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− ド イ ツ 民 法 第 二 一 九 七 条 乃 至 第 三 一 〇 二 条 の 研 究

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(1)

一︑はしがき  

二︑法的性質  

三︑一般的効果︵以上二四号︶  

四︑成立−その一−︵二五号︶  

五︑成立−その二−  

六︑解消に伴う諸問題1その一−︵以上二大号︶  

七︑解消に伴う諸問題−その二−︵二七号︶  

八︑解消に伴う諸問題−その三−  

フェルレープニスの枚能飼   研究 ノ 1 卜  

︶ フェルレープニスの機能五 ︵  

− ドイツ民法第二一九七条乃至第三一〇二条の研究  

佐  藤  良  

ー225−   

(2)

 九︑あとがき︵以上本号︶

       八 解消に伴う諸問題lその三l

 無罪性の意義に関連して︑そのほか次のような問題点がある︒①解消後女が有利な婚姻をしてしまうと︑第

一三〇〇条による請求権は失なわれるか︑②解消後再び同じ男と性関係を結んだときには︑黙示の宥恕又は本条

の請求権の放棄が生じたとみるべきか︑などである︒︵出︶の問題については︑先例として︑一九五七年一月八日ニ

ッセン地方裁判所決定があり︑女の婚姻後もなお右請求権は失なわれないとしている︒本件の事実関係は︑判文

からほとんど明らかでない︒申立人X女は︑Y男に対し︑慰藉料一〇〇〇マルクを求めたのであるが︑原審区裁

判所はX女の請求を斥けた︒これに対し本決定は︑五〇〇マルクの限度でX女の請求をみとめている︒本書にお

いてY男は︑フェルレープュスの解消後︑X女は他の男と婚姻しているので︑本条による請求権は失なわれたと

主張したが︑本決定は︑右の事実によっては︑X女の慰藉料請求権は排除されないと判示した︵しかし特に詳しい

理由は述べていない︶︒②の問題については︑先例として一九五八年一二月二三日ニュルンベルク上級地方裁判所

判決があり︑解消後の性関係は︑黙示の宥恕でもなく︑請求権の放棄でもないとしている︒この事件は︑X女が

Y男に対し︑重大な事由によるフェルレープュスの解除を誘致されたとして︑コ一九九条および一三〇二条によ

り損害賠償を請求したものである︒原審地方裁判所は︑X女の請求をみとめ︵賠償順一五〇〇マルク︶︑本控訴審

もこれを支持した︒右判示のほか︑X女の解除に重大な事由があるか︑賠償額の当否などについても判示してい

る︒一三〇〇条に基づく請求である点からみて︑X女とY男の間に性関係があったことは明らかであるが︑その

−226−

(3)

㈲第二に︑本第一三〇〇条が︑女子についてのみ慰藉料請求権を認めていることは︑基本法︵(¥u乱gesetzfiir

BundesrepublikDeutschland︶第三条第二項の男女同権の規定︵﹁男子および女子は︑同権である﹂︶に違反しない

かという問題に関する判例を紹介しておこう︒この問題については︑当初は二三〇〇条の違反︵失効︶説をとる

下級審判決と︑非違反︵有効︶説をとる下級審判決が対立していたが︑一九五六年三月一〇日連邦裁判所判決が

有効説をとるにいたり︑その後は失効説をとる下級審判決はみられなくなったようである︒

 まず︑失効説をとった判決として︑さしあたり︑一九五四年三月三〇日ニュルンベルク区裁判所判決と︑一九

五四年五月二四日ハムブルク地方裁判所決定︑一九五四年一〇月一四日キール地方裁判所判決︑を紹介しておこ

う︒一九五四年三月三〇日ニュルンベルク区裁判所判決の事実関係及び訴訟の経過は明らかでないが︑その判旨

は︑一三○○条が婦人にみとめた特権︵慰藉料請求権︶は︑基本法三条二項によれば最早や認められないというも

−227−

(4)

のであり︑その理由として︑民法施行以来今日迄女性が社会的のみならず生物学的にも非常に向上してきたこと

を挙げている︒すなわち︑女性の肉体的・精神的な変化は︑今日の女性を殆んどあらゆる分野において男性に互

せしめるに至った︒そしてこの変化は︑性的分野においても止まるものではない︒したがって︑男女の自然的差

異の調整のために一三〇〇条の保持が必要であるというような主張は︑もはや唱えることができない︑というの

である︒次の一九五四年五月二四日ハムブルク地方裁判所決定も︑一三〇〇条が基本法三条二項に違反し︑それ

ゆえ一九五三年四月一日以降は︑もはや現行法ではない旨を判示したものである︒その趣旨も︑今日では︑婦人

の職業的経済的生活上の地位につき︑特別の配慮をする必要がなくなったというものであるが︑事実関係につい

ては︑判文上詳かでない︒なお︑一九五四年一〇月一四日キール地方裁判所判決は︑訴訟の経過も事実関係も判

文からは明らかでないが︑その趣旨は︑本一三〇〇条が男女同権の原則に反するが故に︑もはや現行法でないと

判示したものである︒

−228−

(5)

 さて︑これに対する有効説の判決としては︑右一九五六年連邦裁判所判決のほかに︑次のようなものがある︒

すなわち︑一九五三年九月二五日ミュンヘン地方裁判所判決︑一九五四年二月一〇日コブレンツ上級地方裁判所

決定︑一九五四年六月一五日シュトロームベルクーフンスリュク区裁判所判決︑一九五四年コ一月二日連邦裁判

所判決︑一九五五年三月一〇日デュイスブルク地方裁判所決定︑一九五五年六月一六日ニュルンベルク上級地方

裁判所判決︑一九五五年七月一二日デュセルドルフ上級地方裁判所判決︑一九六四年二月六日ハムブルク上級地

方裁判所判決︑などである︒順次︑事実関係と判旨を紹介しておこう︒

 一九五三年ミュンヘン地方裁判所判決は︑前述の如く︵本誌二七号一国四頁︶︑婚姻中にX男と性関係を生じた

Y女が︑離婚後X男とフェルレープュスをなし︑右フェルレープュス解消後のX男からの訴につき︑Y女から反

訴として慰藉料を求めたものである︒争点の一つは︑かかる場合にY女は一三〇〇条の要件たる無陽性を主張で

きるかという問題︵結論として判決は否定する︶であったが︑他の一つは︑本一三〇〇条の有効性であった︒判決

は︑女性の性的名誉は男女の生物学的差異にもとづいて︑今日もなお︑特別の保護を要するので︑本一三〇〇条

は︑基本法三条二項の発効後も有効であると述べる︒

 一九五四年コブレンツ上級地方裁判所決定の事実関係も︑さきに述べたことがある︵本誌二七号一三九頁︶︒X

女がY男に対し︑慰藉耕二〇〇〇マルクを含めて︑二二〇〇マルクの支払を求め︑本決定はその請求を斥けた︒

― 229 ―

(6)

X女は︑Y男とのフェルレープニス以前に︑他男と性関係をなしていたところから︑X女の無辱性が争われ︵判

決は無辱性を否定した︶︑同時に︑本条の合憲性が問題となった︒判決は︑本条が男女同権の原則に反せず︑した

がって有効であると判示した︒

 一九五四年シュトロームベルクnフンスリュク区裁判所判決は︑訴訟の経過も事実関係も判文からは不明であ

るが︑婚姻前の性交は︑女に対して︑精神的・肉体的に︑男に対するとは異なった効果を及ぼす故に︑本一三〇

〇条は︑基本法三条二項によって排斥されない旨を判示したものである︒

 一九五四年連邦裁判所判決は︑当事者が︑フェルレープニスをなし︑長期間規則的に性関係を結び︑しかるの

ちに︑Y男が右のフェルレープニスを解消したものである︒本判決は︑実は一三〇〇条の有効性には直接触れて

いない︒この事件において︑X女の請求権は︑Y男の解除により︑遅くとも一九五二年一月には発生していた︒

ところで︑基本法そのものは︑当時既に発効していたが︑その一一七条一項により︑右基本法三条二項に反する

規定も一九五三年三月三一日迄は︑ひきつづき効力を有するとされていた︒したがって︑X女の請求については︑

一三〇〇条は現行法として適用されるのである︒結果としてX女の一三〇〇条にもとづく請求は認められたわけ

だが︑右にみた如く︑判決は一三〇〇条の合憲性に直接言及はしなかった︒したがって︑これを有効説に立つ事

例として紹介するのは適当でないが︑関連する判決として参考までに紹介した次第である︒

 一九五五年デュイスブルク地方裁判所決定は︑事実関係不明であるが︑慰藉料請求権は両性の平等に反しない

旨を判示したものである︒また︑一九五五年ニュルンベルク上級地方裁判所判決も︑事実関係不明であるが︑慰

藉料請求権は︑男女平等の原則に反せず︑一三〇〇条は︑基本法三条二項の発効後も︑変更なく適用される旨を

−230−

(7)

判示したものである︒さらに︑一九五五年デュセルドルフ上級地方裁判所判決も︑事実関係は明らかでないが︑

一三〇〇条が︑男女平等の原則と一致し︑一九五三年以降も有効である旨を判示した︒

 さて︑この問題に関する重要な先例となった一九五六年三月一〇日連邦裁判所判決を︑次に紹介しよう︒本判

決の事実関係は︑さきに述べたことがあるが︵本誌二六号一二九頁︶︑X女とY男が性関係を生じた後にフェルレ

ープュスをなし︑しかる後に不和によってフェルレープュスを解消し︑その後両者とも他の男女と婚姻している

というものである︒X女は︑一二九八条と一三〇〇条にもとづき︑財産的損害として一三〇〇マルク︑慰藉料と

してI〇〇〇マルクの請求をなし︑第一審は︑財産的損害賠償三七〇マルクと慰藉料一〇〇〇マルクをみとめ︑

原控訴審は慰藉料を六〇〇マルクとした︒Y男から上告して︑上告棄却されたものである︒本連邦裁判所判決に

おける判旨は二点あり︑その一つであるX女が財産的損害としたY男の訪問に対する饗応費が一二九八条の財産

的損害に含まれるかという問題については先に紹介した︵結論として肯定︶︒他の一点が︑一三〇〇条の合憲性に

関するものであった︒結論から言うと︑本判決は︑一三〇〇条の規定が︑男女の法的平等の原則に抵触しないと

判示した︒次にその判文を紹介しておく︒

  ﹁X女の慰藉料請求権について言えば︑本法廷は︑ドイツ民法第一三〇〇条が︑基本法第三条二項に反しない

との上級地方裁判所の見解に賛成である︒この規定の背景にある意図は︑理論的・イデオロギー的なものではな

く︑実際的・人間的なものである︒婦人の法律的な地位は︑彼女が︑彼女の存在の外的な︵とくに経済的・職業的

・社会的︶諸条件に関連して︑彼女の自我を実現し︑また彼女の存在様式を守りながら彼女の個性を自由に展開

することを︑男性よりも困難ならしめないようにあるべきである︒したがって︑正当に理解された平等の原則

−231−

(8)

は︑生来の生物学的・精神的な個人の特性に対する顧慮を単に排除しないのみならず︑婦人の特殊な存在様式の

無視が︑前述の同権の目的の達成を挫折させ又は脅かし︑この目的の実現に関して婦人に損失を及ぼすようなと

ころではどこでも︑かかる顧慮を命ずるのである︒それゆえ︑法秩序は︑また︑コブレンツ上級地方裁判所判決

 ︵FamRZ1954'芯︹に0︺︶が適切にも述べたように︑従来から︑婦人の特殊な地位と存在様式を顧慮し︑彼女の婦

人としての立場から生ずる危険から彼女を免れしめるために︑婦人を保護するための規定を設けてきた︒これら

の規定は︑男性にとっては無用のものである︒けだし︑彼には︑その異なった存在様式の故に︑かかる危険は︑

おそらく同様の程度では生じないからである︒ドイツ民法第一三〇〇条の規定についてもーその規定にしたが

えば︑無罪のフェルロープテは︑彼女の相手方に対し︑彼女が彼に同衾を許し且つ相手方男が重大な理由なくフ

ェルレープェスを解除し或はフェルレープェスの解除を彼の過失により誘致したときには︑慰藉料を請求できる

のであるがlかかる婦人のための保護規定が問題となっているのである︒フェルレープェスは︑当事者の継続

的な︵婚姻的な︶生活共同体の成立をめざすものである︒それは︑かかる共同体の準備のために役立つものであ

る︒生活経験の示すごとく︑フェルレープェスーそれは︑殆んどの場合︑フェルロープテの間の親密な関係へ

とみちびくものであるがlの解消の結果として生ずる損害は︑婦人に対し︑彼女の特殊な存在様式の故に︑男

性の場合におけるより︑より多くの苦痛を︑一般に与えるものである︒なかんずく︑そのさいにしばしば損害を

受けるのは︑彼女の婦人としての価値である︒その結果︑及び︑彼女のフェルロープテに対する屡々かなり強い

精神的・肉体的執着のために︑一般に彼女は︑フェルレープュスの破壊によって︑男性の場合より︑かなり多く

しかも後々迄も苦しまねばならぬであろう︒さらにまた︑世の中での彼女の評判︑彼女の職業上の将来︑彼女の

― 232 ―

(9)

経済的生存競争の中での実行力や抵抗力も︑このことによって︑男性よりも多く且つ強く影響を蒙るであろう︒

かかる結果として生ずる損害は︑おそらく何時でも︑直ちにそして同様の明確さを以て現われるものではなく︑

厦々当事者自身には充分に且つ明確に意識されないものであろう︒またそれは︑各々の場合によって異りもする

であろう︒しかし︑何らかの形で︑それは常に特殊な仕方で婦人に生じてくるのである︒また︑婦人にとっての

婚姻の見込の減少ということも︑右の諸々の損害に属する筈である︒たしかに︑このような損害と被害は︑それ

によって内的な精神的価値が傷つけられた限りにおいては︑金銭によっては償われえないとも言えよう︒それゆ

えに︑人々は︑慰藉料請求権を︑もはや正当なものと感じていない︒しかし︑ここでは︑そのことは問題ではな

い︒本件で判決さるべき問題にとって重要なことは︑ドイッ民法一三〇〇条が︑その意義及び目的に従い︑同権

の原則と対立するか︑そしてまた︑彼女の性に関する婦人の許容し難い優遇を意味するかということである︒こ

のことは︑否定さるべきである︒上記の考察から︑人は︑ドイッ民法一三〇〇条の意義は︑先以て次のようなも

のであることを知りうるであろう︒すなわち︑右の規定は︑彼女がフェルロープテに同衾を許したときに︑フェ

ルレープュスの解消が︑婦人の生活にもたらす上述の如き損害についての認識を喚起するものである︒特にドイ

ッ民法第一三〇〇条は︑婦人に︑彼女がフェルレープェスの解消にさいして︑一定の程度において蒙り︑前述の

如く彼女にとっても一般に生活の困難を意味するところの損害に対する︑一定の財産的補償をみとめている︒か

ような補償は︑たとえ彼女の蒙った損害が︑その本質においては︑償われえないようなものであっても︑不当な

ものではない︒いかなる場合においても︑それは︑それがその目的を不充分な仕方で達成しているという理由か

らは︑平等の原則に対する侵害を意味するものではない︒いやむしろ︑その目的自体と︑そのlたとえ不充分

−233−

(10)

なものであってもl達成は︑同権の原則と一致するものである︒けだし︑それらは︑彼女のフェルローブン

クが︑ドイツ民法一三〇〇条の要件の下に解消されたときに︑彼女の特殊な存在様式の故に彼女に生ずるとこ

ろの︑婦人の保護必要性に副うことを目的としているからである﹂と︒

 その後右の問題については暫らく判決は見当らないが︑一九六四年に︑ハムブルク上級地方裁判所において︑

慰藉料請求権が違憲でない旨を判示した判決がなされて届いる亘︒

 いづれにしても︑一三〇〇条の合憲性については︑少なくとも現在の西ドイツにおいては︑疑いがないと言え

よう︒ところで︑合憲性が問題となった右諸判決の事実関係は︑判文の出典の関係で事案不明のものを除き︑当

然のことながら︑すべて何らかの形で︑性関係の発生した男女関係であることを︑念のためここで付け加えてお

― 234 ―

(11)

㈲ドイツ民法一三〇一条は︑相手方に贈与し又はフェルレープェスの徴表として与えた物︵わが国の︑いわゆる結

納に相当しようか︶の返還請求権について規定している︒すなわち︑婚姻が成立しなかった場合︑各当事者は︑こ

れらの物の返還を請求できる︑とする︒その場合は︑同民法の不当利得に関する規定に従うべしとされている︒

なお︑但書において︑特約がなければ︑フェルレープュスが当事者一方の死亡によって解消したときは︑右返還

請求権は生じないとされている︒

 さらに同民法一三〇二条は︑一二九八条から一三〇一条までに定めた請求権につき︑消滅時効の規定を置いて

いる︒すなわち︑これらの請求権は︑フェルレープュスの解消後二年を経過すると時効消滅するというのであ

る︒ さて︑右のニカ条についても︑解釈上若干の問題がないわげではないが︑ここでは︑それらに深入りすること

― 235 ―

(12)

は他日の課題とし︑さしあたり︑一三〇一条に関する判決を二件ほど紹介しておくことにしたい︒一三〇二条に

関するものとしては︑後註︵4︶に挙げた一件が目につくのみで︑判例はきわめて少ないようである︒

 一九三一年六月二日アルトナ地方裁判所判決は︑フェルレープニスの解消にさいして︑当事者の親︵本件の場

合は男の父︶は︑相手方︵本件の場合は女︶に対して︑贈物の返還を請求できるか︑を問題とした︒すなわち︑一三

〇一条が当事者の親についても適用されるかという問題である︒これについて右判決は︑適用を否定し︑父親の

返還請求をみとめなかった︒すなわち︑判決は︑この規定は︑フェルロープテの両親に対してではなく︑フェル

レープニスの当事者に対してのみ贈物の返還請求権を与えたものであるから︑右請求はみとめられないとする︒

判決によれば︑この規定がフェルロープテの両親にも適用ありと解釈されることはできないというのである︵そ

のほか︑一二九八条︑八一二条以下などについても論じているが省略︶︒なお︑出典からは︑事実関係については明らか

でない︒ 一九六一年七月七日ケルン上級地方裁判所判決は︑X男がY女に対し︑一三〇一条により返還を求め︑結局請

求金額の半額が認められた事件である︒本件の事実関係に関する出典の記載は︑きわめて詳細であり︑それによ

ると︑事案は次のようなものであった︒当時七九才のX男と︑四八才のY女が︑一九五七年に知り合い︑彼らは

X男の陳述によると一九六〇年の三月︑Y女の陳述によると一九五九年の六月に︑フェルレープニスをおこなっ

た︒そして︑一九五八年の一一月から一九六〇年の六月迄︑一つの住居で同棲した︒ところで︑一九五八年の九

月四日︑二人は︑X男の自動車に乗って某地へ出かけたが︑そのさいY女は運転をおこない︑X男の警告にもか

かわらず︑トラックを追越し︑これと衝突し︑このためX男の車は相当な損傷をうけた︒第一審において︑X男

― 236 ―

(13)

は︑車の修理代として三二八八・六五マルク︑車の売却のさいの減価分として三入○○マルク︑計七〇八入・六

五マルクを︑Y女に対し請求した︒これに対して︑Y女は︑X男の請求の根拠と金額の双方につき争った︒Y女

によると︑X男は事故の当日の帰りに︑彼らのフェルレープニスを考慮して︑右の損害を忍ぶ旨をほのめかし︑

そうでなくとも︑X男は︑Y女が修現代をひきうけると申出たときに︑明示的に損害賠償請求権を放棄した︒の

みならず︑X男の主張する修理代は誇大であり︑ただ外装が傷ついたに過ぎないのだから︑売却代金の減価も生

じなかった筈だという︒ここで注意すべきは︑この段階では︑まだ一三〇一条の問題は生じていないという点で

ある︒或は審理の途中でX男から補充されたのかも知れないが︑判文をみる限りでは︑一三〇一条の問題は︑こ

れに対する第一審の判決で初めて言及されている︒すなわち︑当事者の右の主張に対して︑第一審は︑X男の請

求を棄却した︒判決によると︑X男は︑その賠償請求権を明示的に免除したのであり︑この免除は︑フェルレー

プェス当事者の間の贈物として︑一三〇一条により返還することもできないのである︒けだし︑一三〇一条にした

がえば︑将来の婚姻成立を顧慮し又は期待して与えられた贈物のみが︑返還を要求されうるのだからである︒し

かるに︑X男は右放棄によって︑Y女の愛情をつなぎとめ︑フェルレープュスに基づいて生じた親しい人間関係

が阻害されないようにすることを望んだのであり︑右の要件にはあたらないのである︒ーこのように︑一三〇

〇条の問題は︑右賠償請求権の放棄が︑本条のいう贈物に含まれるかどうかという形で生じてきたのであった︒

判決はなおつづけて︑そうでなくとも︑X男は︑一三〇一条によって生じた返還請求権を放棄しているという︒

ただしその議論の根拠は必ずしも明らかでない︒いづれにしても︑右のような理由から︑X男の請求は棄却され

た︒これに対して︑X男は控訴を提起した︒そこでは︑X男信まず︑事故には︑二人とも共同の責任があること

−237−

(14)

を認め︑したがって︑彼の請求額を半分に減らした︒しかし︑彼の賠償請求権が免除されたとか︑返還請求権が

放棄されたとかの点については争った︒これに対しY女は︑一審での陳述を繰り返したほか︑かかる返還請求

は︑信義に反する旨の主張を補充した︒けだしY女によれば︑彼女はX男のためにかなりの出費をおこなってき

たが︑それについては︑彼女は従来賠償請求をしてこなかったからである︒さて本判決は︑右のX男の控訴に対

する判決であり︑ここでは︑控訴は理由ありとされ︑一三〇一条に因り︑X男の請求は︑損害の半額に限り認容

された︒判決の論点は多岐にわたるが︑まずX男の損害賠償請求権を︑共同責任のゆえに︑半額においてみとめ︑

さらにそれが一度契約により免除されたとする︒しかし︑一三〇一条は︑フェルレープニスから生じた人間関係

にもとづいた全ての贈物を含んでおり︑したがって︑本件の如き物件毀損に因る損害賠償請求の免除も含まれる

としたのである︒

−238−

(15)

     女を捨ててアメリカヘ渡ったために︑当事者間のフニルンープニスが解消したものである︒

        九 あとがき

  ﹁はしがき﹂に記したように︑本稿の主たる課題は︑﹁フェルレープニスに関する判例について︑その事実関

係を検討することによって︑右の概念の機能範囲を推し測る﹂ことであった︒それは︑﹁フェルレープニスという

概念が実はいわゆる﹃婚約﹄的な男女関係のみを対象としてきたのではなく︑同時に事実婚やいわゆる内縁に相

当する男女関係をも指示対象としてきた﹂という筆者の考え方を具体的に裏付けるためであった︒そして︑もし

右の考え方が裏付けられるならば︑﹁ドイツにはわが国のいわゆる﹃婚約﹄に相当するものは存在し︑法律問題と

なっているが︑事実婚や内縁に相当するものは存在せず︑あるいは法律問題となっていないという通念﹂を修正

するための一助となるであろう︒だがそればかりでなく︑本稿では︑副次的な課題として︑フェルレープニスな

る概念が右の如き指示対象を持つものならば︑それはわが国の﹁婚姻予約﹂なる概念とかなり類似︵敢て同一と

はいわない︶していることになるところから︑﹁フェルレープニスの制度と解釈の沿革と︑特に判例における最近

の発展をも併せて紹介してゆく﹂ことも意図していた︒

 さて︑第一の主たる課題については︑フェルレープニス法の各分野における先例のうち︑さしあたり入手しう

るかぎりのものについて︑とくに事実関係を中心に紹介を進めてきた︵主要な上告審判決は殆んど全て紹介したつも

りである︒しかし下級審判決は︑その数も多く︑入手も甚だ困難なので︑その一角を例示として紹介したにすぎない︒いづれ

再び機会をえて︑本稿の補遺として紹介したいと考えている︶︒

― 239 ―

(16)

 本稿で紹介した判例は︑ほぼ四〇件ほどであるが︑これらの判決の事実関係を︑もら二度ここで筒単に振り返

ってみよう︒﹁二︑法的性質﹂においては︑ライヒ裁判所判決を四件紹介した︒一九〇四年一〇月二四日ライヒ裁

判所判決は︑性関係の存在が明らかであり︑一九〇五年九月二一日ライヒ裁判所判決では同衾の結果男児すら出

生している︒また一九二二年九月一九日ライヒ裁判所判決では︑当事者間に性的関係が生じていたことがみとめ

られており︑一九二〇年一月八日ライヒ裁判所判決も同衾を生じていたことがみとめられている︒次に﹁三︑一般

的効果﹂で紹介した二つの連邦裁判所刑事部判決と一つの連邦労働裁判所判決のうち︑一九六〇年七月五日連邦

裁判所刑事部判決は︑同棲一ヵ月の事件であり︑一九五四年九月二日同裁判所同部判決の事実関係は不明である

が︑一九六〇年三月一〇日連邦労働裁判所判決は︑二年数六月の同棲ある事件であった︒﹁四︑成立lその一l﹂

では︑その田︵成立の方式︶において︑一九一七年四月二日ライヒ裁判所判決と︑一九二八年六月一五日ライヒ裁

判所判決を紹介した︒一九一七年判決においては︑同衾ないし同棲が存在したことがほぼ確実であり︑一九二八

年判決においては︑当事者間の恋愛関係に性交ないし性的交渉が件っていたことがうかがわれる︒その②︵民法

総則との関係︶では︑とくに新しい判例としては︑一九三五年一一月四日ライヒ裁判所判決と︑一九二二年六月二

六日ライヒ裁判所判決をあげた︒一九三五年判決では︑性関係の結果子供が生まれており︑一九二二年判決では︑

女が男に性的な献身をしたことがみとめられている︒その㈲︵婚姻障碍事由との関係︶では︑新しい判例としては︑

一九四二年一一月四日ライヒ裁判所判決︑一九五六年六月一九日ニュルンベルクμフュルス地方裁判所判決を紹

介した︒一九四二年判決においては︑当事者が﹁性的に交際した﹂旨がみとめられており︑一九五六年判決の場

合は︑充分明らかではないが︑性関係及び同棲があったように判文からうかがわれる︒さて︑﹁六︑解消に伴う

−240−

(17)

諸問題−その一−﹂でとりあげた新しい判決としては︑一九一四年三月五日ライヒ裁判所判決︑一九〇七年一月

二四日ライヒ裁判所判決︑一九〇四年六月六日ライヒ裁判所判決︑一九三四年六月二六日デュセルドルフ上級地

方裁判所判決︑一九四〇年四月八日ライヒ裁判所判決︑一九一四年七月二日ライヒ裁判所判決︑一九五六年三月

一〇日連邦裁判所判決などがある︒一九一四年判決では少なくとも一度性的交渉が生じたことが認められてい

る︒一九〇七年判決の事実関係は明らかでな︑い︒一二九八条による賠償請求事件である﹁即ち一三〇〇条によるそ

れではない︶が︑X男からの請求なので︑この点から性関係なしとも言えない︒一九〇四年判決の男女関係も不

明である︒X女の父とX女がY男に対し貸金返還請求をおこなったのに対し︑Y男から反訴として一二九八条に

よる賠償請求をおこなった事件のようであり︑この点からも︑性関係の有無を推定しえない︒次の一九三四年判

決は︑フェルレープェスをなした後久しく性関係をもってきたことがみとめられている︒一九四〇年判決は︑や

や特殊な事件︵離婚後の妻から夫に対する扶養料請求事件︶であるが︑離婚後当事者間に再び性関係を生じたことが

みとめられている︒一九一四年判決は︑性関係につきとくに明言していないが︑当事者の住所がかなり離れてい

るところから︑性関係の存しなかった事例のようにも推察される︒一九五六年判決の場合は︑かなり長期にわた

り性関係を生じていた︒﹁七︑解消に件う諸問題lその二l﹂でとりあげた判例は︑全て一三〇〇条に因る賠償

請求事件であり︑この点は︑本稿における﹁八︑解消に伴う諸問題Jその三j﹂でとりあげた一三〇〇条の合憲

性に関する諸判決も同様である︒これらが一三〇〇条に因る請求事件である限り︑なんらかの形で当事者間に性

関係が存在したことは︑ある程度自明である︒判決で同衾ないし性関係そのものが否定されれば勿論その存在は

否定されたことになるが︑そのような事件は一件もなかった︒既述の如く︑これらの事件における男女関係の態

−241−

(18)

様も一つの関心事ではあるが︑ここではその問題に立ちいらない︒いづれにしても︑無陽性の意義に関する判例

としてここで新たに紹介した︵上級と下級を含めて︶九件の判決︑及び一三〇〇条の合憲性に関する判決としてこ

こで新たに紹介した︵同様に上級と下級を含めて︶九件の判決は︑一応性関係の存在した事件とみて良いのである︒

たとえ事実関係不明の事件であっても︵とくに合憲性に関する判決にはかようなものが多いが︶︑一三〇〇条に因る請

求事件であるという点で︑右の推定が可能であると言えよう︒さて最後に︑本務末尾の一三〇一条に関する二つ

の判決であるが︑一九三一年六月二日アルトナ地方裁判所判決の男女関係は不明であり︑これに対して︑一九六

一年七月七日ケルン上級地方裁判所判決の場合は︑一年半ばかり同棲したことが認められている︒

 以上の如く︑事実関係が不明の事件や性関係が存在しないと思われる事件も若干はみられるものの︑一九〇〇

年民法施行以来のフェルレープェスに関する主要な判決の大部分において︑その男女関係が︑その形態は様々で

あるが︑性関係ないし同棲を伴うものであったことは︑フェルレープュスなる概念の性質を考える上で甚だ興味

深いと言わねばなるまい︒

 なお副次的課題たるフェルレープュスの制度及び解釈に関する判例の発展の紹介については︑既に本文中に述

べたところに尽きているので︑ここで付加えるべきことはない︒ただし︑右判例の発展を含めて︑ドイツにおけ

るフェルレープェス法とわが国の判例における婚姻予約法の比較検討を︑本校では殆んど行なうことが出来なか

ったのは︑主として筆者の能力の不足の致すところであるが︑心残りな点の一つである︒恐らく個々の論点につ

いて仔細に比較検討することによって︑価値判断においても︑法律構成においても︑ドイッ法から学ぶべき点は

数々あるに相異ない︒そしてそのためには︑判例のより広い範囲にわたる収集と︑より詳細な検討はもとよりの

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(19)

こととして︑さらにフェルレープュスに関する立法過程や学説史の一層完全な研究を必要とするであろう︒これ

らは︑筆者の︑長期にわたる今後の課題である︒最後に︑この拙い習作に発表の機会を与えて下さった本誌会誌

委員の方々及び本学部の諸先生方に厚く御礼申し上げて本稿をひとまず閉じさせて戴くことにする︒ ︵完︶

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参照

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︵原著三三験︶ 第ニや一懸  第九號  三一六

2 学校法人は、前項の書類及び第三十七条第三項第三号の監査報告書(第六十六条第四号において「財

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条第三項第二号の改正規定中 「

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