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| 「中学生期の精神の発達と自己形成」についての教材化の試み|

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(1)

Abstract

On  the  subject  of mental  development  and  self-awareness  during  junior  high  school taught  using  the Jugyosho method  which  consists  of  questions,  together  with  detailed answers and explanations, I set the goals to be achieved by revising the draft version of the teaching materials through trial classes provided for university and college students.

I  then  analyzed  opinions  on  such  teaching  materials  expressed  by  the  students  of University  A  in  the  trial  classes  consisting  of  roughly  three  sessions(n=33  in  2005),  which lasted  for  90  minutes  per  session.  I  also  conducted  a  trial  questionnaire  survey  on  the  same teaching materials for trial classes attended by students from College B. I then tried to devel- op a revised draft of the teaching materials, setting the goals to be achieved for every ques- tion.

The revised draft(summary)of the teaching materials on mental development and self- awareness  during  junior  high  school using  the Jugyosho method  consists  of  the  following four questions, each of which is accompanied by an explanation:

1)Selecting  the  items  most  suited  to  oneself  for  self-evaluation.  Selecting  self-evaluation items  of  children  in  Japan  from  charts  containing  the  self-evaluations  of  children  from other countries;

2)Conducting group discussion and making presentations about the background where the self-evaluation of Japanese children remains uncommon;

3)Having all members of a group of friends write about only the good things about them- selves and having each member of the group make presentations on what was written;

4)Reading letters from junior high school students who are having problems with truancy or their studies and holding group discussions and making presentations.

The results of the trial questionnaire survey(n=27 in 2007)on the trial classes using the same teaching materials for the students of College B were as follows: 89% of the college stu- dents responded that these draft materials would be useful or somewhat useful for junior

学校健康・安全教育に関する一考察

「中学生期の精神の発達と自己形成」についての教材化の試み|

中薗 伸二1) 古川雅里子1)

A Study on Health and Safety Education in Schools

|A Tentative Plan of Teaching Materials on Mental Development and Self-awareness during Junior High School |

Shinji NAKAZONO Mariko FURUKAWA

1)生涯スポーツ学科

(2)

はじめに

今日の日本における子どもは,自己肯定感 をもちにくく1)させられ,そのことといじ め・自殺・暴力などが関連している2)とも考 えられている。従って,排他競争的関係性で はなく,よさを認め合い高め合う共同・協同 的人間関係性の中で,ありのままの自分であ ってよいという安心感を得られることが重要 となっているといえる。また,精神の発達・

自己形成は,自己の責任のみに転嫁されるの ではなく,生きている社会・文化・教育等の 影響を大きく受けていることを知り,共に生 きる将来への展望を持てることも重要であろ う。しかし,これらの視点を含めた「中学生 期の精神の発達と自己形成」についての保健 教材3)は,ほとんど見受けられない。

そこで,子どもの自己肯定感が低い背景を 考え,他者のよさを見つけ,共同・協同的に 癒しつながり合う関係性を重視した「中学生 期の精神の発達と自己形成」についての保健 教材案を作成した。「授業書」方式による教 材案による大学生への予備的授業を通して,

教材案を改訂した。保健学習での本教材案は,

誰でも一定程度同様に授業を進めることが可 能な「授業書」方式とした。「授業書」方式

による保健の授業は,興味をひく問題(発問), 予想・仮説,討論,お話(検証)という過程 で進められる。楽しいわかりやすい保健の授 業が可能となる4)。誤ることによってより深 く学び合えるという温かな雰囲気も重視し た。

2005年〜2008年の保健科教育法で90分×3 コマ程度を毎年4年間続けて「授業書」方式 による「中学生期の精神の発達と自己形成」

についての教材案を用いた授業をA大学生に 実施し,「授業書」案やその改訂についての 大学生の意見を蓄積してきた。今回は,A大 学生(n=33,2005年)の教材案改訂への意 見を中心に分析した。また,B大学生にも,

同一教材案による授業を90分×3コマ程度 2007年に実施し,「授業書」案についての無 記名自記式の予備的質問紙調査(n=27)を 行った。また,B大学生に,自分によく当て はまる項目数についての授業前後(n=20)

での変化を調査した。その上で今回,「授業 書」方式による「中学生期の精神の発達と自 己形成」についての教材案の改訂を行った。

自己肯定感とは何か,自己肯定感が低い背 景なども検討し,「授業書」の改訂案に盛り 込むこととした。

high school students. Meanwhile, as many as 96% of the college students responded that they would feel happy or somewhat happy, when only the good things are written by others.

The number of items suited to oneself in the self-evaluation(n=20 in 2007)was significantly higher after teaching than before teaching(p<0.05).

Hereafter, I will make a comparison of the group for which trial teaching was done with a contrasting group, conducting the same survey at intervals of immediately before, immedi- ately after and after three months, thus continuing to study the effectiveness of the revised draft of the teaching materials on mental development and self-awareness during junior high school. I will also further update the revised draft of the teaching materials by using them in actual  classes  of  junior  high  school  students,  while  at  the  same  time  conducting  scientific research on the content.

Key words:teaching materials, mental development and self-awareness, during junior high school, health and safety education

(3)

1.他者からありのままの自分をかけ がえのない存在として愛され,発 達を願って寄り添われることから の自己肯定感の必要性

(1)低くさせられている日本の子どもの自 己肯定感

他者からありのままの自分をかけがえのな い存在として愛され,発達を願って寄り添わ れることから,自己肯定感は,育まれていく ものと考えられる。

文部科学省の2000年の「児童生徒の心の健 康と生活習慣に関する調査」5)(調査対象は,

中学2年女子898人,中学2年男子958人)で も,「私は自分に価値がないか他人よりも劣 っていると思う」について,「よくあてはま る」,「ややあてはまる」とした合計は,中学 2年女子87.6%,中学2年男子87.4%にもな っている。

日本青少年研究所の2002年の「中学生の生 活意識に関する調査」6)(調査対象は日本,ア メリカ,中国それぞれの中学生,順に1,071 人,1,110人,1,299人)によれば,「私は他の 人々に劣らず価値のある人間である」が「よ く当てはまる」とした中学生は,日本8.8%,

アメリカ51.8%,中国49.3%である。日本の 中学生は,アメリカ,中国の中学生に比べて かなり低くなっている。

内閣府による「低年齢少年の生活と意識に 関する調査」7)(中学生1,038人を対象,2007年)

によれば,中学生の「悩みや心配ごと」(複 数回答)で多い順に1位は,「勉強や進学の こと」(61.2%),2位「友達や仲間のこと」

(20%)となっている。1995年の同一調査で は,「勉強や進学のこと」(46.7%),「友達や 仲間のこと」(8.1%)であり,2007年の調査 でこれら2項目が中学生の「悩みや心配ごと」

の割合として大幅に増加していることがわか る。

社会学者の立場から河地和子は,ローゼン バーグのself-esteemテスト8)を用いて,日本,

スウェーデン,アメリカ,中国の14−15歳,

3626人を調査対象とし,2000−2002年に「自 立と自信についての調査」9)を実施している。

その結果においても,日本は,他国に比べて 自信がない割合が高くなっている。

河地和子は,「ローゼンバーグによれば,

自信のない子は,『充実感・幸福感に乏しく』,

『ネガティブな精神状態あるいは不安に陥り やすい』という。自分の人生や生活に満足感 を持てず,ちょっとしたことで傷つきやすく,

またいらいらしたり,怒りっぽい傾向が,自 信のある子よりも高いという。他方,自信の ある子どもは自分の生活を『充実している』, 精神的に『安定している』と感じ,より高い エネルギーを持つ傾向にある」10)と紹介して いる。

従って,日本の子どもの自信,自己肯定感 の低さとその社会的背景がわかり,自信,自 己肯定感につながるよう,癒し合い共同・協 同的人間関係性を育む教育が重要と考えられ る。

以上のことからも,「授業書」において,

不登校や勉強で悩む中学生の手紙を扱うとと もに,問題全てにわたって問題を解きつつ人 間関係性を結ぶことにつながるように考案し たことは,重要なことと考えられる。

(2)弱さに寄り添われ,よさを認められる ことからの自己肯定感の重要性

前出の河地和子の調査で,自信度として高 い値を示したスウェーデンでは,「中学二年 になるまで数字による成績評価を行なってい ない」とされ,「子どもをほめることに心を 砕き,注意はするが叱責や批判はしないとい う教育方針が教育庁から各学校に求められて いる」11)という。スウェーデンのこの教育方 針は,スウェーデンの子どもの自信,自己肯 定感を高めている一つの要因といえるであろ う。一方,日本の子どもは,他者と競争させ られ,うまくいかないことを叱られることが 中心になっていると考えられる。

(4)

教育法学者の喜多明人も,厳罰・管理教育 のもとに,自治力・関係調整力が衰退し,自 己肯定感を低くさせられていることと,いじ め・暴力などの子どもの荒れが関連している と考えられる12)と述べている。

今日の競争的社会などにより子どもは自己 肯定感を低くさせられている。人間の発達に とって他者からまるごと愛される中で,子ど もが自己肯定感を持てるようになることが大 切である。このことは,以下の例のように,

最近,多くの教育学者らからも指摘されてい る。

庄井良信は,臨床教育学の立場から,「弱 い自分もあることに寄り添われることの重要 性」を以下のように指摘している。「『よくで きた』『よくがんばった』自分も愛されるが,

『なかなかできない』『なかなかがんばれない』

ときの自分も愛される。このようにまるごと 愛される経験こそが,自己肯定感や自尊感情 を芯の強いものにしてくれるのだと思いま す。」13)

楠凡之も,同じく臨床教育学の立場から,

自分の弱さを認めてもらえず,それを攻撃さ れ続けると,他者の弱さを攻撃するいじめな どにつながると次のように指摘している。

「自分の中の弱さや不完全さが受容されず,

攻撃され続けてきた子どもの場合,他者の弱 さや不完全さを攻撃するいじめを行いがちで す。」14)弱さを認めてもらえず,弱さを攻撃・

否定され続けると,お互いの自己肯定感を奪 い合う負の関係性の連鎖を生み出すとも考え られるであろう。

臨床心理学を専門とする高垣忠一郎は,

「自分を肯定する感覚には,自分がかけがえ のない存在として愛され,可愛がられている から自分を肯定できるという面と,自分が役 に立つ能力や特性を持っているから自分を肯 定するという面と,少なくとも二つの側面が あるように思う」15)と述べた上で,前者によ る自己肯定感の捉え方の重要性を指摘してい る。

高垣忠一郎は,未熟さを責め合う歪な人間 関係性でなく,未熟さを持つことを共感し受 容し合う人間関係性の中で,自己肯定感が育 まれることも以下のように指摘している。

「至らない未熟なところを素直に,謙虚に認 めて,それを共感し赦し合える」ような,

「そういう関係を基盤にして,『自分が自分で あって大丈夫』という自己肯定感ができてい るのだ。ところがアメリカ流の『競争原理』

の侵入の中で,そういう関係が壊され,人の 至らない点,未熟なところを責めるような関 係に変質」16)している。

子どもの荒れも,競争と管理の社会・教育 の矛盾の中で,自己肯定感を持ちにくくさせ られていることに対して,切実に訴え救いを 求めているものと考えられる。

その子どもの「『荒れ』が『加害としての 暴力』であるというよりも,『救いを求める 暴力』であること,その『荒れ』が暴力によ って奪われてきた自分を取り戻すためのもの であることが見えてくる。それが見えてくる につれて,『荒れる』子どもをまるごと受け 入れることに確信をもつことができるように なる。」17)「殺傷事件の加害者たちの多くは,

『弱さ』を抱えた自分と,黙って寄り添って くれる誰かがいない寂しさに,心がつぶされ そうになる毎日を過ごしていたのではない か。」18)

社会・経済・教育などの矛盾の影響は,弱 者に大きく向けられる。抱えきれない鬱積し た辛さ・苦悩をわかって欲しいという壮絶な 訴えが,子どもの荒れとして表現されている と考えられる。従って,子どもの行動や言動 のみを捉えて,一方的に否定的なことばかけ,

暴力的かかわり方をすることは,子どもの暴 力的行動・言動を誘発することにつながる可 能性を高めると考えられる。 社会などの問 題を見据えつつ,子どもをまずは,まるごと 受け入れ,辛さに寄り添い,そこから発達を 願ってかかわり合うことが日常的に実現され なければならないと考えられる。

(5)

「実際,教師が子どもを受け入れていくと き,子どもと教師の間に両者をつなぐ『なに か』が生まれてくる。教師の側から『あなた が存在していることは無条件にいいことなの だ』という訴えがなされるのに対して,子ど もの側に『このかけがえのない自分を大切に して生きよう』とする自己肯定が生まれてく る。それに応じて,教師の側に自分の存在が 子どもに拾われて,子どもによって証明され るという喜びも生まれてくる。」19)

上記のような自己肯定感に関する検討をも とに,中薗は,「自己肯定感とは,他者と比 較して優越性を感じることではなく,受容さ れ高め合う温かな人間関係性の中で,自分が 自分であってよいという安心感」20)と定義し たい。

社会的背景を把握しつつ,受容し共同・協 同的に高めあう人間関係性を結び,自己肯定 感を育むことが重要である。このことは,養 護教諭による実践においても蓄積され明らか にされてきている」21)といえる。

2.自己肯定感を持ちにくく,子ども の精神の発達・自己形成を困難に す る 傾 向 の 社 会 的 背 景 を 考 え る

日本における子どもは,自己肯定感を持ち にくくさせられている。日本における子ども の自己肯定感の低さに影響を与えていると考 えられる社会的背景を以下に述べる。

第一に,排他的競争と管理の社会・教育な どの中で,日本における子どもは,常に他者 と比較され,また,他者・権威者の考えに追 従することを強いられ,否定的に評価され続 ける傾向があることが考えられる。

国連子どもの権利委員会から,日本政府は 次のような勧告を受けている。「高度に競争 的な教育制度のストレス及びその結果として 余暇,運動,休息の時間が欠如していること により,発達障害にさらされていることにつ いて,・・(中略)・・懸念する。委員会は,

更に,登校拒否の事例がかなりの数にのぼる

ことを懸念する。」22)

また,2004年にも,「教育制度の過度に競 争的な性格が子どもの肉体的および精神的な 健康に否定的な影響を及ぼし,かつ,子ども が最大限可能なまでに発達することを妨げて いること」23)などの勧告を国連子どもの権利 委員会から,受けている。

第二に,社会政策的・商業主義的に操作さ れる傾向による日本の子どもの健康・安全や 心身の価値観への影響も考えられる。

国民の権利としての健康・安全よりも,利 潤・効率・弱者切捨て優先する社会が,日本 の子どもへ自己肯定感の低さへ影響を与えて いると考えられる。リストラ,過労死,医療 費の自己負担増,福祉の不十分な面などの社 会の中で,保護者も子どもも経済的・精神的 余裕は持ちにくくなっている。保護者も子ど もの欠点を強調したり,否定的な表現でかか わる子育てに追い込まれざるを得ない傾向と もなるであろう。それらも,日本の子どもの 自己肯定感の低さに影響を与えていると考え られる。NHK放送研究所の2002年の調査で も,「今の日本はよい社会だ」に対して,「そ う思わない」中学生は,74.6%にもなってい る。「『努力しても報われない社会』という思 いを強めている」24)と指摘している。

身体意識では,例えば,「痩せ」がよいこ とを誇張し,誤ったダイエットへと向かわせ る商業主義により,一定の身体の美意識へ向 かわせる傾向もある25)

変化の激しい社会において,その社会に適 応し,自己責任で,自ら問題を解決していく ような一定の厳しい心のありようを求められ る時代でもある。そのためにも,「たくまし い日本人」「国を愛する心」を重視し国際的 大競争に打ち勝つ心身が要求されている26)と いう厳しさがある。

第三に,自己を低めて謙遜することがよい とする日本文化の日本における子どもの自己 肯定感の低さへの影響も考えられよう。また,

テレビ・テレビゲーム・ビデオ・映画・漫

(6)

画・インターネットなどにみる暴力的・攻撃 的・いのちを軽視する傾向の文化などの日本 の子どもへの影響が考えられよう。テレビゲ ームの暴力・攻撃性の日本における子どもへ の影響傾向は,実験研究によっても示唆され ている27)。暴力・攻撃性の内在化は,競争・

管理の社会・学校などによるストレスと重な って,他者への暴力・攻撃を生み出し,お互 いの自己肯定感を破壊することにつながる危 険性があるであろう。

以上の社会的背景などが複合的に重なり,

日本の子どもの自己肯定感の低さに影響を与 えていると考えられる。

3.学習指導要領,保健の教科書にお ける「精神の発達と心の健康」に 関する発達観

新しい中学校学習指導要領の「心身の機能 の発達と心の健康」の単元の中で,「精神の 発達と心の健康」に関する内容は,以下のよ うになっている。現行の学習指導要領28)の記 述とほぼ同様である。

「ウ 知的機能,情意機能,社会性などの精 神機能は,生活経験などの影響を受けて 発達し,また,思春期においては,自己 の認識が深まり,自己形成がなされるこ と。

エ 精神と身体は,相互に影響を与え,かか わっていること。

欲求やストレスは,心身に影響を与える ことがあること。また,心の健康を保つに は,欲求やストレスに適切に対処する必要 があること。」29)この内容を整理すると,ウ は,「知的機能,情意機能,社会性の発達」

と「思春期の自己形成の発達」,エは,「欲求 の対処の仕方」と「心身相関」といえる。

学習指導要領の「精神の発達と心の健康」

に関する発達観について澤山信一は,次のよ うに分析している。澤山の分析の一部を紹介 する。「指導要領は自己実現の達成が困難な 子どもには我慢することや欲求に適切に対処

することを要求し,それを心の健康を保つた めの条件とするのである。だから,心の健康 が保てなくなって心身症をきたす場合でも,

それをもたらす社会的な諸関係を切断して,

原因を単に個体の心の問題に帰結させるので ある。・・(中略)・・その結果,共同的な 関係をつくりあげる中で癒し合い,励まし合 い,繋がり合うことが遠ざけられ,そのため にますます症状は悪化し」30)ていくと捉えて いる。

中学校の保健の教科書全三冊31)32)33)におい ても,自己責任として,我慢し欲求不満やス トレスに対処しつつ精神の発達・自己形成に つなげていくという考え方が中心となってい ると考えられる。現実的には,子どもの精神 の発達・自己形成は,生きているその社会な どによっても大きく影響を受けていると考え られる。従って,自己肯定感を持ちにくくし,

自己形成を遂げにくくさせられている社会的 背景も考えつつ,共同・協同的に癒し合い,

励まし合い,繋がり合うことの必要性がわか ることが重要であろう。

4.「精神の発達と心の健康」につい て何を教えるべきか−「精神の発 達と心の健康」についての指導計 画−

「精神の発達と心の健康」について何を教 えるべきか,34)に関する指導計画を示すと,

以下のようになる。

(1)脳の発達とその条件(1時間)(澤山信 一作成)

①脳の発育経過 ②脳細胞の連絡 ③発達の 条件

ねらい:脳重量の発達は生後2,3歳頃に急 速に増大する。その生理的メカニズムは脳の 神経細胞の連絡が複雑になることによるもの であるが,それを可能にするのは母親や周囲 の人々との生理的,情動的な共生的交流,身 体や姿勢活動の一体化,身振りやことばのや りとりなど共同的な関係を通してである。

(7)

(2)中学生期の精神の発達と自己形成(2時 間)(中薗伸二作成)

①日本の子どもの自己評価 ②日本の子ども の自己肯定感が低い背景 ③他者を肯定し合 う体験 ④不登校や勉強で悩んだことのある 同世代からの手紙

ねらい:日本の子どもたちの自己評価が他の 国の子どもたちよりも低いのは,排他的な受 験競争の中で,他者との相対比較に縛られ,

常に自己の位置を確認させられているからで ある。そのために,日本の子どもは自己の存 在に不安と怖れをいだき,自己を信じ愛する ことができず,否定的自己像を形成していく。

こうした中で,他者を肯定し合う経験を通し て自己肯定感を高め,お互いに癒し合い,励 まし合い,繋がり合う共同・協同的な関係を つくりあげることの大切さを知らせたい。

(3)心身の相関と健康(1時間)(下村義夫 作成)

①自我意識の芽生え ②自己評価 ③心身症 ねらい:自分とは何かをまさぐりはじめた思 春期は他者の評価に過敏に反応する時期であ る。それは他者の目を借りて自分を点検し,

それを通して古い自分を脱ぎ捨て新しい自分 を確立しようとするあらわれである。しかし,

排他的な受験競争は対人関係を敵対的なもの にし,そのために他者の目は自己に対して抑 圧的に作用し,その結果新しい自己像の確立 を妨げるばかりか,他者に同調する自己をつ くりだす。このため偽りの自己と本当の自己 との間に抗争や葛藤が生じ,自己否定,自己 嫌悪などの危険のつまずきを繰り返すことに なる。例えば,この過程で対人恐怖症などの こころの不安がからだに表現される心身症的 なトラブルが生じることがあることを知らせ たい。

中薗作成の「中学生期の精神の発達と自己 形成」についての当初の「授業書」案では,

3問構成としていた。それを大学生への予備 的授業をとおして4問構成へ改訂し,問題2 の「日本の子どもの自己肯定感が低い背景」

について意見を出し合う問題を追加した。

「中学生期の精神の発達と自己形成」につい ての改訂「授業書」案では,基本的には1・

2問で1時間,3・4問で1時間の2時間構 成とした。

5.「授業書」方式による「中学生期 の精神の発達と自己形成」の予備 的授業を受講した大学生の本教材 案についての意見と改訂の視点

(1)「授業書」方式による「中学生期の精神 の発達と自己形成」についての教材案に 関する大学生の肯定的意見

2007年にB大学で実施した予備的授業(27 名)で,授業後に行った質問紙調査では,

「『中学生期の精神の発達と自己形成』の授業 書は,中学生に役に立つと思うか」について,

「役に立つ」・「少し役に立つ」とした者は,

27名中24名で89%であった。

「他の人にあなたのよさを書いてもらうこ とは,うれいしか」について,「うれしい」・

「少しうれしい」とした者は,27名中26名で 96%に及んだ。

また,2005年から2007年にかけて大学生に 行った予備的授業を通じても,問題2で,自 分のよいところを皆に書いてもらう作業につ いては,全員から肯定的な意見(27名中,27 名で100%)が出された。例えば,「自己の良 い点を言ってもらえてとてもうれしく,自己 の良い点の項目が一つ増える発見にもつなが った」「大抵は,自分の良い点を書いてもら ってうれしいと感じていると思う」「自分の コンプレックスに思っていたことを良い点と して書いてもらって,うれしく,自信を持て た」などである。但し,注意すべき点として

「自己肯定感の特に低い人にとっては,苦痛 に感じる場合があるかもしれない」「人間関 係性がうまく築かれていない場合には,うま くいかない場合があるかもしれない」との意 見もあったことには,慎重な検討が必要であ ろう。

(8)

更に,以下のように,子どもが自己肯定感 を低くさせられている現状があり,一人ひと りのよさを見つけることが盛り込まれた本

「授業書」が大切であるとする意見が出され た。例えば,「他者と比べて序列付ける評価 にさらされ続け,本当に傷つき,自信を失っ ている子どもも少なくないだろう」「日本で は,文化的に自分を高く評価することを良い とせず,謙虚さが良いとされる傾向がある」

「実際の評価よりも低く見積もって自己を評 価する傾向がある」「自己を表に出すと,そ のことで非難される傾向がある」などである。

(2)大学生への予備的授業を通した「授業 書」案「中学生期の精神の発達と自己 形成」の主な改訂点

大学生への予備的授業を通した意見などに 基づく改訂「授業書」案の改訂事項を以下に 示す。問題番号は,改訂した問題の番号に一 致する。

①問題1:日本の子どもの自己評価:出典の 国別の正確な元のデータを確認しグラフを正 確なものに改めた。また,グラフが煩雑で読 み取りにくい面があったものを読み取りやす いグラフへ変更した。国別のグラフのそれぞ れの線の種類を変更し,グラフの線の数値が 入る位置にも国ごとに異なる印を挿入した。

②問題2:「日本の子どもの自己肯定感が低 い背景」を考える問題2を追加した。

「自己肯定感が低くなっている背景を生徒 に考え,意見を出してもらい,自己肯定感に ついて意識を高めると良いのではないか」と の意見により,問題1に関連して問題2とし て,「日本の子どもの自己肯定感が低い背景」

を考える問題を追加した。このことは,学習 指導要領や教科書においてあまり触れられて いない点でもあるので,未来に生きる子ども の立場に立ち,問題2を新たに作成した。

③問題3のお話:優等生の中学生のことば は,競争と管理の社会・教育の矛盾の犠牲と なって発せられていると考えられることを加

えた。

④問題3「他者を肯定し合う体験」について,

「授業書」方式で「中学生期の精神の発達と 自己形成」の授業を進める際の参考事項を改 訂した。

他の人のよいところを書くときに,皆が書 き終えるまで急かさずに待つことを前提とし た。可能であれば,自分のよいところについ て友だちが書いてくれたことすべてを全員に 発表してもらいたい。しかし,発表を控えた い,皆が書いてくれたことの一部を紹介した いという場合には,それを認める必要性も加 えた。弱さも持っている人間としてまるごと 受け止めて認め合い,共に高め合う温かな関 係性の中で自己形成につながることも加え た。

よい点があると同時に,弱い点も持つ一人 ひとり皆が,とても大切な存在であることに 触れる案もあることも加えた。自分の短所・

弱い点と思えることをリフレーミングによっ て長所としての表現にすることもできること も加えた。

(3)日本の子どもが自己肯定感を低くさせ られていると考えられる背景について の大学生の意見とその分類

「日本における子どもが,自己肯定感を低 くさせられているのはなぜか,そのことを話 し合いたい」と授業を進める中で学生の意見 が一致した。そこで,「授業書」の中に「日 本の子どもの自己肯定感が低くさせられてい ると考えられる背景について,グループ活動 を通して意見を出し合ってみよう」という問 題を追加することとした。生きている社会・

文化などのあり方に精神の発達と自己形成が 大きく影響されていることについての認識を 深めることができると考えられるからでもあ る。

以下の背景などが複合的に関連しつつ,日 本の子どもの自己肯定感が低くさせられてい る傾向があるように考えられる。2005年度の

(9)

A大学での保健科教育法受講生33名の大学生 の意見における共通概念を中薗が抽出し,分 類した。その結果,日本の子どもが自己肯定 感を低くさせられていると考えられる背景と しては,図1の通り次の4つに分類できた。

①他者との比較・排他的競争・否定的言葉か け(20名/33名×100=61%),②控えめで謙 虚さを良いとする日本の文化(16名/33名×

100=48%),③他者からの評価(他者評価)

を本来の自己による評価(自己評価)よりも 最優先させ,他者評価を歪んだ傾向の自己評 価として内在化(4名/33名×100=12%),

④多様性の否定と社会的一定の価値への縛り

(3名/33名×100=9%)。

この分類に基づき,「授業書」案の問題1 に関連して問題2「日本の子どもの自己肯定 感の低い背景」とそのお話2を追加する改訂 を行った。

6.「授業書」方式による「中学生期 の精神の発達と自己形成」につい ての到達目標及び改訂教材案の検

(1)「授業書」方式による「「中学生期の精 神の発達と自己形成」についての到達目 標の設定

「授業書」の問題ごとに到達目標を設定し

た。目標を明確にするため,以下の到達目標 の番号と「授業書」の問題番号とを一致させ た。

①自己評価により,自己を見つめ,日本の子 どもの自己肯定感の低さがわかる。

②日本の子どもの自己肯定感(自己評価)の 低さの背景として,排他的競争・相対評価に より叱られることが多く,ほめられることが あまりないことや謙虚さをよいとする文化な どが影響していると考えられることがわか る。

③他者及び自己のよさがわかり,褒められる ことの重要性がわかる。

④不登校や勉強のことなどで悩む中学生の気 持がわかる。不登校や勉強で悩むことなどが あったからこそ,他者との支えあいの重要性 がわかり生きることを見つめ人間としての発 達につながる可能性があることがわかる。悩 むことは,人間として誰にでもあることであ り,支え合う人間関係性の中で精神の発達・

自己形成につながることがわかる。

(2)「授業書」方式による「中学生期の精神 の発達と自己形成」についての改訂教材 35)

「授業書」方式による「中学生期の精神の 発達と自己形成」について,4つの問題とそ れそれぞれの説明文であるお話4つから構成 される教材案を以下に示す。大学生への予備 的授業を通して改訂した教材案である。

破線枠内は,「授業書」方式による問題を 活用して件の授業を進める際の参考事項であ る。(以下,同じ)

問題1を進める際の主として教師への参考 事項など

(1)では,誰が,どれを選んでも,何を付 け加えようとも,それを受容するクラスの 雰囲気を大切にしながら進めたい。あては まるものが多い,少ないによってよい,よ くないという評価につながるわけではない n=33   2005年 

0 20 40 60 80 100

競争・否定的表現 

% 

12 9

48 61

謙虚さの日本文化  他者からの評価を優先 

多様性否定傾向 

図1 日本の子どもの自己評価が低い背景につい ての分類(A大学生の記述を中薗が分類)

(10)

ことにも触れるのも一案であろう。

(2)では,都市名(国名)は見えないよう にしておく。

問題1

(1)あなたに,とてもよくあてはまると思 うものを以下の中からいくつでも選びなさ い。あてはまらなければ,選ぶ必要はあり ません。他のことであなたにあてはまるこ とがあれば,付け足しなさい。

勉強のできる子,人気のある子,正直な 子,親切な子,よく働く子,スポーツの うまい子,勇気のある子

その他 _______ _______

_______ _______

(2)図①のグラフは,サクラメント(アメリ カ),ストックホルム(スウェーデン),東京

(日本),ハルビン(中国)の子どもの自己評 価−「とてもあてはまる割合(%)」である。

日本の子どもは,どれであると思うか。

お話1

日本の子どもは,他の国の子どもよりも,

自己についての評価がすべて低くなってい る。特に,自分には,「勉強のできる子」は あてはまらないと考えている子が多くなって いる。また,日本の子どもでは,すべてにつ いて,女子は,男子よりも自己評価が低くな っている。

日本の子どもは,学年が上がるにつれて,

次第に自信をなくしてしまう傾向がある。成 長とともに,自己についての評価が高まり,

自信をつけていくことが望ましいといえる が,日本の子どもは,その逆にさせられてい る。

日本青少年研究所の調査38)においても,

「私は他の人々に劣らず価値のある人間であ る」が「よく当てはまる」とした中学生は,

日本8.8%,アメリカ51.8%,中国49.3%であ る。日本の中学生は,アメリカ,中国の中学 生に比べて「価値ある人間である」と思って いる者は,かなり少なくなっている。

問題2

日本の子どもの自己評価は,すべての項 目で最も低くなっている。日本の子どもは,

自分にあてはまるよいところがあまりない と思っている割合が多い。日本の子どもの 自己肯定感が低くなっている考えられる背 景(理由)をグループで話し合い,意見を 発表しよう。

問題2を進める際の主として教師への参考 事項など

自己評価を低くしている場合でも,自己 の未熟さを謙虚に自覚し,常に向上・発達 していくことにつながる可能性があること を紹介することも一案であろう。

お話2

日本の子どもが自己評価が低いのは,以下

42.2 41.6 37.5 37.5 34

27.2

38.9

31.7

14.9

33.2

21.3 27.6 28.8

19.7

31.5

15

48.6 50.9 44

11.7

21.4

6.5 9.2 9.6 11.6 14 15.3 17 0

10 20 30 40 50 60

勉強のできる子 人気のある子 

正直な子  親切な子  よく働く子 

のう まい

 

勇気のある子 

% 

サクラメント(アメリカ) 

ストックホルム(スウェーデン) 

ハルピン(中国)  

東京(日本) 

図① 自己評価−「とてもあてはまる」割合

(4カ国比較)

福武書店教育研究所:第3回国際比較調査 1992のデータ36)37)に基づき中薗が作図

(11)

などのような背景が考えられよう。

一つには,控えめで謙虚さがよいとする日 本の文化の影響も考えられる。もう少し自己 を高く評価しても良いのに,低めて控えめに 自己評価をする場合もあるだろう。

二つには,相対評価により他者と比較され,

排他的競争で他者よりも優れることが優先さ れ,それに追いつくことができなければ一層 否定的なことばかけを受けがちである。この ことにより自信は打ちのめされ,自己評価を 低くしている場合も考えられる。また,競争 により落ちこぼされ本当に自己評価をできな くなっている場合も考えられる。

三つには,学校や家庭などでも,常に他者 から評価を受けている。その評価は,人と比 べる競争的で厳しく否定的傾向がある。従っ て,自分で思っている自己の評価よりも,他 者からの評価を自分の評価と捉え,他者から どう思われるかも気にしつつ自分を低く評価 していると考えられる。

四つには,皆同じでないといけないという 傾向があり,よくてもよくなくても目立つこ とは,攻撃されがちである。

問題339)

(1)用紙と鉛筆を持って4〜5人のグルー プになって座ったら,あなたの用紙の一番 下にあなたの名前を書いて,それを隣の人 にまわしなさい。まわってきた用紙の名前 を見たら,その友だちのよいところだけを 用紙の一番上に書いてあげなさい。内容は,

勉強,スポーツ,友人関係,性格,容姿な ど,どんな特徴でもかまわないし,長さは,

一つの単語から一文までなら自由である。

書き終わったらあなたの書いたことばが他 の友だちに見えないようにするために用紙 を上から折り込んで,次の友だちにまわし なさい。全員がことばを書き終え,あなた の用紙が手元にもどるまで,これを続けな さい。

(2)みんなで一斉に用紙を開いてみよう。

(3)グループの友達が書いてくれたことを,

クラス全員の前で一人ひとり発表しよう。

わたくし○○○○(あなたの名前)は,

である。(グループの友だちが書いてくれ たことを発表してみよう。)

(4)グループの友だちに書いてもらったあ なたのよいところについてどのように感じ たか。出し合ってみよう。

問題3を進める際の主として教師への参考 事項など

(1)友だちのよいところだけを書いてあげ ることを強調して確認したい。友だちのよ いところだけを書いてもらうので,考えて おくようにと事前に伝えておくのも一つの 方法として考えられる。また,時間に追わ れて書くというプレッシャーがないよう,

それぞれのペースで少し遅れて書くことも 認め,ゆっくりでもグループの皆が書き終 えるまで待つことを前提とする。

(2)用紙を開けて見るときの一人ひとりの 表情の素晴らしさは,目を見張るものがあ る。

(3)可能であれば,全員書いてくれたこと をすべて紹介したい。一方,発表を控えた い,皆が書いてくれたことの一部を紹介し たいという子どもには,それを認める必要 性を考える場合もあろう。

(4)よいところを書いてもらうことの心地 よさなどを共有し合えるように進める。ま た,誰でも,よい点があると同時に,弱い 点ももっているものである。それらすべて があなたであり,とても大切な存在である ことに触れたい。弱い点を少しずつ変えて いくことも可能であることにも触れたい。

自分の短所・弱い点と思えることをリフレ

(12)

ーミング」40)によって長所としての表現に することもできる。例えば,「ものごとを するのに時間がかかる」をリフレーミング によって表現を変えると「じっくり考えて 取り組むことができる」などとなることで ある。

お話3

あなたたちは,一人ひとり,よいところが ある。しかし,あなたたち自身は,今まで否 定的なことばを多く受け取ってきている。だ から,あなた方は,あなた方自身のよいとこ ろを認識できにくい傾向があると考えられ る。排他的競争(他人をけ落とす競争)・相 対評価(人と比べる評価)の中で,いつも誰 かよりも劣っていることについての多くのこ とばを受け取って来た傾向がある。頑張らな ければ,将来,地位や多くの多くのお金を得 ることができないともいわれがちであった。

いわゆる優等生といわれる中学生が語った 印象的なことばがある。「とにかく点数なん だ,他人にやさしくしていたりしたら,敗北 者になってしまう。」この中学生も,競争の 社会や教育の犠牲者としてこのような表現を せざるを得なくさせられていたといえるであ ろう。

また,大人に管理されることによって,上 に書いたような社会や教育の問題点を批判す ることも目立つことも難しくさせられている 傾向もある。目立つことは,嫉妬(しっと), 羨望(せんぼう),嘲り(あざけり),いじめ の対象になってしまいがちである。内申書で も,学校生活での行動までもが点数化される 傾向があり,学校,教師に合わせて行動しよ うとせざるを得ない面もあると考えられる。

排他的競争,相対評価の考え方は,家庭にも 深く浸透しがちで,こころの落ち着く居場所 が,なかなか見出しにくいともいえる。

さらに,容姿を一つの例としてあげてみて も,企業などによってつくられた理想を追い 求めて悩んでいるに過ぎないことがほとんど

である。容姿にも,個人差がある。異常はま ったくないのに他人と比較して悩んでいるに すぎないことがほとんどである。しかし,中 学生期に容姿や異性などについて気になるの は,きわめて自然である。

問題4

みなさんと同じ中学生のときに悩んだ経 験をもつ人たちから,自分たちの思いを私 たちへ向けて書いた手紙(1)41)(2)42)43)の2 通を紹介したい。((1)は一部省略してい る。)不登校や勉強のことで悩む生徒の手 紙を読んでみよう。

(1)不登校のことで悩んだ経験のある中学 生からの手紙を読んで,この不登校の生徒 は,どのような接し方を希望していると考 えられるか。また,不登校となったことで 人間として発達につながっていると考えら れることはないか。グループで話し合い,

発表してみよう。

(2)また,勉強に悩む中学生三年生が教師 にあてた手紙である。手紙を読んで,この 勉強に悩む生徒の意見についてどのように 思うか。グループで意見を出し合い発表し てみよう。

(1)学校へ行けなくなったのは,中学二年の ことでした。

学校に行かない日は,親は不機嫌で,「起 きなさい,早く,早く」とせかされました。

最初のテストの成績が悪く,なんとなく,

調子が狂ったようになった。最初は,からだ の調子が本当に悪くて休んだのに「ズル休み して」という友達の声が聞こえ,とても気に なりました。ついに行けなくなったのは,模 擬テストの成績がジワジワと落ちてきたから です。

このシンドさわかってもらえますか。自分 があわれで,何をやってもダメに思える毎日 でした。そんなときでした。母から「シンド かったら無理しなくていいんだよ」と初めて

(13)

言われ,ずっと気持ちが楽になりました。

こんな自分でもいいんだよ と思ってくれ る人がいるということで・・・。うれしかっ たのは,友達や先生からの電話でした。でも,

そんな電話にもだんだん出たくなりました。

みんながみんな「学校へ出てきなさい」と言 うからです。行けるものなら行きます。行け ないから苦しんでいるのに。

私の上に,大きくのしかかっている,学校 のこと,勉強のこと,進学のこと,友達のこ と,親・兄・妹のことなど,なにもかもが,

まるで暗い 迷路 の中をグルグル走り回っ て,どうしても出口が見つからない,「出口 はどこだ?どこだ!?」とワメいたり,イラ イラしている状態です。だからどうにもなら ない自分が腹立たしく,物を投げたり壁に頭 をぶつけたり,ときにはこんな人間は死んだ ほうがよいのではないかと考えたこともあり ます。

今,私は家族の温かさの中で,人を信頼す るというか,人を信じることができ始めまし た。私の心の雪どけは,始まったばかりです が,なんとなく,「自分は自分,他人ではな いぞ。今の自分を自分が好きにならなかった らどうなるんだ」と強く言ってくれる何かが あるのです。

もし,あなたの子どもや友達が,私と同じ ようになったら,そのときはみんなで温かく 見守ってあげてください。どうか 愛して,

信じて,待って あげてください。それが何 よりも,心の支えとなるのです。

(2)中学三年生が,教師にあてた手紙である。

先生は,今の時代が好きですか。僕は嫌い です。なぜかというと,今の時代,みんな,

お金のことや勉強のことしか考えないからで す。まあ,確かに勉強はしなくっちゃいけな いけど,でも,人間生きていくのに勉強なん て関係ないと思うんです。「働いてお金もう けしたいなら勉強はしなくちゃだめじゃな い」って言うと思うけど,僕が勉強なんかし なくていいと言っているのは,そういう意味

じゃなくて,人間は,人間らしくした心をも って生きていけばいいんです。だから,勉強 みたいなそんなことだけできて,人間らしく ない心を持った人より,勉強ができなくて,

人間らしい心をもった人の方がいいと,僕は 言いたいのです。先生もそう思いませんか。

勉強なんかあるから,つっぱった人やふりょ うたちがでてくるんだと思います。そういう 人たちの悲しみがわかりますか。きっとそう いう人たちだって最初は勉強していたんだ。

でも,どれだけ,どんなに勉強してもわから なかったのでしょう。それで,点数(テスト)

が悪いと,親や友だちに「お前,バカじゃね え」とか言われて,それで,「てめぇら,い つかきっと見てろよ」と,心に言い聞かせな がら,そういうふうになったと思います(ふ りょうに)。そういう人たちには,その悲し い心をみんなに言いたいけれど,まじめに聞 いてくれる人がどこにいるんですか。「ふり ょうの話なんかききたくねえよ。こっちもふ りょうになっちまう」なんて心を持っている 人ばかりです。

問題4を進める際の教師への参考事項など 問題4について話し合い,お話4を紹介 したところで,以下のことに触れるのも一 案であろう。

E.H.エリクソンは,「アイデンティティ の確立」が中学生期を含めた青年期の課題 であるととらえている44)。二次性徴が現れ 始める頃から,「自分らしさとは何か」,

「自分はどのように生きるべきなのか」な どの自分に対する問いかけが始まる。親や 教師や周囲から期待され,それに応えよう としてきていた自分を見つめ直し,人間関 係のかかわりの中で,社会の問題にも目を 向けつつ,親からも自立しようとし始める。

このような経験を通して「確かな自分」と しての自己を形成して行くといわれてい る。このことを自我同一性(アイデンティ ティ)の確立という。

(14)

ハビーガーストによる青年期の発達課 題45)は,次の8点である。①同世代の男女 の新しい成熟した関係を支配することなく 導く。②男性あるいは女性の社会的役割を 身に付ける。③自分の体格を受け入れ,身 体を効率的に使う。④親や他の大人たちか ら情緒面で自立する。⑤結婚と家庭生活の 準備をする。⑥職業に就く準備をする。⑦ 行動の指針として価値観や倫理体系を身に 付ける。⑧社会的に責任ある行動をとりた いと思い,またそれを実行する。

不登校については,2006(平成18)年度 の中学校の不登校(30日以上欠席者)生徒 数46)は,103,069人で,中学校全生徒数に対 する不登校中学校生徒数は,2.86%である。

小学校から中学校まで学年が上がるごとに 不登校児童生徒数は増えて行く。不登校児 童生徒数(30日以上欠席者)の調査が開始 された1991(平成3)年度では,中学校全 生徒数に対する不登校の中学校生徒数は,

1.04%であったものが,2006(平成18)年 度は,2.86%にもなっている。中学校の不 登校生徒のきっかけと考えられる状況は,

「その他本人に関わる問題」を除いて,多 い項目は,「いじめを除く友人関係をめぐ る問題」19.7%,「学業の不振」9.8%,「親 子関係をめぐる問題」9.2%などとなって いる。

お話4

失敗したり,悩み立ち止まるその時に,親,

友人から温かく見守られ,待ってもらえるこ とも大きな支えとなることを示している47)。 失敗したり,悩み立ち止まることは,決して マイナスではない。そのことがあったからこ そ,優しくなれたり,人間的にもこころの豊 かさがもてるようになる。失敗したり,悩み 立ち止まることで,自己を見つめ,他者をみ つめ,さらに社会を変えていくことにまでも 目を向けることができる。大人や大人社会の 問題点を見抜き始め,大人や大人社会を批判

するのは,中学生として精神の健全さを示し ているといえる。

現在の受験学力は,人間の能力のごく一部 に過ぎない。この受験学力も排他的競争・相 対評価・大人による管理の中で,獲得するこ とは難しくさせられている。からだとこころ を人間らしく発達させていくためには,本当 に学ぶべきことは何かを明らかにしていくこ と,入試制度も改善していくこと,お互いに 協同し高めあっていくことなどがとても重要 になっている48)49)

(3)「授業書」方式による「中学生の精神の 発達と自己形成」についての教材案の予 備的授業を通した有効性

2007年にB大学で実施した予備的授業後の 質問紙調査(27名)で,「『中学生期の精神の 発達と自己形成』についての教材案は,中学 生に,」「役に立つ」・「少し役に立つ」とし た大学生は,27名中24名で89%であった。ま た,「他の人にあなたのよさを書いてもらう ことは,」「うれしい」・「少しうれしい」と した大学生は,27名中26名で96%に及んだ。

また,図2の通り,問題1の自己評価で自 分によく当てはまるとする項目数も,授業前 後を比較すると,授業後に有意に高くなる傾 向が認められた。(p<0.05)

以上のように,大学生も本教材案の有効性 を授業を通して概ね実感できる傾向が示唆さ れた。

2007年 

2.85 2.05

0 1 2 3

授業前  授業後  p<0.05 n=20

図2 よく当てはまる自己評価項目数の授業前後 の変化(B大学生)

(15)

まとめ

「授業書」方式による「中学生期の精神の 発達と自己形成」についての教材案を用いて,

大学生に予備的授業を実施しつつ,到達目標 作成と改訂教材案を提示した。

A大学生への90分×3コマ程度の予備的授 業(n=33,2005年)等を通した大学生の本 教材案についての意見を分析した。また,B 大学生へも同一教材案による予備的授業を通 して予備的調査を実施した。その上で,上記 教材案による到達目標作成と改訂教材案の作 成を試みた。

改訂教材案としては,自己肯定感が低い社 会的背景に目を向けること,悩み立ち止まる ことが人間としての発達につながること,共 に生きることの視点を重視した。改訂教材案

(概略)は,次の4つの問題とそれぞれの説 明文のお話4つで構成される。問題1:自己 評価として自分によくあてはまるものを選 ぶ。他の国の子どもの自己評価を含めたグラ フから,日本の子どもの自己評価を選ぶ。問 題2:日本の子どもの自己評価が低くなって いる背景について,グループで討論し発表す る。問題3:グループになって友だちのよい ところだけを書いて発表する。問題4:不登 校や勉強に悩む経験をした中学生からの手紙 を読んで,グループで意見を出し合い発表す る。また,問題ごとの到達目標も設定した。

改訂例は,①問題1の各国の子どもの自己 評価のグラフを正確で見やすいものへと改め たこと,②日本の子どもの自己評価の低い背 景を問う問題2とそのお話2を加えたこと,

③教師への参考事項で共同的人間関係性を高 めるための記述を加えたこと等である。

B大学生への同一教材案による予備的授業 後の予備的質問紙調査(n=27,2007年)の 結果では,本教材案が中学生に,「役に立 つ」・「少し役に立つ」とした大学生は,

89%,他者によいところを書いてもらうこと を「うれしい」・「少しうれしい」とした大

学 生 も 9 6 % と 高 率 で あ っ た 。 自 己 評 価

(n=20,2007年)の自分に当てはまる項目数 も,授業後に有意に高くなっていた。(p<

0.05)

今後,授業実施群と対照群を設け,事前・

直後・3ヵ月後等での本調査により,「中学 生期の精神の発達と自己形成」の改訂教材案 の有効性を検討していく予定である。また,

科学的内容・教材研究とともに,実際に中学 生を対象として実証的に改訂教材案を更に改 訂していきたい。

尚,本論文の一部は,第40回中国四国学校 保健学会(2008年)50)において口頭発表した。

1)園田雅代(2007)今の子どもたちは自分に 誇りをもっているか―国際比較調査から見る 日本の子どもの自尊感情,特集自尊感情を育 てる,児童心理,862,pp.2-11.

2)喜多明人(2007)寛容なき厳罰主義〈ゼロ トレランス〉―子どもが育つ環境なのか―,

藤田英典編:誰のための「教育再生か」,岩波 書店,pp.85-115.

3)岡崎勝博(2003)授業づくり入門,第17回 保健授業づくりセミナー資料集,保健教材研 究会,pp.24-36.

4)保健教材研究会(保健教材研究会代表・森 昭三)(1987)「授業書」方式による保健の授 業,大修館書店,pp.2-3,6-7.

5)文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教 育課(2003)児童生徒の心の健康と生活習慣 に関調査報告書,文部科学省スポーツ・青少 年局学校健康教育課.

http://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/

14/05/020514b.pdf(2008年10月現在)

6)日本青少年研究所(2002)中学生の生活意 識に関する調査,日本青少年研究所.

http://www1.odn.ne.jp/youth-study/reserch/

index.html(2008年10月現在)

7)内閣府(2007)低年齢少年の生活と意識に 関する調査報告書,内閣府.

内閣府:「低年齢少年の生活と意識に関する調 査」(中学生1,038人を対象)によれば,「中学

(16)

生の悩みや心配ごと」(複数回答)で多い順に 1位は,「勉強や進学のこと」(61.2%),2位

「友達や仲間」(20%),3位「性格のこと」

(18.7%),4位「お金のこと」(15.9%),5位

「健康のこと」(14%),6位「容姿のこと」

(9%),7位「異性のこと」(6.7%),8位

「性に関すること」(1.7%)となっている。

8)Rosenberg,  M(1965)Sosiety  and  adoles- cent self-image. Prinston University Press.

9)河地和子:自信力はどう育つか―思春期の 子どもの世界4都市調査からの提言―,pp.75- 144,朝日新聞社.

10)河地和子:上掲9),p.78.

11)河地和子:前掲9),p.96.

12)喜多明人:前掲2),pp.85-115.

13)庄井良信(2004)自分の弱さをいとおしむ 臨床教育学へのいざない,高文研,p.28.

14)楠凡之(2007)今日のいじめ問題とその構 造的背景,日本子どもを守る会:子ども白書,

草土文化,pp.58-61.

15)高垣忠一郎(2004)生きることと自己肯定 感,新日本出版社,p.186.

16)高垣忠一郎:上掲15),p.186.

17)全国生活指導研究協議会常任委員会(2001)

暴力をこえる,p.163,大月書店.

18)庄井良信:前掲13),p.19.

19)全国生活指導研究協議会常任委員会:前掲 17),p.163.

20)中薗伸二(2000)学校健康教育に関する一 考察 ―エイズについての到達目標試案―,

順正短期大学研究紀要,No.29,pp.173-187.

を若干変更した.

21)藤田和也(2008)養護教諭が担う「教育」

とは何か,農文協.

22)国連子どもの権利委員会:第1回最終所 見:日本,(子どもの権利のための国連NGO DCI日本支部:Defence  for  Children  Inter- national  Japan  Section,1998)http://www.

dci-jp.com/syoken1.html(2008年10月現在)

23)国連子どもの権利委員会:第2回最終所 見:日本,(子どもの権利のための国連NGO DCI日本支部,2004)http://www.dci-jp.com/

syoken2.html(2008年10月現在)

24)田口久美子(2006)学びを通した子どもの

自己形成,上里一郎監修,都築学編:思春期 の自己形成―将来への不安の中で―,ゆまに 書房,pp.120-121.

25)藤田智子(2000)ダイエットブームの実態 と背景―女性雑誌を通しての考察―,生活社 会科学研究,No.7,お茶の水女子大学生活科 学研究会,pp.65-80.

26)中川明,西原博史(2007)心の支配―子ど もに何が起きるのか,藤田英典編:誰のため の「教育再生」か,岩波書店,pp.147-186.

27)坂元章(2004)テレビゲームと子どもの心,

メタモル出版.

28)文部科学省(2004)保健体育,中学校学習 指導要領(平成10年12月告示,平成15年12月 一部改正),国立印刷局,pp.77-78.

29)文部科学省(2008)保健体育,中学校学習 指導要領(平成20年3月告示),国立印刷局,

pp.94-95.

30)澤山信一(1999)「精神の発達と心の健康」

領域で何が問題か,保健教材研究会編:「授業 書 」 方 式 に よ る 保 健 の 授 業 , 大 修 館 書 店 , p.25.

31)B石昌弘,細江文利 他(2008)新版 中 学校保健体育,大日本図書,pp.46-58.

32)森昭三,関岡康雄 他(2008)新・中学保 健体育,学習研究社,pp.10-24.

33)齋藤D能,高橋健夫 他(2008)新編 新 しい保健体育,東京書籍,pp.14-24.

34)澤山信一(1999)「精神の発達と心の健康」

領域で何を教えるべきか,保健教材研究会 編:「授業書」方式による保健の授業,大修 館書店,pp.25-26.を若干変更した。

35)中薗伸二(1999)中学生期の精神の発達と 自己形成,保健教材研究会編:「授業書」方 式による保健の授業,大修館書店,pp.31-34.

36)福武教育研究所(1992)第3回国際比較調 査「都市社会の子どもたち」―ストックホル ム・ハルビン・サクラメント・東京―,モノ グラフ小学生ナウ,12(4),pp.71-73.

37)園田雅代:前掲1),pp.2-11.

38)日本青少年研究所(2002)中学生の生活意 識に関する調査,日本青少年研究所.http://

w w w 1 . o d n . n e . j p / y o u t h - s t u d y / r e s e r c h / index.html(2008年10月現在)

参照

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