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中間的就労の概念の検討 : 先行研究からの理論的 検討と支援者からの語りを通して

著者 柏木 綾

雑誌名 評論・社会科学

号 135

ページ 33‑53

発行年 2020‑12‑31

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/00027847

(2)

要約:本研究の目的は,中間的就労の概念を理論と実践の両側面から検討し,中間的就労 の概念特性とその定義について明らかにすることである。まず初めに先行研究や参考資料 から,理論的な概念特性を明らかにした。その後,中間的就労による就労支援の経験があ る支援者の方を対象としたインタビュー調査を実施した。インタビュー調査で得られたデ ータをK JA B型によって分析し,実践現場からの中間的就労の概念特性とその定義を 明らかにし,中間的就労の概念の検討を行った。その結果,中間的就労の概念には〈支援 の個別性〉〈支援の継続性〉〈仕事(プログラム)の多様性〉〈地域貢献性〉〈関係性〉とい 5つの概念特性があることが示された。

キーワード:中間的就労,就労困難者,質的データ分析

目次

1.研究の背景と目的

2.先行研究から検討した中間的就労の概念 2-1.中間的就労の対象者について

2-2.先行研究における中間的就労の概念特性とその定義について 3.インタビュー調査について

3-1.中間的就労の支援者を対象としたインタビュー調査の目的 3-2.中間的就労の支援者とインタビュー調査の詳細について 3-3.データの分析方法

3-4.倫理的配慮

4.中間的就労の支援者を対象としたインタビュー調査から検討した中間的就労の概念 4-1.先行研究とインタビュー調査の共通する概念特性について

4-2.就労支援現場における中間的就労の概念特性とその定義について 5.考察

6.本研究の意義と限界

────────────

同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程

202077日受付,査読審査を経て2020102日掲載決定

論文

中間的就労の概念の検討

──先行研究からの理論的検討と支援者からの語りを通して──

柏木 綾

33

(3)

1.研究の背景と目的

1990

年代以降,グローバル化や多くの先進諸国の経済成長の低迷,産業構造の変化

ICT(情報通信技術)の発展により,労働市場の多様化と労働形態の多様化が起こっ

た。これにより日本においても,人口構造の変化などと相まって,低所得者や失業者の 増加,孤立,若者・こどもの貧困や社会的排除などの課題を引き起こしている。特に社 会的孤立に陥っている人々や就労経験が乏しいなどの課題を抱えた人は,一般の労働市 場への参加が困難になり易く,就労困難者となり長期失業や生活困窮状態に陥りやすい 状況である。日本の就労支援制度においては,一般就労が困難な人の為の就労支援とし て,障害のある人を対象とした,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するた めの法律(障害者総合支援法)における就労系障害福祉サービスがある。いわゆる福祉 的就労(1)と呼ばれているが,対象となる人は,障害支援区分の認定を受けた障害のある 人に限定されている。しかし,近年,一般労働市場に参加するために不利な条件を抱え た人は,障害のある人だけではないことが明らかにされている。内閣府による調査で は,自宅に半年以上閉じこもっている「ひきこもり」の

40〜64

歳が,全国で推計

61

3

千人いると報告されている。調査は

2018

12

月,全国で無作為抽出した

40〜64

歳 の男女

5

千人に訪問で実施されたものである。3248人から回答を得ており,人口デー タを掛け合わせて全体の人数を推計している。ひきこもりに該当したのは回答者

1.45

%。ひきこもりになった年齢は

60〜64

歳が

17% で最も多かったが,20〜24

歳も

13%

と大きな偏りはみられない。きっかけは「退職」が最多で「人間関係」「病気」が続い た。7割以上が男性で,ひきこもりの期間は

7

年以上が半数を占めた。15〜39歳の推計

54

1

千人を上回り,ひきこもりの高齢化,長期化が鮮明になった。(日本経済新聞

2019)内閣府は「若者とは違った支援が必要である」と言及しているが,これらの課題

を抱えた人は,若者も引きこもりと呼ばれる人も共通して制度の狭間にいる人であり,

その根底には既存の制度・政策では対応できない課題を抱えているという共通点があ る。

中間的就労の対象となる人は,社会的に繋がりを失っている人やワーキングプアと言 った生活困窮状態にあるにもかかわらず,対応できる支援やサービスがないなどの制度 の狭間に陥っている人であり,さまざまな理由により一般就労にすぐに辿り着くことが 難しい就労困難者である(2)

中間的就労が法令上の用語として使用され始めたのは,2015年度から施行された生 活困窮者自立支援法の一事業として,「認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」が位 置づけられてからである。生活困窮者自立支援制度では,全国

901

の福祉事務所設置自

中間的就労の概念の検討 34

(4)

治体の必須事業所として「自立相談支援事業」と「住居確保給付金」が義務付けられ た。それに加えて,任意事業として,①就労準備支援事業,②一時生活支援事業,③家 計相談支援事業,④子ども学習支援事業,⑤住宅確保給付金が設けられた。任意事業に 位置付けられている「就労準備支援事業」は,生活習慣形成に向けた「日常生活自立」

と就労に必要な能力の習得に向けた「社会生活自立」段階から就労に向けた訓練機会の 提供である「就労自立」を概ね

6

ヶ月から

1

年程度の有期支援で行うものである。一 方,「認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」は,「都道府県知事,政令市長,中核 市長は,事業者が生活困窮者に対し,就労の機会の提供を行うとともに就労に必要な知 識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う事業を実施する場合,その申請に基づき 一定の基準に該当する事業であることを認定するものである。」(3)(厚生労働省

2013 a)

つまり,就労準備支援事業を利用したが,直ちに一般就労が困難である人や柔軟な働き 方を必要とする人に向けて,「認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」の支援が提供 されることが想定されている。その為,「認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」に 支援の期限はなく,3〜6ヶ月のプログラムを,半年毎にアセスメントすることになっ ている。つまり,この法律における「認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」は,

従来の就労支援で行われてきた一般就労を目標とした就労支援と障害福祉サービスのも とで行われる,いわゆる福祉的就労との間に位置付けられており,「一般就労に困難を 抱える人々が,何らかの支援・ケアを受けながら働く場/働き方」(厚生労働省

2013 b)

として考えられている。

一方で,中間的就労の実践自体は,先述した生活困窮者自立支援法において,中間的 就労が位置づけられる以前から行われてきているものであり,それらの先行事例を参考 に法制度化が行われた経緯がある。例えば,千葉県における「生活クラブ風の村」によ るユニバーサル就労や「社会福祉法人一麦会麦の郷」による実践等が挙げられる。各地 における先行事例には,その支援方法において多様性があり,生活困窮者自立支援法に 位置づけられている認定就労訓練事業としての中間的就労は,先行事例の実態を忠実に 再現したものではないと指摘されている(五石

2019)。つまり,中間的就労の実践にお

いては,認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)の制度を利用して,新たに中間的就 労の取り組みを実施している事業所もあれば,制度創設以前から独自の方法や連携を通 して,中間的就労を実施してきている事業所など多種多様である(4)

こうした現状に対して,大高研道(2015)が,「自立支援法体系の中における中間的 就労は『就労訓練事業(中間的就労)』と位置づけられており,一般就労へのつなぎと しての訓練の場という性格が強く,継続的な働き場や当事者の状況に対応する就労の場 としては,必ずしも理解されておらず,『中間的就労』の概念自体がコンセンサスのあ る概念ではない」と指摘している通り,中間的就労の概念自体が明示されないまま実践

中間的就労の概念の検討 35

(5)

や制度化が進んでしまっている現状が現れている。

その為,中間的就労の概念が十分に整理されずに「中間的就労」という言葉がさまざ まな場面で使用され,「中間的就労」がどのような就労支援の形態であるのかが一見理 解しづらくなっている。特定非営利活動法人人権人材センター(2017)によるアンケー ト調査においても,おおさか人材雇用開発人権センター会員企業

169

社のうち,中間的 就労について『知っている』と回答した企業は

53

社,一方『知らない』と回答した企 業は

109

社(未回答

7

社)にのぼっており,中間的就労を知っている企業は全体の半数 以下に留まっている。

今後,中間的就労による就労支援が効果的に実施され,より多くの地域へ実践を拡大 させていくためには,中間的就労がどのような就労支援であるのか概念を明確にする必 要性がある。中間的就労が全国の先行事例をもとに法制度化された経緯からすると,理 論的な概念特性と中間的就労の実践に関する概念特性の両側面から,概念を帰納法的に 検討することが望ましいと考えた。そこで,まず先行研究をもとに中間的就労の概念の 検討を行った。その後,すでに中間的就労に取り組まれている支援者へのインタビュー 調査を実施し,中間的就労の実践に関する概念について検討し,中間的就労の概念特性 と定義を明らかにした。

2.先行研究から検討した中間的就労の概念

2-1.中間的就労の対象者について

そもそも中間的就労という概念は,釧路市において

2004

年頃から始まった「生活保 護受給母子世帯自立支援事業」という厚生労働省のモデル事業が発端となっている。釧 路市の実践における「中間的就労」の意味合いは,ハローワークにある仕事(一般就 労)と家にいる状況の中間にあたるボランティアなどによる社会参加型の活動(櫛部

2011)とされ,当初は生活保護制度の被保護者を対象にした自立支援プログラムであっ

た。この取組が始められた同時期の

2004

12

月に,社会保障審議会福祉部会生活保護 制度の在り方に関する専門委員会が策定・公表した「生活保護制度の在り方に関する専 門委員会最終報告書」において,「生活保護自立支援プログラム」という被保護者を対 象としたプログラムが初めて打ち出された。(厚生労働省社会保障審議会福祉部会

2004)この生活保護自立支援プログラムは,2005

年より福祉事務所設置自治体におい

て策定・運用が始められている。釧路市ではこの生活保護自立支援プログラムにおい て,それ以前のモデル事業での経験を活かし,多様なプログラムの創設や当事者を中心 とした取組と運用が行なわれた。具体的には,事務所内で裁縫や古着の裁断等を行う

「日常生活意欲向上支援プログラム」,公園整備や動物園での清掃作業などのボランティ

中間的就労の概念の検討 36

(6)

ア活動を体験する「就業体験的ボランティア事業プログラム」,障害者施設における就 業体験を行う「就業体験プログラム」に加え,子ども学習支援プログラムなど多様なプ ログラムが実施された。その中でも,特に地域に出向いていき活動を行う,就労支援プ ログラムの幅を広げ,稼働収入を得る活動から社会参加型の活動までの多様な働き方を 中間的就労と位置付けたのである(5)。その為,後に「釧路モデル」と言われるほど注目 を集め,当事者性や地域の課題に着目した取り組みが評価されている。(櫛部

2011)

2013

年の生活保護基準の見直しや生活保護法改正,2015年

4

月の生活困窮者自立支 援法(平成

25

年法律第

105

号)施行により,この生活保護自立支援プログラムをモデ ルとして,その支援対象者を被保護世帯のみではなく,生活困窮者を対象としたプログ ラムへと活用する流れとなっていった。

生活困窮者自立支援法における認定就労訓練事業(いわゆる「中間的就労」)では,

対象者に対して,「雇用による就業を継続して行うことが困難な生活困窮者に対し,就 労の機会を提供するとともに,就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練そ の他の省令で定める便宜(就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練,生活 支援並びに健康管理の指導等)を供与する事業」(生活困窮者自立支援法『平成

25

年法 律第

105

16

条』)と記されている。ここで対象とされている 生活困窮者 とは,

「現に経済的に困窮し,最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」

と定義されており,現に最低限度の生活を維持できない状況にある者は,生活保護制度 の対象とされている。そのため,生活困窮者自立支援法における認定就労訓練事業(い わゆる「中間的就労」)の対象となる人は,生活保護制度の対象となっていないが,生 活保護に至る可能性のある人を示している。これは当初の生活保護自立支援プログラム と生活困窮者自立支援法の対象者が異なっていることを示している。つまり,釧路モデ ルの生活保護自立支援プログラムにおける中間的就労の対象者は,年金や生活保護など 経済的な補助を受けている人であるが,認定就労訓練事業(いわゆる「中間的就労」)

における対象者はそうした経済的な補助を受けていない人であり,同じ中間的就労とい う名称でも,制度上の対象者の範囲は異なっていると言える。釧路モデルにおける中間 的就労は,生活保護受給世帯を対象とした「生活基盤を支える収入が福祉給付に全面的 に依拠した状態と就労による収入で『経済自立』した状態との『中間』に位置する状 態,つまり就労収入と生活保護の組み合わせによって生活が成り立つ状態,『半福祉・

半就労』という新しい働き方」(戸田典樹

2016)であるのに対して,生活困窮者自立支

援法においては,対象が生活保護を受給していないボーダー層であり「中間的就労が

『就労訓練』として名称変更され,『就労体験やトレーニングが必要な,いわば,一般就 労に向けた支援付きの訓練の場』として位置づけられている」(戸田

2016)とし,釧路

市の実践から生まれた中間的就労という概念が,生活困窮者自立支援制度へと制度化さ

中間的就労の概念の検討 37

(7)

れた流れの中で,その対象や内容が変質したとの指摘がなされている。また生活困窮者 自立支援法における中間的就労は,最低生活保障を伴わない,有期保護制度による厳し い就労自立を強いるとして(戸田

2016),就労支援にのみ焦点を当てた生活保障のない

支援の在り方に懸念を示している。このような懸念を抱いているのは戸田だけではな い。正木浩司(2014)も「生活保護自立支援プログラムによって拡大された『自立』の 解釈は,生活困窮者自立支援制度という新たなステージに向かうなかで縮小の様相を呈 しており,自立支援は現在岐路に立たされていると言える。」と同様の懸念を示してい る。これらの懸念は対象者における生活保障の有無の重要性を示していると言える。生 活困窮者自立支援法における認定就労訓練事業(いわゆる中間的就労)の対象者は,多 様な課題を抱えており,直ちに一般就労することが難しいという点において,就労訓練 以外における支援が必要となる。つまり,日常生活において生活技術や健康管理などを 含む生活管理を行う支援や社会関係・人間関係などのつながりの構築における支援であ る。これは「生活保護制度の在り方に関する専門委員会最終報告書」の中でも提示され ていることであるが,日常生活自立支援や社会生活自立支援を行うにあたっては,ある 程度の歳月を要することが予想され,その上では生活保障が必要になってくると考えら れる。こうした点において,旧来型の就労指導を中心とした就労支援にはない中間的就 労の概念特性として生活保障性を見出すことができる。生活保障性とは,働き続けるこ とや生きていくことにおいて,さまざまな課題を抱えている就労困難者に対して,生活 保護や障害年金などの福祉給付や公的な所得補填を行うことである。従来の就労困難者 に対する支援においては,福祉給付や生活保護制度の申請へと繋ぐか,厳しい状況の中 でもさらに働き困難な状況を生み出すという限られた選択肢しかなかった。戸 田

(2016)や正木(2014)は,経済的就労自立のみではない日常生活自立や社会生活自立 を並列とする,自立支援プログラムの基本的な理念が,中間的就労の概念特性として挙 げられることを先行研究において指摘している(正木

2014,戸田 2016)

中間的就労の対象者を支援するためには,生活保障を同時に行なっていく生活保障性 を中間的就労における概念の必要要件として検討していく必要性が先行研究より見出さ れた。

2-2.先行研究における中間的就労の概念特性とその定義について

1

は著者が中間的就労の概念について,先行研究の整理を行ったものである。内容 を整理するに当たって「資料の詳細」を提示した上で「中間的就労に関する記述」,「対 象者」,「支援の目的」という分析枠組みを設定した。

中間的就労の概念の検討 38

(8)

1 先行研究における中間的就労の概念

資料の詳細 中間的就労に関する記述 対象者 支援の目的

筒井美紀・櫻井純理・本田由紀

(2014)「就労支援を問い直す

−自治体と地域の取り組み−」

何らかの支援・ケアを受けながらステッ プアップし,一般就労というゴールにた どりつくことを含意している

生活保護受給者・生活困窮者ボ ーダーライン層(ワーキングプ アも含む)

一般就労(継続的な雇 用の場としては社会的 就労と考えている)

大高研道(2015)「制度として の『中 間 的 就 労』の 現 状 と 課 題」

一般就労へのつなぎとしての訓練の場と いう性格が強く,継続的な働き場や当事 者の状況に対応する就労の場としては必 ずしも理解されていない

生活保護受給者・生活困窮者ボ ーダーライン層(ワーキングプ アも含む)

一般就労を含む多様な 働き方,社会的な居場 所や関係性の構築

戸田典樹(2016)「日韓比較研 究からみる新たな中間的就労の 可能性−『新しい生活支援体制』

の検証から−」社会政策学会誌

「稼働能力者」が生活保護を受けながら 働く,いわゆる「半福祉半就労」と呼ば れる働き方である。働いても生活保護基 準以下の収入しか得られないワーキング プアが保護を受けながら働くことを可能 にする働き方である。

生活保護受給者・生活困窮者ボ ーダーライン層(ワーキングプ アも含む)

社会保障制度を利用し ながら,状況に応じて 就労を目指す

垣田裕介(2014)「生活困窮者 への伴奏型支援 経済的困窮と 社会的孤立に対応するトータル サポート」

ただちに一般就労に従事することができ ない場合の訓練や社会参加に重点を置い た就労を指す

生活困窮,就労困難者

支援を受けながら訓練 を行う,社会参加活動 に参加する 厚生労働省

厚 生 労 働 省(2013 b)「社 会 的 就労支援事業のあり方に関する 調査・研究事業」報告書

一般就労に困難を抱える人びとが,何ら かの支援・ケアを受けながら働く場/働 き方のことを意味する

生活困窮,就労困難者 支援を受けながら働く

社会的就労支援事業のあり方に 関する調査・研 究 事 業 報 告 書

(2013)

①いずれ一般就労に向かうためのトレー ニングの場として,②生活保護や各種年 金を利用しながら,地域社会に参加する 場・可能な範囲で働き続けられる場とし

生活保護受給者・ボーダーライ ン層(ワーキングプアも含む)

一般就労に加え,社会 保障制度を利用しなが らでも可能な範囲で働 き続けること

生活困窮者の就労支援に関する モデル事業報告書(2013)

直ちに一般就労を目指すことが困難な生 活困窮者が,社会的な自立に向けたサポ ートを受けながら就労し,将来的に一般 就労に移行することが目標とされてい る。しかしながら,実際には長期間中間 的就労に留まる者,中間的就労が事実 上,恒常的な就労形態になる者の存在も 指摘されており,中間的就労の対象とな る者の状態に合わせた多様で柔軟な支援 が求められている

生活困窮者 基本的には一般就労

生活困窮者自立支援法に基づく 就労訓練事業中間的就労モデル 事業実施に関するガイドライン

(2014)

生活困窮者自立支援法(平成25年法律 105号。以下「法」とい う。)に 基 づ く就労訓練事業(いわゆる「中間的就 労」)中間的就労は,一般就労(一般労 働市場における自律的な労働)といわゆ る福祉的就労(障害者の日常生活及び社 会生活を総合的に支援するための法律)

(平成17年法律第123号。以下「障害者 総合支援法」という。)に基づく就労継 B型事業等)との間に位置する就労

(雇用契約に基づく労働及び後述の一般 就労に向けた就労体験等の訓練を総称す るもの)の形態として位置づけられる。

生活困窮者

釧路市福祉部生活福祉事務所 櫛部 武俊(2011)「援 助 技 術 当事者性と地域に根づく自立支 援──釧路市における取組みか ら」ホームレスと社会

生活基盤を社会保障給付に全面的に依拠 した状態と,就労による収入で『経済自 律』した状態の『中 間』に 位 置 す る 状 態,換言すると『半福祉・半就労』の状 態と捉える

生活保護受給者

社会参加型の活動・ボ ランティアを含めた地 域との繋がり作り自尊 感情の回復などの生活 基盤の形成

社会福祉法人一麦会

「麦の郷の地域貢献活動」

についての資料

(2015年 見 学 時 に 拝 受 し た も の)

一般就労と福祉的就労との間に位置する 就労形態。生活困窮者の中には,直ちに に一般就労を求めることが難しい人もい るので,段階的に,中間的な就労の場や 社会参加の場をもうける事が必要。就労 体験やトレーニングが必要な,一般就労 に向けての支援付き訓練の場としての位 置付け

−直近の就労経験が乏しい人

−障害者総合支援法に基づく就 労移行支援事業等の障害福祉サ ービスを受けていない人や障害 者とは認められないが,これら の人に近似して一定程度の障害 を持つと認められる人や障害を 有する疑いのある人など

支援を要せず,自立的 に就労する事ができる ようになること,ひい ては困窮状態から脱却 することを想定する

筆者作成

中間的就労の概念の検討 39

(9)

まず中間的就労の概念について検討する場合に,「中間的就労」と類似する概念とし て「社会的就労」という概念が存在する。これらの概念は時に同義語として互換的に使 用されている。例えば,「『中間的就労』と『社会的就労』とは,一般就労に困難を抱え る人びとが,何らかの支援・ケアを受けながら働く場/働き方のことを意味する」(厚

生労働省

2013 b;みずほ情報総研株式会社 2013)と言った場合である。

しかし,筒井美紀(2014)はその意味合いは決定的に異なると考え「中間的就労は,

何らかの支援・ケアを受けながらステップアップし,一般就労というゴールにたどりつ くことを含意しているのに対し,社会的就労は,一般就労をゴールとしない働き方・生 き方があってよい・あるべきだと考える」概念と位置付けている。つまり,後者は「何 らかの社会的な活動に従事し,支援されながら,福祉給付を得て暮らす,という生き 方」(筒井

2014)である。一方で,垣田裕介(2014)は,中間的就労と社会的就労を同

義として捉えており,「ただちに一般就労に従事することができない場合の訓練や社会 参加に重点を置いた就労を指す」としている。実際の実践現場や政策的用語としては

「中間的就労」という概念の中に筒井の提示している社会的就労という概念を含めて提 示しているものが散見される。この点については,中間的就労の最終的な支援目的をど のように捉えるのかが関係している。

行政機関における報告書やガイドラインおいては,中間的就労の対象者と目的が幅広 く設定されており,大きく分類すると,①一般就労を目標とする場合,②継続的な就労 の場を提供する場合,としての

2

つの目的が両義的に捉えられている。「社会的就労を 一般就労に困難を抱える人々が,何らかの支援を受けながら働く場/働き方」(厚生労

働省

2013 b)と定義し,①いずれ一般就労に向かうためのトレーニングの場として,②

生活保護や各種年金を利用しながら,地域社会に参加する場・可能な範囲で働き続けら れる場として,という

2

つの目的を含めて提示しており,筒井(2014)が中間的就労の 特徴として示した一般就労をゴールとする支援が,ここでは社会的就労の概念にも含ま れている。つまり両者を区分する際には,必ずしも一般就労を目的とするか否で判断さ れているわけではないことが分かる。

また,「生活困窮者の就労支援に関するモデル事業報告書」(2013)では,直ちに一般 就労を目指すことが困難な生活困窮者が,必要な支援を受けながら将来的には,一般就 労へ移行することが目標とされている。しかし,実際には一般就労への移行が困難な場 合や中間的就労が恒常的な就労形態となる場合があるため,対象者に合わせた支援が必 要である(三菱

UFJ

リサーチ&コンサルティング

2013)とされており,中間的就労を

基本的には一般就労を目指すものとしておきながら,その他の恒常的な就労形態も含ん でいる。

先行研究では,中間的就労を実施している各事業所によって,就労支援の目標設定が

中間的就労の概念の検討 40

(10)

異なると,そのプロセスにおける支援にも違いが見られることが明らかにされている

(阿部

2018)表 1

における最終的な支援の目的を一般就労とするのか,それとも社会参

加型のボランティアによる体験や,訓練を通した生活基盤の形成とするのかでは,就労 支援における労働者性の有無が変化すると考えられる。就労支援における労働者性と は,他の一般の労働者と同じ労働関係法令の適用対象であるかどうかということであ る。つまり,労働者性が認められると,最低賃金の支払いや労働保険の加入と言った労 働者保護が与えられることを意味する。この労働者 性 の 判 断 に つ い て,中 村 和 雄

(2014)は,「『労働者』の要素は,『使用される』ことと,『賃金を支払われる』ことで ある」とし,労働者性の有無の判断は,訓練とされるかどうかではないと指摘してい る。つまり,労働者と使用者の関係において,労働者が使用者の指揮命令に服して労働 し,それに対する賃金を使用者が労働者に労働の対償として支払う関係となっているか が労働者性を認めるか否かの重要な基準となる。フランスや韓国では,就労困難者が訓 練や支援プログラムを受ける際にも,こうした労働者性が認められている(中村

2014,

小澤

2016)

日本における中間的就労においては,訓練やボランティア活動などを意味する「非雇 用型」と,雇用契約を締結した上で,支援付きの就労を行う「雇用型」の

2

種類が想定 されている。この点において先行研究の中でも,「非雇用型」の対象者においては法的 な位置づけがきわめて曖昧であり,「本来労働者として保護を受けるべき労働について 労働法制の規制を免れる事態が蔓延してしまうのではないか」(中村

2014)という指摘

がなされている。こうした指摘に対し,①訓練の場合にも労働者性を認めるという方 法,②訓練の場合にも訓練保護法規を定めるという方法(丸谷

2014)により,「非雇用

型」の場合においても労働者性を認める方法が提起されている。しかし,それには今後 更なる検討に時間が必要であるとされており,現状日本では「非雇用型」における労働 者性が認められていない。

以上の整理・分析をもとに先行研究からの中間的就労の概念特性の検討を試みた。先 行研究からは,中間的就労の対象者は経済的な補助を受けていない生活困窮者や多様な 課題を抱えた人であり,直ちに就労が難しいという点において,生活の安定や社会関係 の構築が継続的に必要であることから,生活保障性を担保していくことが中間的就労の 概念特性として挙げられた。また支援の目的としては,雇用契約を締結した上で支援を 受けながら一般就労する場合と訓練や社会参加型の活動として非雇用型となる場合が想 定されているが,どちらにおいても労働者性を確保していくことが望ましいと考えら れ,労働者性が中間的就労の概念特性として挙げられた。

中間的就労の概念の検討 41

(11)

3.インタビュー調査について

3-1.中間的就労の支援者を対象としたインタビュー調査の目的

本調査の目的は,今後,中間的就労による就労支援を効果的に実施し,より多くの地 域へ実践を拡大させていくために中間的就労の概念を実践の視点から検討し,先行研究 からの視点と併せて,中間的就労の概念特性とその定義について明らかにすることであ る。

中間的就労の概念を実践の視点から検討する方法として,中間的就労による就労支援 を実施した経験のある支援者の方へのインタビュー調査によって,その概念特性と定義 の検討を試みた。

3-2.中間的就労の支援者とインタビュー調査の詳細について

調査の対象者は,中間的就労による就労支援を実施した経験のある支援者の方

5

名を 対象に実施した。方法はインタビュー調査(半構造化インタビュー)である。5名のう ち

3

名の方はグループインタビューであり,残り

2

名の方は個別でのインタビュー調査 であった。インタビュー先の概要と支援者についての詳細は表

2

に示す通りである。

インタビュー実施日は,2020年

1

7

日・1月

17

日・2月

1

日の

3

日間であった。

2 インタビューイーの属性と詳細

事業所 A事業所 B事業所 C事業所

インタビューイー D E F G H

法人形態 社会福祉法人 社会福祉法人 一般社団法人

中間的就労開始時期 2012 2015 2013

根拠法と事業内容

障害者の日常生活及び社 会生活を総合的に支援す るための法律(障害者総 合支援法)と障害者の雇 用の促進等に関する法律

(障害者雇用促進法)に 基づく

就労継続支援事業A・B 型・生活介護事業・生活 支援センター事業・障害 者就業生活支援センター 事業・相談支援事業・訪 問看護事業等

介護保険法に基 づく施設サービ ス・生活困窮者 自立支援法に基 づく認定就労訓 練事業

介護保険法に基 づく施設サービ ス・生活困窮者 自立支援法に基 づく認定就労訓 練事業

社会福祉法第109条に基づく 社会福祉を目的とする事業の 企画及び実施、社会福祉に関 する活動への住民の参加のた めの援助、社会福祉を目的と す る 事 業 に 関 す る 調 査、普 及、宣伝、連絡、調整及び助 成、社会福祉を目的とする事 業の健全な発達を図る為に必 要な事業

生活困窮者自立支援法に基づ く自立相談支援事業・認定就 労訓練事業(※市からの委託)

生活困窮者自立 支援制度に基づ く自立相談支援 事業・就労準備 支援事業・一時 生活支援事業・

包括的な相談支 援システム構築 事業・被保護者 就労準備支援事

役職 事務長/統括会計責任者 生活相談員 副施設長/

生活相談員 主任相談支援員 副代表/

センター長 中間的就労で就労支

援を行った対象者の 人数

(※20201月 〜2 月のインタビュー時 点での人数)

15 5 1 9 300

筆者作成

中間的就労の概念の検討 42

(12)

3-3.データの分析方法

本研究では,KJ法(川喜田

1967, 1970)AB

型により分析を行った。分析の手順は,

インタビュー内容の逐語録を文節単位で

KJ

ラベルへ転記し,ラベル同士の意味内容の 近さを吟味してまとめていきグループ編成を行った。「グループ編成」により,まとま った束には「表札」と呼ばれる概念を与え,束に含められないラベルは「離れザル」と 呼び,束に含まずに,グループ編成による統合を繰り返し,ラベル群が

10

束以内にな ったところで「図解化」を行った。その後,図解の内容を「叙述化」した。

3-4.倫理的配慮

インタビュー調査対象者に調査への協力を依頼する際に,インタビュー調査に関する 趣旨説明の文書をお渡しし,研究への協力は自由意思に基づき調査対象者の意思によっ て中断が可能であることを事前に提示した。また学会発表や論文等において,データを 使用する旨を説明し,同意書のご記入を頂いた。データ分析においては,個人が特定で きないように十分に配慮を行った。

4.中間的就労の支援者を対象とした インタビュー調査から検討した中間的就労の概念

4-1.先行研究とインタビュー調査の共通する概念特性について

先行研究から中間的就労の概念を明らかにする際に分析枠組みとした,中間的就労の 対象者や支援の目的等について,中間的就労を実施した経験のある支援者の方へ意見を 問うたところ先行研究では得られなかった概念特性を見出すことができた。

まずインタビュー調査の分析の結果,①中間的就労が求められている背景,②①の課 題に対応できる場の不足,③中間的就労の取り組み,④中間的就労における課題,⑤利 用者さんへの支援,⑥利用者さんの変化という大きく

6

つの表札ができ,表札同士の関 連を図解化すると図

1

全体図のようになった。図

1

全体図では,中間的就労を取り巻く 現状や課題,支援の特性,その結果について表札同士の関連性が示された。

中間的就労の取り組みが始められた背景として,労働市場の多様化と雇用施策による 影響などによりワーキングプアの増大や引きこもりの相談,制度の狭間の問題が挙げら れている。これらの課題には,これまでの就労支援が抱えてきた一般就労における課題 や,いわゆる福祉的就労における課題,就労困難者の所得保障の課題も含まれている。

現在,就労困難者と呼ばれる人は多様な課題を抱えており,就労支援に取り組んでも一 般就労に結び付くことが少ないことや低賃金労働に従事することになる場合も否めない ことが指摘されている。(桜井

2017)インタビュー調査からも,「企業に勤めると利益

中間的就労の概念の検討 43

(13)

1全体図 筆者作成

中間的就労の概念の検討 44

(14)

2図解A 筆者作成

中間的就労の概念の検討 45

(15)

を上げ戦力になる必要がある」(D氏)「すぐに就労に繋げることが難しい方がいる」

(G氏)「ボランタリーな活動の状態から,次のお金が出る仕事は非常にハードルが高 い」(H氏)と言った一般企業への就労の困難さを表す発言が

3

事業所共通して聞かれ た。しかし,こうした課題を抱えた人への,社会的課題の解決の場や機会が不足してお り,一般就労に結び付かずとも排除されない社会的な仕組みの必要性から中間的就労の 取り組みが近年注目されてきていると言える。(阿部

2018,大高 2015,筒井 2014,)

1

全体図で示した

6

つの表札の中で「③中間的就労の取り組み」が本論文で検討す る中間的就労の概念特性を示していると考え,表札同士の関連を図

2

として図解化し た。

その結果〈労働者性〉〈生活保障性〉〈支援の個別性〉〈支援の継続性〉〈仕事(プログ ラム)の多様性〉〈地域貢献性〉〈就労の多様性〉〈関係性〉という

8

つの概念特性が生 成された。これら

8

つの概念特性を各事業所の実践に照らしたものが表

3

である。

〈 〉は概念特性,《 》は第

1

段階の統合による表札,【 】は定義,「 」はインタ ビューでの語りを示している。

まず先行研究の中で,概念特性として挙げられた〈生活保障性〉を【さまざまな課題 を抱えている就労困難者に対して,生活保護や障害年金などの福祉給付や公的な所得補 填を行うこと】と定義付けた。この生活保障性を検討する際に焦点となった中間的就労 の対象者について伺ったところ,「支援した方は生活保護は受けていない」(D氏)「保 護になったらケースワーカーの管理下になるので離れてしまう」(H氏)という語りか ら,実践現場においては,生活保護制度に至るまでの方を対象の中心として,中間的就 労の取り組みが実施されていた。また「無給なので長期になるとご本人に負担がかか る」(G氏)と言った生活保障性が必要であると感じられているが,それを保障するこ とが困難である現実もインタビューにおいて語られた。C事業所においては事業とし て,被保護者に対する事業も行っていることから表

3

においては,〈生活保障性〉を担 保していると判断した。

次に,先行研究の分析枠組みとして挙げた支援の目的について伺ったところ,事業所 によって〈労働者性〉に対するスタンスの違いが見られた。ここでの労働者性の定義は 先述した通り,【他の一般の労働者と同じ労働関係法令の適用対象であるかどうかとい

3 概念特性と事業所での実践内容

労働者性 生活保障性 支援の個別性 支援の継続性 仕事の多様性 地域貢献性 就労の多様性 関係性

A事業所 ×

B事業所 × ×

C事業所 どちらも実施

筆者作成 中間的就労の概念の検討

46

(16)

うこと】とする。「あくまで訓練として受け入れる」(E氏)としている訓練前提の事業 所と「毎日出勤して欠勤・遅刻もなかったのでパート採用をした」(D氏)という雇用 を含めて支援を実施している事業所があった。しかし,訓練として受け入れている事業 所においても,事業所側に「雇用の需要があれば雇用となる場合もある」(E氏)とし て,状況によっては雇用も可能としていることから表

2

では△とした。また

C

事業所 における労働者性を『どちらも実施』とした点においては,雇用を前提にしている事業 とボランティアなどの社会参加型の活動を前提にしている事業を対象者別に実施してい たことからこのような記述となった。

4-2.就労支援現場における中間的就労の概念特性とその定義について

〈生活保障性〉と〈労働者性〉に加えて,筆者が先行研究で見出すことができなかっ た概念特性が,インタビュー調査の分析により

6

つ得られた。インタビュー調査より得 られた概念特性は

1〈支援の個別性〉,2〈支援の継続性〉,3〈仕事(プログラム)の多

様性〉,4〈地域貢献性〉,5〈就労の多様性〉,6〈関係性〉の

6

つである。これらのうち

5〈就労の多様性〉以外の 5

つの概念特性については,どの事業所も必要要件として実

践していたが,5〈就労の多様性〉が非該当の事業所があった。5〈就労の多様性〉の定 義を【一般就労以外の個人に合わせた就労形態】と定義付けた。「働き方に工夫ができ る」(D氏)「その人に合った緩やかな就労を提供して雇用する」(D氏)「世の中にあ る一般就労ではない新しい働き方を望んでいる人がいる」(H氏)と言った一般就労以 外の働き方の模索がなされていることが示唆された。B事業所については,事業所利用 時の就労(訓練)における配慮はもちろん行われているが,一般就労を中心とした支援 であった為,多様な働き方の工夫についての発言は見られなかった。また

B

事業所で は,中間的就労で就職した方すべての方が一般就労をされており,基本的に一般就労以 外の働き方での中間的就労は実施されていなかった。〈就労の多様性〉については,事 業所の所在地における特性や事業所の方針等も影響してくるが,支援の最終的な目的が 一般就労かどうかということは中間的就労の概念特性において,必要要件となっていな いことが示された。

次に

1〈支援の個別性〉は,【対象者に合わせた配慮と対象者の働き方に合わせた環

境作りを行うこと】と定義づけた。《利用者さんの特性に合わせた配慮》として,「その 人の状況に合わせて勤務日数と時間を決める」(D氏)「PCや事務処理が合っている人 はそういうのをやる」(D氏)「段階的に業務をしてもらう」(F氏)「単純作業も用意 し,直ちには就労が難しい人などがしている」(H氏)という対象者の個別的な状況に 柔軟に対応されていた。《クライエントに合わせた仕事内容と職場環境》では,「その人 に合った環境を作ってあげて,そこに慣れて行く」(D氏)「仕事にその人を入れるん

中間的就労の概念の検討 47

(17)

じゃなくて,その人の状況を見て仕事内容の対応を行う」(E氏)など,こうした配慮 は利益を追求しなければならない一般企業においては時に難しくなることがあるが,

「収入は良くなくても福祉的な配慮はしてもらえる」(D氏)と言った,収入面だけで はない仕事内容の細やかな調整や環境への配慮が意識して行われていることが共通して 語られた。

次に

2〈支援の継続性〉については,【就職などによって事業所を離れても継続した

支援が行われるということ】と定義付けた。「疲れたらいつでも戻ってきていいよとい う環境」(D氏)「横の繋がりが結構ありますし,CSWと連動しているので様子を聞い たりっていうのがあります」(F氏)「支援終了者を対象に月に

1

回,大人の居場所作り お茶の間を実施している」(G氏)「就労後の相談はご本人が来られる」(H氏)という 語りから,就職や働く場所が変わっても支援が継続されていく様子と対象者に継続的に 寄り添う姿勢が中間的就労の要件として必要となることが示されている。

3〈仕事(プログラム)の多様性〉は,【対象者の段階に合わせた仕事内容やプログラ

ム作りを行うこと】という定義付けを行った。《沢山の(さまざまな)作業やプログラ ムを作る》工夫がなされていた。「単純作業から

PC

などを使った高度な作業を作って おく必要がある」(D氏)「地域の資源に色々とお願いして行くところ作る」(H氏)

「色々な仕事を作って,利用者さんがあちこち行っている」(H氏)と言った様々な作 業やプログラムを作ることの重要性が示唆された。またそのために《仕事の切り出しを する》必要があり,「施設ごとに

1

日の流れや業務分解を行い仕事を出す」(E氏)「専 門職でないとできない仕事と専門職じゃなくてもできる仕事を分担する」(G氏)「仕 事の切り出しをしてもらう為に企業説明会を開く」(H氏)と言った各事業所独自の工 夫が見受けられた。こうしたプログラム作成や仕事作りの過程において

4〈地域貢献

性〉が

3

事業所共通して挙げられていた。〈地域貢献性〉の定義は【地域資源との繋が りを作り,地域活性化に貢献すること】であり「福祉の枠の中だけじゃなくて,あらゆ る資源を使って考える」(D氏)「地域包括や社会貢献事業など色々なところとのつな がり(関わり)」(G氏)「銀行や行政,他県の人の応援や参加」(H氏)と言った様々 な資源との繋がりを作ることで新たな仕事やプログラムの開発に繋げていることが明ら かとなった。

最後に

5〈関係性〉ついては,【ワーカーとの関係性やワーカー以外の他者との社会

関係の中で構築される関係性】という定義を付けた。《他者との関わりによる影響》が その後の利用者さんに大きな変化をもたらしている様子が語られた。ワーカーとの関係 性については,「上下じゃない信頼関係」(E氏)「まずは私(ワーカー)とご本人の信 頼関係を築く」(F氏)「聞いてもらえる,理解してもらえると感じてもらう」(F 氏)

と言ったワーカーと対象者の信頼関係性の構築の重要性が示された。それに加え,ワー

中間的就労の概念の検討 48

(18)

カー以外の他者との社会関係の中で構築される関係性についても発言が見られ,「同じ 境遇や立場にある人がここで知り合い,話が出来たのがよかった」(D氏)「ワーカー との一対一では出来にくい関係性」(H氏)と言ったワーカーという立場ではないから こそできる関係性というものが事業所での仕事や活動を通して形成されていき,その関 係性が支援対象者に影響や変化を与えていることが明らかとなった。

5.考 察

3

は,先行研究とインタビュー調査により得られた概念特性とその定義の関連を中 間的就労の位置づけと共に示したものである。

先行研究と中間的就労の実践者の語りから得られた中間的就労の概念特性は,1〈支 援の個別性〉,2〈支援の継続性〉,3〈仕事(プログラムの多様性〉,4〈地域貢献性〉,5

〈就労の多様性〉,6〈関係性〉,7〈生活保障性〉,8〈労働者性〉の

8

つであった。この 中で,筆者が考える現状の中間的就労において,必要要件とされている概念特性は

1

〈支援の個別性〉,2〈支援の継続性〉,3〈仕事(プログラム)の多様性〉,4〈地域貢献 性〉,6〈関係性〉の

5

つである。

その理由として,インタビュー調査からは〈労働者性〉と〈生活保障性〉について,

事業所の取り組み方により差が出てくることが明らかとなった。まず〈労働者性〉につ いては,訓練を前提としている場合であっても雇用の可能性を視野に入れておくこと や,訓練の中における労働者性の保障が今後検討されていく必要がある。しかし現状と しては,「非雇用型」「雇用型」に関わらず中間的就労が実施されていた。その為,法制

3 概念と定義の図

筆者作成

中間的就労の概念の検討 49

(19)

度上の課題として,〈労働者性〉を検討していくことは必要と言えるが,〈労働者性〉が 保障されていない現状においても中間的就労は実施が可能であり,中間的就労の概念に おいては,〈労働者性〉は絶対要件とされていないと言える。

次に〈生活保障性〉についても,現状の中間的就労では,まず生活困窮者を対象とし て実施していくことが念頭に置かれていることから,対象を限定していると考えられ,

中間的就労を実施するための絶対要件とはなっていないと言える。今後実践が積み重ね られていく中で,将来的には生活保護受給者も対象として含めることにより,中間的就 労の可能性や戸田(2016)や正木(2014)が示した中間的就労の理念を示していくこ とができるのではないかと考える。また中間的就労において〈生活保障性〉を要件とす ることは,就労しても安定した収入を得ることが困難な人や就労が直ちには困難な人 へ,希望を与える要素となると考えられる。筒井(2014)と大高(2015)は,対象者 として生活保護受給者も含めて定義しており,〈生活保障性〉を必要要件として捉えて いる。また就労支援における目標には個別性があり,一般就労に繋げることや就労支援 のみに焦点を当てるのではなく,対象者が抱えている多様な課題に対応することの必要 性がある。(阿部

2017)このような対象者が抱えている多様な課題は,就労に関するこ

とのみではなく,日常生活や社会生活における基盤に関わることも考えられる。その 為,就労以外の課題もトータルに支援するということになれば,尚更〈生活保障性〉を 必要要件とすることが望ましいと考える。しかし,インタビュー調査から,この〈生活 保障性〉について語られた事業所は

3

箇所中

1

件であり,現状としては実践の中で〈生 活保障性〉を必要要件とすることには,制度や仕組みにおいて課題があることが示され た。

筆者が中間的就労の概念として必要要件と考える,1〈支援の個別性〉,2〈支援の継 続性〉,3〈仕事(プログラム)の多様性〉,4〈地域貢献性〉,6〈関係性〉の

5

つの概念 特性は,利用者さんへの支援や利用者さん自身の変化をもたらすことに繋がっており,

これまでの就労訓練に焦点を当てた就労支援にはない特性であると考えられる。これま での就労支援においては,事業所の仕事やプログラムの内容に合わせて,利用者さんが 事業所を選択するやり方が中心であり,地域性や地域の事業所数によっては選択肢が限 られてしまう場合やその方の特性に合う仕事やプログラムを見つけることが困難になる 場合があった。筆者も実際にそのような場面に遭遇したことがある。もちろん,これま での一般的な就労支援においても,個別的な配慮や特性に合わせた支援は行われてきた が,中間的就労の場合は利用者さんを中心とした仕事づくりやプログラム作りが特に重 要な要件とされていることがインタビューの語りの多さからも示唆された。こうした利 用者さんを中心としたプログラム作りは,《利用者さんの選択肢の幅を広げ》《本人の希 望に寄り添う支援》となり,利用者さんが《エンパワメントされ,自信を取り戻す》過

中間的就労の概念の検討 50

(20)

程に深く関係していることが明らかとなった。中間的就労における就労支援は,利用者 さんを中心とした就労支援プログラムを実施することで,個別性や関係性を重視した支 援が実施され,利用者さんが就労を通して自尊心や自己肯定感が高められていく支援の 在り方である。つまり中間的就労の概念は,〈支援の個別性〉,〈支援の継続性〉,〈仕事

(プログラム)の多様性〉,〈地域貢献性〉,〈関係性〉という

5

つの概念特性を備えた,

利用者さん自身が地域の中で自分らしく生きていくための,利用者さんを中心とした寄 り添い型の就労支援プログラムであると言える。

6.本研究の意義と限界

本研究の意義は,今後の中間的就労の発展に向けて,効果的に中間的就労を実施する ことや中間的就労がどのような就労支援であるのかを企業や地域,事業実施主体への理 解促進に繋げることに役立つものであると考える。しかし,本研究でのインタビュー調 査は対象者が

5

名と限定的であり,先駆的事例であるとはいえど,その内容を一般化す ることには課題があったと考える。また今回の調査では,中間的就労による就労支援の 経験のある支援者のみにインタビューを実施したが,実際に中間的就労による就労支援 を受けた当事者の方やご家族の方へのインタビュー調査をすることで,中間的就労の就 労支援プログラムの特性や効果について,明らかにすることも今後の中間的就労の発展 においては必要であると考える。今回の調査研究から得られた内容をもとにして,今後 さらに中間的就労の支援の内容や方法について,多様な事例を含めて検討することで,

本研究における課題について調査,研究を続けていきたい。

謝辞

相談や利用者さんの支援業務等でお忙しい中,インタビューにご協力いただいた方々に心より感謝申し 上げます。

⑴ 「いわゆる福祉的就労」とは,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者 総合支援法)に基づく就労継続支援B型事業等を指す(厚生労働省「生活困窮者自立支援法に基づく 就労訓練事業のモデル事業実施に関するガイドライン(平成26年度)」)。

⑵ 本論文では,障害支援区分認定を受けている障害のある人は,障害者総合支援法における就労系福祉 サービスによる就労支援の制度的な対象となっているため,中間的就労の対象者として含めていない。

本論文における中間的就労の対象者は,対応する制度・政策がない制度の狭間にいる生活困窮者や就 労困難者とする。しかし,中間的就労を実施する事業所としては,社会福祉法人やNPO法人も含ま れているため,障害福祉サービスを提供している事業所が中間的就労による就労支援を実施する場合 もある。その為,インタビュー先の事業所に障害福祉サービスを提供している事業所も含まれている。

⑶ 認定事業所として想定されているのは,社会福祉法人,NPO法人,消費生活協同組合,営利企業など である。

中間的就労の概念の検討 51

(21)

⑷ 五石(2019)は「『認定就労訓練事業』もしくは『就労訓練事業』は制度上の名称である一方,『中間 的就労』は従来からある取り組みを一括して呼ぶ名称」と捉える必要があるとの解釈を示している。

⑸ 釧路市の自立支援プログラムが示す中間的就労は,就労体験をメインとした就労支援プログラムだけ ではなく,日常生活自立に関する支援プログラムや社会生活自立に関する支援プログラムも含めた位 置付けとなっている。

参考文献

・阿部誠(2018)「就労困難者にたいする就労支援が果たす役割と困難−就労支援団体の取り組み事例を通 じて考える−」大分大学経済論集70(3-4),55-85,大分大学経済学会

・五石敬路(2019)『地域共生社会実現のための中間的就労のすすめ』平成30年度生活困窮者就労準備支 援事業費補助金社会福祉推進事業「地域共生社会の実現に資する中間的就労の多面的機能とあり方に関 する調査研究事業」,一般社団法人 釧路社会的企業創造協議会

・厚生労働省(2013 a)「新たな生活困窮者支援制度の創設(平成2582日生活困窮者自立促進支援 モデル事業担当者連絡会議資料より)」

(https : //www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/seidogaiyou.pdf, 2020, 8, 25)

・厚生労働省;みずほ情報総研株式会社(2013 b)「社会的就労支援事業のあり方に関する調査・研究事業 報告書」(https : //www.mizuho-ir.co.jp/case/research/pdf/shurou2013.pdf, 2019, 3, 24)

・厚生労働省(2013 c)「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書」

(https : //www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002tpzu-att/2r9852000002tq1b.pdf(2019, 3, 28)

・厚生労働省(2013 d)「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書」

https : //www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002tpzu-att/2r9852000002tq1b.pdf(2019, 2, 6)

・櫛部武俊(2011)「援助技術 当事者性と地域に根づく自立支援──釧路市における取組みから」ホーム レスと社会,『ホームレスと社会』編集委員会 編(4)86〜91

・川喜田二郎(1967)「発想法−創造性開発のために」中央公論社

・川喜田二郎(1970)「続・発想法−KJ法の展開と応用」中央公論社

・正木浩司(2014)「釧路市の生活保護自立支援プログラムの特徴と意義」自治総研通巻433(11),1-36

・三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2013)『生活困窮者の就労支援に関するモデル事業 報告書』

平成24年度セーフティネット支援対策等事業費補助金 社会福祉推進事業

・三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2015)「就労訓練事業(いわゆる中間的就労)事例集」

・丸谷浩介(2014)「中間的就労の『危うさ』:イギリスにおける立法と司法」賃金と社会保障(1606),4- 14

・日本経済新聞(2019)「中高年引きこもり61万人 内閣府が初調査」

(https : //www.nikkei.com/article/DGXMZO43067040Z20C19A3CR0000/, 2019, 3, 30)

・中村和雄(2014)「生活困窮者自立支援法の『中間的就労』の危険性」季刊労働者の権利(304)112-117

・大高研道(2015)「制度としての『中間的就労』の現状と課題」所報協同の発見276, 6

・奥田知志,稲月正,垣田裕介ほか(2014)「生活困窮者への伴走型支援 経済的困窮と社会的孤立に対応 するトータルサーポート」明石書店

・小澤裕香(2016)「経済的困窮者に対する就労支援体制構築への視座−フランスにおける『中間的就労』

の現状と可能性(中間報告)」地域ケアリング18(14),82-84

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・桜井啓太(2017)「〈自立支援〉の社会保障を問う・生活保護・最低賃金・ワーキングプア」法律文化社

・筒井美紀・櫻井純理・本田由紀(2014)「就労支援を問い直す−自治体と地域の取り組み−」勁草書房

・特定非営利活動法人 人権人材ネットワーク(2017)「『若者生活困窮者を就労訓練につなげる事業』報 告書」

(http : //jinken-jinzai.net/sys/wp-content/uploads/2017/05/58f7d1c2722f54c602468768320fd981.pdf, 2019, 12, 15)

中間的就労の概念の検討 52

表 1 先行研究における中間的就労の概念 資料の詳細 中間的就労に関する記述 対象者 支援の目的 筒井美紀・櫻井純理・本田由紀 (2014)「就労支援を問い直す −自治体と地域の取り組み−」 何らかの支援・ケアを受けながらステップアップし,一般就労というゴールにたどりつくことを含意している 生活保護受給者・生活困窮者ボーダーライン層(ワーキングプアも含む) 一般就労(継続的な雇用の場としては社会的就労と考えている) 大高研道(2015)「制度として の『中 間 的 就 労』の 現 状 と 課 題」 一般就労

参照

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