
[Hz]
使用触媒 番号
0.5 5 400 300 10 No.32
4. 1. 3 評価方法
推進剤流量と燃焼室圧力・燃焼室温度に加えて触媒下流断面温度を計測する.計測したデータを用い
て,
3.1.3
項で示した式から定常区間での各計測値および推力・比推力の平均値を算出した.ただし,「定常区間」の定義は,「燃焼室温度が最大値の
90%に達してから推進剤の供給が終了する」,もしくは「燃
焼室温度が最大値の90%に達してから最大値の 90%以下になる」までの区間とした.実験は二液式モー
ドで作動が行えなくなったところで終了した.二液式モードの作動成功可否は燃焼室温度を基準に判断 した.一液式モード作動時の燃焼室温度の最大が130℃であるため,点火に失敗した時には一液式モー
ドでの作動になると考えられ,燃焼室温度で二液式モード作動成功可否の判断が可能である.4. 1. 4 結果
表 4.2と図 4.3,図 4.4,図 4.5,図 4.6に実験の結果を示す.実験は
4
回行った.実験番号#1は点火 に失敗し,燃焼室温度の低下を確認したが,触媒温度の上昇がみられたため,触媒温度が定常状態に達 するまで実験を継続した.実験番号#2以降では点火時に少量の推進剤供給を数回繰り返し,燃焼室温度 を十分に上昇させてから連続して推進剤を供給し点火をした.実験番号#2では点火操作を開始してから1340.4s
でタンクに充填した推進剤が空になり,温度が低下してきたところで実験を終了した.このときの定常区間は燃焼室温度が最大値の
90%に達してから推進剤の供給が終了するまでの区間である 143.5-
1340.4s
とした.実験番号#3はタンク内に200mL
の推進剤を充填して実験を行った.定常区間は推進剤がなくなるまでの区間をとした.実験番号#4についてもタンク内に
200mL
の推進剤を充填して実験を 行った.実験番号#4では,点火に成功した後,不点火のときと同様に燃焼室温度の低下を確認した.燃 焼室温度だけでなく,触媒温度も低下したため,再度点火操作を行ったが,温度の上昇がみられなかっ たため実験を終了した.定常区間は点火に成功したときと,不点火になったときの区間に分けて平均値 を算出している.表 4.2 二液式モードの寿命評価実験の結果
実験 番号
点火 定常区間
定常区間における平均値
推進剤 圧力 温度 触媒温度 流量 推力 比推力 使用量
[-] [s] [MPaA] [℃] [℃] [g/s] [mN] [s] [g]
#1 × 13.7-83.7 0.36 156.89 647.14 0.35 529.11 153.24 30.55
#2
〇143.5-1340.4 0.40 964.09 1016.16 0.24 590.38 251.56 321.68
#3
〇46.4-841.4 0.40 1033.65 1060.99 0.25 591.51 247.41 218.09
#4 △ 46.2-57.9 0.41 960.70 1047.76 0.24 601.01 255.45
153.80
× 66.5-282.4 0.35 150.66 145.64 0.34 517.41 158.54
合計
724.11
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.3 二液式モード寿命評価実験#1:不点火
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.4 二液式モード寿命評価実験#2
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.5 二液式モード寿命評価実験#3
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
4. 1. 5 考察
不点火時の特性実験番号#1の不点火時の比推力は
153.24s
である.この値は,一液式モードと二液式モードの比推力 の間の値であり,一液式モードと二液式モードが混在した状態にあると考えられる.燃焼室温度の平均値
156.89℃は一液式モードにおける温度よりも高く,また触媒下流断面温度が上昇していることからも,
燃焼反応は起きていると考えられる.燃焼室内部では推進剤の気化に燃焼反応で生じた熱が奪われてい るため,燃焼室温度が低下したと推察される.また,バルブが閉じてから燃焼室温度が
600℃程度に上
昇していることから,推進剤供給過多の状態であるといえる.従って,以降の実験では点火時に1
秒間 推進剤を供給後にバルブを閉じ,燃焼室温度が予熱温度よりも十分に上昇したところで定常作動に移る という点火方式をとることで,確実に点火することに成功している.推力・比推力の定常状態
実験番号#2における定常区間での推力・比推力は,これまでに取得した
10-30
秒程の短時間噴射で取 得した性能値よりも向上しており,それぞれ590.38mN
および251.56s
である.本実験では定常状態に達 するまでに143.5s
かかっており,10-30s
程の噴射ではスラスタの温度が定常に達していないことが分か る.定常状態に達するまでに時間がかかるのは,スラスタ筐体の温度が定常に達していないためである と考えられる.スラスタ筐体はステンレス製で,スラスタ筐体への熱の収支が平衡状態になるまでの時 間であると考えられる.本実験は大気中で行ったため,雰囲気温度や対流が平衡状態になるまでの時間 に影響を及ぼす因子として挙げられる.短時間噴射との比較
図 4.7 に先行研究 23)にて得られた短時間噴射時の推進剤使用量と定常区間における燃焼室圧力平均 値の関係を示す.短時間噴射では推進剤使用量が
100g
ほどで性能が低下しているのに対し,長時間噴 射では100g
以上使用しても性能低下は見られなかった.短時間噴射の場合,燃焼室温度の急激な上昇 が繰り返されるために触媒の劣化が進行しているのではないかと考えられる.図 4.7 最低点火予熱温度探索実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室圧力平均値への影響
電子顕微鏡による観察および分析
図 4.8に二液式モード実験前後の触媒分析結果を示す.図 4.8(b)より,実験後の上流側断面では
Al
の減少とFe
およびCr
が増加していることから,アルミナが剥がれ,基材の鉄軽金属が露出していると考えられる.また,図 4.8(c)より,実験後の下流側断面では
Pt
の増加していることが分かる.Ptの 増加は上流側からPt
が移動してきたことによるものであると考えられる.二液式モードでは燃焼室温度が
1000℃以上の高温にさらされるが,熱電対により計測している温度はスラスタ内の下流側であるた
め,上流側はさらに高い温度であると思われる.Ptは
800℃以上に晒されると凝集することが知られて
おり25),また,アルミナも融点以下でその性質に変化が起こることが知られている26)ため,Pt
が上流側 からの移動し下流側で凝集していると考えられる.Pt
の移動・凝集により表面積が減少することで点火 ができなくなると考えられる.従って,燃焼室温度を抑制することで触媒の長寿命化が実現できると考 えられる.(a)
実験前(b)
実験後:上流側断面(c)
実験後:下流側断面 図 4.8 二液式モード実験前後の触媒分析結果4. 2 混合比の違いによる寿命への影響評価
4. 2. 1 実験概要
二液式モードでは混合比
5
のときの寿命評価実験を行い,燃焼温度を抑制することにより長寿命化が できる可能性が示唆された.そこで,本節では混合比を変更することにより燃焼温度を抑制し,長寿命表 4.3 混合比の違いによる寿命への影響評価実験の条件 供給圧力
[MPaA]
混合比
[-]
推進剤充填量
[mL]
予熱温度
[°C]
サンプリング周波数
[Hz]
使用触媒 番号
0.5 3 400 300 10 No.30
4. 2. 2 結果
表 4.4および図 4.9に実験結果を示す.点火してから
3s
程で最大800℃以上に達し,定常作動に成
功したが,180s付近で触媒断面温度の急激な低下を確認した.触媒断面温度が低下した後,燃焼室温度 は徐々に下降していき,280s
程で燃焼室温度も急激な低下を確認し,不点火時と同様の状態になったた め一度推進剤の供給を止め,再点火を試みた.再点火には成功したが,その後定常作動は持続しなかっ たため,実験を終了した.本実験における推進剤使用量は94.16g
だった.混合比5
のときと比較する と,混合比3
で長時間噴射したときの寿命は短いことが分かった.表 4.4 混合比の違いによる寿命への影響評価実験の結果
実験 番号
定常区間
定常区間における平均値
推進剤 圧力 温度 触媒温度 流量 推力 比推力 使用量
[s] [MPaA] [℃] [℃] [g/s] [mN] [s] [g]
#1 3.2-169.3 0.41 804.84 811.01 0.27 536.74 203.41
94.16 185.6-287.3 0.35 621.56 141.15 0.30 527.54 187.78
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.9 寿命評価実験(混合比
3)
4. 2. 3 考察
触媒の違い
4.1
節の実験では燃焼室温度が低下しても触媒断面温度が低下しない場合があったが,本実験ではそ れとは正反対のことが起こっている.これは使用した触媒の違いが影響していると考えられる.本実験 で使用した触媒No.30
は,今までに使用した触媒とは違い,巻き芯がない触媒である.巻き芯がないた め,触媒下流断面における温度の測定点が触媒自体ではなく,触媒中心部を通った推進剤であると推測 される.電子顕微鏡による観察および分析
図 4.10に本実験後の触媒分析結果を示す.上流側断面は実験前との違いはほとんど見られなかった.
一方,下流側断面においては