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(1)

保育における集団に対するシリーズ絵本の読み聞か せ −5歳児クラスでの『ねずみくんの絵本』の読 み聞かせの事例からの分析−

著者 横山 真貴子

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 12

ページ 21‑30

発行年 2003‑03‑31

その他のタイトル Reading Series Picture‑books to Children in a Whole Class Setting in a Kindergarten : The Analysis of Reading "Nezumikun" Series

Picture‑books in 5 Years Old Child Class

URL http://hdl.handle.net/10105/72

(2)

1.問 題

集団の子どもたちに対して絵本を読む活動は、保育 の中で日常的に行われている。この時子どもたちは、

読み手である保育者や友だちと共に、どのような体験 をしているのであろうか。また、友だちと一緒に絵本 を見、聞く楽しさはどこにあるのであろうか。

集団に対する読み聞かせに関しては、実践記録が数 多く書かれており、1冊1冊の絵本をめぐる保育者と 子どもたちのやりとりの様子が詳細に綴られてきた

(例えば,中村・佐々木,1975;中村,1997)。その意義につい ては、例えば波木井(1994)が 読み手と聞き手、ま た聞き手同士が一緒に本と出会い、その作品世界を共 有し、心を響きあわせること(pp.25-26) と述べて いるように、絵本世界の「共有」や「共通体験」が指 摘されている。

一方、心理学的観点から、集団への読み聞かせ場面 を分析している研究は多くはない。その中で先行研究 を概観すると、聞き手である子どもに着目した研究と 読み手である保育者に注目した研究に大別できる。

前者の研究では、読まれる絵本の要因をめぐって実 験的な読み聞かせを行い、子どもの言語的、非言語的 反応を分析している。例えば、子どもが面白いと評価 した絵本(沢田・田代・小林・高木,1974)、同一絵本の3 回の繰り返し(高木・小林・田代・沢田,1975;横山,2000)、 カメラアングルを変えた2種類の絵本(古屋・田代,1989)

の研究がある。また徳渕・高橋(1996)は、個々の子 どもだけではなく、子ども同士の相互作用に着目して 発話を分析している。しかし、これらの研究は、研究 のために設定された場面を対象としており、日常的な 子どもの姿を捉えるものではない。

後者の研究では、保育者が担任クラスの子どもに行 う読み聞かせを対象としている。保育者によって読み 聞かせ方が異なりスタイルがあること(Dickinson  &

Keebler,1989;Martinez  &  Teale,1993)、スタイルと子 ど も の 語 彙 、 物 語 理 解 力 に は 関 連 が あ る こ と

(Dickinson  &  Smith,  1991)が明らかにされている。

これらの研究は、前者の研究とは異なり日常的な場面 を対象としている。しかし、個々の保育者の読みの違 いに関心が置かれ、読み聞かせを保育の中の一つの活

−5歳児クラスでの『ねずみくんの絵本』の読み聞かせの事例からの分析−

横 山 真貴子

(奈良教育大学 幼児教育教室)

Reading Series Picture-books to Children in a Whole Class Setting in a Kindergarten : The Analysis of Reading "Nezumikun" Series Picture-books in 5 Years Old Child Class

Makiko YOKOYAMA

(Department of Early Childhood Education,  Nara University of Education)

要旨:保育において日常的に行われているクラス集団に対する読み聞かせの意義を、シリーズ絵本の読み聞かせに 着目して検討した。5歳児クラスでの担任保育者による読み聞かせを4ヶ月間記録し、その中からシリーズ絵本の 読み聞かせを抽出した。その結果、『ねずみくん』シリーズの絵本2冊が2回ずつ読まれていた。場面の分析と共に、

読み聞かせの背景にある保育活動を保育者への面接によって検討した。分析の結果は以下の3点にまとめられる。

①初回の読み聞かせから発話数が多く、特に自己と関連させた発話が目立った。②子どもがイニシアティブを握っ て場面を展開させることが多く、特に2回目の読み聞かせで顕著だった。③『ねずみくん』シリーズが読まれる背 景には、クラスに「ねずみ」をめぐる共通の体験があった。この体験を元に、子どもたちが『ねずみくん』の絵本 をより身近なものと捉え、自己を投影しながら積極的に場面に参加していることが考察された。

キー・ワード: 集団への読み聞かせ reading  picture-book  in  a  whole  class  setting,  シリーズ絵本 series  picture-

books, 保育実践 daily practice in kindergarten

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動と捉える視点に欠ける。実際の保育の場では「絵本 を読む」過程だけでなく、その前後の他の保育活動と のつながりも重要である。自身が保育者である寺田

(寺田・無藤,2000)は、絵本を読み始める前に保育者 が行う子どもを集中させるための方略を検討し、読み の環境や他の保育場面から読み聞かせへ子どもたちを 誘う「導入」の過程が重要であることを明らかにして いる。

以上、心理学的な研究の概観からは、保育の日常を 対象とする必要性が指摘される。では、実際の保育の 場を対象とする保育学の領域ではどうだろうか。残念 ながら、特定の活動に焦点を当てた研究自体が少ない。

絵本の読み聞かせに関しても例外ではない。

ここまで、先行研究を概観してきた。集団での読み 聞かせの意義を明らかにするためには、更に以下の3 点において検討が必要である。

第1に、保育の場での読み聞かせを対象として読み 聞かせを保育の中の一活動として位置づけ、他の保育 活動との関連を考慮した研究が必要である。活動を文 脈ごと(無藤,1986)、あるいは関係性ごと(鯨岡,1993)

捉えるアプローチが重視されている。保育の中での読 み聞かせ活動も保育者と子どもの関係の歴史の上に築 かれる。子どもと関係を築いてきた担任保育者による 読み聞かせを、保育という文脈の中で、他の保育活動 とのつながりを考慮して検討することが必要である。

その中で、実践の立場から集団での読み聞かせの意 義として指摘される「共有」や「共通体験」が生まれ やすい場面を考えると、クラスの中で好まれ、何度も 繰り返し読まれる絵本の読み聞かせが挙げられよう。

これに関しては、先行研究がある。前述の高木他

(1975)が、3歳児11名のグループに同一絵本の3回 の繰り返し読み聞かせを行っている。その結果、回数 の増加に伴い、物語を楽しむ積極反応(話の内容に対 する言語反応や笑い等)や物語の内容の展開と結びつ いた反応が増加し、消極反応(手いたずらや無駄話)

が減少することを明らかにしている。横山(2000)も 5歳児に対する同一絵本の3回の繰り返し読み聞かせ を対象に、保育者の思考から検討を加えている。

しかし、同じ絵本を繰り返し読むことは、子どもの 発達から見ると加齢と共に減り、次第に多様な本を読 むようになる。年長のクラス(5歳後期〜6歳前期)

になると、登場人物は同じでありながらストーリーの 内容が異なるシリーズものを好むようになることが指 摘されている(例えば,奈良女子大学文学部附属幼稚 園幼年研究会編,1976)。ところが、シリーズ絵本の読 み聞かせをとりあげた研究は見られない。これが第2 の問題点である。シリーズものに関しては、唯一 Feitelson,  Kita,  &  Goldstein(1986)が、小学1年生 にシリーズの物語をクラス全体に6ヶ月間読み聞かせ た効果を検討したものがある。しかしFeitelson  et  al.

(1986)では、登場人物と場面の連続性が物語の流れ を追いやすくなるといった理由からシリーズものが選 択されているものの、その効果がシリーズに由来する ものか否かは検討されていない。シリーズの独自性を 明らかにするまでには至っていないのである。

第3に、読み聞かせの活動を全体的に捉える視点の 必要性が指摘される。これまでの読み聞かせ研究の大 半は、絵本の地の文が読まれる「読みの過程」のみを 取り上げてきた。しかし実践の立場から見ると、先に 寺田(寺田・無藤,2000)の例でも指摘したが、例えば 野々川(1994)が「絵本読み聞かせの方法」を示す中 で「(1)事前の準備として」「(2)場の設定」「(3)

読んでいくうえで」「(4)読み終わった後で」の4つ の過程を示しているように、「読み」の前後の過程も 重要である。こうした指摘を踏まえて、横山ら(例え ば,横山・秋田・安見・遠藤,1998)は、保育の中での日常 的な読み聞かせを、場面の行動と共に読み手の思考か ら分析し、読み聞かせの活動として次の4過程を指摘 してきた。まず、読み聞かせの目的やどの場所でどの ような読み手と聞き手の位置関係で読むかといった

「読み聞かせの場面作り」、次に他の保育活動から読み 聞かせへ子どもたちを誘うための「導入」、そして絵 本を読む「読みの過程」、最後に絵本を読み終わった 後、読み聞かせから他の活動へつなぐための「読後」

である。

そこで本研究では、以上の3つの問題点を踏まえ、

①保育の中での読み聞かせを、読み手と聞き手の関係 の歴史の上に成立するものとして捉え、日常的に保育 の中で行われている保育者による担任クラス全体への 読み聞かせを対象とする。そして、読み聞かせ場面の 観察と共に保育者への面接を行い、読み聞かせに関連 すると考えられる他の保育活動や子どもたちの様子も 併せて検討する。②読み聞かせの中でも特に、従来検 討されてこなかったシリーズ絵本を取り上げる。③絵 本の地の文を読む「読みの過程」だけでなく、その前 後の過程も含めて検討する。そして、集団でシリーズ 絵本を読むことの意義と楽しさはどこにあるのか、そ の特徴をまとめ、考察を加えることを目的とする。

2.方 法

2.1.研究協力者

都内私立幼稚園の5歳児1クラス(19名;男児12名,

女児7名)とそのクラスの担当保育者(女性,27歳,

保育経験2年目)。保育者には、前年度、初任時より、

縦断的に読み聞かせをはじめとする筆者らの研究に協 力してもらっていた。保育者は、読み聞かせは子ども の言葉や人間関係を育む上で重要と考え、積極的に保 育の中に取り入れていた。本研究では、新年度、4歳 児クラスから持ち上がった5歳児クラスの子どもの育

(4)

ちを、保育者自身も見つめたいと、研究に協力して頂 いた。特に新しい学年への移行時の子どもの育ちを見 たいと、1学期を対象とした。

2.2.手続き

2.2.1.読み聞かせ場面の記録

①保育者による記録

1998年の1学期(4月〜7月)、 保育室にビデオ1台を設置した。保育者に依頼し、日 常的に行われるクラス全員への読み聞かせ場面(主に、

お弁当の前後、お帰りの前)での子どもの姿を、その 前後の活動を含めて録画してもらった。

②観察者による記録

4〜6月は各月連続4〜5日間

(計13日)、観察者(筆者)1人がお弁当の時間前後か らお帰りまで観察を行った。クラス全体への読み聞か せが行われる時は、場面を2台のビデオで録画した。

保育室設置のビデオで子どもの姿を、観察者のビデオ で保育者の姿を録画した。併せて、記録を取り、オー ディオレコーダー1台で発話を録音した。

2.2.2.保育者への面接

読み聞かせの当日、保育者に再生刺激法による面接 を行った。場面のビデオ(保育者側・子ども側)2本 を見てもらいながら、1冊ずつ絵本の読みの過程にお ける保育者の意図や思考を自由に語ってもらった。併 せてビデオを見終わった後、読み聞かせに関連すると 考えられる保育や子どもたちの様子について尋ねた。

上記の読み聞かせ場面のビデオ録画と音声録音、面 接の音声録音を文字化し、そのトランスクリプトを分 析の資料とした。

2.3.分 析

保育者によるデータ収録日数は41日であった。内、

クラス全体への読み聞かせの記録がない9日を除く32 日において、読まれた絵本は32冊(26種類)、紙芝居 が12(12種類)であった。この中からシリーズ絵本を 取り出し、以下の2点から分析を行った。

2.3.1.シリーズ絵本が読まれた背景 

保育者への面接から、なぜそのシリーズ絵本がクラ スで読まれたのか、絵本と関連する①保育や子どもの 様子、②絵本の選択理由をまとめ、考察を加えた。

2.3.2.読み聞かせ場面の分析 

横山他(1998)に基づき、読み聞かせ場面を「場面 作り」「導入」「読みの過程」「読後」の4過程に分け た。「場面作り」「導入」「読後」では1冊毎の活動の 様子を記述した。読み聞かせの中心的な過程である

「読みの過程」では、保育者と子どもの相互作用を詳 細に検討するため、発話に着目し、「誰が、どのくら い、何を話したのか」の3点から数量的分析を加えた。

また読み聞かせの場面構成は、保育者の意図や思考 と大きく関わり、それを反映する(秋田・横山・安見・

遠藤,1998)。そこで考察では、分析の結果と保育者へ

の面接結果を対応づけながら、協力クラスでのシリー ズ絵本の読み聞かせの特徴を検討した。

次に数量的な分析方法について述べる。

(a)発話数:言語的なやりとりの全体量を検討する

ために、発話数を分析した。原則として文単位に分け たものを1発話とした。しかし実際には、主語・述語 の省略、感嘆詞のみも多かった。そのため、文を形成 せず1単語で完結している場合も1発話とした。

(b)対話数とイニシアティブ:場面展開の主導者を

検討するため、発話を対話単位にまとめ、発話の開始 者すなわち対話のイニシアティブを分析した。対話と は、1つの対象に関する保育者と子どもの一連の発話 を指す。同一対象について発話者が交代したターン数 は問題とせず、複数回のターンがあった場合も1対話 とした。一方、同一発話者の連続する発話であっても 対象が変わった場合は、そこから新たな対話の開始と した。

(c)発話内容:何を話題の中心として場面が展開し

ていくのか、発話内容を分析した。分類のカテゴリー は、絵本場面の対話を内容理解に限定しない幅広い視 点 か ら ま と め た 横 山 ( 1 9 9 7 ) を 参 考 に 作 成 し た 。 Table1にカテゴリーを示した。保育者と子どもの発 話全てをこのカテゴリーのいずれかに分類した。

Table1 発話内容カテゴリー

1.ルール

ルール:開始や終了、絵本の扱い方やページの開き方。

(例)「はい、今日の絵本、おしまい」

注 意:絵本を聞く態度を正す発話。

(例)「見えない」

2.ストーリーに直接関係する発話

内容理解:絵本の絵や地の文について説明を加えたり、内容の理 解を促進する発話。

(例)(いいなあ ぞうさんは の地の文を受け)

「何でいいの、ぞうさんは?」

展 開:ストーリーの展開を予測したり、既に知っている展開を 先取りする発話。

(例)「(最後にチョッキを)ぞうさんにあげちゃうんだよ」

3.対 比

現 実:絵本の中の出来事と現実を対比させる発話。

(例)(保育者の「ねずみくんは猫が怖いんだってさ」の発話を受け)

「(猫は)食べちゃうの、ねずみを」

自 己:絵本の内容を自分自身や自己の体験と対比したり、関連 づける発話。

(例)「(ぞうさんのうんち)見たの、動物園で」

4.主観表出

感 想:(笑いを含む)主観的な立場から、登場人物の行為や内的 状態に対し評価や推測を加える発話。

(例)「やっぱり、(ぞうより)ねずみの方がいいよ」

意 見:絵本の内容に対して、客観的な立場から、提案したり批 判を加える発話。

(例)(木に登れないねずみくんに対して)「ちゅうすけも練習すれば」

5.その他:1〜4までのカテゴリーに含まれないもの。

評定は、2人の評定者が独立に行った。一致率は、

発話単位95.6%、対話単位97.5%、イニシアティブ 98.5%、発話内容92.3%であった。不一致の箇所は協 議により解決した。

(5)

3.結果と考察

3.1.読まれていたシリーズ絵本

『ねずみくんの絵本』(作・なかえよしを 絵・上 野紀子 ポプラ社)のシリーズ(第1作目『ねずみく んのチョッキ』,全15冊,2002年12月現在)の内、『ぞ うさんとねずみくん』『また!ねずみくんのチョッキ』

の2冊が各2回ずつ読まれていた。このシリーズの絵 本は、基本的に見開きで1場面が構成され、右ページ に余白を広く取ったデッサン画(チョッキ、木の実等、

ごく一部にのみ赤い彩色が施されている)、左ページ に簡潔な文章が書かれる構成である。見開き15場面と、

最終ページ(p32)中央に小さく、ストーリーの落ち となる絵が描かれているのが特徴である。読まれてい た絵本のストーリー、読まれた日をTable2にまとめ た。2冊の絵本は以下『ぞうさん』『また!』と略し、

これと読みの回数の組み合わせで4回の読み聞かせを 表記する。なお、読まれた日は5/1(『また!』1回 目)を除き、観察者の観察日であった。

Table2 読まれていたシリーズ絵本

3.2. 『ねずみくんの絵本』に関わる保育の背景

保育者への面接において、『ねずみくんの絵本』に 関して語られた中から、特にこのシリーズが読まれた 理由を検討した。

3.2.1.シリーズに関連する保育の様子

対象クラスは4歳児からの持ち上がりのクラスであ るが、4歳児の時から動物が登場する絵本が好まれ、

シリーズ第1冊目の『ねずみくんのチョッキ』は、前

年度繰り返し読み聞かせを楽しんだ絵本であった。

4回の読み聞かせの「導入」には共通してねずみの パペット「ちゅーすけ」が用いられていた。これは、

「5歳児さんが始まる時に、初日に、あの出して。一 人転園したんですね、初日から、一人いなくなったけ れども、もう一人、友達ができたからよろしくね(4 /24面接)」と紹介して保育に導入された。「ちゅーす け」という名前は、子どもたちが命名したものであっ た。5月下旬からは赤い箱に子ねずみが入っているパ ペットも保育者が導入した。子どもたちは「ちゅーす け」を型どったペープサートを作る等、「ちゅーすけ」

を元にした遊びを展開していた。観察者の観察時にも、

女児3人によるペープサートが見られた。

シリーズの内、この2冊が選ばれた理由は、『ぞう さん』は皆それぞれによさがあるといったメッセージ をクラスの子どもに伝えたいとの保育者の意図から、

『また!』は1作目との対比の面白さからであった。

3.2.2.各回の絵本選択の理由

『また!』2回目(5/1)を除き、読み聞かせ日 は観察者の観察日に該当した。そこで、保育者への面 接から、絵本選択の理由をTable3にまとめた。

Table3 絵本選択の理由

Table3の波線部にあるように、保育者は、保育の 中で子どもたちと「ちゅーすけ」のかかわりが見られ た時、これらの絵本を読んでいた。

『ねずみくん絵本』と保育の関係をまとめると、対 象クラスには読み聞かせの前に、先行経験として『ね ずみくん絵本』の他の絵本や「ちゅーすけ」といった

「ねずみ」をめぐる共通の体験があった。さらに、新 たな『ねずみくんの絵本』との出会いの際にも、絵本

(6)

と共に「ちゅーすけ」が同時に体験され、「ねずみ」

をめぐる体験が印象づけられていた。

3.3.読み聞かせ場面の分析 3.3.1.読み聞かせの場面作り

4回の読み聞かせとも保育室の同じ場所で、読み手 と聞き手の位置、姿勢も同じであった。保育者は、保 育室の前方のホワイトボードと保育者の机を背にして 子どもの椅子に座った。子どもたちは、自分たちの机 を保育室の両サイドに動かして空間を作り、床に自由 に坐った。時間も3回がお帰り前であった。

しかし、他の絵本や紙芝居では、保育室の向きが逆 等、環境設定が異なる場合もあった。時間もお弁当後 の場合もあった。これに関して保育者は「もし自分が 子どもだったら・・・もう1回読ませてもらいたい時っ ていつかなって考えると、やっぱり・・・お帰り前に読 んだものはできればお帰りの時に(読んでもらいたい と考える)(4/22面接)」と述べた。同じ絵本の環境設 定は、意図的に安定したものにしたことが語られた。

3.3.2.導 入

いずれの読み聞かせにおいても、他の活動から読み 聞かせへ子どもたちを誘う「読み聞かせ場面への導入」

と「絵本の内容への導入」の2つの過程が見られた。

その導入内容をTable4にまとめた。

Table4 「導入」の内容

Table4に示した通り、「場面への導入」として、

クラスの子どもたち全員が保育者の前に揃うまでの 間、手遊びをしたり、歌が歌われた。その具体的な方 法は回によって異なった。しかし「絵本への導入」で は共通してねずみのパペット「ちゅーすけ」が用いら れ、「ちゅーすけ」が「僕の友達が出てくる絵本」と 絵本の紹介をした。

Table5に『ぞうさん』1回目「絵本への導入」の プロトコルを示した。

Table5 「絵本の内容への導入」

(『ぞうさん』1回目4/24)

(7)

Table5の波線部にあるように、この回の読み聞か せでは、「ちゅーすけ」が絵本を運んで来て、子ども たちに「僕のお友だちが登場してるのさ」と紹介する。

子どもたちの中には「ちゅーすけとぞうさん」「何で ちゅーすけ2人いるんだ」(Table5下線部参照)と、

パペットの「ちゅーすけ」と絵本の「ねずみくん」を 同一視している子もいる。

その他の回においても「導入」には時間がかけられ、

他の活動から読み聞かせへの活動の切り替えが十分に 行われた。「絵本への導入」ではパペットの「ちゅー すけ」が登場し、「ねずみくん」の絵本の世界への案 内役をしていた。子どもたちは「(ちゅーすけじゃな くて)手で持てばいいじゃん。一つの手で持てるはず なのに、先生の手が見えてる」(『また!』2回目「絵 本への導入」)と、「ちゅーすけ」がパペットであるこ とにも気づいている。気づきつつも、「ちゅーすけ」

を友達として受け入れ、その友達が活躍する身近でよ り現実に近い世界として、絵本世界に導かれていくよ うであった。保育者がたっぷりと時間をとった「導入」

は、子どもたちを絵本世界へ誘う契機となっていた。

ちゅーすけに関して保育者は、「ちゅーすけくんの 影響もあると思うんですよね。『ちゅーすけくんが僕 の話聞いててね』って言った、・・・だからみんなそれ で聞きましたよね。・・・ちゅーすけくんが出てくると 大体静かになる(6/18)」と語った。「ちゅーすけ」が 保育の導入に有効なことを保育者も自覚し、これを用 いていることが分かる。

3.3.3.読みの過程

「導入」の過程を経て、実際に絵本の地の文を読む

「読みの過程」に入る。この過程は読み聞かせ場面の 中心的な場面といえ、その特徴を明らかにするために

数量的な分析を加えた。本研究では、保育者が内表紙 を開き、第1場面を読み始めた時を始まりとし、最終 場面の地の文を読み終え(文のない場合は絵が提示さ れ)、その場面に関する対話が終了するまでを「読み の過程」とした。多くの場合は読み手である保育者の

「おしまい」という宣言あるいは絵本が閉じられるま でである。各回の「読みの過程」の所要時間は『ぞう さん』1回目6分9秒、2回目5分36秒、『また!』

1回目4分40秒、2回目5分8秒であった。

次に数量的分析の結果を示す。

(a)発話数:結果をTable6に示した。まず、絵本に

よって総発話数に違いが見られた。『ぞうさん』の方 が保育者、子どもとも発話が多かった。保育者と子ど もを比較すると、2冊の絵本、回を通じて子どもの発 話が多かった。この傾向は、いずれの絵本も2回目の 方が顕著であった。

全体的に見ると、2冊とも1回目も2回目と変わら ず発話数が多かった。これは同一絵本の繰り返し読み 聞かせの先行研究(高木他,1975)とは異なる結果で ある。「シリーズ絵本」の場合、初回の読み聞かせで ありながら、登場人物にはなじみがある。これが、初 回からの積極的な言語反応を生んだのではないかと考 えられる。

(b)対話数とイニシアティブ:対話における保育者

と子どものイニシアティブの比率を、読み聞かせの回 毎にFigure1に示した。これを見ると、2冊の絵本 を通して子どもがイニシアティブを握る比率が高く、

2回目の方がよりその傾向が強い。子どもの方から積 極的に場面に参加していることが分かる。

(c)発話内容:カテゴリー別の発話数をTable6に示

した。結果を①絵本による比較、②1回目と2回の比 較に分けて示す。

Table6

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①絵本による比較

Table6を見ると、『ぞうさん』

で「対比」、特に「自己」が多い。Table7に『ぞう さん』2回目、第1場面のプロトコルを示した。併せ て、子ども(CY)の発話と関連する保育の背景を保 育者の面接結果から対応づけて示した。Table7にあ るように、子どもはまさに読み聞かせのその日に自分 が体験したことと関連づけて、絵本世界に参加してい る。同じクラスの友だちに対するのと同じアドバイス を、主人公のねずみくんにもしている。子どもにとっ て、ねずみくんが身近な存在であることが推察される。

Table7 「対比:自己」のプロトコル例と保育背景

(『ぞうさん』2回目6/18)

②1回目と2回目の比較

1回目と比較して、2回目 の方が「ストーリー」の比率が下がり、「対比」が多 くなる傾向が見られた。

Table8に『ぞうさん』の1,2回目の第5,6場 面のプロトコルを示した。Table8にあるように、1 回目では、子どもたちは「ぞうさんは遠くを見ること ができるが、ねずみくんはできない」ことに対し、「ぞ うさんの上に(上がればいい)」とねずみくんに提案し ている。一方、2回目では「ぞうさんだけではなく、

Table8 『ぞうさん』第5,6場面

自分も力が強い」と女児(CS,CY)も含め、口々にア ピールしている。2冊の絵本の比較では、『ぞうさん』

の方が発話数が多く、自己対比も1回目から多かった。

これはTable8にあるように、ねずみくんが羨ましが るぞうさんの性質について、自分たちに引き比べた発 話が盛んに発せられたからである。「みんなそれぞれ よさがある」ことを伝えたいと保育者が選んだ絵本で あった。その意図は少なくとも自分のよさをアピール するという点では、子どもたちに伝わったようである。

ところで、「対比」の中でもシリーズの他の絵本と の「対比」は、本研究の4回の読み聞かせの最終回に あたる『ぞうさん』2回目(6/18)のみに見られた。

保育者の「やさしいから すき!」という地の文の読 みに続いて、「でも何で、今日は、毛糸じゃないんだ ろうね?」「チョッキじゃないんだろうね?」といっ た発話がみられただけであった。シリーズの絵本間の 比較は見られなかった。絵本1冊1冊それぞれに、子 どもが主人公と向き合っていることが推察される。

(9)

3.4.読 後

横山他(1998)では、絵本を読み終わった後、もう 1度最初から見直したり、絵本の内容を振り返って対 話が交わされたりという「読後」の過程が見られた。

本研究でも『ぞうさん』1回目において、保育者が再 び「ちゅーすけ」のパペットをはめ、「『やさしいから すき!』だって」と地の文を読んだ後、「みんなも、

僕のこと好き?」「みんなも僕のこと好きになってね」

と話していた。しかし、その他の回では「はい、じゃ あ、今日も幼稚園おしまい」(『ぞうさん』2回目、

『また!』1回目)、「じゃあ、ごちそうさまをします」

(『また!』2回目)と、すぐに次の活動へ移行した。

これに関して、『また!』の2回目の面接で保育者 は、絵本最後のねみちゃんが編み物をしている場面に ついて、「これ何で編んでいるのかなって、みんな分 かってるのかなと思って。いつも(中略)『何で編ん でるか知ってる?』って聞こうと思うんですけれども、

今日もここまで行かずに、この中でかなり楽しんでた 雰囲気だったじゃないですか。なので、まだ、敢えて 言ってない。」と語った。保育者は、「読みの過程」で 子どもたちが十分楽しんでいたと判断し、最終場面で の保育者の疑問も敢えて子どもたちに問いかけずに終 わっていたのである。保育者が、ストーリーの展開を 理解することよりも、絵本を子どもたちなりに楽しむ ことを重視し、大切にしていることが分かる。

4.総合的考察

4.1. 『ねずみくんの絵本』の読み聞かせの特徴

協力クラスでの『ねずみくんの絵本』の読み聞かせ の特徴は、次の3点にまとめられる。第1に、初回の 読み聞かせから発話数が多く、イニシアティブは子ど もが握ることが多かった。子どもが積極的かつ活発に、

絵本場面に参加していることが分かる。

第2に、発話内容を見ると、自己と対比した発話が 多かった。子どもたちは、シリーズとして絵本の関連 を意識して読み聞かせを体験しているというよりも、

パペット「ちゅーすけ」を媒介に、1冊1冊の絵本を 自分たちの世界に引き寄せ、より現実に近い世界とし て絵本世界を捉えていることが推察される。

第3に、保育者は安定した読みの環境を提供し、導 入を丁寧に行うことによって、絵本世界への入り口を しっかりと立ち上げ、子どもたちを絵本世界に誘って いた。読みの過程での展開は子どもたちに委ね、そこ で子どもたちが十分楽しんだと判断したら、読後は多 くを語らず終わった。このように保育者は、読みの過 程で子どもが主体的に充実するように配慮していた。

4.2. 『ねずみくんの絵本』と保育の関連

本研究の協力クラスの事例では、ねずみのパペット

「ちゅーすけ」の存在が大きかった。主人公「ねずみ

くん」と「ちゅーすけ」が同一視され、「ねずみくん」

が「ちゅーすけ」に読み換えられていた。いわば『ね ずみくんの絵本』は「ちゅーすけ」の物語として体験 されていた。身近な存在として日常的に接している友 だち「ちゅーすけ」のお話として『ねずみくんの絵本』

が捉えられた時、子どもたちは「ねずみくん」を自己 と対比し、意見や感想を述べずにはいられなくなった のかも知れない。今日体験したことをその日の読み聞 かせの中で言葉にすることも見られた(Table7参 照)。現実の世界と絵本世界が織りなされた読み聞か せを子どもたちは体験していたといえる。

もっとも、子どもたちのそうした体験の背後には、

保育者の意図と配慮があったことを忘れてはならな い。新しい学年になる1学期は、不安定になりがちで ある。「ちゅーすけ」の導入は、クラスを1つにまと める効果があった。また、子どもたちと『ねずみくん の絵本』との関わりをより深いものにしたのである。

4.3.シリーズ絵本の読み聞かせの特徴

シリーズ絵本独自の読み聞かせの特徴は何だろう か。本研究の結果から考察すると、次の2点が指摘で きるだろう。

まず第1に、子どもたちの積極的かつ活発な読み聞 かせへの参加の持続が指摘される。横山(2002)では、

本研究と同じクラスで、しかも同じ時期に、同一絵本 の繰り返し読み聞かせを3回実施した。そこでの3回 目の読み聞かせでは、絵本が提示されるや否や、子ど もたちから「また『おかえしのおかえし』!(題名)」、

「知ってる!」等と非難、拒絶の声が多く挙がった。

「がんばろう」という保育者の励ましの中で読み聞か せが進められ、結局、後半は、子どもたちが保育者に 代わって絵本を読む活動となった。その結果、4回目 の読み聞かせは断念せざるをえなかった。

5歳児は物語の理解力も発達し、ほぼ1回の読み聞 かせで絵本の内容を理解する。興味も広がり、多様な 物語の出会いを楽しむ時期である(奈良女子大学文学 部附属幼稚園幼年研究会編,1976)。同一の絵本の繰り 返しは、この時期の子どもには物足りないのである。

本研究の保育者も、最近「読んでないもの」、「久しぶ り」の絵本を選択していた(Table3の下線部参照)。 シリーズ絵本の特徴は、いわば「知っているけど新し い」点にある。以前体験したシリーズの他の絵本から、

登場人物を知っている。その楽しさも知っている。し かし、ストーリーは異なる。どんな展開だろうと期待 感が持てる。知っているから、初回から発話が活発で あった。違っているから、5歳児においてもシリーズ 絵本2冊、2回ずつの計4回の読み聞かせに対して、

積極的な参加が持続したと考えられる。

第2に、主人公を身近に感じ、自分自身や自己の体 験に重ね合わせて絵本世界を体験する点が指摘され

(10)

る。ただし、本研究の協力クラスでは、絵本世界と子 どもたちの現実世界を媒介する者として、「ちゅーす け」の存在が大きかった。「ねずみくん」を身近に感 じる上で「ちゅーすけ」が不可欠だったのだ。それゆ え、本研究の範囲内では、この点をシリーズ絵本独自 の特徴であると断言はできない。しかし、4回目の読 み聞かせ(『ぞうさん』2回目)では、絵本間の関連 に目を向けた発話が見られた。「ちゅーすけ」の影響 を除いた「ねずみくん」への着目が見られたのである。

今後、絵本数を増やした長期的な観察により、この点 もシリーズ絵本の特徴として明らかにされるのではな いかと考える。

4.4.まとめと今後の課題

本研究は、シリーズ絵本の読み聞かせの特徴を明ら かにすることを目的とした。しかし、5歳児1クラス、

絵本2冊各2回ずつの短期間の読み聞かせであり、本 研究の結果をそのまま一般化することはできない。た だし、保育という文脈の中で営まれる読み聞かせを、

その背景にある保育の様子も併せて取り出し、「ねず み」をめぐって深められていく1つの読み聞かせ体験 を描き出すことはできたと考える。また、シリーズ絵 本の読み聞かせの特徴として、子どもたちが積極的か つ活発に継続的に場面に参加し、身近な存在となった 主人公に自分たちを重ね合わせる点が指摘された。

今後の課題としては、先述した通り、シリーズの絵 本数を増やした長期的な観察が必要と考える。また、

他のシリーズ絵本、異年齢における事例の積み重ねも 必要である。これによって、シリーズ絵本の読み聞か せの特徴がより明らかになると考える。

引用文献

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−保育者の思考からみた読み聞かせ場面の構成要 因− 日本発達心理学会第9回大会発表論文集,

140.

付 記

(1)研究にご協力頂きました板橋富士見幼稚園(当時)

の宝川雅子先生と園児の皆様に心よりお礼申し上 げます。

(11)

(2)本研究の実施においては、平成10年度笹川科学研 究助成金(財団法人日本科学協会)の交付を受け た。

参照

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