奈良教育大学学術リポジトリNEAR
自己診断記憶尺度と記憶能力の関係
著者 豊田 弘司, 渡邉 巌
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 28
ページ 109‑119
発行年 1992‑03‑01
その他のタイトル The relation between the self‑report scales for memory and the ability of memory
URL http://hdl.handle.net/10105/6775
自己診断記憶尺度と言己憶能力の関係‡
豊田弘司・渡遣 巌
(心理学教室)
要旨:言己憶活動に関する質問項目を48項目作成し、107名の大学生を対象とす る調査を行い、実際の記憶テスト成績との関係を検討した。質問項目について 因子分析を行った結果、検索失敗因子、言己憶効率因子及び情報保持の工夫因子
という3つの内的一貫性のある因子が抽出され、自己診断記憶尺度として21項 目が選ばれた。因子に対応する質問の得点を各尺度得点として、単語自由再生 テスト・数唱(順唱)テスト及び文章記憶テストの得点との関係を検討しれ その結果、記憶効率因子と順唱テスト、及び検索失敗因子と文章記憶の関係が 示され、記憶成績の上位群と下位群での違いが、いくつかの質問項目に認めら
れた。
キーワード:自己診断記憶尺度、記憶テスト、因子分析
Schmeck,Ribich&Ramanaiah(1977)は、学習活動を記述している文を因子分析を用いて 整理し、4つの因子に分かれる62項目文からなる学習過程インベントリーを作成した。そして、
この4つの因子をそれぞれ下位尺度として、それぞれの得点と偶発記憶量や意図記憶量との関係 を検討している。その結果、因子の1つである事実の保持(Fact retention)と偶発記憶量との 間には有意な相関を見いだし、被験者の自己診断と実際の記憶成績の関係が示された。また、豊
田(1991)は、Schmeckらのインベントリーの日本版を作成し、小学6年生において、記憶に関 わる検索の因子尺度得点が学業成績と関係することを示している。学業成績に記憶能力以外の認 知能力も反映されているが、記憶に関する被験者自身の自己診断がその本人の記憶能力と関係し ている可能性を示唆するものと考えられよう。
近年、記憶方略などの記憶活動に関する多くの実験的研究が行われているが、これらの記憶活 動がどの程度、実際の記憶テストでの成績を予言できるかについては、ほとんど検討されていな
い。従来の記憶研究は、実際の記憶テストを実施することによってその能力を査定しており、被 験者自身の自己診断による記憶能力の査定は、ほとんどなされていなかったのである。楠見
(1988)は、被験者の自己診断と実際の記憶成績との関係を検討したわが国で唯一の研究である。
彼は、記憶に関する質問項目を30項目作成し、そこでの質問への回答と、単語の記憶、図形の記
}The re1ation between the se1f−report sca1es for memory and the abi1ity of memory.
giroshi TOYOTA and Iwao WATANABE
一(Department of Psycho1ogy,Nara University of Education,Nara)
一109一
憶、数詞の記憶及びカナの記憶テストでの得点との関係を検討している。しかし、残念ながら、
被験者の自己診断と記憶テストの得点との関係に明確な対応関係が見いたされなかった。すなわ ち、自分の記憶能力を高く診断した者が必ずしも実際の記憶テストで得点が高いとは言えなかっ たのである。そこには、自分の記憶能力を正しくモニター(監視)できるメタ記憶の能力が反映 されているのかもしれない。しかし、メタ記憶による解釈をする前に、従来の記憶研究で扱われ た記憶活動を幅広く取り上げた自己診断のための質問紙を作成する必要があるであろう。楠見の 研究で用いられた質問項目は、主に自分の記憶能力について尋ねる項目であり、記憶活動におい て記憶成績との関係が強いと考えられる記憶方略についてはほとんど扱われていない。また、記 憶能力を査定する記憶テストが、大学生にとって容易すぎたために言己憶成績の差がなくなり、そ
のために質問紙による自己診断との明確な対応が見られなかった可能性もないとは言えない。
そこで、本研究では、従来の記憶研究の実験的成果を参考にして、記憶方略を中心とする記憶 活動に関する48の質問項目を用意した。また、記憶テストは、大学生にとっても比較的困難であ
るような後述する3つの記憶テストを用いた。そして、上記の質問項目によって得られた大学生 自身の自己診断と、実際に測定された3つの記憶テストの成績との関係について検討することを
目的とした。
方 法 調査対象
2つの教育系大学に所属する大学生107名(男子35名、女子72名)を本研究の被調査者及び被 験者とした。これらの学生の平均年齢は、19歳3か月(範囲18歳5か月〜21歳6か月)であった。
材 料
記憶活動に関する質問紙 記憶活動に関する質問紙は、表1に示したような質問項目48項目か ら構成されていた。これらの質問項目は、従来の記憶の実験的研究から示唆される記憶活動をで きるだけ大学生にわかりやすい表現になるように著者によって作成されたものであった。そして、
これらの項目の内容は、記憶の意欲、検索、記憶の工夫、記憶の型などに対応するようなもので あった。なお、記憶の型に関する3項目を除く、45項目中ほぼ半数の22項目は逆転項目にされた。
被調査者の回答用紙は、上部に氏名と学籍番号の欄、そして、その下に項目番号(1〜48)とそ れに対応する回答欄(「はい」「いいえ」)が印刷された用紙が用いられた。
単語白由再生テスト 藤田(1975)による、4カテゴリー(動物、乗物、野菜、文房具)×8 項目(計32項目)の構造の記銘リストが用いられた(動物カテゴリーでは・ネコ、ゾウ、ウサギ・
アヒル・イヌ・ウシ・ネズミ及びライオン・乗物カテゴリーでは・フネ・ヒコウキ・キシャ・ヘ リコプター、トラック、ジテンシャ、バス及びジドウシャ、野菜カテゴリーでは、ニンジン、ナ ス、ハクサイ、サツマイモ、ダイコン、キュウリ、カボチャ及びネギ・文房具カテゴリーでは、
ペン、ホン、インク、ソロバン、クレヨン、フデ、エンピツ及びモノサシ)。このリストに含ま れる各語は、1話ずつあらかじめ同じカテゴリーに含まれる語が続けて呈示されないように実験
表1 自己診断記憶尺度に含まれる21項目の因子構造
因子負荷量 項目番号/質問項目
1 2 3 1.検索の失敗 (α20=.72)
(25) 係の仕事や約束などを忘れてしまうことがよくありますか。 .66 (14) 忘れ物は多、・猛うですか。 .65
(26) 提出物の期限を忘れて遅れて出すことが多いですか。 .62
(44) 頼まれたことをうっかり忘れてしまい、失敗することがよくありますか。 .61 (12) 大切な用事をよく忘れることがありますか。 .58
(27) 決められた当番(日直、掃除等)をうっかりすっぽかしたことがありますか。 .55
(6) ど忘れが多いほうですか。 .52
46 何かし低けれぱいけな、、ことがある時、その事はほとんど忘れませんか。 .42
2.;己{賢効率 (α20=.73)
21 友達の名前を覚えるのは早かったですか。 一.02
(4) 人の名前をお.ぼえるのが苦手ですか。 .08(5) 確かに覚えたはずなのに、なかなかそれが思い出せないことが多いですか。 .21 (20) スポーツのルールを覚える時など、実際にやってみな〜・と覚えられませんか。 一.09 7 比較的よく知っているひとと、見知らぬ場所で会った時にすぐ名前が出てきますか。一.04 3.情報保持の工夫 (α20=.60)
9 図や表を作って覚えることがありますか。 .14
13 ときどき、授業で習ったことを思い起こしてみますか。 一.05
30 自分が他人に言ったことは、他人から言われたことよりもより鮮明に覚えています 一.08 か。
45 一度やろうと決心したことはいつまでも覚えていますか。 .04 10 覚えるためのノートを作ったりしますか。 一.O0
47 一度覚えたからといって満足せずに、何回も繰り返して覚えようとしますか。 .19 16 ノートを見ると、習った時のことが思い出されますか。 一.11
48 要点を整理して、覚えようとしますか。 一.Og
寄与率(%) 13.61
一.OI
.14 一.04 一.02
.OO
一.I1.35
.32
.82
,82
.60
.59
.54
h2
一、02 .44一
一.O1 .45
.lI .40
一.16 .40 一.工3 .35
.06 .32
一.03 .39
.09 .29
一.07 一.06
一.01.03
.I6
.68
.68
.40
.36
.32
一.10 .76 .61
.08 .57 .33 一.02 .53 .29
.29 .47 .30
.08 .45 .21
.04 .43 .23 一.01 .42 119 一.18 .36 .17
13.07 10.52 37.20
者によってランダムに配列されていた。なお、この記憶テストでは、被験者に単語の書記再生を 求めるので、そのための自由再生テスト用紙も用意された。この用紙はB5版の大きさで、上述 した32項目を再生するための記入欄が設けてあり、その下に、後述する記憶方略に関する8項目 の質問に」対する回答(○、×)を言己入する欄及び質問に該当しない言己憶方略を自由に記述する欄 が印刷されていた。
順唱テスト 4桁(9−4−3−7,5−8−2−4)、5桁(7−1−5−9−3,2−5−3−4−8)、6桁
(9−4−8−7−5−3,1−5−2−6−7−4)、7桁(9−1−8−3−4−6−2,2−7−9−6−5−8−4)、
8桁(3−2−6−9−5−8−4−7,2−6・一7−3−8−4−5−9)及び9桁(3−1−6−9一ト7−8−4−
2,8−4−1−3−7−9−5−2−6)の数系列を各2数系列ずつ用い㍍
文章記憶テスト 京大NX知能検査ユ5一の日常記憶の文章を参考にして作成されたものであり、
その内容は、以下に示す通りである。
今日学校で先生は次のように言いました。
「来週の木曜日に試験をします。教科書の35ぺ一ジの 詩について から67ぺ一ジの 和歌 の 終わりのところまでを、よく勉強しておきなさい。特に文章の意味をよく覚えておきなさい。そ れから、この前に月曜日までに出すように言っておいた宿題は少し延ばして水曜日までに出せば
よろしい。」
このあとで学級会があり旅行のこと、クラス対抗リレーのこと、今月の注意事項などについて 話し合いました。その結果、今月の注意事項としては、特に「教室内の清潔」が取り上げられま
した。またみんなが楽しみにしている旅行は来月の14日、登山をすることに決まったのです。朝 7時40分に学校に集まって、50分間バスに乗り、さらに20分程歩いて、高さ1112メートルの山に 登ります。費用として885円いるので、今週の金曜日までに先生のところに持っていかなければ なりません。そしてクラス対抗リレーが来月22日の午後2時からに決まりましたので8人の選手
を選びました。
学校からの帰り道に三郎君は、お母さんから頼まれていた石けん3個と切手4枚を買うために 回り道をしましたら、和夫君や悟君と一緒になりました。三郎君は「いよいよ旅行が近づいたね。」
と話しかけました。「うん、だけど僕は試験が心配だ。」「僕もそうだ。今度の試験に備えて一緒 に勉強しようか。」「うんそうじょう。日曜日の午後1時に三郎君の家へ行こう。」というわけで、
一緒に勉強することに決まりました。
上記の文章を記銘させた後の質問項目としては、以下に示す10問が用いられた。
①宿題はいつまでに出せばよいですか。
②今月の注意事項は何ですか。
③試験は何曜日にありますか。
④特に何をよく調べたらよいですか。
⑤クラス対抗リレーは来月の何日にありますか。
⑥お母さんに頼まれた買物は何ですか。
⑦一緒に勉強するのは何曜日ですか。
⑧誰の家で勉強するのですか。
⑨旅行の費用はいくらかかるのですか。
⑩朝の何時何分に集まるのですか。
順唱テスト及び文章記憶テストも、単語自由再生テストと同じく、被験者に書記再生させる形 式であったので、そのための用紙も用意された。この用紙もB5版の大きさで、上半分には1順唱 テストの数系列を記人するための欄があり、その下に数字を覚える時にどのように覚えたかを自 由記述してもらう欄が設けられてい㍍また・下半分には・文章記憶テストの1O個の質問の答え を記入する欄が設けられており、その下に文章を覚える時にどのように覚えたかを自由記述して もらうための欄が設定されていれ
手締き
クラス単位の集団調査及び集団実験を実施した。
a)記憶活動に関する質問紙調査 上述の回答用紙を配布し、調査者が質問項目を1項目す っ読み上げ、各質問に「はい」「いいえ」のどちらかに丸印を言己入させる形式で回答させた。
b)単語自由再生課題 上述の記銘リストに含まれる記銘語を実験者が1項目すっ口頭によっ て呈示し、言己銘を求めた。32項目を呈示した後、標準的な自由再生教示を与え、再生を求めた。
再生時間は、5分であった。その後、記銘リストをどのように覚えたかにっいて、清水
(1986)の質問から表5に示す8項目を選択して質問しれ回答の仕方は、「はい」の場合には 上記の回答用紙に○印を、「いいえ」の場合には×印を記入させる方法を用いた。また、その質 問に含まれない記憶方略があれば、空欄に自由に言己述させた。
c)1順唱テスト 実験者が1秒に1数字すっ読み上げ、回答用紙にその数系列を書記再生さ せた。その後、上記のリストをどのように覚えたかにっいて、用紙に自由記述させた。
d)文章記憶テスト 上記の文章を実験者が読み上げ・その後・10間の質問に答えさせれ その後、上記の文章をどのように覚えたかについて、用紙の空欄に自由記述させた。
なお、3つの記憶テストより先に調査を実施する場合と後に実施する場合に、記憶成績におい て差が生じる可能性が考えられたので、被験者のほぼ半数には、先に記憶に関する質問紙調査を 行い、その後に3つの記憶テストを実施し(a)→b)→c)→d)の1順に実施)、残りの半数
には、先に3つの記憶テストを行い、その後に記憶に関する質問紙調査を実施した(b)→c)
→d)→a)の順に実施)。ただし、実際には、実施順による記憶成績の違いはなかったので、
後述する結果では、実樹順を込みに分析した。
桔 果
記憶活ロカに関する質問項目に対する反応(自己診断記憶尺度)
因子構造 記憶の型に関する3項目を除く45項印こ対して、主因子法による因子分析を行い、
その後、バリマックス回転を行った。ただし、複数の因子に渡って負荷量の高い項目が4項目、
一113一
どの因子に対しても負荷量の低い(.35以下)項目が13項目認められたので、これらの項目は削 除した。残り28項目に関する因子分析(バリマックス回転後)の結果、5つの因子が抽出された。
第1因子は、忘却の中でも特に検索ができずに、適切な情報がでてこない場合を示す項目に負荷 量が高いので、検索失敗因子(寄与率は10.55%)と命名し、第2因子は、記憶の優秀さに関す る項目に負荷量が高いので、言己憶効率の因子(寄与率は9.64%)と命名した。また、第3因子は、
記憶のための手段や工夫に対する負荷量が高いので、情報保持の工夫因子(寄与率は8.30%)と 命名し、第4因子は、機械的に覚えることに関する項目への負荷量が多いので、機械的暗記能力 の因子(寄与率は8.30%)と命名した。そして、第5因子は、忘れないための工夫因子(寄与率 は6.07%)と命名した。ただし、第4因子と第5因子に含まれる項目数は少なく、内的一貫性を 示すKuder−Richardsonの公式20によるα係数が低かった(第4因子がα別=.24、第5因子が α㎜=.43)。そこで、この2つの因子を構成する7項目を削除し、残り21項目を自己診断記憶尺 度として採用した。この21項目に対して改めて因子分析(バリマックス回転)を行った結果が、
表1に示されている。
下位尺度得点と記憶テストの得点との関係 上述したように、自己診断記憶尺度を構成する21 項目のうち、検索の失敗、記憶効率及び情報保持の工夫の各因子に対する項目をそれぞれ自己診 断言己憶尺度の下位尺度として、これらの下.位尺度を構成する項目の合計得点を下位尺度得点とし て算出した。これらの下位尺度得点の平均は、検索失敗尺度が5.76(SD11.97)、記憶効率尺度 が2.50(SD:1.65)、情報保持の工夫尺度が5.05(SD=1.89)であった。
単語自由再生テストでの得点(平均が18.22,SDが3.49)を目的変数、上述の各尺度得点を予 測変数とした重回帰分析を行った。単語自由再生テストでの得点は、再生された単語ごとに1点 すっを与えるので、満点は32点になる。分析の結果、いずれの下位尺度得点の標準化偏回帰係数
も有意にはならなかった(検索失敗尺度が.15、記憶効率尺度が一.01、情報保持の工夫尺度
が.06)。
次に、順唱テストの得点(平均が8.81,SDが1.91)を目的変数、止述の各尺度得点を予測変数 とした回帰分析を行った。順唱テストでの得点は、各数系列に1点すっを与え、それを合計した ものであり、満点は12点である。分析の結果、記憶効率尺度の標準化偏回帰係数が.26(t〔川剛=
2.62,P<.01)で有意であったが、検索失敗尺度の標準化偏回帰係数は一.02(t(1。・〕=一.18)、
情報保持の工夫尺度の標準化偏回帰係数は一.00(t。。。〕=一.02)で、いずれも有意ではなかっ た。したがって、順唱テストに及ぼす記憶効率の効果は有意であるが、検索失敗及び情報保持の 工夫の効果は実質的なものとはいえない。なお、このときの回帰式全体の説明率は、R呈=.06で
あり、有意ではなかった(F(・,m〕=2,33)。
検索失敗と情報保持の工夫の効果が実質的でないことが示されたので、記憶効率のみを予測変 数にして回帰分析を行った。その結果、標準化偏回帰係数が.25で有意であり(t。。ヨ〕=2.67,
P<.01)、この単回帰式の説明率はR2=.06であり、有意であった。(F(1.m=7.11,P<.01)。
さらに、文章記憶テストの得点(平均が7.59,SDが1.57)を目的変数、上述の各尺度得点を予 測変数とした回帰分析を行った。文章記憶テストでの得点は、10個の各質問に対する正答を合計
したものであり、満点は!0点である。分析の結果、いずれの下位尺度得点の標準化偏回帰係数も 有意にはならなかった(検索失敗尺度が.19、記憶効率尺度が.07、情報保持の工夫尺度が一.11)。
しかし、検索失敗尺度の標準化偏回帰係数が有意に近い値だったので、試みに検索失敗尺度得点 のみを予測変数にして、回帰分析を行った。その結果、標準化偏回帰係数が.21で有意であり
(t(』帖〕=2.15,Pく05)、この単回帰式の説明率はR㌧.04であり、有意であった(F(1.醐=
4.64, P<.05)o
さらに、単語自由再生、順唱及び文章記憶テストの合計得点(平均が34.63,SDが4.45)を目 的変数、上述の各尺度得点を予測変数とした回帰分析を行ったところ、記憶効率尺度の標準化偏 回帰係数が.26で有意であったが(一t(1冊〕=2.67,P<.01)、検索の失敗尺度得点の標準化偏回帰
係数は.05(t(1。・F156)・情報保持の工夫尺度得点の標準化偏回帰係数は.01(t(1.1〕=.10)で・
いずれも有意ではなかった。そこで、記憶効率尺度得点のみを予測変数にして、回帰分析を行っ た結果、標準化偏回帰係数は.27で有意であり(t(1冊〕=2.86,P<.0!)、この単回帰式の説明率
は、R2=.07で、有意であった(F(1.説=8.16,P<.01)。
記憶活量カに関する質問項目ごとの分析 因子分析において除いた項目も含めて以下の分析を行っ
た。
まず、単語自由再生テストでの得点(正再生数)の高かった者24名(上位群)と低かった者26 名(下位群)の両群間に、各項目において1点(「はい」と答えた反応、逆転項目では、「いいえ」
と答えた反応)の者の数に差が認められるか否かが検討された。その結果、表2に示された項目 において、κ2検定による上位群と下位群の差が認められた。順唱テストについても同様に検討 された結果、表3に示すような項目において両群(上位群24名、下位群27名)間に差が認められ た。さらに、文章記憶テストについても同様の検討がなされた結果、表4に示されている項目に おいて、両群(上位群34名、下位群26名)の間に差が認められた。
表2 単語自由再生テストにおける上位群・下位群の比較 ・
質 間 項 目
上位 下位
(N・26)(H・24) π2
(33)同じ事を繰り返し言ってしまうことが多、・ですか。 18 9 5・06ホ 69.23% 37.50%
2 電話をかける時、その電話番号を何度も頭の中で 17 10 2.83+
繰り返しますか。 65.38% 仙.67%
7 比較的よく知っている人と、見知らぬ場所で会っ 23 16 3.45+
た時にすぐ名前が汕てきますか。 88.46監 66.67%
29 教科書を見るだけで・覚えることができますか。 10 4 a +
38.46% 16.67%
(注)aはFisherの直接確率法による有意性検定
十 Pく.10 来Pく.05
一115一
表3 順唱テストにおける上位群・下位群の比較
質 間 項 目
上位 下位
(N・24)(N・27) ズ
(4)
(5)
(14)
(20)
(23)
3
21
人の名前を覚えるのが苦手ですか。
確かに覚えたはずなのに、なかなかそれが思い出 せないことが多いですか。
忘れ物は、多いほうですか。
スポーツのルールを覚える時など、実際にやって みないと覚えられませんか。
計算を頭の中だけでやるとわからなくなって・結 局紙などに書いて計算することが多いですか。
漢字を覚える時に、ノートに書いて覚えますか。
友達の名前を覚えるのは早かったですか。
13
54.17%
11
45.83監
18
75.OO%
12
50.OO%
11
45.83%
18
75.OO%
16
66.67%
8 3.16+
29,63%
4 a オ
14.81%
12 4.90オ
44.4州
7 3.一5+25.93%
4 a ま
14.81%
25 2.97+
92.59%
10 4,46オ
37.04%
(注)aはFisherの直接確率法による有意性検定
十 Pく.1O ホPく.05
表4 文章記憶テストにおける上位群・下位群の比較
(12)
(24)
(26)
35 39 43
質 間 項 日
大切な用事をよく忘れることがありますか。
つい最近調べた英単語の意味が思い出せず、辞 書を調べなおすことが多いですか。
提出物の期限を忘れて遅れて出すことが多いで
すか。
教科書に書いてある文をそのまま覚えようとし ないで・自分の言葉に直して覚えようとしてい
ますか。
テストの後、問題を順番に思い出してもう1度 問題について考えることがありますか。
復習したことが後日授業ででると、それに関係 することがすらすらと思い浮かんできますか。
太字で書かれた言葉は、細字で書かれている言 葉よりも注意して覚えようとしますか。
上位 下位
(N・34) (は・26) ズ
28
82.35完
8
23.53増
33
97,O眺
17
50,OO%
17
50.OO%
26
76.47%
33
97.06%
15 4.41兆
53.57%
O a 淋
0.OO%
22 2.99+
84.62%
20 4.52*
76.92%
19 3.27+
73.08%
一3 4.54ホ 50.00%
2− 4.34㍗
80.77%
(注) aはFiSherの直接確率法による有意性検定
十 Pく.10 ㍗Pく.05 *ホPく.O1
記憶方略の分析 本研究の目的ではないが、3つの記憶テストを実施した直後、各被験者に記 憶する際に用いた記憶方略の報告を求めた。その結果を以下に報告する。単語自由再生テストで
は、記憶方略に関する質問を行ったが、それぞれの質問に対する反応(rはい」)の頻度(人数)
及びその割合(%)が表5の右欄に示されている。なお、上述した8つの質問に該当しない記憶 方略を言己入させる欄を設けていたが、その欄に記入した被験者はほとんどいなかったので、ここ
では分析していない。順唱テスト及び文章記憶テストでは、被験者に自由記述させたが、そこで の報告が表6(順唱テスト)と表7(文章記憶テスト)に示されている。
表5 記憶方略に関する質問項目に対する回答 質 間 項 目
1.単語をひとつずつ単純に何度も繰り返しておぼえた。
2.単語を2−3個ずつまとめて何度も繰り返しておぽえた。
3.それぞれの単語についてそのイメージを思い浮かぺようとした。
4.ひとつのリストの中で単語同士を連想づげておぽえた。
5.それぞれの単語把ついて文章をつくっておぼえた。
6.リスト内のすべての単語を用いて物誌をつくっておぼえた。
7.同じカテゴリー(例えば動物や食物など)に属する単語をまと めておぼえた。
8.同じ文字や音韻を含む単語をまとめておぼえた。
人数 %
27
16
70 66 4 38−9
25,2 15,0 65,4 61,7
3.7 2,8
83.23 2.8
表6 順唱において使用した方略(自由記述したもの)
質 間 項 国
3つか4つずつ(あるいは半分ずつ)区切ってまとめておぼえた。
ξ特記桁数が多いとき}
1つずつおぽえて反復した。{特に桁数が少ないとき}
ゴロ合わせ(舳.8→ハ,91874→くいはなしetc.)
桁が増えるごとにはじめから反復した。
そろばんの玉をイメージした。
隣り合う数字の共通性(倍数や続く数etC.)
位置(何番目に何)でおぽえた。
イメージを浮かべた。
車のナンバープレートのようにしておぽえた。
電話のプッシュホンに見立てておぼえた。
頻度 %
68 50.7
23.1
8.2
7.52.2 2.2 1.5 一.5 1.5 1.5
一117一
表7 文章記憶において使用した方略(自由記述したもの)
質 閥 項 目
重要(ポイント)と思われるところのみをおぼえた。
イメージを思い浮かべた。
単語(曜日や固有名詞)に注意した。
数字に注意した。
文章の主人公になりきった。
映像(絵)を思い浮かべた。
順番に聞いたものをそのままおぼえた。
その都度言葉を反復する。
キーワードを1つ1つ決め、それに関係のある文をおぼえた。
カテゴリーに分けておぼえた。
一文ごとにおぼえる。
文章を分割しておぽえる。
カレンダーを想像して
曜日は、実際(今日は何曜日だから〜)と関連づけて 金額は、半端だなあと思っておぼえた。
頻度 % 23
19 18 14
8 6 5 4 21 1 1
−
1 1
21,9 18,I 17,1 13−3 7.6 5.7
4.8 3.8 一.9 1.O 1.0 1.O 一.O l.O 1.O
考 察
本研究の主な目的は、自己診断記憶尺度の得点と実際の記憶テストの成績の関係を検討するこ とであっれ回帰分析の結果から・自己診断記憶尺度の下位尺度である情報保持の工夫尺度は・
単語自由再生テスト、順唱テスト及び文章記憶テストのいずれの成績も説明できなかった。しか し、記憶効率尺度は順唱テストと3つのテストの合計成績を説明できたし、検索失敗尺度は、文 章記憶テストの成績を説明できれしかし、説明率が低かったので、楠見(1988)と同じく・記 憶に関する被調査者の自己診断と記憶テストの得点との間には、明確な対応関係は見いだされな かったといえよう。先にも述べたように、記憶に対する自己判断と実際の記憶の間には・被験者 のメタ記憶が影響する可能性が多いのかもしれない。また、記憶にはテストを受けた事態の影響、
そして、まだ十分な分析を行っていないが実際に被験者が用いた言己憶方略の影響も大きいであろ う。このような点を考慮して、個入の記憶能力の査定に適したインベントリーを開発するのが、
今後の課題であるといえよう。
ただし、言己憶テストの得点の上位群と下位群に差のある項目が認められたことは、興味深いと いえよう。差の認められた項目にどのような共通性があるのかは、現時点では定かではない。し かし、これらの項目をチェックすることによって、記憶成績のある程度の傾向を見きわめること ができれば、学習者の記憶能力も含めた個人差を理解するのに有用なものとなるであろう。さら に、本研究の目的ではなかったが、実際に被験者の用いた記憶方略についても成績上位群と下位 群の比較を行い、質問紙による記憶能力の推定を補う指標とすることが必要であろう。
引 用 文 献
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一1ユ9一