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Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 72(1): 493‑507

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Author(s) 小谷, 克彦; 今村, 衣津季; 奥田, 援史

Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 72(1): 493‑507

Issue Date 2021‑08

URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/12061

Rights

(2)

幼児期における運動能力の発達パターンからみた自我発達

小谷 克彦・今村衣津季・奥田 援史**

北海道教育大学旭川校体育心理学研究室

北海道教育大学大学院教育学研究科体育心理学研究室

**滋賀大学

TheRelationshipbetweenSelf-developmentandDevelopmentPatternsof MovementAbilityinPreschoolChildren

KOTANIKatsuhiko,IMAMURAItsukiandOKUDAEnji**

DepartmentofSport&ExercisePsychology,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation

Graduateschoolofeducation,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation

**ShigaUniversity

概 要

本研究の目的は,幼児期の自我発達の様相を運動能力の発達傾向から捉えることであった。

幼児1765名にMKS幼児運動能力検査と保護者に家庭での行動傾向の質問紙調査を実施した。

その結果,4つの運動能力の発達パターンが同定され,幼児期の運動能力は,幼児期前半では 跳躍系の発達が顕著であり,その後幼児期後半になって捕球やボール投げといった操作系の能 力が高まっていくという特徴が認められた。さらに,目的やヴィジョンをもって外界との関わ りをもちながらまとまりを持った自分の世界を築こうとする幼児期では,“私ならざるもの(外 界・他者・身体)”と一体になってそれらと共に世界を築いていこうとする体験を内的世界に て実践していることが認められた。したがって,目に見える外的な側面だけで判断するのでは なく,身体を手がかりとして,幼児が非現実的な世界で主体感を獲得しようとしている体験を 大切にかかわることが重要である。

Ⅰ.はじめに

本研究の目的は,幼児期の自我発達の様相を運 動能力の発達から捉えることを試みることであ る。学童期や青年期にあたる児童・生徒に対して は,彼らが話す言葉からその心情を理解すること

ができる。しかしながら,言語能力が発達してい ない幼児に対しては幼児が発する言葉から幼児の 心情を理解することは難しい。幼稚園教育要領

(文部科学省,2018)では,保育者が幼児の自発 的で自由な表現を形式にとらわれることなく受け 止め,様々な表現を幼児から引き出し,自ら表現

(3)

ヘ向かう手助けをすることが求められている。す なわち,幼児に対しては言葉ではなく,様々な表 現を手がかりとしてその心情を汲み取る必要があ る。そこで本研究ではその幼児の表現活動として 身体表現に着目する。藤善(2002)によると,身 体表現は「蓄えられているイメージを身体の動き で表現していく活動」である。つまり,幼児が表 現する身体活動の背景には,その時点で幼児が蓄 えているイメージが含まれており,そのイメージ を汲み取ることで幼児との関わりを深めることが できると考えられる。また,保育者が幼児との関 わりを深めるために汲み取るべきイメージとは,

単に運動イメージという水準ではなく,非現実的 な世界での体験であり,その体験によって育まれ る自我の発達状態である。幼児が表現する身体活 動から幼児の自我の発達状態を捉えることができ るならば,言葉による関わりが難しい幼児に対す る理解,さらには幼児とより深い関わりができる と考えられる。

幼児期において自我はそれほど明確に発達して おらず,園原・黒丸(1966)によれば「自我が芽 生える時期(3歳頃)」である。幼児期は自他が 未分化な状態から分化していき,それに伴って自 我が芽生えていく過程である。そして,幼児期の 体力や運動能力もまた未分化な状態である。つま り,自我と身体の両者ともに未分化の状態から分 化していく過程にあるのが幼児期であり,自我が 分化していくと同時に身体も分化していき,もし くは自我と身体が相互に作用し合いながら分化し ているのではないかと推測することができる。自 我と身体の両者から幼児期の発達を捉えること で,幼児の状態により迫ることができると考えら れる。

山岸(1986,1988)は一連の研究において,乳 幼児期と幼児期の自我発達を「外界との相互作用 の中で経験される主体感の観点」から論じている。

そこでは,自我発達には「対人的主体感」だけで なく,「対物的主体感」も関与し,それらの相互 作用の中で自我の基盤を形成し,そしてその時々 の心理・社会・生物学的発達に応じて主体感を経

験できる相互作用を広げ,自我を形成していくと 述べている。山岸(1988)によれば,エリクソン の漸成的自我発達説における第一段階(乳児期)

の心理社会的危機の肯定的側面である「基本的信 頼感」は,他者から応答を返されることによって 経験される対人的主体感の問題であり,続く第二 段階(幼児期前期・自律期)で発達させるべきも のとした「自律」は対物的(ものや自分の身体と の)相互作用における主体感の経験,つまり対物 的主体感の問題であると述べている。さらに,第 三段階(幼児期後期・遊戯期)では,自律期でも 対物的主体感に関与していた他者(自分の延長と しての他者)を新たな形式(自分とは異なる他者)

で介入させ,他者と目的を共有し共に世界を作っ ていくことで主体感を経験し,自我を形成してい くとしている。つまり,乳幼児期・幼児期におい ては,対人的相互性と対物的相互性といった2つ の主体感を経験する枠組みがあり,それらの経験 が心理・社会・生物学的発達に伴って,空間的・

時間的・社会的に拡がることで自我を形成してい くと考えられる。そして,身体は対物的でもあり,

対人的でもあり,そしてその中間的な存在でもあ り,幼児の自我形成において重要な役割を果たし ていると考えられる。

本研究では,エリクソンの漸成的発達説の第三 段階(遊戯期)にあたる幼児を主な対象とし,山 岸(1986,1988)が提唱する主体感の観点から幼 児の自我発達について検討する。山岸(1988)に よれば,乳児期・自律期においても主体感を経験 するがそれはその時々で経験するものであり,ま とまりをもち,つながった行動系列において経験 するものではないが,遊戯期になると幼児が目的 やヴィジョンをもち,外界(他者やもの)との関 わりをもちながら,まとまりをもった自分の世界

(「自分の世界を他ならぬ自分が作った」という 感覚を持てる世界)をもてるようになる。さらに 山岸(1988)は,幼児は自分の世界を現実の世界 ではなく,ごっこ遊びをはじめとする“遊び”と いった非現実的な世界・中間的現実の内で「自分 の世界」を作り,世界を作る主体である自分を経

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験しようと実践していると述べている。幼児は ごっこ遊びという非現実的な世界の中で,母親に なったりウルトラマンになったりして,主体感を 経験するのである。また,現実的な世界では受動 的であった立場(例:やりたいことができず,受 け身の形でがまんしていた経験など)を,非現実 的な世界においてこそ能動的になることができ,

それまで自分を感じられなかった経験をも自分の ものとして経験しなおし,「世界を作る主体」に なりうる自分を実感することができるのだとも述 べている。つまり,自分の世界を現実に作るだけ の力をもっていない(現実的な世界で主体を経験 できない)幼児は非現実的な世界・中間的現実の 内で自分の世界を拡げ,そこであらゆる対象に対 して能動的に働きかけることで主体感を経験し,

それを現実につなげようとしていると考えられる。

幼児期において幼児が主体を経験するために は,非現実的世界と能動的な働きかけによる経験,

そしてそれらの経験を現実的世界へつなげる経験 が必要となるが,これらの経験に関して,身体が 果たす役割は大きい。田中(2009)によると,我々 の身体は「客観的で物理的な次元にある身体」と

「心理的で主観的な次元にある身体」の2つの次 元から構成されている。また心理臨床的な観点か らは多くの研究者が身体を様々な観点から捉えよ うとし,その中で「見えない身体」の存在とその 重要性を指摘している。特に,大谷(2009)は,

身体には「動物的な身体」,「考える主体としての 身体」,そして「見えない身体」の3つの側面が あることを指摘している。まず,「動物的な身体」

とは座る,走るといった行動を起こす身体であり,

実体としてある物理的な身体である。「考える主 体としての身体」とは,走ることで疲れや爽快感 を感じる身体である。そして3つ目の「見えない 身体」とは精神的なものとか身体的なものとかに わけることのできない身体であり,両者を結びつ けるものであるとしている。現実的世界に私が存 在している場所は身体であり,現実的に走る・座 るのも身体であり,疲れたをはじめとする多くの 感情を感じるのも身体である。さらには,身体の

感覚は実体がない所まで拡げることができる。例 えば,走ることで「風になったように感じる」,「自 然と一体になったように感じる」ことがある。そ こでは実体としての身体は関係がないどころか,

身体は風や自然まで拡がっている。また,手を広 げて飛行機の羽を模倣する幼児にとって,その手 は飛行機の羽なのである。このようにイメージの 世界(非現実的な世界)では身体は無限に拡がる のであり,このような体験も身体の体験と言える。

そして,その非現実的な世界での身体体験は主体 感をより拡げ,より豊かなものにする(自然と一 体となり,自然の中に主体感を感じることができ る)。さらに,実体としての身体があるからこそ,

非現実的な体験から現実的な体験へとつなげるこ とができるのである。このように身体とは現実的 な世界に属するものでありながらも,非現実的な 世界に属するものであり,さらにはそれら両者を つなげるものである。非現実的な世界での体験が 重要視される遊戯期の幼児にとって,自我を形成 していく上で身体による体験はより重要な位置づ けとなっていると考えられる。

大山(2009)は,「身体は私にとって,私と私 ならざるものの中間の領域にあり,私と他者を隔 てるとともに,つなぐという,中間的な位置にあ る」とし,この中間的な位置での活動によって“私

(主体)”を形成していくと述べている。我々にとっ て,最初の身体体験は乳児期において授乳や抱き かかえられる体験であろう。そこではまぎれもな く母親との一体感を感じていると思われる(しか しながら,現実的には母親と一体になっているこ とはない)。そして,自分の手を見て,指を吸って,

鏡を通して自分の姿をみて,さらには両親をはじ めとする他者をみることから自分との違いを実体 ある身体から認識し“自分”という存在が芽生え てくる。ここでも身体の存在が自我の芽生えに多 いに関与している。さらには,寝返りをしたくて もできない体験や立ちたくても立てないといった 体験では,身体は“私ならざるもの”であり,寝 返りができた時はその“私ならざるもの”が“私”

になる瞬間である。ここでも“私と私ならざるも

(5)

の”をつなげるのは,寝返りができたという身体 である。上記の例は乳幼児期の体験であるが,非 現実的な世界での取り組みが重要な幼児にとって 身体での体験は“私”を形作る過程でより重要な 体験となっていると考えられる(身体は現実的な 体験と非現実的な体験の両方を含むからである)。

つまり,幼児は現実的な世界を身体で感じ・考え,

身体の内で世界を拡げている。そして,走る,飛 ぶといった行動であらわすことで現実的な世界と 関わり,非現実的な経験と現実的な経験とをつな げている。つまり,非現実的な世界で実感し始め た主体感を動作を通して現実の世界でも実感し,

主体感をより明確に実感することができるのであ る。新しい動きができたことに対して幼児が喜び,

そのことを親に教えるのは,非現実的な世界で得 た主体感を現実的な世界でも実感することができ たその喜びである。そして,より速く走る,より 遠くへ飛ぶことができるようになることで,現実 的な世界が拡がり,それがさらなる内的な非現実 的な世界の拡がりにつながって,新たな主体感を 形成していくと言える。このように身体を中心と した体験を通して主体感を経験することを繰り返 すことで,自我が形成されていくと考えられる。

また,身体の体験は基本的には能動的である。

我々は走ろう・座ろうと考えて身体を動かしてい る。言うまでもないが,身体は勝手に走ったり,

座ったりはしない。基本的には身体による行動は,

身体に対して能動的に働きかけて起こすものであ り,その体験では自ずと主体感(身体を動かして いるのは紛れもない“私”であるという実感)を 得ている。しかしながら,身体は言うことを聞か ない・聞いてくれないこともある。つまり,身体 に対して主体感を得られないことがある。寝返り たいのに寝返ることができない,ウルトラマンの ように光線を出したいけれども出せないことは当 然のようにある。寝返りたいのにできない乳児は,

身体が自分のものではないように感じていると思 われ,寝返りができない段階では主体を感じるこ とができていないが,身体に能動的に働きかけ,

寝返りができた時には主体感を得ると同時に乳児

の世界は拡がる。また,非現実的な世界でウルト ラマンになり光線を出して,その世界では主体感 を得ているが,そのままの主体感では現実世界で 活かすことができない。しかし,そうした言うこ とを聞かない・聞いてくれない身体と直面するか らこそ,ウルトラマンではない“自分”に気づき,

そんな自分にできることを能動的に探ることで新 たな世界を拡げ,自我を形成していくと考えられ る。いずれにせよ,身体を通した体験はどのよう な場合においても能動的であり,そのため身体に よる体験は主体感を得るために必要な体験となり 得る。

また,山岸(1988)は,遊びにおける他者の持 つ意味が自律期と遊戯期とでは異なると指摘して いる。幼児にとって他者は自律期においては「自 分の延長としての他者」であり,遊戯期になると

「自分とは異なる他者」として主体感の獲得に影 響を及ぼす存在になっていくと述べている。自律 期にあたる幼児でも誰かと一緒に遊ぶことを好む が,ここでの他者は自分とは別の役割を持つ本来 の意味での他者ではなく,自分と同じ行動をし,

あるいは自分の行動を自分と同じようにみる他者 であり,その存在によって主体感の経験をより明 確にする。遊戯期になると,そういった他者が次 第に自分とは異なった役割を持ち,共に世界を築 く他者となっていく。ここでの“他者”を“身体”

と置き換えても同じことが言えよう。身体には主 客二重性が存在していると指摘している山本

(2009)は,主体にとって身体が「私」という主 体でありながら,具体的な対象としても体験され ると述べている。そして,主体の身体が「他」と なりえないことは明らかにであるが,体験的には 対象(他者)のように捉えられ扱われていること があることもまた明らかであると指摘している。

自律期に望まれる身体は,自分の思うように動く 身体である。思うように排便をコントロールでき る身体であり,思うように走る・飛ぶことができ る身体である。つまり,“できる身体”は延長し た自分であり,そうした身体との一体感を経験す ることで,身体を通して主体をより感じることが

(6)

できる。これが自律期に必要な主体感の経験であ ると考えられる。一方,遊戯期においては,自律 期と同様に思うように動かすことができる身体体 験による主体感の獲得も変わらず重要ではある が,遊戯期においては“できない身体”との出会 いがより重要な役割を果たすと考えられる。つま り,思うように走れない・飛べないということは,

遊戯期だけでなくそれ以前の発達段階でも経験す ることではあるが,遊戯期においてはその“でき ない”が持つ意味が異なってくる。“できない身体”

とは「自分とは異なる他者」であり,そういった

“他者(身体)”と共に世界を築き上げていくの が遊戯期における幼児の発達課題であると言え る。現実的な“できないこと”との本格的な直面 化はエリクソンの漸成的自我発達説の第四段階

(学童期)の発達課題であるが,その課題に取り 組む前に,非現実的な世界で体験することが重要 であり,それが遊戯期において体験するべきこと である。遊戯期では,自分とは異なった他者であ る“できない身体”と目的を共有し世界を共に作っ ていくことを非現実的な世界において幼児は体験 していると考えられる。

このように,幼児にとって,走る・飛ぶという 身体表現は,単に走る・飛ぶという活動や走れる ようになった・飛べるようになったという身体能 力の向上という意味だけではない。その背景では,

非現実的な世界での様々な体験を通して主体感を 獲得する試みが行われているのであり,その試み,

もしくはそこで得た主体感を現実的な世界でも経 験しようとする姿が身体表現であると言える。さ らに,現実的な世界での体験は,幼児の非現実的 な世界をさらに拡げることになる。つまり,幼児 の身体表現は,非現実的な世界における幼児の体 験,さらには幼児の自我の発達状態に迫る手がか りとなり得る。そこで本研究では,幼児の身体表 現の1つとして運動能力に着目する。遊戯期の幼 児における運動能力の発達の様相を明らかにする ことから,幼児の非現実的な世界での体験,そし てその体験で育まれる自我の発達状態を推論する ことを試みる。

幼児の運動能力に関しては,幼児期運動指針(文 部科学省,2012)で用いられているMKS幼児運 動能力検査を用いて検討しているものが多い。

MKS幼児運動能力検査は,25m走,立ち幅跳び,

テニスボール投げ,体支持持続時間,両足連続跳 び越し,捕球の6種目からなり,全国標準の判定 基準を持つ運動能力検査である。森・杉原・吉 田・筒井・鈴木・中本・近藤(2010)は全国規模 で幼児の運動能力の実態を調査し,全体的な発達 傾向を明らかにしている。彼らの研究によると,

発達傾向は全種目ともほぼ直線的であるが,25m 走,両足連続跳び越しは4歳児の年間発達量が最 も大きく,年齢とともに少しずつ発達量が減じて いく傾向がある。体支持持続時間では5歳児の年 間発達量が最も大きい傾向を示している。また,

男女差に関しては,ほとんどの種目(両足連続跳 び越し以外)で男児の方が女児よりも優れており,

立ち幅跳びと捕球に関して6歳児後半では差が認 められず,そしてボール投げ種目では年齢ととも に男女差が大きくなる傾向が認められた。これら の結果からは,男児の方が優れてはいるものの男 女ともに年齢とともにほぼ直線的に運動能力が発 達していくことがわかる。しかし,これらの運動 能力の発達は単に身体能力の向上だけではなく,

それに伴って様々な主体感を獲得していると思わ れる。例えば,森他(2010)の研究では,4歳児 で25mと両足連続跳び越しの年間発達量が最も大 きいという傾向が認めれている。この2種目は走 る・飛ぶといった動作を連続させ,動作をつなげ て移動する能力が求められるものである。つまり,

4歳児においてこれら2種目が最も発達するとい うことは,それまでバラバラに獲得していた主体 感を繋げて新たな主体感を得ているのかもしれな い。このように,この運動能力の発達の背景にあ る非現実的な世界での主体感の経験も含めて運動 能力の発達傾向を捉えようとするのが本研究の試 みである。

さらに杉原・吉田・森・筒井・鈴木・中本・近 藤(2010)では運動能力と幼児の園での行動傾向 の関係を調べた結果,運動能力の高い幼児ほど低

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い幼児に比べて,意欲的に色々なことに挑戦し,

人間関係も良好といった行動傾向が有意に高いこ とを明らかにしている。この結果は,運動能力の 発達が幼児の性格形成にも影響をしていることを 表していると言えるが,運動能力と性格形成の2 つのこの傾向を因果論的に捉えることは危険であ る。運動能力と性格形成の関係に関しては,性格 形成を自己概念という観点から考えられることが 多く,主に以下のように考えれている。今までで きなかった運動ができるようになると,その幼児 は肯定的な自己概念を形成して有能感を感じ,そ の結果より積極的な行動を取るようになる。一方,

運動ができないという経験を繰り返すと「自分は できない」という無力感を感じてしまい,否定的 な自己概念を形成し,運動への取り組みがより消 極的になる。このような考え方は,これまでの多 くの研究から導き出された知見であり,その通り である。そのため,無力感を感じさせないために,

できることから挑戦させて有能感を感じさせよう というアプローチを考える人が多い。しかしなが ら,その結果「できる・できない」に指導者側が 囚われてしまっているように感じる。幼児期にお いて大事なことは「できる・できない」ではない。

その背景で経験している主体感の獲得の方が重要 である。すなわち,たとえ現実的世界で「できな い」ことを経験したとしても,非現実的世界にて 主体感を実感できていれば良いのである。逆に

「できる」経験をしたとしても,「やらされてい る感」が強ければ,そこに主体感を感じることが できない。つまり,問題となるのは,指導者側が

「できること」に拘りすぎて,幼児の主体感を見 落としてしまうことである。そこで,本研究では 運動指導において指導者が見落としてしまう幼児 の非現実的な世界での体験に着目して,改めて主 体感を経験することの意義を提唱することを試み るものである。

本研究では,幼児期の自我発達の様相を運動能 力の発達から捉えることを目的する。その際,各 年代における運動能力の特徴的な発達傾向を明ら かにし,その背景にある体験を主体感の獲得とい

う観点から推論する。

Ⅱ.方 法

1.調査対象者:幼稚園・保育所および認定こど も園に在籍する4歳児クラスおよび5歳児クラス

(生活年齢は4歳,5歳,6歳となる)の1765名

(内訳は表1の通り)を対象とした。また,各幼 児の保護者に家庭での幼児の様子に関する質問紙 調査を実施した。家庭調査は園を通して依頼し,

回答に保護者の同意が得られたものについて回収 した。本調査はA県教育委員会の依頼によって実 施したものであり,調査にあたり園や保護者から の承諾を得ている。

2.調査内容

1)運動能力検査:幼児期運動指針(文部科学 省,2012)で用いられているMKS幼児運動能力 検査を実施した。具体的な測定項目は,25m走,

立ち幅跳び,テニスボール投げ,両足連続跳び越 し,体支持持続時間,捕球の6種目である。分析 では測定値とその測定値を男女別半年間隔の年齢 段階別に作成された5段階の標準得点に換算した 得点(森他,2010)の両方を用いた。

2)家庭調査:近隣の遊び場や家庭での運動遊び の実態,習い事,家庭での行動傾向などの項目を 含んだ質問紙調査を園を通して保護者に依頼した。

表1 運動能力検査の測定対象人数

年齢 男児 女児 合計

4歳前半 7 7 14

4歳後半 205 178 383

5歳前半 202 226 428

5歳後半 214 221 435

6歳前半 247 210 457

6歳後半 25 23 48

合計 900 865 1765

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3.分析方法(各種変数の設定)

1)年齢段階の設定

幼児期は身体的な発達が著しい。そのため,本 研究では,1年間隔で段階分けするのではなく,

4歳前半,4歳後半,5歳前半,5歳後半,6歳 前半,6歳後半というように半年間隔で年齢段階 を設定した。

2)運動能力の発達パターン

年齢に伴う運動能力の測定値の推移のみでは,

各年齢段階での特徴的な運動能力の発達傾向を捉 えきれない。そのため,運動能力の状態(25m走 と両足連続跳び越しが高いパターンなど)を同定 し,各年齢段階においてどの運動能力パターンが 多いかを明らかにすることで,各年齢段階によら ない運動能力の発達傾向を捉えることを試みた。

そこで,運動能力の各種目の測定値を元に調査対 象の1765名の幼児をケースとしてクラスター分析

(Ward法)を実施した。次に,見出されたクラ スターと年齢段階との関係を検討し,運動能力の 発達パターンから発達傾向を検討した。

さらに,同定された運動能力の発達パターンに みられた発達傾向に即した年代を各パターンの分 析対象として抽出した。例えば,4歳前半から5 歳前半にかけて人数が多いパターンであれば,4 歳前半から5歳前半でそのパターンに属する幼児 をそのパターンの分析対象とした。

また,各運動能力の発達パターンの特徴を検討

する際,運動能力検査の測定値を5段階の標準得 点に換算した評定得点を用いた。測定値ではどの 種目も年齢に伴って向上していく傾向で一致して おり,各年齢段階での特徴を捉えにくい。評定得 点は,各年齢段階で標準化されているので,各年 齢段階での発達の状態が顕著に現れると考えたか らである。

3)運動能力の発達と行動傾向との関係

これまでに同定された各運動能力の発達パター ンの背景を検討する手がかりを得るために,家庭 での行動傾向との関係を検討した。家庭での行動 傾向は13項目あり,これらを因子分析し項目を整 理して,その後の分析に用いた。

Ⅲ.結 果

1.運動能力の全体的な発達傾向

MKS幼児運動能力検査の測定値を用いて,種 目別及び男女別に運動能力の発達の推移を検討し た(表2,図1)。その結果,森他(2010)の結 果と同様にどの種目も発達傾向はほぼ直線的で あった。

しかしながら,図1の発達曲線からは本研究の 目的である各年齢段階の発達傾向の特徴を見出し にくく,年齢段階によらない発達傾向を探る必要 がある。そこで,「走力が高いが他が低い」,「捕 球とボール投げが高い」などといった運動能力の 表2 MKS幼児運動能力検査の測定値の平均と標準偏差

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発達パターンから発達傾向を捉えることを試み た。そのため,運動能力検査の各種目の測定値を 元に調査対象の幼児をケースとしてクラスター分 析を行い,見出されたクラスターと年齢段階との 関係を検討することで,運動能力の特徴的な発達 パターンにみられる発達傾向を明らかにすること を試みた。

2.運動能力の発達パターンの同定と発達傾向 運動能力検査の6種目を変数とし,1765名の幼 児をケースとするクラスター分析(Ward法)の

結果,発達パターン数の決定にあたり,4を指定 した場合に最も解釈可能な結果が得られたため,

本研究では4つのクラスターを抽出した結果を採 用した。表3のクロス集計表は同定されたクラス ターと年齢段階の関係を示したものである。

C1は,4歳後半から人数が多くなり5歳前半 で最も多くなっている。そして,5歳後半になる と人数が少なくなっている。さらに4歳後半と5 歳前半の中ではC1が最も多くなっている。この ことからC1は4歳後半から5歳前半にかけて発 達するパターンであると考えられる。

5 6 6 7 7 8 8 9

50 60 70 80 90 100 110 120

0 20 40 60 80

4 5 6 7 8 9 10 11

0 2 4 6 8 10

2 3 4 5 6 7 8 9

図1 運動能力(測定値)の発達曲線

(10)

C2は,このクラスター内では4歳後半が最も 多く,さらに4歳前半の中で最も多くなっている。

そして,5歳前半以降に徐々に人数が減っていく 傾向になる。そのため,C2は4歳前半から4歳 後半にかけて発達するパターンであると考えられ る。

C3は,5歳前半から多くなり始め,5歳後半 で最も多くなっている。5歳前半の中でもC1に 次いで2番目に多く,5歳後半の中では最も多い クラスターとなっている。そして,6歳前半では C4に次いで2番目に多くなっている。そのため,

C3は5歳前半から6歳前半にかけて発達するパ ターンであると考えられる。

C4は,5歳後半から多くなっていき,6歳前 半では最も多く,このクラスターに属する幼児の 半分以上が6歳前半となっている。6歳前半と6 歳後半においても,このクラスターが最も多く

なっている。そのため,C4は5歳後半から6歳 前半にかけて発達するパターンであると考えられ る。

以上のことから,運動発達パターンにみられる 発達傾向は,C2からC1,C3,そしてC4へ と発達していくという傾向が認められた。

次に,各運動能力の発達パターンの特徴を検討 するために,同定された運動能力の発達パターン にみられた発達傾向に即した年代を各パターンの 分析対象(例えば,C1であれば4歳後半と5歳 前半)とし,運動能力検査の各種目の評定得点を 従属変数,クラスターを独立変数とした一要因分 散分析を行った(表4,図2)。また多重比較検 定に関しては,Bonferroni法を採用し,有意水準 を5%に設定した。表4には,運動能力の各発達 パターンにおける各種目の評定得点の平均値と標 準偏差,および分散分析の結果を示した。

表3 運動能力の発達パターンと各年齢段階のクロス集計表

年齢 運動能力の発達パターン

C1 C2 C3 C4 合計

4歳前半 4 (4.1) 9 (1.7) 1 (4.3) 0 (3.8) 14

4歳後半 187 (113.5) 114 (46.9) 69 (117.6) 13 (105.0) 383 5歳前半 193 (126.8) 60 (52.4) 125 (134.4) 50 (117.4) 428 5歳後半 91 (128.9) 21 (53.2) 175 (133.6) 148 (119.3) 435 6歳前半 47 (135.4) 12 (55.9) 160 (140.3) 238 (125.3) 457

6歳後半 1 (14.2) 0 (5.9) 12 (14.7) 35 (13.2) 48

合計 523 216 542 484 1765

注1) ( )は期待度数

表4 運動能力の各発達パターンにおける各種目(評定得点)の平均値と標準偏差,および分散分析の結果

種目 運動能力の発達パターン

C1 (N=380) C2 (N=123) C3 (N=460) C4 (N=421) F値

25m走 2.67 (0.92) 2.15 (0.93) 2.85 (0.82) 3.29 (0.80) 71.18**

立ち幅跳び 2.81 (0.84) 2.33 (0.94) 2.78 (0.91) 3.47 (0.89) 77.30**

体支持持続時間 2.64 (0.79) 2.34 (0.85) 2.96 (0.86) 3.14 (0.92) 40.65**

両足連続跳び越し 3.05 (0.76) 1.85 (0.75) 2.97 (0.93) 3.17 (0.83) 81.01**

捕球 2.64 (0.74) 2.24 (0.75) 3.11 (0.88) 3.20 (0.74) 72.25**

ボール投げ 2.61 (0.84) 2.44 (0.82) 2.62 (0.85) 3.48 (0.84) 108.37**

注1) **P<.01 注2) ( )は標準偏差

(11)

分散分析の結果,すべての種目において有意差 が 認 め ら れ た(25m 走: F(3,1380)=71.18,

p <.01, 立 ち 幅 跳 び: F(3,1380)=77.30,

p<.01,体支持持続時間:F(3,1380)=40.65,

p <.01, 両 足 連 続 跳 び 越 し: F(3,1380)

=81.01, p <.01, 捕 球: F(3,1380)=72.25,

p <.01, ボ ー ル 投 げ: F(3,1380)=108.37,

p<.01)。多重比較検定の結果,以下のような結 果となった。基本的には,どの種目においても C2,C1,C3,C4の順で高くなっていくこ とが認められた。25m走と体支持持続時間では,

すべてのクラスター間で差が認められた。立ち幅 跳びに関しては,C1とC3の間のみに差が認め られなかった。両足連続跳び越しでは,C1,

C3,C4の間で差が認められなかった。捕球に 関しては,C3とC4の間で差がなく,ボール投 げではC1,C2,C3の間で差が認められなかっ た。

3.運動能力の発達と行動傾向との関係

各運動能力の発達パターンの背景を検討する手 がかりを得るために,各運動能力の発達パターン と家庭での行動傾向との関係を検討した。

まず,13項目ある家庭での行動傾向を整理する ために因子分析(最尤法,バリマックス回転)を 行った(表5)。因子数に関しては固有値1.0を基

準に考えると,3因子解が妥当であるとした.次 に,因子負荷量が0.4以下の項目または複数因子 に高い因子負荷量を示す項目を削除し,計9項目 を用いて再度因子分析を行った。第一因子は,「何 事にも積極的に取り組むほう」や「好奇心が旺盛 なほう」といった項目に高い負荷量が認められた ため,“活発的”とした。第二因子は,「心配性な ほう」と「神経質なほう」の2項目からなるため

“神経質”とした。第三因子は,「すぐ泣いたり怒っ たりと感情的なほう」と「わがままなほう」の2 項目からなるため“情緒不安定”とした。これら 3因子の信頼性をCronbachのα係数によって求 めたところ,第一因子は.742,第二因子が.617,

第三因子が.662であり,本尺度得点に関する信頼 性が確認された。

次に,この3因子からなる行動傾向を従属変数 とし,運動能力の発達パターンを独立変数とした 一要因分散分析を行った(表6)。多重比較検定 に関しては,Bonferroni法を採用し,有意水準を 5%に設定した。表6には,運動能力の各発達パ ターンにおける行動傾向3因子の平均値と標準偏 差,および分散分析の結果を示した。

分散分析の結果,神経質には差が認められな かったが,活発的と情緒不安定には差が認められ た(活発的:F(3,1344)=16.32,p<.01,神経 質:F(3,1345)=1.06,p>.10,情緒不安定:

図2 運動能力の発達パターンにおける各種目(評定得点)

注)図中の○内は,多重比較で差が認められなかった関係

(12)

F(3,1346)=5.7,p<.01)。多重比較検定の結果,

基本的には年齢と共に変化していく傾向(活発的 に関しては向上,情緒不安定は低下)が認められ た。活発的に関しては,C2とC1,C3とC4 の間で差が認められ,C1とC3との間には差が 認められなかった。情緒不安定に関しては,C2 とC1,C3とC4の間には差が認められず,

C1とC3の間に差が認められた。

Ⅳ.考 察

1.運動能力の発達パターンの同定

本研究では,幼児期の自我発達の様相を運動能 力の発達的特徴から検討することを目的としてい る。しかしながら,運動能力検査の測定値にみら れる発達曲線からは,運動能力の発達傾向の顕著 な特徴を見出すことができなかった。そこで,年

齢段階によらない運動能力の発達傾向を探るため に,運動能力検査の各種目の測定値によって運動 能力の発達パターンを同定することを試みた。そ の結果,4つの発達パターンが認められた(表3,

図2)。

C1は,4歳後半から5歳前半の年齢段階で幼 児が多く,この年齢段階にかけて発達するパター ンであると言える。運動能力の各種目共に,4つ のパターンの中で中程度である。ただ,その中で も両足連続跳び越しが高く,次いで立ち幅跳びが 高い。一方,ボール投げがまだ発達していない段 階である。

C2は,4歳前半の中で最も多く,C2の中で は4歳後半の幼児が最も多く,5歳前半になると 少なくなっている。そのため,このパターンは4 歳前半から後半にかけて発達するパターンである と言える。また,他のパターンと比べて,各種目 表5 家庭での行動傾向の因子分析結果

項目 因子1 因子2 因子3 共通性

何事にも積極的に取り組む 0.74 -0.04 -0.07 0.56

好奇心が旺盛 0.60 -0.07 0.05 0.37

社交的なほう 0.57 -0.15 0.00 0.35

自信があるほう 0.57 -0.17 0.01 0.35

遊びはリーダー的なほう 0.53 -0.02 0.16 0.30

心配性なほう -0.18 0.87 -0.03 0.79

神経質なほう -0.09 0.51 0.15 0.29

わがままなほう 0.02 0.02 0.80 0.64

すぐ泣いたり怒ったりと感情的 0.07 0.12 0.61 0.39

因子寄与 1.89 1.09 1.07 4.04

因子寄与率 20.97 33.04 44.94

表6 運動能力の各発達パターンにおける行動傾向の平均値と標準偏差,および分散分析の結果

行動傾向 C1 C2 C3 C4 F値 多重比較

活発的 2.25 2.02 2.25 2.35 16.32 ** C1>C2,C3<C4

(0.46) (0.48) (0.46) (0.45)

神経質 1.97 2.05 2.05 2.03 1.06 n.s

(0.69) (0.66) (0.69) (0.66)

情緒不安定 2.27 2.29 2.11 2.14 5.7 ** C1<C3

(0.63) (0.63) (0.64) (0.65) 注1) **P<.01

注2) ( )は標準偏差

(13)

共に運動能力は低く,その中でも両足連続跳び越 しが最も低い値となっている。

C3は,5歳後半の幼児が最も多く,6歳前半 でも比較的多い。そのため,このパターンは5歳 前半から6歳前半にかけて発達するパターンであ る。運動能力は,他のパターンの中で中程度であ るが,各種目の中で捕球が高くなっている。

C4は,5歳後半から多くなっていき,6歳前 半で最も多く,6歳後半の中でも最も多い。その ため,このパターンは5歳後半から6歳後半にか けて発達すると言える。運動能力は,4つのパター ンと比べて各種目とも最も高く,その中でも立ち 幅跳びとボール投げが顕著に高くなっている。

以上のように,運動能力の発達パターンは,

C2のような状態から,C1になり,続いて C3,C4と発達していくことが明らかになった。

2.運動能力の発達パターンにみる発達傾向 次に,運動能力の発達パターンにみられる運動 能力の発達傾向について検討する。まずは,運動 能力検査の各種目毎に検討していく。

25m走と体支持持続時間に関しては,各発達パ ターン間で差が認められ,年齢に伴って次第に発 達していくと言える。立ち幅跳びと両足連続跳び 越しに関しては,C1とC3の間で差が認められ ない。つまり,C1の4歳後半から5歳前半にか けて,立ち幅跳びと両足連続跳び越しが特に発達 すると言える。また,立ち幅跳びに関しては,

C3とC4との間に差が認められ,かつC4の中 で評定得点が高いことを考えると,5歳後半から 6歳後半にかけても立ち幅跳びの能力が高まると 言える。さらに,両足連続跳び越しに関しては,

C1,C3,C4の3パターンの間でも差が認め られない。すなわち,両足連続跳び越しに関して は4歳後半から5歳前半にかけて幼児期に発達し 得る平均的な段階まで急激に発達し,その後はあ まり発達しないと言える。捕球に関しては,C3 とC4の間で差が認められず,さらにC3の中で 捕球の評定得点が最も高いことを考えると,5歳 前半から6歳前半にかけて捕球する能力が高まる

と言える。ボール投げに関しては,C2,C1,

C3の3パターン間に差が認められず,この3パ ターンとC4との間に差が認められた。つまり,

ボール投げの能力は,なかなか発達しないが,5 歳後半から急激に高まっていくと言える。

次に,運動能力の発達パターン順にその特徴的 な発達傾向を検討する。まず4歳前半から4歳後 半(C2)での運動能力は全体的に低いが,その 中でも特に両足連続跳び越しが低い。しかし,そ の後の4歳後半から5歳前半(C1)にかけて急 激に高まる。また,4歳後半から5歳前半(C1)

の特徴としては,立ち幅跳びの能力の向上もあげ られる。この時期は,両足連続跳び越しと立ち幅 跳びという跳躍系の能力が高まるのが特徴と言え る。次に,三段階目である5歳前半から6歳前半

(C3)では,25m走と体支持持続時間も高まる が,特に捕球の能力が高まる。また,立ち幅跳び と両足連続跳び越しの発達が停滞する。そして,

四段階目の5歳後半から6歳後半(C4)に関し ては,それまであまり発達してこなかったボール 投げの能力が高まり,さらにはC1の段階で停滞 していた立ち幅跳びの能力も再び高まる。以上の ように,幼児期の運動能力は,幼児期前半では跳 躍系の発達が顕著であり,その後幼児期後半に なって捕球やボール投げといった操作系の能力が 高まっていくという特徴が明らかになった。

3.運動能力の発達パターンにみる自我発達 最後に,これまでに明らかになった運動能力の 発達傾向に行動傾向の特徴も加えて,幼児期の自 我発達の様相,特に非現実的な世界での体験につ いて推論していく。ここでは,特徴的であった両 足連続跳び,立ち幅跳び,捕球,ボール投げに着 目して検討する。

1)両足連続跳び越しの発達

4歳の段階では,両足連続跳びの能力が特に低 い。両足連続跳びは跳ぶ・移動するという動作を 連続させることが求められる動作である。そこで は,飛ぶと移動するという2つの動作をつなげる だけでなく,同じ動作を連続してつなげることも

(14)

求められる。この時期の幼児は,飛ぶ・走るとい う単体の動作はできる。しかしそれらの動作をつ なげることが難しいように思われる。遊戯期に入 り,目的やヴィジョンをもてるようになり,外界 との関わりをもちながらまとまりをもった自分の 世界を作っていこうとはするものの,この時期で はまだまとめることができていないと思われる。

このようなまとめられなさが両足連続跳びという 動作のまとめられなさにもあらわれていると考え られる。

そして,4歳後半頃から少しずつまとまりを もった世界を築き上げることができるにつれて,

動作もつなげることができ,それが両足連続跳び の向上にもつながっているのではないか。両足で 連続して跳ぼう・移動しようとするものの,それ が上手くできないという身体は,幼児にとって“私 ならざらるもの”であるが,連続して跳べるよう になると,それまで“私ならざるもの”であった 身体(私)が“私”になる瞬間である。その体験 は,新たな主体感を得る体験であり,幼児の世界 は一気に拡がる。それが,4歳前半から5歳前半 にかけて活発さが高まることにも現れていると思 われる。

2)立ち幅跳びの停滞と再発達

4歳後半から5歳前半にかけて,立ち幅跳びが 向上する。立ち幅跳びは,両足連続跳びとは異な り,遠くへ跳ぶ動作である。そこでは下半身だけ でなく上半身をも連動させることが求められる。

この動作の上達に関しても,両足連続跳び越しと 同様に,外界や他者などと少しずつつながりをも つことができるようになっているこの時期の自我 状態とつながっているように思える。身体の内や 外界,他者とのつながりに対する実感が,幼児の 世界を拡げることになり,活発的な行動傾向につ ながっているのも両足連続跳び越しと同様であろ う。

しかしながら,立ち幅跳びは下半身と上半身の 連動だけでは,その後の上達は望めない。力を貯 める,そしてその力を地面に伝えることが必要に なってくる。その動作ができないために,5歳前

半からしばらく上達が停滞することになる。しか し,“力を貯める・伝える”ということが課題で あると考えると,5歳前半から後半にかけて活発 さが停滞し,かつ感情をコントロールすることが できるようになることと関連しているように思え る。つまり,この時期の幼児は,“ただ単につな がる”だけでなく“どのようにつながる”かを意 識し始めているのかもしれない。そのために,跳 ぶエネルギーや行動での活発さ,そして感情を“貯 め”,それらをいかに上手に“伝える”かという 課題に取り組んでいると考えられる。

そして,5歳後半から6歳前半になると,あら ゆるものを“貯め”,そしてそれらを外界に“伝 える”ことができるようになる。それがこの時期 における立ち幅跳びの上達や活発さの向上という 形でもあらわれていると思われる。このように幼 児期前半と後半の立ち幅跳びの上達は幼児の体験 としては意味が異なる。幼児期前半では,幼児自 身の内でのつながりの成果であると言え,後半は 外界とのつながりの成果であると言える。また,

立ち幅跳びの上達がみられない4歳後半から5歳 前半にかけては,それまでにみられた立ち幅跳び や両足連続跳び越しという動作に上達がみられ ず,活発さも停滞するが,幼児の体験としては大 変重要な取り組みをしている。この時期の幼児は,

外的には変化がみられなくても,目に見えない内 的な体験ではつながりの質を変え,つながる対象 を拡げようと苦闘しているのである。

3)捕球の発達

5歳前半から後半にかけて,捕球の能力が向上 する。捕球は,測定者から投げられたボールを キャッチする動作であり,動くものと他者の存在 が動作に加わってくる。跳んでくるボールにタイ ミングを合わせる,さらにはボールを投げる他者 とタイミングを合わせることが必要となる。両足 連続跳び越しと立ち幅跳びで課題となっていたつ ながりとは異なり,捕球ではものや他者とのつな がりが課題となってくる。5歳前半から後半にか けて幼児はつながる対象が現実的なものや他者に 拡がり,その対象とのつながり方をつかみ始めた

(15)

のだと思われる。

捕球は跳んでくるボールにタイミングを合わせ るだけでなく,ボールを待つことが求められる。

この“待つ”はボールだけでなくあらゆるもの・

ことを“待つ”ことでもあり,それが感情を“お さえる”ことにつながっていると考えられる。そ れが5歳前半からみられる感情のコントロールの 向上にあわわれているのではないだろうか。そし て,待って捕球できた実感は,幼児に新たな世界 を拡げることになり,より活発になるのだと思わ れる。

さらに,捕球は他者とかかわる動作である。つ まり,“自分の延長上であった他者”が“自分と は異なる他者”となり共に世界(捕球)を築いて いく動作である。ボールを投げる他者が,“自分 とは異なる他者”であることを認識し,その他者 と共に世界を築き上げることができないと捕球動 作はできない。捕球動作の向上の背景には,他者 の存在・役割の明確化が関係していると思われ る。また,他者の役割を明確に認識できるように なったのは,それまでの段階での運動能力の向上 も関係している。つまり,捕球やボール投げ以外 は,“自分の延長として他者(身体)”との関わり に基づく動作であるが,その動作の習得過程では

“できない身体”が“自分とは異なる他者”とな り,その“他者(身体)”との関わりを体験して きている。この体験が,現実の他者との関わりに 取り組む土台になっていると思われる。

4)ボール投げの発達

それまであまり発達しなかったボール投げが5 歳後半から急激に向上するようになる。ボール投 げは捕球と同様にものを操作する動作である。他 者が関与する捕球の方が難易度が高いと思われる が,先に発達するのは捕球であり,ボール投げは その後である。捕球と異なるのは,ボールを自ら 投げることである。捕球は跳んでくるボールを 待って受け取るという受動的な要素が強いが,

ボール投げはボールを投げるという能動的な要素 が強い動作である。そして,それは自分の意志を 発信することでもあり,その意志をできるだけ遠

くへ,できるだけ広く発信することでもあると言 える。ボール投げの動作がそれまでにあまり発達 しなかったのは,自分の意志を発信するという意 図が芽生えていなかったからではなかろうか。そ れまではただ投げているだけであり,より遠くへ とは考えていなかったように思える。また,ボー ルを遠い所(他者)へ届けるという意図も芽生え ていなかったと思われる。5歳後半になり,他者 の存在が“自分とは異なる他者”となり,その他 者と共に世界を築き上げていけるようになること で,ボールを遠くの所(他者)へ届けるという意 識が育まれ,それがボール投げの向上という形で もあらわれていると考えられる。

さらに,ボール投げは単にボールを遠くに投げ るだけの体験ではない。ボールが自分の手から離 れ,遠くの地へ着地する。それはあたかもボール が身体の一部であり,着地した地までもが身体で あるように感じる体験でもあると思われる。つま り,ボール投げはボールと一体化し,環境とも一 体化するといった身体を拡げる体験でもある。

ボール投げが幼児期後半になって発達することを 考えると,ボール投げはあらゆる対象とのつなが りを実感してきた体験が土台になって初めて発達 する運動能力であると言える。そして,そうした 体験は,より一層幼児の世界を拡げることにつな がる。5歳後半から活発さがさらに増すという背 景には,自分のできることが増えるという世界の 拡がりだけでなく,他者や環境との関わりが増え,

幼児の世界がさらに拡がった結果でもあると考え られる。

Ⅴ.結 論

本研究では,幼児期の自我発達の様相を運動能 力の発達から捉えることを試みた。その際,年齢 段階による運動能力の発達曲線から検討するので はなく,運動能力の発達パターンを同定し,年齢 段階によらない運動能力の発達傾向を検討した。

その結果,運動能力の発達パターンとして4パ ターンが認められた。全体的に運動能力が低く,

(16)

特に両足連続跳びが低いパターン(C2),全体 的に運動能力が中程度ではあるが両足連続跳びと 立ち幅跳びが高いパターン(C1),全体的に運 動能力が中程度であるが,捕球が高いパターン

(C3),そして全体的に運動能力が高く,その 中でも立ち幅跳びとボール投げが高いパターン

(C4)に分類された。また,これらの4タイプ はC2からC1,C3,C4の順で発達していく 傾向が明らかになり,幼児期の運動能力は,幼児 期前半では跳躍系の発達が顕著であり,その後幼 児期後半になって捕球やボール投げといった操作 系の能力が高まっていくという特徴が認められた。

そして,これらの運動能力の発達傾向の背景に ある幼児の非現実的な世界での体験に焦点を当て て幼児の自我発達の様相を検討した。その結果,

遊戯期に入り,目的やヴィジョンをもって外界と の関わりをもちながらまとまりを持った自分の世 界を築こうとするその様相が運動能力の発達とい う形でも現れることが認められた。特に,幼児期 前半では,身体が“私ならざるもの”となり,そ の身体と一体になる体験がなされており,幼児期 後半では,他者やものが“私ならざるもの”とな り,それらと一体となって共に世界を築く体験が なされている。さらに,運動能力の発達が停滞し ている時期では,外的には変化がみられなくても,

目に見えない幼児の内的な体験では,あらゆるも のとのつながりの質を変え,つながる対象を拡げ ようと苦闘している。

このように,幼児の運動能力の発達は単にでき ないことができるようになったという体験だけで はない。また,できるようになった体験も自我発 達の様相に伴って体験の内容が異なる。さらに,

幼児期は自我と身体の両者とに未分化な状態であ り,その両者が相互に作用し合いながら分化の過 程を辿っている。そして,その過程では身体によ る体験が果たす役割が大きい。従って,言語能力 が発達していない幼児に対して,目に見える外的 な側面だけで判断するのではなく,身体を手がか りとして,幼児が非現実的な世界で主体感を獲得 しようとしている体験を大切にかかわることが重

要である。

引用文献

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(小谷 克彦 旭川校准教授) 

(今村衣津季 旭川校大学院生)

(奥田 援史 滋賀大学教授) 

(17)

参照

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