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Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 69(1): 331‑340

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Author(s) 板谷, 厚; 越智, 友亮; 吉田, 雄大

Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 69(1): 331‑340

Issue Date 2018‑08

URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9893

Rights

(2)

北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第1号 平成30年8月 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.69,No.1 August,2018

雪上でのボール運動が大学生の体力・運動能力に及ぼす影響

板谷  厚・越智 友亮・吉田 雄大**

北海道教育大学旭川校保健体育教室

札幌市立元町中学校

**日本スポーツ振興センター

EffectsofBall-game-exercisesinaSnowFieldonthePhysicalPerformance ofCollegeStudents

ITAYAAtsushi,OCHIYusukeandYOSHIDAYudai**

DepartmentofPhysicalEducation,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation

MotomachiJuniorHighSchool,Sapporo

**JapanSportCouncil

ABSTRACT

 Thisstudyinvestigatedtheeffectsofball-game-exercisesinasnowfieldonthephysical performancesofcollegestudents.Twenty-eightphysicallyhealthycollegestudents(fifteen female)participatedinthisstudy.Participantsweredividedintothreegroups:snowgroup, gymgroup,andcontrolgroup.Wedevelopedaball-game-exercisesinterventionprogram thatwasadministeredtothefirsttwogroups.Participantsinallthreegroupsperformed fourphysicalperformancetests―thesit-upanaerobicendurancetest,thestandingbroad jumptest,thesidestepagilitytest,andthe30-msprinttest―beforeandaftertheintervention period(pre-andpost-test,respectively).Afterthepre-test,thesnowandgymgroups underwenttheprogramforfourweeksatapaceoftwosessions(eachlastingforabout thirtyminutes)perweek.Thesnowgroupperformedtheprogram’sexercisesinasnow field,whilethegymgroupexecutedtheminagym.Pairedt-testsrevealedthat,onlyinthe snowgroup,performancelevelsintheagility,broadjump,andanaerobicendurancetests improvedinthepost-testascomparedtothepre-test.Incontrast,nopre-postdifference wasdetectedintheresultsofthegymgroupandthecontrolgroup.Ourresultssuggest thatthetrainingeffectsoftheball-game-exercisesinterventionprogramwedevelopedare dependentontheenvironmentinwhichtheprogramisundertaken.Inotherwords,only theprogramprovidesadequateoverloadforimprovingphysicalperformanceinyoung adultsonlyinasnowfield.Thus,weconcludethatexercisesinasnowfieldaremore

(3)

1.はじめに

 近年,北海道の子どもの体力・運動能力が全国 的にみて低水準であることが道内の教育現場で問 題視されている。「平成29年度全国体力・運動能 力,運動習慣調査」1)によれば,北海道の子ども の体力総合得点の47都道府県中順位は,小学校男 子35位,女子40位,中学校男子42位,女子は最下 位である。

 いくつかの先行研究は,この問題の原因の一つ として,北海道に積雪寒冷期間が存在することを 挙げている。積雪寒冷期間には,屋外での活動に 大きなストレスをともなうことから,身体活動水 準が減少する傾向にある。これについて志手ほ か2)は,積雪寒冷期間の小学生において,休み時 間の活動水準が低下する傾向にあるとともに,体 育授業のない日の活動水準が著しく低下すること を明らかにしている。活動水準の低下は子どもの 体力・運動能力の発達に影響を及ぼすと予測でき る。これについて神林ほか3,4)は,道内の小中学 生を対象に,積雪寒冷期間前後の体格および体 力・運動能力を測定した。その結果,積雪寒冷期 間後,成長による体格の向上が認められたにもか かわらず,体力・運動能力のテスト項目に向上し なかった項目(例えば小学生の50m走や中学生の 立ち幅跳び)があったと報告している。さらに積 雪寒冷期間において道内の小中学生では,順調な 身体的発育に対して,跳躍運動や走運動の基礎と なるリバウンドジャンプ遂行能力が低下するとの 指摘もある5)

 積雪寒冷期間に体力・運動能力が低下すること を防ぐには,屋外活動が制限される積雪寒冷期間 においても積雪がない時期と同程度,日常的に運 動を行う必要がある。これには2つの方略が考え られる。ひとつは,屋外活動が減少する分,屋内 活動を増やすことである。もうひとつは,積雪を 制限と捉えず積極的に屋外活動を行うことであ

る。屋内施設には屋外と比較して広さや使用時間 に制限があることから,前者は現実的ではない。

したがって,本研究では後者の方略を検討する。

 積雪寒冷期間に屋外に出て運動する機会とし て,スキーやスノーボード,スケートなどの冬季 スポーツがある。これらの冬季スポーツは,積雪 や寒冷な気候を利用し,屋外で楽しみながら運動 を行う機会とはなっている。しかし,専用の道具 を購入する費用や,山や施設に移動する時間がか かるため,日常的に行うとなると手軽さに欠ける。

 積雪を利用した手軽に行うことのできる雪遊び について検討した研究がいくつかある。例えば三 浦ほか6)は,北海道の様々な小・中学校において,

積雪寒冷期間の体力・運動能力低下を防ぐことを 目的として,歩くスキーリレー,そり滑り,雪山 遊び,雪中サッカーやスノーホッケーなどに取り 組んだ様子を報告している。さらに徳田ほか7) は,大学生18名を対象者として,3種類のスノー ゲーム(スノーフラッグ,スノータッグ,および 雪上しっぽ取り)をそれぞれ屋内と屋外(積雪 30cm以上)で取り組んだ場合の身体活動量(消 費カロリー,歩数,運動強度,および心拍数)と 心理的効果(楽しさ,身体的な負担の大きさ,お よびまたやってみたいか)を比較した。その結果,

屋外で実施した方が屋内でよりも身体活動量は高 い傾向にあり,心理的効果も高かったと報告して いる。

 徳田ほか7)が示したように,体育館で実施でき る活動を雪上で実施することでトレーニング負荷 が高まると予測できる。そこで,本研究では,雪 の負荷材としての機能に着目した。例えば,圧雪 されていない積雪上の移動は,舗装された歩道を 歩くよりも身体活動量が高いことは経験的に知ら れている。このとき,積雪は負荷材として働いて いると考えられる。

 運動時の積雪の負荷材としての働きを確かめる ためには,積雪のない環境と雪上で同じ運動を行 effectiveforimprovingphysicalperformance,duetotheloadeffectoffallensnow.

(4)

雪上運動が体力・運動能力に及ぼす影響

い,トレーニング効果の違いを確かめる必要があ る。上述したように,これまで雪を使った様々な 活動が考案され,身体活動量や心理的効果が検討 されている。しかしながら,介入試験を実施して,

これらの雪上運動プログラムを継続的に実施した 場合の体力・運動能力に与える効果については明 らかにされていない。これが実証されれば,道内 の学校教育の現場において,体力・運動能力の向 上を目指して雪上運動が実施される契機となると 考えられる。

 そこで本研究は,雪上で運動を行うことによる 体力・運動能力の向上効果を明らかにすることを 目的とした。このために,4週間にわたり週2回 ずつ,雪上と体育館それぞれで同じ運動介入を行 い,運動環境の違いが体力・運動能力に与える影 響を検討した。

2.方 法

2.1.対象者

 本学旭川校学生28名を対象者とした。対象者 を,運動介入として雪上で運動プログラムに取り 組む10名:雪上群(男4名,女6名,年令21.1±0.6 才,身長164.5±9.7cm),体育館で運動プログラ ムに取り組む9名:体育館群(男6名,女3名,

年令21.1±0.8才,身長167.7±9.6cm)および運動 介入を行わない9名:コントロール群(男3名,

女6名,年令21.7±0.5才,身長167.5±9.6cm)の 3群に,ランダムに割り付けた。対象者には,研 究へのデータ供与とその撤回は自由であり,拒否 や撤回は何ら不利益がないこと,研究成果の公表 の可能性,守秘や個人情報・研究データの取り扱 いなどを口頭で説明し,同意を得た。

2.2.実験の手順および測定項目

 1―2月の4週間に雪上と体育館でそれぞれ同 じ内容の運動プログラムを週2回,計8回実施し た。運動介入の前後に体力・運動能力を測定した

(それぞれpre測定とpost測定)。コントロール群 は運動介入を行わず,pre測定の4週間後にpost

測定を行った。

 運動介入として,30分間程度で行うことのでき るボール運動プログラム(表1)を独自に作成し,

雪上群と体育館群に大学の昼休みを利用して取り 組んでもらった。ボール運動を採用した理由は次 の2点であった。まず,雪上と体育館で同じ運動 介入を実施するので,雪遊びやスノースポーツな ど,雪上でしか行えない活動ではなく,体育館で も実施できる活動とする必要があった。次に,楽 しみながら活動量を確保できる活動として,ボー ル運動が適していると考えたからであった。

 対象者は各自で準備運動を行った後,ウォーム アップと最低限の運動量の確保を目的とした2分 間×3セットの鬼ごっこを行った。鬼ごっこの セット間には1分間の休憩を挟んだ。鬼ごっこ終 了後,2分間の休憩をとり,ボール運動を20分間 程度行った.介入期間中,4種類のボール運動を 各2回取り組むこととした(表1)。けがの防止 と雪上での運動に慣れる目的で,運動介入1―3 回目は圧雪環境で行った。4回目以降は脚が 20cm程度埋まる積雪環境で運動プログラムを実 施した(写真)。

 体力・運動能力の測定項目は,上体起こし,立 ち幅跳び,反復横跳び,および30m走とした。測 定方法は,新体力テスト(20―64歳対象)8)にし たがった。ただし,50m走は,屋内で50mの走路 を確保できなかったため走距離を30mとした。

 各運動プログラムの運動強度,活動量および運 動感を検討するため,運動介入後に主観的運動強 度,歩数,および楽しさを調査した。主観的運動 強度の測定には,Borgscale9)を使用し,運動プ ログラムの「きつさ」について6―20の数字で回 答させた。歩数については,歩数計(ACTIERⅤ,

スズケン製)を使用し,鬼ごっこの開始時から歩 数を測定した。楽しさは,運動プログラム終了後 に,活動の楽しさの程度をVisualAnalogScale

(VAS,0―10)によって,対象者に回答させた。

2.3.データ処理および統計

 結果の表記は平均値±標準偏差とした。雪上群

(5)

と体育館群の運動介入への出席率に違いがあるか どうか検討するために対応のない t 検定を実施し た。体力・運動能力の測定結果について,運動介 入前後間の差を検討するために,群ごとに対応の ある t 検定を行った。運動プログラム実施時の主 観的運動強度,歩数,および楽しさについては,

雪上群と体育館群との間の差を検討するために対 応のない t 検定を実施した。効果量としてCohen’s dを計算した。有意水準はα=.05とした。なお,

統計処理にはSPPSStatisticsver.21(IBM社製)

を用いた。

3.結 果

3.1.運動介入への出席率

 運動介入への出席率は,雪上群と体育館群は両 群ともに70%を超え,良好であった(雪上群76.25

±14.97%,体育館群79.17±17.68%)。さらに,こ れ ら の 間 の 差 に 有 意 性 は 認 め ら れ な か っ た

(t=.389,P=.702,d=.18)。

3.2.体力・運動能力(図1)

 コントロール群について,上体起こしは,pre 測定20.1±5.2回,post測定21.4±4.0回で,これら の差に有意性は認められなかった(t=2.000,

P=.081,d=.29)。立ち幅跳びも,pre測定195.6

±40.6cm,post測定194.8±38.8cmで,これらの差 に有意性は認められなかった(t=.334,P=.747,

d=.20)。 同 様 に, 反 復 横 跳 び は,pre測 定49.4

±8.3回,post測定51.2±5.8回で,これらの差に有 意性は認められなかった(t=1.759,P=.117,

体育館群

雪上群

写真 運動環境の違い(第5回)

表1 ボール運動の内容

(①コート,②時間,③ルール)

サッカー(第1回,第5回)

① 25m×18m

② 前後半7分(休憩2分)

③ 各エンドライン中央に置いた2つのコーンの 間隔4mをゴールとする。自陣ゴールをボー ルが通過すると相手チームに1点が与えられ る。

中当てドッジボール(第2回,第6回)

① 10m×10m

② 前後半7分(休憩2分)

③ コート外から4名(外野)でコート中の者(内 野)を狙いボールを投げ,当たった内野は当 てた外野と交代する。キャッチした場合は外 野に返球する。前半は1個,後半は2個のボー ルで実施する。

アルティメット(第3回,第7回)

① 25m×18m

② 前後半7分(休憩2分)

③ ボールを持った人は動くことができず,パス を回して相手ゴールを目指す。ボールを持っ てエンドラインに触れるか超えると1点,エ ンドライン中央に置いてあるコーンにボール を持って触れると2点が与えられる。

バレーボール(第4回,第8回)

① 半径1.8mの円(バスケットボールのセンター サークル)程度

② 円陣パス7分(休憩2分)対面連続パス7分

③ パスをつなげ,最高連続回数を目指す。対面 連続パスは,参加者を2手に分け,コートを 隔てて並び,列の先頭になった者同士が1対 1のパスを続ける。パスした者はただちに自 陣の列の最後尾に並ぶ。

(6)

雪上運動が体力・運動能力に及ぼす影響

d=.25)。30m走 も,pre測 定5.40±.71秒,post測 定5.32±.62秒で,これらの差に有意性は認められ なかった(t=1.174,P=.274,d=.13)。

 体育館群について,上体起こしは,pre測定24

±3.3回,post測定25.6±3.5回で,運動介入前後の 差 に 有 意 性 は 認 め ら れ な か っ た(t=2.135,

P=.065,d=.46)。立ち幅跳びもpre測定218.9±

35.6cm,post測 定218.6±30.6cmで, 運 動 介 入 前 後の差に有意性は認められなかった(t=.102,

P=.921,d=.01)。同様に,反復横跳びは,pre測

定55.6±5.6回,post測定55.7±5.2回で,運動介入 前後の差に有意性は認められなかった(t=.123,

P=.905,d=.02)。30m走も,pre測定4.84±.39秒,

post測定4.85±.43秒で運動介入前後の差に有意性 は認められなかった(t=.151,P=.884,d=.03)。

 雪上群について,上体起こしは,pre測定22.6

±5.2回,post測定25.4±4.2回で,運動介入前後の 差に有意性が認められた(t=2.775,P=.022,

d=.60)。立ち幅跳びも,pre測定207.6±45.2cm,

post測定213±43.4cmで,運動介入前後の差に有 図1 運動介入前後の体力・運動能力の変化

(7)

意性が認められた(t=2.352,P=.043,d=.12)。

同 様 に, 反 復 横 跳 び は,pre測 定52.4±8.2回,

post測定54.6±8.4回で,運動介入前後の差に有意 性 が 認 め ら れ た(t=2.433,P=.038,d=.27)。

しかし,30m走は,pre測定5.35±.79秒,post測定 5.35±1.09秒で,運動介入前後の差に有意性は認 められなかった(t=.005,P=.996,d<.01)。

3.3.運動強度,活動量および楽しさ(図2)

 各項目の運動介入全8回の平均値について検討 したところ,主観的運動強度は,体育館群で11.7

±1.6,雪上群で13.9±1.1となり,雪上群の方が 高い値を示し,その差に有意性が認められた

(t=3.444,P=.003,d=1.62)。活動量について は,歩数が体育館群で2730±181,雪上群で2366

±106と雪上群の方が低い値を示し,その差に有 意性が認められた(t=5.269,P<.001,d=2.49)。

楽しさは,体育館群で7.18±1.13,雪上群で6.59

±0.90となり,これらの差に有意性は認められな か っ た(t=1.244,P=.230,d=.58)。 各 回 の 運 動介入のそれぞれの数値については表2にまとめ た。

4.考 察

4.1.体力・運動能力に対する介入効果  運動介入前後の体力・運動能力測定結果を比較 したところ,コントロール群と体育館群ではすべ ての項目に変化がなかった一方で,雪上群では 30m走を除く項目に運動介入後の向上が認められ た。

 コントロール群において,運動介入期間後に体 力・運動能力は低下すると予想した。しかし,そ うはならなかった。積雪寒冷期間に子どもの体 力・運動能力は低下するとの報告3-5)に対して,

本研究の対象者は大学生であった。成人は子ども よりも屋外で運動する機会が少ない。このため,

積雪寒冷期間に運動機会が減少することによる影 響が,体力・運動能力の測定結果に反映されにく かったと推察される。

 体育館群において,運動介入前後で体力・運動 能力に変化がみられなかった。今回の運動介入は 過負荷とならずトレーニング効果が得られなかっ たためだと考えられる。一方,雪上群において運 動介入後,体力・運動能力は向上した。積雪が負 荷材として働き,雪上で運動を行うことがトレー ニング負荷となったためだと推察される。

 積雪の負荷材としての機能は,動きに対する抵 抗と不安定性の増大だと考えられる。動きに対す る抵抗によって,雪上での運動はレジスタンスト レーニングに類似した効果(すなわち,筋力,筋 パワー,および筋持久力の増大)を持つと予測で きる。一方,不安定性の増大によって,雪上での 運動はバランストレーニングとしての効果を持つ と推察される。バランストレーニングは,神経筋 系機能の向上を目指して行われる。これには体幹 部の安定性を高め,競技力の向上を目指すコアト レーニングも含まれる10)。バランストレーニン グの効果は身体の安定性向上11)だけではない。

バランストレーニングによって力の発揮率(瞬発 的な力発揮能力に関連する神経筋系機能の評価指 標の1つ)が高まると報告されており12),加え て,垂直跳びのパフォーマンスが向上するとの指 図2 運動強度,活動量および楽しさ

(8)

雪上運動が体力・運動能力に及ぼす影響

摘もある13)

 以下では,積雪の負荷材としての機能に立脚し て,体力・運動能力の測定項目ごとに運動介入の 効果について検討する。

4.1.1.上体起こし

 上体起こしの結果について,体育館群では運動 介入前後に変化がみられなかったが,雪上群では 運動介入後に向上した。抵抗が大きい雪上で移動 する際,脚を通常より大きく力強く振り上げたり,

身体を前方に運ぶために身体を大きくひねったり する必要がある。これらのことから,体幹部にト レーニング効果が現れたと考えられる。

 上体起こしは筋持久力を反映する項目であり,

筋持久力は,低負荷で,高回数のレジスタンス運 動によってトレーニング効果が得られる14)。積 雪の上を動き続けるボール運動はこれにあてはま るため,上体起こしの成績が向上したと考えられ る。一方,体育館では,負荷材となる積雪がなく 疲労の程度は小さいため,トレーニング効果を得 られなかったと推察される。

 また,足元が不安定な中でバランスを保ちなが ら運動することがコアトレーニング類似の効果を 発揮した可能性もある。

4.1.2.立ち幅跳び

 立ち幅跳びの結果について,体育館群では,運 動介入前後に変化が認められなかったのに対し て,雪上群では運動介入後に向上した。抵抗力が 大きい雪上で動くためには,動き出しにより大き な筋パワー発揮が必要である。このことが脚部の 筋力および筋パワーを高めたと考えられる。

 筋パワーのトレーニングは,最大筋力の30%の 負荷で動作スピードが極端に低下しないあたりま で最大努力で反復する方法がもっとも効果的とさ れる15)。雪上群の運動介入においてボールを追 う際などでは,積雪による抵抗を受けながら移動 するために足を大きく振り上げる,体をひねるな どの動きを,できるだけ素早く行う必要がある。

このことが瞬発力の向上につながったと考えられる。

 さらに,バランストレーニングによって力の発 揮率や垂直跳び高が向上する12,13)。本研究の場 合,不安定な雪上での運動がバランストレーニン グとして作用し,筋パワー発揮能力にかかわる神 経筋系機能の向上に貢献した可能性もある。

4.1.3.反復横跳び

 反復横跳びについて,体育館群では,運動介入 前後の結果間に変化はみられなかったが,雪上群 表2 各ボール運動の運動強度,活動量および楽しさ

運動介入 群 参加

人数

運動強度

(BorgScale)

活動量

(歩数)

楽しさ

(VAS)

1回目(サッカー) 雪上群

体育館群

7 8

13.57±1.13 13.00±1.60

2871±245 3017±220

7.16±1.58 7.77±1.17 2回目(中当てドッジボール) 雪上群

体育群

9 6

12.33±2.29 12.17±1.17

2509±278 2388±237

6.53±1.10 6.39±1.22 3回目(アルティメット) 雪上群

体育館群

9 8

15.33±2.40 11.38±2.20

3073±217 2903±264

8.18± .86 6.54±2.61

4回目(バレーボール) 雪上群

体育館群

6 8

11.83±2.79 10.00±1.69

2086±161 2323±226

5.58±1.25 5.53±1.25

5回目(サッカー) 雪上群

体育館群

9 8

16.44±1.59 11.38±2.20

1780±252 3047±239

5.86±1.23 7.96± .89 6回目(中当てドッジボール) 雪上群

体育館群

6 7

11.67±1.21 9.86±1.22

2055±275 2545±298

5.50±1.68 7.09±1.23 7回目(アルティメット) 雪上群

体育館群

9 5

15.22±1.39 10.20±2.59

2318±357 2348±89

7.17±1.05 6.97±1.89

8回目(バレーボール) 雪上群

体育館群

6 7

12.83±2.79 14.43±2.51

2012±127 2943±179

5.09±1.90 7.47±1.29

(9)

では,運動介入後に向上した。敏捷性には,神経 支配のスピードと筋力,筋パワーが影響する。雪 上における運動介入後に反復横跳びの記録が向上 する要因の1つとして,積雪の抵抗によるレジス タンストレーニング効果,すなわち下肢の筋力,

筋パワーの向上が挙げられる。さらに,バランス トレーニングよる力の発揮率の向上12)から示唆 されるとおり,不安定な雪上でバランスを取りな がら動くことによって,下肢の神経筋系機能が高 まることも要因として挙げられる。加えて,体幹 安定性と敏捷性との間には有意な相関関係があ り,素早い方向転換には,体幹の中央での固定性 が重要とされている16)。雪上での運動によるコ アトレーニング効果により,体幹部の安定性が増 したことによって,切り返しが鋭くなり,反復横 跳びの回数が増加したと考えられる。

4.1.4.30m走

 30m走の結果について,体育館群と雪上群の両 方で運動介入前後の結果に変化がみられなかっ た。本研究では,積雪の負荷材としての効果を実 証するため,体育館と雪上で同じプログラムに取 り組めるよう,運動内容を体育館で行える活動に 限定した。これにより,すべての運動介入を通じ て30mを走り続ける機会はほとんどなかった。こ れが走力向上に至らなかった要因の1つだと考え られる。また,不安定な雪上での走り方は脚を高 く振り上げ,前方に進むために体幹を大きくひね り,前傾姿勢になる。すなわち,安定面上での走 り方とは動きが異なる。このため,雪上群におい て,筋力,筋パワー,および体幹の安定性が向上 しているにもかかわらず,30m走にそれらが反映 しなかったと推察される。

4.2.運動強度,歩数および楽しさの群間比較 4.2.1.運動強度

 主観的運動強度について,運動介入全8回の平 均値は体育館群よりも雪上群で高く,その差に有 意性が認められた。この結果は,スノーゲームを 屋外で実施する方が,屋内でよりも身体的な負担 感が高いことを示した先行研究7)と一致する。こ

れらのことは,積雪の負荷材としての機能を裏づ けていると考えられる。積雪による動きに対する 抵抗や支持面の不安定性が大きいことに加えて,

防寒着による動きにくさも雪上群の方がより「き つい」と感じることにつながったと考えられる。

4.2.2.活動量

 歩数について,全8回の運動介入の平均値は,

体育館群よりも雪上群で低く,その差に有意性が 認められた。雪上群の歩数が少なかった理由とし て,動きに対する抵抗が大きく不安定な雪上では 素早く動くことは比較的困難なことと,運動強度 も比較的高いことから疲労感により活動量は低下 したことが挙げられる。

4.2.3.楽しさ

 楽しさの運動介入全8回の平均値について,体 育館群と雪上群との差に有意性は認められなかっ た。しかし,両群ともに6.5を超える値を示し,

楽しみながらプログラムに取り組めたことはうか がえる。特に,雪上群において,主観的運動強度 が高く,より「きつい」と感じていたにもかかわ らず,同時に楽しさも感じることができていた。

その理由として,「きつさ」がかえって運動後の 達成感を大きくしたこと,雪のクッション性によ り,身体を投げ出すような思い切った動きができ ることの2点を挙げておく。

 本研究の結果は,屋外で実施する方が屋内でよ りもスノーゲームの楽しさは大きいことを示した 先行研究7)と一致しなかった。この齟齬は,運動 内容の違いに起因すると考えられる。すなわち,

この先行研究で用いられた運動は,本来雪上で実 施するスノーゲームであったため,屋内では楽し さが大きく損なわれた可能性がある。一方,本研 究で採用したボール運動は,楽しさの点で実施環 境に影響されにくいと推察される。

4.3.各ボール運動の評価 4.3.1.サッカー

 楽しさは雪上群,体育館群ともに比較的高い値 を示した。飛び込みながらボールを蹴るなど4種 目の中でもっとも思い切ったプレーが多く見られ

(10)

雪上運動が体力・運動能力に及ぼす影響

たことが理由として考えられる。主観的運動強度 は雪上群で他の4種目と比較して高い値を示し た。その理由は,不安定な雪上で動きにくい中,

片脚でバランスをとりながらボールを操作するこ とは困難であったからだと考えられる。雪上群に おける1回目と5回目を比較すると,5回目の方 が主観的運動強度の値が高く,歩数は約半分に減 少した。5回目は深い積雪の上でサッカーを行っ た。このため,より大きな動きが必要で不安定さ も増し,ボール操作の困難さが高まり「きつさ」

の増加と歩数の低下につながったと考えられる。

改善するべき点として,雪上ではボールが転がり にくく,攻守の展開は遅くなってしまうこと,キー パーのように守備に徹する役割ができてしまい,

このようなポジションで,活動量は比較的低く なってしまうことなどが挙げられる。

4.3.2.中当てドッジボール

 主観的運動強度は4種目中もっとも低く,歩数 も少なかったことから,比較的容易な運動であっ たと考えられる。雪上群では,体育館群に比べボー ルが転がらないため,上手くボールを回せなかっ たり,内外の交代に時間がかかり展開は遅くなっ たりしていた。これらのことから,外の人数を増 やす,コートを狭くするなどの改善が必要だと考 えられる。雪上群における2回目と6回目の楽し さを比較すると,6回目の楽しさが低い値を示し た。雪上で移動する困難さから交代に時間がより かかり,ゲーム性は低下したためだと考えられる。

4.3.3.アルティメット

 雪上群では主観的運動強度,歩数,楽しさとも に比較的高い値を示した。投げる,捕るなどの ボール操作は雪上でも比較的容易に行うことがで き,攻守のめまぐるしい入れ替わりも頻繁に生じ た。サッカーでみられたような守備役も生じず,

4種目中もっとも雪上で行うボール運動に適して いると考えられる。

4.3.4.バレーボール

 バレーボールでは,円陣パスと対面パスに取り 組んだが,不安定な雪上で素早くボールの落下地 点に入ることは困難で,ボールがつながらず,他

の3種目に比べてゲーム性は低かった。これらの ことから,歩数と楽しさが比較的低くなったと考 えられる。雪上では,簡易ネットを用いてビーチ バレーのような2対2や通常よりもコートを小さ くした3対3などの少人数で取り組むゲーム形式 にすることなどが改善策として挙げられる。ただ し,バレーボールの際は気温が低く降雪もあった ため,天候の影響で楽しさが低い値を示した可能 性もある。

4.3.5.まとめ

 本節では各ボール運動について考察してきた。

その結果,雪上において有効なボール運動とは,

積雪によるボールの動きの制限が小さく,プレー ヤーの動きを止めることが少ないものだと推測さ れる。今回実施したボール運動の中では,アルティ メットがもっとも適していると考えられる。

4.4.結論および今後の課題

 体力・運動能力は,コントロール群と体育館群 においてすべての項目の運動介入前後の間に差を 見いだせなかった一方で,雪上群では運動介入後 に,筋持久力,筋パワー,および敏捷性の項目に 向上が認められた。したがって,雪上で運動する ことは体力・運動能力の向上につながると結論づ けられる。また,雪上でのボール運動は,主観的 運動強度,歩数,および楽しさの関係から,活動 量は少ないものの,楽しみながら効果的に体力・

運動能力の向上を見込めるプログラムである。さ らに,本研究で採用したボール運動プログラムは 手軽なので,積雪寒冷期間の学校現場において休 み時間に実施することも可能である。北海道の児 童・生徒の体力・運動能力水準の改善に向けて,

この点を強調しておきたい。

 今後の課題として,対象者が学生で少人数であ るため,小学生や中学生を対象者とした大規模な 運動介入試験を実施し,子どもの雪上運動による 体力・運動能力の向上効果を検証する必要があ る。また,冬季に向上が停滞するとの指摘がある スプリント走や全身持久力について,本研究にお いては30m走の成績に運動介入後の向上が認めら

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れず,全身持久力に至っては検証することすらで きなかった。したがって,スプリント走や全身持 久力の向上をも期待できる雪上運動プログラムを 考案する必要がある。さらに,今回は体育館で実 施した場合と比較するためにボール運動を採用し たが,これに限らず,雪ならではの魅力――滑る 性質やクッション性――を活かしたスノーゲーム などを組み込むことで,より魅力的な運動プログ ラムにできると考えられる。

謝 辞

 実験にご協力くださいましたみなさまに,深く 御礼申し上げます。

利益相反

 本論文について,開示すべき利益相反状態はな い。

文 献

1)スポーツ庁:平成29年度全国体力・運動能力,運動 習 慣 等 調 査 結 果,http://www.mext.go.jp/sports/b_

menu/toukei/kodomo/zencyo/1401184.htm,2018,2018 年3月8日閲覧.

2)志手典之,新開谷央,伊藤久美子:非降雪期および 降雪期における小学校児童の身体活動水準の差異につ いて,北海道体育学研究,23,33-42,1988.

3)神林勲,森田憲輝,奥田知靖,中道莉央,石澤伸弘,

小野寺夕香,高橋正年,山形昇平,溝口仁志,楢山聡,

朝倉潤,中島寿宏,志手典之,新開谷央:北海道の小 学生における積雪寒冷期前後の体力・運動能力,北海 道教育大学紀要教育科学編,64⑴,137-147,2013.

4)神林勲,森田憲輝,奥田知靖,中道莉央,石澤伸弘,

小野寺夕香,高橋正年,山形昇平,溝口仁志,楢山聡,

朝倉潤,中島寿宏,志手典之,新開谷央:北海道の中学 生における積雪寒冷期前後の体力・運動能力,北海道 教育大学紀要教育科学編,63⑵,31-39,2013.

5)志手典之,森田憲輝,長平奈々:北海道の小・中学 生における積雪期後のリバウンドジャンプ遂行能力の 低下,北海道体育学研究,47,15-20,2012.

6)三浦裕,河治宣人,湯浅泰章:冬を楽しむ雪遊びの 工夫,北海道生涯学習研究,6,85-97,2006.

7)徳田真彦,吉田昌弘,青木康太朗,吉田真,竹田唯史:

スノーゲームの開発―身体活動量,心理的効果の側面 から―,北海道体育学会第56回大会プログラム・予稿 集,15,2016.

8)文部科学省:新体力テスト実施要項,http://www.

mext.go.jp/a_menu/sports/stamina/03040901.htm, 1999,2018年3月8日閲覧.

9)Borg GAV: Psychophysical bases of perceived exertion,MedSciSportsExerc,14⑸,377-381,1982.

10)板谷厚:バランストレーニング,体育の科学,64⑹,

435-438,2014.

11)ZechA,HübscherM,VogtL,BanzerW,HänselF, andPfeiferK:BalanceTrainingforNeuromuscular ControlandPerformanceEnhancement:ASystematic Review,JAthlTrain,45⑷,392-403,2010.

12)Gruber M, Gruber SBH, Taube W, Schubert M, BeckS,andGollhoferA:Differentialeffectsofballistic versus sensorimotor training on rate of force development and neural activation in humans, J StrengthCondRes,21,274-282,2007.

13)MyerGD,FordKR,BrentJL,andHewettTE:The effects of plyometric vs. dynamic stabilization and balancetrainingonpower,balance,andlandingforce infemaleathletes,JStrengthCondRes,20⑵,345-353, 2006.

14)尾縣頁:トレーニング論Ⅰ3章トレーニングの種類,

公益財団法人日本体育協会日本スポーツ少年団編,ス ポーツリーダー兼スポーツ少年団認定員養成テキス ト,pp.84-90,2006.

15)金子公宥:パワーアップの原理再考,JpnJSports Sci,3,160-164,1993.

16)中北智士,福本貴彦:体幹安定性と運動パフォーマ ンス:ローカル筋・グローバル筋に着目して,理学療 法学Supplement,40,Suppl.No.2,2013.

(板谷  厚 旭川校准教授)      

(越智 友亮 札幌市立元町中学校教諭) 

(吉田 雄大 日本スポーツ振興センター)

参照

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