博 士 ( 獣 医 学 ) 上 村 俊 一
学 位 論 文 題 名
乳牛の分娩後における繁殖機能に関する研究
学位論文内容の要旨
乳 牛 の 分 娩後 に お け る繁 殖機能 にっ いて, 超音波 断層装 置に よる生 殖器の 継続的 観察や 血液 profileおよ び内分 泌学 的所見 を検討 すると とも に,分 娩後の 栄養バ ランス が卵 巣のfollicular profile( 以 下FPと 略 ) に 及 ぼす 影 響 を 明 らか に し よ う とし た 。
得 ら れ た 結果 は , 以 下 のよ う に 要 約 さ れる 。
1.乳 牛の繁 殖能カ に関与 する生 理的 環境要 因とし て,産 次と 月齢, 分娩後 の体重 減少率 ,泌 乳量 お よ び 季 節 があ り , 初回授 精受胎 率は 未経産 牛で最 も高く ,2産〜4産目 で低か った。 分娩 後100日 目まで に受胎 した牛 は,分 娩後 の体重 減少率 が低く ,ま た,高 泌乳牛 群では 放牧期 にお いて 受 胎 ま で の 日数 が 増 加 し た。
2. Progesterone( 以 下Pと略 ) 濃 度 の 測定 に っ い て ,EIAキ ッ 卜の 性能 評価を 行った とこ ろ, 感 度 は 良 好 で, 操 作 も 簡 便で あ り ,RIAと は 血 液 でEIA ‑RIA十O.1(r―0.943), 乳 汁 でEIA‑1. 25RIA−2.4(r=0. 778)の 高 い 相 関 関係 が 認 め ら れた 。 血 液中や 乳汁 中P濃 度は , 卵巣 所 見 を よ く 反映 し , 臨 床 現場 で の 応 用 が可 能 で あ っ た。
3. 分 娩 前後 の 血 液 中 の性ス テロイ ドホル モン は,分 娩前日 から分 娩日 にcortisol( 以下Cと 略 ) 濃 度 が 上 昇 し ,P濃 度は 分 娩 前2日よ り 減 少 し ,estrogen( 以 下Eと 略 ) 濃 度は 分 娩 前1 日〜2日 目 よ り上 昇 し た 。 分 娩翌 日 に は ,P濃 度 およ びE濃 度と も急激 に滅少 した。 妊娠日 数が 290日 〜349の 長 期 在胎 牛 では ,分娩 前にE濃度 が低く ,ま た,分 娩した 無毛奇 形子牛 のC濃度が 正常 子 牛 よ り 低 かっ た 。
4. 性 周 期の 血 液 中 の 性ス テ ロ イ ド ホル モ ン 相互 の比率 は, 受胎牛 で人工 授精後E/P比 およ びC/P比 が 低下 し ,E/C比 の 変 動 が 少な い 傾 向 に あっ た 。 不 受 胎 牛で は , 発 情 予定 日 にE/ P比 お よ びC/P比 が 上 昇 し,E/C比 は大 き く 変 動 した 。
5. 色 素 排 泄 機 能 試 験 ( 以 下BSP試 験 と 略 ) を分 娩 後1週 およ び2週 目 の乳 牛 に 実 施 した と ころ ,投 与後30分 の血中 停滞 率や半 減時間 は,分 娩前2週に 比べ て増加 し,肝 臓機能 が低下 して い た 。 分 娩 後2週 目 に お け るBSP試 験 と 血 液 中NEFA濃 度 に よ り , 分 娩 後 の 疾 病 発 生 や繁 殖
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成績の予知がある程度可能となった。
6.生草は,生育ステージにより栄養価が変動し,また,牧草サイレージに比ベ高蛋白質,高 力口リ一,高水分および低繊維であった。生草給与牛では,蛋白質が過剰傾向にあり,低水分牧 草サイレージ給与牛では泌乳量やTDN充足率が低かった。
7.生草中のロカ口チン含量は,、生育ステージが進むに従い減少し,牧草サイレージや乾草で は,調製経過に伴い激減した。低ロカ口チン飼料給与では,血液中や乳汁中のロカ口チン濃度が 滅少し,受胎までの日数が増加したが,ロカロチン製剤を添加することにより,改善された。
8.超音波断層装置により,子宮は内膜と血管層が楕円形の輪郭線として観察され,卵巣では 中心腔を持つ黄体像や直径が2 mm程度の小型卵細まで判定できた。子宮は分娩後3週間で急速に 収縮し,41.5日で子宮内膜の断面積が最低となり,修復した。
9.分娩後,直径が10mm以上のdominant follicle(以下DFと略)は,前回妊娠角と反対側 の卵巣に高い頻度で発現し,半数は初回排卵するが,卵胞嚢腫になる割合も高かった。受胎日数
(Y)と受胎ま、でのDF数 (X|)や排卵数(X2)および初回排卵日数(X3)の間には,Y−
‑1. 07十5.77X,十6.54X2十0.49X3,(RaーO. 747,PくO.01)の重回帰式が得られた。
10.TDNバ ラン スは , 毎日 変動 し,分娩後の小ピーク 時にDFが排卵するが,TDNバ ラン ス の 減 少 期 間 が 長 い 牛 で はDFは 形 成 さ れ て も 排 卵 せ ず , 閉 鎖 退 行 を 繰 り 返 し た 。 11.分娩後のFPでは,直 径が9mm以下の卵胞数が減少し,15mm以上の卵胞数は増加する傾向 にあった。分娩後のTDNバ ランスは,FPに影響し,栄養充足率が速やかに回復するほど小型 卵 胞 か ら 中 型 〜 大 型 卵 胞 へ の 移 行 が 早 く な り , 初 回 排 卵 も 早 ま る 傾 向 に あ っ た 。 12. DCPバランスは,飼料 の粗蛋白質含量により変動 し,血液中BUNや第一胃液NHヨーH 濃度は粗蛋白質摂取量と 相関した。DCPバランスが200%以上の過剰蛋白質の牛では,初回DF は 排 卵 せ ず 卵 胞 嚢 腫 と な り , 初 回 排 卵 ま で の 日 数 も 増 加 す る 傾 向 に あ っ た 。 13. DCP/TDN比が低い牛群(1.1〜1.2)では,中群(1.2〜1.5)や高群(1.5〜2.7)よ り最終的な受胎率が高かった。高群では,分娩後の総卵胞数が少なく,また,直径が10mm以上の 卵胞数の増減(以下waveと略)が低群や中群に比ベ明瞭でなかった。過剰蛋白質や相対的エネ ルギー不足では,分娩後早期の小型卵胞の補充が遅れたり,卵胞発育が抑制され,また,成熟卵 胞 が 頻 繁 に 発 育 し , 排 卵 や 退 行 を 繰 り 返 すwaveの 少 な い こ と が 示 唆 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨
酪 農経 営にお ける 生産コ スト低 減のた めに は,分 娩前後 に多発 する生 産病 の発生 を予防 し,1 年1産 を目 指す繁 殖管理 が必要 で, なかで もこれ まで不 明な点 の多 かった 分娩後 早期の 繁殖 機能 の解 明が重 要な課 題とな って いる。 申請者 は,分 娩後の 乳牛 にっい て,超 音波断層装置による生 殖 器の 継続的 観察や 血液profileお よび 内分泌 学的所 見を研 究し, 本論 文をま とめた 。本論 文は 92頁か らなり ,4章で構 成され てい る。
第1章では ,分娩 前後の 乳牛 の内分 泌学的 所見や 肝臓 機能に っいて 検索し ,繁殖 能カ との関 連 を 明 らか に し た 。 第2章 で は , 分娩 前 後 の 飼 養条 件, 特にロ カロ チンに ´)い て検索 し, 血液 profileや 繁 殖 能 カ に及 ば す影 響を明 らかに した ふ第3章で は,超 音波断 層装置 による 生殖 器の 診断 精度を 検索し ,その 有用 性を明 らかに するこ ととも に, 分娩後 の生殖 器の継続的な修復状況 や 卵 胞 形 成 状 況 を 詳 細 に 観 察 し , 分 娩 後 早 期 の 繁 殖 機 能 を 明 ら か に し た 。 第4章 で は ,分 娩 後 毎 日 の栄 養 バ ラ ン ス を検 索 し , 特 にTDNバ ラン ス が卵 胞形成 に影響 し,
栄養 バラン スが速 やかに 回復 するほ ど小型 卵胞か ら中型 〜大 型卵胞 への移 行が早くなり,初回排 卵も 早まる 傾向に あるこ とを 明らか にした 。また ,過剰 蛋白 質や相 対的工 ネルギー不足では,分 娩後 早期の 小型卵 胞の補 充が 遅れた り,卵 胞発育 が抑制 され ,その 結果, 成熟卵胞が頻繁に発育 し, 排卵や 退行を 繰り返 す卵 胞waveの少 ナょ いこと を明ら かにし た。
以上 のよう に,申 請者 は,乳 牛の分 娩後に おけ る繁殖 機能に っいて ,超音 波断層装置により生 殖 器の 継続的 な観察 や血 液profileおよ び内分 泌学的 所見を 検索し て, 分娩後 の栄養 バラン スが 卵巣 の卵胞 形成状 況に及 ばす 影響を 明らか にした 。これ らの 所見は ,乳牛 の分娩後における繁殖 機能 の解明 に大き な貢献 をす るものと考えられる。よって,審査員一同は,上村俊一氏が博士(獣 医学 )の学 位を受 けるに 十分 な資格 を有す るもの と認め た。
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