Form HJ (S→O)
アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨
沖縄における軍事基地の民生転換と内発的都市計画形成の可能性
学籍番号 4004S023-8 真喜屋美樹 主指導教員 山岡道男教授
Keywords : 内発的発展 , サステイナブル・シティ , 米軍基地 , 跡地利用 , 読谷村 , 那覇新都心 , 普天間飛行場
拙論では、沖縄における米軍基地の跡地利用を、内発的発展という 社会発展・変化の概念を用いて分析し、内発的発展による跡地利用が、
持続可能な発展のための地域再生となり、また自立する沖縄を形成す ると位置づけて、軍事基地の内発的都市計画形成による民生転換の可 能性を検証した。
1996 年 に 発 表 さ れ た SACO(Special Action Committee on
Okinawa:沖縄に関する特別行動委員会)と2006年に発表された米
軍再編による沖縄の米軍基地の返還計画が実行されると、嘉手納基地 より南にある 6つの基地が返還される。すると、沖縄県の人口の 8 割が集中し、産業の集積地でもある沖縄本島中南部都市圏に、1,000
~1,500haという大規模な基地跡地が出現する。この広大な空間をど のように活用するのかは、沖縄の地域開発の最重要課題である。
沖縄では、第2次世界大戦中・戦後の土地接収により、暮らしの中 から強制的に「生まれた土地」=「生まれた島」が奪われ、人々は、
そこで持続的に生活することを阻まれた。沖縄の基地問題の根源には、
土地問題がある。
拙論では、明治政府による琉球処分によって、日本という国家に組 み込まれたことによる本土化、また、復帰と同時にはじまり、本土並 みという開発目標を掲げた、沖縄振興開発計画(現沖縄振興計画)と いう画一的な外来型開発による本土化の過程は、沖縄の近代化の過程 であったと捉えなおす。すなわち、沖縄振興開発計画は、沖縄の本土 化という近代化政策であった。同計画は、社会インフラの整備がほぼ 完了した復帰から20年が経過した1992年度以降は、米軍基地を維 持することへの見返りとして財政を投下する米軍基地維持装置とし て機能する。基地とリンクする振興事業という近代化が、沖縄の植民 地化につながっている。
このことから、在沖米軍基地とは、日米によって沖縄の基本的人 権・生産と生活の場が収奪されている植民地空間であると捉える。し たがって、基地を返還させた後の土地を利用する基地跡地の利用とは、
脱基地化であるとともに脱植民地化への道筋となる。
従来の沖縄では、大規模な基地跡地は、専ら経済成長を優先する開 発用地として扱われたが、拙論では、跡地を沖縄の持続可能な発展の ための社会資本であると再定位した。そのうえで、跡地を利用するこ とは、第1に、平和空間を創出すること、第2に、生活の場・生産 力の基本を取り戻すこと、第3に、持続可能な自立する沖縄を実現す る場であるとした。
自立する沖縄とは、持続可能な発展を実現する沖縄となろう。拙論 では、その方途を、近代化論による単系発展ではなく、多系的発展と なる内発的発展論に求めた。
さらに、内発的都市計画形成を、環境・経済・社会の統合的な発展 を志向するサステイナブル・シティ(Sustainable City)の視角から 考察し、持続可能な地域再生として、自治による多系的な都市/地域 再生であるサステイナブル・シティ形成が検討されることを検証した。
[構成]
拙論の構成は、以下の通りである。
序章
第1章 都市再生と環境再生による海外軍事基地の民生転換 第2章 内発的発展を阻害する収奪の構造
第3章 沖縄県の基地行政と跡地利用推進の阻害要因
第4章 沖縄初の基地跡地利用の総合計画「国際都市形成構想」と 基地返還アクション・プログラム
第5章 米軍基地の跡地利用の検証 第6章 返還軍用地の内発的利用
第7章 内発的都市計画形成の可能性に向けて 終章
第1章では、サステイナブル・シティを実現している海外の2カ 所の経験から、環境による地域再生、住民参加による地域再生の特徴 を抽出し、沖縄へ適用し得るかを考察した。
第2章では、日米によって、軍事植民地化された経緯から、沖縄の 基地問題の根源である土地問題の経緯を、オリエンタリズムを援用し て捉え直した。
第3章では、基地の跡地利用の推進を阻む構造的な要因について分 析した。
第4章では、沖縄で初めて計画された基地返還アクション・プログ ラムと、基地跡地の利用を中核とする県土再編のマクロプランである 国際都市形成構想を分析した。同アクション・プログラムと同構想は、
脱基地の見地とその後のマクロプランを果敢に提示し、本土(日本政 府)による沖縄支配と日米安保体制を動揺させる意味合いを持ってい た。しかし、大田・稲嶺という2つの県政路線の対立の中で挫折した。
第5章では、那覇市と北谷町の跡地利用開発の事例を批判的に検証 した。那覇市の新都心型開発は、地権者合意の形成、自治体の行財政 負担の甚大さに代表される、都市部での跡地利用における多くの課題 を背負っていた。新都心型開発は、これまでの跡地利用が、跡地利用 推進のための政策が不在のまま、地権者と基地が所在する自治体任せ にされてきたことの帰結であった。他方、北谷町の商業型開発は、行 政と地権者の協働によって行われたが、新都心の開発後は、その経済 波及効果は急速に下降した。
第6章では、これまでの跡地利用のオルタナティブとなる独自の手 法をとった読谷村の取り組みを検証した。自治と文化に裏打ちされた 地域再生の試みは、サステイナブル・シティであったと位置づけられ た。
第7章では、これらの経験を、今後の基地跡地利用でどのように活 かすことができるのかを、普天間飛行場の返還を見越してはじまった 住民参加の仕組みづくりに着目し、その可能性を分析した。
拙論では、基地の跡地利用の具体的な検証から沖縄の内発的発展の 歴史とダイナミズムに沿った跡地利用コンセプトの進展をみた。その うえで、内発的都市計画形成はサステイナブル・シティとなり得ると 結論した。また、今後の沖縄における跡地利用を象徴するものとなる ことが想定される、普天間飛行場の跡地利用に向けた取り組みから、
「新しい公共」形成の萌芽をみいだし、サステイナブル・シティ形成 の可能性をみた。さらに、拙論が依って立つ内発的発展の視点は、ポ スト沖縄振興体制の沖縄の地域開発政策にも、インプリケーションを 与えるものとなることが確認された。
[主要参考文献]
(一次資料)
琉球政府行政主席官房情報課『軍用土地問題の経緯』琉球政府行政主 席官房、1959年。
地域振興整備公団『那覇新都心開発整備事業の概要』2001年。
(参考文献)
鶴見和子・川田侃『内発的発展論』東京大学出版会、1989年。
西川潤『人間のための経済学』岩波書店、2000年。
宮本憲一『環境経済学 新版』岩波書店、2007年。