電磁環境の改善に関する研究
CISPR測定系を用いた放射妨害波源の可視化
石田 康弘*1
Study for Improvement of Electromagnetic Environment
Visualization of Radiated Emission Sources Using CISPR Measurement System Yasuhiro Ishida
CISPR
測定系による電界振幅データのみから,電子機器・装置の放射妨害波源を探知する方法に関して,新たな探知アルゴリズムを提案した。これは,予め波源位置を均等に固定配置することで,推定波源の最適初期位置の選 択と波源数の決定に要する再帰計算を不要にし,計算効率の向上と探知精度の安定化を図るものである。計算機シ ミュレーションにより,波源が多数個存在する場合や線状に連続する場合においても,波源が正確に可視化できる ことが示され,さらに電波半無響室にて2個の球状ダイポールアンテナを用いた検証実験においても良好な結果が 得られた。
1 はじめに
電子機器・装置から放射される電磁妨害波による周 囲への障害を防ぐため,
CISPR
(国際無線障害特別委 員会)により,放射妨害波の許容値と試験法が国際的 に規定され,国内においてもそれに準じた規制が行わ れている。製品開発において,妨害波を許容値以下に 抑えることは非常に困難であるが,これは妨害波の発 生源を特定できないことが大きな理由である。そこで,電子機器・装置の放射妨害波源探知法が確立されれば,
妨害波低減へ向けて極めて有効な手段となりうる。
従来の探知方法として,近磁界プローブを使用して 近傍界の測定を行う方法があるが,遠方界における妨 害波測定値との相関が不明であるほか,測定者自身が 電磁界を乱す等の問題がある。一方,遠方界の電磁界 測定値を用いる方法として,合成開口法 ,1)
MUSIC
法2) 3)
,最大エントロピー法 ,電波ホログラム観測による 方法 等があるが,いずれも電磁界の振幅だけでなく,4) 位相を測定する必要があり,
CISPR
の妨害波測定系を そのまま利用することができない問題がある。さらに,通常の電子機器の放射妨害波は位相が変動しているた め ,位相の正確な測定そのものが困難である。5)
そこで,電磁界の散乱問題に用いられる離散的特異 点法 を応用した新たな探知法が提案された 。これは,6) 7) 測定電界の振幅情報のみを用いて推定波源を最適化計
*1 機械電子研究所
算するもので,位相情報が不要であり,
CISPR
の妨害 波測定系がそのまま利用できる。本手法に関して,こ れまでに波源が垂直方向を向く場合 及び水平方向を8) 向く場合 への適用性が示された。さらに,水平,垂9) 直両電界を用いることで,任意方向を向く波源への適 用が可能となった 。しかし,従来のアルゴリズムで10) は波源初期位置の選択や波源数の決定に再帰計算が必 要であり,計算効率や探知精度が波源数や配置などの 波源条件によって大きく左右される問題があった。本報告では,その問題を解決する新たなアルゴリズ ムを提案する。従来は,波源位置と電流値の両方を未 知数として最適化計算したのに対し,新アルゴリズム では予め波源位置を均等に分散・固定し,各々の電流 値のみを未知数として推定することで波源分布を再現 するもので,波源の可視化が可能となる。ここでは,
計算機シミュレーションにより,波源が多数個存在す る場合や線状に分布する場合などにおいても,新アル ゴリズムによって波源が正確に可視化できることを示 す。さらに,電波半無響室において球状ダイポールア ンテナを模擬波源として用いた検証実験の結果による 有効性を併せて記す。
2 基本手法
2-1 放射妨害波源モデル
座標系及び電流モデルを図 1に示す。放射妨害波源
-
として,位置座標Qi xi yi zi
( , , )に電流値Ji Jxi Jyi
( , ,図 1
-
座標系及び電流モデルJzi
)の微小ダイポール波源を想定する。添え字i
はi
番目の波源( =1〜i N
:波源総数)を意味する。一方,Pm
(x m
,y m
,z m
) (m
=1,2,…Mp
:測定点総数) は 半 径 一 定 の 円 筒 上 に あ る 測 定 点 座 標 で あ る 。r mi
はQi-Pm
間の距離であり,(1)式で表される。添え字(− )は,床面の反射波による寄与を意味
i
する。また,Emhi
はJi
による測定点Pm
における水 平電界,Emvi
は垂直電界である。2-2 電界計算
水平電界
Emhi
を放射界のみで近似すると(2)式で 表される 。9)ここで
k
は波数(2π/波長)であり,Jhmi
は水平 電界へ寄与する指向性を含めた波源電流値,Dhmi
は 測定アンテナの指向性である。垂直電界Emvi
につい ても同様に表される 。10)次に ,複 数 波源に よ って 合成 され た水 平電界 振幅
Emh
及び垂直電界振幅Emv
を求める。ここで,実際の電子機器においては,個々のディジタル信号の高調 波がランダムに位相変動しているため,それに起因す る放射妨害波も大きな位相変動を持ち,複数波の電界 相加性は電力加算に近い特性を示すことが報告されて いる 。そこで本計算においても,複数波の相加性を5) 電力加算として,合成電界の計算に(3)式を用いる。
2-3 基本アルゴリズム
従来の波源探知基本アルゴリズムを図 2に示す。最
-
初に全測定点における水平,垂直電界振幅の測定値を 入力する。これをもとに,以下の手順により逆問題を 解いて未知波源を推定する。〈
Step
1〉基本計算波源総数
N=
1として適当な波源初期値α(0)
,β(0)
を与え,最適化計算を開始する。αは波源位置座標 ( ,xi yi
,zi
)の総称,βは電流値成分 (Jxi
,Jyi
,Jzi
) の総称である。(n)
の添え字があるものは,n
回の繰 り返し計算によって得られた推定値であることを意味 する。ここで,波源推定値α( n+ 1)
,β( n+ 1)
によって計 算 される電 界振幅Emu ( n+ 1)
と,測 定された 電界振幅Emu
Mとの偏差(Norm u
)を(4)式で定義する。図 2
-
従来の基本アルゴリズム本最適化計算では,(5)(6)式から導かれる連立方程式 を解いて水平電界に対する補正量Δα
h ( ) n
,Δβh ( ) n
, 垂直電界に対する補正量Δαv ( ) n
,Δβv ( ) n
を計算し,(
n+
1)回目の推定値α( n+ 1)
,β( n+ 1)
を求め,その繰り 返しによってNormu
を最小化する。〈
Step
2〉最適初期位置の選択上記 繰り 返し 計算は, 初期位置 α
(0)
に よって は誤 った位置へ収束する(local minimum
)場合がある。そこで,十分多数抽出したα
(0)
に対して〈Step
1〉を 繰り返し,Norm w
(=Norm h
+Norm v
)が最小とな る場合を選択する 。7)〈
Step
3〉波源数の決定波 源 数
N
に お け る 〈Step
1 〉 〈Step
2 〉 終 了 時 のNorm w
をNorm N
( )と定義する。Norm N
( )<Norm N
(−1)の場合は
N
を1追加して〈Step
1〉〈Step
2〉を繰 り返し,Norm N
( )≧Norm N
( −1)の場合は波源数N
− 1における推定値を解として計算を終了する。3 新アルゴリズムの提案
従来のアルゴリズムにおいては,波源位置と電流値 がともに未知数であり,波源数の決定も含めて最適化 を行っている。そこで最適初期位置の選択と波源数の 決定に〈
Step
2〉及び〈Step
3〉による再帰計算が必要 であるため,初期位置の抽出が不十分であると,誤っ た推定結果を生じる可能性がある。また,波源数の増 加に伴って加速度的に計算量が増加する。以上のよう に,計算効率や探知精度が波源条件によって左右され,特に波源分布が複雑になった場合にその影響が大きく なる。
上述の問題点を解決するために,図 3に示す新たな
-
アルゴリズムを提案する。これは,波源総数N
と位 置座標αを未知数とせずに,Nge
個の波源を予め均等 に配置,固定するものである。そのため,探知計算に お け る 未 知 数 は 電 流 値 β の み で , 〈Step
2 〉 及 び〈
Step
3〉が不要となり,〈Step
1〉による計算が収束 した時点で電流推定値が出力され,計算が終了する。図 3
-
新アルゴリズム4 計算機シミュレーションによる評価 4-1 シミュレーション条件
本手法の有効性を検証するために,あらかじめ設定 した既知の波源を対象に波源探知計算を行い,推定結 果が設定値と合致するかを評価した。測定距離3 ,
m
測定点高さ1.0 ,1.5 ,2.0 ,測定角度間隔15度とm m m
し,推定波源の固定位置は図 4に示すように,- z
=1.25
m
のxy
平面に計49点(0.2m
間隔)を配置し,電流 初期値は全ての点で(Jxi
(0),Jyi
(0),Jzi
(0))=(1,1,1)とした。
図 4
-
推定波源固定位置4-2 結果及び考察
設定波源を図 5に示す。 =1.25
- z m
のxy
平面上にX
軸を向く波源が2個,Y
軸を向く波源が1個,Z
軸を向 く波源が2個の計5波源(700MHz
)が存在する。図の 垂直軸は波源電流値を表す。一方,図 6は本手法によ-
る推定波源であり,設定波源と良い一致を示している。図 5
-
設定波源(5波源)図 6
-
計算値による推定結果図 7
-
設定波源(連続分布)図 8
-
計算値による推定結果-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 01
23 45 Jx
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 01
23 45 Jy
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 01
23 45 Jz
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 01
23 45 Jx
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 01
23 45 Jy
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 01
23 45 Jz -0.6-0.4
-0.2 0 0.20.4
0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.501
1.52 2.53 Jx
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.501
1.52 2.53 Jy
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.501
1.52 2.53 Jz
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.501
1.52 2.53 Jx
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.501
1.52 2.53 Jy
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.501
1.52 2.53 Jz
Jx
Jx Jx
Jx
Jy
Jy
Jy
Jy Jz
Jz Jz
Jz
次に,図 7に示すような,
- x=
−0.6〜0.6 ,m y =
0.4m z
, =1.25m
の直線上に連続的な , 両電流成分をx z
持つ波源(700MHz
)を対象として検討した。推定波 源は図 8に示され,設定波源が正確に再現されている-
ことがわかる。上記の2モデルについて,他の周波数 においてもほぼ同様の結果を得た。さらに検討を進め た結果,本手法に関して以下のことを確認した。①上記以外の電流初期値を用いた場合も同様の結果が 得られる。
②波源が固定位置の中間に存在する場合,その周辺の 電流推定値が大きく,等価的に波源が可視化される。
③固定波源位置を3次元的に配置した場合も正しく可 視化される。
5 実験的検証
5-1 実験方法
実験系を図 9に示す。模擬波源として,送信用球状
-
ダイポールアンテナ(SDA
)2個を電波半無響室(内 寸W m
6 ×L
6.8m
×H
5.8 )内のターンテーブル上m
に 設 置 し た 。SDA
は 入 力 に 光 信 号 を 用 い , 内 部 でO/E
変換しており,ケーブルからの不要放射を無視で きる。非同期の2個の信号発生器から出された信号をSDA
にて電波に変換し,3m離れたログペリオディッ クアンテナ(UHALP
9107)で受信した。それをスペク トラムアナライザ( 3361 )を用いて検波及び平均化R C
し,円筒スキャンによるデータファイルをもとに探知 計算を行った。図 9
-
実験系5-2 結果及び考察
図 10に示すように2波源(700
- MHz
)が存在する場合 を設定した。Y
軸を向く波源が(0.4 ,0.4 ,1.25 )m m m
に, 軸を向く波源が(−0.4 ,−0.4 ,1.25 )にZ m m m
位置している。前述の計算機シミュレーションと同じ 条件にて波源推定を行った結果を図 11に示す。ただ-
し,電流値は最大値を1として正規化している。SDA 間相互の反射による2次波源の影響が若干見られるが,推定波源は設定波源とほぼ一致している。図には示し ていないが,波源の電流方向が異なるモデルや周波数 300
MHz
,500MHz
,1GHz
においても,同様の結果を 得た。以上のように,実験的検証においても,本手法 による波源の可視化が有効であった。6 まとめ
CISPR
測定系を用いて,装置周辺の位相を測定せず電磁界の振幅情報のみから放射妨害波源を探知する方 法について検討した。従来,本手法では波源位置と電 流値の両方を未知数とする最適化計算が必要で,計算 効率と探知精度が波源条件に依存する問題があった。
そこで今回,その問題解決のために,予め波源位置を 均等に分散・固定し,各々の電流値のみを未知数とし て推定することで,最適初期位置の選択及び波源数決 定のための再帰計算を不要とする新アルゴリズムを提 案した。計算機シミュレーションによる評価の結果,
波源が多数個存在する場合や線状に分布する場合など においても,波源が正確に可視化できており,さらに 電波半無響室における検証実験の結果,模擬波源とし て用いた球状ダイポールアンテナが300
MHz
〜1GHz
にて正確に可視化されたことで,新アルゴリズムの有 効性が示された。7 参考文献
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図 10
-
設定波源(2波源)図 11
-
実験値による推定結果-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0
0.20.4 0.60.81 Jx
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0
0.20.4 0.60.81 Jy
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.20
0.40.6 0.81 Jz
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.20
0.40.6 0.81 Jx
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.20
0.40.6 0.81 Jy
-0.6-0.4 -0.2 0
0.20.4 0.6 x-axis(m)
-0.6-0.4-0.20 0.20.40.6 y-axis(m) 0.20
0.40.6 0.81 Jz
Jx
Jx
Jy
Jy
Jz
Jz
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