博 士 ( 工 学 ) 若 林 裕 之
学 位 論 文 題 名
Experimental and Theoretical Analyses for Microwave Backscattering from Lake Ice in Northern Alaska
( ア ラ ス カ 北 部 湖 氷 の マ イ ク 口 波 後 方 散 乱 に 関 す る 実 験 的 及 び 理 論 的 解 析 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ア ラ ス カ の 北 西 に 位 置 す る ノ ー ス ス 口 ー プ 地 区 は 、 陸 地 の 約40ワ 。 が 多 数 の ツ ン ド ラ 湖 と 呼 ば れ る 非 常 に 浅 い 淡 水 湖 に 覆 わ れ て い る 。1970年 代 後 半 に 、Xバ ン ド 及 びL バ ン ド の 航 空 機 搭 載 サ イ ド ル ッ キ ン グ レ ー ダ(SLAR)が 、 こ の 地 区 の デ ー タ を 冬 期 間 に 取 得 し た 際 、 後 方 散 乱 が 大 き い 湖 と 小 さ い 湖 が 存 在 す る と ぃ う 非 常 に 興 味 深 い 現 象 を確 認し た。
一 連 のSLARデ ー タ の 解 析 及 び 地 上 に お け る 観 測 の 結 果 、 後 方 散 乱 の 差 は 氷 の 下 に 水 が残 って いる(Floating ice)か 否(Grounded ice)か の違 いに よる もの が支 配的であると 推 定 さ れ た 。 淡 水 氷 の マ イ ク ロ 波 浸 透 深 さ は 非 常 に 大 き い た め 、 氷 に 入 射 し た マ イ ク ロ 波 は 氷 の 底 面 ま で 到 達 し 、 氷 の 底 面 に て 反 射 さ れ る こ と に な る 。 水 の 誘 電 率 は 土 の そ れ よ り も 大 き い た め 、 氷 / 水 の 反 射 係数 は氷 /土 の反 射係 数よ りも 大き くな る。
従 っ て 、 氷 の 下 に 水 が 存 在 す る 湖 の 方 が よ り 強 く マ イ ク 口 渡 を 上 方 に 反 射 す る こ と に な る 。 さ ら に 、 湖 氷 の コ ア 試 料 解 析 か ら 氷 中 に は 細 い 円 柱 状 の 泡 が 多 数 存 在 す る こ と が 判 明 し 、 こ の 泡 が 後 方 散 乱 に 寄 与 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 し か し 、 当 時 のSLARデ ー タ は 校 正 さ れ て い な い 写 真 の み の デ ー タ で あ っ た た め に 、 こ れ 以 上 の 議 論 はさ れて いな かっ た。
本 研 究 は 、 近 年 打 ち 上 げ ら れ た 衛 星 搭 載 合 成 開 口 レ ー ダ(SAR)デ ー タ を 使 用 し て 湖 氷 の マ イ ク ロ 波 後 方 散 乱 特 性 の 解 析 を 行 い 、 地 上 観 測 デ ー 夕 及 び コ ア 試 料 デ 一 夕 を も と に 湖 氷 の マ イ ク ロ 波 後 方 散 乱 モ デ ル を 提 案 し 、 同 期 観 測 さ れ た 衛 星 デ ー 夕 及 び 地 上 観 測 デ ー タ を 使 用 し て 後 方 散 乱 モ デ ル の 検 証 及 び 考 察 を 行 っ た も の で あ る 。
1.湖 氷の 地上 観測 及び 解 析( 第2章)
テ ス ト サ イ ト と し て 、 バ ロ ー 周 辺 の 湖 か らESA地 球 観 測 衛 星1号(ERS‑1)/SAR画 像 を 参 考 に し てIIサ イ ト を 選 定 し 、1992年4月 に 地 上 観 測 を 実 施 し た 。 地 上 観 測 デ ー タ か ら 、 氷 上 の 積 雪 深 は 最 大 で も80mmで 非 常 に 乾 い て い て 、 氷 厚 は24cmか ら216cmと 広 範 囲 に わ た り 、llサ イ ト 中5サ イ ト が 湖 底 ま で 凍 っ て い て 水 が 存 在 せ ず 、 こ の5サ イ ト はSARデ ー タ の 後 方 散 乱 係 数 が 低 い 場 所 と 一 致 す る こ と が 判 明 し た 。 さ ら に 、 各 サ イ ト か ら 持 ち 帰 っ た コ ア 試 料 の 各 層 の 泡 の 形 状 及 び 密 度 を 計 測 す る こ と に よ っ て 、 典 型 的 な 湖 氷 の 構 造 を 明 ら か に し 、 層 の種 類と して 球状 気泡 層(Granular layer)、 無 気泡 層(Clear layer)及 び円 柱状 気泡 層(Tubular bubbles layer)の3種類が存 在すること
が 判 明 した 。 球 状気 泡層は泡 の形状か ら湖上に 積もった 雪が凍っ た、いわゆ る雪氷 と 考えられ る。氷の 下の水が 飽和せず に気体が水に溶けている間は無気泡層ができ、
飽 和 後 は気 体 が 水に 溶けるこ とができ ずに円柱 状の気泡 となって 円柱状気泡 層が形 成 されると 推定した 。
2. SARデ一夕の解析(第3章)
Cバ ン ド(5.3GHz)のSARデ ータ に 関 して は 、1991年9月 か ら1992年4月 に 取 得した ERS‑1/SAR校 正済 デ ー夕12シー ン に つい て 解析 を行 った。湖 氷が成長 すると後 方散 乱は徐々 に上昇し 、最終的 には―SdB〜‑8dBで安定す る。しかし 、ひとたび湖底まで 凍結して しまうと 後方散乱 係数は−15dB〜―18dBまで低下することが判明した。この 特徴は湖の水深測定に応用できる可能性がある。
L/ヾンド(1.2GHz)SARにつし、ても同様に、1992年7月から1993年4月に取得した資源 観測衛星1号(JERS‐1)/SAR校正済みデー夕7シーンを解析することによって、湖氷の 成長 に 伴 う後 方 散乱 係 数 の変 化 を 行っ た 。Cバン ドと比較 すると湖 氷の成長に 伴う 後方 散 乱 の上 昇 及び 湖 底 の違 い に よる 差 は顕 著 ではない 。これは 、SARの測定限 界 が原因である。
以 上 の解 析 は 、1970年代に 行われた 湖氷の散 乱特性の 定性的解 析に対し て、校正 済みSARデ ータ を 使用 す る こと に よ って 解 析を 行い 、初めて 定量的に 解釈したも の である。
3. 湖氷のマ イクロ波 後方散乱 モデル( 第4章)
湖 氷の 典 型 的な 構造を 考慮した マイクロ 波後方散 乱モデル を提案した 。積雪層 の 後 方散乱へ の寄与は 非常に小 さいと考 え、大気一湖氷一水または土の基本的後方散乱 モ デ ル を作 成 した 。氷 内部は深 さに応じ て気泡の 形状、大 きさ及び密 度が異な るた め に 、 各層 の 平均 誘電 率、層間 境界にお ける散乱 及び気泡 の散乱を考 慮して各 層の 散 乱 を 行列 表 現し 、そ れを多層 構造で取 り扱える ように拡 張した。ま た、湖氷 各層 内 で は 、気 泡 の形 状及 び大きさ に応じて 、球状気 泡、円柱 状気泡、楕 円体状気 泡の 散 乱 特 性を 考 慮し た。 さらに、 湖氷底面 に関して は、湖氷 上面に比較 して後方 散乱 に 対 す る寄 与 が大 きい と考えら れたので 、鏡面散 乱と微小 ラフネスモ デルによ る散 乱 の両方を モデルに 取り入れ た。
4.後方散乱モデルによる解析(第5章)
提 案 した 後 方散 乱モ デルを使 用して、 モデル各 部の散乱 の解析を行 った結果 、湖 氷底面の散乱及粥胡氷内部の気泡密度が後方散乱に大きく寄与することが判明`した。
氷の 下 の 水の 有 無及 び氷の成 長による 後方散乱 係数の変 化を計算し た結果か ら、両 者と もERS‑ 1/SARで 観 測さ れ た 後方 散 乱の 変 化 を説 明 でき た 。 また 、 地 上観 測と SAR観 測 が 同期 し たデ ー タ を使 用 して 、 後 方散 乱 モ デル 出 カとSARデ 一夕 か ら導出 した 後 方 散乱 を 比較 すること によって 、両者間 に高い相 関があるこ とが判明 した。
以 上の 議 論 は、 湖 氷の 後 方 散乱 に つい て 、 衛星 搭 載SARで 観測した 観測値と 、後 方 散 乱 モデ ル から 計 算 され た計算値 を結ぴつ けたもので ある。本 論文中で は、アラ ス カ 北 部の ツ ンド ラ 湖 氷と ぃう特別 な対象物 を使用して いるが、 この手法 をより一 般 的 な 対象 物 に適 用 す るこ とによっ て、一般 的なマイク ロ波後方 散乱の理 解の進歩 が 期 待 され る 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Experimental and Theoretical Analyses for Microwave Backscattering from Lake Ice in Northern Alaska
( ア ラス カ 北部 湖 氷のマイ クロ波後 方散乱に 関する実 験的及び理 論的解析 )
1990年代に人り、ヨ―ロッパの地球観測衛星1号(ERSー1)や日本の資源観測衛星 1号 (J ERS―1)は それぞれCバ ンドとLバンドのマイク口波合成開口レ―ダを搭載 し、多量の貴重なデータを送信している。マイク口波は表面のみならず地表下の情報も得 ることができ、人工衛星利用マイクロ波リモ―トセンシングの重要性は年々高まってきて いる。特に氷は、マイク口波が表面下はるかに深く浸透するものと予想されており、氷体 内部の情報が得られるものと期待されている。
本論文では、マイク口波と氷の相互作用の解析が容易であり、かっ氷そのものの比較観 測が行えるアラスカ北部のツンドラ地帯に分布している浅い湖が凍結してできる湖氷に着 目した。実際に湖氷を採取しその内部構造を明らかにするとともに、湖氷地域で得られた ERS―1やJERS―1の合成 開口レ― ダデータ から後方 散乱係数を 求め、湖 氷の内部 構造と後方散乱係数の関係を明らかにする研究を行い、その成果をまとめたものである。
本論文の主要な成果は次の通りである。
OCバンド後方散乱係数は湖氷が成長しつっある時ー5〜―8dBであるが、湖底ま で 凍 結 す る と ‑15〜 ー 18dBに 低 下 す る こ と を 見 い 出 し た 。
◎湖氷は球状気泡層、無気泡層及び円柱気泡層から成っていることを明らかにし、
それぞれの層及びその境界による後方散乱のモデルを提案し、それにより散乱係 数を理論的に解析した。
◎湖氷内部の気泡密度及び湖氷下の水の有無が後方散乱係数に大きな影響を与える ことを理論解析及び比較観測によって確かめた。
以上のように著者は、人工衛星搭載マイクロ波合成開口レーダから得られる湖氷の後方 散乱係数と湖氷の構造変化の関係を観測と理論解析の両面から明らかにしたものであり、
リ モ ー ト セ ン シ ン グ 学 と 応 用 物 理 学 の 進 歩 に 寄 与 す る と こ ろ 大 で あ る 。 よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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