Form HJ (S→O)
アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨
グローバル化社会における文化政策と国際文化交流の意義
-日韓文化政策の比較分析による文化の「発信力」 ・ 「対話力」に関する考察-
学籍番号 4006S3134 鄭榮蘭 E. 主指導教員 李鍾元教授
Keywords : 国際文化交流, 文化政策,日本文化開放, 日韓相互認識, 文化の対話力
本研究は、韓国と日本の文化政策と、文化が持つ海外発信力・対話 力とその社会的影響力を実証的に分析することにより、グローバル化 社会における国際文化交流の意義を考察することを目標とする。
本論では主に次の課題を中心に検証した。
第一に、韓国が 1948 年 8 月 15 日建国以来長年に亘り、なぜ政策と して日本の大衆文化を規制せざるを得なかったのか、また日本文化開 放政策の断行に移行した背景には、どのような要因があったのか、
第二に、文化の受け手(輸入国)だった韓国が、文化の送り手(輸 出国)に転じていく背景には何かあったのか、その過程における政府 の役割と政策を分析する。そして、韓国の「日本文化開放」と日本の
「韓国文化受容(韓流)」による双方向文化交流が、両国民の相互認 識にいかなる影響を及ぼしたかを考察する。
第三に、現在欧米を中心に発生している「ネオ・ジャポニスム」「第 二のジャポニスム」現象には、どのような背景と社会的影響力がある のか、また、なぜ現代の日本文化がさして大きな抵抗もなく西欧社会 に受け入れられているのか
第四に、先進世界の趨勢から遅れ気味ではあるが、1900 年代末~
2000 年代初頭から高まりを見せている日本の文化産業振興政策と、
文化外交政策への取り組みを検証し、その課題と今後の方向性を考察 する。
第五に、近年、文化帝国主義論、ソフト・パワー、国家ブランディ ング、パブリック・ディプロマシー論など、文化をめぐる様々な議論 が活発化している中、その議論に内包する政策課題を検討しつつ、文 化が持つ社会的影響力と役割を分析し、グローバル化社会における文 化交流の意義はどこにあるのかを論じる。
本研究では、上記の 5 点の課題を設定し、文化を巡る様々な議論に 内包する政策課題を論じつつ、韓国と日本の文化政策と文化が持つ発 信力とその社会的影響を実証的に検証する。そのため、日韓両国の文 化潮流の時系列分析を行なうことにより、文化潮流の特徴を時代的背 景・政治的背景・経済的背景の要因から考察し、日韓両国での文化の 海外発信力について文化政策・社会現象の両側面からの分析を試みる。
これにより、グローバル社会の中での、文化交流の意義を考察した。
本研究の章構成及び概要は以下の通りである。
序章
第1章 グローバリゼーションと文化が持つ社会的影響力 第2章 韓国における「日本文化開放」に至る軌跡と背景 第3章 金大中政権の文化政策と「日本文化開放」が韓国社会にも
たらした影響
第4章 金大中政権後の文化政策と韓国文化の海外展開 第5章 日本政府の文化政策と国際文化交流
終章
第 1 章では、グローバリゼーションの進展は、文化の受容をより容 易にすることにより、文化が持つ社会的影響力が相対的に増すという 結果をもたらし、ナイのソフト・パワー論など、文化と文化交流に関 する様々な議論が活発化しているが、論文の冒頭に当たり本章では、
まず、文化に対する種々の概念と論議を分析した。その後各議論にお ける日本文化の位置づけと、現在の日本政府の文化外交政策を、韓国 政府の政策をも対照しつつ検証した。そして、それらを踏まえた上で、
「グローバル化社会」という新たな時代において、文化が持つ海外発 信力・対話力と文化交流の社会的影響力(パワー)ついて考察し、次
章以降の論議に繋げた。
第2章では、韓国側が日本大衆文化への規制政策を採ってきたのに もかかわらず、なぜ開放政策の断行に移ったのか、という問いに対し て、金大中政権による「日本文化開放」に至る軌跡と背景を明らかに するため、「日本文化開放」以前の対日文化政策の政権別分析を行な い、「日本文化開放」前後の、メディアの論調や、韓国国会における
「日本文化開放論議」を会議録により分析し、日本文化開放に至る韓 国内の政治的・文化的・経済的背景と要因を検証した。
第3章では、金大中政権による「日本文化開放」の過程と同時に実 施された文化産業の育成・振興政策を、主に韓国文化コンテンツ振興 院(KOCCA)の振興政策の中の放送映像産業振興政策を中心とし て分析を行ない、その後、「日本文化開放」が韓国社会に及ぼした影 響を経済的・文化的要因別に分析した。
第4章では、「韓流」文化のアジアへの普及とその背景を踏まえつ つ、主に日本における韓国文化受容の背景・影響を明らかにするため、
金大中政権後の、盧武鉉政権・李明博政権の文化産業政策とその成果、
問題点を国家ブランド価値創出政策の観点から分析し、また、韓国に おける「日本文化開放」と日本での「韓国文化受容」による文化的要 因と、日韓両国間の政治的要因が、日韓関係においていかに作用した かを考察するため、日韓両新聞社による共同世論調査・日本内閣府に よる世論調査の資料を用いて分析した。またその後、両国の文化交流 が、相互認識にいかなる影響を及ぼしたのかを明らかにすることによ り、今後の日韓関係をも論じた。
第5章では、現在発生している「ネオ・ジャポニスム」の現象を、
日本製マンガ(MANGA)とアニメ(ANIME)に焦点をあて、
その特性と流行に至る背景や発信力について分析した。
[主要参考文献]
《一次資料》
文化(体育)観光部『文化政策白書』文化(体育)観光部、2001~2013 年。
放送(通信)委員会『放送産業実態調査報告書』放送(通信)委員会、
2004~2013 年。
国家ブランド委員会『国家ブランド向上のための法制改善方案研究』
国家ブランド委員会、2011 年。
経済産業省商務情報政策局監修『デジタルコンテンツ白書』財団法人 デジタルコンテンツ協会、2007~2012 年。
《主要引用文献》
芝崎厚士「田中耕太郎の国際文化論:「文化的帝国主義」批判の思想 と行動」『国際関係論研究』第13号、国際関係論研究会、1999 年。
戦後日本国際文化交流研究会(著)平野健一郎(監修)『戦後日本の 国際文化交流』勁草書房、2005 年、
林夏生「大衆文化交流から見る現代日韓関係」小此木政夫編『戦後日 韓関係の展開:日韓共同研究叢書 14』慶應義塾大学出版会、2005 年。
岩渕功一『文化の対話力 -ソフト・パワーとブランド・ナショナリ ズムを越えて』日本経済新聞出版社 2007 年。
出口弘他編『コンテンツ産業論 混沌と伝播の日本型モデル』東京大 学出版会、2009 年。