電磁環境の改善に関する研究
アクティブ磁気シールド空間の形成に関する研究
古賀文隆*1 竹内信次郎*2 酒井福夫*3 円福敬二*4
A Study on Improvement of Electromagnetic Environment
A Study on Formation of Magnetically Shielded Space Using Active Compensation Fumitaka Koga, Shinjiro Takeuchi, Fukuo Sakai, Keiji Enpuku
低コスト,省資源で高性能な磁気シールドシステムを実現する一手法として,磁気シールドルーム内部に補償コ イルを付帯させ,動的に侵入磁界を補償する内部アクティブ磁気シールドシステムが考えられる。このシステムの 実現のための内部補償コイルの適切な配置を導出することを目的として,有限要素法を用いた数値計算により磁気 シールドルームの磁界解析を行った。その結果,矩形のループコイルを磁気シールドルームの1辺の長さに対し 1/2 の間隔で配置すれば,ルーム中央部付近に一様で低磁界な領域を形成できることがわかった。また,同システムの 制御系に組み込むフラックスゲート磁界センサの磁気ノイズの対策にアルミケースが有効であることを確認した。
1 はじめに
MRI装置,生体磁気計測システム,電子顕微鏡やEB 描画装置は,車両(車,電車)の通行等によって生じ る変動磁界の影響を受けやすい。そのため,これらの 機器は磁気シールドルーム内への設置を要求されるが,
シールド性能を上げるために磁性材料を多量に用いて 多層化するのみでは,重量,コストや省資源化の観点 から問題がある。そこで,軽量,低コストで高いシー ルド性能を実現するためにアクティブ磁気シールドシ ステムの研究が行われている1-4)。これは,磁気シール ドルームに付帯させた補償コイルにより,侵入磁界を 能動的にキャンセルすることでシールド性能を向上さ せるものである。この補償コイルは,磁気シールドル ーム外部1-3)または内部4)に配置する方法が提案されて いる。後者の内部アクティブ磁気シールドシステムで は,コイルで発生した磁界が新たな磁気障害源になら ず,またコイルに流す電流が小さいため安定化が容易 で省電力化できる等の利点があるが,これまで十分な 研究開発は行われていない。
本研究では,内寸幅 2.1m,奥行 2.3m,高さ 2.1m の 2重構造磁気シールドルームと内寸幅 2.968m,奥行 2.458m,高さ 2.878m の1重構造の磁気シールドルーム について,有限要素法を用いた磁界分布の数値解析を 行い,ルーム内の中央部付近に低磁界な領域を形成す
るための適切な内部補償コイル配置の導出を行った。
その結果,長方形のループコイルを,2重構造磁気シ ールドルームに対しては 1.05〜1.1m 間隔,1重構造磁 気シールドルームに対しては 1.5m 間隔と,共に1辺の 約 1/2 の間隔で配置すれば磁界を良好に補償可能であ ることがわかった。次に,異なる磁気シールドルーム の構造や寸法下での磁界分布の違いや,内部補償の効 果に関する情報を提供することを目的として,複数の 立方体形状の磁気シールドルームモデルの磁界解析を 行い,磁界分布データの作成を行った。更に,アクテ ィブ磁気シールドシステムの制御系に組み込むフラッ クスゲート磁界センサから生じる磁気ノイズの対策に 関して検討を行い,アルミケースの有効性を確認した。
2 アクティブ磁気シールドルームの磁界解析
有限要素法を用いた数値計算により,磁気シールド ルームの線形磁界解析を行った。磁気シールドルーム には,渦電流シールド効果が得られない直流や低周波 成分ほど侵入しやすく,また自動車やエレベータの移 動により発生する変動磁界の主成分は10 Hz以下5)であ ることから,能動的な補償は主に直流磁界から数10 Hz 程度の低周波磁界に対して行うことを前提とし,ここ では静磁界解析を行った。
2-1 内部補償コイルの配置
磁界解析は,表-1に示す実際の磁気シールドルーム と同形状のモデルを作成して行った。内部補償コイル は,システム構成の単純さを優先し,ループコイル2
*1 機械電子研究所
*2 ユニテック(有)
*3 (株)エムティアイ
*4 九州大学大学院システム情報科学研究院
個を磁気シールドルーム内部に配置した。磁気シール ドルームに加える外部磁界は,一様な鉛直方向(Z方向)
の磁界とした。また,補償コイルに流す電流は,磁気 シールドルーム内の中心点での磁束密度がほぼゼロ(1 pT以下)となるように設定した。
シールド#1の解析モデル(1/4モデル)を図-1に示す。
この図では空気部の要素は表示しておらず,補償コイ ルは1/4ではなく全体を表示している。外部印加磁界
(磁束密度)は6
µ
Tとした。これまでの研究で,幅方 向2.06m,奥行き方向2.26mの長方形のループコイルを 内側のシールド壁面から距離が18mmの位置に配置した 場合の計算を行い,図-2に示す結果を得ている6)。こ れは,実際の磁気シールドルームに施工されている内 装の厚みを考慮して計算を行ったものである。図-2は,磁気シールドルーム内の中心を原点と定義し,補償コ イル間隔の変化に対する X,Y,Z各座標軸に沿った磁 束密度のz成分の変化を示している。同図より,コイル
間隔を高さ2.1 mの約1/2である1.05〜1.1mとしたとき に各方向にバランスよく有効な磁気シールド領域を確 保できることがわかる。
磁気シールドルームに内装が施工されない場合は,
補償コイルを磁性体のシールド壁面に近接して配置す ることがある。そこでシールド#1に対して,シールド 壁面から0.5mm離して幅方向2.095m,奥行き方向2.295m である長方形のループコイルを配置した場合について 磁界分布を計算した。図-3に,X,Y,Z各座標軸に沿っ た磁束密度のz成分の変化を示す。図-2と図-3を比較し,
補償コイルをシールド壁面に近接させた場合と内装の 厚み程度の距離を離して配置した場合とで,コイル間 隔と磁束密度の関係にほとんど差は生じないことが確 認できた。
次に,シールド#2についての磁界解析を,幅方向 2.966m,奥行き方向2.456mである長方形のループコイ ルを壁面から距離が1mmの位置に図-1と同様な状態で 配置して行った。外部印加磁界(磁束密度)は1
µ
Tとし た。Z軸に沿った磁束密度のz成分の変化を図-4に示す。この場合も,シールド#1と同様に,高さ2.878mの約1/2 である1.5mのときに広範囲で低磁界を実現できること がわかった。
実際のシールド#1に1.1m間隔で補償コイルを配置し たときの外部印加磁界(磁束密度 0.05Hz,355.6nTp-p) と内部の磁束密度の波形を図-5に示す。補償を行った とき,内部の磁束密度は1/1185まで減衰されており,
外部磁界を良好にキャンセルできることがわかった。
2-2 立方体形状磁気シールドルームモデルの磁界解析 磁気シールドルームの構造や寸法の違いにより内部 の磁界分布にどのような差が生じるか,また,それぞ れの場合に,内部補償を行うことでどの程度低磁界な 空間が形成できるのかという情報を提供することを目 表-1 磁気シールドルームの諸元
構造 材質 寸 法
幅×奥行×高さ(m),厚さ(mm) 2重 パーマロイ 外側:2.304×2.504×2.304,1.6
内側:2.100×2.300×2.100,2.0 2.968×2.458×2.878,1.0 1重 パーマロイ
シールド#1
シールド#2
コイル間隔 内部補償
コイル
Y X Z
図-1 内部補償コイルを付加した磁界解析用磁気 シールドルームモデル
(b) Y 軸に沿った磁束密度の変化
(a) X 軸に沿った磁束密度の変化 (c) X 軸に沿った磁束密度の変化 図-2 シールド#1の各座標軸に沿った磁束密度 z 成分の変化
(コイルの壁面からの距離:18mm,パラメータはコイル間隔)
的として,複数の立方体形状の磁気シールドルームの 磁界解析を行い,磁界分布データの作成を行った。
計算を行った磁気シールドルームの形状は図-6 に 示す 6 つを取り上げ,シールド壁の厚さを 1mm と 2mm の 2 通りに設定したので,モデルは合計 12 種類である。
更にそれぞれのモデルで,内部補償の有無の区別で計 算を行ったので,合計 24 種類のデータを得た。全ての
モデルにおいて,鉛直方向(Z 方向)に磁束密度 1
µ
T の一様な磁場がかかった状態で計算を行った。補償コ イルの間隔は全て内寸の高さの 1/2 に設定した。図-7 にデータの一部であるが,補償を行ったときの Z 軸に 沿った磁束密度の z 成分の変化を示す。いずれのモデ ルに対しても中央部付近に一様で低磁界な領域を形成 できている。このことからも,補償コイルの間隔を 1 辺の 1/2 に設定することは妥当であると考えられる。
3 磁界センサのノイズ対策
補償に用いるフラックスゲート磁界センサは,それ 自身が発振しており外部に微小な磁気ノイズを放射し ている。このノイズが制御系に影響を与える可能性が あるため,そのレベルの把握と対策の検討を行った。
3-1 実験方法
制御系に組み込むフラックスゲート磁界センサを動 作状態とし,放射される磁気ノイズをサーチコイルタ イプ磁界センサで測定し,周波数成分をスペクトルア ナライザを用いて解析した。またこのとき,アルミニ ウム製のケースをフラックスゲート磁界センサに被せ ることによりそのシールド効果を調べた。アルミケー スのシールド効果は,アルミケースのアース接続が有 無の場合それぞれに対して測定した。
3-2 結果及び考察
ここで用いたフラックスゲート磁界センサの発振周 波数は 15.75kHzであるので,15.75kHzにピークを持つ 図-4 シールド#2 の Z 軸に沿った磁束
密度 z 成分の変化
(a) X 軸に沿った磁束密度の変化 (b) Y 軸に沿った磁束密度の変化 (c) Z 軸に沿った磁束密度の変化 図-3 シールド#1 の各座標軸に沿った磁束密度 z 成分の変化
(コイルの壁面からの距離:0.5mm,パラメータはコイル間隔)
≒0.3nTp-p
≒6.0nTp-p
ACTIVE−OFF ACTI VE−ON 外 部 変 動 磁 界 355.6nTp-p
外部磁束密度
内部磁束密度
図-5 シールド#1 実機で補償を行ったとき の磁束密度波形
a b
b a c
キャンセルコイル
a
a c
キャンセルコイル
2重構造 1重構造
モデルタイプ a b c 構造
1 3.0 2.8 1.4 2重
2 3.0 − 1.5 1重
3 2.5 2.3 1.15 2重
4 2.5 − 1.25 1重
5 2.0 1.8 0.9 2重
6 2.0 − 1.0 1重
(単位:m)
壁の厚さt は1 mmと2 mmの2通り X
Z Y
図-6 立方体形状磁気シールドルームの数値計算モデル
放射磁気ノイズが観測された。図-8 は,アルミケース を被せたときに放射される 15.75kHzの磁気ノイズを,
アルミケースの厚さに対して記したものである。アル ミケースを被せることにより,放射磁気ノイズのレベ ルが低減されていることがわかる。アルミケースの厚 さは, 1mm程度で十分なシールド効果が得られた。ア ルミニウムの物性値を用いて同周波の表皮深さ7)を計 算すると約 0.65mmとなることからも,厚さ 1mmはシー ルド効果を得るのに適当な値であると考えられる。ま た,アース接続がより効果的であることがわかった。
4 まとめ
有限要素法を用いた数値計算により,磁気シールド ルームの磁界解析を行った。内寸幅2.1m,奥行2.3m,
高さ2.1mの磁気シールドルームに対して,長方形のル ープコイルを高さの約1/2となる1.05〜1.1m間隔で配 置すれば,鉛直方向成分の磁界を良好に補償可能であ ることがわかった。その際,ループコイルをシールド 壁面に近接した場合と,壁面から数10mm(内装の厚さ 程度)離した場合との差はほとんどないことがわかっ た。また,内寸幅2.968m,奥行2.458m,高さ2.878mの 1重構造の磁気シールドルームに対しても,長方形の ループコイルを同じく高さの約1/2である1.5m間隔で 配置すれば,鉛直方向成分の磁界を良好に補償可能で
あることがわかった。
次に,異なる磁気シールドルームの構造や寸法下で の磁界分布の違いや,内部補償の効果に関する情報を 提供することを目的として,立方体形状のシールドル ームの磁界解析を行い,24種類の磁気シールドルーム モデルの磁界分布データの作成を行った。このデータ からも,ルーム中央部付近に一様で低磁界な領域を形 成するには,補償コイルの間隔を1辺の1/2に設定する ことが妥当であることがわかった。
最後に,アクティブ磁気シールドシステムの制御系 に組み込むフラックスゲート磁界センサから生じる磁 気ノイズの対策に関して検討を行い,アルミケースが 有効であることを確認した。
5 参考文献
1)風見,足立,河合,上原,尾形,賀戸:日本生体磁 気学会誌,Vol.13,No.1,p.166(2000)
2)加藤,山崎,松葉,炭:日本生体磁気学会誌,Vol. 13,
No.1,p.170(2000)
3)山崎,藤原,栗城,林,平田:電気学会論文誌 A,
Vol.121,No.12,p.1085(2001)
4)竹内,坂井,酒井,円福:三島光産技報,No.22, p.
26(2001)
5)石塚:電磁環境工学情報,No.180,p.66(2003) 6) 古賀,竹内,酒井,円福:福岡県工業技術センター
研究報告,No.13,p.167(2003)
7) e.g., 宮副:「電磁気学 II」,p.108,朝倉書店(1983)
(i)
モデル1,2(1辺 3 m)(ii) モデル3,4(1辺 2.5 m)
図-7 立方体形状磁気シールドルームの Z 軸に沿った磁束密度の z 成分の変化(内部補償有り)
(iii) モデル5,6(1辺 2 m)
図-8 15.75kHz の放射ノイズレベルと アルミケースの厚さの関係