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経済変動に於ける貨幣の作用

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(1)

経済変動に於ける貨幣の作用

その他のタイトル Economic Fluctuation and Money

著者 安田 信一

雑誌名 關西大學經済論集

巻 3

号 3

ページ 1‑22

発行年 1953‑10‑31

URL http://hdl.handle.net/10112/15833

(2)

凡そ貨幣経済の特質を把握するがためには種々の立場より考察することを要するも︑その最も重要な立場の一っ

としてはこれをその構成員との関連に於て考え︑その経済社会の各構成員が貨幣について現実に加何に行動してい

るかを問頸とすることであろう︒

貨幣経済と一ぞう場合それはもとより種々の意味に解し得る°然し乍ら筆者はそれについては旧稲に於て述べた如

くに資本主義経済の一側面と解する︒けれども等しく資本主義と称するも十九世紀と二十世紀のそれとの間にはそ

の質的内容に於て重要な相違があ

b

︑それは下部構造である生産繕造のみならず上部樽造にも及んでいる︒それ故

に貨幣経済を以て資本主義経済の一側面とするも︑それが直接分析の対象とする資本主義経済が如何たる段階の資

本主羞経済であるかが明らかにせられねばならぬ°蓋しこれを直接貨幣・金融機構に辰定するも︑本位制度に於け

る金貨本位制︑銀貨本位制より管理通貨制えの移行︑中央銀行制度︑商業銀行の機構︑並に手形交換等の振替制度

の発達にもとづく銀行貨幣の発展︑取引所制度の発達による証券機構の発展等がある︒然してこれらの貨幣・金融

機構の発展はもとより相互に無関係なるものではたく︑その間に密接な関係が存するのであるが︑その原因の考察

開 題

継 清 髪 動 に 於 け る 貨 幣 の 作 用

(3)

は別とするも︑この変化︑発展自体が各構成員の貨幣に対する態度に影響なしとは一云い得たい.であろう︒それでは

斯くの如き貨幣・金融機構の下に於て各構成員は貨幣に対して如何に行動しているのであるか

q ,

本稲に於ては右の如く資本主羞経済の︑且つ今日の炊態の下に於ける各構成員の貨幣に対する態度と経済変動と

の関係を考察するのであるが︑この場合問題とたるはこの構成員を如何に分類するかである︒企業家と消費者︑生

産要素の提供者はもとよ

b

その重要た構成要素である

Q

けれどもなおこれと併せて今日の資本制下にては貨幣資本

の提供者としての意味に於ての資本家が重要た地位を占める︒それではこれら各構成員の貨幣に対する態度が問題

となるのであるが︑もとよりこれらの各構成員はそれぞれその立場に応じて貨幣に対する態度にも相違があ

b

︑従

つて租互依存関係にある軽済藷量間に及ぽす影響も同一.ではない°然してこの場合その影響の方向が異なる場合が

あるはもとよ

b

であるが︑その影響力に於ても相違し︑大なる影響如小なる影響を圧倒すぺき場合も考えられる︒

この意味に於て各構成員の貨幣に対する態度と経済欣態との関係を分析するがためには各影響を単にその方向につ

とてのみでたく︑その重要度についても考察しなければならぬ︒本稲の目的とするところはもとよ

b

この点にあり︑

これを通して貨幣と経済変勤との関係を明らかにせんとする︒

各経済主体の貨幣に対する態度と一云

5

もこの場合問題となるは貨幣の意味である︒即ち貨幣と一ぞう場合一般に意

識せられるのは貨幣存在量︑即ち交換手段並に価値貯蔵手段としての意味に於ての貨幣︑換言すればケイソズの所

謂 M

並に

M

.の両者である°然してこの両者に対する各経済主体の態度をその対象としなければならないことはもと

よりであるが︑それとともに本稲に於ては計算単位としての意味に於ての貨幣即ち計算貨幣が重要性を有するので

ある︒第二に明らかにするを要するは各経済主体の貨幣に対する態度に於てその影響力に於て最も大であり︑この

繹賽麗朧

J C

(4)

意味に於て他の経済主体に対し中心的なる地位にあると考えられるは企業家である︒蓋し企業家の全体としての態 度如何によって直接的にはその経済社会の経済活動の規模が決定せられるを以てである︒もとよりこのことは他の 経済主体の態度が企業家のそれに影響せざることを意味するのではない︒然し乍ら企業家の態度は経済活動の規槙 決定に直接関係するを以て本稿に於てもこの意味に於て企業家の貨幣に対する態度を中心として︑これとの関連に

於て他の経済主体の貨幣に対するそれを考察する︒

( 1 ) 拙著

貨幣本質論序説

企業家は一面に於て資金を受入れ︑他面に於てこれを運用する°然してこの資金の受入面はその企業の貸借対照

表の箕方に示され︑借方は運用せられたる種々の資産をあらわす︒この場合借方に於ける穂々なる資産の構成は利 潤追求に合目的なるが如くに組織化せられるを要するはもとよりであるが︑資金受入面を示す貸方に於てもそれは 安全性の見地よりその諸項目が構成せられていなければならぬ︒もつとも貸方を以て資金受入面を示すと云うも厳 密に云えば直接資金を受入れたのではたく︑帳簿信用︑支払手形等の取引先よ

b

許与せられたる商業信用︑企業自

体の利益留保部分等を含むも︑その大部分を構成するは株主よりの出姿せられたる資本金︑長期債務及び短期借入

金の︱︱︱者である°然して短期借入金は正常の場合に於ては殆んど銀行に求めているのであるが︑他の二者について

はこれと異なる°即ち資本金の場合には株式の発行により︑また長期債謗については大部分社債によりて資金が調 逹せられる︒呟に於て先ず第一に注意せんと欲するは資金がこの証券の発行によりて調逹せられると云う事実であ

鯉済醗動に於ける貨幣の作

f f l

︵ 安 田 ︶

証券制度の登逹と企業の計算制度 昭和二十六年

(5)

資本主義の当初に比し企業に関連して近代に於て注目せられている現象の一つに所謂資本と経営の分離がある︒

然し乍らこのことはもとよ

b

如何たる意味に於ても経営が資本支配の外にあることを意味するのではたぃ°換言す

れば経営は究極的には資本の制約下にある︒けれども企業の経営者が一応的にであるにモよ︑資本の所有者と異な

れる独立の人格者となれることは事実である︒それではこの場合両者の関係如何゜

凡そ資木家が企業に対して出資するのは如何たる理由によるのか︒一ぞうまでもた<その出資に対しては対価とし

て株式が与えられる°換言すれば今日企業に対する出資は株式の購入と一字う形式に於て行われるのである°然して

この株式の購入が行われる場合その目的はこれによる企業支配もあるが︑その所有による牧入︑並に価格の謄貴に

よる差額獲得を意図する場合が多い︒蓋し証券機構の発達は企業に対する出資者と企業との関係を稀薄化し︑それ

以前の時期に於けるが如くに企業の出資者は企業とその運命をともにするを要せず︑その株式の売却によ

b

て何時

にてもその地位よ

b

脱退し得るとともに︑有利たりと考えられる場合にはその地位を獲得し得るを以てである°換

言すれば今日株式は資本家にとつては流勤性を有する投資物件として他の投資物件とともにその対象となっている︒

それ故に株式の所有者としてはこの目的を達成し得るならばこれを以て満足し︑それ以上には企業に対して関心を

有しなぃ°然して企業の経営者にとつて軍要たことは株主のこの期待に応ずべきことであ

b

.これがためにはその

時々の条件に応じて異なるも一定率以上の利潤を挙げねばならぬ︒特に近代に於ける企業にとつて重要なことは生

産技術の発達に伴つてその大規模化が要求せられるが故に︑これが必要資金獲得のためには株式が一定価格以上に

して︑その資本増加の要求を可能ならしめるぺきことである︒ ・ る ︒

(6)

企業がそれ自体の存続を維持するがためには今日それは右の如くに常に生産規槙の拡大を必要とし︑これがため には株式が一定価格以上にして増資が可能であるべ<︑その前提条件は企業の利澗率が

1

利潤を考察する場合に問題となるべきはそれが価値的即ち購買力を中心とせられたる意味に於ての利潤であるべ

きか︑叉は価格的な意味にてのそれであるかと一ちうことである

0 ‑

物価が不変である場合に於てはこの点について問 顆は生じたぃ°換言すればこの場合には両者は一致する︒けれども物価は常に変動するを以てこの点を明確にする を要する︒然して資本と経営と●分離以前に於てはこの両者の意味に於ての利澗が必要であった︒蓋し企業の出資 者兼経営者にとつてはその出資せる貨幣資本額よりも︑よ

b

大なる貨幣額が回牧せられるに非らざればその間如何 に物価が下落するもその貨幣額をそのまま所有するを以て有利とするであろう

o

••

けれどもまた同時に他面に於てそ.

の回牧貨幣額が出資貨幣額より大とたるも︑その間物価がより以上に謄貴するに至れば価値増殖の目的を達成し得 ざるを以てである︒これに対し株式が何時にても転売可能とたり︑資本と経営とが分離レ︑その所有者が常に移勤 レ得ることとたるならば所有者は前述の如く短期的有利性にもとづきてこれを所有するものなるが故に︑企業の経 営者としてはこの短期的有利性にもとづく株主の期待に応ずればその使命を果たしたこととなるのであ

b

︑これが

ためには価値計算で●なくして価格計算が支配すべく︑且つ企業自体の存続のための要請にもとづく拡大資金の猿

得も価格的に一定率以上の利潤を挙げるたらばこれが可能であろう︒

企業の計算制度は一般的には合理的なる計算制度であると考えられている︒然レ乍らそれは如何なる意味に於て 合理的なる計算制度であるのか°資本の目的が価値増殖にあり︑企業がその手段であるたらばそれは常に価値計算

(7)

をその計算制度の基礎とすべきである°然るに現実に於ては物価は常に変動するにもかかわらず価格計算が行われ︑

価値計算的たるものが行われたのは第一次大戦後のドィッ︑第二次大戦後の我国に於けるが如く物価に革命的変化

が生じたる場合に限定せられ︑物価が二倍乃至三倍に勝貴せるにとどまる場合にはたお価格計算が行われている︒

また物価の下落に際しては直ちに述べるが如くに企業経営を困難にする理由があるが︑右と逆の意味に於ての価値

計算が一般的には行われたい︒もっともこのことが国民経済的立場より適当たりや否やにつ5ては問題を含むであ

ろう°然し乍らそれが斯くの如き立場よ

b

合理的な

b

や︑叉はそれが遮当たるか否かについては姦に於て論ぜんとするものではない︒薮に於ては企業に於て現実に行われる計算は価格計算であり︑且つこの計算も出資者の企業に

対する態度と併せ考えるたらばな苓その意味に於ては合理的なる計算制度と一

H

い得るのではなかろうか︒

企業に於ける計算制度が価格に基礎を置くこと︑このことの理由としてなお考慮するを要するはその長期債謗と

の関係である︒即ち企業が資金を借入れたるときはその間物価が如何に変動するもその期間終了時に於ては借入れ

たる貨幣金額だけは返済するを要し︑且つこれだけを返済すれば足る°換︱‑=Eすればその間物価が如何に下落じ︑借

入貨幣額の実質価値が勝貴するも企業としてはその金額は必ず返済しなければならぬとともに︑物価勝貴し︑借入

貨幣額の実質価値が下落せるも︑その金額のみを支払えば債務を履行したこととなる︒このことの合理性並に不合.

理性は別とし︑企業としては与えられたる事実なるが故に︑これに対応する如くにその計算制度を確立しなければ

たらぬ︒けれどもその資金借入と云うも短期資金についてはその資金の短期性によって正常的には著るしい物価の

変勤は考えられない︒これに対し長期資金については異なる︒

企業が長期資金を借入れる場合に於ては社債の発行によるを常とするが︑これによる調達資金は一般的には資本

鯉済霙朧に於ける貨幣の作用︵安田︶

. . . . . .

  ^ 

(8)

設備に投下せられる︒従つて企業としてはその資金返済のためには資本設備の買入価格を基礎として毎期減価償却 を行い︑これを合むところの生産費を回牧するを要するとともに︑またそれだけ回牧すれば足る︒

貨幣債謗はその間に於ける物価の変動と関係なくその金額に於て返済せられると云う事実︑仮

b

にこれを債謗の

名目性と一ぞうならば︑この債謗の名目性は右の加くに企業の計算制度が価格に某礎を置くことに導く有力た一因で あることは明らかである︒即ち企業はその経済活動の成果を合理的に把握するがためにもその社債に対応する資本 設備だけは買入価格による評価︑.並にこれを基礎とする減価償却が必要にして︑それ以下に於ての評価並に減価償 却は長期的にはその経営を困難たらしめるものである︒

右の如くに筆者は企業が価格計算を行うことの理由を証券制度の発達に伴う株主と企業との関係︑並に債謗の名 目性に求める°然してこの点についてはもとよ

b

異論が多いと考えられるが︑奴に於て強調せんとする点はその理 由にあるのではなくレて︑企業が現実に於て価格計算を行っている事実である︒即ちそのことの合理性如何は別と し︑企業が価格計算を行い︑且つ企業の経済活動がこれを基礎として決定せられる以上︑そのことは全体としての 経済炊態に影響せざるを得注い如故である︒

註→︶植野敬授は貨幣債値の痩動に伴う會計學上の立場としては日名目的資本維持︑⇔購買力資本維持︑国賓質的資本維持の

三つの立揚があるが︑今日では

U X

の立揚が有力であると説かれる︵植野郁太企業會計理論昭和二十八年ニーーニ

頁>︒會計學上の立場としてはもとより十分な理由あることと考えるが︑玄に於てはそれが會計學的に正嘗なりや否や

ではな§レて︑現箕に於て企業はその會計を如何に処理しているかと一ぞうことである︒換首すれば我國に於ける物債は

職前泣に終職直後に比し今日革命的に騰貴せるが故に︑企業の會社上の処理と云う`直ちにこれに関連して考えられる

のであるが︑玄に於て問題とするは正常的なるそれ︑即ち檜債が一鍛的には二倍乃至三倍︑泣に二分の一程度をその範

七 ・

(9)

とを共通

園とする愛動の場合の企業の計算制度が債格計算であると云うのである︒植野教授もその説明に際し前提として﹁常識 的には H ⁝⁝⁝の立場が採られるが︑⁝⁝⁝とりわけ悪性時イゾプレには重大な支障をきたすので

. . . . . . . .

.  

購買力資本維

持にまで進むことが要求される﹂と述べられ︵植野郁太前褐書ニニ頁︶︑一般的には債格計算であることを明らか

にせられている︒

企業に於て価格計算が行われていることは右の如くであるが︑このことは企業の経済活動として経済欣態に重要 た影響を与えるその投資に対する態度に於て最も具体的に反映している︒即ち企業が投資を行うに際してはそれよ

b

一定の利潤が生ずべきことを予想しているのである°然し乍らこの予想を可能ならしめ︑且つ投資の結果として

それが現実に生じたるか否かを測定するがためには時点を異にする投入高

( i n p u t s )

と産出高

( o u t p u t s )

たる単位にて計算しなければならぬ

0

然してこの共通なる単位は前述より明らかな如くに貨幣単位である︒即ち企

業に於ては貨幣は異なる時点を結びつける計算単位としての機能を果たしているのである︒

企業に於ては貨幣は右の如く計算単位としての機能を果たしているのであるが︑これに対して富の所有者の態度

周知の如く今日の資本主義下に於ては富は少数の人々に集中し︑

とするとともに︑ その所得は巨額なるを常とする︒それ故にその

所得に対する消費の割合は比較的小にして︑主たる関心は消費にあるのではなくして︑如何にして富の価値を維持 し︑これを増大するかにある°然してこれがためにそれを最も有利なりと考えられる種々なる形態に於て保持せん

またその割合を変更するのであり︑且つその対象としては不動産等はもとよりその一部分たるも︑

各純涛主体の貨幣に辮する態度

(10)

株式並に公債︑社債等の証券︑貨幣等がある︒

富の所有者の行動がその価値の保持並に増大にありと一字うも︑現実に於てはその保有する富にはそれぞれその時

々の事情によつて決定せられる価格がある︒それ故に富の所有者としてはその種々なる富の価格についての勝落︑

並にその程度を予想し︑これに応じて富の所有割合を考える︒従つて物価の勝貴に際してはその価格に於て固定せ る貨幣︑並に利子率勝貴のためその下落が予想せられる貨幣債権を代表する公社債よりも︑その価格勝貴が予想せ

られる株式が選択せられるべく︑前者の減少︑後者の増大となる︒物価下落の時期に於てはその逆が支配する︒

株式と公社債とはもとより証券にして︑何時にても転売可能であり︑

有の対象とすると一ぞう点に於ては共通である︒けれども前者は出資関係を代表する証券であり︑後者は貨幣債権証

券なる点にて物価の変動に対する作用に於て異なる︒この意味に於てはこの両種の証券が存在することは富の所有 者にとつては有利たるものと云い得るであろう︒そのことは何れであるにせよ︑貨幣も証券も富の所有者にとつて はその富の価値を維持し︑増大するがための手段に過ぎたいこと︑富の所有者の貨幣に対するこの態度は後述の如

く経済欣態に重要な影響を及ぽすのである︒

ともに富の所有者が二者選択的立場にて所

少数なる富の所有者に対し社会の大部分を占めるは企業に対し労務を提供する人々であるが︑これらの労働者の 所得は一般的には小である°然してその貨幣に対する態度はケインズが説き︑以後に於て周知とたれるが如くに貨

幣賃銀については粘着的性質を有し︑一定の限界内に於てではあるが︑物価が勝貴するも直ちにこれに応ずる貨幣

賃銀の引上げを要求するものではなく︑また逆に物価下落の場合にその引下げに応ずるものではない︒けれども斯

くの如き事実によって労働者の実質所得が若千増加するにせよ︑

または減少するにせよ︑その何れの場合に於ても

(11)

we

al

th

  r e

1 a t i

o n )  

とする点即ち前述せし各経済主体の貨幣に対する態度を中心とし︑これが経済変動と如何なる関係にあるかを説明 最近経済学に於ては︒ヒグ1効果

( P i g

o u

e f f e

c t )  

は全体として経済欣態に如何たる影響を及ぼすのか︒ 実質所得は小なるが故に︑それは富の所有と直接関係を有しなぃ°換言すれば労働者の実質所得は小なるが故に︑消費性向は大にして︑それは有効需要の増減と関係する︒但し正確に一

H

えば労働者全体の有効需要の増減を考察す

るがためにはその雇傭欣態を併せ考慮せねばたらぬ︒これを要するに労働者の貨幣に対する態度としては一つはそ

の貨幣賃銀に対する粘着性に於て示され︑他はその財貨購入手段としての貨幣にあらわれている︒なお労働者に於

ても小額の富を保有するはもとよりであるが︑この場合のその富の所有に対する態度は大なる富の所有者の場合と

異たり︑究極的には消費と関係する︒

以上に於ては各経済主体の貨幣に対する態度について考察した︒それではこれら各経済主体の貨幣に対する態度

( 1 )

.貨幣が計算皐位であることの結果として企業に於ては軍に相睾債格のみでなく継業債格についての予想をも基礎として

その投費を決定する︒このことが最も明白となるはインフレ過程である︒この点につ.いては拙稿﹁インフ︒レ過穏に於け

る財貨生産についての一考察﹂盆羅大學鯉演論集第二巻第四懺昭和二十八年一

1

一月︶六五ー七三頁参照'

(2

) 

J. 

M.

  Ke y n e s ,  

Th

e  G

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er

al

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y 

o f  

Em

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Lo

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1 9 3 6

P

,

P.

 

9 ‑

1 0 ,

塩 野 谷 九 十 九 露 第 四 版

ー一ー三頁

9効果と計算貨幣

並にその発展としてのメッラーの「貯蓄_—ー富関係」

の理論が注目せられ︑我国に於てもこれに関連する論文がある︒それ故に本稿に於てもその問顔

鯉済襲動に於ける貨幣の作用︵安田︶

1 0  

( s a v

i n g   , 

(12)

するがための一手段としての立場よりこれについて考察する︒但し本穣については︒ヒグー効果自体の考察に脹定し︑

メッラーの理論はこれを対象としない︒

凡そ︒ヒグー効果とは︒ヒグー自身によれば物価下落の場合に於て貨幣残高の消費財にて示されたる価値即ち実質価

値は勝貴するが故に︑貨幣をその一部とする財産所有者全体の財産の実質価値は増大することとなり︑その所有財

② 

産の限界効用の低下︑消費財に対する需要増加と考えるのである°然してこの場合財産の実質価値増加の基礎とな

るべき貨幣残高については︒ヒグTは一九三.八年に於けるイギリスをその例として︑同国に於げる銀行券は四偉八千

五百万ボンド︑商業銀行預金二十一憶六千万ポンド︑合計約二十六憶ポンドである如これに対する銀行の貸出並

③ 

に手形割引十二億ポンドを差引きたる十四憶ボンドであるとしている︒けれどもこの貨幣残高より更らに銀行の支 払準備金とたるべき部分を差引<を要しヽこれには右の銀行券の二部分が使用せられるo一谷博士は

oヒグー効果の

l"

批判に際しその一理由として︒ヒグーの一

k

う貨幣残高を

M

M

とに分類せねばならないと説かれる°蓋し後者のみが

財産の一部分として所有せられる貨幣にして︑前者は取引の必要にもとづく貨幣所有なるを以てである°然し乍ら

k

えば企業の運転資金と商業手形の割引︑短期借入金とは密接な関係があり︑両者の増減はその方向に於

て一致する

o ・ .

それ故に

M

と手形割引︑銀行よりの借入金とはもとより厳密には一致せざるも︑相殺的部分が可成

b

犬なるが故に︑︒ヒグーは簡単化のために彼自身は明確には述ぺていない妍︑貨幣残高よりこの後者を差引きたるも

M

と考えたがためにその対象となる貨幣残高を右の如く規定したのではなかろうか︒

ピゲー・効果の前提となるべき財産の実質価値増加に寄与する貨幣量を右の如くとするもこの場合問願とたるべき

は物価は如何たる原因にもとづいて下落するかと云うことである︒゜ヒグrはこの場合に於て貨幣賃銀の弾力性を前

(13)

︒ヒゲー効果に於て先ず問題とたるべきはその効果の対象となるべき貨幣残高の意味である︒この場合︒^テインキ ンは貨幣が政府にとつての債務であると同様の理由によって私人所有による公債もまたこれに加えなければたらな

いとする

0

厳密に云えば前者は中央銀行の債謗であり︑政府のそれではない︒けれども一般経済主休にとつては実

質的には同一であろう°然し乍ら同様に貨幣債権と云う意味に於ては後述の如き理由により社債もこれに附加せら え︑その問題点を明らかにし度いと考える︒ 鯉済霙卿に於ける貨幣の作用

Q

安 田

でたければならぬ

0

このことはもと 提としている︒それ故に︒ヒグーは有効需要の減少←労働需要の減少←貨幣賃銀率下落←物価下落︑を説くのである︒それでは何故に有効需要が減少するのか︒その原因にはもとよ

b

種々あり得るであろう

0

けれども封鎮経済に

して均衡を前提とし︑且つ経済内部にその変勤原因を求めるときそれは消費性向の低下即ち貯蓄性向の増大となる︒

然して︒ヒグー自身もここよ

b

出発する︒

有効需要減少の原因を右の如く貯蓄性向の増大に求め︑これを出発点とする場合その経過分析に期間分析法を適 用するならば直ちに明らかとたる炉如くに

M

はこの期間を通じて増大すべく︑且つ物価は下落するが故にこの間

M

は減少する︒従つてその実質価値勝貴により財産の実質価値増加に寄与する貨幣量は当初に於ける

M

この増加量、仮りにこれを

L~,.M2

で示すならば、これを加えたる

M2 + 

. 6 . M 2  

n v  

b

当然に利子率の低下と関連する

0

けれども奴に於ては後述の如き理由によ

b

︒ヒグー効果に重点を置く関係上一

応これを不問とする︒その場合それは︒ヒグー自身が説く以上により有効に作用するが如くにも考えられる°然し乍

らこれがためにはなほ他の諸要因を併せ考慮したければならぬ︒

③ 

ピグー効果についてはドソ・︒^テイ

y

キソによる詳細な批判がある︒それ故にこれを基礎としてそれに私見を加

(14)

れるべきではなかろうか︒

1効果の問題点は物価下落による貨幣の実質価値増大が同時に財産所有者全体の実質価値増大となる

ことを前提としている°然し乍らこの場合それと同時に他の財産構成要素の実質価値の変動についても考慮が払わ

れるべきにして︑︒^テインキンは物価下落に際しその実質価値下落即ち物価下落率よ

b

もその価格がより以上に下

落する財産の一例として家屋並に他の形態の消費資本即ち所謂耐久的消費財及び株式を挙げている︒もとよ

b

場合︒^テインキンはこれらの財産をその一例とせしに過ぎざるも︑この中に株式が含まれていることは注目に価す

︒ヒグー効果が作用するがためには当然明らかな如くにそのときに於ては︑財産所有者は物価下落の停止を予想し る ︒

たければならぬ︒従つて企業としてもその牧益が若千期待せられ得ることは考えることが出来る︒けれどもたお斯

くの如くに企業の牧益性について有利に解するとしても︑企業自体はこの物価下落の期間中に累積せる損失のため

に株主に利潤の分配を行うがためには或程度の時間を要すると予涸せられるべく︑このことは当然株式価格に反映

する︒然してこの場合株式価格の下落率が物価のそれよりも大た

b

や否やはその時々の具体的事情に応じて異なる

であろう°然し乍ら︒^テインキソが右の如くその一例として株式を挙げたのはその可能性が大なるを以てである︒

それは何故か︒

株式価格が根本的には予想配当率と利子率との関係によ

b

て支配せられ且つ差当

b

このことが期待せられざる以

上その実質価値が下落するはもとより考え得ることであるが︑それが生じたのは何故か︒この原因としては企業の

計算制度が価格に基礎を置くことである︒

(15)

物価下落に際しては企業の計算制度が価値計算である場合に比し価格計算に於てはより大なる損失を生ずべく︑

且つ物価が下落し︑低物価水準に於て牧益見込が生じたとしても︑それは高物価水準の場合に比しその絶対額に於 て小なるが故に︑その場合過去に於ける損失補填に可成

b

の時日を要し︑且つその後に於てもその牧益率は小たる が故に︑予怨配当率が低い︒このことが当然株式価格の下落率が物価下落率に比し大なる理由である︒

ピグー効果に関連して問題となるは企業に於ける債謗の名目性と実質賃銀との関係である

Q

周卸の如く企業は社 債等の形態に於ての長期借入金︑並に銀行よりの短期借入金を有するを常とする

0

然るにこの借入金に対しては企 業は固定せる貨幣額に対して一定率の利子を支払わねばならぬ°然して国叉は業種によ

b

て相違あるも今日一般的 には企業は可成

b

の借入金があるを常とする︒それ故にこの借入金に対する利子は物価下落に際してはそれが生産 費に於て占める割合は次第に大となり︑企業がその生産財貨の価格下落に対応して生産費を低下するためには貨幣 賃銀を物価の下落率以上に引下げねばたらぬ°即ち実質賃銀の切下げとなる°貨幣賃銀の弾力性を前提とする限

b

に於ては当然このことは承認せられるべく︑且つこれが認められる限

b

に於ては既述せし如くその所得が殆んど賃 銀よ

b

たる低所得階級にあってはこれに対応する消費支出の減少とたる︒

a

富の所有考と一ぞうも大なる富の所有者と小たる富の所有者とではその富の一部として所有する貨幣に対する態度 を異にする°然して大なる富の所有者としては貨幣はその富の価値を維持し︑増大する手段に過ぎざるを以てその 実質価値増大も消費に直接関係することなく︑その実質消費支出は大たる変動をしない︒これに対し小たる官の所 有者としては富所有の目的が将来に於ける生活を豊かにすることにあるが故に︑その一部である貨幣の実質価値増

大は消費支出の増大となる︒

. 

1

(16)

︒ヒグー効果に於ては人々が富を所.有するは既述せしところより明白た如くに将来の消費生活を豊富たらしめるこ とを前提としている°然し乍ら︒ヒグー効果が生ずるがためには物価下落に際して消費支出がその社会全体として増 加しなければならぬ°けれども右の如く大なる富の所有者の実質消費支出が安定的であ

b

且つ︒ヒグーの如く貨幣

賃銀の弾力性を前提とするとき労働者の実質賃銀が低下するとするたらば︑小たる富の所有者の消費支出がこれを

補填し︑たおより以上に増加したければたらぬ

0

斯くの如きはもとより疑問である︒それではその根本的原因は何

ピグー効果に繭する我國の論文には例えば一谷博士︵一谷藤一郎

( 1 )

ビグー効果に闘するピグー自身の論文としては一跛には次の二論文が畢げられる︒

A.

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なおメッラーの論文としては次のものがある︒

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. ^ ン キ ン グ 六 十 織

か ︒

二 十 八 年 三 月

︶ 及 び 矢 尾 数 授

︵ 矢 尾 次 郎 貨 幣 の ヴ ェ ー ル 性 國 民 鯉 演 雑 誌 第 八 十 七 巻 六 織

文がある︒但し雨論文ともピグー効果自体よりその壷展であるメッラーの理論に重点がある︒

( 2 )

A .  

 

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( 3 )

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(4) 一谷藤一郎前掲論文 l= =—四頁

(5

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2 4 8  

鯉演醗動に於ける貨幣の作用︵安田︶

利子率の髪動とピグー効果

一 五 昭 和 二 十 八 年 六 月 ︶

昭 和

(17)

五貨幣並に貨幣債櫂の名目性とその艇済的作用

鯉済霙動に於ける貨幣の作用︵安田︶

(7) この点に腸するケインズの見解については J.M•

K e y n

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p .  

c i t

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2 6

ー 6

7 ,

暉 本 三 ニ ー ー ニ 頁

︑ 安 井 数 授 の 論 文

︵ 安 井 琢 磨

﹁ 雇 傭 理 論 を め ぐ る 論 争

﹂ ケ イ ン ズ 研 究 會 編

︑ ケ イ ン ズ 鯉 済 學 研 究 昭 和 二 十 五 年 一

六 0

ー ニ

頁 ︶

参照

(8

) 

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(10) 

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2 6 2  

人々を代表するとすれば﹂ C 1 1 ) ケインズは﹁利子所得者がおしなべて祉會の富裕な暦及び生活水準の殆んど伸縮性をもたない

と這べて利子所得者が典型的には斯くの如き人々であることを朋らかにしている

( J .

M•

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p .  

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2 6

2   ̀ 

繹本一︳二七頁︶︒なお右引用句は鐸本による︒またこの点については一

1

一谷博士の論文︵三谷友吉﹁ビグーとケインズの 雇 用 理 論

﹂ 鵬 西 大 學 鯉 済 論 集 第 二 巻 第 四 識 昭 和 二 十 八 年 三 月 ニ ニ 頁

︶ 参 照

( 1 2 )

^ンセンは引用せられる最も有利な場合は第二次大戦後のアメリカであるが︑その場合に於ても消費支出単位の八六.^ ーセントは僅ずかな安産を保有していたに過ぎないと這べている (A•H•

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5 3 6

)

。ヒグーの貨幣本質観が交換手段を以てその本質とする立場であることは別に述べた如くである

0·>,.1~

ー効果の展

開に際してもこの貨幣本質観がその前提となっている°即ち︒ヒグ1効果の前提となる貨幣は前述の如く富の保有形

態の一部としての貨幣である︒この限

b

に於て彼は価値貯蔵手段としての貨幣即ち

M

をその対象としている︒けれ

ども彼は保有貨幣の実質価値を問題とし︑その勝貴即ち財産の実質価値増大←その限界効果の低下←消費支出の増

一 六

(18)

加を説くが︑

この立場に於ては今日に於ける巨大なる富の所有者の存在を如何に説明するか︒

元来交換手段を以て貨幣の本質と解する限りに於てはそれは貨幣ヴ

H

ール観とならざるを得たい︒もとよりこの

ことは貨幣を単純なる交換手段と解する場合に於ては明瞭である︒けれどもそれが一応貨幣の他の機能︑例えばこ の場合にはそれに価値貯蔵手段機能を認めるにせよ︑それを究極的なる意味に於てこれを否定し︑その本質を交換 手段とする限

b

に於ては根本的には同一である︒゜ヒグー効果の場合はその一例に過ぎたい︒

ピグーはそのピグー効果の展開に際しては極限的場合を考えている︒即ち︒ヒグーは人々が価値保蔵のために富を

保有するのには一定の限界がある︒それ故に物価下落のために富の実質価値が増大し︑この限界を超えるたらばこ の部分の富の保有は消費支出の増加と関連することとなる°利子率下落の極限的欣態として︑それが零とたる場合

を考え︑この欣態に於ての物価下落は貯蓄を減少して消費支出を増大することとなり︑このことから︒ヒグーの理論

は拗価水準と消費支出︑これを反面よ

b

云えば貯蓄とを直接的に結びつけているのである︒︒^テインキンが前述の

如く︒ヒグー効果の対象たる貨幣量の中に公債を加えたのもこの理由による︒けれども彼が社債を含またいのは封鎮

経済に於ては私人間の債権・債蕗は全体として相殺されるが故に︑

とする

0

然したがらそれが同時に債務者である企業を考察する場合この企業が破産することがあ

b

得ると認めてい

和︒それでは何故にこの企業が破産するのか︒゜ヒグー効果に於てはこの破産なきことを前提としているのではなか

ろうか︒その点は一応別とし︑この破産があり得るとすることは貨幣債権の名目性にもとづく︒たお前述の如く筆

者が社債をも貨幣残高に算入すぺしとした理由は︒ヒグー自身に於てはこの破産なきことを前提とし︑且つ貨幣債権 う ︒

一 七

正の︒ヒグー効果は負の同効果により打消される

この点疑問であろ

(19)

む ︒ 所有者と企業の物価下落に伴う影響は1応これを区別レて両者を独立に考えるを要するを以てである︒

Pグーの立場に於ては一応貨幣について価値貯蔵手段機能を認めている︒従つて物価下落が生じ︑その結果とし

て均衛が回復するとしてもこれを経過せる均衡が︑それ以前の均衡と全く同一た

b

と一ぞうのではない︒この意味に

於てそれは単純なるヴェール観とはその趣を異にする°換言すればそれは貨幣の経済に対する作用を全然認めない

のではたい

0

けれどもそれが究極的に貨幣数量叉は利子率︑若しくはこの両者の変化︑即ち貨幣的要因を媒介とす

ることたくして経済の均衡回復えの自動的作用を期待している点に於.てそれは物価水準を貯蓄と結びつけるもたお

ヴェール観たりと考える︒

本稲の最初に於いて述べた如くに︑呟に貨幣経済と一ぞうもそれは資本主羞の現段階に於いての一側面である︒こ

のことの意味は︑その中に少数の人々が富の大部分を保有し︑その所得がこの富の保有より生じている事実をも合

凡そ貨幣の本質と云う場合その意味は種々に解し得る︒けれども貨幣が軽済を離れて存し得ざる以上それは貨幣

の経済に対する作用を基礎とせざるを得たい

0

然し乍ら奴に於てはその本質を明らかにすることを対象とするので

はないが︑貨幣と一ぞう以上如何なる立場に於ても交換手段が重要な機能であることは何人も否定し得ざるも︑同時

に強調せんとすることは同様の意味に於て重要なのは資本主義の硯段階に於ては富の保蔵手段としての機能ではな

1効果の問題点はこの富保蔵の性格を如何に解するかにある︒即ち︒ヒグーに於ては前述せし如く人

々の富の保有高には一定の限界があるとし︑従つてこの目的のための貨幣保有即ち価値貯蔵手段機能に一定の制約

をおき︑その極限的場合として利子率が零に低下し︑且つ貨幣の価値貯蔵手段機能が無視及軽視せられる場合を考

1

(20)

えてやるが故に︑究極に於ては交換手段機能が価値貯蔵機能よりも優位にある︒

1

貨幣は如何に長期間保有するもその金額に於て減少するものではない︒それ故に如何に物価が下落し︑その実質 価値騰貴の場合に於ても貨幣債権の所有者はその債権の金額を減少せしめるべき理由は存したい°換言すれば利子 率低下の限界は零利子率にして︑前述せし貨幣債権の名目性の根拠は萩にある︒同一のことは貨幣についても妥当

するが故に正確には貨幣︑並に貨幣債権の名目性は薮にありと一ぞうべきであろう︒

零利子率に於ては富を保有するも所得は生じない︒それ故に富所有者としてはその消費生活維持のためにこの富 の一部を以てこれに充当せざるを得ないと考えられるであろう°然し乍らこの場合考慮しなければならないことは 従来よりの公社債がそのまま存するとすれば富の所有者の所得はその限りに於ては不変である︒もっともこの場合 にはこれらの公社債の価格は無限大となるが故に︑その実質価値は無限大とたり︑ピグーの前提である物価下落即 ち貨幣の実質価値増大←財産の実質価値増大はより強力に作用するも︑既述せし如き富保有の目的よりして大部分 の富はそのまま保有せられ︑小なる富の保有者のみがその富を売却して︑これを以て消費支出を増加せしめると云 盆得るであろう°然してこの場合公社債の価格は無限大なるが故に︑消費支出の増大もまた無限大となると考え得

る如くである

0

けれどもその場合無限大なる価格に於ての公社債の購入者はその社会に存在するであろうか︒

︒ヒグー効果に於ける最大の問題点は貨幣が消費との関連に於てのみ考えられ︑経済社会に於て最も軍要な役割を

営む企業えの影響が無視乃至軽視せられていることである︒即ちそこに於ては消費者側の原因に帰すべき有効需要 の増加をその原因とし︑これより生ずる物価下落の極限に於ての実質有効需要の増加が考えられている︒けれども

実際に於て経済を変勤せしめる原因は消費者側にあるのか︒また理論的に一云うもこのことは正当であろうか︒.仮

b

経済襲動に於ける貨幣の作用︵安田︶

(21)

経済菱動に於ける貨幣の作用︵安田︶

に.ヒグーの主張する如く物価下落の極限に於て消費支出が増加したとするもこれによ

b

て経済が均衡回復えの傾向

を生ずるがためには企業側に於てこれに応ずるところの生産活動の変更が必要なのではなかろうか︒

公社債の価格が無限大となり︑その利廻が零に低下すると一云うことはその雨有者にとつては富の実質価値が非常

に増大したこととなる°然してこのことはその富の保有者に於てはその保有割合にての貨幣並に貨幣債権の割合が 過大となりたることを意味し︑その転換を必要とするであろう°然してそれは利子率零の場合に於ては耐久財に刺 戟的に作用し︑企業家の将来に関する予想に有利な影響を与えることとなる︒即ちピグーに於ては貨幣の実質価値 と消費とが直接に結びつけられていたが︑右の如く考察するとき︑そこに作用するのは利子率の低下である︒なお この際注意しなければならないのは利子率が零にたることは耐久財に直ちに︑且つ必然的に有利な影薯が生ずるこ とを意味するのではない︒蓋しこの場合耐久財えの作用が右の如く有利なりとするたらばそのことは利子率の下落 過程に於てもこれが生じなければならぬ°然るに斯くの如きことがあらわれたかったのは物価が下落過程にありた

るを以てである︒

利子率が零となりたる場合に於て耐久財えの需要が増加するためには︑これが需要者はその価格の下落なきこと を予想しなければならぬ°然してこれがためには物価がな苓一層低下し︑その供給価格の引下げたきことの予想を 必要とする︒この場合これが必然的に生ずるや否やは疑問であろう︒なおこの際注意すべきはこの場合に於ける耐 久財需要の意味である°富の所有者の立場よりするならばその保有形態の一部である貨幣がこれに転換するとする も︑それはその富保有の目的に一致しなければならぬ°従つてそれは富所有者自身の消費生活を直接的に豊富にす

る如きものではなく︑その立場よりの一種の投資︑例えば貸家︑

ビルデイング等の如きものでなければならぬ°斯

1

0  

参照

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