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雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

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ESDをコンセプトにしたサウンドスケープへのアプ ローチ

著者 川合 利幸

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 18

ページ 247‑251

発行年 2009‑03‑31

その他のタイトル Aproach to Soundscape with Concept of ESD

URL http://hdl.handle.net/10105/1039

(2)

1.ESDを考えたサウンドスケープ

 日本の音楽教育、とくに学校教育は学習指導要領に より音楽教育内容の大筋が決められてきたが、そのほ とんどは、指導すべき楽曲を特定してきたという経過 がある (注1)。したがって長い間、何がしかの楽曲を指 導することと、楽曲の知識及び名曲といわれてきた作 品の鑑賞が日本の音楽教育の日常的なすがたであった ように思われる。しかし現在特定の楽曲を指導しなけ ればならないという時代は終わり、生徒の実態や教師 の願い、地域や学校の様子などを考え、音楽の教材を 自由に選べ、指導できるようになった (注2)

 学校では音楽の授業時間数は減少した一方、今まで 以上に幅ひろく教材を取り扱うことができる時代となっ た。そしてさまざまなジャンルの音楽を教材として指 導することが求められるように変化してきた。こうし た現実の中、長年学校現場で音楽指導から忘れられて いた一つでもあるサウンドスケープを自然音・環境音 を指導する一つの例として試行してみようと考えた。新 しい音楽の指導内容の一つとして自然音・環境音を取 上げることが考えられる。自然音とは、雨の音、風の 音、波の音、鳥や虫の鳴き声など自然が奏でる音であ る。また、環境音とは車やバイクのエンジン音、人の 話し声、電気製品の作動音、工事の音など、生活から

出る音や、機械音など自然音以外の音である。この自 然音・環境音を教材化する一つの例としてサウンドス ケープが考えられる。サウンドスケープは、カナダの ライモンド・マリー・シェーファーにより、ランドス ケープという単語をヒントに今から約四半世紀前に考 え出された言葉である (注3)。本来、音の風景を集め記録 に残すことのできるようにすることを意味した。そし てこの言葉は長きにわたり学校における音楽教育では 取り上げられることが希であった。音楽教育が楽曲指 導や知識の伝達を中心に行われてきた時期が長かった ことによるものかもしれない (注4)。しかし今子供たち の音に対する感受性とも言うべきものが低くなりつつ ある。音に対する感受性を高め、音楽的な耳を養うた めの一つの方法としてサウンドスケープがある (注5)。  本来音楽で大切にしなければならないことのなかに 音に敏感になることがある。音に敏感になるためには 音をよく聞くということが重要である。サウンドスケー プは、このように音に耳を傾け、音に対する感受性を 高め感性を培う指導の一つとして、学校における音楽 科の教材として指導することに意義があると考える。

2.自然音、環境音の指導の研究

 今回紹介する自然音・環境音の指導については、本

ESDをコンセプトにしたサウンドスケープへのアプローチ

川合利幸

(奈良教育大学附属中学校)

Aproach to Soundscape with Concept of ESD

Toshiyuki KAWAI

(Junior High School attached to Nara University of Education)

要旨:本研究はESDをコンセプトにしたサウンドスケープの指導の事例である。  音を風景的イメージとしてとらえ、

それを聴き取るサウンドスケープはカナダのマリー・シェーファーにより発案された。このサウンドスケープが日本 に紹介されてからかなりの年月が過ぎたが、音楽の指導としてあまりとりあげられなかった。今回はサウンドスケー プを自然音・環境音の学習指導の一環として取り入れてみた。また、サウンドスケープをESDにつながる一つの試み として、中学生を対象に実施した。静かに音に耳をかたむけるという行為は音楽の原点でもある。そしてサウンドス ケープを体験することにより地球の音環境に興味を持たせ、より良い地球の音環境を未来に残すことを考える動機に してもらいたい。

キーワード:自然音、環境音、ESD、  ビオトープ

(3)

校で、学校ビオトープとサウンドスケープという内容 で音楽の授業で取り扱ってきた。ビオトープというの は自然が豊かに保たれていて、その中で野生動物等が 生息できる状態にあるような環境を意味する言葉であ る。そして学校ビオトープというのは、自然があり、

野生動物が生息できる環境にある学校のことを意味す る。本校は、2次林としての平城山丘陵の一画に位置 した里地空間があり、そこにはタヌキなどの野生の小 動物やセミ類などが生息している。この場所をフィー ルドとして自然音・環境音の指導の一例としてサウン ドスケープを音楽の授業のなかでおこなってきた。生 徒たちが学校ビオトープという環境で、自然音に耳を 澄ませ音を大切にし、音に敏感になるようにという意 図で実施した。

 そして本年度はこれまで行ってきたサウンドスケー プの指導を持続可能な教育(ESD)という視点を入れ て指導のあり方や方法をもう一度考え直すことにした。

 今回、学校での音楽の指導においてESDをどのよう に考えて、またどういう教材を使用するかを考えてみ た。学校で行われる音楽教育の果たす役割の中で特に 大切なことは、音楽をとおして人間としての豊かな情 操を養うことである。この情操を養うということは置 き去りにされがちであったような時期もあったが、現 在の社会の様子を考えた時、重要性が改めて認識され ている。音楽の授業でこの豊かな情操を培うための手 段として良い音楽にふれさせ、美しい音の世界に感動 する経験をさせる教材を指導することが不可欠であ る(注6)。しかし現在の生徒たちは音に対する感受性が 乏しい例もしばしばみうけられる。また、静かに音楽 に耳をすませることができないこともある。注意深く 音楽を聴きにくい生徒たちの状態を改善するための取 り組みの一つとして、自然音や環境音という存在を教 え、また接する場を音楽の指導として設定することが 必要なこともある。このような生徒たちの音に対する 感受性を高め、感性を培うための方法の一例として、

そしてこのようなサウンドスケープの取り組みが意味 あると考えられる。そしてこのような音楽的な音を大 切にする指導は継続して行わなければ成果が得られな いと考えられる。ESDを考えたサウンドスケープの指 導は音に耳を澄ませる、注意深く音を聴くなどさまざ まな音に興味をもたせるという目標で継続的に指導し た。そしてこの指導の継続により自分に心地よくまた 感動を得られるような美しい音の世界を知り、そのよ うな美しい音を聞き分けることのできる感性を育成し たいと考えている。

 人を心豊かにする物のひとつに音楽は無くてはなら ないであろう。学校での音楽の指導はまさしく将来音 楽を愛好することの入り口である。さまざまな音楽に ふれる機会を提供し、時には自ら音楽を表現し音に感 動する瞬間を体験させるのも音楽教育の重要な取り組

みである。そしてこれらの指導の一番基本的なことの ひとつとして、音を大切にする、音を注意深く聴くこ とのできる生徒の育成があると思われる。このような 音を大切にするということを、手法を変え継続して指 導できる教材に一例として、サウンドスケープは学校 で行われる音楽教育のESDの取り組みになるのではな いかと考えてみた。このように考えるとき、持続が可 能な音楽教育のさまざまなあり方が要求されると考え る。自然音・環境音を取り上げたサウンドスケープの ひとつとして、ESDを視野に入れたほんのささやかな 試行である。この持続可能な教育活動と豊かな情操を 育てるということは芸術教科として音楽科を考えると き重要性が改めて認識される。若い世代の心の問題が 大きく取り上げられているなかで、音楽的な美に接す る機会を与え、感動を体験させる芸術教科としての音 楽の今後のあり方についてESDをもとに考えてみたい。

3.サウンドスケープの実施

3.1 指導の概要

 自然音・環境音の指導については以前から教室で行 う授業形態はとらずに野外でのフィールドワーク形態 でサウンドスケープを実施している。今回サウンドス ケープを題材とした授業に関して、生徒たちの音に対 する研ぎ澄まされた感性を培い高めることを考えてみ た。

3.1.1 指導について

 ビオトープは1980年代ドイツの財団「緑の学校をつ くる」の代表者オルトルード・クールにより学校教育 の中に取り入れられて、彼により「野外の実験室」と も呼ばれ、環境教育のひとつとして成果をあげている。

本校の学校ビオトープである裏山において生徒たちは 自然と接するだけでなく、自然音・環境音をサウンド スケープすることにより、音に対して敏感になること を体験してもらいたい。そして音源についても考えて もらい、音を大切にすることを学んでもらいたい。

 また音に対する感受性を高め、豊かな感性を培うこ とにもつなげたい。

3.1.2 調査対象者

 今回実施した生徒は、本校の中学1年生男子75名女 子72名と本校音楽部の女子生徒2、3年18名、合計165 名である。1年に関しては4つのクラスに分かれてい るので、4クラスすべての生徒を対象に実施した。

3.1.3 調査実施時期

 本調査は本校の裏山において天候、時間帯等を変え ながらフィールドワークとして実施した。自然音、環 境音に関しては、実施時期や天候により変化が予想で きるのでできるだけサウンドスケープを行う条件を変 えてみた。具体的には、2008年10月中旬を中心に、第 1限(9時から9時30分)、第3限(10時50分から11時

(4)

20分)、第5限(13時10分から13時40分)、第6限(14 時10分から14時40分)というように本校の校時に合わ せて2週間かけて各クラス実施した。音楽部の生徒に 関しては放課後の16時前後に約30分間行った。できる だけさまざまな気象条件の時に実施した。晴れの日1 クラス、風の比較的強い日1クラス、曇りの日、1ク ラス、風の少ない少し雨の降った午後1クラスという 内訳であった。

3.1.4. 授業展開と調査方法

実施のあとで

・生徒達はこのように自然音を聞くということをほと んど経験していないので新鮮味があったようである。

そして自然音を注意深く聞き取ることに積極的に取 り組んだ。

・静かにしてしばらくすると、様々な音が聞こえるこ とへの感動があった生徒もいた。

・音楽のもとは音であるということを感じた生徒もい た。

4.結果と考察

4.1 自然音・環境音について

 学校ビオトープでサウンドスケープのフィールドワー クを実施して生徒たちが聴き集めた音の種類を自然音 と環境音に分類した。表1に生徒たちが書き取った具 体的な音の記録を示す。左側に実際に記録した文章ス ケッチ、右側に生徒たちが予想した音源を示した。

生徒たちが事前に予想していた音も多く聞き取れたよ うであるが、予想に反した音、偶然にその瞬間に聞こ えてきた人為的な音なども含まれていた。

 表1として数多くの生徒たちが聞き取った音をメモ した音の例の中で、多くの生徒が共通して書いた音の 例を示す。

4.2 自然音と環境音の割合

 今回のサウンドスケープのデーターの中で自然音と 環境音に分けて聞えてきた音の割合を図1に示す。

 図1に示した円グラフの実数は環境音と考えられる もの716、自然音と考えられるもの392、その他どちら ともいえないようなもの46であった。この中には表1 で紹介した例の音はかなりの数で重複している。

 今回のサウンドスケープの実施は調査実施時期のと ころで紹介したように、10月の晴天の日及び雨天の午 前中学校の裏山で実施した。実施時期や天候により聞 える音は変化するであろうが、トータルに音環境を考 えると自然音より環境音(ある意味人為的な音)のほ うが圧倒的に多いということがわかった。特に多かっ たのはさまざまな交通手段が発生させる音であった。比 較的環境の良い附属中学校の裏山でさえこのような状 指導留意点

学習活動

校内の様々な場所を時季や天候等 を考慮しながら選定する

野外で自然音に 耳を傾ける

かなり時間をかけさせて注意深く自 然傾け音に耳をさせる

自分に心地よい 音をさがす

自分の気に入った音を複数さがさ せる

聞こえた音の音源について考えさせ、

メモさせる。

音のスケッチ

表1 生徒たちが多く聞き取った音列

(音源)

自然音例

(風の音)

(木々の葉が風により擦れ合う音)

(鳥の鳴き声)

(鳥の鳴き声)

(どんぐりの実が落ちた音)

(虫の鳴き声)

(雨の音)

(雨の音)

ピューピュー ザーザー カーカー ピイーピーキャ パサッ

チーチーチー ザーザー サカサカサカ

(音源)

環境音例

(遠くから聞こえる車の音)

(遠くの踏み切りの音)

(偶然聞えたヘリコプターの音)

(近くを車が通った音)

(学校のざわめき)

(遠くの工事の音)

(近くを通ったバイクの音)

ゴーーーッ カーンカーン バタバタバタ ブーーー ザーザー カーンカーン バタバタバタ

図1 自然音、環境音の割合

(5)

態である。もう少し都市に近いとさらにトラフィック サウンドが多いであろうということは容易に推測され る。一方、自然音に関しては、人間の感性に心地よく 感じる音が多く含まれると言うことが生徒たちの意見 からも拾うことが出来た。

 サウンドスケープの様子を図2に示す。耳をすまし 野外で注意深く音を聴いてみると、環境音が圧倒的に 多く聞こえる中で、自然音の大切さをあらためて考え た生徒が多くいた。また、音を大切にする、すなわち 音を注意深く聴くスタンスが音楽にとって大切である、

ということがわかった生徒が多かった。

生徒たちの感想

 授業後の生徒たちの感想記録から一部抜粋して以下 に示す。

・いままで考えもしなかった、さまざまな音が聞こえ ることに驚いた。(3年男子)

・  風のもさまざまな音があると思った。(1年男子)

・  いままで自然に興味を持ったことがなかったが、な かなかおもしろい。(3年男子)

・  音に風景のようなものがあるのかなと、考えてみ た。(1年女子)

・  雨にもいろんな音があると感じた。特に降り始めに はさまざまな音が聞こえた。そして、音のみならず雨 の臭いも感じた。(3年女子)

・注意深く自然の中で音を聴いたことがなかったので、

いい経験になった。思っていたより多くの音に遭遇し た (注7)。(1年女子)

5.おわりに

 今回のサウンドスケープの実施をもとに、自然音と 環境音について考えを広げてみた。自然音という概念 の中には地球の自然そのものが音源となる音(たとえ ば風の音など)と自然界に存在する物からの音などが あるように考えられる。これらはネイチャーサウンド と呼ばれている (注8)。一方、環境音について考えると

現在社会において無数に存在する音である。たとえば、

自動車や列車等の交通から出る音、人々のざわめき、

あえて言えばBGMも環境音としてのくくりの中に含ま れるかもしれない。今世界的に地球の環境問題がクロー ズアップされていることを考えれば、少し視野を広げ て、音についても考えてみるのも大切ではないだろう か。サウンドスケープが初めて実施された時代と現在 では地球の音環境は大きく変化し、特に環境音に関し ては人間の耳に快くない音が大幅に増えていると考え られる。サウンドスケープを体験することにより、今 の我々の暮らしている場所の音環境を認識する機会が ふえることはまちがいないだろう。そして、人に優し くない音を少しでも減らすことを考え始めるきっかけ にしてもらいたい。少しでも今の地球の音環境を改善 し、自然音と環境音が良い状態を将来にわたり維持す ることを考えてほしい。若い世代の人たちが、人に優 しい音環境を持続させる努力をすることが、より良い 地球環境の未来にわたる維持につながると考えられる。

サウンドスケープの広がりはこのようなことからESD の理念にもつながると思われる。

参考文献

1)文部科学省 「中学校学習指導要領音楽」(2003年 3月)

2)川合利幸 「ESDを考えた音楽指導」 奈良教育大 学附属中学校研究集録 第36集 83−88 (2007年 11月)

3)小林田鶴子 「まちのそうごうがくしゅうがはじ まるよ」1−2 教育出版 (2003年6月)

注釈

(注1)過去の音楽科の中学校学習指導要領において は各学年に歌唱教材及び鑑賞教材に、必ず指導し なければならない共通教材が設けられていた。

(注2)平成20年告示の中学校学習指導要領では共通 教材の中から、各学年、任意に1曲以上指導する ことになっている。それまでは各学年において歌 唱教材、鑑賞教材それぞれ3曲を必ず指導するこ とが求められていた。

(注3)レイモンド・マリー・シェファーはカナダを 代表する現代音楽の作曲家であり、サウンドスケー プの創始者であり、管弦楽曲「ノース・ホワイト」

(1973年)などの代表作がある。日本では「サウ ンドエデュケイション」(春秋社)の中でサウン ドスケープの教育への試みが述べられている。

(注4)過去に、学習指導要領に示された歌唱教材や 鑑賞教材、楽典を指導することを中心に、音楽の 授業が行われていた頃があった。

図2 本校裏山でのサウンドスケープの様子

(6)

(注5)音楽的な耳とは感性を持って音楽や音を聴く ことのできることである。また「音に関する感受 性ともいうべきものが低くなりつつある」という ことに関しては、筆者が2007年11月10日開催の日 本音楽教育学会38回全国大会(於、岐阜大学)、研 究発表D「ESDを考えた自然音・環境音指導の考 察」中で取上げた。

(注6)美しい音の世界があるということを体験させ、

音の美により豊かな情操を培うためのアプローチ の一つとして音楽が必要であるということ。

(注7)学校の近辺でサウンドスケープを行うと、交 通手段の音、学校の授業の音など、偶然その時聞 き取れる音など、予想もしない音にめぐり合う。

(注8)  人為的な音ではなく、自然界の時間の経過か ら聞こえる音を意味することが多い。癒しをテー マにした、ネイチャーサウンドを採集し編集され たCDも数多く発売されている。

  ヒーリングCD「小鳥のさえずり」(DLNS−108)

などはネイチャーサウンドの代表的な作品である。

参照

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