慢性腎臓病血液透析患者に対する
食物繊維ミニゼリーの開発
Development of Dietary Fiber Jelly Pouch for chronic hemodialysis patients
2015年
島田 美樹子
MIKIKO Shimada
目 次 Page 第1章 緒論 1.1 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 第2章 透析療法 2.1 透析療法の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 2.2 透析患者の生活状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第3章 ポリデキストロースによる血糖上昇抑制と便秘改善に関する 介入研究のレビュー:日本国内の論文を対象として 3.1 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 3.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3.2.1 対象となる研究の選択基準 3.2.2 研究を特定するための検索方法 3.2.3 レビューの方法 3.3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 3.3.1 対象論文の特性 3.3.2 PD の効果(PD の単独使用) 3.3.3 その他の効果 3.3.4 有害事象 3.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 3.5 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
第4章 ポリデキストロースによる血糖上昇抑制と便秘改善に関する 介入研究のシステマティックレビュー 4.1 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 4.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 4.2.1 対象となる研究の選択基準 4.2.2 検索方法 4.3 レビューの方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 4.3.1 論文の選択 4.3.2 結果の要約 4.4 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 4.4.1 対象論文の特性 4.4.2 PD の効果(PD の単独使用) 4.4.3 その他の効果 4.4.4 有害事象 4.5 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 4.6 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 第5章 食物繊維ミニゼリー開発の過程 5.1 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 5.2 ニーズの探索・検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 5.3 開発具現化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 5.4 工業化および生産・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 5.5 発売準備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
第6章 食物繊維ゼリーは糖尿病透析患者の高血糖および便通を 改善する:パイロット試験 6.1 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 6.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 6.2.1 研究デザイン 6.2.2 対象者およびセッティング 6.2.3 被験食材の開発と特徴 6.2.4 介入方法および試験 6.2.5 アウトカム(長期試験) 6.2.6 倫理面の配慮 6.2.7 統計・分析 6.3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 6.3.1 食物繊維ゼリーの食後血糖上昇の抑制効果 6.3.2 食物繊維ゼリー長期試験による栄養指標への影響 6.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72 6.5 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 第7章 日本の透析患者の便秘に対するポリデキストロース経口摂取の影響 –三重盲検ランダム化並行群間比較試験 – 7.1 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 7.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78 7.2.1 参加者 7.2.2 試験対象基準 7.2.3 除外基準 7.2.4 研究デザイン
7.2.5 ブラインディング 7.2.6 試験スケジュール 7.2.7 主要アウトカム 7.2.8 サンプルサイズ 7.2.9 統計解析 7.3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 7.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92 7.5 研究の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95 7.6 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96 第8章 社会への応用 8.1 血糖上昇抑制効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97 8.2 食物繊維摂取不足・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98 8.3 便秘・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99 第9章 エビデンスの総括 9.1 効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100 9.1.1 血糖上昇抑制効果 9.1.2 排便に対する効果 9.2 安全性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101 9.2.1 低カロリー性-1g あたり 1kcal 9.2.2 長期摂取による影響 9.3 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104 付録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116 英文抄録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132 利益相反・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132
1 第 1 章 緒論
1.1 研究背景
慢性腎臓病i(CKD : Chronic Kidney Disease)は、末期腎不全(end-stage kidney
desease; ESKD)へと進行する危険因子であるのみならず,心血管疾患発症の危険因 子となることも明らかである。したがって,その早期発見と対策の重要性が喫緊の課 題として認識されている。 CKD の定義は,①腎障害を示唆する所見(検尿異常、画像異常、血液異常、病理所 見など)の存在、②糸球体濾過量ii:GFR 60 mL/分/1.73 m2未満、のいずれかまた は両方が 3 カ月以上持続することにより診断され GFR のレベルによって CKD ステー ジ 1~5 に分類される。特にステージ G3b~5 が末期腎不全の危険因子とされているが、 ステージ 5(推定糸球体濾過量:eGFR が 15 mL/min/1.73 ㎡未満)レベルになると、血液 透析iiiか腹膜透析iv、腎移植v(生体腎、献腎)をしなければ生命を維持することはで きない。我が国は世界有数の腎不全大国であり、透析患者数は年々増加し、2011 年末 にはついに 30 万人に達した1) 。これは日本の全国民 450 人に 1 人が透析患者である ことを示しており、患者の生命予後や生活の質(QOL:quality of life)の面でも、 医療経済的な面からも重要な問題である。 i 原疾患を問わず、腎臓の障害(蛋白尿など),もしくは GFR(糸球体濾過量)60 mL/分/1.73m2 未 満の腎機能低下が 3 カ月以上持続するもの。 ii 単位時間当たりに腎臓のすべての糸球体により濾過される血漿量 iii 血液と透析液の間にある半透膜を介して、水や物質の移動を行い、毒素を除去し不足物を補充す る、腎臓の代替えをする療法 iv 自分の腹膜を利用して血液浄化する療法 v 末期腎不全患者に対して他人の腎臓を移植する医療
2 長期的に透析療法を実施していると、腎性貧血やミネラル代謝異常、透析アミロイ ドーシス、高血圧、心不全、不整脈、心嚢炎、虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動 脈硬化症、栄養障害、感染症、悪性腫瘍など様々な合併症が出現する。腎機能が低下 し始めた頃からの合併症と腎代替療法である透析療法の限界によるものがある。以下 に主な栄養と透析における合併症を 2 つ挙げる。 透析患者の便秘の増加 血液透析患者は、食事制限による食物繊維不足や飲水制限、内服薬の副作用、動脈 硬化や糖尿病の自律神経障害による大腸の蠕動運動の低下、運動不足による腹筋の衰 えや ADL の低下などの理由から便秘の頻度が高く、腹膜透析患者の便秘の割合が 28.9%であるのに対し、血液透析患者は 63.1%と、腹膜透析患者と比較して 3.14 倍 高値である。これには、透析療法の違いのみならず食事療法に違いがあるためと考え られる。腹膜透析のカリウム制限は血液透析よりも緩やかであるため、血液透析患者 に比べカリウムを多く含む野菜や果物、海草などの摂取量が多くなり、結果として食 物繊維摂取量に差が生じる。腹膜透析患者の食物繊維摂取量が 11.0g/日であるのに対 し、血液透析のそれは 5.9g/日と低値であるとする報告もある2)。 透析患者の糖尿病患者の増加 透析患者の高齢化、一般住民の生活習慣の変化により、原疾患が糖尿病性腎症viで vi 糖尿病によって腎臓の糸球体が 細小血管障害のため硬化して数を減じていく病気
3 ない患者にも糖尿病を併発、あるいは糖尿病の既往のある患者が増加している。糖尿 病の併発・既往は、心臓血管病、その他の様々な疾患の発症危険因子として知られて いる。糖尿病透析患者の場合、すでに細小血管症viiを少なくとも一つは有し、その上、 多くの症例でその他の細小血管さらに大血管症viiiをも高率に合併しているという現 実がある。また、糖尿病透析患者の生命予後は糖尿病を合併していない透析患者のそ れに比し、明らかに悪いことから、糖尿病透析患者ix の治療目標として、1)生命予後 の改善、2)心、血管障害が死因の 1 位であるため、大血管合併症の発症抑制、3)感染 症が死因の 2 位であることから、急性合併症(感染,ケトーシス,非ケトン性高浸透 圧性昏睡x,低血糖など)の抑制、4)QOL の改善などになる。そのうち 1)の生命予後の 改善が最も重要で、これを達成するための食事療法と薬物療法、透析療法が重要であ る。 糖尿病治療ガイド 2014-2015 においては、食物繊維は 20~25g/日が望ましい3)と されているが、血液透析患者では大いに不足している状況である。 食物繊維は、日本食品標準成分表 2010 において「ヒトの消化酵素で消化されない 食品中の難消化性成分の総体」と定義されており、水溶性と不溶性に分類することが できる4)。生体に及ぼす機能については、実験的、疫学的、臨床的な面から多くの研 究が行われ、生活習慣病予防の観点から注目を集めている。現時点では、ヒトにおけ る食物繊維の摂取効果は、便通改善、血清コレステロール濃度上昇抑制、血糖上昇抑 vii 体内で最も細い血管(毛細血管など)に生じる病気、網膜症や腎症、神経障害がある viii 動脈硬化に由来する合併症(脳梗塞や心筋梗塞など) ix 透析療法を受けている患者で糖尿病を発症している患者 x 糖尿病の代謝性合併症で,高血糖,極度の脱水 ,血漿高浸透圧,および意識障害を特徴とする
4 制の三つの生理機能に科学的根拠があるものとして、世界的に認められている。水溶 性食物繊維であるポリデキストロース(PD)にも、食物繊維同様の効果があり安全性 も評価されていることから日本でも 1983 年より広く利用されている。PD は非常に水 によく溶け、粘度特性はショ糖に比べやや高い程度で、ペクチン、ガム類と比べると 高濃度においても粘度はあまり高くならず処方が組みやすく、製造上も取り扱いが容 易である。これらのことから、食物繊維を増やす目的での透析患者への投与も容易で 安全と考える。 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2015 年版)で推奨されている食物繊維摂取 量は成人男性 20g/日、女性 18g/日である。しかしながら、透析患者の食物繊維摂取 は非常に少ないため、食物繊維の摂取量を増やすことにより便秘の改善のみならず、 血糖上昇抑制など全身への影響が期待される。 1.2 研究目的 血液透析療法を受ける患者は、一般的に週に 3 回、平均 4 時間の透析を円滑に行う ために、食事療法を実施するが、その食事療法は、塩分・水分・カリウム・リンを制 限する一方、エネルギーの確保と適度なたんぱく質の摂取が主となり、高齢化が進行 した透析患者にとって病態を理解して食事療法に取り組むことは容易なことではな い。また、長期透析患者ともなると、骨や関節の障害や循環器疾患(心不全、高血圧、 不整脈、狭心症、心筋梗塞)、かゆみ、貧血、感染症(肺炎、腹膜炎、尿路感染症な ど)などの合併症や、併用している服薬の副作用による便秘や透析前後の血圧の大幅
5 な変動、加齢に伴う体力の低下と咀嚼力の低下により、患者の QOL は大きく低下する。 このように、体調不良をかかえつつ、実施する現行の食事療法は、生活習慣の大幅 な修正を強いる制限や、高価な特殊食品の活用による患者の経済的負担など様々な問 題がある。今後、QOL が益々重要視される社会において、患者の希望をかなえるため に、より食事の制限を少なくし、嗜好する食品を可能な限り摂取することができる食 事療法が必要と考えられる。 PD は、ファイザー社(米)が開発した低エネルギー食素材である。PD は、ブドウ 糖、ソルビトール、クエン酸を 89:10:1 の割合で混合・溶解し、減圧下 135~300℃ で加熱・重合させて得られた重合物を固化、粉砕して製造する。PD の構造はグルコー スとソルビトールおよびクエン酸がモノあるいはエステル結合でランダム縮合した、 平均分子量 1,500 の合成ポリサッカライドである。PD のエネルギー量は 1g あたり 1kcal と見積もられ、低カロリーである。また、PD は極めて水によく溶け、粘性やゲ ル形成能がほかの水溶性食物繊維に比べてはるかに少なく、無味無臭のため最も他の 食品への加工的性が優れた食材である。また、PD は米国の FDA により食品添加物とし て 1981 年に認可され、日本でも 1983 年に食品として認可された。ドリンク剤や加工 食品などに使用されている安全性の高い食品である。 PD は、食事条件により乱れた 腸内環境を改善する作用や排便回数が増加する便秘に対する便通改善効果があると されている5) 。 しかし、先行研究を調査すると、日本において食物繊維を補給するための PD の臨 床研究が非常に少ないことが判明した。そこで、PD の血糖上昇抑制と排便に与える影
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響についてレビューを実施した。さらに患者の嗜好性に合致し、簡便に摂取でき、便 秘を解消しつつ、高血糖などの副作用をもたらさない食品として PD を利用した食物 繊維ゼリーの開発を行うとともに、その血糖上昇抑制効果と排便への影響を明らかに することを目的とした。
7 第 2 章 透析療法 2.1 透析療法の現状 末期腎不全による透析患者は世界的に増加しており、医療経済上も大きな問題であ る。わが国の維持透析患者数は 2011 年末の時点で 30 万人を超え,なおも増加しつ つある1) 。人口 100 万人当たりの患者数では 2,126 名であり,この患者数は台湾に 次いで世界第 2 位である。原疾患は糖尿病性腎症,慢性腎炎,腎硬化症をはじめとす る慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)であり、CKD 患者数も増え続けており、 我が国の成人人口の約 13%、1,330 万人が治療介入の必要な CKD 患者と推定されてい る6)。 CKD の背景因子としては、糖尿病、高血圧などの生活習慣病が多く特に糖尿病患者 数は年々増加を続けている。CKD は ESKD へと進行する危険因子であるのみならず, 心血管疾患発症の危険因子でもある。米国の CKD においては、透析導入される患者数 よりも心血管疾患発症により死亡する患者の方が多いことが報告されている7)。心血 管疾患発症のリスクは腎機能が低下すればするほど高く、尿蛋白についても増加にし たがって高くなる。また、糖尿病や高血圧、肥満を合併する患者、喫煙歴のある患者 では心血管疾患発症のリスクが高い。包括的かつ有効な CKD 対策の実行が新規透析導 入患者の有意な減少をもたらす重要な手段であることは社会,行政,医療者に認識さ れてきたところである。 2013 年の透析実施施設調査票1)では 30,708 人の死亡が報告されており(図 2-1)、
8 死因は心不全(26.9%)、感染症(20.8%)、悪性腫瘍(9.4%)、脳血管障害(7.2%) の順であった(図 2-2)。心不全、脳血管障害、心筋梗塞を併せた心血管疾患の割合は、 全体で 38.3%、男性では 37.1%、女性では 40.3%でわが国においても心血管疾患発症 予防に重きを置いた対策が重要であることがわかる。 糖尿病性腎症は,1998 年よりわが国の透析療法導入における原疾患の 1 位となり、 2013 年にはその割合が 43.8%であった(図 2-3)1) 。また、2013 年末の全透析症例に 占める割合も 37.6%と原疾患の 1 位となった。第 2 位の慢性糸球体腎炎は 18.8%、 第 3 位は腎硬化症の 13.0%と糖尿病の占める割合が多いことがわかる。糖尿病による 腎不全患者の増加には肥満メタボリックシンドロームの頻度増加、 RAS(renin-angiotensin system)抑制薬の使用による進展抑制(死亡率の低下)、寿命 の延長による高齢者人口の増加など、複雑な要因の関与が考えられる。透析患者の高 齢化、生活習慣の変化により、原疾患が糖尿病性腎症でない患者にも糖尿病を併発、 あるいは糖尿病の既往のある患者が増加しており、高血圧, 腎硬化症, 虚血性腎症な どとの鑑別が困難な例が増加している。今後、 透析療法を必要とする患者の高齢化 は進行し, 合併症を有する例が増加すると考えられる。
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図 2-1.年別導入患者数、死亡患者数の推移(一般社団法人日本透析医学会統計調査 委員会「わが国の慢性透析療法の現状 2013 年 12 月 31 日現在を転載)
図 2-2.年別死亡原因の推移(一般社団法人日本透析医学会統計調査委員会「わが国 の慢性透析療法の現状 2013 年 12 月 31 日現在を転載)
10 図 2-3.導入患者の主要原疾患の割合の推移(一般社団法人日本透析医学会統計調査 委員会「わが国の慢性透析療法の現状 2013 年 12 月 31 日現在を転載) 糖尿病の併発・既往は、心臓血管病、その他の様々な疾患の発症危険因子として知 られている。日本透析医学会における 2013 年末の統計調査1)では、透析療法を受け ている患者のうち糖尿病既往ありと記載された 130,574 人のうち、原疾患が糖尿病で ない患者は 18,865 人(14.4%)であった。また、原疾患と糖尿病の既往の両方に記入 がある 107,971 人のうち、糖尿病性腎症以外の原疾患で、18,865 人(17.5%)に糖尿 病の既往があった。インスリンは一部腎臓でも分解されるため、腎機能の廃絶した透 析患者においてはインスリンの代謝・排泄が遅延する、また薬剤の代謝・排泄も遅延
11 するため、容易に低血糖を生じる。わが国では,スルホニル尿素(SU) 薬xi、ビグアナ イド薬xii、チアゾリジン薬xiiiはいずれも重篤な腎機能障害時には禁忌とされており、 アルファグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)xiv と速効型インスリン分泌促進薬xvのうち, ミチグリニドとレパグリニド、DPP-4 阻害薬xviのビルダグリプチン、アログリプチン、 リナグリプチン、アナグリプチンが透析患者において使用可能である。このように、 現時点では経口血糖降下薬の大半が透析患者には禁忌であることから、この 3 種類の 薬剤を単独または併用して使用して血糖コントロールを行なわなければならない。血 糖降下薬の併用によっても血糖コントロールが不十分な場合、基礎インスリンの追加 投与やインスリン治療への変更を考慮するのが治療の方針となっている。血糖降下薬 の重症低血糖は、高齢者、特に 75 歳以上の後期高齢者に発症しやすいとされている が、わが国の透析患者は高齢化が進んでおり、薬剤の投与は慎重に行い経過にも注意 を要する。これらのことから、糖尿病の治療には薬剤のみでは困難であり、食事療法 が重要であることがうかがえる。2013 年末維持透析を受けている患者の血糖降下薬と しては、糖尿病既往あり患者の 33.0%にインスリンが使用されており、さらに DPP4 阻害薬が 27.6%の患者に使用され、αGI を中心とするその他の経口治療薬が 21.1%の xi膵β細胞膜上の SU 受容体に結合し,インスリン分泌を促進させる薬剤 xii肝臓での糖新生抑制および末梢組織でのインスリン感受性を高める作用を有している薬剤 xiii末梢組織でのインスリンの感受性を高め,肝臓からの糖新生を抑制する薬剤 xiv二糖類が消化管において、α-グルコシダーゼ酵素により単糖類に分解されて小腸粘膜より吸収さ れるが、この分解酵素の作用を阻害し、糖吸収を遅延させ、食後の急激な血糖上昇を抑制する薬剤 xv SU 薬と同様の機序でインスリン分泌を促進するが、その効果発現は SU 薬に比べて速く、血中の インスリン濃度の上昇も速く、血糖低下作用の持続時間が約 3 時間程度と短い薬剤 xviインクレチン(経口栄養摂取に伴い小腸粘膜に局在する内分泌細胞から分泌され,膵β細胞からの
インスリン分泌を促進する消化管ホルモンの総称)には、glucagon-like peptide-1(GLP-1)と gastric inhibitory polypeptide(GIP)がある。いずれも分泌後、dipeptidyl peptidase-Ⅳ(DPP-4)により 速やかに分解・不活化される。DPP-4 阻害薬はこの DPP-4 を選択的に阻害し,活性型 GLP-1 を増加さ
12 患者に使用されていた。同時期の HbA1c 測定患者における平均 HbA1c は 6.19±1.16% で、そのうち 8 割近くが 7.0%未満に管理されていた1)。 以上のことから、透析導入前からの糖尿病のコントロール、および導入後において も糖尿病を発症させない、あるいは進行を抑制するための日常生活を送ることが大変 重要であることから食事療法を理解して正しく実施することは非常に重要である。 2013 年末時点での透析患者の平均年齢は 67.20 歳と徐々に増加傾向であり、透析歴 別患者数の推移をみると、20 年以上の透析歴をもつ患者が一貫して増加して 7.9%を 占めている1)。さらに、10 年以上の透析歴を持つ患者も 27.6%にのぼり、わずかずつ ではあるが増加傾向にある。増え続ける腎不全患者、高齢導入者の増加、透析技術の 向上による透析患者の長期生存により食事療法や薬物療法は複雑に多様化し、 ADL( activities of daily living) の低下も伴い、透析患者の抱える問題は患者自 身のみならず、介護する家族や社会に大きく影響する深刻化した問題となっている。 2.2 透析患者の生活状況 維持透析患者の栄養を考える上で考慮すべき特徴は、透析治療の影響、糖尿病や高 血圧などの合併症、透析間の体重増加を制限するための厳密な塩分および水分制限の 重要性に集約される。透析患者は、食事摂取量の不足、慢性炎症、異化亢進状態xvii、 せ,インスリン分泌を促進し,グルカゴン分泌を抑制する薬剤 xvii 生体に侵襲が加わると、エネルギー代謝は亢進し、損傷された組織を修復しようとする。糖質か らだけでは増加したエネルギー消費量を補うことができないために、生体は筋タンパク質を崩壊し、 アミノ酸を動員する。このアミノ酸は糖新生により肝臓でグルコースに変換され、それが血液中に放 出されて損傷した組織タンパク合成の基質として利用される。また、赤血球、脳のエネルギー源とし ても利用される。高度な侵襲が生体に加わると、全身のタンパク合成もタンパク分解も亢進するが、
13 代謝性アシドーシスxviiiなどの合併症が原因となって容易に栄養障害を発症すること が知られている。食事摂取量は患者の高齢化や身体活動の低下で生じるのみならず、 薬剤、慢性便秘、歯科的問題、精神的側面や胃腸障害が原因となる。さらに、食事療 法の誤った解釈や昼食時間帯にかかる透析療法に伴う頻回の欠食も食事摂取量が不 足する原因となる。また、糖尿病や心血管系合併症、その他の慢性炎症は異化亢進状 態の原因となって透析患者の栄養障害の原因となる。さらに、1 回あたりの血液透析 によって喪失する蛋白質も長期に及ぶと無視できず、栄養障害の一因となるため、適 切なエネルギーと蛋白質の摂取は不可欠であるが、蛋白質とリン含有量には高い相関 が認められていることから、生命予後を悪化させる高リン血症を予防するためにも蛋 白質の過剰摂取は避ける必要がある。 透析患者の透析患者の食事療法を表 2-1に示す。食塩は腎疾患患者に共通する基本 的な管理項目で、とくに残存腎機能がない血液透析患者では透析間の体重増加をドラ イウェイトxix(DW)の 3~5%程度に抑える必要があり、不十分な食塩の制限では水分 制限の実行は困難である。また、過剰な体重増加は透析中の時間当たりの限外濾過が 増加する原因となるが、限外濾過量の増加は透析中の低血圧や死亡リスク増加の原因 となることも報告され、透析患者の予後を悪化させる因子となる。したがって、無尿 の血液透析患者における水分摂取量は DW(kg)×15mL 以下に制限する必要がある。 分解のほうが合成よりも亢進し、その結果として、各種の身体機能の低下を来す。 xviii 酸の産生や摂取の増加,酸排泄の低下,または消化管や腎臓からの HCO 3 -喪失によって引き起 こされる酸の蓄積である。 xix 浮腫がなく血圧が正常、心胸郭比(CTR)50%以下で、それ以下の体液量では透析中に血圧を維 持できない限界の体重
14 表 2-1 維持血液透析患者の食事目安(慢性透析患者の食事療法基準 2014 年版より 作成)8) 高カリウム血症は血液透析患者にしばしば認められる電解質異常で、程度が高度に なると房室ブロックxxや不整脈xxiなどを誘発する原因となる。高カリウム血症の対策 は食事内容の検討が主体となり、野菜や果物、芋類などのカリウム含有量の高い食材 を制限する。その影響から、透析患者の食物繊維摂取量が健常人に比べて減少してい ること、薬剤の副作用、ADL の低下などから便秘になる傾向が強い。便秘による高カ リウム血症も存在するため、排便のコントロールは非常に重要である。 年々高齢化が進む透析患者の QOL を維持するためにもまず栄養状態の維持と合併症 の進展抑制が不可欠である。栄養障害や合併症の進行をできるだけ早く阻止するため には、個々人に合わせた透析治療および栄養管理、薬物療法の見直しなどが重要とな る。透析の食事療法も個別に簡易的に取り組めるよう努力していくことも課題である。 xx 心房興奮の心室への伝導が障害された場合 エネルギー(kcal/kg) たんぱく質(g/kg) 食塩(g) 水分 カリウム(mg) リン(mg) 30~35注1)注2) 0.9~1.2注1) 6未満注3) できるだけ少なく 2000 たんぱく質(g)×15以下 注 1) 体重は基本的に標準体重(BMI=22)を用いる 注 2) 性別,年齢,合併症,身体活動度により異なる 注 3) 尿量,身体活動度,体格,栄養状態,透析間体重増加を考慮して適宜調整する
15 第 3 章 ポリデキストロースによる血糖上昇抑制と便秘改善に関する介入研究の レビュー:日本国内の論文を対象として 3.1 緒言 食物繊維(Dietary Fiber, DF)の日本における定義の主要なものとして,桐山が 1980 年に提案9) した「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」 がよく用いられている。1970 年代以降、大腸がん、糖尿病、虚血性心疾患などの生活 習慣病を予防する生理機能・効果があることが明らかにされ、健康を維持するうえで 重要な役割を果たす「栄養素」として注目されるようになった10)。 食物繊維は大きく分けて、水に溶けにくい不溶性食物繊維(IDF : insoluble dietary fiber)と水に溶けやすい水溶性食物繊維(SDF : soluble dietary fiber)の 2 種類がある。不溶性食物繊維には、植物性食品に含まれるセルロース、リグニンなど や甲殻類の殻に含まれるキチン、キトサンなどがあり、水溶性食物繊維には果物に含 まれるペクチン、寒天の主成分であるアガロース、増粘安定剤として用いられるグア ー豆発酵分解物、こんにゃくの主成分のグルコマンナン、科学的に合成された人工の 水溶性食物繊維である PD などがある。生理機能は非常に広範で、主として消化管腔 内において発現するものであり、食物繊維の質(溶解性、抱水能、かさ形成能など) や量によっても影響を受ける。すなわち、食物繊維の種類により生理機能の種類と効 果の程度は異なる。人間で科学的根拠が得られた生理機能としては、便通改善、血中 xxi 心臓を伝わる電気刺激が異常な伝導経路をとることで生じるなど心拍リズムの異常
16 コレステロールの上昇抑制および血糖値の上昇抑制の 3 つがあげられている11)。 生活習慣病の 1 つである糖尿病は、平成 19 年の国民健康栄養調査によると、「糖 尿病が強く疑われる人」の約 890 万人と「糖尿病の可能性を否定できない人」の約 1,320 万人を合わせ、全国に約 2,210 万人いると推定されている。また、通院患者数 は過去 50 年間に 30 倍以上となっているが、糖尿病が強く疑われる人の約 4 割は未治 療という現状もある12) 。平成 22 年の人口動態統計によると、糖尿病による死亡は年 間で 14,422 人と前年より増加しており13)、現在の食生活、不規則な生活習慣から考 えると今後ますます増加する一方であると推測できる。 特に日本やアジアにおいて欧米以上のスピードで特に 2 型糖尿病が増加しているの は、遺伝因子によるインスリン分泌低下の素因に加え、高脂肪食・運動不足などによ る肥満・内臓脂肪蓄積が原因となってインスリン抵抗性を呈するものが増加しこれが、 直接の引き金となっているためとも考えられる。日本人は、欧米人に比してインスリ ン分泌能は約 1/2 に低下し、比較的軽度の肥満でも容易に糖尿病を発症しやすい14)。 以上のことからも、日本人における糖尿病を引き起こす要因となる肥満の解消や高脂 肪食や運動不足の是正により血糖上昇の予防・早期発見・合併症の予防が重要である。 2015 年 6 月 10 日現在における特定保健用食品 1,163 商品の表示内容で「おなかの 調子を整える食品」「血糖値が気になる方に適する食品」の関与成分については、難 消化性デキストリンxxii が前者で 105 商品、後者で 74 商品と多く、糖尿病や血糖上昇 のリスク低減を目的とした介入プログラムの効果に関する研究報告も増えてきてい xxii澱粉に微量の酸を添加して高温で加熱分解し、脱色、脱塩などの精製を行い、クロマト分画によ
17 る15)。 一方で、水溶性食物繊維と同様に血糖上昇抑制効果や便秘改善効果が報告されてい る PD16)は、水溶性で無味無臭のため、食品に利用されやすく低カロリーの食品とし てわが国では 1983 年に認可された食物繊維であるが、日本において未だ報告数が少 なく(2015 年 6 月 10 日現在でおなかの調子を整える食品として 6 商品のみ)、研究報 告を実践のエビデンスとして活用する場合には、根拠データとしての質の吟味が必要 である。 すなわち、研究デザイン、実施方法、解析手法などの内的妥当性、ならびに得られ た外的妥当性を判断するためには、報告の質が確保されている必要がある。しかし、 これら介入プログラムの効果を評価した論文に関して、介入の手法別に検討した研究 は、国内では存在しなかった。 CONSORT 2010 声明17-18)は、25 項目のチェックリスト(checklist)とフローチャー ト(flow diagram)からなる、すべての RCT を報告するためのガイダンスであるが、 とくに,もっとも一般的な個人を対象として割付ける 2 群間並行 RCT にフォーカスを 当てている。世界中でさまざまな言語で発行されている雑誌が、CONSORT 声明を明示 的に支持しており、さらに、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee
of Medical Journal Editors: ICMJE)により CONSORT 声明が承認(endorse)され たため、何千もの雑誌が間接的(implicitly)に支持を示したといえる。科学編集者 協議会(Council of Science Editors: CSE)や世界医学編集者協会(World Association
18
of MedicalEditors: WAME)など、他の著名な編集グループも、CONSORT を正式に支持 していることから、著者と雑誌が CONSORT を使用した場合、報告の質が改善されるこ とが示されていると考える。
そこで、本研究は、CONSORT2010 チェックリスト(CONSORT 2010 Statement: updated guidelines for reporting parallel group randomised trials)17-18)
および TREND (Transparent Reporting of Evaluations with Nonrandomized Designs)声明チェ ックリスト19)を参照して、世界各国の論文に対するシステマティックレビューの前 段階として、我が国における PD の血糖上昇抑制および便秘改善に関するショートレ ビューを行い、臨床研究としての課題を示すことを目的とした。 <リサーチクエスチョン> ポリデキストロースを摂取することは、排便の改善及び 血糖コントロールに有効か P-Participant: (参加者) ヒト (human) I-Intervention: (介入) ポリデキストロースの経口摂取(食品形態は問わない) C-Comparison: (対照) プラセボ O-Outcome: (アウトカム) 排便状況の改善および食後血糖の上昇抑制
19 3.2 方法 3.2.1 対象となる研究の選択基準 論文の研究デザインは、ランダム化比較試験(RCT)、非ランダム化比較試験 (non-RCT)、クロスオーバー試験、コントロール群のない介入試験とした。対象疾患 は糖尿病と便秘に限定した。糖尿病の定義として耐糖能異常、糖代謝、糖質代謝を含 むものとした。 介入期間および論文の言語は無制限とし、記事区分は会議録以外(学会抄録は除く) とした。 3.2.2 研究を特定するための検索方法 1)データベース 文献検索に使用したデータベースは、医中誌 Web、CiNii、JDreamⅡ、NDL-OPAC(国 立国会図書館蔵書検索・申込システム:National Diet Library Online Public Access Catalog)の雑誌記事索引を用いた。検索期間は、それぞれのデータベースで検索可 能な時期から実施した。医中誌 Web は 1983 年~2012 年 3 月 29 日、CiNii は 1979 年 ~2012 年 4 月 2 日、JDreamⅡは 1975 年~2012 年 4 月 10 日、NDL-OPAC は 1979 年~4 月 10 日の期間に出版された論文を対象とした。すべての検索作業は、研究協力者で 臨床研究の検索に熟練した 2 名の図書館司書(聖路加国際大学学術情報センターの佐 山暁子氏、東邦大学医学メディアセンターの眞喜志まり氏)が行った。
20 1-1)医中誌 web 特定非営利活動法人 医学中央雑誌刊行会が作成する国内医学論文情報のインター ネット検索サービスであり、教育機関・企業などの法人向けのサービスである。 「医中誌 Web」では、国内発行の、医学・歯学・薬学・看護学及び関連分野の定期 刊行物、1977 年以降、約 6,000 誌から収録された約 1,000 万件の論文情報が収録され ている。 同じような事柄が著者によって異なる言葉で表現されていても、シソーラスに基づ き統一されたキーワードを付与することにより、漏れなく検索が可能となり、さらに、 キーワードに副標目を付与することにより、付与されたキーワードがその文献におい てどのような観点で用いられているかを特定でき、より的確な検索が可能になる。ま た、チェックタグによって検索対象を絞り込むことができる。 シソーラス用語とは、特定非営利活動法人 医学中央雑誌刊行会が作成する「医学 用語シソーラス」に掲載されているキーワードのことである。 「医学用語シソーラス」では、医学・歯学・薬学・看護学・獣医学・公衆衛生学等の 分野で使われている用語が体系的に関連付けられている。「医学用語シソーラス」は、 NLM(National Library of Medicine、米国国立医学図書館)が作成し、MEDLINE の索引・ 検索に用いられるシソーラス MeSH(Medical Subject Headings)に準拠している。副標 目とは、キーワードと組み合せて索引されるもので、付与されたキーワードがどのよ うなアスペクトで扱われているのかを示す副次的なキーワードである。チェックタグ とは、論文における「対象」を表すキーワードで、動物の種類(ヒト、イヌ、ネコな
21 ど)、年齢(新生児、高齢者(80-)など)、性別(男、女、オスなど)などがある。 上記機能を組み合わせて検索、絞り込みを行い論文の抽出をする。 1-2)CiNii 学協会刊行物・大学研究紀要・国立国会図書館の雑誌記事索引データベースなど、 学術論文情報を検索の対象とする論文データベースである。CiNii には無料一般公開 されている論文も豊富にあり、約 1700 万の学術論文が収録されており、利用登録な しに検索ができる利点がある。 資料の検索によく使われる論理演算子は、AND(論理積)、OR(論理和)である。フ リーワードを複数掛け合わせての検索が可能で、AND 検索(複数入力したすべてのキー ワードを含むレコードを検索する)、OR 検索(複数入力したいずれかを含むレコードを 検索する)、NOT 検索(複数入力したキーワードで、直後のキーワードを含まないレコ ードを検索する)を行うことが可能である。 1-3)JDreamⅡ(現在の JDreamⅢ)
JDream は、JST Document REtrieval system for Academic and Medical fields の 略で、学術基礎研究を推進している大学・国公立試験研究機関、高等専門学校や専門 学校等の教育機関、そして極めて公共性が高い病院等医療機関向けのサービスで、独 立行政法人科学技術振興機構(JST) が作成した科学技術や医学などのデータベース にアクセスして、手軽に検索することができる文献情報検索システムである。
22 データベースの情報源は、科学技術に関する約 12,000 種に及ぶ逐次刊行物、技術 レポート、会議資料、公共資料、予稿集などで、国内はもとより世界中から網羅的に 収集している。CiNii と同様に AND、OR、NOT 検索が可能であるが、思いついたキーワ ードから、同義語・統制語を自動的に検索してくれる機能(マッピング機能)はない。 「肝癌」と入力したら、「肝癌」のみ検索され、「肝腫瘍」は検索されない。キーワー ドを細かく設定して検索するためにシソーラスブラウザで統制語、同義語などを一覧 し、自身で選択する必要がある。 1-4) NDL-OPAC 国立国会図書館を構成する3館(東京本館、関西館、国際子ども図書館)の所蔵資 料の所蔵目録および雑誌記事索引を対象としたデータベース。同館所蔵の和図書、洋 図書、雑誌、新聞、雑誌記事索引、電子資料、古典籍資料、博士論文、規格・レポー ト類、点字・録音図書の検索が可能である。AND、OR、NOT 検索も可能であり、検索結 果を資料種別、出版年、所蔵場所などで絞り込みができ、保存した検索履歴で掛け合 わせることも可能である。 国会図書館の蔵書は NDL-Search でも検索は可能だが、 NDL-OPAC は検索式を利用して精緻な検索結果を出すことができるため、NDL-OPAC を 利用した。 2)検索ストラテジー 網羅的に検索をするために糖尿病に関する用語、および便秘症に関する用語につい
23
て論理和を実施した。具体的な用語とアルゴリズムを表 3-1に示した。
医中誌 Web では、糖尿病やそれに関わる用語(血糖、糖代謝など)の論理和を実施 した(1-5)。また、6.7 で便秘に関する治療の文献を検索した。次いで食物繊維とそ れに関連した物質の検索も実施した(8-11)。TH は統制語、AL は ALL Field で全ての フィールドを対象にした部分一致検索を行っている。 JDreamⅡでは、1-5 で糖尿病やそれに関わる用語について論理和を実施し、6-8 で は、食物繊維全般の論理和を実施した。9 は食物繊維のみで論理和を実施した結果で 便秘症についても検索した。10-11 で絞り込みを実施した。/CTS、/CW はシソーラス 用語、/STS は準シソーラス用語、/DT は資料種別、記事区分のことであり、このシソ ーラス用語を探して検索すると、どの同意義語で記載された文献についても、シソー ラスに登録されている言語が索引される。そのため、シソーラス用語で検索漏れを大 幅に回避した。 CiNii と NDL-OPAC についても同様の手順で「糖尿病と食物繊維」の文献を調べた。 なお、医中誌は医学に特化したデータベースのため便秘を加えても、件数が限定的 にしか増加しないが、他の DB は分野が限定されておらず、便秘を論理和でかけてし まうと件数が著名に増加するため、検索語として用いなかった。また、逆に便秘を論 理積で掛けて絞ってしまうと結果が限定的になり過ぎるため実施しなかった。表 3-1 でも明らかなように、食物繊維関連の検索語は[食物繊維全般(食物繊維、dietary fiber 等)+各 DF 個別名(ポリデキストロース等)]を OR 検索うぃ、かなり広範囲に 拾っており、対象疾患・効果の検索語も複数を OR 検索で実施している。ヒット件数
24 を見て「ヒト」で絞り込むなどしたが、黙示で結果をチェックしていく際、これ以上 件数が多いのは効率から考えて妥当ではないと検索実施者が判断した。このように主 要な検索語以外の語でしかヒットしない論文や、絞り込みで除かれた論文の中に分析 対象とするような重要な主要論文は含まれない可能性が高いと検索実施者と判断し た。ポリデキストロースは 1983 年より食品として認可されているため、年代的には いずれのデータベースも適切と考える。 3)ハンドサーチとその他の収集努力 ハンドサーチは、日本糖尿病学会誌(ISSN:0021437X)では 2000 年~2012 年 3 月で 実施、日本透析医学会雑誌(ISSN:13403451)では、継続前誌である人工透析研究会 会誌 Vol. 1(1968) No. 1~日本透析医学会雑誌 Vol. 45(2012) No. 4 まで実施。日 本病態栄養学会誌(ISSN:13458167) では 2004 年~2011 年で実施、日本食物繊維学 会誌(ISSN:13431994)では Vol.1 No.1~Vol.15 No.2 まで実施、日本栄養・食糧学会 誌(ISSN:02873516)では継続前誌である榮養食糧學曾誌(Vol.1)および栄養と食糧 (Vol.2~Vol.35)、 日本栄養・食糧学会誌(Vol.36~Vol.66)まで実施した。日本食 生活学会誌(ISSN:13469770)では、前誌の食生活総合研究会誌(Vol.1~Vol.4)、お よび日本食生活学会誌(Vol.5~Vol.22)までで実施し、引用文献も関連があるものは すべて収集した(図 3-1)。
25 表 3-1 検索ストラテジー 医中誌Web(1983年~2012年4月) 1 糖尿病/TH or 糖尿病/AL 2 血糖/TH or 血糖/AL 3 耐糖能/AL 4 糖代謝/TH or 糖代謝/AL or 糖質代謝/AL 5 1 or 2 or 3 or 4 6 便秘/TH or 便秘/AL or 便秘症/AL 7 6 and (SH=治療、食事療法、予防) 8 食物線維/TH or 食物繊維/AL or 食物線維/AL or dietary fiber/AL or dietary fibers/AL 9 (Pectins/TH or ペクチン/AL) or (Glicomannan/TH or グルコマンナン/AL) or (Alginates/TH or アルギン酸/AL) or (Carboxymethylcellulose/TH or カルボキシメ チルセルロース/AL) or (Polydextrose/TH or ポリデキストロース/AL) or (Carrageenan/TH or カラギーナン/AL) or (Sepharose/TH or アガロース/AL) or (Guar Gum/TH or グアーガム/AL) or 難消化/AL 10 8 or 9 11 7 or 10 12 5 and 11 13 12 and (PT=会議録のぞく CK=ヒト) JDreamⅡ(1975年~2012年4月) 1 糖尿病/TH or 糖尿病/CTS 2 血糖/TH or 血糖/CTS 3 耐糖能/AL or 耐糖能/STS 4 糖代謝/AL or 糖代謝/AL or 糖質代謝/CTS 5 1 or 2 or 3 or 4 6 食物繊維/AL or 食物線維/AL or 食物繊維/CTS 7 水溶性食物繊維/STS or 可溶性食物繊維/STS 8 (ペクチン/AL or ペクチン/CTS) or (グルコマンナン/AL or グルコマンナン/STS) or (アルギン酸/AL or アルギン酸/CTS) or (カルボキシメチルセルロース/AL or カ ルボキシメチルセルロース/CTS) or (ポリデキストロース/AL or グルカン/CTS) or (カラギーナン/AL or カラギーナン/CTS) or (アガロース/AL or アガロース/STS) or (グアーガム/AL or グアガム/AL or グアルゴム/CTS) or 難消化/AL or 難消化 性/STS) 9 6 or 7 or 8 10 5 and 9 11 10 and (ヒト/CW) and (al/DT) NOT (C/DT) CiNii(1979年~2012年4月) #1 糖尿病 OR 血糖 OR 耐糖能 OR 糖代謝 OR 糖質代謝 #2 食物繊維 OR 食物線維 OR ペクチン OR グルコマンナン OR カルボキシメチルセルロース OR ポリデキストロース OR カラギーナン OR アガロース OR グアガム OR 難消化 #3 #1 AND #2 NDL-OPAC(1979年~2012年4月) #1 (キーワード= 糖尿病 or 血糖 or 耐糖能 or 糖代謝 or 糖質代謝) OR (件名= 糖尿病 or 糖質代謝) #2 (キーワード= 食物繊維 or 食物線維 or ペクチン or グルコマンナン or カルボキシメチル セルロース or ポリデキストロース or カラギーナン or アガロース or グアガム or グアー ガム or 難消化 or 便秘) OR (件名= 食物繊維 or 便秘) #3 #1 AND #2 #4 #3 AND 資料種別=記事
26 図 3-1. 対象論文の決定フロー 3.2.3 レビューの方法 1)論文の選択 適格基準に基づき、筆者と共同研究者の東京農業大学大学院上岡洋晴教授が独立し て行い、その後に照合した。不一致が生じた論文については、相談の上で決定した。 抄録およびタイトルだけでは区別がつかない論文については、実際にその論文を入手 し精読してから、組み入れるかどうかを判断した。 データベースに基づく論文検索 ヒットした抄録の検索 医中誌Web (n=413,適合率1.2%) CiNii (n=176,適合率1.7%) JDreamⅡ (n=289,適合率1.7%) NDL-OPAC (n=130,適合率0.8%) 論文を入手し詳細な内容の確認(n=9) 除外した理由 ・その他の水溶性食物繊維(n=1) ・その他の水溶性食物繊維およびラット(n=1) (n=2) 除外 適格基準に合致した論文 (n=7) 日本透析医学会誌 (n=1) 日本糖尿病学会誌 (n=0) 日本食物繊維学会誌 (n=2) 日本栄養・食糧学会誌 (n=1) 日本食生活学会誌 (n=1) 合致した論文 (n=12) ハンドサーチの適合
27 適格基準として、研究デザインは介入研究で、PD を原料とする食品の摂取の有無を 群分けの対象とし、血糖上昇抑制効果または便秘改善効果をみるために臨床的・生化 学的指標の変化を主要あるいは副次的なアウトカムとして評価していることとした。 該当する論文の全文を精読し、前述の条件に合致する論文を選択した。 2)結果の要約 対象論文における研究内容については、CONSORT2010 によるチェックリスト17-18)を 参照し、構造化抄録の形式20)で付録 3-1 にまとめた。記載不十分で不明の箇所はい ずれも記載なしと記述した。なお、本研究は公表された文献についての二次研究であ るため、倫理面の配慮は特になかった。 3.3 結果 3.3.1 対象論文の特性
データベースからの検索時点では、医中誌 Web413 報、CiNii176 報、JDreamⅡ289 報、NDL-OPAC130 報の潜在的な論文が該当し、これらの論文を前述した手順にて抄録 やタイトルからさらに医中誌 Web6 報、CiNii3 報、JDreamⅡ5 報、NDL-OPAC1 報(重複 含む)9 報に絞り込んだが、適格基準に合致しない PD 以外の食物繊維を使用した論文 及び対象がラットであった 2 報含まれていたため除外論文とした。ヒットした論文の 内訳は、医中誌 Web5 報(適合率 1.2%)21-25)、CiNii3 報(適合率 1.7%)、うち重複 2 報
28 Ⅱでは 5 報(適合率 1.7%)のうち重複論文が 4 報あり 1 報を採用した27)。最終的に4 データベースより検索で得られた 7 報、ハンドサーチ(日本透析医学会誌 1 報、日本 糖尿病学会誌 0 報、日本食物繊維学会誌 2 報、日本栄養・食糧学会誌 1 報、日本食生 活学会誌 1 報)による 5 報28-32)の計 12 報を採用した(図 3-1)。なお除外した論文を 付録 3-2 に理由とともにリストで示した。 また、この論文検索について、適合率が低いことが分かるが、適合率は,探索対象 であると認識されたデータに対する本来の探索対象データの含有率を示している。論 文の検索性能を検定するために使用するが、今回は網羅性を考慮し、漏れを少なくす るための検索を実施したため、当然ヒット文献数は増えるため適合率が下がり、さら に、PD による血糖及び便秘症に対する論文が少ないことも示唆している。 付録 3-1 の構造化抄録として研究を要約し、結果のまとめを表 3-2 に示した。PD を使用した血糖上昇抑制に関する研究が 7 報、便秘に関する研究が 5 報であった21-32)。 Kurotobi ら21)、下村ら26)小澤ら27)中川ら28)橋本ら29)松生ら30)清水ら31)は PD の みを用い、矢部ら22)と板垣ら24)はマルチトール、Shimomura ら23)はラクチトール、 佐藤ら25) はカラギーナン、近松ら32) はラクチュロースを PD と組み合わせて使用し ていた。 研究デザインについて明確に記述されていたのは 3 報22-23),28)のみで、ブラインド 化について記述されていたのは 4 報22)24)28)31) であった。統計手法について記述がな かったのは、中川ら28)、松生ら30)、近松ら32)の報告であった。対象を健常人として いたのは Kurotobi ら21)、Shimomura ら23)、下村ら26)、中川ら28)、橋本ら29)、清水ら
29 31)の報告であった。小澤ら27)は入院患者を対象(糖尿病罹患は不明)としており、 透析患者を対象としたものが近松ら32)、常習性便秘症を対象としたものが松生ら30)、 それ以外 3 報は 2 型糖尿病患者を対象としたものであった。 表 3-2.有効性の要約 kurotobi ら 下村ら 小澤ら 中川ら 橋本ら 松生ら 清水ら 矢部ら Shimom uraら 板垣ら 佐藤ら 近松ら PDのみ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 血糖上昇 抑制効果 + + + + + + + HbA1c改 善効果 + 排便改善 効果 + + + + + 研究デザ イン ○ ○ ○ コントロー ル群 ○ ○ ○ 参加者の 特性 健常人 健常人 CAD,CV D,DHF 健常人 健常人 便秘 健常人 糖尿病 健常人 糖尿病 糖尿病 血液 透析 主要なア ウトカム 統計手法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 解析対象 者 ○ ○ ○ 解析され た人数 (人) 試験1:30 試験2:8 10 17 22 27 92 試験1:10 試験2:45 17 5 18 11 6 有害事象 (ありな し) ○(なし) ○(あり) ○(あり) ○(なし) ○(あり) 脂質改善 効果 + + 血圧上昇 抑制効果 + PD のみ単独使用した論文、また血糖上昇抑制効果と排便効果を中心にまとめた。 PD:ポリデキストロース +:効果や影響があった記載あり ○:記載あり CAD:脳血管障害 ,CVD:虚血性心疾患 ,DHF 慢性心不全
30 3.3.2 PD の効果(PD 単独使用) PD 以外との併用がなかった対象論文 7 報21,26-31)において、血糖上昇抑制効果が 3 報、便秘改善が 4 報であった。PD のみ単独使用による効果にて、血清血糖上昇抑制や AUC(血糖上昇曲線面積)において統計学的に有意な低下が得られた論文は Kurotobi ら 21)と下村ら26)の報告であった。小澤ら27)は血清インスリン値が有意に低下したと報 告している。便秘に対する効果においては、中川ら28) 、清水ら31) の 2 報において、 排便の硬度など性状に有意な改善がみられていた。橋本ら29)は下剤や浣腸の使用回 数が有意に減少したと報告されていた。松生ら30)は、アンケート集計のみで解析を 行っていなかった。 3.3.3 その他の効果(血清脂質・血圧など) 矢部ら22)、Shimomura ら23)では中性脂肪の有意な低下がみられた。小澤ら27)によ ると血圧の改善がみられた。 3.3.4 有害事象 記述がされていたのは 5 報、うち 1 報は PD と併用した内容であった。そのうち小 澤ら27)は有害事象はなし、中川ら28)、橋本ら29)、近松ら32)では下痢や腹部不快感が 認められ、清水ら31) は、同様の症状があったが、有害事象ではないと判断されてい た。しかし、ほとんどの研究で有害事象について詳細に記述がされていなかった。
31 3.4 考察 本研究は、PD による血糖上昇抑制と便秘改善効果を目的とした介入研究の効果を評 価した論文に関してレビューを行った。チェックリストで記述の確認を行ったところ、 主要アウトカム、ブラインディング、募集方法、試験登録、資金においてはほとんど 記載がなかった。設定した項目に該当する記述がない論文が多数存在することがわか り、報告の質を改善する必要性があると考える。 介入研究におけるエビデンスグレーディングでは、RCT、non-RCT、前後比較試験の 順番で低くなるが、今回実施したレビューの傾向から、PD における血糖上昇抑制効果 や便秘改善効果に対して RCT はなく、コントロール群のない前後比較研究が主であっ た。効果をみる項目は十分設定されているが、結果に曖昧な点が多かったことも指摘 できる。 論文の質を上げるためには、著名なチェックリストに基づくことで標準化された情 報を掲示することができる。CONSORT201017-18)および TREND 声明19)において、論文の 要約が必要な場合には、構造化抄録を用いることが推奨されており、構造化抄録を有 することでより質が高い論文となることはすでに知られている。本研究における構造 化抄録は RCT の報告をする際に含まれるべき項目を参考に作成した。介入試験には該 当しない「ランダム化」の項目やどこに当てはめて良いかわかりにくい「募集」項目 が含まれ、判定に迷うケースが多くなるため、臨床上必要な項目数を加えたものを用 いた。「期間」などオリジナルの項目を設定することでよりわかりやすくまとめること ができた。個々の項目および構成については様々な案があると考えられるが、本研究
32 で使用した構造化抄録の項目設定に関しては、研究内容を理解しやすくしたと考えら れる。 介入プログラムの評価として、目標症例数をあらかじめ設定し解析対象とした症例 数が統計学的に十分かを検討し記載すること、また仮説をしっかりと記載することは 望まれるところである。また、参加者のリクルートメント、決定、解析に至るまでど の程度の脱落があったかなど記載および、フローチャートで示されているものはなか った。 主要アウトカムを定義している報告もなく、解析対象者を改めて記載した論文は 3 報24,28-29)のみであった。このような記載を十分に記述することにより、前後比較試 験などエビデンスが低い研究であっても、一定の価値を把握することができると考え られる。 表 3-3. 今後の PD における臨床研究の課題 現時点におけるエビデンス ポリデキストロース単独では血糖降下および 排便改善に関する効果は十分証明さ れていない 今後の研究の課題 ポリデキストロース単独使用による臨床試験の実施 ランダム化比較試験の実施 CONSORT2010に基づく論文の記載 1.適切な情報を含んだ記載 (タイトルでRCTの特定が可能、適切なランダム割付の方法、 ブラインディング情報、バイアス、統計学的手法、参加者の流れ、 逸脱、募集、解析された人数、アウトカムと推定、補助的解析、 有害事象、費用、外的妥当性など含む) 2.臨床研究の適切な選択 観察研究 長期臨床試験による効果の証明(糖尿病・便秘など)
33 レビューの結果より、今後の PD における臨床研究の展望を表 3-3 にまとめた。PD 単独使用の血糖上昇抑制効果の報告のうち、2 報は 1 度限りの摂取であり、1 報は 4 週間の摂取であった。長期的な効果を見る HbA1c やグリコアルブミンへの影響が認め られた研究は存在しなかった。今後は長期的に摂取を継続し、効果を見るための項目 の正しい設定を行った研究デザインによる研究を行っていく必要がある。 便秘改善作用においては、4 報存在した。アンケートをまとめたのみの研究が 1 報、 その他の 3 報は有意に改善がみられているが、ウォッシュアウト 2~3 日と短い報告 もあり有害事象様の症状もみられていた。また対象者は、2 報は健常成人女性に限定 されており28)31)、1 報は常習性便秘症30)、1 報は施設入所者29)と疾患や年齢、ADL が 異なっていた。施設入所者を対象とした橋本ら29)の報告では、排便量の増大と下剤 服用の減量も見られたようだが、下剤を減量させる一定の目安設定がなされておらず、 個人差による下剤の影響を否定できない結果となっていた。今後は研究計画の段階で、 試験品の持ち越し効果含め、容量、濃度を増加していく際のウォッシュアウト(休止 期間)の妥当性、正しい解析手法と対象者の選定を十分考慮した研究が望まれる。ま た、長期にわたる研究効果の証明がされていないため、その効果が注目される。 本研究にはいくつかの限界と弱点がある。対象論文は日本語に限定して検討を行っ たため、国際雑誌に掲載された論文は含まれておらず、パブリケーション・バイアス が存在する。前述と関連して、異質性の問題(heterogeneity)があり、メタ分析を 実施できなかった。そして、各論文の潜在的なサンプリングバイアスが生じているこ とを含んでいる。
34 3.5 結論 PD を使用し、血糖上昇抑制効果、便秘改善効果を目的とした国内の論文を対象とし たが、RCT は存在せず、コントロール群のない前後比較試験の報告数が多く、相対的 に報告の質として内的妥当性が低かった。そのため、PD の血糖上昇抑制と便秘改善の 効果があるとは結論づけることはできなかった。
35 第4章 ポリデキストロースによる血糖上昇抑制と便秘改善に関する介入研究の システマティックレビュー 4.1 緒言 第 3 章において、日本国内では、設定項目に該当する記述がない論文が多数あり、 RCT は存在せずコントロール群のない前後比較試験が多く存在し、相対的に内的妥当 性が低いことがわかった。そのため、PD の血糖上昇抑制と便秘改善の効果があるとは 結論づけることはできなかった。
そこで、4章では、CONSORT2010 チェックリスト(CONSORT 2010 Statement: updated guidelines for reporting parallel group randomised trials)17-18)および TREND
(Transparent Reporting of Evaluations with Nonrandomized Designs)声明チェ ックリスト19)を参照して、PD の血糖上昇抑制および便秘改善に関する世界各国の論 文に対するシステマティックレビューを行い、今後の課題を示すことを目的とした。 <リサーチクエスチョン> ポリデキストロースを摂取することは、排便の改善及び 血糖コントロールに有効か P-Participant: (参加者) ヒト (human) I-Intervention: (介入) ポリデキストロースの経口摂取(食品形態は問わない) C-Comparison: (対照) プラセボ O-Outcome: (アウトカム) 排便状況の改善および食後血糖の上昇抑制
36 4.2 方法 4.2.1 対象となる研究の選択基準 論文の研究のデザインは、ランダム化比較試験(RCT)、非ランダム化比較試験 (non-RCT)、クロスオーバー試験、コントロール群のない介入試験とした。対象疾患 は糖尿病と便秘に限定した。糖尿病の定義として耐糖能異常、糖代謝、糖質代謝を含 むものとした。介入期間および論文の言語は無制限とした。 4.2.2 検索方法 1) データベース
文献検索に使用したデータベースは、AGRICOLA と AGLIS、Cochrane Library、PubMed、 Web of Science、CINAHL を用いた。検索期間は、それぞれのデータベースで検索可能 な時期から実施した。AGRICOLA は、1970 年~2013.6.6、AGLIS は~2013.6.5、Cochrane Library は~2013.6.5、PubMed は~2013.4.6、Web of Science は~2013.5.11、CINAHL は~2013.6.5 であった。すべての検索作業は、臨床研究に関する研究協力を行ってき た熟練した図書館司書が行った。 1-1)AGRICOLA 資料所蔵検索及び論文情報検索が可能で、提供者は米国国立農学図書館(National Agricultural Library)である。収録分野は、動物学,獣医学,昆虫学,植物学,森 林学,水産学,農業経済学,栄養学,地球環境科学など,農学及びその周辺範囲で収
37 録期間は 1970 年から現在までとなっている。
1-2)AGLIS
AGRIS とは「International Information System for the Agricultural Science and Technology」の略名で、国際連合食糧農業機関(FAO)が構築し無償で提供している 文献データベースである。農業と関連する科学技術情報を世界的に共有するために 1975 年から構築されている書誌情報のデータベースで、現在では世界の約 200 か国及 び国際機関の協力のもとに作成・提供している「国際農業科学技術情報システム」で あり、農林水産分野に関する世界の文献の書誌情報を収録しているデータベースであ る。その収録範囲は食糧,栄養,畜産業,林業,漁業,環境など農業とその関連分野 に渡る。日本では,農林水産研究情報総合センターがインプットセンターとして国内 で刊行される学術雑誌や大学紀要,国公立試験研究機関の報告類より毎年約 7,000 件 の原著論文を採録し FAO に提供している。 1-3)Cochrane Library
Cochrane Library は、Cochrane 共同計画が発行する複数のデータベースから成り、 EBM(エビデンスに基づく医療)の実践において、非常に有用なツールであると言わ れている。医療従事者や一般消費者、教育者、学生など EBM に関心を持つすべての人々 に利用され 6 つのデータベースから成り立っている。また、MeSH は米国の国立医学図 書館が件名として採用する統制語の目録で、MEDLINE や PubMed などの索引データベー
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スに用いられている。MeSH を使うことで、同じ概念が文献によって異なる用語で表現 されていても、一貫性をもって検索することが可能になる。
1-4)PubMed
NLM(米国国立医学図書館:National Library of Medicine)内の、NCBI(国立生 物科学情報センター:National Center for Biotechnology Information)が作成し ているデータベースで、データベース統合検索システム Entrez(NCBI 作成)の一部 として提供されており、世界の主要医学系雑誌等に掲載された文献を検索することが できる。
MEDLINE(PubMed の主な構成要素となっている、医学文献のデータベースで 1965 年以前の OLD MEDLINE と 1966 年以降の MEDLINE に分かれている)と Non-MEDLINE (MEDLINE に収載されないもの、データ整備前のレコード、出版社が直接提供するレ コード等)がデータソースとなっている NLM が作成するシソーラス(Medical Subject Headlings)を MeSH といい、シソーラスとはさまざまな医学用語を統一して上位語・ 下位語を整理した統制語辞書のことである。MeSH は主題による階層構造になっており、 下位に行くほど用語がより詳細になる。この MeSH を使用しより詳細な検索が可能で ある。収録分野は生物医学・ヘルス、1946 年から現在まで収録されている。 1-5)Web of Science トムソンサイエンティフィック社が提供する自然科学、社会科学、人文科学の重要