エンドトキシン散乱測光法におけるヒト血清アルブミンの影響
岩手医科大学医学部救急医学講座
高橋 学 柴田 繁啓 菅 重典 稲田 捷也 遠藤 重厚
(平成 26 年 12 月 3 日受付)
(平成 27 年 2 月 3 日受理)
Key words : Endotoxin, serum albumin, false positive reaction
要 旨
目的:エンドトキシン散乱測光法(Endotoxin scattering photometry;以下 ESP 法)は,新規開発され たエンドトキシン測定法であるが,当施設ではこれまでに ESP 法ではエンドトキシンフリーの注射用蒸留 水においても偽陽性と考えられる凝集(以下偽凝集)が生じること.また検体の希釈により測定値に差異が 生じることを報告してきた.今回これらの現象が検体の蛋白濃度に起因するかについて Human serum albu- min(以下 HSA)を用いて検討した.結果:ESP 法における偽凝集は HSA の濃度が高くなるにつれ抑制さ れた.またエンドトキシンによる凝集は HSA の濃度が高くなるにつれ遅延した.これらのことより ESP 法では検体の蛋白濃度により測定値に差異が生じる可能性が示唆された.なお比濁時間分析法では偽凝集は 認めず,HSA の濃度による測定値への影響もほとんど見られなかった.
〔感染症誌 89:452〜457,2015〕
序 文
エンドトキシン散乱測光法(Endotoxin scattering photometry;以下 ESP 法)は,前処理血漿とカブト ガニ血球抽出液(Amebocyte lysate,以下 AL)を 1,000 rpm で攪拌させながら反応させ,coagulin 同士の重 合によって出現する凝集塊(粒子)をレーザー散乱測 光器にて測定する新しいエンドトキシン測定法であ
る1)〜4).現在保険適用されている比濁時間分析法(Tur-
bidmetric kinetic assay;以下 TKA 法)5)6)ではリムル スカスケード反応に対する影響因子を不活化するため 血漿を 10 倍希釈後加熱しその 200μL を用いて Ame- bocyte lysate 試薬(以下 AL 試薬)を溶解するが,ESP 法では TKA 法に用いた 10 倍希釈加熱した検体をさ らに 10 倍した検体 630μL で溶解しその 200μL を用い て AL 試薬を溶解する方法が用いられており,診断感 度は TKA 法を凌ぐと報告されている3)4).我々はこれ までにこの方法の問題点について検討し,① ESP 法 では,TKA 法においてエンドトキシンフリーの注射 用蒸留水でも凝集反応(以下偽凝集反応とした)を呈 すること.②生理食塩水とエンドトキシンフリーの健 常人血漿のそれぞれに同濃度の LPS を添加した場合,
その凝集時間が血漿検体では遅延すること.を報告し てきた7)8).今回これらの問題点が測定検体の蛋白濃度 に起因する可能性を考えヒト血清アルブミン(Human serum albu min:以下,HSA)を用いて検討した.
材料と方法 1.試薬
AL 試薬:エンドトキシンシングルテストワコー
(和光純薬工業)を用いた6).
注射用蒸留水:大塚注射用蒸留水(大塚製薬)を用 いた.
ヒト血清アルブミン溶液:エンドトキシン検出用抽 出試薬 2% ヒト血清アルブミン溶液(和光純薬工業)
を用いた9).
C 因子に対する抗体(抗 C 因子抗体):C 因子・LPS 複合体を免疫原として作成された単クローン抗体10)で ある clone No.T8617A(特殊免疫研究所)を用いた.
安息香酸アミジノフェニル11):Amidinophenyl ben- zoate hydrochloride(以下 APB,和光純薬工業)を 注射用蒸留水に溶解して用いた.
2.TKA 法
測定検体 200μL で AL を溶解し作成した試料をト キシノメーター MT-5500(和光純薬工業)の最長設 定時間である 200 分まで測定した.開始時の試料の透 原 著
別刷請求先:(〒020―8505)岩手県盛岡市内丸 19―1
岩手医科大学救急医学講座 高橋 学
Fig. 1 Effect of HSA on the agglutination pattern in the ESP630 and ESP210 methods.
Agglutination pattern of water and HAS solutions are shown in both ESP methods.
過光量を 100% とし,閾値(92%)まで低下した時間 をゲル化時間(以下 Tg)とした5)6).検量線は注射用 蒸留水に溶解した標準 lipopolysaccharide(LPS,E.coli O111:B4 由来,和光純薬工業)を用いて作成した.
3.ESP 法
測定検体で AL を溶解し作成した試料 200μL を帯 磁性金属攪拌子の入った外径約 7mm×長さ約 50mm の金属キャップ付き反応試験管に加え,凝集解析装置 EX-300(興和)または PA-20(興和)を用いて凝集 塊の出現時間を測定し,粒子増加検出アプリケーショ ンソフト ver.1.0.0.0(興和)を用い単位時間当たりの 粒子の増加数がある一定の基準に達した時間を凝集時 間とした.本検討においては比較のため従来の TKA 法に用いられている前処理法と同様に測定検体 210μL で AL を溶解し作成した試料 200μL を用いる方法を ESP210 法,小幡らが推奨する測定検体を 10 倍希釈 し作成した試料 630μL で AL を溶解しその 200μL を 用いる方法3)を ESP630 法とした.
注射用蒸留水およびヒト血清アルブミン溶液はいず れも TKA 法で 200 分でも陰性でエンドトキシン量は 0.03pg!mL 以下を確認した.また ESP 法に用いた反 応試験管は水を加えて攪拌後 60 分室温で静置,得ら れた水のエンドトキシン量を測定し 0.03pg!mL 以下 であること確認した.本検討では TKA 法によるエン ドトキシン 量 0.03pg!mL 以 下 を エ ン ド ト キ シ ン フ
リーと定義した.
4.ESP 法と TKA 法について以下の検討を行った.
1)偽凝集反応に対する HSA の影響
注射用蒸留水に HSA を 0.2%,0.4%,0.6% の濃度 で添加し,ESP 法でそれぞれの凝集時間を測定した.
さらに凝集反応が認められた場合,リムルスカスケー ドの C 因子を阻害する抗 C 因子抗体,clotting en- zyme の活性を阻害する APB をそれぞれの蒸留水お よび HSA 添加蒸留水に加え凝集反応が抑制されうる か検討した.
2)エンドトキシンによる凝集時間に対する HSA の影響
TKA 法,ESP 法によるエンドトキシン測定におけ る蛋白濃度の影響を検討するため,エンドトキシンフ リーの注射用蒸留水に HSA を添加し LPS 濃度 0.2pg
!mL と 2pg!mL による凝集を,HSA の濃度ごとに比 較した.
成 績 1.偽凝集反応に対する HSA の影響
TKA 法でエンドトキシンフリーを確認した注射用 蒸留水は,ESP630 法と ESP210 法のいずれにおいて も 100 分前後で凝集がおこった(Fig. 1).HSA を添 加した場合 ESP630 法では凝集は減弱し HSA0.4% で 殆どみられなくなった.ESP210 法では HSA を 0.8%
以上加えると凝集は減弱傾向を示した(Fig. 1).尚,
Fig. 2 Inhibitory effect of anti-factor C monoclonal antibody and amidinophenyl benzoate hy- drochloride (APB).
AL was dissolved with 1 mL of water in the presence (b) or absence (a) of 20μg/mL of the an- tibody and 630μL of the mixture was added to an AL tube to dissolve the AL reagent. The ESP method was performed using a 200-μL aliquot. AL was dissolved in 630μL of water with (e, f) or without 1pg/mL LPS (c, d) in the presence (d, f) or absence (c, e) of APB (5mM), and the ESP630 method was performed using a 200-μL aliquot of the mixture.
これらの検討を注射用蒸留水の代わりに前処理液とし て使用されている 0.02%TritonX-100 水溶液を用いて 行ったが結果は殆ど変わらなかった(データは示さな い).
注射用蒸留水に抗 C 因子抗体を 20μg!mL 添加し ESP630 法で測定した場合,凝集反応が抑制されるか 検討した.その結果抗 C 因子抗体を加えた注射用蒸 留水でも凝集反応は抑制されなかった(Fig. 2a, b).
注射用蒸留水に LPS 0.2pg!mL を添加した検討では抗 C 因子抗体 5μg!mL を加えると有意に抑制し凝集時 間が延長したが,抗体添加量を 20μg!mL まで増やし ても 140 分前後で凝集反応が生じ完全には抑制されな かった.TKA 法では抗 C 因子抗体 5μg!mL は LPS 1 ng!mL の反応を抑制し 200 分で も 凝 固 が 起 こ ら な かった.
次に注射用蒸留水に APB を添加し凝集反応が抑制 されるか検討した.ESP630 法では注射用蒸留水に APB を 5mM の濃度で添加した場合 140 分前後での 凝集は抑制され LPS(1pg!mL)による凝集も抑制し た(Fig. 2c-f).TKA 法では APB の濃度が 0.005mM で LPS 10pg!mL による凝集を 65% 抑制し,0.05mM
以上で完全に抑制した.
2.エンドトキシンによる凝集時間に対する HSA の影響
ESP 法と TKA 法における蛋白濃度の影響について HSA を用いて検討した.ESP 法では 210 法でも 630 法でも LPS による凝集時間は HSA の量依存性に遅延 した(Fig. 3).ESP630 法で特にその傾向が強く,LPS 0.2pg!mL の場合のほうが 2pg!mL の場合より遅延の 程度が強かった.
TKA 法でも HSA の影響を検討したところ,Fig. 4 に示すように従来の前処理法で測定した場合 HSA の 濃度により測定時間の変化は認めなかったが ESP630 法と同様の手法で作成した試料を用いて測定した場合
(図中 630〜200 method),ESP630 法に比較してその 影響は弱いものの HSA 濃度に依存して測定時間が延 長した.
考 察
我々はこれまで ESP 法ではエンドトキシンフリー の注射用蒸留水を測定した場合 100 分前後で凝集反応 を呈し,これがエンドトキシンによるものでなく非特 異的なもの(偽凝集)あることをポリミキシン B で
Fig. 3 Effect of HSA on the agglutination time in both ESP meth- ods.
AL was dissolved using 630μL or 210μL of HSA solution in the pres- ence of LPS (2 or 0.2pg/mL) or water, and a 200-μL aliquot was used for the ESP630 (closed symbols) or ESP210 methods (open symbols), respectively. The results are presented as the mean±standard devi- ation (SD) of three experiments. Asterisks show statistical signifi- cance (p<0.05) against each control calculated with the Studentʼs t- test.
の抑制実験で示してきた8)が,今回 HSA や抗 C 因子 抗体および ABP を用いて検討した.その結果,注射 用蒸留水による偽凝集は ESP630 法,ESP210 法のい ずれにおいても確認され ESP630 法では 0.4% 以上の HSA を添加した場合に凝集が阻止されるようになり,
ESP210 法では 0.8% 以上で減弱傾向を示した.さら にリムルスカスケードの C 因子の活性を抑制する抗 C 因子抗体の添加では凝集反応は抑制されず,clotting enzyme の活性化を抑制する APB の添加により抑制 された.従って,ESP 法による注射用蒸留水の偽凝 集反応は clotting enzyme の非特異的な活性化による ことが示唆された.その機序としてはこの方法の特徴 である試料の高速回転に起因していると考えられ,zy- mogen としての proclotting enzyme から clotting en- zyme の活性化が起こることが考えられた.一方で,
AL 試薬が希釈された条件(ESP630 法)ではカスケー ド反応に関与する因子がより少ない環境であり高速回 転環境では proclotting enzyme の非特異的な活性化 が HSA で阻害されやすいことも考えられた.
またエンドトキシンによる凝集における蛋白濃度の 影響の検討では,ESP 法においては ESP630 法と ESP 210 法いずれの方法においても HSA の濃度依存性に
測定時間は遅延し特に LPS0.2pg!mL を ESP630 法で 行った場合,その影響は顕著であった.また TKA 法 においても保険適用となっている常法と異なり ESP 630 法と同様に AL を 3 倍希釈させた場合,ESP 法ほ どではないが測定時間は遅延した.これらのことより,
AL に対する反応は一定以上の濃度の HSA(蛋白)が 存在した場合,測定時間が影響を受ける可能性が示唆 され,また測定するエンドトキシン濃度が微量である 場合や ESP630 法のように希釈量が多く AL の反応因 子群の量が相対的に不足した場合,その影響が顕著で ある可能性が示唆された.
健常者血漿アルブミン 濃 度 は 総 蛋 白 濃 度(6.7〜
8.3%)の 60〜70% である.従って血漿検 体 の HSA 濃 度 は TKA 法 の 常 法 や ESP210 法 で は 0.6% 以 下,
ESP630 法ではさらに 10 倍に希釈するため 0.06% 以 下であると考えられ,測定中に偽凝集反応が生じてい る可能性がある.また血中蛋白やアルブミン濃度は感 染症や強い全身炎症反応を呈する場合にはサイトカイ ン血症に起因する蛋白の異化亢進,アルブミン合成の 阻害,血管透過性亢進による血漿の血管外への漏出な どにより低下を来し12),輸液でも希釈効果により低下 する.ESP630 法では測定検体の蛋白濃度により測定
Fig. 4 Effect of human serum albumin (HSA) on the gelation time in the turbidimetric kinetic assay.
AL was dissolved in 630μL of HSA solution in the presence or ab- sence of LPS (2 or 0.2pg/mL) and a 200-μL aliquot was used for the turbidimetric kinetic assay (630-200 method, closed symbols). Other- wise, AL was dissolved in 200 μL of HSA solution in the presence or absence of LPS (2 or 0.2pg/mL) and the conventional method was performed (open symbols). The results are presented as the mean±
standard deviation (SD) of three experiments. Asterisks show statis- tical significance (p<0.05) against each control calculated with the Studentʼs t-test.
値が大きく変動することになる.
ここで用いた AL 試薬(Et シングルテストワコー)
はヒト血漿検体を用いる TKA 法のために開発された ものでカブトガニ血球抽出液を調整し AL の溶解量と して 200μL を用いる場合に試料の蛋白濃度の影響を 受けないようにされていると考えられる.しかし ESP 法の特に ESP630 法では敗血症患者のように血漿中の 蛋白濃度が変動するような場合には得られた値の信頼 性が低く,さらにエンドトキシンフリーの試料でも 100 分前後で生じる非特異的な凝集をエンドトキシン による凝集とみなして診断を誤らせる可能性がある.
ESP630 法を用いると測定感度が上昇したとする報 告が散見されるが,我々のこれまでの検討では,ESP 210 法は常法の TKA 法と強い相関を認めている7). ESP210 法は ESP630 法に比較して検体の蛋白濃度の 影響を受けがたく,迅速性も TKA 法に優る.ESP630 法には測定値に影響を与える要因が存在していること を注意喚起したい.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
文 献
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Effect of Human Serum Albumin on Endotoxin Scattering Photometry
Gaku TAKAHASHI, Shigehiro SHIBATA, Shigenori KAN, Katsuya INADA & Shigeatsu ENDO Department of Critical Care Medicine, Iwate Medical University
Purpose : Laser scattering photometry (ESP) is a newly developed plasma endotoxin assay method us- ing horseshoe crab amebocyte lysate (AL) that recognizes small particles produced by polymerization of co- agulin under the stirring conditions at1000rpm. We elucidated the effect of human serum album (HSA) in the ESP method.
Methods : AL was dissolved with 630μL of the specimen and a 200-μL aliquot was used for ESP ; this conventional protocol was regarded as the ESP630 method. The ESP210 method was also used, i. e. AL was dissolved with 210μL of the specimen and a 200-μL aliquot was used for ESP.
Results : Water induced the agglutination, and HSA prolonged the agglutination time depending on its concentration especially in the ESP630 method. The water-induced agglutination was not inhibited by the addition of anti-factor C monoclonal antibody, and amidinophenyl benzoate hydrochloride, used as a clotting enzyme inhibitor, intensively inhibited the water-induced agglutination. Therefore, the water-induced agglu- tination was suggested to be a false-positive reaction to non-specific activation of the clotting enzyme. The HSA-induced prolongation of the reaction in the national health insurance-covered turbidimetric kinetic as- say was not observed.
Conclusion : HSA or plasma protein seemed to affect the result, especially in the ESP630 method, and a non-specific reaction was found to occur in the ESP methods.