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論文 外付け線状陽極を用いた電気防食システムの通電性状 皆川 浩

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Academic year: 2022

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論文  外付け線状陽極を用いた電気防食システムの通電性状

皆川  浩*1・川俣  孝治*1・増田  正孝*2・荒木  弘祐*3

要旨:電気防食に用いる線状陽極は,部材表面を切削し設置する方法が一般的である。この 場合,切削による部材への影響や陽極と鉄筋との距離など,設計および施工の各段階におい て詳細な検討や配慮が必要となる。本研究では,この種の設計・施工過程の簡略化を目的と して,外付けフレームを用いた線状陽極設置方法を開発した。そして,本陽極方式を適用し た電気防食システムの通電性状を実験的および数値解析的に検討した。その結果,本陽極方 式は,防食電流を広く分布させるための陽極材−鉄筋間距離が確保でき,従来の陽極方式と 同等の性能を有することが確認できた。

キーワード:電気防食,線状陽極,防食電流,分極試験,有限要素法

1. はじめに

1.1 本研究の背景

海水飛沫や凍結防止剤に起因する外来塩分や,

海砂の使用などに起因する内在塩分により,コ ンクリート構造物中の鋼材が腐食し,コンクリ ート構造物の耐力が低下する。この劣化現象は 塩害と呼ばれ,近年社会的に大きな問題となっ ている。このような現状を受け,各方面におい てさまざまな補修や防食対策工法が検討されて いる。これら工法のうち,電気防食工法は厳し い塩害環境下でも有効かつ抜本的な防食効果が 得られる方法として注目され,平成13年には設 計施工指針(案)1)が発刊されるに至っている。

ところで,コンクリート構造物に対する電気 防食工法は,その陽極材の形状により,面状陽 極方式,線状陽極方式,点状陽極方式に分類さ れる1)。このうち線状陽極方式は,施工後の死荷 重増加が小さいなどの長所を有する。その一方,

部材表面に溝を切削してそこに陽極を設置する ため,部材断面やかぶり厚さが極めて小さい構 造物に線状陽極方式を適用する場合,切削によ る部材への影響や陽極と防食対象鋼材との距離 などについて,設計および施工の各段階におい

て詳細な検討や配慮が必要となっている。

1.2 本研究の目的と構成

そこで本研究では,この種の設計・施工過程 の簡略化を目的として,外付フレームを用いた 線状陽極の設置方法(以下,外付線状陽極方式)

を開発した。そして,本方式を適用した電気防 食システムの通電性状を数値解析的および実験 的に検討した。

数値解析的な検討を実施するにあたっては,

既往の研究において構築した有限要素法による 方法を用い,鉄筋に流入する防食電流量の分布 を計算した。一方,実験的な検討では,NaClを あらかじめ混和させた鉄筋コンクリート供試体 に対して分極試験を実施した。

なお,本研究では,外付線状陽極方式の他に,

溝を切削してそこに陽極材を設置する従来の線 状陽極(以下,溝切線状陽極方式)および面状 陽極方式についても同様の検討を行い,これら を比較することで,外付線状陽極方式の性能を 確認することとした。

2. 外付線状陽極方式の概要

外付線状陽極方式で用いる陽極システムの断

*1 住友大阪セメント(株)  建材事業部  博(工)  (正会員)

*2 九州大学大学院  工学研究院材料工学部門  助教授  工博

*3 西日本旅客鉄道株式会社  鉄道本部  施設部  工修  (正会員)

(2)

面概略図を図−1に示す。また,外付フレームが コンクリート表面と接する部分(外付フレーム 底面)の概略を図−2に示す。さらに,本システ ムの設置工程を図−3に示す。

これらの図に示すように,本システムでは,

外付フレームをプラスチック釘によりコンクリ ート部材に固定し,その後,陽極材を外付フレ ーム内に設置する。そして,充填材を外付フレ ーム内に充填することにより,陽極材とコンク リート部材を電気的に一体化させる。なお,本 システムの設置例を写真−1に示す。

3. 検討対象供試体と実験および数値解析の概要 3.1 検討対象供試体と実験の概要

(1) 検討対象供試体の概要

供試体は,外付線状陽極方式,溝切線状陽極 方式,面状陽極方式の 3 種類である。供試体概 要を図−4,陽極設置位置を図−5に示す。

外付および溝切線状陽極方式では,陽極材を

長さ400mmの鉄筋に沿って配置した。面状陽極

方式では,陽極材を 2 枚に分割して配置し,そ れぞれについて電流分配材であるディストリビ ュータを接続した。

なお,これら 2 枚の面状陽極は電気的に絶縁 されるように設置した。線状陽極材および面状 陽極材はそれぞれチタンリボンメッシュおよび チタンメッシュを用いた。

供試体内部には打設時に鉛照合電極を 1 供試 体あたり 3 本埋め込んだ。これら照合電極にて 測定した鉄筋の自然電位を図−6に示す。

(2) 使用材料と配合

供試体作成に使用したコンクリートの水セメ ン ト 比 , 単 位 水 量 , 細 骨 材 率 は そ れ ぞ れ

W/C=60%,W=165kg/m3,s/a=44.8%であり,使

(1)  下地処理

(2)  外付フレーム設置用釘穴削孔

(3)  外付フレームの設置

※プラスチック釘により外付フレームを固定

(4)  陽極材を外付フレーム内に設置

(5)  充填材を外付フレーム内に充填

※充填材にはモルタルを使用

図−3  陽極システムの設置工程  図−2  外付フレーム底面の概略図 

断面 A 断面 B 

:防食電流供給用穴

:プラスチック釘用固定用穴 図−1  陽極システムの断面概略図

陽極材 充填材(モルタル)

外付フレーム コンクリート

プラスチック釘 鉄筋

防食 電流

鉄筋

【図−2 中断面 A】  【図−2 中断面 B】

26mm 

14mm 

写真−1  外付線状陽極方式の設置例  10mm  300mm

26mm 

(3)

   

用セメントは普通ポルトランドセメントである。

また,コンクリート練り混ぜ時に,内在塩分と

して5kg/m3の NaCl を添加した。さらに,鉄筋

はD19異形鉄筋を使用した。

(3) 打設および養生

  コンクリートの打設は,棒状バイブレータを 用いて振動を与えながら行った。打設終了後,

初期養生として打設面を湿ったウェスで覆い,

打設後約24時間で脱型を行った。なお,打設約 2時間後において,陽極設置面の目荒しを実施し た。その後,ブルーシートにて供試体を包み,

屋外にて約1ヶ月間の気中養生を行った。

この後,それぞれの供試体に外付線状陽極,

溝切線状陽極,面状陽極を設置し,再びブルー シートにて覆い,約 1 ヶ月間,屋外にて気中養 生を実施した。なお,溝切線状陽極の溝切深さ は5mmである。

(4) 通電方法と鉄筋電位の測定方法について 図−7に示すように,本研究で実施した通電方

法はA-type,B-type,C-typeの3種類である。

A-type は線状陽極方式のみを対象とし,線状

陽極1本の防食電流分配性状を確認する目的で 実施した。B-type は,陽極設置面端部から外側 の部分に配筋されている鉄筋への防食電流分配 性状を確認する目的で実施した。さらに C-type は,防食対象面に対して陽極を均等に配置した

時の分極性状を確認する目的で実施した。なお,

直流電源の負極と接続する排流点は,全供試体 とも図−4に示す位置とした。

以上の供試体および通電方法に対して,実験 的および数値解析的に陽極の通電性状について 検討を実施した。

鉄筋の電位は,コンクリート中に埋め込んだ 鉛照合電極を用いて,高入力抵抗の直流電圧計 の端子を鉛照合電極ケーブルと排流端子とに接 続することで測定した。なお,通電中の鉄筋電 位は通電を停止した直後の電位(インスタント オフ電位)である。

3.2 数値解析の概要

本研究では数値解析による検討を行うにあた り,既往の研究2)で構築した方法を用いた。

本方法で使用する支配方程式は,以下に示す

Laplace式である。

(

)

=0

σ

u       (1) 図−4  供試体概要(配筋図)

:鉛照合電極設置位置 800  100 150 150 100 150 150 

100 150  150 100  25

25  排流点 (mm)

照合電極 No.1 照合電極 No.3 照合電極 No.2

※結線にて全鉄筋の 電気的導通を確保

350 400 450 500 550 600

1 2 3

照合電極No.

自然電位 (mV vs 鉛照合電極) 外付線状陽極 溝切線状陽極 面状陽極

図−6  供試体中鉄筋の自然電位 図−5  陽極設置位置 

(mm) 

100 150 150 100 150 150  475 325 

【線状陽極方式】 【面状陽極方式】

:陽極材

:ディストリビュータ

※溝切線状陽極の溝深さは 5mm 

(4)

ここで,u:コンクリート中での内部電位,σ:

コンクリートの導電率である。

  また,境界条件となる陽極と鉄筋表面の電気 化学的な分極現象は,飽和水酸化カルシウム水 溶液中で計測した動分極曲線により実験的に決 定した。コンクリートの導電率は,コンクリー トの抵抗率を200k-Ohm・mmとして決定した。

さらに,各対象供試体の計算実施に際しては,

図−8に示すような2次元簡易モデルを用いた。

4. 実験および数値解析結果

  本章では,実験および数値解析結果をもとに,

各陽極の通電性状に関する検討を行った。また,

それに先立ち,線状陽極の接地抵抗1)をLCRメ ータにて測定した。

4.1 線状陽極の接地抵抗

図−9 に外付線状陽極方式および溝切線状陽極 方式の接地抵抗を示す。これを見ると,外付線 状陽極方式の接地抵抗が溝切線状陽極方式のそ れよりも大きいことがわかる。この原因は以下 の2点が考えられる。1点目は,外付線状陽極方 式の陽極材から鉄筋までの距離が,溝切線状陽 極方式のそれと比較して大きいことである。2点 目は,外付線状陽極方式の防食電流供給面積が,

外付フレームのために小さくなったことに起因

各陽極の接地抵抗 0

100 200 300 400 500

1 2 3 4 5

接地抵抗(Ohm)

外付線状陽極 溝切線状陽極

図−9  線状陽極の接地抵抗 

直流  電源 

+ −

【線状陽極方式】

B-type

直流 電源

+ −

【面状陽極方式】

直流  電源 

+ −

【線状陽極方式】

C-type 

直流  電源 

+ −

【面状陽極方式】

直流 電源

+ −

【線状陽極方式】

図−7  通電方法の種類 A-type 

陽極設置面端部 から外側の部分

外付線状陽極

鉄筋

陽極設置面

《外付点状陽極のケース》

23mm

図−8  数値解析に用いたモデル

※陽極設置面のモデル化状況

面状

外付線状 溝切線状

:陽極材

5mm

12mm 12mm 

(5)

するものと思われる。

4.2 線状陽極1本の通電性状(A-typeの検討)

図−10および図−11に通電A-typeの実験結果

(通電電流:1.0,2.0mA)および解析結果を示 す。

なお本研究では,解析結果の出力値として電 流密度比を用いた。ここで電流密度比とは,あ る鉄筋に流入する電流密度(vs鉄筋表面積)を,

基準となる鉄筋に流入する電流密度(vs 鉄筋表 面積)で除した値である。基準となる鉄筋は,

排流点から 250mm の位置にある鉄筋(図−4,

図−7参照)とした。

本研究で用いた解析方法において,この電流 密度比は通電する電流値によって変化しない。

これは,電流分布が供試体の幾何形状のみに依 存すると仮定したためである。

図−10および図−11を見ると,外付線状陽極 方式と溝切線状陽極方式の通電性状はほぼ同等 と判断できる。

4.3 陽極設置面端部から外側に配筋されている 鉄筋への通電性状(B-typeの検討)

図−12および図−13に通電B-typeの実験結果

(通電電流:6.0mA)および解析結果を示す。こ れらより,外付線状陽極方式の陽極端部から外 部での通電性状は,面状陽極方式のそれとほぼ 同等であると判断できる。

一方,外付線状陽極方式と溝切線状陽極方式 の実験結果(図−12)を見ると,外付線状陽極

0.0 0.4 0.8 1.2

-300 -150 0 150 300 450 600 基準点直下の鉄筋からの距離(mm)

電流密度比

外付線状陽極方式 溝切線状陽極方式 面状陽極方式

図−12  通電 B-type の実験結果(分極量) 図−13  通電 B-type の解析結果(電流密度比)

図−11  通電 A-type の解析結果(電流密度比)

図−10  通電 A-type の実験結果(分極量)

図−14  陽極材と鉄筋間の距離が電流密度比に 与える影響(通電 A-type の解析結果)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

-300 -150 0 150 300 450 600 基準点直下の鉄筋からの位置(mm)

電流密度比

25mm 44mm 64mm 陽極材と鉄筋間の距離

0 40 80 120

-300 -150 0 150 300 450 600 基準点直下の鉄筋からの距離(mm)

分極量(mV)

外付線状陽極 6.0mA 溝切線状陽極 6.0mA 面状陽極    6.0mA

0.0 0.4 0.8 1.2

-300 -150 0 150 300 450 600 基準点直下の鉄筋からの距離(mm)

電流密度比

外付線状陽極方式 溝切線状陽極方式

0 40 80 120

-300 -150 0 150 300 450 600 基準点直下の鉄筋からの距離(mm)

分極量(mV)

外付線状陽極 1.0mA 外付線状陽極 2.0mA 溝切線状陽極 1.0mA 溝切線状陽極 2.0mA

(6)

方式の方が溝切線状陽極方式よりも分極量が大 きく,電流の分配能力が高いことがわかる。こ の結果は,図−10 でも見られる傾向である。こ れは,外付線状陽極方式の方が溝切線状陽極方 式よりも陽極材と鉄筋間の距離が大きく,電流 を広く分配する能力を有したためと考えられる。

この考察を裏付ける結果として,図−14 を示 す。これは,陽極材と鉄筋間の距離をパラメー タとして実施した感度解析結果である。なお解 析対象は通電A-typeの溝切線状陽極供試体であ る。これを見ると,陽極材と鉄筋間の距離が大 きいほど,電流が広く分配されることがわかる。

外付線状陽極方式では,その構造上,溝切線状 陽極方式よりも陽極材と鉄筋間の距離を確保し やすい。このために,外付線状陽極方式におい て電流が広く分配されたものと思われる。従っ て,外付線状陽極方式は,かぶりが比較的小さ いコンクリートに対して有効な方式であると考 えられる。

なお,図−11および図−13の解析結果に上記 の結果が反映されなかったのは,外付線状陽極 方式および溝切線状陽極方式における陽極材と 鉄筋の距離の差が,実験供試体では 10mm 以上 であるのに対し,解析モデルでは5mmと小さか ったためと考えられる。

4.4 防食対象面積に一様に陽極を設置した時の 通電性状(C-typeの検討)

図−15に通電C-typeの実験結果を示す。この

実験では,分極試験を行った。これを見ると,

外付線状陽極方式の分極性状は他の方式と同等 であることが認められる。これは,陽極材が防 食対象鉄筋に対して適切に配置されたためと考 えられる。これより,外付線状陽極では,陽極 設置位置を適切に決定することで,従来の方式 と同等の通電性状が得られるものと考えられる。

6. まとめ

  本研究では,外付線状陽極方式を開発し,そ の通電性状を数値解析および実験により検討し た。以下に得られた知見をまとめる。

(1) 外付線状陽極方式では,陽極の接地抵抗が他 方式と比較して大きくなる。これは陽極材と 鉄筋間の距離が大きくなることに一因があ る。しかし一方で,本方式は防食電流を均一 に分配するために必要な陽極材と鉄筋間の 距離を確保しやすい。このため,本方式はか ぶりが比較的小さい部材に対する適用性が 高いと考えられる。 

(2) 外付線状陽極方式は,陽極設置位置を適切に 決定することで,従来の方式と同等の通電性 状が得られることが、実験的および数値解析 的に示された。 

謝辞

本研究遂行にあたり,五洋建設(株)内藤英晴 部長,小笠原哲也係長ならびにマサル工業(株)

から多大なご協力を頂きました。ここに謝意を 表します。

参考文献

1) 土木学会  コンクリート委員会  電気化学 的補修工法研究小委員会:電気化学的防食工 法  設計施工指針(案),コンクリートライ ブラリー107,(社)土木学会,2001

2) 増田正孝,李恩周,川俣孝治,皆川浩,荒瀬 圭介:コンクリート構造物の電気防食におけ るFEMによる防食性の評価検討,土木学会 第58回年次学術講演会,第V部門,V−055,

2003.10

図−15  通電 C-type の実験結果(分極試験)

0 50 100 150 200 250 300 350

0.1 1 10 100

電流密度(mA/m2)

分極量(mV)

外付線状陽極 溝切線状陽極 面状陽極

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