はじめに
近年,高齢化社会に突入した我が国において, Parkinson病(Parkinson’s disease:PD) は日常 臨床の現場で遭遇することの多い疾患であり, 高齢者医療や介護の観点からも大きな問題と なっている.PDは加齢とともに有病率が高くな ることが知られているが,無症候性脳梗塞に関 しても加齢によって頻度が増加することが知ら れている.本格的な高齢化社会ではPD,脳血管 障害,また両者が関連した脳血管障害性パーキ ンソニズム(vascular Parkinsonism:VP)は今後 も有病率が増加することが予想され,これらを 正しく理解することは内科医にとって必須とな りつつある.本稿ではVPの疾患概念や症状の特 徴から新しい診断法と治療を解説してみたい.1.疾患概念
VPの疾患概念,すなわち脳血管障害とパーキ ンソニズムの関連性が示唆されたのは,1929年 にCritchley1)に よ っ て「arteriosclerotic Parkin-sonism(脳動脈硬化性パーキンソニズム)」とし て定義されたことに始まる.Critchleyは本症の 基本病型を「筋固縮,仮面様顔貌,小刻み歩行 を認め,両側性の臨床症状を呈する,安静時振 戦を認めないもの」と定義している.しかし, 脳動脈硬化性パーキンソニズムの名前は脳動脈 硬化の用語が不明確であったことより,一般化 されることはなかった.また,病変部位に関し ても基底核,中脳から橋,小脳,大脳皮質に及 び,病変の性状もラクナ梗塞,出血,グリオー シスなどを含むとした.そのため,症状と病変脳血管障害性パーキンソニズムの
新しい診断法と治療
要 旨 西山 和利 金子 厚 脳血管障害性パーキンソニズム(vascular Parkinsonism:VP)は Parkinson病(Parkinson’s disease:PD)の鑑別疾患において重要な疾 患である.近年PDの診断におけるDAT SPECTやMIBG心筋シンチグラ フィーなどの画像診断検査の進歩がめざましく,鑑別疾患であるVPの診 断においても重要な検査となっているが,検査結果の解釈には注意が必要 である.VPの治療に関してはl-Dopa製剤への反応性が低いため,脳血管 障害発症に対しての一次予防および二次予防が最も重要となる. 〔日内会誌 104:1585~1590,2015〕Key words 脳血管障害性パーキンソニズム,Parkinson病,DAT SPECT,MIBG心筋シンチグラフィー
北里大学神経内科学
Treatments for Parkinson’s Disease―Essential Knowledge for General Physicians―. Topics:VII. New diagnostic methods and treatments of vascular parkinsonism.
との関連性,さらには動脈硬化所見との関連も 疑問視され,疾患概念が一般化するには至らな かった.しかしながら,その後のCTやMRIなど の画像診断検査の進歩により,脳血管障害病変 の検出が明瞭化されたこと,典型的なPDの患者 では軽度の脳萎縮以外に局在病変がみられない ことから,脳血管障害によってパーキンソニズ ムを来たし得るとの考え方が確実視され,VPの 名称が一般的に使用されるようになった. VPが脳血管障害に起因してパーキンソニズ ムを来たす疾患概念である以上,原因と考えら れる脳血管病変の検討がこれまで数多く行われ ている.Yamanouchi2)らは以下の条件に基づい てVPを定義し,病理学的な検討を行った. ① 生前にパーキンソニズム(振戦,固縮,無 動,歩行障害の 4 項目のうち 2 項目以上を 満たす)を呈する. ② 病理学的に中脳黒質の脱色素がなく,かつ Levy小体を認めない. ③脳血管障害が病理学的に存在する. ④ パーキンソニズムを呈する変性疾患および 薬剤性パーキンソニズムを除外できる. その結果,VPの病理学的特徴は,基底核ない し視床の多発性小梗塞,大脳白質の広範な虚血 性変性,高度の動脈硬化と白質小動脈の硝子様 変化を呈し,Binswanger型白質脳症の病理学的 変化と類似していることが示された.しかしな がら,Binswanger型白質脳症の全例でパーキン ソニズムを伴うわけではなく,パーキンソニズ ムを伴わないBinswanger型白質脳症の症例と VPの症例を比較するとVPでは基底核病変の差 は明らかではなく,大脳白質病変の広がりが小 さく,変性の程度も軽度であった.この結果か ら,VPの病態にはBinswanger型白質脳症より限 局した白質病変,特に前頭葉白質の関与が推測 された.一方で,画像診断による病変の検討も MRIの進歩に伴い,多く報告されている.本邦 で は, 基 底 核 の 多 発 性 ラ ク ナ 梗 塞 の 症 例 の 26%,大脳皮質下白質の広範な虚血性変化を認 める症例の 40%にVPがみられたとする報告が ある3).以上の結果をまとめると,VPを呈し得 る脳血管病変は大脳基底核・視床の多発性脳梗 塞とBinswanger型白質脳症に類似した白質の広 範な虚血性変化,特に前頭葉白質,側脳室周囲 の広範な虚血性変化と考えられる.大脳基底核 や視床,中脳などの単一病変でのパーキンソニ 表 脳血管障害性パーキンソニズムとParkinson病の比較(文献5より一部改変) 脳血管障害性パーキンソニズム パーキンソン病 発症 緩徐または急性 緩徐 進行 階段状に進行性 慢性進行性 左右差 なし あり(特に初期) 姿勢 直立姿勢 前傾,前屈姿勢 歩行 開脚ですり足・小刻み歩行・すくみ足 閉脚で小刻み・突進現象・すくみ足 振戦 なし,または姿勢時振戦(8~12 Hz) 安静時振戦(4~6 Hz) 筋固縮 鉛管様 歯車様 無動 下半身に強い 全身の動作緩慢 抗パーキンソン病薬の効果 不良 良好 その他 錐体路徴候(痙縮,Babinski反射,深部腱反射亢進) 認知症 仮性球麻痺 尿失禁 情動失禁などを合併しやすい
ズムの発症の報告も散見される4)が,単一病変 の占める頻度は少ない.
2.症状
VPの臨床症状はPDとは大きく異なり,VP, PDに精通している神経内科医師にとっては,典 型例であれば両者を鑑別することはそれほど難 しいわけではない.しかし,必ずしもVPの患者 が神経内科を最初に受診するわけではなく,む しろ一般内科を受診することが多いと考えられ ることから,一般内科医は病歴,身体所見から パーキンソニズムを適切に見抜かなければなら ないといえる. VPとPDの臨床経過・症状の違いを表にまと めた5).具体的にはVPはPDに比して発症年齢が 高齢であり,発症と経過が緩徐進行性ではな く,急性ないしは階段状に進行することが多 い.症状に関しては左右差を認めず,姿勢は直 立姿勢をとることが多い.歩行障害での発症が 多く,歩行は開脚して小刻みで,すり足歩行で ある.直立姿勢をとるため,歩行時はチョコチョ コとペンギンのような歩き方となる.症例に よっては歩行開始時にすくみ足が目立つことも ある.PDに特徴的な安静時振戦は認めず,振戦 はないか,あったとしても姿勢時振戦となる. 筋固縮はPDが歯車様(関節を動かすとカクン, カクンと歯車を回転させるときの感じに似てい る)であるのに対して,VPは鉛管様(関節を動 かすとほぼ一様に抵抗を感じる)となる.その 他VPには錐体路徴候としての痙縮(spasticity) ないしGegenhalten(四肢を急速に動かすと抵抗 があるものの,ゆっくり動かすと抵抗が少な い)を示すことが多い.顔貌や上肢の症状に比 して下肢の症状が主体であることから,VPは lower-half Parkinsonismま た はlower-body Par-kinsonismとも呼ばれている.VPでは仮性球麻 痺,尿失禁,認知症,情動失禁,深部腱反射亢 進,Babinski徴候などの脳血管障害で認めやす い症候を合併することが多い.また,l-dopa製 剤への治療反応性の悪さもVPを示唆する所見 と考えられる. しかしながら,臨床症状のみでは鑑別困難な 症例も多く,画像検査が普及した今日では,各 種検査は必要不可欠なものである.一方で,画 像検査上の虚血性変化のみで短絡的にVPと診 断してはならないという点も念頭に置いておく べきである.常にパーキンソニズムを来たす疾 患の鑑別を十分に行う必要がある.3.鑑別診断
鑑別診断に関しては,一般的なパーキンソニ ズムを来たす疾患の除外が基本となる.PDとの 鑑別もさることながら,薬剤性パーキンソニズ ムも決して稀ではないため,必ず原因となり得 る薬剤の使用歴がないかは確認が必要となる. その他,変性疾患に伴うパーキンソニズム(進 行性核上性麻痺,多系統萎縮症,皮質基底核変 性症など)との鑑別は判断に迷う場合も多い が,病歴や身体所見のみならず,各種画像検査 での特徴的な所見が重要となってくる.脳炎, 頭部外傷,CO中毒などの後天的な脳損傷の既往 や,脳腫瘍,特発性正常圧水頭症,プリオン病 などの器質的脳疾患に関しても必ず除外するこ とが必要である.4.画像検査
1)MRI MRI検査の普及と進歩はめざましく,神経内 科領域のみならず,各診療科領域で必要不可欠 な検査となりつつある.頭部MRIはVPの診断に おいて上述した通り,大脳基底核・視床の多発 性脳梗塞とBinswanger型白質脳症に類似した白 質の広範な虚血性変化を証明する重要な役割を 担っている.図1,図2に典型的なVPのMRI画像を示す.ここで重要なことは,上述の病変を認 めたもの全てがパーキンソニズムを呈するわけ ではなく,基底核の虚血性変化は相当高度にな らない限り,パーキンソニズムを発症しないこ とである.また,MRI検査は上記の鑑別すべき 疾患の診断に対しても大きな役割を担う検査で ある.
2)[123I]β-CIT SPECT(DAT SPECT)
[123I]β-CIT SPECT(DAT SPECT)は本邦でも 2014 年より臨床で用いられるようになった画 像 検 査 で あ る. ド パ ミ ン ト ラ ン ス ポ ー タ ー (dopamine transporter:DAT)は主として黒質― 線条体系ドパミン神経の神経終末に存在し,シ ナプス間隙に放出されたドパミンの再取り込み を 行 っ て い る.PDお よ びLewy小 体 型 認 知 症 (dementia with Levy bodies:DLB), そ の 他 の Parkinson症候群では,ドパミン神経終末の減少 を反映し,線条体におけるDAT密度が低下して いることが知られている.PDでは線条体の尾側 から集積低下を認め,症状の左右差を反映して DATの集積低下も運動症状の優位な側の対側の 被殻に始まり,左右対称性に進行することが多 い.DAT SPECTはPDの早期診断に加え,MRIな どの他の画像検査と組み合わせることによっ て,パーキンソニズムを来たす他の疾患との鑑 別に有用な検査となっている.VPにおけるDAT SPECTの有用性に関しては,海外を中心に多く の報告がされているが,一定のコンセンサスが 得られた典型的な所見はない.しかしながら, VPの臨床症状を呈し,画像検査上脳血管障害を 有する患者20人を対象にした研究では,半数の 患者で何らかのDAT SPECTでの異常所見を認め たとの報告がある6).また,VP患者群と健常者 群を比較した研究では,DATの取り込みにおけ る左右差の点では有意差は認めないものの,大 脳基底核への全体的な取り込み低下に関して は,VP群で有意差をもって取り込み低下が高度 であったとの報告もされている7).VPとPDの症 例の中にはoverlapしている症例も少なくない ため,DAT SPECTの評価には異常所見の有無だ けでなく,定量的評価と臨床症状,その他画像 検査を踏まえて診断の補助として用いる点に注 意が必要である.また,加齢によっても線条体 での集積低下は認めるため,注意が必要である (加齢では年0.5~2.5%程度の低下,PDでは年6 図1 MRI T2強調画像 大脳基底核領域に多発性脳梗塞(高信号域) を認める. 図2 MRI FLAIR画像 両側側脳室白質に虚血性変化(高信号域)を 認める.
~13%の低下を示す)8).診断が不確かな症例で は検査を繰り返すことで診断の精度が向上する かもしれない. 3)MIBG心筋シンチグラフィー 1994 年に心臓交感神経のシナプス前小胞の ノルアドレナリンの蓄積を評価できるMIBGの 心筋における集積が,自律神経障害を伴う神経 変性疾患で著明に低下していることが報告され た9).以降PD,DLBでは高率に心臓のMIBG集積 が低下し,他のパーキンソニズム来たす疾患と の鑑別に有用であるとの優れたデータが本邦よ り数多く報告されている.MIBG心筋シンチグラ フィーはPDの診断に有用であるだけでなく,VP との鑑別診断にも有用である.VPで心・縦隔比 (H/M比)はコントロールと有意差がなく,PD に比べH/M比が有意に高値である10).
5.嗅覚検査
嗅覚障害はPD患者の 70~80%以上に認めら れる症状であり,PDの運動症状の 2~7 年前に 始まる可能性が示されている.PDの早期診断に も有効性が期待されており,VPでは嗅覚低下は 認めないため,鑑別の際に有効である.6.診断
現在までにVPを厳密に定義する統一された 診断基準はなく,疾患概念に関してもcontrover-sialな側面も残されている.その理由としてパー キンソニズムの症候をどこまで満たすかという 点と画像上での病変および病巣の広がりとの関 連性をどの程度認めるかで専門家の中でも議論 が分かれている.多くの文献や総説などで様々 な診断基準の案が提案されているが,重要な点 をまとめると以下のような項目が挙げられる. ①臨床症状として歩行障害を主とするパーキ ンソニズムを認める. ②頭部MRI検査にて脳血管障害を認める(大 脳基底核・視床の多発性脳梗塞とBinswanger型 白質脳症に類似した白質の広範な虚血性変化を 認める). ③パーキンソニズムを来たし得る変性疾患を 否定できる. ④薬剤性パーキンソニズムを否定できる. ⑤脳炎,頭部外傷,CO中毒などの後天的な脳 損傷の既往や,脳腫瘍,特発性正常圧水頭症, プリオン病などの器質的脳疾患を否定できる. ⑥抗Parkinson病薬の効果が乏しい. 上記の項目を満たした場合は,今後以下の項 目がVPを支持する所見となる可能性がある. 参考所見) i)DAT SPECTで正常ないしは軽度の両側性の 線条体ドパミン神経脱落所見を認める. ii)MIBG心筋シンチグラフィーで心臓交感神 経機能障害を示唆する所見を認めない.7.治療
VPはPDと異なり,疾患の本体は脳血管障害に 起因するため,高血圧,糖尿病,脂質異常症, 喫煙,肥満などの血管病変のリスクの是正が最 も重要である.基底核領域のラクナ梗塞や広範 な虚血性白質病変を呈する症例では,その中に 出血性病変を伴うこともあるため,出血性病変 の評価を行ったうえで抗血小板薬の投与を検討 することが必要である. 一般的にパーキンソニズムの症状に対しての l-Dopa製剤への反応性に関しては,VPはPDに比 して不応性であることが多い.これは治療開始 後にVPを疑う所見ともなり得る.しかし,VPで もl-Dopa製剤に反応する場合もあるため,試し てみる価値はある.用量や投与期間には明確な 基準はないが,l-Dopa/脱炭酸酵素阻害薬で500 ~600 mg/日まで徐々に漸増し,3カ月程度使用 しても効果がなければ中止し,漫然と長期に投与することは避けるべきである.塩酸アマンタ ジンは抗Parkinson病薬としての作用に加え,脳 血管障害後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善 に有効とされており,50~200 mg/日程度まで 試みることも多い.VPは前述の通り,lower-half Parkinsonismと呼ばれており,歩行障害が特徴 的であるが,VPの歩行障害ないしはすくみ足の 症状に対してのドロキシドパの有用性を検討し た報告は多くない.しかし,PD同様にドロキシ ドパは,すくみ足の症状に対して一定の症状改 善効果は期待できると考えられ,試してみる価 値はある.
おわりに
先にも述べたようにVPはまだ確立された診 断基準を持ち合わせていない疾患概念である. しかし,脳血管障害がパーキンソニズムを来た すことは紛れもない事実であり,VPの典型的な 症候を理解し,PDの診断に大いに寄与している 各種画像検査に関する理解を深めることで,VP の診断はより正確となる.治療に関しては, l-Dopaへの反応性が低いことを鑑みると,今後 の脳血管障害発症に対しての一次予防および二 次予防の観点が重要であり,いわゆる生活習慣 病への対応が重要となる. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:西山和利;講演 料(大塚製薬,サノフィ,第一三共,日本ベーリンガー インゲルハイム,ノバルティスファーマ,ブリストル・ マイヤーズ),寄附金(大塚製薬,大日本住友製薬,日 本ベーリンガーインゲルハイム) 文 献1) Critchley M : Areteriosclerotic Parkinsonism. Brain 52 : 23―83, 1929.
2) Yamanouchi H, Nagura H : Neurological signs and frontal white matter lesions in vascular parkinsonism. A clini-copathologic study. Stroke 28 : 965―969, 1997.
3) Tohgi H, et al : Symptomatic characteristics of parkinsonism and the width of subsutania nigra pars compacta on MRI according to ischemic changes in the putamen and cerebral white matter : implications for the diagnosis of vascular parkinsonism. Eur Neurol 46 : 1―10, 2001.
4) 藤本健一,他:MRIで明瞭な一側性黒質病変を認め,35 年間非進行性であったヘミパーキンソニズムの 1 例.臨床 神経学 37 : 729, 1997.
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