September
,1986 Acta
Phytotax
. Geobot .17
九 州北 部の ト ウ
カ ン ゾ
ウ (
ワ ス レ グ サ )
Hemerocallis
aurantiaca 群 に つ い て
堀 田 満*
Mitsuru
HoTTA : Herrrerocallis aurantiacagroup
i nNorthern
Kyushu
,Japan
19世紀の は じ め, 1830年ご ろまで にヨ ーロ ッ パ には キス ゲ 属
Hemerocallis
植物と してはホン カン ゾウ H ・fulva var ・fulva,
H
,Iilioasphodelus (
:・=H .flava )
, ホ ソ バ キス ゲ H . m 玉nor , それにシ ーボル トが導 入 し たヒ メ カン ゾ ウH
.dumortierii
な ど が 知 られて い ただけで あっ た。 19 世紀の 中 頃にな るとヤブカン ゾ ウH .fUlva var . kwanso や H . middendorfii が導 入さ れ,さ らに19世 紀の末には ウコ ン カ ンゾウ
H
.citrina を は じ め と して多 くの東 亜産の キス ゲ 属植 物 が紹 介さ れ た (Hu
,1968
)。 それ らの中 に は BAKER が Kew 植 物園で 栽 培 され てい た系に統もとつ い て記 載 し た
H
.aurantiaca と, その変 種 と して 記載し た ‘Major ’がある。 こ のト ウ カ ン ゾ ウ群は, そ の 後 20 世 紀になっ て 多 くの 園 芸品種の 育 成の 母種 にな っ た。 と くに ト ウ
カ ンゾ ウ は丈 夫で, 大形の花を有す る た め に交 配の 親 系 統 として 多 く利 用 され, 最 近にな っ
て ア メ リカ で 育 成さ れ た品種に は多 少 と もト ウ カ ンゾ ウが 関 係 して い る もの が 多 い 。 し か し 両 者ともに原 産 地は は っ きり し てい なか っ た。
BAKER
が H . aurantiaca と し た系統は, 中 国 南部が 原 産 地では ないか との意見もある が, こ の ような系 統 が 中 国か らイ ギ リス に導 入 さ れ た 記録は ないとい う( Hu
,1968a )
。 ま た そ の 変 種’と さ れ た ‘
Major
’ は イギ リス の 種苗商のWALLAGE
& SoN が 1890 年ご ろ に 日本か ら輸入 し た もの で あ るの は 記録で 明 らかで あるが,それ は 当時 (現 在で も)日本で ト ウカ ンゾ ウあるいは ワス レ グサ, ナ ン バ ン カ ン ゾ ウの名 前で 栽 培されて いた系 統を導入 したもの であっ て, 野生の 産地 は知 られて い な か っ た。 日本の多 く
の 研 究 者は こ の トウカ ン ゾゥ につ い て は中 国 大 陸 原産で, 日本に は園 芸 栽 培 植 物 として導入 さ れた もの との 見 解を と っ て い る (NAKAI , 1932 ;大 井, 1965 な ど)。 キスゲ 属 につ いて広汎 な 研 究 を行っ たニ ュ ーヨ ーク植物園の
STouT ( 1929
,1941
)は,H
. aurantiaca は一系 統 か ら栄 養 的に繁 殖 されて い て , 遺 伝 的に はヘ テ ロ な もので あ る し, 自 家不稔性が 強 いの で 「雑 種 起 源の系 統で あろう」 と論 じ, ま た 「ト ウ カ ンゾ ウ
H
.aurantiaca var 。 major はH
. aurantiaca とは区 別さ れ るべ き別種」とい う意見を表 明 して い る。すでに九州 西部の 島々 に,
BAKER
が H . aurantiaca と呼ん だ系 統の野生 集団の あるこ と は 北 村 (1964
)や松岡と堀田(
1966)
に よ っ て 報 告されて い るが, こ こ数 年の あいだにこ の 地域の キス ゲ 属 植 物の集 団につ い ての解析が進み (
HOTTA
et al.,1985
),BAKER
が栽 培の系 統に も とつい て命名し た ト ウカ ンゾ ウ群の実 体が 明 らかに な り, 混 乱 して い た種名の整 理 が可 能に* 京 都 大 学 教 養部生物学教室 京都市 左 京 区 吉田二 本 松 町
18 Acta
Phytotax
.Geobot
,Vol
. XXXVII ,Nos
.1
−3
な っ てき た。 こ の小 論で は, 種 と種名を中心 に整 理 を試 みてみ たい。
Hemerocallis
aurantiacaBAKER
と ‘Major
, の特 徴すで に BAILEY
(
1930 >も論 じ てい るよ う に BAKER のH
・aurantiaca の 記載には 理解に苦 しむ 所がある が,STouT
(1929, 1934)
によっ て 記述さ れ た系 統が BAKER の H ・aurantiacaか ら株 分 けで栄 養 的に繁 殖さ れ た系 統である こ とは間 違いが ない で あ ろ う。 ま た ‘Major ’は, 原 記 載につ い て い る図や その イギ リス へ の導入の経過 か らも, ま た その 後の 色々 な記 載 か ら も
日本で ワ ス レグサ や トウカ ンゾ ウの 名前で栽 培 さ れて いた ものが栄 養 的に繁 殖さ れ た系統であ るこ と は 明 らかである。 こ の
2
者の特 徴をま とめて表 1に示して お く。BAKER が ト ウカ ンゾ ウ を H . aurantiaca の中にふ く まれる分 類 群と して い た よ うに, こ の 両 者は よ く似てい る が, 常 緑 性や苞 葉の性質 (
H
.aurantiaca で は開 花 時に は枯れ かけて い る が ト ウカ ン ゾウ で は葉 状によ く発達し宿 存 的で ある), 花 色, 開 花 期等で 異な る し, 花の大き さで は ト ウカ ンゾ ウ の ほ うがはる か に大 形にな り, 内 花 被 片の縁が波 状に ち じ れ るこ とも特 徴 的であ る。 ま た その常 緑 性の強さ か ら は, ト ウカ ン ゾウ の原 産野生 地は温 暖な地 域であること が推 定されて いた が, ト ウ カン ゾ ウ に み られるような形 質の組み合わせ (早咲 き, 鮮 黄 色で大 形の花, 発達 する苞葉, ス トロ ーン の 欠 如, 強い常 緑 性 )を有す る 野 生 の キス ゲ 属植 物は, 今
の とこ ろ中国大 陸 南 部か ら は報 告さ れ てい ない (CHEN , 1980
)
。 こ の両 者が同じ 種にすべ き分類 群なの か, そ うで な い の かにつ い て は, ト ウカン ゾウの 野生 集 団 が 知 られて い ない段 階で は はっ き り しな かっ た。 草木図説の 中で飯沼慾 斎はワス レ グサが伊 吹山に 自生する よ う に記 載 し
て いる が, 伊 吹 山に はゼ ンティ カ と キス ゲは 自生する が, 栽培の ワ ス レ グサ(ト ウカン ゾウ)の 野 生 系 統は 産 して い な い 。 多 分, ト ウ カ ンゾウ とゼ ンテ イカ は開 花 期 と花 色が ほぼ同じで あ る
の で誤 認を し た と推定さ れ る。図の方は明 らかに栽 培の ト ウカ ン ゾウ の生 育の良 くない個 体で ある。
表1. Hcmerocallis aurantiaca と ‘Major ’の特徴 (BAKER の記 載 した系統)
植 物 名 常 緑 性 ス トロ ーン 花 茎の 苞 葉 花
色 開 花 時 間 開 花 期
H .aurantiaca 弱 い 無 や や発達 橙 黄+赤 褐 昼 初 夏
‘Major’
強 い 無 よく発達 鮮 黄 色 昼 晩 春
ハ マ カ ンゾウ と H .aurantiaca
北村
( 1964
)は関 東 以 西の海 岸 草 原に分布するもの をH
・aurantiaca と し (これはNAKAI
・1939
と同 じ見 解で あ る), そのう ちの 関 東地方 か ら四 国 に 分 布 す る群 を ハ マ カ ン ゾ ゥH
.aurantiaca var .
littorea
,九 州 (平 戸, 五島 列 島, 甑 島 )の 群 を ワ ス レグサ (草 木 図 説 )H .aurantiaca var . aurantiaca で あ る と し た。 松 岡 と堀田
(
1966)
も五島 列 島や平 戸に分布す るハ マ カン ゾゥ に似 た一群 を H .aurantiaca と し, その 多型 的な変 異の極 端な型の一つ が ト ウ
カ ン ゾウ で あろう と考え た。 ま た太 平 洋 側に分 布 するハ マ カ ン ゾウ は ホ ンカ ン ゾゥ
H
.fulva
の海 岸 草原型 の変 種であると した。 さ らに佐 竹 (
1982
)は対 馬のバ クウン キス ゲ と さ れて い るSeptember ,
1986 Acta
Phytotax
.Geobot
. 19もの も
H
.aurantiaca に含め た。日本の 海 岸 草 原に生 育 する キス ゲ 属植 物 には : 北 海 道 の 東 お よ び 南 部の エ ゾ キス ゲ
H
.lilioasphodelus
L var . yezoensis( HARA
)M
.HoTTA
*, 東 北地方の ゼ ン テイカ (海岸型)H
.middendorMi TRAuTv . et MEy . var . esculentaOHwi
や その 一型で あ る ト ビ シマ カ ンゾゥ
H
.middendorMi var . exaltata (STouT
)M . HoTTA * *,本 州 (千 葉 房 総 半 島以 西, 四 国の太 平 洋 側 と九 州 大 隅 半 島 )に分 布す るハ マ カ ンゾ ゥ H .fulva
L . var . littorea(MAKINo ) M . HoTTA , 対馬 のバ ク ウ ン ス ギ (朝 鮮にも分布する)H
.hakuunensis
NAKAi
, そ れに今 回 問 題 と し てい る九州西 部や北 部に分 布 する H .aurantiaca と さ れ る諸 系 統が あ る。 ま た キス ゲ H .thunbergiiBAKER
も西南日本の 各地 で海岸草 原に出現 する。 ハ マ カ ンゾウを記 載 した 牧 野 富 太 郎 博士 自身が佐 渡の トビ シマ カン ゾウをハ マ カ ンゾウ と した こ とも ある よ うに, これら海 岸 型の キス ゲ属 植 物は, それぞれ はっ きりと した もの で は あ る が, しば しば混 乱 し て 理解 さ れて い る。 そ れ らを 区別 する特 徴を次に表に してま と めてお く (表 2)。
こ の表でハ マ (九州)と さ れて い る群は,松岡 と堀田 (
1966
)がH .aurantiaca と し た もの か ら対 馬 産の もの と栽 培される ト ウカ ン ゾウを除いた もの であ る。 こ の 分類 群に 属 する地 域 集 団の形 質の 統 計 的な解 析はHOTTA
et at.(1985 )
にま と め られて い る。 集 団 内に は, 花 色は橙表2. 日本 産海岸性の キスゲ 属の種の特 徴*
植 物 名 開 花 時 間 開 花 期 花 色 花 序の形 苞 葉
助
゜ 常緑 性 分 布エ ゾ キス ゲ 夜 昼 咲き 初夏 淡黄色 2 又 形 +
キス ゲ 夜 咲き 夏 レ モ ン黄 2〜枝 打 十 (十)
キス ゲ (島 型 ) (特 徴は キス ゲ と 同じだ が,よ り大 形にな る)
一 北海道 (東 部 及 び 南部)
近 畿 以 西の海 岸 (内陸で は さ らに広 く分 布 する) 九 州 (平戸,五島,対 馬),
紀 伊大島
ゼ’
ンテイカ 昼 咲 き 晩春 橙黄色 トビシ マ カ ンゾ ウ 昼咲 き
バ ク ウンキス ゲ
ハ マ カ ンゾウ
ハ マ (九 州 ) ト ウ カンゾ ウ
*
昼咲 き 昼 咲 き 昼 咲 き 昼咲 き
晩春〜 初夏
初夏
橙黄 色
密集〜
2又
密 集多 数
(+)
十
橙黄 色 2〜枝 打 +
晩 夏〜 橙 ・
秋 赤 褐 初 夏 橙 ・
赤 褐 晩 春 鮮黄色
2〜枝 打 + + + 2〜枝 打 + +一 2〜枝打 + +
東北地方海 岸 (太 平洋側
に多い,内 陸で広い分 布 ) 飛 島 と佐 渡
対馬,朝 鮮 半 島 (内 陸 岩 場に も分 布 )
+一 本 州(関東地方以 西)〜 九 州 南部(内陸に もあ る)
+一 九 州 (甑島
,平戸,五島,
本 島の西 北部海 岸 )
+ ÷ 九 州 (男 女 群 島)
開花期等の特 徴は京 都での栽培 系統の比較による。
エ ゾ キスゲと トビ シマ カンゾウ につ いて は新 組合せの学 名が必 要にな る。
* Hemeroca 皿is lilioasphodelus L var . yezoensis (HarA )M . HoTTA , cDmb . nov .− H. )ezoensis HARA
inJour.
Jap
. Bot. 14: 520(1938).− H..fiava L. var .丿ezoensis (HARA )M . HoTTA in Acta Phytotax . Geobot .22:41 (1966>.
* * H。 middendorMi TR . et MEY . var . exaltata (STouT)M . HoT ・rA
, comb . nov .− 1’1. exaitata STouT in
Addisonia 18:S7, pL 594(1934).− H. duntortierii MoRREN var . exaltata 〈STouT )KITAMuRA in KITAMuRA 」 MuRATA & KoYAMA , Col. ll. Herb . PL
Jap
, 3;140, p138−246 (1964>;MMAlsuoKA & M . HoTT へ in Acta Phytotax. Geobot.22:41 (1966).20
Acta
Phytotax .Gcobot
.Vol
.XXXVI1
,Nos
.1−3
黄色か ら真 赤 まで, 内 花 被 片の 内 側にで るア ン トシア ン系 色
i
・、によ る赤 褐色 の 山 形 斑 紋の はっ きりして い るものか ら全然 無い ものまで, ス トロ ーン も長 く伸 ば す ものか ら全 然伸ばさ ない もの まで, 多 様な形 質の変 異 が 存 在 し, それ らが 様々に組み合わ さ れ た個 体が 同一
集 団 内に混 在 する。 常 緑 性の 程 度 も様 々で ある。も し個 体 を 取り出して比較すれ ば,別 種 と して もお か しく ない ほ どの変 異が集団内には保持 さ れて い る が, 外 交配で 同 所的 に生 育し, 開 花 習 性 が 同 じ諸 個体を, は っ きりした 形質的特 徴で区 別が可 能だ か ら分 類 群 と して区 別 する必 然 性はない 。 さ らにこ の ハ マ カン ゾ ウ九州系 は, 平 戸 ・五 島 列 島 ・小 江 岩 (長崎 )・下甑島の どの集 団を取 り あげて も, 集 団 間に変 異の 内容や幅にほ と ん ど 差 が ない点で も特 徴 的で, そ う した こ と か らは 内 部に多 様な変 異を保 持 して い る が よ くま と ま っ た地 方 集 団で ある と考え ら れ る。
さ らに こ のハ マ カ ン ゾ ウ九 州 系の集 団 内に は BAKER に よっ て記載さ れ,
STouT ( 1929
)に よ っ て くわ しく記録さ れ た H . aurantiaca と表現 型の うえで は 区 別 が 出 来ないよ うな形 質の 組 合せを持っ た個 体を含んで い る。 BAKER が H . aurantiaca とした Kew 植 物園で栽培さ れてい た キス ゲ 属 の一系 統 は
, こ の 九州系の ハ マ カン ゾ ウか ら採 集さ れ た もの で あると して も 問 題は ない。 日本 産の キス ゲ 属 植 物が江 戸 時 代にヨ ーロ
ッパ に持 ち 出 さ れるル ート と しては
, 当
時た だ一つ の 海 外に ひ らか れて い た 長崎 港か ら し か な か っ た し, 長 崎 港 の 近 くで キス ゲ 属植 物を 採 集す れ ば, この 九 州 系ハ マ カ ン ゾウ になっ た確 率は高い。 Hemerocallis aurantiaca
BAKER
は 中国 大 陸 原産で も, 雑 種 起 源の系 統で もな く, 九州 西部の ハ マ カ ン ゾウの 一系 統に 基づ い て 記 載された種で ある と考え る。こ の九 州 西部地方に 分布す るハ マ カ ンゾ ウと対 馬 の バ クウン キス ゲは, 時に は 混 同され る
(
松岡 ・ 堀田,1966
;佐 竹,1982 )
が, 異な る もの である。 20年前の 資料が わずか な時 期には,対 馬 産のバ ク ウン キス ゲ の系 統 の 中に は, ハ マ カ ンゾウ九州系 と 区 別がつ けが たい ものがあ り, それ が 「H .aurantiaca が対 馬 1こも 産 す る」との 誤っ た結 論にみちびかれ る原因 に な っ た が,多 数の 野 生集 団の 形質の解 析を行っ てみ る と, こ の 対 馬の諸 集 団はハ マ カ ンゾ ウ九州系か らははっ きりと区別 され,地 域 的に よ くまとまっ た集団を 形 成 して い る (
HOTTA
el at,,1985
)。 すな わ ち常 緑 性を欠 き, ス トロ ーンを 出 すこ と がな く, ま た内 花 被 片には山 形の 斑 紋 がほ とん どの 場 合み られ ない 。 花 被片も先端が や や ま る く な る狭 倒 卵 形で ある。 両 者は地 理 的にも隔離 さ れて お り, は っ きりと し た別 種, バ ク ウ ン キス ゲと して扱 っ て お きたい 。
ま た本州 か ら 九 州の南 部にかけて分 布す るハ マ カ ン ゾウは, こ の ハ マ カ ン ゾウ九州系によ く
似て はい る が, 一般に花 期が 遅 く
, ス トロ ーンを 伸ば す
形 質が集 団 内によ り強 く出 現 する。 さ らに四 国や近 畿の 内 陸 部に は, こ の海 岸 型のハ マ カン ゾ ウ に類似の 系 統が 分布して い て , ノ カ
ン ゾ ウとの 区 別 が 難 しい 。山 脇 (1957 )の 主 張 するよ うに,これ ら がハ マ カ ン ゾウ とノ カ ン ゾ ゥの 自 然 雑 種 起 源の ものなの か どうか につ い て も, 今の ところ はっ きりして いないが, これ ら は種と して は い ち じるしく多 型 的なホ ン カ ン ゾ ゥ
H
.fhlva
L
の野生 2倍 体群にふ くめ, 変 種 と して お く。男 女 群 島の キスゲ属の野 生種
灯 台 守 りの 映 画で有 名な 「喜び も悲 し み も……」に 出て くるの で男 女 群 島に 野生の キス ゲ 属 植 物 が 分 布 して い る こと は以 前 か ら知 られて いた。 ま た長 崎 県 植 物 誌
(
1980)
にはこ の 植 物はハ マ カン ゾ ウ H ・littorca MAKINo の 名 称で記 録されて い る。 1982 と 83 年に長崎大 学の伊 藤 秀三教授 か らこ の男女 群島産の キス ゲ 属 植 物の生 品を送 っ て いただ き, 京都大学理学 部 圃 場で
September ,
1986 Acta
Phytotax
.Geobot
. 21 栽 培 して色々 の形 質につ い て観 察 し た。 その 結 果は HOTTA et at.の報 告(
1985)
にまと められてい るが, 要 約す る と男 女 群 島の 集 団は :強い 常 緑 牲, 葉 状に発 達 する花 茎の苞 葉, 早い 開花 期 (京 都で は 6 ,月, 現 地では 5月 か ら), 大形で 鮮 黄色 の 花, 辺 縁 が細か く波状に ち じ れ る が山 形の 斑 紋は有 し ない 内 花 被片, ス トU 一ンを欠 くの で密 集 する株
, な どの形 質で特 徴 的な もの
である。 これ らの形質 は栽 培の トゥカン ゾウと共 通 して い る。 ま た 長 崎 市の観 光 有 名 地である グラバ ー邸の な かに は ト ウ カ ン ゾ ウ が栽 植
さ れてい る。 さ らに植 物の 移 植に ともな っ て持ちこ ま れた と推 定さ れ るのだ が, 男 女 群 島に固 有と さ れて いた カ タツ ム リの一種 がや はり グラバ ー 邸の近 くにだ け分 布 して い るこ と が 知 ら れて い る(伊 藤, 私 信 )。 江 戸 時 代か ら漁民 は 男 女群島
を訪れて い た し, その ときに採取 し た植物の生 き た系 統を 長崎にも た ら し た ことは 確かで あろ う。 トウカ ン ゾ ウ は その よ うに して栽 培 化さ れ, や がて イギ リス に導 入 さ れ た と推 定 さ れる。
外国 との 交流 が あっ た長 崎か ら広が っ た の で 日本で は中国大陸 起原の植物と 思 わ れ, ト ウカ ン ゾウやナ ンバ ン カ ン ゾ ウ, あるい はワ ス レ グサの 名が与え ら れ た の で あろう。 すで に のべ たよ うに中国大陸 か ら は ト ウ カ ン ゾ ウの ような形 質の組み合わ せを有する キス ゲ 属の系 統は 知 ら れ
てい ない。 イギ リス に も, 19 世 紀に多 くの 植物が導 入さ れ た中 国 大 陸か らで は な し に, 日本か ら導 入されて い る。 その 特 徴的 な形 質の 組み合 わせ と社 会 的な状況 か ら は,ト ウカ ン ゾ ウ が男 女 群 島に分 布 する キス ゲ 属 植 物の一系 統 (始 ま りは一個 体 ) が 栽培化さ れ たものであるこ と は
うた がい ない 。
ト ウ カ ンゾ ウ が雑種 起 源の 系 統であるとの意 見 も ある。 や や淡い レ モ ンイエ ロ ーが かっ た大
形で鮮 黄色の 花の形 質か らは, この種の起 源に夜咲 きの キス ゲ, そ れも九 州北部の海 岸に分布 する “
島型”
( HOTTA
et aL , 1985 )と呼ば れて い る もの が関 係 し た 可能 性は否定で きない 。 し か も開花 時 間の 遺伝 性は夜 咲 き が昼 咲 きに対し て劣 性の よ う に ふ る ま うの で (堀田 ら, 1984),男 女 群 島の ト ウ カ ン ゾ ウ と し た 野生 集 団が,
‘‘
H
,aurantiaca ” と キス ゲ との自然 雑 種に起 源 し た と して も, そ れは男 女 群 島の トウカ ンゾウの よ うに完 全 な 昼咲 き性にな る可能 性 が 高い 。しか し現在の とこ ろ男 女 群 島か らはキス ゲ は知 られ てい ない。 もし以前に キス ゲか らの遺 伝 子
の 流入 があっ た と し て も, 今で は ほ ぼ完全 に混 合 されて し まい, 男 女 群 島の トウカ ン ゾウ は地 理的に も 形 質 的にもよ くま と ま っ た集 団 (種 )と して認め るべ き もの で あろ う。ま た 五島列島
・や 平戸か ら知 ら れて い る キス ゲ とハ マ カ ンゾ ウ系 との 自然雑種の 中に も ト ウカン ゾ ウ のよ うな 形 質の 組 合せを有 する系統は 現在の とこ ろ 見つ か っ て いない。
キス ゲ 属は種 間の遺 伝的生 殖 隔 離機 構をほ とん ど発 達 さ せ な かっ た植 物群の 一つ で あ る
。
こ の属の種の独立性に は開 花 時 間, 開 花 期, 地 理 的分布域 や 生 態的な生 活 場 所の違い, な ど
の生理 ・生 態 的な 隔 離条件が大きく作 用 して い る よ う に 見 え る (堀 田・伊 藤 ・岡田
, 1984, HoTTA et al・,
1985
)。 男 女 群 島の トウカ ンゾ ウ野 生 集 団は,STouT (
1941)
の 意 見 も くみ , 別種 と して 区 別 してお く。
分 類 的 な 取 り 扱 い
HemerocaUis
fUlva
L
. var . aurantiaca (BAKER ) M .HoTTA
, stat . nov .− H .aurantiaeaBAKER
in
Gard
.Chron
. IIL8
:94 ( 1890 )
;STouT
in
Addisonia
14
:25,pl
.461 (