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ヒト血清アルブミンの構造と機能に及ぼす酸化の影響

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熊本大学学位論文

ヒト血清アルブミンの構造と機能に及ぼす酸化の影響

2 003 

安 楽 誠

E f f e c t  o f  o x i d a t i v e  s t r e s s  on t h e  s t r u c t u r e  and  f u n c t i o n  o f  human serum a l b u m i n  

1 a k o t o Anr aku 

(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)

目次

第1章  緒言--- 1

第2章  腎障害時における血清中酸化型ヒト血清アルブミン(HSA)分子種の変動 第1節  序

--- 8

第2節  結果--- 9

2−1  腎透析患者における血清中酸化型 HSA分率---9

2−2  腎透析患者における血漿中蛋白質酸化の程度

---10

2−3  腎透析患者の血漿中蛋白質酸化における HSA寄与率--- 11

2−4  腎透析患者における血清抗酸化能

---12

2−5  腎透析患者に併用投与される鉄剤のHSAへの影響---13

第3節  考察---18

第4節  小括---21

第3章  In vitroにおける酸化HSAの調製とその特性

---22

第1節  序

---22

第2節  結果---24

2−1  酸化HSA誘導活性酸素種の検索---24

2−2  酸化HSAの調製---24

2−3

 酸化HSAの酸化の程度の比較 --- 27

2−4

 各種酸化剤による標的アミノ酸残基の比較 ---28

 2-4-1

 Cys残基の酸化 ---28

 2-4-2  Met残基の酸化

---29

 2-4-3  塩基性アミノ酸残基の酸化

---29

 2-4-4  Trp及びTyr残基の酸化

---30

2−5  各種酸化剤による酸化HSAの構造特性---31

 2-5-1  CDスペクトル---31

 2-5-2  疎水性評価

---32

(8)

2−6  各種酸化剤による酸化HSAの機能特性---33

 2-6-1  リガンド結合性に及ぼす酸化の影響

---34

 2-6-2  エステラーゼ様活性に及ぼす酸化の影響

---35

2−7  各種酸化剤による酸化HSAの生体内動態特性---36

第3節  考察---38

第4節  小括---42

第4章  HSA変異体による酸化部位の比較検討

---43

第1節  序

---43

第2節

 結果 ---44

2−1  変異型HSAのコンフォメーション変化

---45

2−2

 変異型HSAの機能特性 --- 47

 2-2-1  抗酸化能評価 (DRD測定)

---48

 2-2-2  抗酸化能評価 (SDS-PAGE)--- 49

第3節  考察---51

第4節  小括---57

第5章 総括---58

実験の部

--- 61

参考文献

--- 70

(9)

第1章 緒言

 生体内では、酸素を利用する過程において種々の活性酸素種が生成している。しかし、

生体はこの活性酸素種を消去する巧みな防御機構を充分に備えているため、生理的条件下 では酸素代謝の副産物である活性酸素種やフリーラジカルの産生はそれほど重要視するも のではない。ところが何らかの理由で、これらの防御能を上回る量の活性酸素種が生じる と、重篤な病態を惹起する。その代表的なものがガンであり、その他、動脈硬化を始めと する多くの生活習慣病が発症する。近年、アルツハイマー病や血管障害性脳疾患の発症機 序の一つとして、老人斑へのβ-アミロイドの酸化的凝集沈着が注目されている1,2)。さらに 活性酸素による細胞障害は、加齢に関係して発症する各種疾患の成因の一つとして重視さ れており、ラジカル捕捉剤の治療への応用も検討されている3)

 通常、生体内に取り込まれた酸素の数%は、常に種々の酵素代謝系などでスーパーオキ シドアニオン

(O

2-

)

、過酸化水素

(H

2

O

2

)

、ヒドロキシルラジカル

(OH

)

などの活性酸素種に

Extracellular O 2

O 2 - NADPH

oxidase

NO

ONOO-

H 2 O 2

Fe 3+ /Fe 2+ .OH

MPO Cl.

RH R.

HOCl

Protein

Oxi-Protein .OH

Fig.1 Possible oxidant generating reaction

(10)

変化する。このうち、不対電子を持つO2-とOH・は寿命が短い。OH・が最も高い反応性を 有しており、ほとんど拡散律速で様々な分子と反応する。

O

2-はOH・のような高い反応性は なく、それが直接脂質や蛋白質、糖、核酸を攻撃することはないと言われている4,5)。しか しながら、金属イオンとの相互作用で

OH・を生成したり( Fenton

反応)、一酸化窒素

(NO)と反応して、NOのもつ生理作用(血管弛緩作用など)を消失させる

6,7)。同時に、ペル

オキシナイトライト(ONOO-

)を生成させ酸化障害を起こす (Fig.1)

。このような活性酸素種 の有する高い毒性から身を守るために、生体はスーパーオキシドジスムターゼ(

SOD

)を 始めとする様々な抗酸化防御系を備え持つ8,9)。このような抗酸化防御系のうち、細胞外液 中ではアスコルビン酸、尿酸、α-リボ酸が機能している。最近では、それらの化合物に加 えてアルブミンの抗酸化作用が注目されている10,11)

 血清中において、最も高濃度に存在するヒト血清アルブミン(

HSA

)は、フリーラジカ ル酸素により

HSA

自身が酸化されると同時に他の生体内物質に対して、抗酸化物質として の役割が認められている12)。しかしながら、その大半は、リガンド輸送担体としての介在的 な役割が多いのが実状である。例えば、生体内のラジカルや活性酸素の増加が、

LDL-

コレ ステロールの酸化や血管内皮細胞の傷害を介して動脈硬化を進展させることが知られてい 13)。この生体内に生じたラジカルに対して、

HSA

が担体として運搬する尿酸やビリルビ ンが捕捉剤として働き、ラジカル連鎖反応を抑制する。また、

HSA

が減少した病態下では、

ラジカルの処理や抗酸化作用が滞り、動脈硬化が進展する可能性が考えられる。さらに、

HSA

の低下により、遊離脂肪酸の血小板凝集抑制作用やマクロファージの活性化に影響が みられ、動脈硬化が進展する可能性が示唆されている14,15)。このような

HSA

の介在的な役割 の一方で、

HSA

自身の抗酸化能効果として、

34

番目に唯一遊離状態で存在するシステイン 残基(34

Cys

)の酸化還元作用が認められている16)。事実、

Era

らは、

Asahipack GS-502N

いう特殊なカラムを用いることにより、

SH

基にいかなる物質も結合していないヒトメルカ プトアルブミン

(HMA

・還元型

)

と血液中のグルタチオンや

Cys

などと共有結合しているヒト ノンメルカプトアルブミン

(HNA

・酸化型

)

を分離することに成功した17)。さらに、

HMA

フラクションが、若い健常人に比べ、加齢により顕著に減少すること、また様々な病態時、

特に、糖尿病や腎透析患者で顕著に減少することも確認している18)。これらの結果から、還

(11)

34

Cysのみの酸化で説明できるのかについては不明な点が数多く残されている。

 事実、

Stadtman

らは、抗酸化能を有するメチオニン残基

(Met)

がグルタミン合成酵素の活

性サイトの入り口に位置していることに注目し、活性サイトにおいて機能発現や構造維持 に重要なアミノ酸残基をラジカルによるダメージから守るスカベンジャーとして、

Met

残基 が機能している可能性を示した20,21)。好都合なことには、

Met

の酸化体であるメチオニンス ルフォキシド(

MSOX

)は細胞内に存在する

MSOX

還元酵素により元の

Met

へ変換される。

したがって、

Met

は細胞内ではこのサイクルにより半永久的に抗酸化剤として働くことも可 能である。また、

in vivo

においても、老化ラットから単離したグルタミン合成酵素の分子表 面の疎水性と

Met

残基の酸化の程度が良好な正の相関を示していたことから、

Met

残基の抗 酸化剤としての役割が考えられている22)。したがって、

HSA

においても、現在までに分かっ ている

Cys

残基以外にも、血清中で

HSA

自身の抗酸化効果に寄与する残基あるいは部位が存 在する可能性は否定できない。しかしながら、今までのところ、

HSA

の酸化部位はおろか、

in vivo

において

HSA

の酸化自体を捕らえられないのが実状である。

 HSAはビタミンD結合蛋白質、α-フェトプロテイン、アファミン(α

-アルブミン)を含

むアルブミンスーパーファミリーに属し、その構造は585個のアミノ酸残基から成る分子量

66.5kDaの糖鎖を持たない単量体蛋白質である

23)。35個のCys残基のうち

17対はジスルフィ

ド結合を形成し、9つのループの構築やHSAの構造安定化に大きく寄与しているものと思わ

れる24,25)。その他、一次配列上の特徴として、

34番目と214番目に各々唯一遊離状態の

34

Cys

とトリプトファン残基(214

Trp)を有している。HeらはHSAのX線結晶構造解析より、HSA

が3つの相同性の高いαへリックスに富んだドメイン

I、II及びIIIから構成されることを明ら

かにした26)。各ドメインはさらに

2つのサブドメイン A及びBに細分される。また、 Sudlow

らが提唱した2つのリガンド結合サイト、サイト

I(ワルファリン結合サイト)及びサイトII

(インドール、ベンゾジアゼピン結合サイト)はそれぞれサブドメイン

IIAとIIIAに位置す

ることが明らかにされている27,28)(Fig. 2)。

  最近、

Watanabe

らは、組換え型

HSA

の発現系の構築と精製法の確立に成功し、部位特 異的変異法を駆使して直接的に

HSA

分子上の薬物結合サイトのトポロジー解析を行った29,30)

。その結果、特にサイト

II

におけるリガンド結合及びエステラーゼ様作用に関して、

410

目のアルギニン残基

(

410

Arg)

411

番目のチロシン残基

(

411

Tyr)

の重要性を明らかにした31)。こ

(12)

Cys-34

Site I Site II

Trp-214

Fig.2 Structure of HSA

質の設計が可能になった。さらに、

HSA-リガンド複合体の X線結晶構造解析が盛んに行わ

れ、リガンド結合領域のトポロジーの詳細が急速に解明されつつある。これらの知見のよ うにリガンド結合に関する報告は数多く存在するものの、様々な

HSA

の機能を部位特異的 変異法を用いて検討した報告はほとんど見当たらない。 また、これまでに、

HSA

には約60 種の遺伝多型が同定されている23)

(Table 1)が、HSAの多型が、生きていく上で重篤な症状

を与えるという報告はほとんどない。しかしながら、いくつかの遺伝多型の血清濃度の変 動や機能変化についての報告がなされている。なかでも家族性高サイロキシン血症(

familial dysalbuminemic hyperthyroxinemia:FDH)の研究は、現在も盛んに行われてい

32-38)。これは、サイト

Iに位置する218番目のアルギン残基(

218

Arg)のヒスチジン (His)

やプ

ロリン(Pro)への変異に起因するもので、L-サイロキシンのHSAへの結合定数が約10倍増大

(13)

Residue

Table 1 Location of mutations of HSA

Codon change Geographical names and [references]; in order of reports Amino acid change

From To

-2 Arg His GGT CAT + Lille; Pollibauer, Somalia,

Tokushima ,Taipei, Fukuoka-2, Varese; Wu Yang ; Mayo, Komagone-3.

-2 Arg Cys CGT TGT + (-2 to -6 omitted) Malmo I,

Kaikoura , Tradate Redhill (see also residue 320); high in Italy, Sweden, 3 homozygotes; Ildut .

-1 Arg Glu CGA CAA + Christchurch; Gainesville ,Y,

Honolulu-2, Fukuoka-3; Mayo;

Shizuoka

-1 Arg Pro CGA CCA + Takefu; Honolulu-1

-1 Arg Leu CGA CTA + Jaffna

1 Asp Val GAT GTT + Blenheim ; Bremen ;

Malmo"II;Iowa City-2

3 His Gln CAC CAA/G Nagasaki-3

3 His Tyr CAC TAC+ Larino*

32 Gln Stop CAG TAG+ Analbuminemia case #18

(Codogna)

60 Glu Lys GAA AAA Torino

63 Asp Asn GAC AAC CHO Dalakarlia [12], SW-1, Malmo"-

95 . CHO next to Cys

82 Glu Lys GAA AAA Vibo Valentia

114 Arg Stop CGA TGA+ Analbuminemia case #3

(Bethesda)

122 Val Glu GTG GAG+ Tregasio

177 Cys Phe TGC TTC+ Hawkes Bay

214 Intron 6,3' AG GG + Analbuminemia case #16

214 Intron 6,3' G/G G/A + Analbuminemia case #15 (Vancouver)

(Trp214 stop)

218 Arg His CGC CAC+ Familial dysalbuminemic

hyperthyroxinemia (FDH)

225 Lys Gln AAA CAA+ Tradate-2

240 Lys Glu AAA GAA+ Herborn

267 Exon 8 a insert + Analbuminemia cases 10,11

(Perugia)

268 Gln Arg CAA CGA Skane SW

269 Asp Gly GAT GGT Niigata, Nagasaki-1

276 Lys Asn AAG AAC Caserta

313 Lys Asn AAG AAT+ Tagliacozzo; Cooperstown ;

Canterbury , New Guinea , Reading , IRE-1

318 Asn Lys AAG AAT/C O"rebro SW, Malmo-4

(14)

Residue Codon change Geographical names and [references]; in order of reports Amino acid change

From To

320 Ala Thr GCT ACT CHO Redhill(gives AsnTyrThr site for

glycosyl'n); also see -2 Arg Cys (Malmo"-I)

321 Glu Lys GAG AAG Roma

333 Glu Lys GAA AAA Sondrio

354 Glu Lys GAA AAA Hiroshima-1

358 Glu Lys GAG AAG Coari I, Porto Alegre I

Asp His GAT CAT Parklands

365

Asp Val GAT GGT Iowa City-1

365

Lys Glu AAA GAA Naskapi Mersin ; Komagone-1

372

Asp Asn GAT AAT

375 Nagasaki-2

Glu Lys GAA AAA

376 Tochigi

Glu Gln GAA CAA

376 Malmo-3

Glu Lys GAA AAA

382 Hiroshima-2

410** Arg Cys CGT TGT Liprizzi

479 Glu Lys GAA AAA Dublin

494 Asp Asn GAT AAT CHO Casebrook

501 Glu Lys GAG AAG+ Vancouver, Birmingham, Adana; Porto

Alegre II , Manaus I , Lambadi, Kashmir

505 Glu Lys GAA AAA Ortonovo

536 Lys Glu AAG GAG Castel di Sangro

541 Lys Glu AAA GAA Maku' (Wapishana) ;

Oriximina I

550 Asp Gly GAT GGT Mexico

550 Asp Ala GAT GCT Dalakarlia, Malmo"-62

560 Lys Glu AAG GAG Church Bay

563 Asp Asn GAT AAT Fukuoka-1 ; Ube-1; Varese-2,

Paris-2 ,

565 Glu Lys GAG AAG Osaka-1

567 Cys - TGC GC+ Bazzano*; (Frameshift:

CFAEEGKKLVAASQAALGL ->

ALPRRVKNLLLQVKLP) Lys

570 Glu GAG AAG+ B, Oliphant ; Verona*; Osaka-2

;Phnom Penh; Nagano; Iowa City-3;

Mayo ; Victoria (East India); Saitama- 1

572 Intron 13-5' G C Rugby Park (Exon 14 omitted:

GKKLVAASQAALGL -> LLQFSSF)

572 Intron 14-5' GT TT Venezia(Exon 14

omitted:GKKLVAASQAALGL ->

PTMRIRE(R)(K))

573 Lys Glu AAA GAA+ Milano fast

573 Lys Asn AAA AAT/C Vanves

580 Gln - CAA AA Catania (Frameshift: QAALGL ->

KLP)

(15)

することにより、血漿中総サイロキシン濃度は正常時に比べ高いもので

20倍上昇する。血

漿中遊離形サイロキシン濃度は正常時とほとんど変化がないため、明確な症状は観察され ないが、甲状腺機能亢進症との区別が難しく、その誤診断が問題となっている。その他、

数種の多型に関しては、薬物結合特性に変化が生じることが報告されている39,40)。このよう にHSA遺伝子に変異を持つ個体は平常時特別な症状を呈しないため、その変異の研究は無 害な突然変異の頻度や変異パターンに興味が注がれてきた。一方、ヒトの異常アルブミン

(variant)における分解促進及び金属や脂肪酸への結合の変動メカニズムの解明は、まだ 始まったばかりである。臨床において、アルブミンは様々な疾患時に汎用されているが、

投与したHSAの消失が速いため、頻繁な投与を必要とする。この原因の一つとして、疾病 による酸化ストレス条件下でHSAが酸化され、消失が促進することが挙げられる。したがっ て、ラジカル酸化を受けにくい

HSAを部位特異的変異法で作製することができれば、投与

回数を減らすことができ、臨床効果の面だけでなく、ファーマコエコノミクスな観点から も有益な効果をもたらすことが期待できる。

  このような背景の下、生体内における

HSA

の酸化機構を解明するために、第2章にお いて、健常人及び腎透析患者からの血清を用いて、

Era

らの開発した

HPLC

システムにより 生体内の酸化

HSA

の存在様式を確認し、病態時における酸化

HSA

の重要性について論述し た。第3章では、

in vitro

条件下で酸化

HSA

を調製し、酸化部位の検索を行った。また、得 られた酸化

HSA

の構造及び機能さらには体内挙動を詳細に検討した。第4章では前章で得 られた知見をもとに、部位特異的変異法を用いて組換え型

HSA

を作製した。得られた組換 え型

HSA

あるいは実際に存在する数種の異常アルブミンを用いて、

HSA

の酸化部位を同定 した。最後に、これらの基礎データをもとに、抗酸化能に富んだ

HSA

の分子設計に関する 将来の研究展望について論述した。

 以下に得られた知見を詳述する。

(16)

第2章 腎障害時における血清中酸化型ヒト血清アルブミン(HSA)分子種の変動

第1節 序

 HSAに唯一遊離状態で存在している

34

Cysは、生体内においてリガンドのスカベンジャー

あるいはリザーバーとして働いている可能性が活発に議論され、34

Cysの生理学的意義が注

目されている19)34

Cys

のSH基が遊離しているものはメルカプトアルブミン(

HMA)とい

われ、SH基がマスクされているノンメルカプトアルブミン(HNA)とは区別されている。

このHMAの存在比率はメルカプト分率といわれ、各種疾患、加齢などで変動することが報 告されている16)。そこで、HSAの酸化型、還元型を分離するAsahipack GS-502Nという特殊 なカラムを用いることにより、健常時及び病態時、特に腎透析患者での酸化HSAの変動を、

HMA, HNAを定量することにより比較検討した。また、酸化HSAの血清中での酸化の程度

を他の血清蛋白質と比較検討することにより、酸化に対する

HSAの重要性についても検討

した。さらに、現在、透析中の患者において、貧血を防ぐために鉄剤が同時投与されてい る。通常、腎疾患を始めとする病態時では活性酸素による生体内の酸化が健常人より上昇 することが数多く報告されている17,18)。したがって、鉄剤を投与することにより、貧血を防 ぐ一方で、この鉄剤が触媒となり、生体内の酸化を促進し、他の疾患を併発する可能性が 充分に考えられる。しかしながら、現在の鉄剤の投与設計は、経験的なものに過ぎず、改 善の余地があるかもしれない。そこで、我々は先のカラムを利用することにより、腎透析 患者間での鉄剤投与の有無による酸化型

/還元型比の違いを比較検討するとともに、鉄剤の

生体に及ぼす影響についても詳細に検討した。

(17)

第2節 結果

 2-1 腎透析患者における血清中酸化型HSA分率

 Fig.3に健常人(男性、age; 24)及び腎透析患者(男性、age; 66)のHPLCプロファイルを 示す。第一のピークはメルカプト型(HMA)、第二のピークはシステインやグルタチオン と混合ジスルフィドを形成しているノンメルカプト型(

HNA

Cys

;HNA-1

)、第三のピーク は不可逆的にスルフィン酸やシステイン酸に酸化された酸化型(HNAoxy

; HNA-2)を表す。

健常人ではHMAが約8割を占め、HNA-2はほとんど存在しない。一方、腎透析患者では、

HMAが大きく低下し、HNA-1,HNA-2の増加が観察された。また、Table 2に示すように、

健常人(n = 6)、腎透析患者(n = 66)でのHMA, HNA-1, HNA-2の存在比率を検討した 結果、先のHPLCプロファイルを反映して、腎透析患者におけるHMAの顕著な減少が認め られた一方で、HNA-1及びHNA-2の上昇が観察された。また、このときの血清中のフリー のCys濃度を測定したところ、健常人に対して腎透析患者で約

3割の低下が観察された (Fig.4)。

Fig. 3 HPLC profile of serum from a normal subject (A) and a patient of renal failure (B) HMA ; mercaptoalbumin (reduced form), HNA-1; nonmercaptoalbumin (disulfide form),  

HNA-2; nonmercaptoalbumin (oxidized form)

10 20 30 40 10 20 30 40

Retention time (min)

(A) HMA (B)

HMA

HNA-1 HNA-1

HNA-2 HNA-2

(18)

** P < 0.001 as compared with sera of normal subjects.

Table 2 f values (%) for HSA and oxidized HSA in sera from normal subjects and patients of renal failure

normal subjects (n = 6)

HMA HNA-1 HNA-2

78.5 ± 3.51 19.8 ± 3.35 1.64 ± 0.79

patients of renal failure (n = 66)

50.6 ± 8.6 **

41.9 ± 7.8 **

7.55 ± 3.3 **

0 0.5 1

patients of renal failure normal subjects

Relative contents of free Cys

**

Fig. 4 Relative contents of free Cys of sera from normal subjects (n=6) and patients of renal failure (n=66) **P < 0.001 as compared with sera of normal subjects.

2-2 腎透析患者における血漿中蛋白質酸化の程度

 多くの場合、蛋白質の酸化はカルボニル含量の増大を伴う41)。そこで、健常人及び腎透析 患者の血漿中蛋白質がどの程度酸化されているのか確認するために、まずカルボニル含量 を測定した。

Fig.5

に示すように、腎透析患者では、健常人と比較して、著しいカルボニル

(19)

0.00 0.05 0.10 0.15

normal subjects patients of renal failure

Fig. 5 Carbonyl content of plasma from normal subjects (n=6) and patients of renal failure (n=66) ** P < 0.001 as compared with plasma of normal subjects.

[Carbonyl content] / [Plasma]

**

2-3 腎透析患者の血漿中蛋白質酸化におけるHSA寄与率

 先の腎透析患者のカルボニル含量の増大により、血漿中蛋白質の酸化が確認された。し かし、この所見は、血漿中のすべての蛋白質についてであり、どの蛋白質がどの程度酸化 されているかは定かではない。事実、血漿中には、

HSAを始め、トランスフェリン、フィ

ブリノーゲン、免疫グロブリンなど様々な蛋白質が存在する。そこで、カルボニル含量測 定試薬であるフルオレッセイン(DNP)のモノクロナール抗体を用い、血漿中の蛋白質の酸化

における

HSAの寄与率について健常人及び腎透析患者間で比較検討した

41)。その結果、

Fig.6に示すように、血漿中を代表する HSA、トランスフェリン、フィブリノーゲン、免疫

グロブリンのなかで、腎透析患者において最も

HSAが酸化されていることが明らかとなっ

た。

(20)

Fig. 6 (I) Western blots of plasma from normal subjects and patients of renal failure after derivatization and staining with Oxyblot Kit reagents (II) Plasma protein carbonyl formation measured by western blots of plasma from normal subjects (n=6) and patients of renal failure (n=20) *P< 0.05 vs. normal subjects.

(I)

Fibrinogen (340kDa) Immunoglobulin (180kDa) Transferrin (80kDa)

HSA (67kDa) Protein Carbonyl

N R N R

A) B)

N; normal subjects

R; Patients of renal failure

0 HSA Transferrin Immuno globulin

Fibrinogen (II)

0.5 1 1.5

2 2.5

3

*

Relative densitometry units

N R N R N R N R

2-4 腎透析患者における血清中抗酸化能

 先の結果から、血漿中において HSA

が最も酸化されることが明らかになった。すなわち、

HSA

の存在が、血清中の活性酸素に対する抗酸化能効果に大きく寄与し、血清の恒常性を

(21)

ジヒドロローダミン123(DRD)を用い、希釈した血清中に活性酸素である過酸化水素を添加 することにより、DRDからローダミン123(RD)への酸化速度を蛍光スペクトルでモニターし て測定した42)。その結果、健常人に対して腎透析患者での抗酸化能効果の有意な低下が観察 された(Fig.7)。

0 50 100

normal subjects patients of renal failure

Fig. 7 Relative antioxidant activity of sera from normal subjects (n=6) and patients of renal failure (n=66) * P < 0.05 as compared with sera of normal subjects.

Relative antioxidant activity (%)

*

2-5 腎透析患者に 併用投与される鉄剤のHSAへの影響

 腎透析患者において、貧血を防ぐために鉄剤が同時投与されている43-45)。したがって、鉄 剤を投与することにより、貧血を防ぐ一方で、この鉄剤が触媒となり、生体内の酸化を促 進し、他の疾患を併発する可能性が考えられる。そこで、今回、我々は腎透析患者間での 鉄剤投与の有無による効果を比較検討するとともに、鉄剤のHSAの酸化に及ぼす影響につ いて検討した。

Fig.8

に鉄剤非投与群腎透析患者(男性、

age; 66

)及び鉄剤投与群腎透析患者(男性、

age; 66)

HPLC

プロファイルを示す。先の健常人と比べ、

HMA

の減少及び

HNA-1

の上昇 の傾向は、鉄剤投与の有無に関わらず、大きな変化は認められなかったが、興味深いこと

に、

HNA-2

において、鉄剤投与の腎透析患者において、鉄剤無しに比べ、上昇が認められ

た。事実、

Table 3

に示すように、鉄剤非投与腎透析患者(

n=33

)、鉄剤投与腎透析患者(

(22)

n=33)でのHMA, HNA-1, HNA-2の存在比率を検討した結果、先のHPLCプロファイルを

反映して、鉄剤投与腎透析患者におけるHNA-2のみの有意な上昇が認められた。

Fig. 8 HPLC profile of serum from a patient of renal failure without (A) and with (B) coadministration of Fe

10 20 30 40 10 20 30 40

Retention time (min)

(A) (B)

HMA HMA

HNA-1 HNA-1

HNA-2 HNA-2

* P < 0.05 as compared with sera from patients of renal failure without   coadministration of Fe.

without Fe (n = 33) HMA

HNA-1 HNA-2

52.3 ± 15.9 42.8 ± 10.9

6.54 ± 2.17

with Fe (n = 33) 50.3 ± 13.1 41.6 ± 8.26 8.96 ± 4.2 *

Table 3 f values (%) for HSA and oxidized HSA in sera from patients of renal failure with or without coadministration of Fe

 さらに、腎透析患者間の鉄剤投与の有無による血漿のカルボニル含量の比較検討を行っ

た。Fig.9に示すように、鉄剤投与群が鉄剤非投与群に比べて、血漿カルボニル含量の有意 な増大が観察された。

(23)

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20

With Fe(+) Without Fe(-)

Fig. 9 Carbonyl content of plasma from patients of renal failure without (n=33) and with (n=33) coadministration of Fe ** P < 0.001 as compared with plasma from patients of renal failure without coadministration of Fe.

[Carbonyl content] / [Plasma]

**

さらに、カルボニル含量測定試薬であるフルオレッセイン

(DNP)のモノクロナール抗体を用

い、血漿中の蛋白質の酸化の程度を腎透析患者間での鉄剤投与の有無により比較検討した。

その結果、Fig.10に示すように鉄剤投与により、HSAのみの有意な酸化が確認された。また、

このときの血漿抗酸化能効果を測定したところ、鉄剤投与の患者群で、抗酸化能効果の有 意な低下が観察された(Fig.11)。

(24)

Fig. 10 (I) Western blots of plasma from patients of renal failure with or witout coadministration of Fe after derivatization and staining with Oxyblot Kit reagents

(II) Plasma protein carbonyl formation measured by western blots of plasma from patients of renal failure with (n=10) or witout (n=10) coadministration of Fe *P< 0.05 vs.witout Fe.

(I)

Fibrinogen (340kDa) Immunoglobulin (180kDa)

Transferrin (80kDa) Albumin (67kDa) Protein Carbonyl

Fe(-) Fe(+) Fe(-) Fe(+)

Fe (+); with Fe Fe (-); without Fe (II)

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

Relative densitometry units

*

HSA Transferrin Immuno globulin

Fibrinogen

Fe(-)Fe(+) Fe(-)Fe(+) Fe(-)Fe(+) Fe(-)Fe(+)

(25)

0 50 100

without Fe with Fe

Fig. 11 Relative antioxidant activity of sera from patients of renal failure with (n=33) or without(n=33) coadministration of Fe

* P < 0.05 as compared with without coadministration of Fe.

Relative antioxidant activity (%)

*

 次に鉄剤非投与群の腎透析患者に対して

Fe(

フェジン;

40mg/2mL)

を添加することにより、

Fe

による酸化の影響を

ex vivo

の実験で検討した。生体内条件を考慮して、鉄剤非投与患者群 の血清に

Fe

を添加し、

37˚C

で1時間、インキュベートしたところ、

HNA-2

のみが有意に上 昇した。

Table 4 f values (%) for HSA and oxidized HSA in sera from patients of renal failure without coadministration of Fe treated with incubaiton for 1 hr at 37˚C with and without Fe

* P < 0.05 as compared with serum from patients of renal failure without coadministration of Fe treated with incubation without Fe.

f (HMA) 46.3 ± 8.07 43.2± 8.93

f (HNA-1) 42.9 ± 8.04 43.1 ± 7.81

f (HNA-2) 10.8 ± 2.68 13.7 ± 5.74*

incubation without Fe

   (n = 33)

incubation with Fe  

   (n = 33)

(26)

第3節 考察

1. 腎透析患者の酸化HSAの増加とその重要性

 健常人及び腎透析患者でのHMA, HNAの変動を比較したところ、健常人に比べて腎透析 患者において、酸化HSAと言われているHNA-1, HNA-2の上昇が観察される(Fig.3)と同時 にフリーのCys濃度の低下が観察された

(Fig.4)ことから、従来の報告通り、 HSAの

34

Cys

酸化が確認された。一方で、腎透析患者における血漿カルボニル含量の増加も確認された

(Fig.5)。この増加は、塩基性アミノ酸残基であるリジン (Lys)、アルギニン(Arg)残基を始め、

プロリン

(Pro)残基などの酸化によるものと考えられる。すなわち、 HPLCプロファイルか

らHSAの34

Cysの酸化が確認されるとともに、

34

Cys以外の他の残基も同時に酸化されている

ことが明らかとなった。さらにカルボニル含量測定試薬であるフルオレッセイン

(DNP)のモ

ノクロナール抗体を用い、血漿中蛋白酸化を健常人と比較検討したところ、血漿中を代表 するHSA、トランスフェリン、フィブリノーゲン、免疫グロブリンのなかで、

HSAのみが

腎透析患者において有意に酸化されていることが明らかとなった(Fig.6)。この結果より、先 の血漿カルボニル含量の増大は、ほとんど

HSAの酸化で説明がつくといっても過言ではな

い。したがって、血清蛋白質中、最も高濃度に存在する

HSAは、HSA自身が酸化を受ける

ことにより、他の蛋白質の構造や機能を保護する役割、すなわち、血清中の恒常性を保っ ている可能性が強い。そこで、次に血清抗酸化能を健常人と比較検討した。その結果、健 常人に対して腎透析患者での抗酸化能効果の顕著な低下が観察された

(Fig.7)。これは、

HSAが特異的に抗酸化能効果を担っていること示している。事実、健常人及び腎透析患者

のHSA濃度を測定したところ、腎透析患者のHSA濃度が健常人に対して約3割減少していた

(data not shown)。これは、先のカルボニル含量の結果からも分かるように、特異的な蛋白

質、すなわち

HSAが病態時で血清中に過度に発生する活性酸素に対して、抗酸化剤として

機能していると考えられる。

(27)

2. 鉄剤のHSAに及ぼす影響

 透析患者において、貧血を防ぐために鉄剤が同時投与されている。通常、腎疾患を始め とする病態時では活性酸素による生体内の酸化が健常人より上昇することが数多く報告さ

れている46-48)。事実、生体内では、弱い活性酸素と言われている過酸化水素に金属イオンが

相互作用することにより、

OH・という非常に強力な活性酸素を生じることが報告されてい

49)。したがって、鉄剤を投与することにより、貧血を防ぐ一方で、この鉄剤が触媒となり、

生体内の酸化を促進し、他の疾患を併発する可能性が充分に考えられる。しかしながら、

現在の鉄剤の投与設計は、貧血を防ぐ目的で経験的に処方されているに過ぎない。そこで、

我々は先のHSAの酸化型、還元型を分離するカラムを利用することにより、腎透析患者間 での鉄剤投与の有無による酸化型/還元型 比の違いを比較検討するとともに、鉄剤が及ぼす 生体内への影響について詳細に検討した。HMA, HNA-1のピークは、鉄剤投与の有無に関 わらず、大きな変化は認められなかったが、興味深いことに、HNA-2において、鉄剤投与 腎透析患者で有意な上昇が認められた

(Fig.8)。先の健常人との HPLCプロファイルと考え合

わせると、病態時による酸化の進行により、始めに

HMA

の減少が起こり、次に

HNA-1、

HNA-2の上昇、加えて鉄剤投与によるさらなる HNA-2の上昇と、段階的にHSAは酸化され

ていくと考えられる。これは、腎疾患により健常人に比べて

HSAが酸化されているにも関

わらず、鉄剤の投与により、さらなる

HSAの過度の酸化を受けていることが考えられる。

事実、鉄剤投与の有無による血漿カルボニル含量の相違においても、鉄剤投与群の患者に おいて有意な上昇が認められた(Fig.9)。これも鉄剤投与により、貧血を補う一方で、血漿中 の酸化促進を引き起こしていると考えられる。また、カルボニル含量測定試薬であるフル オレッセイン(DNP)のモノクロナール抗体を用い、血漿中蛋白酸化を鉄剤非投与群と比較検 討した。これまでの報告では、健常人の血漿にOH・を発生させる酸化剤を添加した際、フィ ブリノーゲンが最も酸化されると言われていたが50,51)、今回の腎透析患者での鉄剤投与群で は、HSAのみが有意に酸化されていた

(Fig.9)

。鉄剤投与の際も、HSAが過度の活性酸素を 消去する能力、すなわち血漿中で抗酸化剤として作用していると考えられる。今回の結果 は、実際の病態からのものであり、生体内の酸化を十分に反映していると考えられる。ま た、これは、鉄剤投与の有無における抗酸化能測定の結果においても裏付けられている 

(28)

HNA-2の有意な上昇が確認された。これは鉄剤が血漿中の活性酸素と反応し、 HSAのさら

なる酸化につながったものと考えられる(Table 4)。

 このように、病態時での、HSAの酸化が明らかになったが、

HSA自身、どのアミノ酸残

基が酸化されているのか興味のあるところである。さらに、in vitroで酸化HSAを調製し、

その詳細についての検討が必要である。また、今回、腎透析患者に対する鉄剤の影響が明 らかになった現状では、今後、鉄剤投与設計において抗酸化剤を併用投与するなど新たな 指針が必要であるかもしれない。

(29)

第4節 小括

 本章では、腎透析患者の血漿を用いて酸化

HSAの病態時での変動について検討を行い、

以下の結果が得られた。

1)腎透析患者において、 HPLC

による解析から、HMAの減少ならびにHNA-1及びHNA-2

の上昇が観察され、

HSAの酸化が確認された。さらに、血漿カルボニル含量測定から、従

来報告されている34

Cysだけでなく、塩基性アミノ酸あるいは芳香環アミノ酸残基が酸化さ

れていることが明らかになった。

2)腎透析患者において、血漿中蛋白質のなかでHSAが特異的に酸化されていることが明ら

かになった。また、

HSAの酸化が病態時に発生する活性酸素に対して抗酸化能効果を示す

ことにより、血漿中の恒常性を維持している可能性が強く示唆された。

3)腎透析患者において、鉄剤を投与することにより、貧血を防ぐ一方で、生体内の酸化を

促進させる可能性が強く示唆された。

 これらの知見は、これまで漠然と捕らえられていた病態時での酸化的ストレスによる血 漿中酸化機構に対して、

HSAが酸化されることにより、血漿中の恒常性維持に大きな役割

を果たしていることを示すとともに、腎透析患者に対する今後の鉄剤投与設計に、一つの 問題を提起するものと考えている。

(30)

第3章 In vitroにおける酸化HSAの調製とその特性

第1節 序

 酸素依存性のアミノ酸の酸化は酸化の方法、すなわち、発生してくるラジカルの種類や アミノ酸の性質によって異なってくる。最近では、それら酸化生成物の構造特性も明らか にされてきている52)。例えば、酸素分子存在下、アルギニン

(Arg)はOH・により5-ヒドロキ

シ-2-アミノバレリル酸へ、トリプトファン

(Trp)やヒスチジン (His)はOH・によりそれぞれ

N-フォルミルキヌレニンや 2-オキソヒスチジンへ変換されることが報告されている

53,54)。ま

た、ウシ血清アルブミン

(BSA)、ヘモグロビン、ミオグロビンでは、 OH・によりプロリン (Pro)が酸化され、ペプチド鎖のフラグメント化を生じることも知られている(Table 5)。

In vitro

で蛋白質を酸化する際、放射線照射で蛋白質を酸化させる方法や、アスコルビン

酸、酸素存在下、過量の銅や鉄などの遷移金属触媒により発生したラジカル酸素により蛋 白質を酸化させる金属触媒酸化法はよく知られている55-57)。ところが、これらの方法は蛋白 質を過度に酸化するため、蛋白の断片化や多量体化を引き起こす。しかしながら、

in vivo

おける酸化反応の律速はこれらの高次な酸化過程ではなく、より初期の段階における反応 過程であると考えられる。したがって、この初期の酸化過程を解明することは、臨床医学 的にみても非常に興味深い。前章の腎透析患者の結果から、34

Cys

残基の酸化が確認された 一方で、カルボニル含量の増大から、

in vitro

で報告されている酸化の過程が、実際に生じ ている可能性は極めて高い。そこで血清中で発生すると考えられているいくつかの活性酸 素種を用いて

in vitro

条件下で酸化

HSA

を調製後、酸化されるアミノ酸残基の検索、また、

分光学的手法を用いての構造特性の解明、リガンド輸送能を始めとする機能特性の解明、

さらには111

In

標識体を用いてマウスにおける体内動態特性を未処理の

HSA

と比較検討した。

(31)

Table 5 New moieties genarated by biological protein oxidation and their genesis

Oxidative insult Product

Tyr+OH. or RNIs Tyr+HOCl Tyr+RNIs Tyr+OH. or one-electron oxidation of Tyr or HOCl, followed by radical-radical combination

Phe+HO.;one-electron; RNls?

Trp+HO., or one-electron oxidation Trp+HO., or one-electron oxidation His+HO., or one-electron oxidation Glu+HO., in presence of O2

Leu+HO., in presence of O2 Val+HO., in presence of O2

Lys+HO., in presence of O2

Pro+HO., in presence of O2

Arg+HO., in presence of O2

Ile+HO., in presence of O2

Gly; hydrogen-atom abstraction from ∂-carbon followed by reaction with CO2.-radical;

could arise from a succession of oxidants of other amino acids

Met+HO. or one-electron oxidation Cys+HO.,

or other hydrogen-atom-abstractingspecies

Dopa

J. DAVIES et al., Biochem. J., (1997) 324,1-18 Isoleucine hydroperoxides; Isoleucine hydroxides?;

Carbonyl compounds?

Methionine sulfoxide Dityrosine

o-, and m-Tyrosine

N-Formylkynurenine; Kynurenine 5-Hydroxytryptophan

2-Oxohistidine

Glutamic acid hydroperoxide

Leucine hydroperoxides and hydroxides

Valine hydroperoxides and Carbonyl compounds Lysine hydroperoxides and Carbonyl compounds Proline hydroperoxides and hydroxides;

5-Hydroxy-2-aminovaleric acid;

Carbonyl compounds

5-Hydroxy-2-aminovaleric acid

Cystine; Oxy acids Aminomalonic acid 3-Chlorotyrosine 3-Nitrotyrosine

(32)

 第2節 結果

2-1 酸化HSA誘導活性酸素種の検索 

 活性酸素は一般に反応性に富む化学種であるため、それらが生体内で生じた場合、検出 は容易ではない。活性酸素と疾患との関わり合いを知るためには、まずin vitroでの充分な 基礎検討が必要である。そこで、今回、我々は、代表的な

3種の活性酸素種、過酸化水素

(H

2

O

2

)、過塩素酸類似物質クロラミンT (CT)、ヒドロキシルラジカル (OH・)を用い、血漿

とこれら活性酸素種を反応させて得られたHPLCプロファイルを作成し、腎透析患者とのそ れを比較検討した。Fig.12に示すように緩和な酸化条件を設定し、時間及び濃度依存的に反 応させたところ、H2

O

2、CTで腎透析患者に近い、

HNA-1及びHNA-2が上昇するHPLC

プロ ファイルを得た。一方で、鉄の添加によりOH・を発生する

Fenton反応による、ピークの消

失が確認された。また、そのときの各HMA及びHNA-1、2の比率より、

H

2

O

2、CTのHPLC プロファイルが共に腎透析患者に類似していた(Table 6、7)。したがって、これら3種の活性 酸素種は病態時でも発生している可能性は非常に高いと思われる。

2-2 酸化HSAの調製

 先のHPLCプロファイルの結果から、過塩素酸類似物質

CT及びH

2

O

2が、病態時で主に発 生している可能性が示唆された。しかし、先のFenton反応で認められたHPLCピークの消失 を引き起こしたOH・による酸化も、腎透析患者への鉄剤投与の際に瞬間的に惹起される可 能性も充分に考えられる。そこで、これら

3種の活性酸素を用い、酸化 HSAを調製した。血

漿に1、10、100 mM濃度のH2

O

2、あるいは0.1、1、10、50 mM濃度の過塩素酸類似物質CT をそれぞれ加え、1時間、37˚Cでインキュベートした。一方、

OH・に関しては、反応が非

常に速く、強力な酸化であるため、アスコルビン酸を用いた金属触媒酸化 (MCO; metal

catalyzed oxidation)を利用し、緩和な条件で経時的に酸化HSAを調製した。今回、作製し

(33)

HMA

HNA-1 HNA-2

10 20 30 40

0

Retention time (min) After 3 min

After 1 hr Control

10 20 30 40

0 0 10 20 30 40

Retention time (min)

10 20 30 40

0

10 20 30 40

0 0 10 20 30 40

Retention time (min)

10 20 30 40

0 treated with CT (1 mM) treated with

H

2

O

2

(1 mM)

treated with H

2

O

2

(1 mM) +

Fe (10µM)

Fig.12 HPLC profile of HSA and oxidized HSAs treated with chloramine T (CT), hydrogen

peroxide (H

2

O

2

) and Fenton system(H

2

O

2

+ Fe) in serum from a normal subject

(34)

The data are average values of five experiments (± S. D.).a N.D. not detected.

* P < 0.001 as compared with CT (0 mM).

CT 0.1mM 1 mM 10 mM 50 mM

HMA

HNA-2 HNA-1 After 3 min

HMA HNA-2

HNA-1 After 1 hr

N.D. N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

74.9 ± 0.99

22.1 ± 1.51

2.97 ± 1.03

72.8 ± 2.11

23.9 ± 2.39

3.21 ± 1.13

72.4 ± 2.50

22.5 ± 1.38

2.62 ± 0.78

61.2 ± 3.63

*

23.7 ± 4.23

14.6 ± 1.23

*

65.2± 3.38

*

22.4 ± 3.95

12.4 ± 1.28

*

Table 6 f values (%) for HSA and oxidized HSAs treated with CT in serum from normal subjects

a

0 mM

The data are average values of five experiments (± S. D.).a N.D. not detected.

HMA

HNA-2 HNA-1 After 3 min

HMA HNA-2

HNA-1 After 1 hr

74.9 ± 0.99

22.1 ± 1.51

2.97 ± 1.03

72.8 ± 2.11

23.9 ± 2.39

3.21 ± 1.13

71.7 ± 4.76

25.19 ± 4.57

3.09 ± 1.16

38.4 ± 6.99

*

41.9 ± 2.66

*

19.57 ± 8.21

*

N.D.

N.D.

N.D.

38..2± 4.38

*

39.4 ± 6.95

*

18.4 ± 4.28

*

Table 7 f values (%) for HSA and oxidized HSAs treated with H

2

O

2

and Fenton system in serum from normal subjects

100 mM

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

a

H2O2 (1mM)    +   Fe (10µM)

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

N.D.

0 mM 1 mM 10 mM

H2O2

(35)

HSA、CT

10

-HSA、CT

50

-HSA、またアスコルビン酸と鉄剤を用いた時間依存的な酸化体(

12、24、48、72hr)をMCO

12

-HSA、MCO

24

-HSA、MCO

48

-HSA、MCO

72

-HSAとして以下

の実験を行った。

2-3 酸化HSAの酸化の程度の比較

 病態時あるいは老化による蛋白質の酸化は、カルボニル含量の増大を伴う58)。そこで、本 実験条件で調製された酸化HSAがどの程度酸化されているかを確認するために、カルボニ ル 含 量 を 測 定 し た 。

Fig.13

に 示 す よ う に 、

C T - H S A ( C T

10

-、 C T

50

- H S A )

及び

MCO- HSA(MCO

12

-、MCO

24

-、MCO

48

-、MCO

72

-HSA)では、酸化反応が進むにつれて、著しいカ

ルボニル含量の増大が認められた。対照的にH2

O

2

-HSA (H

1

-、H

10

-、H

100

-HSA)ではカルボ

ニル含量の増大は観察されなかった。

H1-HSA

CT0.1-HSA H10-HSA H100-HSA CT1-HSA CT10-HSA CT50-HSA MCO12-HSA MCO24-HSA MCO48-HSA MCO72-HSA Control

0 0.1 0.2

[Carbonyl contents] / [HSAs]

*

**

*

**

**

**

Fig. 13 Carbonyl contents of oxidized HSAs

* P < 0.05, ** P < 0.001 as compared with control.

(36)

2-4 各種酸化剤による標的アミノ酸残基の比較

 これまでの検討結果から、各種活性酸素により様々なアミノ酸残基が酸化されている可 能性が示唆された。そこで、酸化されるアミノ酸残基の検索をキャピラリー電気泳動法や 分光学的方法等を用いて行った。

2-4-1 Cys残基の酸化

 まず、5、5 -ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)

(DTNB)を用いて、フリーのCys残基の酸

化の程度を未処理HSAと比較検討した。その結果、Fig.14に示すように、3種の酸化

HSAす

べてにおいて、低濃度あるいは短時間でCys残基の約8割の酸化が確認された。

Relative ratio of oxidized Cys residue (%) Fig. 14 Relative ratio of oxidized Cys residue of oxidized HSAs

0 50 100

H1-HSA

CT0.1-HSA

H10-HSA

H100-HSA

CT1-HSA

CT10-HSA

CT50-HSA

MCO12-HSA

MCO24-HSA

MCO48-HSA

MCO72-HSA

Control

(37)

2-4-2 Met残基の酸化

 Met残基もまた酸化を受ける代表的なアミノ酸の一つである59,60)。このMet残基の酸化の 度合いは、臭化シアン

(CNBr)

がMet残基で特異的に切断するが、メチオニンスルホキサイ ドでは切断できない性質を利用して調べた61)。各酸化HSAをCNBr修飾後のSDS-PAGEの結 果をFig.15に示す。H2

O

2

-HSA (H

1

-、H

10

-、H

100

-HSA)及びCT-HSA(CT

10

-、CT

50

-HSA)では

未修飾HSAに比べ断片化が抑えられていた。一方、

MCO-HSA

の場合は未修飾HSAと類似 した反応性を示した。したがって、

H

2

O

2

-HSA及びCT-HSAにおけるMet残基の酸化が観察

された。

H 1-HSA H 10

-HSA

CT1-HSA CT10

-HSA CT50-HSA

MCO 12

-HSA MCO

24 -HSA

MCO 48-HSA

MCO 72

-HSA Control H 100

-HSA CT0.1

-HSA

M.W. M.W.

29000 20400 14000 6100 3500 Fig. 15 Cleavage of oxidized HSAs by CNBr 

M.W. ; molecular weight marker (kDa).

2-4-3 塩基性アミノ酸残基の酸化

 3種の酸化

HSA

の分子表面の荷電状態をキャピラリー電気泳動法(

CE

法)を用いて検討 した。その結果、未修飾

HSA

に比べて、

MCO-HSA (MCO

24

-

MCO

48

-

MCO

72

-HSA)

及び

CT-HSA (CT

50

-HSA)

においては

CE

の移動度は遅延していた

(Fig.16)

。このことは、酸化に伴

MCO-HSA

及び

CT-HSA

において、

HSA

の分子表面の実効電荷がより負に帯電したためと

解釈される。すでに報告されている酸化蛋白質のアミノ酸修飾の結果55-57)を考え合わせると、

(38)

ノ酸残基が酸化され陽電荷を失ったためと推察された。対照的にH2

O

2

-HSAでは未修飾HSA

と同様の移動度を示したことから、電荷を有するアミノ酸残基は

H

2

O

2処理で影響を受けて いないものと思われた。

Migration time (min)

17 18 19 20 21 22

*

**

Fig.16 Migration times of oxidized HSAs using capillary electrophoresis

* P < 0.05, ** P < 0.001 as compared with control.

H1-HSA

CT0.1-HSA H10-HSA H100-HSA CT1-HSA CT10-HSA CT50-HSA MCO12-HSA MCO24-HSA MCO48-HSA MCO72-HSA Control

**

**

2-4-4 Trp及びTyr残基の酸化

HSA

はその分子中の

214

番目に唯一トリプトファン残基(214

Trp

)を有している。この

Trp

もまた酸化されやすいアミノ酸残基の一つであることから、214

Trpの酸化をHSA固有の蛍光

をモニターして調べた。その結果、

MCO-HSA

及び

CT-HSA

において、214

Trp

の蛍光は極大 波長を短波長シフトし減少した(Fig.17)。この結果は、Trp自身が酸化されているか、も しくはそれを取り巻くミクロ環境が変化し、

Trp

が発蛍光性を示しにくい環境に置かれてい るためと解釈される。一方、H2

O

2

-HSAでは、固有蛍光スペクトルの変化はほとんど認めら

れていないことから、酸化反応による

Trp

自身あるいはそれを取り巻くミクロ環境変化の可 能性は低いものと思われる。また、

Tyr残基の励起波長である280nm

で励起し、モニターし

(39)

んど起こっていないものと考えられた。

H

1

H

100

0 0.1 0.3 0.5 0.7

320 330 340 350 360 370 320 330 340 350 360 370

320 330 340 350 360 370

Wavelength (nm)

Relative fluorescence intensity

Fig.17 Intrinsic fluorescence spectra of oxidized HSAs

control

MCO

72

MCO

12

CT

0.1

CT

50

H

2

O

2

-HSA CT-HSA MCO-HSA

2-5 各種酸化剤による酸化HSAの構造特性

 種々の蛋白質において、酸化修飾に伴い構造変化が生じることが報告されている。例え

ば、

in vitro

においてヒトリラキシンの

His

Met

が酸化される結果、この蛋白質の凝集及び

沈殿が起こる62)。またin vivoにおいても、老化ラットから単離したカルモジュリンでは、

Met

の酸化により大きく構造が変化することが知られている63)。しかしながら、酸化蛋白質 の構造変化に関する系統だった検討はあまり行われておらず、ましてやその機構について はほとんど明らかにされていない。このような現状のもと、酸化に伴う

HSA

の構造変化を 詳細に検討するために、高次構造の比較にはCDスペクトルを、また、構造変化に伴う分子 表面の疎水性の露出度は疎水領域検索蛍光プローブを用いて評価した。

2-5-1 CDスペクトル

 まず、酸化

HSA

の遠紫外及び近紫外領域における

CD

スペクトルを測定し、二次構造及び 三次構造変化を調べた。その結果、遠紫外領域で観察されたコットン効果は、未処理

HSA

のそれに比べ

MCO-HSA

の時間経時的及び

CT-HSA

の濃度依存的酸化体において、若干減少

Table 1 Location of mutations of HSA
Fig. 3  HPLC profile of serum from a  normal subject (A) and a patient of  renal failure (B)  HMA ; mercaptoalbumin (reduced form), HNA-1; nonmercaptoalbumin (disulfide form),  
Fig.  4  Relative  contents  of  free  Cys  of  sera  from  normal  subjects  (n=6)    and patients of  renal  failure (n=66)  **P &lt; 0.001 as compared with sera of normal subjects
Fig. 5  Carbonyl content of plasma from normal subjects (n=6)  and  patients of  renal failure (n=66)  ** P &lt; 0.001 as compared with plasma of normal subjects
+7

参照

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