はじめに
感染性心内膜炎(infectious endocarditis:IE) は,心臓内の異常血流により障害された心内膜 (主に弁)に非細菌性血栓性心内膜炎(non-bac-terial thrombotic endocarditis:NBTE)が生じ, そこにさらに菌が付着して増殖し,疣腫を形成 することで発症する.IEは弁や弁周囲組織の破 壊を引き起こし,疣腫は塞栓症のリスクとな る.また,心臓外の動脈に細菌性動脈瘤を形成 することがあり,特に脳動脈瘤の破裂による脳 出血は致命的となることがある.IEは不明熱の ほか,食欲不振や筋肉痛,関節痛など不定愁訴 のような症状や腰痛で受診することがあり,重 篤な合併症を起こすまで診断されない例も多 い.そのため,原因不明の発熱,心不全,塞栓 症などでは常にIEを念頭に置いて診療にあたる 必要がある.一度罹患すると,院内死亡率は約 15~20%,1 年死亡率は約 30~40%と高く1), 診断の遅れが致命的となり得る.特に心不全や 塞栓症は主な死亡原因であり,これらのリスク が高い例では外科手術のタイミングを逃しては ならない.最も重要なことは原因菌の同定であ り,血液培養は不可欠である.また,ハイリス ク患者には,普段から予防について十分理解さ せることも必要である.様々な学会よりIEの診 断・治療指針が示されているが2~4),IEの診断法 および治療法は常に進歩しており,改訂のたび に内容が変更になっている.我が国では,「感染 性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2008年改訂版)」(日本循環器学会)2)が用いら れることが多いが,最近では欧州心臓病学会の
感染性心内膜炎 編
2)内科的治療
要 旨 大門 雅夫 感染性心内膜炎は,高齢化社会や心臓デバイス治療などの発展に伴い, 高齢者での罹患例が増えている.罹患例では死亡率も高く,迅速な診断と 適切な抗菌薬治療が重要である.また,引き続く心不全や塞栓症は重要な 死因であり,リスクの高い例では早急な外科手術が必要になる.治療方針 決定には,血液培養による原因菌の同定が最重要である.また,ハイリス ク患者には,あらかじめ予防の重要性を説明しておく必要がある. 〔日内会誌 105:245~252,2016〕 Key words 発熱,感染,心臓弁膜症,塞栓症 東京大学附属病院検査部Valvular Heart Disease:Current Treatment and Future Perspectives. Topics:III. Current Treatment:Surgical vs. Medical;3. Infective endocar-ditis, 2)Infectious endocarendocar-ditis, medical therapy.
ガイドライン3)が 2015 年に改訂された.IEの治 療は単独の診療科だけで完遂することは難し い.この欧州心臓病学会ガイドラインでは,感 染症やイメージング,心臓外科など,それぞれ の専門家が協調して「IEチーム」として診断と 治療にあたることの重要性が示されている3).
1.最近の動向
疾患としてのIEの頻度はそれほど高くはな い.現在でも左心系自己弁IEは最も多く,IEの半 数以上を占める.基礎心疾患としては,先天性 心疾患のほかに,逆流を伴う僧帽弁逸脱症や大 動脈二尖弁などである.しかし,高齢化社会が 進むにつれ,心臓弁膜症や弁の石灰化を有する 例,透析症例,心臓手術やデバイス治療を受け た症例などが増えているため,高齢者における 罹患例が増加している.特に医療行為関連IEの 増加が指摘されている5).左心系人工弁IEは,死 亡率が 20~40%と依然として高いが,アーチ ファクトのために心エコーで疣腫の描出が難し く,診断が遅れることがある.また,人工物へ の感染は抗菌薬では難治で外科治療を要するこ とも多い.現在,経カテーテル的大動脈弁置換 術(trans-catheter aortic valve implantation:TAVI)の普及もあり,人工弁置換術症例が増え ており,人工弁IEは今後さらに増加していく可能 性がある.その他,最近,特に増加が指摘され ているのがデバイス関連IEである.ペースメー カーに加え,植込み型除細動器や両心室再同期 治療などによる心内リードの使用が広まってい るためである.低心機能症例や高齢者が多いこ とに加え,開心術によるペースメーカーリード 抜去が必要になるなど合併症リスクが高い. 菌血症の原因としては,歯科治療を含む医療 行為のほか,齲歯を放置して歯肉炎を生じてい る例,アトピー性皮膚炎による皮膚の感染,ペッ トによる咬傷,足白癬など多彩である.最近, 特に基礎心疾患を有し,アトピー性皮膚炎によ る皮膚の搔き傷から感染したと推定される症例 を目にすることが多い.IEでは一度治癒しても 再発例も多い.感染経路を同定して,再発予防 に努めることが予後の改善には重要である.
2.ハイリスク症例における予防の重要性
IEにおいては,発症の予防が最も大切である ことは言うまでもない.日本循環器学会発行の ガイドライン2)では,表1に示すような症例をIE のハイリスクとし,観血的処置を行う場合に抗 表1 感染性心内膜炎予防のための抗菌薬投与(文献2より) ClassⅠ 特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患で,予防すべき患者 ・生体弁,同種弁を含む人工弁置換患者 ・感染性心内膜炎の既往を有する患者 ・複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症) ・体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者 ClassⅡa 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防したほうがよいと考えられる患者 ・ほとんどの先天性心疾患 ・後天性弁膜症(詳細は本文) ・閉塞性肥大型心筋症 ・弁逆流を伴う僧帽弁逸脱 ClassⅡb 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が必ずしも高いことは証明されていないが,予防を行う妥当性を否定できない ・人工ペースメーカあるいはICD植え込み患者 ・長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者菌薬の予防的投与を勧めている.最も一般的な 抗菌薬の予防的投与法は,処置 1 時間前のアモ キシリン 2 g単回の内服である2).しかしなが ら,これらハイリスク症例における抗菌薬の予 防投与についてのエビデンスは少なく,ガイド ラインによっても対象患者が異なっている.重 要なことは,IEのハイリスクと思われる患者に は,医療従事者がそのリスクを十分に理解させ ることである.基礎心疾患を有するにもかかわ らず,発症以前にIEのリスクが十分説明されて いないために重篤な危機に陥る症例も多い.ハ イリスク患者においては,口腔内ケアに注意す るなど,普段から患者に予防に関する十分な説 明を行っておくことが必要である.日本循環器 学会のガイドライン2)では,表2に示すハイリス ク患者のためのカードを提唱している.筆者 は,これを小さく印刷して裏に病名を記入し, 常に携行できるようなものを作成して患者に手 渡ししている.
3.診断と抗菌薬治療
IEの治療で重要なことは,できるだけ早期に 診断し,早期に適切な抗菌薬治療を開始するこ とである.IEを疑った場合にまず行うことは, 血液培養と経胸壁心エコー検査である.血液培 養は,抗菌薬を投与する前に少なくとも12時間 以上空けて 2 回以上行う.経胸壁心エコーで疣 腫を認めた場合には特異度は高いが,必ずしも 経胸壁心エコーの診断感度は高くない.特に人 工弁置換術後などではアーチファクトにより評 価できない部分も多く,経食道心エコーでの評 価が必要である.診断基準としては,Duke大学 の提唱した臨床的診断基準(表 3)が用いられ ているが,この基準は幾度となく見直しがなさ れている.ここでは,2005年の米国ガイドライ ン4)で採用された改訂Duke診断基準を掲載し た.抗菌薬の選択にあたっては,我が国では日 本循環器学会発行のガイドライン2)が広く用い られている(表 4,5).原因菌によって 2~6 週 間の抗菌薬治療を行うが,抗菌薬療法の効果を 治療開始後48~72時間,さらに1週間を目安に 評価する2).不適切な抗菌薬投与を長期間続け ると耐性菌が出現することもある.抗菌薬の選 択においては,可能であれば感染症の専門家の 指示を仰ぐ方がよい.抗菌薬治療は長期にわた るため,副作用の発現にも注意し,適宜腎機能 や聴覚検査を行う.特にグリコペプタイド系や アミノグリコシド系では,有効かつ安全な抗菌 薬治療を行うためにも,血中濃度のモニタリン グ(therapeutic drug monitoring:TDM)が重要 である. 表2 感染性心内膜炎ハイリスク患者のためのカード(文献2より) あなたは,感染性心内膜炎(心臓の中の弁や,内膜に細菌などがつき,高熱や心不全,脳梗塞,脳出血などを起こす病 気)をおこしやすい心臓病があります. そこで 1.歯を抜いたり,歯槽膿漏の切開などをしたりする場合には適切な予防が必要となります.必ず,主治医の歯科医にそ のことを伝えて,適切な予防処置を受けてください. 2.歯槽膿漏や,歯の根まで進んでしまった虫歯などを放置しておくと感染性心内膜炎を引き起こしやすくなります.定 期的に歯科医を受診して口腔内を診察してもらいましょう. 3.口腔内を清潔に保つために,歯ブラシや歯ぐきのケアを怠らないようにし,正しく歯科医の指導を受けてください. 4.感染性心内膜炎を引き起こす可能性が示唆されている手技や手術があります.手技や手術を受ける前に,実施医に感 染性心内膜炎になりやすいことを伝えてください. 5.高熱が出た場合,その熱の原因が特定できない場合や,すみやかに解熱しない場合には,安易に抗菌薬を内服しては いけません.その場合には,循環器科の主治医に相談してください.4. IEが疑わしいが,
改訂Duke診断基準で診断できない例
改訂Duke診断基準はIEの診断に有用である が,一方では感度に限界があることも指摘され ている.現在の改訂Duke診断基準(表 3)は, 血液培養と心エコー所見に加え,塞栓症状や炎 症所見を中心に構成されている.特に20~30% ともいわれる血液培養が陰性例や,人工弁など 異物のために心エコーでの評価に限界がある例 である.これに対しては様々な新しい技術が応 用され,IEの診断感度を上げる工夫がなされて いる.原因菌の同定法として知られているのが polymerase chain reaction(PCR)法である.PCR法は,細菌の微量なDNA(deoxyribonucleic acid) を増幅することで,血液培養よりも感度良く原 因菌の同定が可能である6).また,手術中に採 取した検体より,自己免疫染色を用いて原因菌 を同定する方法も知られている.また,経食道 心エコーを用いても,人工弁置換術後の弁輪部 膿瘍などでは感染巣が十分評価できないことも ある.このような場合は造影computed tomogra-phy(CT)が有用である(図).さらに,CTに 18F-fluorodeoxyglucose(FDG)-positron emission tomography(PET)を組み合わせることで,炎 症部位の描出が可能である.また,テクネチウ ム 99 m-HMPAO(hexamethylpropyleneamine oxime)標識白血球シンチグラフィでは,人工 表3 感染性心内膜炎の改訂Duke臨床的診断基準(文献4より) 【IE確診例】 Ⅰ.臨床的基準 大基準2つ,または大基準1つと小基準3つ,または小基準5つ (大基準) 1.IEに対する血液培養陽性 A.2回の血液培養で以下のいずれかが認められた場合
(ⅰ)Streptococcus viridans,Streptococcus bovis,HACEKグループ,Staphylococcus aureus (ⅱ)Enterococcusが検出され(市中感染),他に感染巣がない場合
B.つぎのように定義される持続性のIEに合致する血液培養陽性
(ⅰ)12時間以上間隔をあけて採取した血液検体の培養が2回以上陽性
(ⅱ)3回の血液培養すべてあるいは4回以上の血液培養の大半が陽性(最初と最後の採血間隔が1時間以上) C.1回の血液培養でもCoxiella burnettiが検出された場合,あるいは抗phase1 IgG抗体価800倍以上
2.心内膜が侵されている所見でAまたはBの場合 A.IEの心エコー図所見で以下のいずれかの場合 (ⅰ) 弁あるいはその支持組織の上,または逆流ジェット通路,または人工物の上にみられる解剖学的に説明 のできない振動性の心臓内腫瘤 (ⅱ)膿瘍 (ⅲ)人工弁の新たな部分的裂開 B.新規の弁閉鎖不全(既存の雑音の悪化または変化のみでは十分でない) (小基準) 1.素因:素因となる心疾患または静注薬物常用 2.発熱:38.0℃以上 3.血管現象:主要血管塞栓,敗血症性梗塞,感染性動脈瘤,頭蓋内出血,眼球結膜出血,Janeway発疹 4.免疫学的現象:糸球体腎炎,Osler結節,Roth斑,リウマチ因子 5. 微生物学的所見:血液培養陽性であるが,上記の大基準を満たさない場合,またはIEとして矛盾のない活動性炎 症の血清学的証拠 Ⅱ.病理学的基準 菌:培養または組織検査により疣腫,塞栓化した疣腫,心内膿瘍において証明,あるいは病変部位における検索: 組織学的に活動性を呈する疣贅や心筋膿瘍を認める 【IE可能性】 大基準1つと小基準1つ,または小基準3つ 【否定的】 心内膜炎症状に対する別の確実な診断,または 心内膜炎症状が4日以内の抗菌薬により消退,または 4日以内の抗菌薬投与後の手術時または剖検時にIEの病理学所見なし HACEK:Haemophilus 属,Actinobacillus,Cardiobacterium,Eikenella,Kingella
弁感染でも特異度の高い診断が可能と報告され ている7).欧州心臓病学会ガイドラインでは, こうした細菌同定法やイメージング技術がすで に診断アルゴリズムに組み込まれている2).ま た,Duke基準も,感度を向上させるために今後 こうした新手法を取り入れ,さらに改訂されて いくと予想される.現在の改訂Duke基準で否定 的とされても,臨床的にIEが疑わしく,こうし た手法で細菌感染が確認されれば,IEとして治 療を行うべきである.
5.培養陰性例あるいはエンピリック治療
血液培養が陰性の理由としては,すでに抗菌 表5 抗菌薬の選択―原因菌が判明している場合(人工弁)(文献2より抜粋) 6)Streptococcus[連鎖球菌(Streptococcusviridans,Streptococcusbovis,その他の連鎖球菌)]およびEnterococcus (腸球菌)(Enterococcusの場合OまたはPを選択) N)ペニシリンG+ゲンタマイシン[B] O)アンピシリン+ゲンタマイシン[G] P)バンコマイシン+ゲンタマイシン[J] 7)Staphylococcus-methicillinsensitive(メチシリン感受性ブドウ球菌) Q)セファゾリン+ゲンタマイシン[K]±リファンピシン450~600mg/日分1~2 R)バンコマイシン+ゲンタマイシン[J]±リファンピシン450~600mg/日分1~2 8)Staphylococcus--methicillinresistant(メチシリン耐性ブドウ球菌) S)バンコマイシン±アミノグリコシド系薬[M]±リファンピシン450~600mg/日分1~2 図 造影CTによる弁輪部膿瘍の評価 大動脈基部に低吸収領域の膿瘍(矢印)が 描出されている.膿瘍周囲の大動脈壁に は解離腔が存在し,白く造影されている. 弁周囲膿瘍 表4 抗菌薬の選択―原因菌が判明している場合(自己弁)(文献2より抜粋) 1)ペニシリンG感受性のStreptococcus A)ペニシリンG 2,400万単位(1,200~3,000万単位)を6回に分割,または持続投与(高齢者,腎機能低下例) B)ペニシリンG[A]+ゲンタマイシン60 mg or 1 mg/kg×2~3/日 C)アンピシリン8~12 g/日を4~6回に分割,または持続投与+ゲンタマイシン60 mg or 1 mg/kg×2~3/日 D)セフトリアキソン2 g×1/日+ゲンタマイシン60 mg or 1 mg/kg×2~3/日(ペニシリンアレルギーの例) E) バンコマイシン1g×2/日または15 mg/kg×2/日または25 mg/kg/日(loading dose)→20 mg/kg/日(維持量)を1日1回(ペニシリンアレルギーの例) 2)ペニシリンG低感受性のStreptococcus(連鎖球菌) F)ペニシリンG[A]+ゲンタマイシン60 mg or 1 mg/kg2~3/日 G)アンピシリン+ゲンタマイシン[C] H)バンコマイシン[E](ペニシリンアレルギーの例) 3)Enterococcus(腸球菌) I)アンピシリン+ゲンタマイシン[C] J)バンコマイシン[E]+ゲンタマイシン60 mg or 1 mg/kg×2~3/日(ペニシリンアレルギーの例) 4)Staphylococcus-methicillin sensitive(メチシリン感受性ブドウ球菌) K)セファゾリン2 g×3~4/日+ゲンタマイシン60 mg or 1 mg/kg×2~3/日 L)バンコマイシン±ゲンタマイシン[J]
5)Staphylococcus- -methicillin resistant(メチシリン耐性ブドウ球菌)
薬が投与されている場合や,人工培地では発育 しないクラミジアや発育の遅いグラム陰性桿菌 で あ るHACEK群(Haemophilus属, Actinobacil-lus,Cardiobacterium,Eikenella,Kingella)など が原因菌の場合が考えられる.血液培養が陰性 でも臨床的にIEが疑われる場合,あるいは血液 培養の結果が判明する前に抗菌薬治療を開始す る必要がある場合に行う抗菌薬治療をエンピ リック治療と呼ぶ.これに関して標準的治療は なく,患者背景や臨床経過,施設での原因菌の 頻度などを参考に抗菌薬を選択する.抗菌薬 は,基本的に単剤投与は行わず,2 剤以上を併 用 す る2). 市 中 発 症IEで あ れ ば, 頻 度 の 高 い
Streptococcus属 >Staphylococcus属 >
Entero-coccus属をカバーする抗菌薬を選択する.抗菌 薬が投与されていなければ,HACEK群を念頭に セフトリアキソンやスルバクタム/アンピシリ ンにアミノグリコシドの併用を考慮する.医療 関連IEであればStaphylococcus属が多いが,メチ シリン耐性の可能性も考えてバンコマイシンな どを考慮する.
6.どこまで抗菌薬治療を行うか
重要なことは血液培養の陰性化であり,臨床 的に炎症の改善がみられた場合でも治療開始 1 ~2週間以内に血液培養陰性化を確認する2).検 査所見としては, 白血球数に引き続いてCRP (C-reactive protein)が陰性化する.炎症所見が 改善しても,疣腫内に菌が残存しており,抗菌 薬治療を中止すると再発することがある.ガイ ドラインでは,結果的に再発が少ないとされる 研究報告に基づいて投与期間が推奨されてい る2~4).炎症が改善しても,原則的にこの推奨 期間は抗菌薬治療を継続する.適切な抗菌薬の 選択にもかかわらず,炎症の改善がみられない 場合は,弁輪部膿瘍の合併などが疑わしい.心 エコーをくり返し行うほか,必要に応じてPET/ CTやテクネチウム 99 m-HMPAO標識白血球シ ンチグラフィを行う.弁輪部膿瘍合併例では, 抗菌薬治療だけでは難治であることが多く,基 本的には外科治療を考慮する.一方で,発熱が 持続する原因の 1 つとして抗菌薬によるdrug feverがある.臨床的には抗菌薬の効果がみられ ても,発熱のみ持続する場合はdrug feverも考慮 する.この場合,一度,抗菌薬を中止して様子 を見ると自然に下熱がみられる.7.外科への紹介のタイミング
IEでは,診断がついた時点で一度,心臓外科 にコンサルトしておいた方がよい.たとえ入院 した時点で手術適応がなくても,その後の急激 な症状の悪化で手術が必要になったときに,迅 速な対応をとることができるからである.特に Staphylococcus属によるIEでは進行が急速であ り,入院後に急速に病態が悪化することがある ので注意が必要である. 基本的に外科治療が必要となるのは,心不全 や塞栓症のリスクが高い例や,弁輪部膿瘍合併 例や真菌によるIEなど,抗菌薬治療の効果があ まり望めない例である(表6).特に10 mm以上 の可動性疣腫を有し,塞栓症のリスクが高い例 では,1 日の手術の遅れが致命的な塞栓症につ ながることがあるため,迅速な手術適応の決定 が重要である.僧帽弁は大動脈弁よりも複雑な 動きをするため,塞栓症のリスクがより高い. 現在は自己弁を温存した弁形成術が広く行わ れるようになったために,以前より積極的な外 科治療を選択する場合も多い.例えば,いずれ 外科手術が必要になると予想される例におい て,弁破壊が進行する前に手術適応を検討する 場合などである.抗菌薬治療中であっても,感 染弁は弁の裂開や穿孔を生じて急激に逆流の増 悪から血行動態の悪化を生じることもある.心 不全発症のリスクが高い例では,心不全発症前 に手術を行った方が周術期合併症リスクは低く なる. また, 大動脈弁に生じたIEによる逆流ジェットにより,僧帽弁に感染が波及してしま うこともある.ただし,感染が活動性の時期は, 感染部位の組織が脆弱で縫合不全のリスクが高 く,慢性期に手術をした方が弁形成術の成功率 が高いという意見もある.弁形成術を前提とし たIEへの外科手術のタイミングについては,い まだエビデンスが不十分であるうえに,弁形成 術の成績についても施設間の差がみられるのが 実情である.このため,弁形成術を前提とした 外科手術のタイミングは,全ての施設で一律に 考えることはできない.こうした症例について は,IEチームとして個々の症例について検討し, 最良と思われるタイミングでの手術を行うこと が望ましい. 手術適応の決定には感染経路による再発のリ スクも考慮する必要がある.例えば,齲歯の感 染コントロールが不良な例などでは,感染経路 を十分にコントロールできないと術後早期にIE が再発してしまうリスクがある.このような症 例では,術前に感染齲歯を抜歯するなど,IE再 発予防処置を行うことが望ましい.また,再発 のリスクが高い大動脈弁感染例では,ホモグラ フトが使用可能な施設への紹介も考慮した方が よい.術前に細菌性脳動脈瘤の合併を評価する ことは言うまでもない. ペースメーカーなどの心内リード感染では, 全身に感染が波及してしまう危険がある.ま た,感染コントロールの問題からも早期にリー ド抜去を検討する.開胸による外科的なリード 抜去のほかに,最近ではレーザーを使ったリー ド抜去が可能な施設も増えている.抗菌薬治療 だけでは感染コントロールが困難と思われる症 例は,こうした施設へ早めに紹介した方がよい. 一度,脳塞栓を発症した症例では,手術中の 人工心肺による脳出血のリスクが高いが,大き な神経症状を伴わなければ早期に手術をした方 が二次的な脳出血が低いという報告8)もあり, 手術が必要な症例では脳塞栓発症 72 時間以内 の手術を行うことが最近は推奨されている4). また,微少な出血性梗塞でも,手術中にナファ モスタットメシル酸塩を使用することで安全に 手術可能との報告もある9).詳細については, 本号外科治療の項に譲る. 術後は,一般に 1 カ月程度の抗菌薬治療が推 奨されている.手術検体から原因菌が同定され れば,それを考慮した抗菌薬治療を行う.
8.フォローアップ
抗菌薬治療で炎症が治まっても,しばしば再 発例がみられる.特に弁輪部などに炎症が及ん でいる場合は根治が難しい.少なくとも抗菌薬 終了 1 年間は,定期的に血液検査や心エコー検 査を行う.わずかでも炎症所見の持続している 表6 早期に手術適応を検討すべき症例 1.すでに合併症を生じている例 1)心不全:弁破壊による逆流や短絡など 2)塞栓症:塞栓症再発のリスクの高い疣腫を有し,かつ大きな脳神経症状を有さない 2.合併症を生じていない例 1)塞栓のリスクが高い:10 mm以上の大きな可動性疣腫(特に僧帽弁) 2)弁輪部膿瘍 3)人工弁感染,リード感染など人工物への感染 4)真菌,高度耐性菌による感染 5)高度な逆流,あるいは短絡,仮性瘤を生じており,いずれ手術が必要と考えられる例 6) 高度な逆流を伴わなくても感染による弁の損傷が著しく,高度な弁逆流へ進行するリスク(心不全発症のリスク) が高い,かつ弁形成術の可能性が高い 7)適切な抗菌薬治療にもかかわらず,炎症が持続 *弁形成術を前提とした手術適応を検討する場合には,その可否について事前に外科医とよく相談したうえで検討すること.例では,造影CTやPETなどの画像診断も考慮す る.弁輪部に慢性的に炎症が継続し,慢性期に 瘤化して手術が必要になる例もある.IEの既往 がある症例では再発のリスクが高いことを患者 に説明し,注意深く経過観察を行うことが必要 である.
おわりに
本稿ではIEの内科治療を中心に述べた.IEは 一度罹患すると合併症リスクや死亡率の高い疾 患である.また,迅速かつ適切な治療方針決定 が予後と大きく結びつく.それぞれの専門家が 「IEチーム」として協力してIEの診断と治療にあ たっていくことが望ましい. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし 文 献1) Thuny F, et al : Management of infective endocarditis : challenges and perspectives. Lancet 379 : 965―975, 2012.
2) 日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007年度合同研究班報告)感染性心内膜炎の予防 と治療に関するガイドライン(2008 年改訂版).
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