4. 1. 1 実験装置
図 4.1に噴射試験で使用する実験装置の系統図を示す.スラスタや供給系は一液式モードと同一のも のを用いる.タンク内に60wt%過酸化水素水とエタノールの混合液を充填して実験を行う.また,図 4.2 に示すように,スラスタ内部に熱電対を二つ挿入し,燃焼室内温度と触媒下流断面温度を計測する.
図 4.1 二液式モード実験系統図
図 4.2 スラスタ概要
4. 1. 2 実験条件
表 4.1に二液式モードの寿命評価実験の条件を示す.本実験では,混合比5のときに長時間噴射した ときの寿命を評価する.
表 4.1 二液式モードの寿命評価実験の条件 供給圧力
[MPaA]
混合比 [-]
推進剤充填量 [mL]
予熱温度 [°C]
サンプリング周波数 [Hz]
使用触媒 番号
0.5 5 400 300 10 No.32
4. 1. 3 評価方法
推進剤流量と燃焼室圧力・燃焼室温度に加えて触媒下流断面温度を計測する.計測したデータを用い
て,3.1.3項で示した式から定常区間での各計測値および推力・比推力の平均値を算出した.ただし,「定
常区間」の定義は,「燃焼室温度が最大値の90%に達してから推進剤の供給が終了する」,もしくは「燃 焼室温度が最大値の90%に達してから最大値の90%以下になる」までの区間とした.実験は二液式モー ドで作動が行えなくなったところで終了した.二液式モードの作動成功可否は燃焼室温度を基準に判断 した.一液式モード作動時の燃焼室温度の最大が 130℃であるため,点火に失敗した時には一液式モー ドでの作動になると考えられ,燃焼室温度で二液式モード作動成功可否の判断が可能である.
4. 1. 4 結果
表 4.2と図 4.3,図 4.4,図 4.5,図 4.6に実験の結果を示す.実験は4回行った.実験番号#1は点火 に失敗し,燃焼室温度の低下を確認したが,触媒温度の上昇がみられたため,触媒温度が定常状態に達 するまで実験を継続した.実験番号#2以降では点火時に少量の推進剤供給を数回繰り返し,燃焼室温度 を十分に上昇させてから連続して推進剤を供給し点火をした.実験番号#2では点火操作を開始してから
1340.4sでタンクに充填した推進剤が空になり,温度が低下してきたところで実験を終了した.このとき
の定常区間は燃焼室温度が最大値の90%に達してから推進剤の供給が終了するまでの区間である
143.5-1340.4sとした.実験番号#3はタンク内に200mLの推進剤を充填して実験を行った.定常区間は推進剤
がなくなるまでの区間をとした.実験番号#4についてもタンク内に200mLの推進剤を充填して実験を 行った.実験番号#4では,点火に成功した後,不点火のときと同様に燃焼室温度の低下を確認した.燃 焼室温度だけでなく,触媒温度も低下したため,再度点火操作を行ったが,温度の上昇がみられなかっ たため実験を終了した.定常区間は点火に成功したときと,不点火になったときの区間に分けて平均値 を算出している.
表 4.2 二液式モードの寿命評価実験の結果
実験 番号
点火 定常区間
定常区間における平均値
推進剤 圧力 温度 触媒温度 流量 推力 比推力 使用量
[-] [s] [MPaA] [℃] [℃] [g/s] [mN] [s] [g]
#1 × 13.7-83.7 0.36 156.89 647.14 0.35 529.11 153.24 30.55
#2 〇 143.5-1340.4 0.40 964.09 1016.16 0.24 590.38 251.56 321.68
#3 〇 46.4-841.4 0.40 1033.65 1060.99 0.25 591.51 247.41 218.09
#4 △ 46.2-57.9 0.41 960.70 1047.76 0.24 601.01 255.45
153.80
× 66.5-282.4 0.35 150.66 145.64 0.34 517.41 158.54
合計 724.11
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.3 二液式モード寿命評価実験#1:不点火
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.4 二液式モード寿命評価実験#2
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
(c) 推進剤流量履歴 (d) 推力・比推力履歴
図 4.5 二液式モード寿命評価実験#3
(a) 燃焼室圧力履歴 (b) 燃焼室温度・触媒断面温度履歴
4. 1. 5 考察 不点火時の特性
実験番号#1の不点火時の比推力は153.24sである.この値は,一液式モードと二液式モードの比推力 の間の値であり,一液式モードと二液式モードが混在した状態にあると考えられる.燃焼室温度の平均
値156.89℃は一液式モードにおける温度よりも高く,また触媒下流断面温度が上昇していることからも,
燃焼反応は起きていると考えられる.燃焼室内部では推進剤の気化に燃焼反応で生じた熱が奪われてい るため,燃焼室温度が低下したと推察される.また,バルブが閉じてから燃焼室温度が 600℃程度に上 昇していることから,推進剤供給過多の状態であるといえる.従って,以降の実験では点火時に1秒間 推進剤を供給後にバルブを閉じ,燃焼室温度が予熱温度よりも十分に上昇したところで定常作動に移る という点火方式をとることで,確実に点火することに成功している.
推力・比推力の定常状態
実験番号#2における定常区間での推力・比推力は,これまでに取得した10-30秒程の短時間噴射で取 得した性能値よりも向上しており,それぞれ590.38mNおよび251.56sである.本実験では定常状態に達 するまでに143.5sかかっており,10-30s程の噴射ではスラスタの温度が定常に達していないことが分か る.定常状態に達するまでに時間がかかるのは,スラスタ筐体の温度が定常に達していないためである と考えられる.スラスタ筐体はステンレス製で,スラスタ筐体への熱の収支が平衡状態になるまでの時 間であると考えられる.本実験は大気中で行ったため,雰囲気温度や対流が平衡状態になるまでの時間 に影響を及ぼす因子として挙げられる.
短時間噴射との比較
図 4.7 に先行研究 23)にて得られた短時間噴射時の推進剤使用量と定常区間における燃焼室圧力平均 値の関係を示す.短時間噴射では推進剤使用量が 100g ほどで性能が低下しているのに対し,長時間噴 射では 100g 以上使用しても性能低下は見られなかった.短時間噴射の場合,燃焼室温度の急激な上昇 が繰り返されるために触媒の劣化が進行しているのではないかと考えられる.
図 4.7 最低点火予熱温度探索実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室圧力平均値への影響
電子顕微鏡による観察および分析
図 4.8に二液式モード実験前後の触媒分析結果を示す.図 4.8(b)より,実験後の上流側断面ではAl の減少とFeおよびCrが増加していることから,アルミナが剥がれ,基材の鉄軽金属が露出していると
考えられる.また,図 4.8(c)より,実験後の下流側断面では Ptの増加していることが分かる.Ptの 増加は上流側から Pt が移動してきたことによるものであると考えられる.二液式モードでは燃焼室温
度が1000℃以上の高温にさらされるが,熱電対により計測している温度はスラスタ内の下流側であるた
め,上流側はさらに高い温度であると思われる.Ptは800℃以上に晒されると凝集することが知られて おり25),また,アルミナも融点以下でその性質に変化が起こることが知られている26)ため,Ptが上流側 からの移動し下流側で凝集していると考えられる.Ptの移動・凝集により表面積が減少することで点火 ができなくなると考えられる.従って,燃焼室温度を抑制することで触媒の長寿命化が実現できると考 えられる.
(a) 実験前
(b) 実験後:上流側断面 (c) 実験後:下流側断面 図 4.8 二液式モード実験前後の触媒分析結果