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日本内科学会雑誌第104巻第4号

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに

肥満症の多くは単純性肥満であるが,ホルモ ンの分泌や作用の異常によって起こる肥満を内 分泌性肥満と分類する.本稿では,その代表的 な疾患としてCushing症候群,甲状腺機能低下 症,インスリノーマ,性腺機能低下症,多囊胞 性卵巣症候群を取り上げ概説する.

1.Cushing症候群

Cushing症候群は副腎皮質ホルモンであるコ ルチゾールの慢性的過剰分泌によってもたらさ れる病態を指す.病因としては下垂体ACTH産生 腫瘍(Cushing病),コルチゾール産生副腎腫瘍

(腺腫,癌),異所性ACTH産生腫瘍などが主なも のである.コルチゾールの慢性的過剰症により 体幹部を中心に脂肪沈着をきたし,四肢は筋萎 縮をきたすことから,中心性肥満を呈する(図 1).肩甲骨への脂肪沈着(野牛肩)や鎖骨上部 への脂肪沈着も認める.コルチゾール自身の脂 肪分化促進作用に加え,コルチゾール過剰によ るインスリン抵抗性に伴う高インスリン血症も 脂肪蓄積に促進的に作用する.すなわち,イン スリンは,脂肪細胞に作用し,グルコースの取 り込みを促進させ,グリセロール 3 リン酸を生 成させ,脂肪細胞が,遊離脂肪酸を中性脂肪と して貯蔵することを促進する.また,インスリ ンはリポ蛋白リパーゼ活性を上昇させ,血漿中 のリポ蛋白中の中性脂肪の分解を促進し,遊離

内分泌疾患に続発する肥満症

要 旨

柳瀬 敏彦

野見山 崇

田邉 真紀人 内分泌性肥満症は,Cushing症候群のようにコルチゾールの過剰分泌に起

因するものや甲状腺ホルモン,成長ホルモン,性ホルモンの分泌不全症の ようにホルモン欠落によって生じるものまで様々である.その多くはイン スリン抵抗性を基盤とするメタボリックシンドローム(MetS)様病態を 呈し,動脈硬化症の発症リスクとなる.可逆性の二次性肥満症であること から早期発見・早期加療が重要である

〔日内会誌 104:690~696,2015〕

Key words 内分泌疾患,肥満症,メタボリックシンドローム

福岡大学内分泌・糖尿病内科

The Update of Obesity Syndrome:Molecular Mechanism, Pathophysiology and Therapies. Topics:I. Recent Topics on Diagnosis and Pathophys- iology of the Obesity Syndrome;1. Obesity secondary to endocrinological disorders.

Toshihiko Yanase, Takashi Nomiyama and Makito Tanabe:Department of Endocrinology and Diabetes Mellitus, School of Medicine, Fukuoka University, Japan.

(2)

脂肪酸を脂肪細胞内に取り込ませる一方,脂肪 細胞において,インスリンは,ホルモン感受性 リパーゼの活性を低下させ,脂肪細胞内の中性 脂肪分解を抑制する.これらの作用によって脂 肪沈着が促進され肥満となるが,脂肪沈着が部 位特異的である機序の詳細は不明である.中心 性肥満のほか,満月様顔貌,皮膚線条,多毛,

座瘡などの臨床徴候のほか,高血圧,糖尿病,

骨粗鬆症などの病態も伴う.

コルチゾールの自律性過剰分泌が長期に及べ ば,しばしば糖尿病を惹起する.その機序とし てコルチゾールなどの糖質コルチコイド(glu- cocorticoid:GC) は 肝 臓 の 糖 新 生 系 酵 素 の phosphoenolpyruvate carboxykinase や glu- cose-6-phosphataseの発現を増強する1).コルチ ゾールの直接的作用により肝臓からの糖の放出 も促進される.また,脂肪や筋肉での異化亢進 により産生されたグリセオールやアミノ酸(ア ラニンなど)が糖新生基質として肝臓に送り込 まれる.さらに,グルカゴン分泌を促進し肝糖 放出を促進する.GCはインスリンシグナルの抑

制や糖輸送担体(GLUT4)の細胞膜へのトラン スロケーションを抑制しインスリン抵抗性を惹 起するのみならず,最終的には膵

β

細胞からの インスリン分泌をも低下させる2).また,ステ ロイドにはインスリン拮抗ホルモンのグルカゴ ンやカテコラミンなどの作用を増強する受容効 果が知られており,この効果も糖尿病へ向かわ せる.また,GCには食欲亢進作用を認める.GC は視床下部において摂食促進物質のNeuropep- tide Y(NPY)に促進性に,また,摂食抑制物質 のCorticotropin-Releasing Hormone(CRH)に抑 制性に作用するとの説もあるが,機序の詳細は 明確ではない.なお,GCは骨形成因子として知 られるオステオカルシンの分泌を抑制し,実際 にCushing症候群では血中オステオカルシンの 低値が知られている.興味深いことにオステオ カルシン遺伝子破壊マウスは耐糖能障害を呈す ることが知られており2),GC過剰病態における 耐糖能障害の一因となっている可能性がある.

なお,副腎腺腫からのコルチゾールの自律性 分泌は認めるものの,上記Cushing徴候を認める に至らない病態はサブクリニカルクッシング症 候群と呼ばれている.全国疫学調査によれば,

本病態でも一般集団における肥満の発症頻度よ りは,肥満の合併が多いことが報告されており

(図2)3),生活習慣病の背景要因としてこのよう な軽いホルモン異常が見過ごされている可能性 が考えられる.

2.甲状腺機能低下症

トリヨードサイロニン(triiodothyronine:T3)

は褐色脂肪組織における熱産生を促す一方,脂 肪分解を促進する.また,T3は骨格筋も標的と し,エネルギー消費の亢進を促す.T3のこれら の作用機序には褐色脂肪組織におけるミトコン ド リ ア 内 の 熱 産 生 蛋 白 の 脱 共 役 タ ン パ ク 質

(UPC)1の活性化や白色脂肪組織における

β

3ア ドレナリン受容体の増加も関与している.従っ 図1 自験症例のCushing病患者

満月様顔貌,水牛様肩,中心性肥 満(内臓脂肪型肥満)を呈する.

(3)

て,甲状腺ホルモンの低下は,低体温や基礎代 謝の低下,活動量の低下をもたらし,体重増加 の方向に作用する.事実,甲状腺機能低下症に おけるT4 製剤の補充は安静時エネルギー消費 量の変動をもたらす.甲状腺機能低下症におけ る体重増加には,ムコ多糖類の増加とそれに伴 う水貯留(粘液水腫)も関与する.種々の断面 臨床研究では,潜在性あるいは顕性甲状腺機能 低下症患者におけるBMI高値が報告されている が,潜在性甲状腺機能低下症における体重増加 については否定的な成績も多く見解の一致をみ ない.興味深いことに,肥満者ではしばしば中 等度の血中TSHレベルの上昇を認め,このTSH 上昇は体重減少に伴い正常化することから,肥 満の原因ではなく結果である可能性が指摘され ている.この現象に関しては肥満者の脂肪組織 から分泌されるレプチンとTRH分泌との関連に 言及する仮説が提唱されているが,明確な結論 は得られていない4)

3.成長ホルモン欠損症

本症は視床下部―下垂体系の器質的・機能的

障害によって発症する,あるいは腫瘍性病変の 場合はその手術,放射線治療後などに発症する 場合がほとんどである.成長ホルモン(growth hormone:GH)は骨・軟骨系の発育促進作用の みならず,代謝作用を有する.成人GH欠損症患 者では易疲労感,気力低下,認知力低下,うつ 状態,性欲低下などの自覚症を認めると同時 に,骨密度の減少,筋肉量の減少,内臓脂肪型 肥満を認める5).内臓脂肪の蓄積はインスリン 抵抗性,糖尿病,高脂血症などの病態と密接に 関連し,冠動脈疾患の高い有病率につながる.

GHには脂肪組織のホルモン感受性リパーゼを 活性化する作用があるため,GHの分泌低下は,

脂肪分解の低下を引き起こし体脂肪の貯留を促 進する.また,GHには筋肉の蛋白合成を促進し 筋線維を肥厚させる作用があり,GH分泌不全に よる筋肉量の低下がインスリン抵抗性病態を助 長している可能性がある.事実,成人GH分泌不 全症患者にGH補充療法を行うと体脂肪の減少,

筋肉,骨量,体液量の増加が見られ,さらに脂 質代謝改善効果を通じて心血管障害による死亡 リスクも減じることが報告されている5). 図2 サブクリニカルクッシング症候群の合併症(厚生労働省 副腎研究班:全国調査2003-

2007対象)(文献3より引用改変)

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

248 126

145 110

136 226

195 248

2 99 29 38

24

14 14 17 17 13 13 D

M IGT Obesity

HT

diagnosed not diagnosed unknown Not described 64.5%

31.8%

62.8%

(17.3%)

日本人全体に おける頻度

(30.5%)

(18.0%)

(4)

4.インスリノーマ

インスリノーマは 100 万人に 4 人程度の稀な 腫瘍であり,恒常的なインスリン過剰分泌によ り低血糖発作を引き起こす.通常,低血糖は空 腹時に起こる場合が多いが,食後に起こる場合 もある.体重増加と肥満は,低血糖を避けるた めの少量食事の頻回摂取6)やインスリン自体の 脂肪蓄積作用によって起こると考えられている が,顕著な肥満は必ずしも経験されない.

5.男子性腺機能低下症

本症は,視床下部―下垂体系の異常や精巣の障 害によってテストステロン産生が障害された場 合に起こるが,最近は前立腺癌治療に伴うテス トステロン欠乏によるものも増加している.テ ストステロン(testosterone:T)は男性の体構 成の重要な決定因子である.男性において脂肪 蓄積の程度は血中T値と逆相関し性腺機能低下 症の男性では体脂肪の有意の増加を認め,それ はT投与によって減少する.さらに,若年健康 成人の内因性血中T値をゴナドトロピン放出ホ ルモンアナログの投与によって低下させた場合 には,体脂肪率の増加と安静時エネルギー消費 量の低下が認められる.AR遺伝子の塩基配列の 上流にはCAGリピートが存在するが,リピート 数の増加に応じてAR転写活性が低下し体脂肪 率が上昇することが報告されている.また,前 立腺癌患者におけるGnRHアゴニストによるア ンドロゲン除去療法の経過において体脂肪の増 加,インスリン抵抗性,MetS,糖尿病の高率な 発症が観察されている(図 3)7).これらの事実 は,内因性のT-AR系はヒトにおいて,エネル ギー消費を高め,体脂肪を減らす方向に作用し ていることを示唆する.ARノックアウトマウス

(ARKO)ではオス特異的に,皮下および腹部内 臓 周 囲 の 白 色 脂 肪 組 織 の 増 加 と 肥 満 を き た す8).Tはアロマターゼによってエストロゲンに

も転換されるため,内因性Tの欠乏はエストロ ゲンを介した作用の欠乏も含む一方,Tの濃度 や作用の低下が肥満をもたらす機序とは逆方向 に,肥満が血中Tの低下をもたらす機序も提唱 されている.脂肪組織由来の炎症性サイトカイ ンは視床下部のGnRHの上流に位置するキスペ プチンニューロンを抑制し,また,視床下部の レプチンシグナルは通常GnRH分泌を刺激する が,肥満者ではレプチン抵抗性によりそれが機 能しない.この二者が相まってGnRH分泌低下→

下垂体におけるゴナドトロピン分泌低下→精巣 におけるT分泌低下をもたらす仮説が提唱され ている9).T産生と肥満の間には悪循環が存在す る可能性が考えられる.

6. 女性性腺機能低下症(男性エストロゲン 欠乏症も含む)

閉経前女性の 17

β

-estradiol(E2)は卵巣から 産生され,循環血中の主要なエストロゲンであ るが,閉経後は卵巣からのE2産生が激減し,循 環血中のE2は主に,末梢組織においてアンドロ ゲンから転換され産生されるものが主体とな る.また,末梢組織においてエストロゲンは estrogen sulfotransferase(EST)によって不活性 化されることから,ESTの発現量や活性によっ てもエストロゲンの作用は左右される.E2が激 減する閉経後に女性の体脂肪量,BMIが増加し,

糖尿病や動脈硬化発症リスクが増加することは よく知られており,女性において内因性エスト ロゲンは脂肪蓄積に抑制的に作用している.閉 経後女性を対象にした 100 を超えるランダム化 試験のメタ解析によれば,エストロゲン補充療 法は,糖尿病のない閉経後女性のlean body mass

(LBM)の増加,腹部内臓脂肪の減少,インスリ ン抵抗性の改善をもたらす10).一方,病的なエ ストロゲン欠乏は,視床下部―下垂体―卵巣系の 器質的,機能的障害,あるいはこれらの系の腫 瘍の手術などの治療後に発症する.

(5)

内因性のエストロゲン欠乏モデルの 1 つであ るアロマターゼ欠損症の患者では内臓脂肪型の 肥満を呈する.男性患者においても認められる ことから(図 4)11),男性のT欠乏に伴う肥満症 においても内因性エストロゲンの欠乏が関与し ていることを示唆する.ER

α

欠損男性患者でも 空腹時血糖とインスリンの上昇が認められてい る.種々の動物研究の結果も総合すると,エス トロゲン欠乏は食欲増加とエネルギー消費量の 減少をもたらすと推察される.末梢ではエスト ロゲンは脂肪組織において中性脂肪分解酵素の LPL活性を抑制する一方,脂肪蓄積に関係する LPIN1 遺伝子発現を抑制することから,脂肪合 成・分解の双方に作用すると考えられる.最近,

マクロファージをはじめとする免疫細胞系にお けるER

α

の欠如は,種々の炎症性サイトカイン

の上昇をもたらし,脂肪細胞や骨格筋のインス リン抵抗性をもたらすことが報告されている.

また,エストロゲン欠乏は肝臓の遊離脂肪酸の

β

―酸化の障害により脂肪肝,インスリン抵抗性 を引き起こすことから,ヒトにおいても長期的 なエストロゲン欠乏は肥満のみならず,非アル コール性脂肪性肝炎(NASH)をもたらす可能性 がある.

7.Polycystic ovary syndrome(PCOS)

女性で両側卵巣の多囊胞性腫大,月経異常,

多毛,男性化徴候,肥満を呈する症候群である.

ただし,インスリン抵抗性は肥満を伴わない PCOSにも存在することから,PCOSそのものの 発症にインスリン抵抗性や高インスリン血症が 図3 アンドロゲン除去療法により内臓脂肪型肥満とMetSが増加(文献7より引用)

ADT:androgen deprivation therapy 80

60 40 20 0

Metabolic Syndrome p=0.03

p<0.01

ADTControl Non-ADT

Prevalence

80 60 40 20 0

Fasting Hyperglycemia p=0.027

p<0.01

Prevalence

80 60 40 20 0

Low HDL-Cholesterol p=0.34

p=0.35

Prevalence

80 60 40 20 0

Abdominal Obesity p<0.01

p<0.01

80 60 40 20 0

Hypertriglyceridemia p=0.022

p=0.52

80 60 40 20 0

Blood Pressure Medication p=0.75

p=0.27

(6)

関わっていることが示唆される.PCOSは海外の 報告では生殖可能年齢女性の 15~20%にみら れ,頻度の高い疾患である.インスリン抵抗性 はPCOS症例の 50~70%にみられ,肥満とは独 立して生じ,耐糖能異常が30~40%,2型糖尿 病は 7.5~10%に生じる.インスリン抵抗性の 増大に伴いMetSの発症リスクも高くなり,海外

のメタ解析ではBMIを一致させた対照群に比較 し てPCOSがMetSを 発 症 す る オ ッ ズ 比 は 2.2

(95%CI:1.36~3.56)と報告されている.治療 面では減量により各種代謝異常の改善のみなら ず,アンドロゲンの低下,規則的な月経および 排卵の回復も期待でき,現体重の 5~10%程度 の減量でも効果的な場合がある.糖尿病例の薬 物療法では,メトホルミンを使用した成績の報 告が多く,インスリン抵抗性を改善させ各種代 謝異常を是正するだけでなく,アンドロゲンの 低下も期待できる.また,排卵を改善させ不妊 にも有効との報告もある.このように,メトホ ルミンは高血糖の改善にとどまらず,PCOSの病 態全体を改善させる可能性がある.

おわりに

内分泌性肥満症の多くはインスリン抵抗性を 基盤とするMetS様病態を呈し,動脈硬化症の発 症リスクとなる.可逆性の二次性肥満症である ことから原疾患の早期発見に努め,ホルモン過 剰の是正やホルモン補充療法を早期に開始する ことが重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:柳瀬敏彦;講演 料(MSD),寄付講座(MSD)

図4 アロマターゼ欠損症男性患者例(文献11より引用)

内臓脂肪型肥満を呈する

(7)

文 献

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3) 柳瀬敏彦,他:アジソン病,副腎性サブクリニカルクッシング症候群の全国における実態調査 厚生労働省科学研 究費補助金(難治性疾患克服研究事業),平成 22 年度研究報告書.2011, 139―146.

4) Reinehr T : Obesity and thyroid function. Mol Cell Endocrinol 316 : 165―171, 2010.

5) Molitch ME, et al : Evaluation and treatment of adult growth hormone deficiency : An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab 91 : 1621―1634, 2006.

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11) Herrmann B, et al : Impact of estrogen replacement therapy in a male with congenital aromatase deficiency caused by a novel mutation in the CYP19 gene. J Clin Endocrinol Metab 87 : 5476―5484, 2002.

 

参照

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