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メゾスコピック系の物理
(
物理総合
)
上智大学理工学部物理学科 大槻東巳
2005
年
5
月
25
日
目 次
1 はじめに 1 2 量子ドットとクーロンブロッケード 2 3 Aharonov-Bohm 効果 31. はじめに 1
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はじめに
物理総合の一回目で、系の大きさがサブミクロンになると表れる新しい現象につ いて紹介した。系の大きさがサブミクロンになると、低温で電子の位相緩和長lφよ りも系が小さくなりうる1。また、電子の移動による静電エネルギーがエネルギー準 位と同程度以上になる。このために電子個々の粒子性、および波動性がダイレクト に観測できるのである。これらの現象をまとめておく。 系の特徴的な長さをL,弾性散乱長を leとする。バリスティック系とは電子が弾 性散乱を受けずに系の端から端まで伝導する現象で,L < le< lφの領域を指す。拡 散系とは電子が系の端から端まで到達するのに弾性散乱が複数回起こる場合である (le< L < lφ)。 1. バリスティック系の物理 (a) コンダクタンスの量子化; 狭い領域 (数十 nm) を通る伝導を調べると、コ ンダクタンスが 2e2/h の整数倍に量子化される現象。 (b) クーロンブロッケード; 系を小さくするにしたがって,キャパシタンスC が小さくなり,e2/2C が電子の量子力学的な準位間隔よりも大きくなって しまう。このため、電子が先に一個キャパシターに入ると、もう電子は キャパシターに入れなくなる現象。これは電子一個でスイッチを作る可 能性を示唆している。 2. 拡散系の物理 (a) Aharonov-Bohm効果;電子が磁束を囲んで運動すると,たとえ電子が磁 場にふれていなくても干渉パターンを示す。この干渉により電流に振動 がみられる。 (b) 普遍的なコンダクタンスの揺らぎ;メゾスコピック系のコンダクタンス は磁場をかけるとその試料独特のパターンを示す。これは再現性がある のでノイズではない。このパターンを磁気指紋と呼ぶ。また、この揺ら ぎの大きさはコンダクタンスの絶対値や試料の形状には依存しないので、 普遍的コンダクタンスの揺らぎと呼ばれている。 (c) 量子カオス;古典カオスとは初期条件の違いがその後の運動に大きな,し かも予測不可能な影響を及ぼす現象である。量子力学は Schr¨odinger方程 式を解くだけなので、このようなカオス現象は期待されない。しかし、こ うしたカオス系のなごりがメゾスコピック系には残っており、カオス形状 の系はあたかもランダム系のように振る舞う。これが量子カオスである。 1位相緩和長は概念的に難しいかもしれない。たとえば Young の 2 重スリットの実験でスリット 幅が大きすぎるといろいろな位相の光が混じってしまい、干渉パターンが見えなくなるように,電子 も長く走りすぎると,色々な位相の波動が混じってしまうと思えばいいかな?2. 量子ドットとクーロンブロッケード 2 (a) (b) バリスティック系の物理は主に電子の一つ一つの粒子性に起因したもの,拡散系 の物理は電子の波動性に起因したものである。この 2 回目の授業では,大学 3 年生 のはじめの段階で理解できると思われる、クーロンブロッケードと AB 効果につい て述べよう。これらは電子の粒子性、波動性が表れる典型的な現象である。
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量子ドットとクーロンブロッケード
サブミクロンの小さな領域を作り、これに端子をつけたのが量子ドットである (図 a)。ドットの右側にはμr =EF+eV の化学ポテンシャルをもった端子が、左側には μl = EFの端子がついているとする。ドットが有限のため、その中には離散的なエ ネルギー準位が形成されているとする (図 b)。 この場合、左の熱浴とドット領域のトンネル率は Γl/¯h、右の熱浴とドット領域の は Γr/¯h であるとする。 十分低温ではフェルミエネルギー付近の状態と結合したドット内の状態が共鳴ト ンネリングを示す。共鳴トンネリングとは右の状態と左の状態がある有限の領域で 分離しているとき、その有限領域の離散的なエネルギー準位に左右の状態のエネル ギーが一致するとき、共鳴的に電流が流れる現象である。 さて問題は共鳴がおこるE0の値、もしくはEFの値である。E0はドット中の準位 でこれはランダムなので、EFを変えていくとランダムな間隔で共鳴がおきそうであ る。ところが量子ドットのような小さい系の場合、そうはなっていない。このドッ3. Aharonov-Bohm効果 3 ト中に電子がN 個詰まっているとその静電エネルギー U(N) は U(N) = (Ne)2 2C − NeVg (1) となる。通常はこの (Ne)2/2C の項は無視できるが、キャパシタンス C が極端に小 さい場合、この項が効いてくるのである。そこでこのように考えよう。ドットの中 にN − 1 の電子があったとする。熱浴から電子が飛んできてドットの中の 1 電子準 位EN に電子が入り、ドット中の電子がN 個になったときのエネルギーの保存則は EF+U(N − 1) = EN +U(N) (2) となる。これより EF =EN + (2N − 1)e 2 2C − eVg (3) となる。さて、ゲート電圧を変えていくと、今度は EF =EN+1+ (2N + 1) e 2 2C − eV g (4) で共鳴が起こることになる。結局、二つのゲート電圧の差 ΔVgは eΔVg = (EN+1− EN) + e 2 C (5) となる。さて、eC2 が典型的なエネルギー準位間隔より十分大きければ、この間隔は e2/C という等間隔になるはずである。しかもスピン縮退はとける。またその間隔は 1電子準位の間隔よりもはるかに大きくなっている。これがクーロンブロッケード とよばれる現象である。 実験的には、Vgを変えてEF一定でコンダクタンスを測定する。図に見事な実験 の一例を示す。
3 Aharonov-Bohm
効果
こんどは電子の波動性が表れる AB 効果について述べよう。 補足:磁場中の荷電粒子のハミルトニアンについて磁場中の荷電粒子のハミルトニ アンをここで導出しておく。まずラグランジアンL は L = m ˙r2 2 − qφ(r) + q ˙r · A(r) (6) となることを示す。実際、ラグランジュ方程式 d dt ∂L ∂ ˙x − ∂L ∂x = 0 (7)3. Aharonov-Bohm効果 4 を計算すると、 ∂L ∂x =−q ∂φ ∂x +q ˙ x∂Ax ∂x + ˙y ∂Ay ∂x + ˙z ∂Az ∂x , d dt ∂L ∂ ˙x = d dt(m ˙x + qAx) =m d2 dt2x + q ∂ ∂tAx+ ˙x ∂ ∂xAx+ ˙y ∂ ∂yAy+ ˙z ∂ ∂zAz こうして、 md2 dt2x + q ∂φ ∂x+q ∂ ∂tAx+ ˙y ∂Ax ∂y − ∂Ay ∂x ˙ z ∂Ax ∂z − ∂Az ∂x = 0 をうる。 E = −gradφ(r) − ∂t∂ A , B = rotA (8) を用いて、 md2 dt2r = q [E + v × B] (9) となる。 ラグランジアンからハミルトニアンを求めるにはまず、正準運動量を pdef = ∂L ∂ ˙r (10) から、定義する。ラグランジアンを代入すると p = m ˙r + qA となる。ハミルトニアンは H = p · ˙r − L (11)
3. Aharonov-Bohm効果 5 なので、 H = (m ˙r + qA) · ˙r − L = m ˙r2+q ˙r · A − m ˙r2 2 − qφ(r) + q ˙r · A(r) = 1 2m(p − qA) 2+qφ(r) をうる。 この場合、Schr¨odinger方程式の解はベクトルポテンシャルがないときの解をψ0(r) として ψ(r) = ψ0(r) exp −ie ¯ h b a A(r )· dr (12) とかける2。 ここで図のような形状で電流を測定したとする。(電流はもちろん、電子の波動関 数によって運ばれている。) このとき、経路 A と経路 B を通る電子の波動関数は ψA(r) = ψ0,A(r) exp −ie ¯ h b a A(r A)· drA (13) ψB(r) = ψ0,B(r) exp −ie ¯ h b a A(r B)· drB (14) となり、左 (図の a) から来た波が二つに分かれ多後、再び右で交わる(図の b)と きの干渉は ψA(rb)∗ψB(rb)∝ exp ie ¯ h b aA(rA)· drA exp−i¯heabA(rB)· drB = exp ie ¯ h( b aA(rA)· drA− b aA(rB)· drB) (15) 2こうかけるからと言って磁場のかかっている系の問題がすべて解けるというわけでない。この式 が成り立つのはabA(r)· drが一価関数のときだけである。たとえば簡単な一様磁場の場合でもこ の一価関数という仮定は満たされていない。
3. Aharonov-Bohm効果 6 となる。後者の積分はリングを一周する積分になる。よって、干渉項は Δθ = e ¯ h CA(r) · dr = e ¯ h dS · B = e ¯ hΦ (16) となる。Φ は磁束である。 図は実際に行われた実験結果で、確かにコンダクタンスにきれいな振動が見ら れる。 位相差がちょうど 2π になるところは Φ = h/e であり、これは磁束量子と呼ばれ る基本的な量である。 この AB 効果が観測されるためには 1. リングを作っている線が細く一次元的に扱えること 2. 電子波の位相が保たれていること が必要なので、メゾスコピック系で初めてみられるのである。 これらはメゾスコピック系の物理のほんの一部である。3 年生のはじめでもわか る話に限って上の効果を説明した。量子力学、統計物理、固体物理を勉強していけ ばより面白いメゾスコピック現象を理解できるようになるがこれは後のお楽しみ。