日耳鼻 124―807 〔専門医スキルアップ講座〕 Ⅳ.治療と予後 多くが変声期に自然治癒するため(図2),“一定以上 悪化させない”ことを目的に適度な声の衛生指導のみ行 い,経過観察とする6) .だだし,女児では自然治癒しに くい傾向がある2)3) .問診で家族構成や日常の遊び,習い 事,スポーツなどの生活環境を聴取し,叫び声や金切り 声など,不適切な発声をしている場合は注意するよう保 護者に話す.過度な注意は小児の精神発達上問題がある ので避けるべきであるが,「風邪をひいたときはあまり おしゃべりしない」,「声を出しにくいときは無理に出さ ない」程度は本人にも伝えてもよい.アレルギー性鼻炎 や慢性副鼻腔炎があれば,その治療を行う. 嗄声が高度で学業や習い事に影響がある場合は,音声 治療やステロイド吸入,外科的治療などを行う.一般的 に小児では音声治療が困難であるが,遊びを取り入れな がら,不適切な発声法を認識させたり,リラクセーショ ン法を行う.ステロイド吸入は運動会のようなイベント の後などに限定し,漫然と使用させないようにする.外 科的治療は再発率20%という報告もあり7),術後に声の 安静を保てないようならば極力避ける. 参 考 文 献 1)前川彦右ヱ門, 伊藤督夫, 渡辺とし子, 他 : 学童嗄声に ついての観察. 日耳鼻 1973; 76: 1459―1471. 2)古川政樹, 金子まどか, 柊 光一, 他 : 小児声帯結節症 例の検討. 耳鼻 1988; 34: 250―257. 3)蓼原東紅, 福田宏之, 川井田政弘, 他 : 当院における小 児 声 帯 結 節 に つ い て の 統 計 的 観 察. 耳 鼻 1989; 35: 646―649. 4)早坂 修, 山本 裕, 佐藤克郎, 他 : 小児声帯結節の臨 床経過. 耳喉頭頸 2005; 77: 845―849. 5)石井末之助 : 小児嗄声の臨床 その喉頭所見の多様性. 日気食会報 1972;23: 29―35. 6)二藤隆春 : 小児の音声・言語障害の診断と治療. 日耳鼻 2018; 121: 1430―1432. 7)楠山敏行, 福田宏之 : 小児声帯結節に対する外科的治療 の適応と実際. JOHNS 2003 ; 19 : 1610―1613.
―喉頭軟弱症―
千葉県こども病院耳鼻咽喉科 仲 野 敦 子 喉頭軟弱症(Laryngomalasia)は,乳児期に見られる 吸気性喘鳴の原因として最も多い疾患であり,乳児期の 喘鳴の50∼75%が喉頭軟弱症であるといわれている1) . 声門上部構造が脆弱であり,吸気時に披裂,披裂喉頭蓋 ひだ,喉頭蓋が喉頭内に陥入し,喘鳴や呼吸困難が生じ る.多くの場合,吸気努力が強くなる生後数週から数カ 図 2 声帯結節の自然治癒 高校生まで剣道を続けたが,声帯結節は自然に縮小した.124―808 2021 〔専門医スキルアップ講座〕 月の間に喘鳴が顕著になるが,出生時から症状を認める 場合もある.通常は,生後6カ月頃をピークとして,生 後7∼9カ月までには喉頭の成長とともに自然に改善 し,1歳半頃には喘鳴は消失する疾患である1)2) . 哺乳時に喘鳴は悪化し,哺乳に時間がかかるようにな ることもある.喘鳴だけではなく哺乳障害,体重増加不 良などを認める例は,何らかの介入が必要となる.重症 例は,気管軟化症の合併を認めたり,神経筋疾患等の乳 児であることが多い. 乳児期にみられる喉頭軟弱症のほか,後天性にみられ る喉頭軟弱症もある.神経筋疾患などの小児では,疾患 の進行,上気道感染の反復,胃食道弱流や嚥下障害など により,声門上構造の軟化や声門上部粘膜の浮腫が見ら れるようになり,吸気時の喘鳴が出現することがある. この場合は,成長に伴う自然緩解は見込めないことが多 い. Ⅰ.喉頭軟弱症の診断 まずは症状の発症時期および症状の程度を確認する. 一般的には,出生後しばらくしてから徐々に発症する吸 気性の喘鳴であり,哺乳時や啼泣時に著明となり,仰臥 位で悪化することが多い.喉頭軟弱症を疑った場合は, 喉頭内視鏡検査を実施するが,乳児では啼泣があり,喉 頭の動きも速く所見の見逃しが起こりやすいため動画の 録画が必須である.吸気時の声門上部構造の喉頭内への 陥入により診断を確定するが,睡眠時などでは所見がは っきりしないこともある.また,特に重症例では喉頭軟 弱症に合併する可能性がある声門下狭窄等の所見の有無 の確認も重要である.喉頭内視鏡所見による,声門上部 構造の陥入部位で安岡は以下の4つに分類している2)3) . この中で,披裂型が最も多い. a喉頭蓋型(epiglottic type): 喉頭蓋が後屈し喉頭内 へ陥入
b披裂喉頭蓋ひだ型(aryepiglottic fold type): 披裂喉 頭蓋ひだが短縮し側壁が陥入 c披裂型(arytenoid type): 披裂が浮腫上で余剰粘膜 が喉頭内に陥入 d合併型(combined type) 次に,重症度の診断を行う.吸気性喘鳴以外の症状が 認められない例は軽症,咳やむせこみ,哺乳障害などを 認める例は中等症,無呼吸やチアノーゼ,肺性心などを 認める例は重症である.ほとんどは軽症∼中等例で,重 症例は10%以下と考える. Ⅱ.喉頭軟弱症と嚥下障害 喉頭軟弱症の乳児の約半数に嚥下障害を認めるとさ れ,内視鏡検査時には喉頭軟弱症の所見だけではなく嚥 下の状態も確認しておく.喉頭軟弱症の重症度による嚥 下障害の合併頻度に違いはないと報告されている1) .ま た,中等度∼重度の喉頭軟弱症症例では,胃食道逆流症 (GERD)を合併する例が多いことが報告されている1)4) . GERDによる粘膜の浮腫が症状を増悪させている可能 性もあり,疑われる症例では GERD の評価も行う. Ⅲ.喉頭軟弱症の治療方針 ほとんどの症例は成長とともに声門上部構造の脆弱性 は改善し,1歳過ぎには自然に症状は軽快するために, 経過観察だけでよい.吸気性喘鳴を認めるだけの軽症例 であれば,1カ月後に確認し,改善傾向∼不変であれ ば,3カ月後の確認でよいと考える.吸気性喘鳴に加え て哺乳量の減少や体重増加不良を認める中等症例でも, 哺乳回数を増やしたり,哺乳時や寝ているときの体位の 調整等の工夫を行ってもらうことにより,改善は見込め る.同時に,GERD の合併も考慮し,プロトンポンプ 阻害薬(PPI)やヒスタミン H2 受容体拮抗薬の投与を 検討する1)4)5) .無呼吸やチアノーゼを認める場合や,外 来による指導だけでは十分な哺乳量が確保できないよう なやや重症な症例の場合は,入院加療を検討する.入院 後は SpO2モニターを装着する.哺乳量の減少,体重増 加不良があっても,SpO2低下が著明でなければ,まず は経管栄養を併用して,体重増加を図る.成長により改 善が期待できる疾患であり,これだけでも有効なことが 多い.無呼吸や SpO2低下が著明であれば,非侵襲的陽 圧 換気療法(noninvasive positive pressure ventilation : NPPV)の使用を検討する.NPPV を用いることにより, 気管挿管を回避できる例もあるので,中等症∼重症例で は小児科と連携して対応する. 中等症∼重症例で上気道炎などを契機に急激に悪化し た場合は,気管挿管が必要となる.上気道炎の治療後に 抜管可能であれば,その後は保存的治療を継続する.手 術は,抜管困難な場合,上記保存的治療に反応しない 呼吸困難または摂食困難を有する患者,またはチアノー ゼ,無呼吸がみられるような重度の喉頭軟弱症に対して 適応となる.一般的には,ほかの合併症がない例では手 術を要することはごくまれであり,手術を要するような 例では神経筋疾患等や気管軟化症を合併している可能性 も考慮すべきである. 手術として声門上部形成術が実施されるが,術式は病
日耳鼻 124―809 〔専門医スキルアップ講座〕 型分類に応じて選択する.披裂型では,披裂部の余剰粘 膜をレーザーやマイクロデブリッダー等を使用して切除 する.披裂喉頭蓋ひだ型では,披裂喉頭蓋ひだの短縮し た部分の粘膜を CO2レーザーなどで切開する,喉頭蓋 型では喉頭蓋つり上げ術が適応となる. 一般的には先天性に見られる疾患ではあるが,神経筋 疾患の児などでは病状の進行とともに発症した喉頭軟弱 症は,自然改善は期待できないことが多く,喉頭軟弱症 による気道症状の増悪があれば,声門上部形成術あるい は気管切開術などが適応となる.呼吸障害が著明で嚥下 障害も伴い,嚥下性肺炎を反復しているような場合は喉 頭気管分離術も検討する. 参 考 文 献
1)Simons JP, Greenberg LL, Mehta DK, et al : Laryngo-malacia and swallowing function in children. Laryngo-scope 2016 ; 126 : 478―484.
2)原 浩貴, 津田潤子 : 喉頭軟弱症. 小児耳鼻咽喉科【第 2版】. 日本小児耳鼻咽喉科学会 編, 金原出版 ; 2017: 284―286頁.
3)安岡義人 : 喉頭軟弱症. JHONS 2011 ; 27 : 1951―1955. 4)Carter J, Rahbar R, Brigger M, et al : International
pedi-atric ORL group(IPOG)laryngomalacia consensus rec-ommendations. Int J Pedetr Otorhinolaryngol 2020 ; 86 : 256―261. 5)井上真規, 折舘伸彦 : 難治性喉頭軟弱症. JHONS 2018 ; 34 : 1573―1576.