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ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察

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(1)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察

その他のタイトル On Monetary Aspect of Keynesian Theory

著者 安田 信一

雑誌名 關西大學商學論集

12

4‑6

ページ 375‑412

発行年 1968‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021473

(2)

ケインズ経済学の貨幣的側面 についての一考察

1 .

ケインズにおける貨幣の範囲とその意味

およそ経済はいうまでもなく実物的部面と貨幣的部面との相互作用から成 り立っている。この小稿はケインズ経済学においてはこの両部面の相互作用 がどのように取扱われているかを主として貨幣的側面から考察することを目 的としている。もっともそのためには取扱われるべき問題は種々あり,この

(1) 

小稿ではその一部分について論ずるにすぎない。

ケインズは「一般理論」において一社会の貨幣数量

M

Ml

M2

とに 分つとともに,つぎの式が示すように

Ml

を貨幣所得

Y

の関数,

M2

を利子

(2) 

r

の関数としている。

M=M1  +M2=Li(Y) +L2(r) 

ケインズほ周知のように各経済主体が貨幣を所有する動機を取引的動機,

予備的動機,投機的動機に分類するとともに,取引的動機をさらに所得的動

(3) 

機と営業的動機に細分している。

所得的動機による貨幣所有すなわち貨幣需要とは家計がその日常生活を営 むために所有する貨幣のことである。したがって給料生活者の各家計ではこ の動機による貨幣所有は給料を受取った直後において最高であり,つぎの給

(1) 

この小稿は拙稿「貨幣数量と物価,利子」(関西大学経済政治研究所 研究双書 第2

3

1 9 6 7

年)の続編の一部分である。

(2)  J .   M. Keynes,  The General  t h e o r y   o f  employment,  i n t e r e s t   and money,  London,  1 9 3 6 ,塩野谷九十九訳,昭和2 5

年版,

2 4 2

(3)  i b i d . ,   p p .   1 9 5 ‑ 6 .訳本, 237‑8

(3)

38 

( 3 7 6 )  

ケイソズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

料受取の直前において最低である。また営業的動機による貨幣所有とは,企 業がその活動をおこなうにともなって,当然に日々の支出を必要とするが,

その経済活動にともなう種々の支出に対応するために所有するのがこの動機 による貨幣所有である。

家計では家族の病気その他の予期しない支出に備えるために貨幣の所有を 必要とする。また企業であるが,例えば各製造会社では原材料等の購入に際 しては手形を振出して支払うが.製品代金についてもまたその販売先である 問屋から手形を受取り,この受取手形を銀行にて割引き,その手取金にて原 材料等の購入先に振出した手形を支払うのが通例で,企業はこのような活動 を繰り返えすことによって運転資金を回転している。ところでこのような行 動が反復せられる場合に,あるときにこの製造会社の製品販売先が破綻し,

この製品販売先の振出した手形が不渡りとなったとする。製造会社としてほ 上述のように受取手形を銀行にて割引き,手取金で製造会社が自ら振出した 手形を支払っているので,製造会社としてほ製品販売先の破綻によって,製 品販売先から受取り,すでに銀行にて割引している手形の代金を支払わなけ ればならない。すなわちこの製造会社としては製品販売先の破綻によって運 転資金の回転に支障を生じたのである。それ故にこの支障を避けるためには,

この製造会社はあらかじめ一定の貨幣を所有していなければならない。

上述の場合においては,家計では病気その他の不時の支出の必要のために,

また企業では受取手形の不渡りからおこる運転資金回転の困難を避けるため に,それに備えて貨幣を所有することの必要な理由をあげたが,上例の場合 はもとよりその一例にすぎない。要するに家計にせよ,企業にせよ,上例の ような例を含む種々の予期しない偶然的支出がある。したがってこの偶然的 支出に備えて一定の貨幣所有を必要とするのであって,この貨幣所有がある ことによって家計は生計を,企業は経済活動を「円滑」に営むことができる のである。この「円滑」に営むために家計ならぴに企業が所有する貨幣が予 備的動機にもとづく貨幣所有である。

所得的動機による貨幣所有は家計が生計を営むために,営業的動機による 貨幣所有は企業が経済活動をおこなうために,家計ならびに企業がそれぞれ

(4)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

必要とする貨幣所有であり,また予備的動機による貨幣所有は生計ならびに 経済活動を円滑となるようにするための貨幣所有である。すなわちこの三つ の動機による貨幣所有は一括していえば家計ならびに企業が生計ならびに経 済活動をおこなうための貨幣所有である。ケインズはこの三つの動機にもと づく貨幣所有を

M1

にて要約しているが,この三つの貨幣所有の一括が上述 のような意味をもつとすれば,

M1が所得の関数であるのもまた当然である。

ケインズは投機的動機による貨幣所有を

M2

としている。それでは投機的 動機による貨幣所有とは何かであるが,利子の騰落の反面は債券価格の下落,

騰貴であるので,近い将来において利子が騰貴するか,下落するかの予想に したがって,貨幣を所有するのが有利か,債券にて所有するのが有利かを考

(4) 

ぇ,貨幣による所有を有利とするのがこの動機による貨幣所有である。

貨幣は常に額面価格で通用する。したがって貨幣の所有はそれ自体として 考えれば,所有者にとっては投機的要素はほとんど存在しない。すなわち貨 幣所有の中に他の動機による貨幣所有とならんで投機的動機による貨幣所有 があることは,貨幣の性質から考えるとそれ自体矛盾であるようにも解せら れる。それにもかかわらずケインズが貨幣所有の動機を分析して,その中に 投機的動機による貨幣所有があるとし,これを

M2

としている。何故か。

(5) 

ケインズが前提とする社会は債券市場が確立している社会である。すなわ ちこの市場では日々大量の債券が売買せられるとともに,債券の需給に応じ て債券価格が騰貴,または下落する。ところで債券の供給すなわち売却とほ 資金の需要であり,債券の需要すなわち購入は資金の供給である3 したがっ て債券の供給が需要を超え,債券の価格が下落するとは資金の需要が供給を 超えることで,金融逼迫を示す。これに反し債券の需要が供給を超え,債券 価格が騰貴するとは資金の供給が需要を超え,金融の緩慢なことをあらわす。

ところでケインズは人々が投機的動機によって貨幣を所有するのは,人々が

(4). i b i d . ,   p p .   1 9 6 ‑ ‑ 9 9 ,

訳本,

2 3 9

4 1

(5) 

わが国では今日債券市場はあるが,昭和

4 2

年においては

9

月以後国債は事実上 管理価格の下にある(日本経済新聞,昭和

4 2

1 2

2 8

日朝刊)。 けれどもここでは このような状態は存在しないと仮定する。

(5)

40 ( 3 7 8 )  

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

その財産を貨幣にて所有するのが有利であるか,債券にて所有するのが有利 であるかの予想にもとづいて,貨幣の所有を有利とすることによると述べて いるが,ケインズがこの動機による貨幣所有を「投機的動機」による貨幣所 有と称した理由は何か。

人々しま債券市場において債券を売買するが,この売買は債券価格の騰貴ま たは下落を予想しての投機的要素をその中に含む取引である。そしてこの債 券価格の騰貴または下落は利子の下落または騰貴の反面である。すなわち人 々は金融状態が近い将来において緩和するか,逼迫するかの予想にしたがっ て,金融の緩和すなわち利子の下落を予想するときには,その価格の上昇を 予想して債券を購入するが,このことはその購入者が代金として貨幣を手放 すことすなわち貨幣需要の減少を意味し,また逆に金融が逼迫すると予想す るとき,すなわち利子の騰貴を予想するときにはその価格の低下を予想して 債券を売却して貨幣需要を増加する。このように考えると債券の売買取引の 反面として増減する貨幣需要をケインズが投機的動機による貨幣需要と称し たのは,この貨幣需要の反面である債券取引の中に投機的要素を含むという 意味で,かつこの投機的動機による貨幣需要を他の動機から独立せしめて

M2

とし,

M2

に対する需要を利子の関数であるとしたのは債券需要が利子の 関数であることの反面である。

中央銀行貨幣というも,それが流通貨幣の場合には銀行券であるが,商業 銀行によって支払準備金として所有せられる場合にはその全額が中央銀行預 金となる。ところでケインズは「貨幣論」において今日流通貨幣の中で小額 鋳貨である補助貨幣はもとよりであるが,銀行券の占める割合も低率で,大 部分は商業銀行貨幣すなわち商業銀行預金から構成せられ,かつ流通貨幣の 中で商業銀行貨幣の占める割合はなお上昇する傾向にあると述べている。そ れ故に簡単化のためにケインズは流通貨幣の全額が商業銀行貨幣からのみ構 成せられると仮定した。また中央銀行貨幣はその全額が中央銀行預金の形態 にて支払準備金として商業銀行によって所有せられると仮定した。すなわち これを要約すると中央銀行貨幣は全額が商業銀行の支払準備金として中央銀 行預金の形態にて所有せられ,さらにその数倍の商業銀行貨幣すなわち商業

(6)

(6) 

銀行預金が一般公衆によって所有せられている。

ケインズは商業銀行貨幣すなわち商業銀行預金を大別して現金預金と貯蓄

(7) 

預金とに分つとともに,現金預金を所得預金と営業預金とに細分している。

ところでケインズは流通貨幣の全額が商業銀行貨幣のみから構成せられると 仮定したが,その意味は商業銀行貨幣の全額が流通貨幣であるというのでは

(8) 

なく,商業銀行貨幣の中の現金預金のみを流通貨幣としたのであって,その 理由は商業銀行貨幣の中の現金預金が流通貨幣の大部分を占め,銀行券等の 占める割合が低もかつ流通貨幣の中で現金預金の占める割合が上昇傾向に あったことにもとづく。すなわちこれを要約するとケインズは「貨幣論」に おいては中央銀行貨幣はその全額が商業銀行によって支払準備金として所有 せられ,商業銀行はさらにその数倍の預金すなわち商業銀行貨幣を受入れて いるが,この商業銀行貨幣すなわち商業銀行預金は反面からいえば公衆の所 有する貨幣である。けれどもこの商業銀行貨幣の中流通貨幣であるのは現金 預金のみで,かつこの現金預金の全額を流通貨幣の全額と仮定した。

ケインズは「一般理論」においては,「貨幣論」において述べた貨幣の範囲 ならびに分類を原則としてはそのまま継承して,各種類の動機にもとづく貨

(9) 

幣需要と上述の各種貨幣との関係をつぎのように述べている。

所得的動機にもとづく貨幣需要は所得預金の需要,営業的動機による貨幣 需要は営業預金の需要,予備的動機ならぴに投機的動機による需要は貯蓄預 金に対する需要となる。

ケインズにおいては各種類の動機にもとづく貨幣需要が上述の各種預金に 対する需要であるとすれば,

M2t

ま貯蓄預金のみを示すが,

Mit

ま所得預金,

営業預金,貯蓄預金の三種類の預金を含むこととなる。けれども予備的動機 にもとづく貯蓄預金が

Ml全体,さらにはまた貯蓄預金全体の中において占

める割合は低い割合と考えられるので,ここでは簡単化のために

M1

tま所得

(6)  J .   M. K e y n e s ,  A T r e a t i s e  on Money, London, 1 9 3 0 ,  V o l .  I ,   p .   3 1 .   (7)  J .   M. K e y n e s ,  T r e a t i s e ,  V o l .  I ,   p p .  33‑6

. 

(8)  J .   M. K e y n e s ,  T r e a t i s e ,  V o l .  I ,   pp. 3 1 ‑ 2 .  

(9)  J .   M. K e y n e s ,  G e n e r l  T h e o r y ,  p p .  1 9 4 ‑ 5 .訳本2 3 7

(7)

42 (380)

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M1 -tt.r::bt>:IJJ~ffl~O)i:J:ivc.v:tf1J-f-#m~ t 3; 0 iJ,, -tO)f1J-f-v:t ~bl>b-C

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M2 cfl~cO)~iR_~~Gb-to

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(11)

Mm~~-~-to)t~00H":h~tJ:::imO)J:'5~--. -tL-C-t:hvi.A~

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~lis$c L-C M2 ~~5EL-C1,,00)il•o Jr11/.7.:'v:J:.~O),~~lj}jlf{Hc.~""'-C1,,

(10) J. M. Keynes, General Theory, p. 167. note, ~;$:200---'201J.(,

t.i::t-; C.

O),\;i.

v:::.--::>

1,,

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66- 7

J.(f:::. 1h 5 I ffl -it G

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1,,

Go

(11) J. M. Keynes, Treatise, Vol. I, p. 36.

(8)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

ない。けれどもこの点は明確にする必要があり,かつその結果としてM2,さ らには

M

の範囲がケインズの意味するところと異なるとしても,そのこと はケインズの既述した貨幣需給方程式

M=M1+M2=L1(Y)

+ら(r)を正しく 理解するためには必要であろう。

ケインズは既述のように

M2を利子 r

の関数としているが,その意味は利 子変動の反面は債券価格の騰落となってあらわれるので,人々が近い将来に おいての利子の変動を予想して,その中に投機的要素を含む債券の売買取引 をおこなうが,

M2に対する需要の増減はこの債券の売買取引の反面として

である。そして利子の低下とともに

M2

に対する需要が増加し,利子の騰貴 とともに

M2に対する需要は減少するが,それは反面からいえば利子の低下

とともに公衆の所有する債券需要が減少し,利子の騰貴とともに公衆の所有 する債券需要が増加することを示す。ケインズの

M2の概念を決定する基準

をここに見い出すことができる。

利子というも現実には例えばコールレート,大蔵省証券の利回り(以下大 蔵省証券を

TB,

大蔵省証券の利回りを

TBレートと称す),預金利子,銀行

の貸出利子,債券利回り等の各種の利子がある。けれどもケインズは各種利

( 1 2 )  

子の複合体を単一の利子にて示し,

M2をこの利子の関数としている。とこ

ろで各種の利子が同一の利子格差をもち,したがって例えば

TBレートと債

券利回りすなわち長期利子との間に常に2.0%の差があり,債券利回りが1

. 0

%上昇して6.0%から7.0%となるときにほ,

TBレートも 1 . 0

%上昇して4.0

%から

5.0

%となるという関係にあるとすれば,ケインズが説くように各種 の利子の複合体を単一の利子にて示すも差支えない。

いま例えば額面価格1

0 0

万円で,期限

3

ヶ月の

TB

があり,市場価格が9

9 .

(13) 

0 1

万円であるとする。すなわち

TBレートは4.0

%である。つぎに金融が逼 迫して

TBレートが上昇して, 4.0

%から5.0%となったとすれば, この

TB

の市場価格は9

8 .7 7

万円である。すなわちこの_TBレートの上昇によって

TB

の所有者は

0.24

万円の資本損失を蒙むったにすぎない。これに対して額面価

( 1 2 )   J .   M. K e y n e s ,  G e n e r a l  t h e o r y ,   p .   1 6 7  n o t e ,

2 0 1

(13) 

この場合

TB

が割引発行であることを前提としている。

(9)

44  ( 3 8 2 )  

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

格1

0 0

万円で,期限1

0

年の6.0%利付国債があるとし,かつそのときにおける 金融状態から国債の利回りが

6.0

%とすると,この国債の市場価格は額面価 格と一致して

1 0 0

万円である。けれどもその後金融状態が逼迫して長期市場 利子が騰貴し,国債の利回りも

6.0

%から

7 . 0

%となったとする。そのことは この国債の市場価格が

92.92

万円となったことを意味する。すなわちこの国 債の所有者は7

. 0 8

万円の資本損失を蒙むったのである。また額面価格

1 0 0

円で,

6.0

%利付,額面価格

1 0 0

万円の無期限国債の場合には利回りが6.0%

のときには額面価格と市場価格とは一致して,市場価格も

1 0 0

万円であるが,

利回りが7.0%のときには市場価格は8

5 .7 1

万円となり,所有者にとっての資 本損失は

1 4 . 2 9

万円である。利子が下落した場合にはこの逆である。すなわ

TBレートが4.0

%から3.0%に下落したとすると,額面価格1

0 0

万円の

TB

の市場価格は99.25万円,また国債の利回りが6.0%から

5.0

%に下落したと すると,額面価格

1 0 0

万円,

6.0

%利付期限1

0

年の国債の市場価格は1

0 7 .0 1

円,また6.0%利付額面価格1

0 0

万円の無期限国債の市場価格は

1 2 0

万円とな

上例からも明らかなように利子が変動するもその期限が短期である

TB

場合には資本損失は僅少であるが,満期日までの期限が長期である債券(上 例の場合国債をあげたのは国債が債券のもっとも代表的なものであるが故で ある)の場合には市場価格は大巾に変動する。そして市場利子の変化に対す

TBと満期日までの期限が長期である債券との間の市場価格のこの変動割

合の相違は量的な相違というよりは質的な相違ということができる。ケイン ズは

M2

をもって商業銀行の貯蓄預金としているが,貯蓄預金は利子付預金 である。またケインズは上述のように

M2

の中に

TB

が含まれることがあり 得ることを認めている。貯蓄預金はいうまでもなく商業銀行に対する利子付 債権である。これに対して

TB

は政府に対する利子付債権を代表する証券で ある。それに加えて期限の点からいうも

TB

は貯蓄預金よりもむしろ短期で ある。それ故にその一つである貯蓄預金のみを

M2

とし,他である大蔵省証 券を鳩から排除すべき理由はなく,ケインズが述べるように

M2

の中に

T

Bを含むことがあり得るというのではなく,むしろ常に含むべきであると考

(10)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

える。そしてその積極的理由としては,ケインズは既述のように

M2

を利子

r

の関数としているが,その意味は既述した

M2の性質すなわち投機的動機

の性質から明らかなように利子

r

の変化とともに一般公衆における

M2と債

券との所有割合が変化するということである。ところで

TB

は満期日までの 期限が短期であるので,利子が変動するも市場価格の変動は僅小であるのに 対して,債券は利子が変化した場合に市場価格は大巾に変動し,その結果と して利子の変化に対して

TB

の市場価格の変動は債券の市場価格の変動と比 較すれば無視することができるほどであると言うことができる。したがって 利子の変化によって一般公衆の

M2と債券との所有割合が変化するというが,

この場合に

TB

は利子の変化に対しては貯蓄預金と同様の性質をもつと考え られる。

以上ほ短期利子と長期利子との隔差が同ーであるとした。けれども短期利 子は長期利子が変化する以上に変化し,そのために金融が引締まり利子が全 体として騰貴するようなときには,長期利子が騰貴する以上に短期利子が騰 貴して,短期利子と長期利子との差ほ縮小し,その甚だしい場合すなわち金 融が逼迫するような場合にほ,ときによっては短期利子が長期利子を超える という異常な状態さえも生ずる。また逆に金融が緩慢となって利子が全体と して低下するようなときには,長期利子が低下する以上に短期利子が変化し て,短期利子と長期利子との隔差は拡大する。短期利子と長期利子との隔差 はこのように一定ではなく,縮少したり,拡大したりする。ところで

TB

らびに債券の所有者にとって資本損失があるのほ利子が騰貴する場合である。

そしてこの場合には短期利子は長期利子よりも以上に騰貴して,両利子間の 隔差は縮小する。しかるに既述の例においてほ利子の騰貴に際しても,両利 子間の隔差が同一であるとして,

TBと国債とのそれぞれの所有者にとって

の資本損失を計算した。それ故に利子の騰貴に際しては,短期利子が長期利 子以上に騰貴することを考慮にいれて,

TBと国債とのそれぞれの所有者に

とっての資本損失を修正して計算する。

既述の例においては

TBレートが4 . 0

%から

5 . 0

%に上昇したと仮定したが,

これを修正して4

. 0

%から

5 . 5

%に上昇したとすると,額面価格

1 0 0

万円で,

(11)

46  ( 3 8 4 )  

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田).

期限

3

ヶ月の

TB

TB

レートが4.0%のときには市場価格は9

9 . 0 1

万円であ るが,

TBレートが5 . 5

%となると市場価格は9

8 . 6 4

万円で,資本損失は0

. 3 5

万円となる。これに対して国債の利回りが6

. 0

%から

7 . 0

%に上昇したとする

と,既述のように額面価格

1 0 0

万で,

6

%利付,期限1

0

年の国債の市場価格 は7

.0 8 .

万円,額面

1 0 0

万円で,

6 %

利付の無期限国債の場合には市場価格ほ 14.29 万円低下する。•この例においては短期利子の代表としての TB レート が1

. 5

%騰貴したのに対して,長期利子の代表としての国債の利回りは

1.0%

騰貴すると仮定した。それにもかかわらずこのような結果を生じたのである。

ケインズは

M2を投機的動機にもとづく貨幣所有とし,利子 r

の関数とし たが,その意味は既述のように債券の市場価格の騰落は利子の下落,上昇を 示し,利子の低下はすなわち債券の市場価格の騰貴であり,利子の騰貴ほ債 券の市場価格の下落であるので,投機的動機による貨幣需要を利子の変動に ともなうこの債券需要の反面として把握したことにもとづく。そして債券と は長期の確定利子付証券のことであるので,その市場価格の上昇,低下は利 回りの低下,上昇を意味する。この場合この債券の利回りは長期利子を示す。

ケインズは

M2を利子の関数すなわち M2

=ら(

r )

としたが,この場合に おいての利子グとは上述したことから明らかなように債券の利回りにて代表 される長期利子をあらわす。そして

M2が利子

9の関数であるということの 意味はこの長期利子の変化にともなって一般公衆の

M2と債券との所有割合

が変化するということである。すなわちケインズはグの低下とともに

M2が

増加すると説いているが,そのことは換言すると長期利子の低下にともなっ て,長期利子がなお一層低下するという予想をもつ人々が次第に減少するこ と,これを反面からいえば債券価格の上昇が次第に限界に接近していると予 想する人々が増加するために,債券を売却して

M2

の所有を増加する人々が 増大すること,すなわち利子の低下によって,これまでの利子におけるより も,この低下した利子においては一般公衆が

M2を増加して,債券所有を減

少し, 島と債券との所有割合を変化する。

ケインズは

M2の所有形態を貯蓄預金としているので, M2の中に貯蓄預

金が含まれるのは当然である。つぎに

TB

であるが,既述のように

TB

は利

(12)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

( 3 8 5 )  47 

子が変化した場合にもその市場価格に及ぽす影響は僅少で,利子の変化が債 券の市場価格におよぽす影響と比較すれば無視できるほどであるので

TB

M2の中に加えるのが正当であると考える。

ケインズにおける

M2の意味を上述のように貯蓄預金のみではなく, TB 

をも含むとする場合,

M1

は現金預金であるので

M

は商業銀行貨幣すなわち 商業銀行預金(現金預金と貯蓄預金との合計)に

TB

を加えたものとなる。

2 .   f

貴券,利子,産出高

筆者はケインズにおける

M

の意味を第一節に述べたように解したが,

TB

を除く M の全額,換言すれば M の大部分は商業銀行貨幣すなわち商業銀行 の預金で,したがって商業銀行の債務である。ところで利子

r

の変化が既述 のように一般公衆における

M2と債券との所有割合を変化するとすれば,そ

の場合における

M2の大部分は商業銀行貨幣であるので,それは当然に銀行

における一定の行動を予定し,この行動を前提として,ケインズは利子

r

変化にともなって一般公衆が

M2と債券との所有割合を変化すると考えてい

る。それではこの場合に前提としている銀行の予定せられた行動とは何か。

アクリーはケインズ経済学の理論をつぎのような方程式体系にて要約して

1,

Y=Y(N)  dY  W 

諏 = 一

S=S(Y)  I = I ( ' Y

) 

I=S 

ヽノヽノ︑ノ︑︑ヽノ

1 2 3 4 5  

 

M=lpy+L(r)  (6) 

但し

Y

=実質所得,

N=雇用量, P

=物価,

W =

貨幣賃金率,

S=

実質貯蓄,

I=実質投資, グ=貨幣利子, l=貨幣所得に対する取引便宜のための貨幣所

(1)  G. A c k l e y ,  M a c r o e c o n o m i c s ,  New Y o r k ,  1 9 6 1 .   p .   4 0 3 ,

都留重人監訳

I I , 3 3 3  

頁,なお以下において述べるところは第1Aまでは拙稿「貨幣数量と物価, 子」の一部分の要約である。

(13)

48 

( 3 8 6 )  

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

有の割合,

M=貨幣数量とする。

以上の方程式体系の中問題となるのは(6)式の貨幣需給方程式である。既述 のようにケインズは貨幣需給方程式を

M=M1+M2=L1(Y)

+ら(

r )

とした。

しかるに(6)式においては

M=lpy+L

r )

としている。この(6)式においての

lpy

はケインズの

M i ,L(r)はケインズの M . 2

をあらわしている。したがっ てケインズの貨幣需給方程式では

M1=L1(Y)

としているのに対して,(

6

では

M1=lPY,

またケインズでは

M2

=ら(ッ)としているのに対して,(

6

で は 島 =

L 2 ( r )

としている。それ故に

M2についてはケインズの貨幣需給

方程式も,(6)式もともに

r

の関数としているのでこの点については問題はな い。つぎに

M1についてであるが,ケインズの貨幣需給方程式では M = L1(Y)としているのに対して,( 6

)式では

M1=lPYとしている。ところでケ

インズの貨幣需給方程式における

Y

は既述のように貨幣国民所得のことであ る。これに対して(6)式では Yは実質産出量, Pは物価水準を示す。したが って

PYv

ま貨幣国民所得をあらわす。すなわちケインズの貨幣需給方程式に おける

Y

(6)式における

pYとは同一事象の異なった表現にすぎない。つ

ぎにケインズでは

Ml

Vま貨幣圏民所得の関数としているが,その意味は貨幣 国民所得の増加とともに

Mlが増加するという意味での順関数である。これ

に対して

( 6 )

式では

l

を正の一定数とすると,(

6

)式では

M

バま貨幣国民所得の 増加と正比例して増加することをあらわす。すなわちケインズでは

Ml

と貨 幣国民所得との関係については貨幣国民所得が増加すれば

Mlが増加すると

いうことのみを示したのであって,その割合が正比例するか,逓増するか,

逓減するかをあらわしていないが,(6)式では

l

を正の一定数とすることによ って,その一つの場合を示しているのである。したがってケインズの貨幣需 給方程式と(6)式との間には根本的な点では相違はないと考える。

以上の(1)式から(6)式までの仮設的な具体例としてつぎの方程式体系をあげ

(2) 

ることとする。 (但し(5)式はその性質上そのままである)。

(2)  ( 4 ) '

式においての

l=l

は利子の低下とともに投資が同一割合にて増加するこ

J>l

は利子の低下とともに投資が逓増することを示す,なお

B

および

b

は正 の定数である。

(14)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

Y=kNa 

但し

a<l a , k N a ‑ 1 = ̲ : ; : .

.  

S=aY‑A 

l=(B-br)入但し B-br>O,).,~1

l=S 

M=lpY+ 

Cゲ ー

d

(1)'  (2)'  (3)'  (4)'  (5)  (6)' 

上述の方程式体系において

k=50, a=l/2, a=l/3, b=300,  c=lOO,  d =   1 ,   / ¥ , = l ,   A=l8, B=50, C=50

とする。またケインズ経済学では

W

は雇用 が完全雇用に到達するまでは一定としているので,ここにおいても一定とし

W=15

とする。この場合に貨幣数量

M

の変化にともなって,

r ,   I ,   S ,   Y ,   N,P

がどのように変化するかであるが,それは第

1

Aに示すとおりで

ある。つぎに仮定した他の定数はすべて同一として,

B

のみを

50

から

46

に変 更する。その場合に貨幣数量

M

の変化にともなって,グ,

I ,S ,   Y,  N, P

1

A

l=S 

c o n .   P Y  

Pl  M1  IM. 

│ 

2 7 0 .  0 1   5 7 .  6 

1 0 0   6 .  0  3 2 .  O 

9 .  O  150.。〗 1 , . s o   1 1 s . o   9 0 .  o 0 1  , 1 0 .  0 

120  4 .  5 7 9   3 6 .  263 1 0 .  576  162. 78  95348  I  12a526  3 1 8 .  0  7 0 .  8  1 0 6 .   1 4 .  0 

1 4 0   3.5  39.5  1 1 . 9   1 7 2 .  5  07  1 3 3 .  0  3 5 7 .  1  8 1 .  8  1 1 9 . 0   20.0  1 6 0   2.656  42.05  12.99  1 8 0 .  1 5   1 6 3   1 3 8 .  1  3 8 9 .  7  9 1 .  0  1 2 9 .  9 I  

3 0 .  2  1 8 0   2 .   1 5   43.55  13.638  1 8 4 .  6 5   216  1 4 1 .  1  409.2  96.5  1 3 6 .  4 .   4 3 .  5  200  1 .  84  44.47  14.0475 1 8 7 .  4  249  1 1 4 2 .  9 3   4 2 1 .  5  1 0 0 .  0  1 4 0 .  5 1   5 9 .  5 

con

=実質消費支出

第 1表 B

 II

l=S 

 II

c o n .  

P Y  

PI 

M1 

M2 

% 

1 0 0   4 .  9 2   3 1 .  24  8 .  7 3 8 5   1 4 7 .  7 2   1 .   7 7 3  

1 1 6 .  48  2 6 1 .  9  5 5 .  4  1 2 0

 

 

II

3 .  661 3 5 .  0 2  1 1 0 .  1 2 0  1 1 s 9 .  0 6 1   1 .  909 

 !I

1 2 4 .  0 4 1   3 0 3 .  6 1   6 6 .  9  1 4 0 1 1   2 .  7 7  I  3 7 .  69 1 1 1 .  1 6 s  I  1 6 1 .  0 1 1   2 .  005 1   1 1 2 9 .  3 8 1   3 3 5 .  o :   7 5 .  6  1 6 0  

2 .  2 0 9 1   3 9 .  ・ 3 7 3 1 1 1 .  856 

1 7 2 .  1 8 1   2 .  066 

 II

1 3 2 .  8 1 1   3 5 5 .  8 1   8 1 .  4 ,   1 8 0 1 1   1 .  8 7 4 1   4 0 .  3 7 8 ! 1 2 .  269 I  1 1 5 .  1 3 1   2 .  1 0 1 6 1 1   1 3 4 .  7 5 1   3 6 9 .  9 1   8 4 .  9 

2 0 0 1 1   1 .  6 6 9 [  4 o .  9 9 3 [ 1 2 .  s 2 9   I  1 1 6 .  9 8 [   2 .  1 2 3 8 [ !   1 3 5 .  9 9 [   3 7 5 .  9 [   8 7 . l j  

8 7 .  3 1   1 2 .  8 

1 0 1 .  2 1   1 8 .  8 

1 1 1 . 7 1   2 8 . 2  

1 1 8 .  6 1   4 1 .  3 

1 2 2 .  7 1   5 7 .  2 

1 2 5 .  3 1   7 4 .  7 

(15)

50 ( 3 8 8 )  

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

どのように変化するかをあらわしたのが第1Bである。

上述のようにヶィンズ経済学の仮設的具体例を示す方程式体系を (1)'式か

( 6 ) '

式までの方程式体系にてあらわすとともに,定数についてもそれぞれ 上述のように仮定した。ただその中投資関教

l=(B‑br)

えにおける定数に 関しては,上述のように

b=300, / ¥ , = l

としたが,

B

については第

1

表Aの 場合には

s o ,

1

Bの場合には 46

として,貨幣数量Mの増加にともなって 未知数である

r ,I ,   S ,   N,  Y ,   P

がどのように変化するかをあらわすととも

PY,P I ,   Con(実質消費支出), M1, M2

の変化をもあわせて明らかにし た。つぎに第

1

A, Bの両表を同一貨幣数量について比較すると第 1

表A の場合と比較して第

1

表Bの場合には

rI ,   S ,   N,  Y,  P ,   PY, P I ,   M1

が小で あるのに対して, 兄が大である。このことは前述したように投資関数を示 す式である

l=(B‑br)

えにおいて入と

bとを不変として, B

のみを5

0

から

46

に減少したことにもとづくのであって,そのことは換言すると投資関数が 減少方向にシフトしたことによる。それではこのことは何を意味するかであ るが,そのことを説明するがために貨幣数量

M

160

の場合においての第

1

A

の場合と第

1

B

の場合とを比較,対照する。

=S 

 II

PY 

PI 

 II

M1 

M2 

% 

1

A

の場合

1 6 0

2 .  6 5 6 1 4 2 .  o 5  1 1 2 .  99 1 1 8 0 .  1 5 1   2 .   1 6 3 ! 1   3 8 9 .  7 1   9 1 .  o / 1   1 2 9 .  9 1   3 0 .  2 

1

B

の場合

1 6 0

2 .  2 0 9 1 3 9 .  3 7 3 1 l l .  8 5 6 1 1 7 2 .  1 8 1   2 .  0 6 6 1 1

  3 5 5 .  8 1   8 1 .  4 1 1 1 1 8 .  4 1   4 1 .  3 

上の表が示すように貨幣数量はともに

160

であるが,第

1

表Aの場合と第

1

表Bの場合とを比較すると投資金額

PI

は第

1

表Aの場合における

9 1 .0

ら第

1

表Bの場合には

8 1 .4

に減少している。そしてその結果ほ貨幣国民所得

PY

にもあらわれ,

PY

は第

1

Aの場合における 389.7

から第

1

Bの場合

における

355.8

に減少している。

M1

PY

の関数であるので,第

1

表Aの場 合と比較して第

1

Bの場合に小であるのは当然である。ところで M1

の中 には家計の生計資金すなわち所得的動機による貨幣所有もあるが,企業の運 転資金すなわち営業的動機による貨幣所有もある。そして

Ml

の中では企業 の運転資金は重要な部分を占めているので,

Mlの減少のかなりの部分は運

(16)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田) 転資金需要の減少によると考えることができるであろう。このように第

1

Bの場合には第 1

Aの場合と比較して,企業における資金需要は投資資金

についても,運転資金についても減少している。したがって利子グが低下す るのは当然である。

いま考察の便宜上

M=160

においての第

1

表A,

1

Bの両場合とも第 1

A

における

M=lOOの状態から直ちに到達したとする。ところでこの場

合に

M

はすぺて商業銀行貨幣すなわち商業銀行預金であると仮定すると(以 下この仮定を続ける),

M

は商業銀行(以下単に銀行という)の供給によらざ るを得ない。そして銀行がこの貨幣を増加する方法はその資産を増加するこ とであるが,この資産の増加ほ大別すると貸出残高の増加と債券を主とする 証券の購入とに分つことができる。それ故にここにおいても銀行の資産は貸 出と証券の二種類のみから構成せられるとし,かつ第1表 Aに お け る

M = 1 0 0の場合の期末においての銀行の資産は貸出 90

と証券1

0

から構成せられる

(3) 

と仮定する。銀行の貸出残高を

L ,銀行の証券所有を B

とすると,この仮定 の下では銀行においては常に

L+B=M1+M2

という状態にある。そして第

1

A

における

M=lOOの期末においては M1=90, M2=10であったので,

この期末には銀行は資産は

L=90,B=lO合計1 0 0 ,

負債は

M1=90,M2=10

であった。つぎに一般公衆ほ証券としては債券のみを所有し,かつその債券 は額面価格5

0

6.0

%利子付無期限債と仮定する。この場合バま6.0%であ るので,債券の市場価格は5

0

である。これを要するにここにおいて考察しよ うとする

M=160のときにおける A

B

の場合とほ,その直前の与えられ た状態は銀行では資産は

L=90,B=lO合計 1 0 0 ,

負債は

M1=90,M2=10, 

したがって

M=lOO

で,かつバま6.0%,一般公衆は額面5

0

6.0

%利子付 無期限債を所有し,したがってこの無期限債の額面価格と市場価格とは一致

して,その市場価格は

5 0

である。

以上は

M=160のときの A ,B両場合の直前の状態であるが,なおつぎの

(3) 

この場合の期末というのは

M=lOO

の状態が突然に生じたのではなもそれ以' 前の状態が積み重ねられてこの状態となったのである。それ故にこの期末ーとはその

ような意味での期末である。

(17)

52 ( 3 9 0 )  

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

2

 'I

負 債 ・ 貯 蓄

Pl 

証規

^ 

借残

, 

I

M1b 

I, 

Mu  M2 

A

の 場 合

9 1 .  0  1 9 . 9 1 1 1 0 . 9   3 9 . 8   6 2 . 0   9 .   1 1 1 0 .  9  1 9 . 9   2 0 . 2   B

の 場 合

8 1 .  4  1 4 .  3 9 5 .  7  2 8 . 6   5 8 . 9 6   8 .   1 4   9 5 .  7  1 4 . 3   3 1 .  3 

備考

M1= l ¥ l I 1 b + M l i  

ような仮定をする。

Ml

増加の

1/2

は企業の運転資金需要増加による貨幣所 有増加,すなわちケインズの所謂営業的動機による貨幣所有の増加で,以下 この貨幣所有を

Mlb

にて示す。また

M1

増加の

1/2

は家計の生計資金増加,

すなわちケインズの所謂所得的動機による貨幣所有の増加で,以下ではこの 貨幣所有を

Mi;

にてあらわす。換言すると

M =  Mlb +  j ¥ l [ l i

という関係にあり,

かつここでは

Ml

の増加の

1 / 2

ずつが

M l b , M u

のそれぞれの増加となる。

またこの社会では貯蓄の

10

%は企業貯蓄すなわち企業の内部留保利益で,貯 蓄の

90

%は公衆による貯蓄である。つぎにまた公衆は企業の発行する新規証 券の全額を発行価格で一応は購入するとし,かつその

M2

の増加は市場価格 で,一般公衆の所有債券の,銀行への販売によるものとする。なお

M2

の全 額は公衆が所有すると仮定する。

上述した前提,ならびに仮定の下において

M=160

のときの

A

B

の両 場合には,第

1

A

の場合における

M=100

の場合と比較して,企業,公衆 すなわち家計,銀行ではそれぞれどのような資産,負債またほ貯蓄,もしく ほ負債と貯蓄をどれだけ増加しているか。第

2

表ではこの増加部分のみを示

既述のように,この場合の考察の出発点となっているのは(1)'式から(6)' までの方程式体系,ならびに諸定数を既述のように仮定し,かつ

M=100

した場合である。そしてこの仮定では投資関数

l=(B‑br)

えにおいては),.=

1 ,   b=300

としているのはもとより,

B=50

としている。なおそれに加えて

(18)

ケインズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

^ 

[  >[

合 │1

^ 

麿

M1  M2 

62.0  4 2 .  8 1   1 4 4 .  9 8 1 .  9  63.~144.9 3 9 . 8   2 0 . 2   6 ( ) l   39 8 2 0 . 2   6 0 . 0  

5 8 . 9 6   5 4 .  5 1 5 9 . 0 6   7 3 . 2 6   8 5 .   1 5 9 .  0 6   2 8 . 6   3 1 .  3  5 9 .   2 8 .  6 3 1 .  3 5 9 . 9  

6.0

%利子付無期限債, 額 面

s o

が一般公衆によって所有せられるとしている。

2

表における

A

の場合とはこの諸仮定が不変のままでM

100

から

160

に増 加する場合である。また第

2

表における

B

の場合とは

M

が100から

160

となる のみではなく,他の諸仮定は不変であるが,投資関数における

B

が50から46 となることが,あわせおこる場合である。

2

表における

A

の場合には他の諸仮定が不変で,

M

のみが

160

に増加す る。したがってrが低下するのは当然で,第

2

A

に示すように終局的には

2.656

%となる。ところでこの

rの低下は実質投資 I

を増加し,かつそれに ともなう物価騰貴を考慮すると,投資金額

PI

は第

1

A

に示すように

M = 100

の場合の57.6から9

1 .0

に増加する。企業としてはこの設備投資等の増加,

およびその結果として生ずる国民所得の増加にともなって運転資金を増加し なければならないが,この運転資金の増加を

19.9

と仮定した。すなわち企業

.としては設備投資等の実物投資(在庫品の増加を含む)のために

9 1 . o ,  

Mlb 

の増加のために

19.9

合計

110.9の資金を必要とするのであって,企業におけ

る資産の増加はこの設備等の増加9

1 .0

Mlbの増加

19.9

合計110.9を示す。

それでは企業はそのために必要な資金をいかにして調達したかであるが,実

(4) 

物投資の

1 0

%は企業の内部留保利益の増加となると仮定したので,この場合

(4) 

投資と貯蓄とは社会全体としてみれば常に均等であり,かつこの場合この社会 の貯蓄の

1 0

%は企業の内部留保利益と仮定したので,そのことは企業では実物投資

1 0

%が内部留保利益となると仮定したこととなる。

(19)

54 ( 3 9 2 )  

ケイソズ経済学の貨幣的側面についての一考察(安田)

には必要資金

1 1 0 .9

の中

9 .1

はこの企業の留保利益によることとなる。したが って企業が外部から調逹する資金は

1 0 1 .8

である。ところで企業がその資金 を外部から調達する方法は借入金と証券発行しかない。

1

A

が示すように

M =1 0 0

の場合には

M1=90,M

1 0

であった。

ところが

M=160

のときには

M1= 1 2 9 .  9 ,   M2=30. 2

となっている(但し以 下では計算の都合上

Ml=129. 8

とする)。 すなわち

M1=39. 8 ,   M2=20. 2 

増加している。

r

が低下するにともなって一般公衆が所有する

M 2

は増加す るが,

M2

の増加はその反面としての債券の販売すなわち一般公衆ほ債券と

Mz

とを交換して,

M2

を増加するとともに債券を減少することを意味し,か つ究極的には

M2

を供給するのは銀行以外にはなく, したがって一般公衆が

Mz

を増加することは, その反面としての一般公衆による債券の販売だけで はなく,これに応じて銀行が債券を購入して,

M2

を増加することである。

既に仮定したようにこの場合には銀行が資金を供給する方法は貸出と債券購 入の両方法のみであり,かつ貸出残高の増加と債券購入との合計はそれに対 応して閏と閏との合計が増加することをあらわす。そしてこの場合に前 提となっているのは

M

の増加

6 0

である。けれどもその中

20.2

が債券の購入に よるとすれば,銀行の貸出残高すなわち企業の借入金残高の増加は

39.8

とな る。このように企業が外部にもとめる資金は

1 0 1 .8

であるが,その中

39.8

借入金残高の増加にもとめるので,その差

62.0

の新規証券を発行する。すな わち企業の負債・貯蓄とは企業の資金調達源泉のことであるが,その内訳は 借入金残高の増加

3 9 .8 ,

新規証券発行

6 2 .0 ,

企業の内部留保利益

9 .1

となっ ている。

家計では経常所得と消費支出との差である経常貯蓄

8 1 .9

とあわせて,

r

低下による債券の市場価格の上昇

63.0

があり,この債券の市場価格上昇の全 額がこの場合には消費支出を増加しないと仮定したので,この債券の市場価

(5) 

格上昇高の全額は事後的貯蓄の増加となる。すなわち事後的には家計でほ

144.9

の貯蓄が増加している。家計の資産側はこの貯蓄の所有形態を示す。

すなわちこの場合には企業における投資の増加にともなって,家計も全体と

(5) 

経常所得にこの債券の市場価格の上昇高を加えたものが家計の全所得となる。

(20)

しては所得,したがってまた消費支出を増加しているので,生計資金として の貨幣所有

M11

を増加しなければならず,かつここではその増加を

1 9 . 9

と仮 定した。つぎに企業の発行する新規証券の全額62.0を購入すると仮定してい る。最後に一般公衆はハの低下とともに,一面では

M2

を増加するとともに,

.他面では債券の市場価格は上昇するが,そのことは,

M2の増加+債券の市

場価格での所有増加=所有債券の市場価格上昇高,を意味し,かつこの場合 においての

M2の増加は既述の ( 6 ) '

式;およびそれに関連する定数の仮定,

ならびに

r

によって所有債券の市場価格上昇高よりも少なく,それ故に債券 の市場価格での上昇も増加ずる。すなわち一般公衆はその所有債券の市場価 格は63.0増加したが,その中市場価格で2

0 . 2

の債券を銀行に売却して

M2

増加するが,そのことは市場価格では債券の所有は

42.8

増加している。もっ ともこのように債券の一部分を販売しているので,一般公衆の所有債券は市 場価格で上昇していても,額面価格では減少している。

最後に銀行であるが,

M

が1

0 0

から

1 6 0

に増加して, グが6.0%か・ら2.656%

に低下したので,投資が増加しているが,グの低下が示すように

Mの増加の

ために,その増加以前と比較すれば金融が緩慢となったのである。このこと は銀行の立場からいえばその資金の運用が次第に困難となって,貸出が減少

し,資金が遊休化することをあらわす。これについては直ちに述べる第

2

における

Bの場合と比較すればグの低下の意味がなお一層明確となる。した

がって銀行としてはこの資金の遊休化を防ぎ,収益の維持につとめる必要が あり,それが債券の購入となった。銀行はこのようにグの低下にともなって 債券を購入しようとするが,それと同時に一般公衆の側においてはグの低下 の反面としての債券の市場価格の上昇によって債券の市場価格の上昇が限界 に接近したとする所謂弱気の人々が増加し,これらの人々は債券を売却して,

M2

を所有しようとするために, 銀行側の前述の要望と合体して銀行では資 産としては貸出残高に対する債券所有の割合が次第に増加するとともに,負 債側ではその反面として

M1に対する M2の割合が増加する。第 1

Aにお

ける

M=lOOの場合には M1=90, M2=  1 0

であるが,このことは既述のよ うに銀行の資産は貸出残高9

0 ,

債券1

0

であることを示す。しかるに

M

が1

0 0

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