Title 中学生の食生活の実態と骨粗鬆症に関する知識との関連について : 附属 札幌小学校での授業実践の検証を通して
Author(s) 佐々木, 貴子; 須合, 幸司; 大橋, 瑠実
Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 72(1): 309‑322
Issue Date 2021‑08
URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/12036
Rights
中学生の食生活の実態と骨粗鬆症に関する知識との関連について
―附属札幌小学校での授業実践の検証を通して―
佐々木貴子・須合 幸司*・大橋 瑠実
北海道教育大学札幌校家庭科教育研究室
*北海道教育大学附属札幌小学校
RelationshipbetweentheUsualEatingStyleand OsteoporosisinJuniorHighSchoolStudents
―BasedonSeminarsinSapporoElementarySchool―
SASAKITakako,SUGOKouji*andOHASHIRumi
DepartmentofSapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation
*SapporoElementarySchoolaffiliatedtotheHokkaidoUniversityofEducation
概 要
近年,患者数が増加傾向にある「骨粗鬆症」は,老年期に始まるものではなく,若年期の栄 養・運動などの日常生活にその基礎があり,成長期に骨量を十分に増加させて高い最大骨量を 確保することが重要とされる。つまり,成長期にいかに良質な骨をつくるかが予防のポイント となる。
本研究では,骨の量を高められる時期が12歳~18歳であることを踏まえ,小学6年生を対象 に骨に関する授業を実践し,この授業を受けた対象者が2年後にどれくらいの知識を有し,日 常の生活行動に活かしているかを質問紙調査と食物摂取頻度調査を基に明らかにした。
これらの結果から,時間経過後も知識は有しているが,それが実際の食生活や運動などの行 動には結びついていないという実態が分かった。特に,食物摂取頻度調査の結果から,カルシ ウムの摂取量は食事摂取基準値の半分にも満たない状況が明らかになり,さらなる食事や生活 習慣の改善に向けた取り組みが必要と考える。
1.研究の背景と本研究の目的
近年,「骨粗鬆症」という病名を耳にすること
が多くなってきたが,わが国の骨粗鬆症の患者数 は高齢化に伴い年々増加しつつあり,現時点では 1,300万人と推測されている1)。WHO(世界保健
機構)が本症を疾患として正式に認知したのは 1994年のことであり,骨粗鬆症は「低骨量と骨組 織の微細構造の異常を特徴とし,骨の脆弱性が増 大し,骨折の危険性が増大する疾患」と定義され ている。しかし,いまだに一般の医師の中には,
骨粗鬆症は単なる「骨の老化現象」で「疾患」で はないため,予防も治療も不必要と考えている人 が少なからずいるとの指摘1)もある。
骨粗鬆症の予防において最も重要なことは,成 長期に骨の量(骨量)を十分に増大させて高い最 大骨量を確保することであるとされる1・2)。骨量 は学童期から思春期にかけて著しく増大し,18歳 前後で最大骨量(PeakBoneMass)を迎えるこ とから,成長期である小中学生の頃に骨の材料と なるカルシウムやビタミンD,ビタミンK,マグ ネシウムなどの栄養素を食事から十分に摂取する ことや,運動によって骨を刺激することを理解さ せることは重要である3)。
しかし,骨粗鬆症は高齢になってから発症する ことが多いためか,40歳代以上の人々の骨粗鬆症 に対する認知度は高いという報告4)はあるもの の,若年層を対象とした認知度に関する研究は見 当たらなかった。
鈴山ら5)は,若年時からの骨密度の充実が骨粗 鬆症予防の最良の一つであるならば,小・中・高 等学校の教育において,若年時から骨の成長,充 実に努力することが将来の自分の健康に寄与する ことをしっかり認識させ,毎日の食生活において 具体化し,継続して実践していく態度,食習慣を 育てることが社会的に要請されているとし,骨粗 鬆症予防という焦点を明確にした内容を高校家庭 科へ導入することを提言した。平成18年度文部科 学省検定済高等学校用教科書「新家庭総合」6) や 平成24年度検定済高等学校用教科書「家庭総合」7)
には,骨粗鬆症という文言や年齢による骨量変化 を示す図や骨量維持に必要なカルシウム摂取等に 関する記述がみられた。しかし,平成27年検定済 中学校技術・家庭科用(家庭分野)8・9)の教科書 には,カルシウムが骨や歯をつくるもとであるこ とや不足することのリスク,運動能力を高めるこ
との必要性や骨の密度が下がると骨折しやすくな る等の記述は見られたものの,骨粗鬆症という病 名の記述はみられなかった。
一方,楠ら10)や中岡ら11)は,小学校高学年(5,
6年生)の調査結果を基に,骨粗鬆症予防のため には学校における骨量測定及びその事前・事後の 食育支援や運動に関する健康教育が重要であり,
漠然とした「食に関する知識」ではなく「実践に つながる知識」を習得する機会を設け,その上で 行動変容が起こることを想定し目標設定すること が必要であると述べている。特に,中岡らの研究 では,栄養教諭が果たした食育支援の役割は大き かった。
平成17年4月以降,学校における食に関する指 導は栄養教諭が担えることになり,学級活動の「食 育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食生活の 形成」を受けて,多くの学校で様々な授業実践が 行われている。骨粗鬆症に関しては,「骨の材料 になるカルシウムなどの栄養について」や「日頃 の食事や食生活におけるカルシウムチェック」な どの内容が多く扱われていた12~14)が,小学校で の実践は少なかった。また,小学校の食育指導で 身に付けた「骨粗鬆症」に関する知識は,その後 どれくらい定着しているものか,また,その知識 を基に適切な生活習慣を送ることができているの か,経年変化をみた先行研究は見当たらなかった。
そこで本研究は,骨粗鬆症の予防において骨量 を高められる時期が12歳~18歳であることを踏ま え,小学6年生を対象に「骨に関する授業」を実 践した。その上で,この授業を受けた対象者は時 間経過後も知識を有し,それが日常の生活行動に 活かされているものか,その実態を把握すること を目的とした。ここで得られた知見は,子どもた ちのより良い食生活や生活習慣を身に付けさせる ための一助となると考える。
2.研究方法
⑴ 小学校家庭科,保健,理科の学習指導要領と 教科書の分析
骨粗鬆症の予防には,食事や運動,日光浴や睡 眠などの適切な生活習慣を形成することが必要で ある。これらの内容が関連する教科としては,「家 庭科」「体育(保健)」「理科」が挙げられる。そ こで,小学校「家庭科」「体育(保健)」「理科」
の教科書の記述内容を分析・検討することとした。
対象は,北海道・札幌市で採択されている「家 庭科」の教科書(T社,K社)15・16),「体育(保健)」
の教科書(T社,K社)17~20),「理科」の教科書(T 社,K社)21~28)とした。なお,これらの教科書は,
平成29年告示の小学校学習指導要領29~31)に準拠 したものであることから,それぞれの小学校学習 指導要領(平成29年告示)解説での位置づけも確 認した。
方法は,「骨」,「骨密度」,「骨粗鬆症」,「骨折」,
「カルシウム」,「たんぱく質」,「ビタミンD」,「ビ タミンK」,「運動」,「日光浴」,「生活習慣」,「睡 眠」,「生活習慣病」など13個のキーワードを設定 し,これらのキーワードが本文や写真等にどのよ うに記述されているかを検討した。
⑵ 附属札幌小学校(以下,S小学校という)に おける「骨に関する授業」の検討
本研究において,食育の授業の一環として「骨 に関する授業」を実践したが,授業者は著者の一 人であるS小学校栄養教諭の須合幸司である。
須合は,2018年11月~12月にかけて,6年生67 名(男子31名,女子36名)を対象に,「コツコツチャ レンジ」(全2時間)の授業を計画し,実践した。
この授業の学習指導案は表1,2に示す。
この授業については,学習指導案,逐語記録,
授業参観者の意見や須合への聞き取り調査等を基 に,指導方法や学習内容の検討を行った。
⑶ 質問紙調査・食物摂取頻度調査
S小学校で「骨に関する授業」を受けた児童の
知識の定着と生活習慣の実態を把握するために,
S小学校の児童の大部分が進学した附属札幌中学 校(以下,S中学校という)の2年生96名(男子 48名,女子48名)を対象に,2020年12月に家庭科 教員の協力を得て,自記式質問紙調査を行った。
質問紙は記入後,ただちに回収してもらった(有 効回収率100%)。なお,有意差の分析にはχ2検 定を用いた。
また,同時期に小学校で実施した食物摂取頻度 調査と同様の調査も実施し,食生活の実態を比較 検討した。そのため,本調査は記名式で行ったが,
個人情報が漏洩しないように十分に配慮した。
3.結果および考察
⑴ 教科書の分析結果
①「家庭科」の教科書について
家庭科では,小学校学習指導要(平成29年告示)
領解説・家庭編のB衣食住の生活⑴「食事の役割」
アと⑶「栄養を考えた食事」アアイに関連すると 判断した。B衣食住の生活⑴「食事の役割」アは,
食事の役割と食事の大切さ,日常の食事の仕方に ついて理解することとある。この内容に関しては,
2社15・16)の教科書ともに「食事は健康を保ち,
体の成長や活動の基になること」という記述が あった。しかし,骨の役割や骨粗鬆症の予防と食 事との関わりについての記述は見られなかった。
⑶「栄養を考えた食事」アアは体に必要な栄養 素の種類と働きについて,イは食品の栄養的な特 徴と組合わせを理解することになっている。教科 書の記述には,「栄養素は人が生命を維持したり,
活動したり,さらに成長したりするために必要な 成分であり,食品に含まれる5大栄養素は,相互 に関連を持ちながら健康の保持や成長のために役 立っている」が見られた。
栄養素の一つであるカルシウムの記述について は,2社ともに「無機質の一つであり,筋肉や骨・
歯などの体をつくる働きがある」,「体の調子を整 える働きもある」という記述があった。カルシウ ムを多く含む食品の例として,牛乳・乳製品・小
表1.「コツコツチャレンジ」学習指導案(1時間目)
最近、本校で骨折する人が増えきている実態を共有し、骨そのものについて知っている情報を引き出す。
その後、骨密度を測定する機械(骨ウェーブ/株式会社メディケア)を紹介し、休み時間を活用して全員の 骨密度を測定する。この機械では、骨密度の高さによってA~Eの5段階で表される。子どもは、自分自 身の骨密度の結果を知った状態で、1時間目の学習に参加する。
表
表1 1. .「 「コ コツ ツコ コツ ツチ チャ ャレ レン ンジ ジ」 」学 学習 習指 指導 導案 案( (1 1時 時間 間目 目) )
目標:骨密度とカルシウム摂取量の関係性を学び、骨密度を高める食生活に興味をもつ。
学習活動と子どもの表れ 教師の手立て
○骨密度の高い骨と低い骨の断面写真と測定した骨密度の結果から、現 在の自身の骨の状況を想像する。
○年齢と骨密度との関係から骨密度を高めることができる期間について 理解する。
○1日に摂りたいカルシウムの摂取量を知り、給食便りを基にカルシウ ムの多い食品を探る活動を行う。
〇骨密度の断面写真と自分の 骨密度(A~E)から現在 の骨の状況を想像させる。
○栄養教諭から骨密度が高ま りやすい時期やカルシウム の働き、骨密度を高めるメ リットを伝える。
〇栄養教諭から6年生で必要 なカルシウム摂取量を伝え る。また、材料毎にカルシ ウム量が分かるようにした 給食便りを渡すことで、食 事内容に目を向けさせる。
〇このタイミングで、食物摂 取頻度調査を行い、普段の食 生活で摂れるカルシウムの量 を具体的な数値で分かるよう にする。この結果を2時間目 に使用できるようにする。
1
1. .本 本時 時に に入 入る る前 前の の準 準備 備
2
2. .本 本時 時の の展 展開 開( (1 1/ /2 2) )
骨密度を高めることが大切なことが分かったよ。そのためには、自分の食 生活やカルシウムの多い食品を調べなければならないな。
自分のカルシウム量は、足りているのかな?
・普段食べている食品を書き出して みよう。
・牛乳がすごい!これが無いと、カル シウムがなかなかとれないね。
・骨ごと食べられる魚もカルシウム が多いよ。
・自分はBだったから、骨密度もし っかり詰まっていると思う。
・自分はDだったから、スカスカかもし れない。骨密度アップさせたいな。
・豆腐も結構多いね。だから、
豆腐料理が出るんだね。
大人になると少しずつ 下がるんだね。
これからの6年間が大切 なんだ。
18歳まで!?
・ ぎ っ し り つ ま っ て いるね。
・ こ っ ち は ス カ ス カ だね。
これいじょう減ると 骨折しやすくなんだ!
骨
骨をを作作るる際際にに 体
体内内にに起起ここるるメメリリッットト
・筋力アップ
・記憶力アップ
・免疫力アップ
受験生の僕たちに必要 な力だね。
骨を強くする以外も 意味があるんだ!
・家でも調べてみよう。
・牛乳が嫌いだから、全然足りてい ないと思う。
・小松菜にもたくさん入って いるね。
・ししゃもをよく食べるから、自分 は足りていると思うよ。
表2.「コツコツチャレンジ」学習指導案(2時間目)
目標:骨密度とカルシウム摂取量の関係性を俯瞰的に捉える活動を通して、骨密度を高める要素に気付い たり、生活記録と目標を結び付けることで自分の生活を再度見つめ直したりすることができる。
学習活動と子どもの表れ 教師の手立て
○自分の普段のカルシウムの摂取状況を確認し、自分の骨密度評価とカ ルシウム摂取状況を基にネームカードを位置付ける。
○学校医から伝えられた、骨密度を高める条件について知る。
○自分の1日の生活記録表と骨密度を高める目標とを見比べる。
○食事調査の結果を配り、子 どもが自分のカルシウム摂 取状況を判断する材料にす る。
○具体的に自分ができる目標 を設定し、1週間チャレン ジすることを書かせる。
1
1. .本 本時 時に にお おけ ける る“ “自 自覚 覚” ”す する るた ため めの の教 教師 師の の手 手立 立て て
2
2. .本 本時 時の の展 展開 開( (2 2/ /2 2) )
【本時までに】骨密度が高くなることのメリット(骨折予防、筋力・
記憶力・免疫力の向上)やカルシウムの多い食材について学習を行っ ている。また、学校医からのアドバイスによって、骨密度を高めるタ イムリミットが12歳~18歳という事実を確認している。
骨密度を高めるためには、自分の生活を見直さなければいけないことが分 かった。この方法なら自分の生活に取り入れられそうだ。
どうして、骨密度とカルシウム量が一致しないのだろう?
内容を自覚するための 手立て
◇自分の骨密度(A~E)と カルシウム摂取量(青・
黄・赤)を基に、それら の関係について視覚的に 捉え、カルシウム以外の 要素にも気付くようにす る。
本時における自覚とは、クラス全員の骨密度とカルシウムの摂取状況の関係を視覚的に捉えたり、自分 の1日の生活記録表と見比べたりする中で、骨密度に関係している要素(食事・運動・日光など)と自分 の生活に足りない要素に気付くことだと考える。そこで、初めに骨密度評価とカルシウム摂取状況を基に ネームカードを位置付けることで、一度全体を俯瞰して考える場を設ける。そうすることで、カルシウム 摂取が多くても必ずしも評価がよくないという事実に気付いたり、他の要素を知りたくなったりすると考 えた。また、学校医から示された目標と自分の生活記録表を見比べることで、自分の生活を振り返り、再 度自覚的に捉えられるようになるだろう。
・中休みだけでも、体育館に行って遊ぼうか な。それだけでも、15分近く運動できるな。
日 日光光浴浴
・給食の牛乳だけでも、一口飲もうかな。
食 食事事面面
・外に出るだけなら、自分でもで きるかな。
運
運動動面面 睡睡眠眠面面
・自分はどれくらいカルシウムが取 れているんだろう。
・自分の骨密度は、Bだからカルシウム がいっぱい取れているはずだ。
・自分は、寝る時間が課題だ な。15分なら早く寝れそう。
自分の骨密度を高めるためにはどうすればいいんだろう?
良い(青) もう少し(黄・赤)
と て も 良
い
A
良
い
B
も う 少
し
C
ピ ン
チ
D
骨 密 度
カルシウム
ネーム
ネームc
ネーム ネーム
ネーム ネーム ネーム
ネーム ネーム
ネーム ネーム
ネーム ネーム
ネーム ネーム
ネーム ネーム
ネーム ネー ム
ネーム ネーム ネー ム ネーム
ネー ム
ネーム ネーム
食事以外のこ とが関係?
自分はカルシウム 不足が原因かも。
僕はたくさん運 動しているから Bなのかな?
牛乳や豆腐を食べ ているからね。
牛乳をたくさん飲んでいる のになぜCなんだろう?
他の栄養も関係し ているのかな?。
・やっぱり運動が大切なんだ。
自分は0分だ。
・最近は、寝る時間が遅くなって いるな。
内容を自覚するための 手立て
◇学校医から示された目標 と自分の1日の生活記録 表を見比べる時間を設け ることで、自分の生活を 見直すきっかけにする。
カルシウムの目標 日光浴の目標
男子1,000㎎ 女子800㎎ 夏30分:冬1時間
運動時間の目標 睡眠時間の目標
1日 30分以上 1日7時間半~8時間
魚・海藻などが挙げられていた。また,K社16)
の教科書には,「牛乳や小魚を食べると骨が丈夫 になって,背が伸びる」の記述が見られた。
しかし,いずれの教科書にも12~18歳までに十 分なカルシウムを摂取することの重要性を示す記 述は見られなかった。
一方,ビタミンについては2社ともに「体の調 子を整える働きがある」という記述は見られたが,
ビタミンの分類別の特徴がわかる記述はなかった。
小学校学習指導要領解説(平成29年告示)29)に は食品の栄養的な特徴が分かり,料理や食品を組 み合わせてとる必要があることを理解すること」
とあるが,いずれの教科書にも「ビタミンDはカ ルシウムと組み合わせて摂取することで,骨への カルシウムの吸着を助ける」という記述は見られ なかった。また,各栄養素の摂取基準や摂取時期 についての記述も見られなかった。
②「体育科(保健)」の教科書について
体育科では,小学校学習指導要領(平成29年告 示)解説体育編30)第3学年及び第4学年 G保 健の⑴「健康な生活」と⑵「体の発育・発達」,
第5学年及び第6学年 G保健の⑶「病気の予防」
に関連すると判断した。
第3学年及び第4学年のG保健⑴「健康な生活」
については,2社17~20)の教科書ともに「健康の 保持増進には,運動,食事,休養,睡眠などの1 日の生活の仕方が深くかかわっていること」,「規 則正しい生活の継続によって生活リズムを作るこ とができること」などの記述が見られた。
⑵「体の発育・発達」については,2社ともに
「よりよい発育のためには,適切な運動,多くの 種類の食品をバランスよくとる食事,十分な休 養・睡眠が毎日の生活に必要であること」が扱わ れていた。運動の効果としては,「骨や筋肉が太 くじょうぶになる」との記述があり,発展として 運動量の目安についての記述も見られた。また,
健康な骨とスカスカな骨の写真を示し,運動不足 やカルシウム不足によって骨がスカスカになって しまうことについての記述も見られた。しかし,
「骨粗鬆症」や「骨密度」などの記述はなく,対 策についても触れられてはいなかった。
食事とのかかわりについては,カルシウムが骨 や歯をつくるもとになること,ビタミンが体の調 子を整えることが示されていた。しかし,いずれ の教科書にもビタミンの分類はされておらず,「ビ タミンD」の記述も見られなかった。
睡眠については,「筋肉や骨が作られる」との 記述が見られた。また,K社の教科書17)には,「成 長ホルモンの分泌には適切な睡眠が必要である」
との記述が見られた。しかし,成長ホルモンと骨 との関係や睡眠時間の目安についての記述は見ら れなかった。
第5学年及び第6学年⑶「病気の予防」では,
生活の仕方がかかわる病気を「生活習慣病」とい い,その予防のためには健康な生活習慣を身につ ける必要があることが記述されていた。また,生 活習慣病の例としては,がん,脳卒中,心臓病,
高血圧症,糖尿病,歯周病の病名が挙げられてい たが,「骨粗鬆症」の記述はなかった。
しかし,運動不足が原因となる生活習慣病が多 く,子どもの運動不足が問題になっていることか ら「今のうちから健康によい生活習慣を身に付け る」という記述は見られ,生活習慣病を予防する ための運動としては,ウォーキングや水泳などが 挙げられていた。
③「理科」の教科書について
理科は,小学校学習指導要領(平成29年度示)
解説理科編31) 第4学年「B生命・地球」⑴「人 の体のつくりと運動」と関連すると判断し,この 内容を分析・検討した。
「B生命・地球」⑴「人の体のつくりと運動」
では,「体の中にはかたい骨があること」や「骨 は体を支えたり,体(内臓)を守ったりする大切 な役割をしていること」,また「骨と骨のつなぎ 目で,体の曲がるところを関節ということ」など の記述が見られた。また,レントゲン写真や人の 骨の模式図も示されていた。
理科では骨の役割として体を支え,内臓を守る
という内容は扱われるが,その他の骨の役割や,
骨の構造に関する記述は見られなかった。
以上,「家庭科」「体育(保健)」「理科」の教科 書分析を通して,設定した13個のキーワードの記 述のされ方には違いがあることが分かった。各教 科の特徴は,以下の通りである。
①「家庭科」では食に関する学習において,カ ルシウムと骨との関わりについて扱われてい る。しかし,骨粗鬆症の予防に必要とされる ビタミンD,ビタミンKについての記述はな く,各栄養素の摂取基準も示されていない。
②「体育」では主に3~6学年の保健の内容で,
体の成長・病気と生活習慣との関わりについ て扱われている。特に,運動については骨を 丈夫にすること,健康のためには日頃から適 切な運動習慣を身に付ける必要があることな どの記述がみられる。
③「理科」では,主に骨の役割や形について扱 われており,骨の役割については,骨の健康 保持の重要性を考える上で必要な内容である。
このように小学校の教科書では「骨粗鬆症」と いう病名の記述はなかった。しかし,骨や筋肉を 太くじょうぶにするために必要な食事や適切な運 動の必要性や運動不足が原因となる「生活習慣病」
の記述があることを踏まえると,「骨粗鬆症」と いう病名は提示してもよいのではないかと考える。
一方,各教科での記述内容の違いは,教科に求 められている目標や学習内容に違いがあることか ら,当然のように考えられる。ただ,小学校では すべての教科を学級担任が指導することから,担 任が教科のつながりを意識し,学習計画を立てる ことが必要となる。「骨に関する授業」についても,
まずは教員が骨と栄養の関係を理解し,子どもた ちにその知識と適切な生活習慣の形成を身に付け させていくことの重要性を認識しなければならな い。つまり,教科間の連携や給食指導を含めた教 育活動が重要となるが,そのためには,日頃から 教諭・栄養教諭・養護教諭を含めた学校全体での 食育の指導体制とその取り組みの充実が求められ
る。
⑵ S小学校における「骨に関する授業」の検討 結果
①「骨に関する授業」の設定理由について 須合は,なぜ,「骨に関する授業(コツコツチャ レンジ)」を設定したのか。その理由を聞き取り 調査で,次のように述べている。
この6年生が5年生の時に,食物摂取頻度 調査を実施したのですが,カルシウム不足が 顕著でした。そこで,カルシウムを摂取する ことの重要性を授業で教えたかったのです が,子どもたち自身,自分の骨を見たことも ないし,骨を強くすることのメリットもあま り感じられないから,実感を伴う授業をする のは難しいなぁと考えていました。そのよう な時,NHKのテレビで骨を作る時に記憶力 をアップさせるような物質が出ていたとか,
免疫力を高める物質がどうも作る時に出てい るみたいだということを知りました。12月頃 は受験も控えており,子どもたちは勉強を頑 張りたいという時期なので,風邪なんて引い ていられないと気合が入っているんです。そ れで,骨を作るということは「記憶力アップ」
や「免疫力アップ」にも関連するから,この 時期に骨の勉強をすることはグッドタイミン グではないかと思いました。
須合は,学校内で児童の骨折の発生率が増加傾 向にあることを踏まえ,食物摂取頻度調査を実施 した結果,児童の約半数がカルシウム不足である 実態を掴んだ。さらに,この児童たちは受験期に なると外で遊ぶことも少なくなり,身体を動かす 頻度が減ってくることが懸念された。
一方,近年,テレビのコマーシャルなどで「骨 粗鬆症」という言葉を耳にし,骨粗鬆症が高齢者 の病気であるというような表現に疑問を抱いてい た。それは,骨粗鬆症の予防には,成人期に至る までに骨密度を高めておくことが重要であり,骨 密度を高めるタイムリミットは12~18歳で,この
時期の過ごし方が将来の健康状態に大きな影響を 与えるからである。
これらのことを踏まえ,須合は12歳となる小学 校6年生に骨の健康についての意識を高める授業 が必要であると考えたのである。ただ,授業で子 どもたちに「骨を丈夫にするためには,カルシウ ムの摂取が必要だよ」と訴えたところで,なかな か受け入れてもらえないのではないかと考えてい た時に,テレビ番組のコメントからヒントを得て いる。それが,カルシウムを摂取することのメリッ トとして,「骨折予防」や「筋力アップ」だけで はなく,「記憶力アップ」や「免疫力アップ」と いう言葉を用いて,子どもたちにカルシウム摂取 の重要性を促したことである。
また,骨粗鬆症は高齢者の病気であるというイ メージが強く,ともすると他人事になってしまい がちであるが,このような「記憶力アップ」や「免 疫力アップ」という言葉を使うことによって,子 どもたちが自分の事として捉えることができるの ではないかと考えたことも分かった。
②骨密度の測定について
須合は,児童に「骨」に関心を持ってもらうた めに,学校内で骨折する人が増えてきている実態 を知らせた上で,子どもたちが自分の骨の健康状 態を知ることができる測定装置の紹介をし,骨密 度の測定を実施した。測定に使用した装置は「骨 ウェーブ」(株式会社メディケア)であり,手首 で測定できる機器である。計測時間は15秒ほどで あり,結果はA(最も良い)~E(生活を改める 必要がある)の5段階で表示される。なお,手首 の測定が小学生に適しているか否かについては,
学校医に相談し,問題がないことを確認している。
休み時間を利用して全員の骨密度を測定した結 果,A:1名,B:44名,C:22名,D:0名,
E:0名であった。
自分では自身の骨の状態を確認することはでき ないが,この授業では骨密度の高い骨と低い骨の 断面の写真を子どもたちに見せることによって,
自身の骨の状態を想像させることができたと考え
る。また,骨密度がピークとなる18歳までの間に 骨密度を高めることが重要であり,子どもたちに は今からの6年間がその期間に当たることを理解 させることができたのではないかと考える。
③食物摂取頻度調査について
1時間目の授業では骨密度を上げるためには食 事が大切であること,特にカルシウムの多い食品 を摂ることを促している。しかし,実際に子ども たちが日常,カルシウムをどれだけ摂取している かは分からない。そこで,食物摂取頻度調査を実 施し,その結果を具体的な数値として提示した。
このように自身のカルシウム摂取量を数値で確 認することにより,児童自身が食生活を振り返り,
課題を把握することにもつながったと考えられる。
④骨密度(A~E)とカルシウム摂取量の関係に ついて
2時間目の学習指導案に示されているように,
児童に骨密度(A~E)とカルシウム量(良い,
もう少し)の関係性を可視化させるためにマトリ クス表を用い,当てはまる欄にネームカードを貼 らせている。このマトリクス表を用いたことによ り,子どもたちにカルシウム摂取量が十分であっ ても,骨密度がC判定なのはなぜかという疑問を 持たせたり,骨密度を高める要因はカルシウム摂 取以外にもあるのではないかということに気付か せたりすることができた。これらの気付きを促す ためには,このマトリクス表の効果が大きかった とする授業参観者からの意見もあった。
⑤骨密度を高めるための条件
須合は,子どもたちの疑問解決のために学校医 に依頼し,骨密度を高めるための条件として食事 や運動はもちろんのこと,日光浴や睡眠を十分に とることも重要であることを説明してもらってい る。このことは適材適所の人材活用として,効果 的であったと考える。
授業内では児童から「バスに乗っている間に睡 眠をとっている」という発言があったが,成長ホ
317 ルモン分泌のゴールデンタイムは22時~2時であ
る。したがって,「睡眠は一日7時間半から8時間」
と時間の説明をするだけではなく,「夜の22時~
2時を含む連続した睡眠」の必要性も説明すると よかったのではないかと思われた。
以上のことから,この授業実践は,子どもたち の日常生活の現状として,骨折者が増加傾向にあ ることに着目し,自分の目では見ることのできな い「骨」について興味・関心を持たせ,「骨」に 関する知識を得ることにより,自分の食生活や生 活習慣の改善につなげていこうとする態度を養う ことができる。さらに,この生活習慣は,生涯に わたってよりよく生きてていくことにつながるこ とも教えられ,教材としての価値は大きい。
また,授業の中で骨量測定装置を使った骨密度 の測定や食事調査などを行っているが,これは中 岡ら11)の研究でも「実践につながる知識」を習 得する機会であると推奨しており,本研究におい ても同様のことが言える。
このように小学校6年生を対象にした「骨に関 する授業」実践は有効であったと考えられる。
⑶ 質問紙調査の結果
調査対象者S中学校2年生の属性は,表3に示 す。
表3.調査対象の属性
出身小学校 S小 55 S小以外 41 性別 男子 48(26) 女子 48(29)
部活動 運動系 文科系
39(23) 13(7) スポーツクラブ 所属あり 所属なし
26(18) 67(36)
骨折経験 あり なし
34(20) 62(35) 表3.調査対象の属性
単位:人 ( )内は、S小出身者数
①骨に関する学習について
「小学校の時に,骨に関する学習をした記憶が あ る か 」 に つ い て 尋 ね た 結 果,95名 中77名
(81.1%)が「ある」と回答した。そのうち,S
小学校出身者は55名であり,全員が学習した記憶 がある回答していた。そこで,学習内容①~⑦で,
覚えている内容を選択してもらった結果を表4に 示す。
表4.記憶にある学習内容(複数回答)
22
時~2時を含む連続した睡眠」の必要性も説明1
するとよかったのではないかと思われた。
2
以上のことから,この授業実践は,子どもたち
3
の日常生活の現状として,骨折者が増加傾向にあ
4
ることに着目し,自分の目では見ることのできな
5
い「骨」について興味・関心を持たせ,「骨」に
6
関する知識を得ることにより,自分の食生活や生
7
活習慣の改善につなげていこうとする態度を養う
8
ことができる。さらに,この生活習慣は,生涯に
9
わたってよりよく生きてていくことにつながるこ
10
とも教えられ,教材としての価値は大きい。。
11
また,授業の中で骨量測定装置を使った骨密度
12
の測定や食事調査などを行っているが,これは中
13
岡ら11)の研究でも「実践につながる知識」を習得
14
する機会であると推奨しており,本研究において
15
も同様のことが言える。
16
このように小学校
6
年生を対象にした「骨に関17
する授業」実践は有効であったと考えられる。
18 19
(3) 質問紙調査の結果
20
21
調査対象者の属性は,表3に示す。
22 23
24 25
①骨に関する学習について
26
「小学校の時に,骨に関する学習をした記憶が
27
あるか」について尋ねた結果,
95
名中77
名(81.1
%) 28
が「ある」と回答した。そのうち,
S
小学校出身29
者は
55
名であり,全員が学習した記憶がある回30
答していた。そこで,学習内容①~⑦で,覚えて
31
いる内容を選択してもらった結果を表4に示す。
32 33
表4 記憶にある学習内容(複数回答)
34
学習内容 ⼈数
①⾻密度を⾼めるメリット 60(45)
②⾻密度を⾼める⽅法 59(45)
③⾻粗鬆症 57(45)
④⾻ができる時期 53(41)
⑤⾻をつくるための栄養素 49(39)
⑥⾻の成⻑と運動との関係 47(35)
⑦⾻の成分 41(29)
( )内は,S ⼩出⾝者数
この結果から,
S
小学校出身者の8割以上が「骨35
密度を高めるメリットや方法,骨粗鬆症」につい
36
て学習した記憶があるとしていた。しかし,「骨
37
の成分」については,本調査対象の半数の生徒た
38
ちにしか学習した記憶がなかった。
39
一方,「骨をつくるために大切な栄養素はどれ
40
か」の質問には,「カルシウム」を正しく選択で
41
きた生徒は全体で
90
人(93.8
%),「タンパク質」42
は全体で
40
人(41.7
%)であった。S
小学校出身43
者では「カルシウム」が
51
人(92.7
%),「タン44
パク質」が
28
人(50.1
%)であった。しかし,「ビ45
タミン
D
」を選択できた者は全体の22
人(22.9
%)46
に過ぎず,
S
小学校出身者においても13
人(23.6
%)47
と少なかった。
48
「コツコツチャレンジ」の授業では,骨密度を
49
上げる条件として日光浴の必要性も学んでいたが,
50
食事とビタミンDとの関係性にまでは説明されて
51
おらず,また,「家庭科」や「体育科(保健)」
52
の教科書にも,ビタミンDの働きについての記述
53
はなかったことから,本調査対象の生徒たちには
54
「ビタミン
D
」が骨粗鬆症予防に必要な栄養素の55
一つであるという理解はできていないことが分か
56
57
った。「骨粗鬆症がどんな病気か知っているか」の質
58
問には全体の
70
人(72.9
%),S
小学校出身者で59
は
44
人(80
%)が知っていると回答した。60 61
出⾝⼩学校 S ⼩ 55 S⼩以外 41 性別 男⼦ 48(26) ⼥⼦ 48(29)部活動 運動系 ⽂科系
39(23) 13(7)
スポーツクラブ 所属あり 所属なし
26(18) 67(36)
⾻折経験 あり なし
34(20) 62(35) 表3.調査対象の属性
単位:⼈ ( )内は、S⼩出⾝者数
この結果から,S小学校出身者の8割以上が「骨 密度を高めるメリットや方法,骨粗鬆症」につい て学習した記憶があるとしていた。しかし,「骨 の成分」については,本調査対象の半数の生徒た ちにしか学習した記憶がなかった。
一方,「骨をつくるために大切な栄養素はどれ か」の質問には,「カルシウム」を正しく選択で きた生徒は全体で90人(93.8%),「タンパク質」
は全体で40人(41.7%)であった。S小学校出身 者では「カルシウム」が51人(92.7%),「タンパ ク質」が28人(50.1%)であった。しかし,「ビ タミンD」を選択できた者は全体の22人(22.9%)
に 過 ぎ ず, S 小 学 校 出 身 者 に お い て も13人
(23.6%)と少なかった。
「コツコツチャレンジ」の授業では,骨密度を 上げる条件として日光浴の必要性も学んでいた が,食事とビタミンDとの関係性にまでは説明さ れておらず,また,「家庭科」や「体育科(保健)」
の教科書にも,ビタミンDの働きについての記述 はなかったことから,本調査対象の生徒たちには
「ビタミンD」が骨粗鬆症予防に必要な栄養素の 一つであるという理解はできていないことが分 かった。
「骨粗鬆症がどんな病気か知っているか」の質 問には全体の70人(72.9%),S小学校出身者で は44人(80%)が知っていると回答した。
骨粗鬆症の症状の理解については,表5に示す。
表5.骨粗鬆症の症状についての理解 表5.⾻粗鬆症の商業についての理解
質問項⽬ ⼈数
⾻がスカスカになる病気 72(44)
⾻が折れやすくなる病気 65(40)
⽣活習慣を変えることで予防できる 57(38) 65歳以上の⼈だけがかかる病気 1(0)
⾻のウイルスに感染することでかかる病気 0 ( )内はS⼩出⾝者数
「骨がスカスカになる病気」と回答した者が全 体で72人(75%),「骨が折れやすくなる病気」が 65人(67.7%),「生活習慣を変えることで予防で きる病気」は57人(59.4%)であった。誤答の「65 歳以上の人がかかる病気」を選択した者は1人,
「骨がウイルスに感染することでかかる病気」を 選択した者は0人であった。S小学校出身者では 8割以上が「病気の理解」はできていたが,「予防」
については7割弱にとどまっていた。
「骨密度という言葉を知っているか」の質問に ついては全体の93人(96.9%),S小学校出身者 では54人(98.2%)が知っていると回答した。「骨 密度を高めるための方法」として,S小学校出身 者は「ランニング」47人(85.5%),「7時間以上 の睡眠」45人(81.8%),「日光浴」37人(67.3%)
の正答を選択していたが,「12~18歳の間に対策 をする」は25人(45.5%)であり,半数に満たなかっ た。
「骨密度を高める方法」の正答率が高い理由に ついて逐語記録を確認したところ,須合は授業に おいて子どもたちに自身の骨密度を高めるための 実践計画を立てさせ,その計画を他の子どもたち と意見交流させるという場面を設定していた。こ のような他者と意見交流をする活動が,子どもた ちの知識の定着につながったのではないかと考え られる。
以上の結果から,S小学校出身者は2時間の「コ ツコツチャレンジ」の学習を通して,「骨密度を 高めるメリットは,骨が丈夫になること」を全員 が理解しており,「骨をつくるための栄養素には カルシウムが必要である」(92.7%),「骨密度を 高めるためには7時間半から8時間の睡眠が必 要」(85.5%),「ランニングは骨密度を高める方 法として有効」(83.6%),「骨粗鬆症は骨がスカ スカになる病気」(80%)については,8割以上 が記憶していることが分かった。
次いで,記憶している項目を数値の高い順に示 すと「骨が折れやすくなる病気」(72.7%),「骨 粗鬆症は生活習慣を変えることで予防できる」
(69.1%),「骨密度を高めるために日光浴が有効」
(67.3%),「骨をつくるための栄養素にはタンパ ク質が必要である」(50.9%),「骨密度を高める ためには12歳~18歳が効果的である」(45.5%),
「骨密度を高めるメリットは,持久力が上がる」
(43.6%),「骨密度を高めるメリットは,筋力が 上がる」(41.8%),「骨をつくるための栄養素に はビタミンDが必要である」(23.6%),「骨密度 を高めるメリットは,風邪をひきにくくなる」
(21.8%),「骨密度を高めるメリットは記憶力を 向上させる」(20%)であった。
しかし,成長期(12歳~18歳)には骨の量と質 を高めることが重要であり,まさしく今の自分た ちがその時期にあたることを記憶している者は,
半数に満たなかった。S小学校の授業内では骨量 を高める時期の重要性を確認する児童の発言もみ 表6.骨密度を高める方法
学習内容 ⼈数
⾻密度を⾼める⽅法 59(48)
⾻密度を⾼めるメリット 60(45)
⾻粗鬆症 57(45)
⾻ができる時期 53(41)
⾻をつくるための栄養素 49(39)
⾻の成⻑と運動との関係 47(35)
⾻の成分 41(29)
( )内は、S⼩出⾝者数
表6.⾻密度を⾼める⽅法
られ,意欲的に授業にのぞむ姿が感じられたが,
記憶に残っている者の割合は低かったようである。
なお,S小学校出身者とS小学校以外の出身者 間において各項目における差をみたが,全ての項 目において,有意な差は認められなかった。
②健康に関する意識や行動について
健康に関する意識や行動についての結果は,表 7-1,7-2に示す。
この表からも分かるように「栄養バランスを考 えた食事を心がけている」は全体で60人(62.5%),
そのうちS小学校出身者は34人(61.8%),「日頃 から運動をしようと心がけている」は全体で55人
(57.3%),そのうちS小学校出身者は34名(61.8%)
であった。「給食以外で乳製品を多く摂取しよう と心掛けている」は全体で51名(53.1%),S小 学校出身者は30名(54.5%)であり,「自分はカ ルシウムを十分に摂取できていると思う」は全体 で47人(49.0%),S小学校出身者は23名(41.8%)
であった。
食事の回数ではS小学校出身者の38名(69.1%)
が毎日,朝・昼・夜の3回の食事を摂っているが,
1日3回の食事を摂っていない子も見られた。
睡眠に関しては,S小学校出身者の子どもたち
は推奨されている7時間半から8時間の睡眠を とっている者が8名(14.5%)であり,最も多い 睡眠時間は「6~7.5時間」の24名(43.6%)であっ た。S小学校出身者の約1/ 3は4.5~6時間しか 睡眠がとれていないことも分かった。本調査対象 の生徒たちは遠距離通学をしていたり,塾や習い 事にも通ったりしている者も多いことから,それ らのために睡眠時間が削られているのではないか と推察された。
③食物摂取頻度調査の結果
本調査対象者のカルシウムの一日の平均摂取量 は男子404.94mg,女子462.96mgであり,S小学 校 出 身 者 の 男 子 の 場 合 は433.14mg, 女 子 は 448.79mgであった。厚生労働省「日本人の食事 摂取基準(2015年版)」では,カルシウム量は12 歳~14歳の男子で1000mg,女子で800mgが目標 とされている。この数値と比較すると,いずれに しても男子は目標値の半分以下であることが分 かった。
最もカルシウム摂取量の高かった生徒と低かっ た生徒をみると,いずれも男子生徒で高かった生 徒(S小学校出身者)は790.52mg,少なかった 生徒(S小学校以外の出身者)は185.89mgであり,
表7-1.健康に関する意識
質問項⽬ とても思う そう思う あまり思わない 全く思わない
①栄養バランスを考えた⾷事を⼼がけているか 12(5) 48(29) 33(20) 3(1)
②⽇頃から運動をしようと⼼がけているか 20(11) 35(23) 32(15) 9(6)
③給⾷以外で乳製品を多く摂取しようと⼼がけているか 19(10) 32(20) 39(22) 6(3)
④⾃分はカルシウムを⼗分に摂取できていると思うか 14(4) 33(19) 42(27) 7(1)
表7-1.健康に関する意識
単位:⼈ ( )内は、S⼩出⾝者数
表7-2.健康に関する行動
毎⽇ 週5〜6⽇ 週3〜4⽇ 週1〜2⽇ 週0⽇
⼀⽇3回⾷事を⾷べる⽇は週に何⽇あるか 69(38) 15(8) 6(4) 3(3) 3(2)
家庭での⾷事の準備の⼿伝いはどれくらいするか 17(10) 10(4) 17(9) 29(20) 23(12)
⾷材の買い出しに⾏くことはあるか 0(0) 2(1) 10(6) 49(28) 35(19)
9時間以上 7.5〜9時間 6〜7.5時間 4.5〜6時間 4.5時間 平⽇の睡眠時間はどれくらいか 5(3) 17(8) 47(24) 25(17) 2(2)
表7-2. 健康に関する⾏動
単位:⼈ ( )内はS⼩出⾝者数
一日の目標値の2割にも満たないことが分かった。
そこで,カルシウム摂取量の多かった生徒5名 と少なかった生徒5名について,健康に対する意 識と行動についてみた結果を,表8に示す。
上位5名については,バランスの良い食事をし,
日ごろから積極的に運動をしようと心掛けている 者が多く見られた。また,乳製品については,上 位の者は給食以外でも摂取を心がけている者が多 いが,下位の者ではあまり積極的ではなかった。
食事の回数については,上位の者は毎日3回食 事を摂っているが,下位の者では食事をしないこ ともある日がみられ,週0回と答えた生徒は欠食 があった。なお,睡眠時間については大きな差は 見られなかった。
このことから,カルシウム摂取量が高かった生 徒は,日ごろの食生活や運動に気を付けているこ とが分かった。
一方,2018年3月に実施した食物摂取頻度調査 では,小学6年時のカルシウム摂取量の平均が 445.94mgで あ っ た。 し か し, 今 回 の 調 査 で は 440.96mgと前回に比べてわずかではあるが,減 少していた。S小学校出身者が小学5年生の時に 調査した食事摂取頻度調査では,カルシム摂取量 の平均は371.89mgであったが,6年生の授業後 の調査結果では445.94mgに増加した。
このことから,授業直後には積極的にカルシウ ムを摂取しようという行動があったと推察でき る。しかし,その行動は時間の経過とともに薄れ
ていったと考えられる。
骨をつくる栄養素として「カルシウム」を理解 している生徒は9割以上いるが,実際に「給食以 外で乳製品を摂取している」と回答した者は半数 強であった。また,「自分はカルシウムを十分に 摂取していない」と回答した者も半数以上みられ た。
一方,「自分はカルシウムを十分に摂取できて いる」と回答した生徒は24人いるが,この者の食 物摂取頻度調査の結果を見たところ,カルシウム 摂取量の目標値を満たしていないことがわかった。
このように自分がカルシウム不足であると自覚 しているにもかかわらず,乳製品の摂取ができな い者や自分ではカルシウム不足を感じておらず自 覚もできていない者がいることから,今後,その 要因を探り,解決していく必要性があると考え る。
4.まとめと今後の課題
近年,増加傾向にある「骨粗鬆症」の病気は,
老年期に始まるものではなく,若年期の栄養・運 動などの日常生活にその基礎がある。特に,成長 期(12歳~18歳)に骨量を十分に増加させて高い 最大骨量を確保することが重要とされる。
本研究では,12歳となる小学校6年生を対象 に,栄養教諭による骨に関する授業「コツコツチャ レンジ」(2時間)を実践し,その授業効果を検 表8.カルシウム摂取量の比較
性別 出⾝⼩ Ca摂取量 クラブ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥
上位 1 男⼦ F⼩ 790.52 〇 〇 ◎ ◎ ◎ 毎⽇ 9時間以上 2 ⼥⼦ F⼩ 775.04 〇 〇 △ 〇 〇 毎⽇ 4.5〜6時間 3 男⼦ その他 709.09 × 〇 ◎ ◎ ◎ 毎⽇ 7.5〜9時間 4 ⼥⼦ その他 699.98 × 〇 〇 △ △ 毎⽇ 4.5〜6時間 5 ⼥⼦ F⼩ 669.69 〇 〇 〇 △ △ 毎⽇ 6〜7.5時間 下位 1 男⼦ その他 185.78 〇 △ 〇 △ △ 週5〜6 6〜7.5時間
2 ⼥⼦ F⼩ 191.11 〇 〇 × △ △ 週5〜6 4.5〜6時間 3 男⼦ その他 199.51 × 〇 〇 △ △ 毎⽇ 6〜7.5時間 4 男⼦ F⼩ 220.98 〇 〇 △ △ 〇 週0回 4.5〜6時間 5 男⼦ その他 225.99 〇 △ △ △ 〇 毎⽇ 7.5〜9時間
表8. カルシウム摂取量の⽐較
討した。
さらに,この授業を受けた対象者が時間を経過 した後も知識を有し,それが日常生活の行動に活 かされているかを,質問紙調査と食物摂取頻度調 査を基に検討した。
その結果,骨に関する授業を受けた児童は,2 年後も「骨密度を高めるメリット」や「骨をつく るための栄養素(カルシウム)」,「骨密度を高め るための睡眠時間」や「骨粗鬆症」という病名に 8割以上の子どもたちが知識として有しているこ とが分かった。また,「骨粗鬆症は生活習慣を変 えることで予防できる」,「日光浴の必要性」につ いても6割以上が知識を有していることも分かっ た。
しかし,「骨密度を高めるためには12歳~18歳 が効果的である」,「骨をつくるための栄養素にビ タミンDが必要である」に関する知識を有してい た者は半数に満たないことも明らかになった。
一方,これらの知識を活かして,日ごろから乳 製品の積極的な摂取など栄養バランスを考えた食 事を心がけたり,運動を心がけたりしている子ど もたちは6割程度であった。また,「自分ではカ ルシウムを十分に摂取している」と思っている者 が,実際には基準値に満たない現状も明らかに なった。また,「骨密度を高めるためには7時間 半~8時間の睡眠が必要である」とされているが,
十分な睡眠時間が確保されていない子どもたちも みられた。このように知識を有していても,それ が行動につながっていないという実態も明らかに なり,行動を継続させることの難しさを痛感した。
本調査結果から,「骨粗鬆症」という病名につ いては,「家庭科」や「体育(保健)」「理科」の 教科書には明記されていなかったが,8割以上の 子どもたちはこの言葉を認知しており,現在では メディアや家族などからも情報が得られることか ら,教科書に明記した方がよいのではないかと考 える。
また,骨に関する知識や骨粗鬆症の予防に関す る知識は,12歳になる小学生の段階から扱う必要 があり,「骨に関する授業」実践がのぞまれる。
特に,骨に関する学習は「家庭科」や「体育科(保 健)」「理科」の教科でも扱われているが,教科に はそれぞれ目標があり,学習内容については評価 も伴う。
したがって,学校給食を通して食育の指導がで きる栄養教諭の存在は大きいと言える。
今後は「家庭科」や「体育科」,「理科」,「食育
(学級活動)」という教科間の連携はもちろんの こと,教諭や栄養教諭,養護教諭との連携,さら には小学校と中学校の連携が重要になると考える。
引用文献
1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版 一般 社団法人 日本骨粗鬆症学会
2)健康ぷらざ「予防は子どもの頃から―骨粗鬆症―」,
日医ニュース,No.277
3)神田省吾,咲間義輝,大西吉之,江原雄二,安光秀人,
山上哲實(2015):学童期における食事状況と将来の骨 粗鬆症の予防について,日本顎咬合学会誌,咬み合わ せの科学,第35巻,第3号,pp.221-224
4)岩織美保子,三浦広美,小笠原みや子,下川原久子
(2015):八戸市の地域住民の生活習慣と骨密度に関す る研究(第2報),八戸学院短期大学紀要,第40巻,
pp.85-94
5)鈴山いずみ,中西洋子,成瀬明子,骨粗鬆症予防教 育に関する研究―高校生の骨粗鬆症の認識度と食生活 の実態―,(1997):日本家庭科教育学会誌,第41巻,
第2号,pp.73-78
6)「新家庭総合」大修館書店(平成18年検定済)
7)「家庭総合」(自立・共生・創造)東京書籍(平成24 年検定済),
8)「技術・家庭(家庭分野)」開隆堂(平成27年検定済)
9)「新しい技術・家庭(家庭分野)」東京書籍(平成27 年検定済)
10)楠知子,広田孝子,石丸香織,竹田千奈美,広田憲二,
思春期生徒における骨密度の増加スパートの経年観察 と運動及び食生活の影響(2001):デサントスポーツ科 学,Vol.22,pp.178-185
11)中岡加奈絵,野田聖子,山田麻子,星野亜由美,奥 裕乃,祓川摩有,並木直子,五関―曽根正江(2017):
小学校高学年における食習慣・生活習慣と骨量測定が 食意識に及ぼす影響,日本食育学会誌,第11巻,第3号,
pp.269-278,
12)食に関する学習ノート,中学生版食育教材「いきい きちばっ子」千葉県教育委員会
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/anzen/kyuusho ku/syokunikansurusidou/shokuikunote.html
13)成長期の食事について,https://www.pref.niigata.lg.
jp/uploaded/attachment/40943.pdf
14)食に関する副読本,茨城県教育委員会 https://www.
edu.pref.ibaraki.jp/board/gakkou/karada/kyushoku/
hukudokuhon/h26/all.pdf
15)「新しい家庭5・6」東京書籍(平成31年検定済)
16)「わたしたちの家庭科5・6」開隆堂(平成31年検定 済)
17)「小学校保健3・4年」光文書院(平成31年検定済)
18)「小学校保健5・6年」光文書院(平成31年検定済)
19)「新しい保健3・4」東京書籍(平成31年検定済)
20)「新しい保健5・6」東京書籍(平成31年検定済 21)「未来をひらく小学理科3」教育出版(平成31年検定
済)
22)「未来をひらく小学理科4」教育出版(平成31年検定 済)
23)「未来をひらく小学理科5」教育出版(平成31年検定 済)
24)「未来をひらく小学理科6」教育出版(平成31年検定 済)
25)「新しい理科3」東京書籍(平成31年検定済)
26)「新しい理科4」東京書籍(平成31年検定済)
27)「新しい理科5」東京書籍(平成31年検定済)
28)「新しい理科6」東京書籍(平成31年検定済)
29)文部科学省 小学校学習指導要領(平成29年告示)
解説 家庭編
30)文部科学省 小学校学習指導要領(平成29年告示)
解説 体育編
31)文部科学省 小学校学習指導要領(平成29年告示)
解説 理科編
32)タニタ 健康のつくりかた―骨粗鬆症を予防するに は―https://www.tanita.co.jp/health/detail/34
(佐々木貴子 札幌校教授)
(須合 幸司 附属札幌小学校栄養教諭)
(大橋 瑠実 札幌校学生)