氏 名 菅又 渉 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博乙 第 71 号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年12月18日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第2項該当 専 攻 名 博士課程医学領域
学 位 論 文 題 名 The combined assessment of flow-mediated dilation of the brachial artery and brachial-ankle pulse wave velocity improves the prediction of future coronary events in patients with chronic coronary artery disease(血流介在血管拡張反応と 上腕-足首間脈波伝播速度の評価を組み合わせは、冠動脈疾患患者 にて将来の冠動脈疾患の予後予測を向上させる。) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 範 江林 委 員 准教授 新藤 和雅 委 員 講 師 飯野 弥
学位論文内容の要旨
論文内容要旨 (目的) 非侵襲的検査は、心血管イベントのリスクを評価するために有用であることが示されており、日常 臨床での応用も期待されている。近年の報告では、頸動脈粥腫の定量的評価(IMT; intima-media thickness)、血管の弾力性を評価する上腕-足首間脈波伝播速度脈波伝播速度 (baPWV; brachial ankle pulse wave velocity)や血管の内皮機能を評価する血流介在血管拡張反応(FMD; flow mediated dilation)が含まれる。これらの血管検査は、それぞれが単独で心血管イベントの予測因子となるこ とが多数報告されている。しかしながら、各種検査を古典的な危険因子に組み合わせることで心血管 イベントの予測能が更に向上するかどうかの検討についての報告は少ない。更に、IMT, PWV, FMDを 組み合わせた場合、どの組み合わせが最も強力な心血管イベントの予後予測因子かも不明である。 そこで我々は、慢性冠動脈疾患患者においてIMT,baPWV, FMDを計測し、これらの組み合わせが慢性 冠疾患患者において、将来の冠動脈イベントの予後予測に対し追加的な効果があるか検討した。 (方法) 2002 年 1 月 1 日から 2010 年 3 月 31 日までに山梨大学附属病院循環器内科にて安定冠動脈疾患で 入院した 940 例を対象に入院中に FMD, baPWV, IMT の計測を行った。症例登録後は、当院外来もしく は他院外来にて定期的に経過観察とし、最大 102 ヶ月間経過観察を行った(平均 64±30 ヶ月)。試験 エンドポイントとしては、心臓死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症を含む複合心イベントとした。(結果) 経過観察中 923 人をフォローすることができた(除外患者;連絡不明 7 人、非心臓死 10 人の患者)。 116 人に冠動脈イベントが認められた(心臓死;29 人、非致死的心筋梗塞;46 人、不安定狭心症; 41 人)。イベント群と非イベント群を比較したとき、イベント群において、年齢が高く (67±11 vs.65±12 歳,p<0.05)、LDL コレステロールが高値 (122 vs.110 mg/dL, p<0.05)であった。また、 糖尿病と多肢病変患者の頻度が高かった(糖尿病;39% vs.32%,p<0.05, 多枝病変;58% vs.38%, p<0.05)。 FMD と baPWV には相関関係は認められなかったが(r= -0.06、p = 0.07)、IMT と FMD(r = -0.13、 p = 0.02)、IMT と baPWV(r = 0.23、p = 0.01)には有意相関関係が認められた。
将来の冠動脈イベントの予測に関し多変量 cox hazard proportional analysis にて解析すると、FMD, baPWV,IMT は古典的予知因子に対して独立した予知因子であった。さらに、C-statistics による解 析にて、FMD と baPWV の組み合わせは、FMD、baPWV 単独や FMD と IMT、baPWV と IMT の組合わせより も ROC 曲線下面積(AUC)において面積の増大を認めている。
また、純再分類改善度(NRI:net reclassification improvement)と統合分別改善度(IDI: integrated discrimination improvement)による解析においても FMD と baPWV の組み合わせは、IMT や FMD、IMT や baPWV の組合せよりもより大きな再分類(NRI 0.47 , p<0.01)や分別能力(IDI 0.04, p<0.01)が あることが認められた。
(考察)
今研究において我々は従来の報告と同じように、単独での FMD と baPWV は、冠動脈疾患患者におけ る 2 次性の冠動脈イベントの独立した予測因子である事をしめした。さらに、今研究では FMD と baPW の組み合わせがさらに診断能力の指標である c-statistics, NRI, IDI において、従来の危険因子と 比較して有意な診断能力の増加をします事ができた。このことは、FMD と baPWV それぞれは、単独で 冠動脈イベント予知因子として有用だが、組合わせることによって更に冠動脈イベント予測能を向上 することを示した。 PWV は血管壁の構造上の変化を反映し、FMD は血管の内皮機能の機能を反映し、IMT は頸動脈のプ ラークの進展をみている。それぞれの評価法は動脈硬化における血管の変化を色々な方向から観察し ており、全ての血管が一様の変化を示しているものではない事を示している。今研究で示された FMD と baPWV の組み合わせの有用性が比較的に高かった理由の詳細は明らかでないが、FMD と baPWV にお いては相関関係が少なかった事が一部関与している可能性があると考えられた。より関連の少ない動 脈硬化の非侵襲的検査を組み合わせる事で、お互いが補完的な役割を果たし、組合わせることにより 単独でのリスク評価するよりも優れたリスク評価となるのではないかと考えられた。 (結論) 冠 動 脈疾 患 患者 に おい て 、FMD と baPWV は 古 典 的 な 危険 因 子に 対 して 独 立 した 予 知因 子 で あ り 、 この 組 み合 わ せは 、 FMD、 baPWV や IMT 単 独 や 他の 組 合せ よ りも 2 次 性 の 冠 動脈 イ ベ ン ト の 予測 可 能性 を 向上 さ せ る事 が 認め ら れた 。 こ のた め 、安 定 した 冠 動 脈疾 患 患者 に お い て 、 将来 の 心イ ベ ント の リ スク 評 価に お いて FMD と baPWV の 組 合せ を 加 える こ とは 、 リ ス ク の 層別 化 に有 用 であ る と いう こ とが で きる 。 (文字数 2005 文字)