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資
料 〉﹃妊婦と胎児│二人の個人│﹄(胎児診断および
晩期堕胎に関するスウェーデンの報告書)(五
││生殖医学と法(三)││
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研究会
129一一『奈良法学会雑誌』第12巻1号(1999年6月)第
6
章
胎児診断に関する情報提供及び胎児診断に際する指導
概 胎児診断に際する情報提供及ぴ指導に関しては、多くの問題が存在する。まず最初の問題としてはどのような人達が情報提供及 ぴ指導の対象となるべきか、胎児診断に関してどのような情報が与えられなくてはならないのか(例えばその可能性、危険性及ぴ 限界)などが挙げられる。また、診断結果としてどのような情報が提供されるべきかという問題も存在する。その上、胎児診断に より胎児に先天性障害が認められた場合、胎児の両親に対しどのような指導が与えられるべきかという問題に直面することとなる。 もちろんこの場合、遺伝学的指導に関する問題や両親に提供される情報の制限問題なども浮上してくる。この節では、以上に挙げ た問題を個々に取り上げることとする。 l 略 胎児診断実施前の情報提供 妊娠した女性のほとんどは、何らかの形で産婦人科を訪れるものである。そこで、女性自身の健康状態及ぴ胎児の発育の診断を 2第12巻1号一一 130 目的とする様々な診断の実施を勧められる。 以前にも述べた通り、一般的に勧められる胎児診断は超音波検査のみである。人工妊娠中絶を目的とする胎児診断は、何らかの 適用事由をみたしていることがその実施条件となる。また、どの胎児診断に際しでも、女性側の同意が実施の最低条件である。 産婦人科の定期検診の際、超音波検査の目的、検査の結果得られる情報の種類及ぴ検査で得ることのできない情報の種類など、 検査に関する詳細な情報を、女性に対して提供すべきである。また、検査の主目的が妊娠期間の測定や妊娠経過の診断にある場合 においても、検査により他の情報が得られる可能性があることを女性に伝えておくべきである。それはつまり、胎児の持つ先天性 障害が発見される可能性について伝えることを意味する。また、胎児に先天性障害が認められた場合、女性が取りうる選択肢に関 しての情報も与えられるべきである。 染色体異常やその他の遺伝病を持つ子供を出産する危険性の大きい女性に対しては、遺伝学的指導を受けることが可能であると いうことを伝えておく必要がある。遺伝学的指導に関しては、同節 4 項で詳しく取り扱うこととする。 遺伝学的指導後に女性が胎児診断を受ける決心をした場合、その女性に対し、胎児の先天性障害を発見するための診断方法、そ の診断方法により引き起こされる不快感や問題及ぴ流産などの危険性、及びその診断方法が胎児の先天性障害を発見する可能性及 ぴその限界に関する詳細な情報が提供されるべきである。またその女性は、検査の結果胎児に先天性障害が認められた場合の選択 肢についても知らされているべきである。 以前にも述べた通り、どの胎児診断の実施に際しても、女性が胎児診断の実施如何を決断するために必要な情報を与えられてい ることが一般的に重要であり、それは同時に女性側の同意の有効性を認める際の最低条件である(インフォームド・コンセント)。 また、本調査委員会は、胎児診断により胎児に先天性障害が認められた場合の行動について、診断の前に熟考する機会を女性に 与えることの必要性をここで特に強調しておく。 本委員会は、胎児診断実施前の情報提供がどのように行なわれるべきか指針を示すのは、引き続き厚生省の役割であると考えて い ヲ 令 。
131一一『妊婦と胎児一二人の個人ー』 どのように胎児診断の可能性を伝えるべきか? 以前にも明らかにしたことであるが、胎児診断に関する限り、社会は女性(胎児の両親)自身の決断、価値判断及び主観的判断 を大いに尊重する立場をとるべきであると本調査委員会は考えている。これは、一方の決断が他方の決断よりもより﹁正しい﹂、も しくはより責任感のあるものだという判断をすることが不可能であるということを意味するものである。 ここで繊細な問題として浮上してくるのは、社会が積極的に胎児診断の実施を奨励するべきかという疑問である。 この疑問に関しては、人工妊娠中絶に対する社会の態度と比較して考察すべきであろう。第一に、社会が一女性に対し人工妊娠 中絶の実施を勧めることはありえない。その上、女性が自分の持つ可能性及び法的権利に関する知識を有していることが実施決断 の前提条件とされている。女性自身が人工妊娠中絶を行なう可能性に関する問題を提起しない限り、社会はその問題に介入するこ とはできないのである。女性が法により定められた期間内に人工妊娠中絶実施を決断した場合、その決断の根拠や理由が問われる ようなことはない。 人工妊娠中絶に関して言うと、それが一女性の問題である限りは、社会の態度は受動的かつ中立的である。それが人工妊娠中絶 を現象としてとらえる場合には、人工妊娠中絶の積極的防止かつ実施件数の減少への貢献と、社会の取る立場は明白なものとなる。 しかし、人工妊娠中絶に対する社会の態度と胎児診断に対するそれとを比較することがどの程度まで可能なのだろうか?人工 妊娠中絶の際と同様、社会が胎児診断に関して受動的な態度を取ることが果たして適切な選択と言えるのだろうか?それはつま り、女性(胎児の両親)自身を胎児診断に関する議論の主導権を握るものとし、決断に必要な全ての情報を得る権利を与えること を 意 味 す る 。 3 医学的にハイリスク・グループに属していると診断された女性に対しては、原則的に遺伝学的指導に関する情報が提供されてい る(本節 4 項参照)。多くの場合、胎児診断に関する情報が指導に関する情報と共に提供されるものと考えられる。これは、適切な 慣例的処置であり、本委員会が疑問とするところではない。しかしながら、女性(胎児の両親)自身の決断を尊重するという立場 より、女性(胎児の両親)が下した胎児診断実施の決断を唯一の適切かつ信頼できるものとしてとらえてはならないということを、 本委員会は強調しておきたい。ハイリスク・グループに属する両親は皆同じ種類の人間であるわけなどなく、その倫理的態度及ぴ
第12巻1号一一 132 心理的反応において多様性が見られるのは当然のことであろう。どの程度までの先天性障害を許容するかに関しても、個人的な差 が強く見られることであろう。 ハイリスク・グループに属していない女性、又は三五歳以下の女性に対して、胎児診断の情報を自動的に提供するべきではない と本委員会は考える。情報提供はそれを望む女性に対してのみ行なわれるべきである。女性が先天性障害児出産の危険率に関する 統計や胎児診断の診断結果の信用性に関する情報を得た後に胎児診断の実施を要求した場合には、実施の許可を与えるべきである と本委員会は考える。その場合、胎児診断実施が医学的に必要な処置であるという判断が医師により下されることが条件となる。 胎児の健康に対する強い不安感も、ケースによっては医学的適用事由に合まれることもある。 女性の中には、特別な理由もなく胎児の健康に関して強い不安感しいては苦悩すら感じる者もあることを、ここで本委員会は指 摘しておきたい。そのような女性に、胎児診断の実施は何ら効果を持たないことが常である。なぜなら、彼女達の苦悩が、親とし ての自分の能力に対する強い不安や親になるということへの強いアンビパレンツに端を発するものであることが多いからである。 そのような不安感は無意識のものであることが多いため、それが胎児の健康への不安という形として表現されることとなる。その ような不安感は胎児診断の実施により一時的に鎮静されることもあるが、多くの場合二足期間後に再び現れることになる。そのよ うな女性達には、セラピーなどの心理療法の方がより効果的である。心理療法の一環として胎児診断を受けるためには、女性の不 安感の原因を診断し、胎児診断以外に適切であると思われる療法をまず勧められることが条件となる。 三五歳以上の女性、以前に機能障害を持つ子供を出産した経験のある女性及ぴ遺伝病の保有者に対しては、常に胎児診断に関す る情報や指導を受けることが勧められるべきであると本委員会は考える。そのような女性に対しては、希望に応じて胎児診断が実 施されるべきである。 最後に、胎児診断に関する議論の高まり及ぴその分析の深まりについて強調しておきたい。これは深い意味で社会全体にかかわ る問題であり、産婦人科の診察室でのみ議論されるべき問題ではないと本委員会は考える。そのような問題は社会全体の問題とし て今よりも注目されるべきであり、またその医学的・倫理的・心理的・存在学的及ぴ社会的側面において議論されるべきである。 そのように深い議論が広く行なわれるようになると、可能性としての胎児診断の存在を知らない妊婦はいなくなるであろう。そ
の結果として、胎児診断の積極的な奨励の持つ正当性は今よりも少なくなるであろう。 また、女性(胎児の両親)が胎児診断に関する決断を下すことが、容易にも困難にもなるであろうことは理論的に推測できる。 医師などの専門家が学術的権威のある解答を出せるような純粋な生物学的又は医学的問題として、胎児診断を取り扱うことが不可 能になったという意味においては、決断を下すことの困難さは増大したと言える。その代わりに、女性(胎児の両親)は自分自身 の見解を持たなくてはならなくなった。社会における議論を耳にすることにより、女性は妊娠する前から胎児診断に関する問題に ついて様々な角度から考察するようになり、自分自身の人生観や中心的価値観を無視して客観的な知識のみに基づいて決断を下す ことが可能となってきている。 133一一『妊婦と胎児一二人の個人-j 遺伝学的指導 3 章
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節 3 項にも述べた通り、デンマークでは一九八一年以来、遺伝的指導に関する指令が下されている。その指令によると、 妊娠している女性(胎児の両親)は、その人達がある特定の条件を充たしている場合には遺伝センターで遺伝学的指導を受けるべ きであるとされている。その条件としては特に、女性自身や胎児の父親もしくはその近親者に染色体異常が認められる場合、胎児 の両親が以前染色体異常を持つ子供を出産した経験のある場合などが挙げられている。 本調査委員会は、胎児が染色体異常やその他の遺伝病を持って生まれてくる危険性が高い場合、デンマークのように本国でも女 性(胎児の両親)に対して遺伝学的指導を受けられるよう取り計らうべきであると考える。その際には、デンマークの例に倣い、 以下のような遺伝学的情報が胎児の両親に対して提供されるべきであるとする。 4*
遺伝病が子供に受け継がれる危険性についての情報 疾患の症状及ぴその治療の可能性についての情報 その疾患により両親及ぴ子供が受ける心理的・社会医学的影響に関する情報 障害者の置かれている状況及びその発展の可能性に関する情報*
*
*
第12巻 1号一一 134 一般的に、胎児の両親に対して遺伝学的指導を行なう者が、様々な胎児診断方法及ぴ診断結果の信頼性に関する情報を提供する ことが適切であると言えるであろう。 再度議論の的となる問題は、社会の側から遺伝学的指導の対象となる人々に接触を取り、指導を受けることを勧める権利がある かということである。そのような指導を行なう動機としては、先天性障害や疾患を持つ子供の出産防止が考えられる。例えば、近 親者の中に重度の遺伝病の保有者がいる場合などが、そのような接触の対象となる例として挙げられる。 そのような遺伝学的指導の実施は、人間観の弱体化へとつながる恐れがある。そのような指導は社会経済的観点より先天性障害 を持つ子供の出産防止を目的とするものであると解釈されかねない。 また積極的な遺伝学的指導は、指導の対象となる人々に精神的苦痛を与えることもある。また、そのような情報を得た夫婦が妊 娠・出産を断念することにつながることも多い。 このような場合においては、女性の利益が優先されるべきであると本委員会は考える。胎児の利益に関してこの時点で議論する 必要はないと考えられるため、女性には危険にも関わらず子供をつくるかそれとも断念するかを自己決定する明白な権利が存在す ると本委員会は考えている。このような選択の自由は、出産を決意する場合に、障害を持つ子供を養育する心理的準備を整えてい ることが条件となる。 最後に、胎児の両親がそのようなハイリスク・グループに属していると診断された場合、その担当医師が遺伝学的指導に関する 情報を提供するべきであると、本委員会は考えている。 検査結果に関する情報提供 以前にも述べた通り、胎児診断の目的は妊娠経過の診断あるいは胎児の健康状態を診断することにある。 妊娠経過が順調かどうかを診断する場合には、胎児の持つ先天性障害の発見が目的となることはないが、診断の際に先天性障害 が発見される可能性は避けきれない。 5
胎児の健康状態の診断は、主に染色体異常などの特殊な先天性障害の有無を確認するためのものである。この場合にも、検査対 象外の発見がされることがある。 胎児診断の対象外であるが、それでも診断の結果発見されるような情報は、一般的に﹁副発見物﹂と呼ばれる。このような副発 見物の取り扱いは繊細な問題の一つである。 本委員会の調査で明らかになったように、胎児診断の発達により、胎児はより独立した個体としてとらえられるようになってき ている。つまり、胎児を母体の一部と見なすことはもはや不可能であり胎児の利益も同様に尊重されなくてはならないという考え で あ る 。 135一一『妊婦と胎児一二人の個人 』 胎児を独立した個体として見なす考え方は、健康状態に関する情報を患者に対して提供するという医師の義務が、胎児の健康状 態に関しても無条件に適用されるものかどうかという問題につながる。現行の秘密保持法には、医師は未成年の子供の健康状態に 関する情報をその両親に提供する義務を負うものと規定されている。 医療関係者法によると、医療関係者は患者に対し、その健康状態や治療の可能性について情報を提供する義務を負っている。治 療の性質や目的上、情報の提供が適切ではないと考えられる場合については、患者に対して秘密保持が適用される(秘密保持法 7 章 3 項 ) 。 胎児を独立した権利を有する一個体と見なすということは、その母親に対して胎児の健康状態に関する重要な情報の提供を拒否 するという意味ではないと、本委員会は考える。母親は胎児にとって唯一の代理人であり、その上、妊娠一八週まではその動機に 関わらず自由に出産あるいは人工妊娠中絶の実施を決定する権利を有しているという意味では、胎児の運命を自由に決定できる存 在であると言えるであろう。 胎児に関する情報を女性に提供しないという処置を、治療の性質や目的上正当化するような理由は存在しないと本委員会は考え る 。 人工妊娠中絶に関する問題は本章
9
節でより詳細に取り上げるが、出産あるいは中絶を決意する際の支えになるよう、胎児診断 を受けた女性に対し胎児の健康状態に関する情報が提供されることが重要であることを、この場において強調しておきたい。胎児第12巻 1号一一 136 に関する重要な情報を提供しないということは、女性が後に先天性障害を持つ子供を出産するような場合に、その子供を養育する 心理的準備が整っていないという状況を生み出すことになる。このような場合、女性の利益は胎児のそれに先行させて考えられる べ き で あ る 。 また、胎児診断の際に発見された事実に関しても、女性にその情報が提供されるべきである。 この場合浮上してくる繊細な問題は、担当医師がそのような副発見物に関する情報を自発的に提供する義務があるのかどうかと いうものである。例えば、一般的な副発見物である胎児の性別などを無造作に知らせるべきかという問題である。 本委員会は、胎児の健康状態に影響を与える可能性のある情報に限り、自発的に提供するべきであると考える。それに対し、胎 児の性別が何らかの意味を持つ場合(血友病など)には、女性からの特別な要望がなくとも情報が与えられるべきである。それ以 外の場合においては、女性からの要望がない限りは性別に関する情報を提供する必要はない。また、女性が胎児の性別を前もって 知りたがることはあまり多くないということを、ここで述べておくべきであろう。 その他にも同様に繊細な問題として、胎児が成長するまで発現しないかもしれないような疾患に関する情報もまた自発的に提供 されるべきかという問題が挙げられる。 胎児期あるいは乳児期に治療を始めるためには、疾患に関する情報提供は重要な意味を持つものであるし、その場合、女性に対 する情報提供は医師の義務に含まれるべきである。治療によって症状を緩和することが不可能な場合についても、女性からの要望 があればその疾患に関する情報が提供されるべきである。 その他にも、生まれてきた子供に対し、その疾患に関する情報提供を行なうべきか、そしてもし行なう場合にはどの程度の情報 が提供されるべきかという問題も存在する。しかしこの問題に関しては本委員会がこの調査報告書の中で考察する必要はないと判 断 す る 。 これまでの本調査委員会の考察を要約すると、以下のようになる。担当医師は、胎児診断で明らかになった胎児の健康状態に関 する全情報を女性(胎児の両親)に対し提供すべきである。診断の目的にないような情報(副発見物)も、女性からの要望があっ た場合には提供するべきである。また、胎児の健康状態に直接関連性のない情報に関しては、要望があった場合に限り提供するの
が適切であろう。特別な秘密保持が適用されるような場合でない限り、最終的に情報提供実施の有無を判断するのは女性(胎児の 両親)自身である。 以上の原則を確立するために法改定を行なう必要性はないと本委員会は考える。現行の医療関係者法及び秘密保持法の規定で十 分であると判断されるからである。一般的指針が必要な場合には、厚生省が責任を持ってそれを提供するべきである。 診断目的とする情報の制限 胎児診断は、その急速な発達により、倫理的かつ心理的見地より論争の的になることが多くなってきている。本調査委員会はそ のような世論の動きに対応し、人工妊娠中絶を目的とする胎児診断に対して、社会は原則として保守的(受動的)な態度を取るべ きであると主張している。 6 137一一『妊婦と胎児一二人の個人一』 胎児診断の適用を制限するための方法としては、まず最初に、女性(胎児の両親)に対し、胎児診断の可能性・限界及ぴその危 険性に関する詳細な情報を提供するという子段が挙げられる。 第一一の方法は、担当医師が女性に提供する情報を制限するというものであるが、本委員会はその方法の適用を却下している。 第三の方法は、診断目的とする情報自体を制限するというものである。この方法はとりわけ染色体分析実施の際に有効であると 考 え ら れ る 。 今日一般的に適用されている染色体分析法(羊水分析法及び繊毛生検)に関しては、診断の目的とする情報を制限することは不 可 能 で あ る 。 遺伝子工学を医学的診断の分野に導入する目的での研究は、世界中で幅広く進められている。その研究結果は、遺伝子工学が胎 児診断の分野で利用されるまでにはまだ至っていないが、近い将来にそのような適用が可能となるであろうことは明らかである。 胎児期における遺伝子工学的診断は、まず第一に
DNA
分析という形で実現されることになるであろう。この方法は、DNA
の 個人的フラグメントの認識、フラグメントの変化の指摘、及びその変形と疾患との関連性をいわゆる﹁関連性分析﹂により研究す ることによって行なわれる。(詳しくは 2 章 5 節﹁ミクロ胎児診断法﹂参照)第12巻1号一一 138
DNA
技術を利用した染色体分析の持つ長所とは、ある一定のDNA
フラグメントのみを認識することが可能であるということ である。そのため、診断目的とされる情報のみに限定して分析を行なうことが可能となる。 診断目的とされる情報はできるかぎり限定されるべきであるという意見に、本委員会も賛成する。その場合、医師が情報提供の 義務に関するジレンマに悩むことも、女性が子供を出産するかどうかを決断する際にジレンマに苦しめられることもないはずであ る 。 本委員会は、この分野における発達を見守ることが重要であると述べるのと同時に、遺伝子工学の技術が医学の分野に導入され るようになった場合には、厚生省が必要な助言や指針を提供することが大切であることをここで強調しておく。 検査結果後の指導等 本調査委員会は 3 章 8 節において、胎児診断の際に見られる女性の心理的反応に関する調査結果を報告している。それより、以 下のような結論が導き出される。 7 胎児が先天性障害を有することを告知され、人工妊娠中絶の実施を決意した両親は、死産を経験した時と同様の心理的危機状態 に陥ることが多い。 胎児診断により先天性障害が発見された場合、両親の心理的反応に対応できるよう、担当医師が準備を行なっていることが重要 で あ る 。 検査結果で何らかの異常が認められた場合、その結果報告が瞬時に強い不安感を引き起こすことがある。しかしながら、その不 安感は一時的なものであることが多い。そのような不安感は、詳細な医学的情報及び適切な心理的援助の提供により緩和すること が で き る 。 胎児診断を受けた女性は、検査結果が出るまで胎児に対する感情を抑えこむ傾向がある。 多くの女性は、すでに胎児診断実施の時点で、診断により胎児に障害が発見された場合には人工妊娠中絶を行なう決心をしてい る。それと同時に、その選択には熟考及ぴ迷いの余地があることを、医療関係者は尊重しなくてはならない。以上の調査結果より言えることは、胎児診断結果告知後に心理的援助を提供する必要性が多大であるということである。 厚生省は一九八六年に、胎児診断に際して両親に与えられるべき情報及ぴ助言に関する報告書を提出している。報告書の内容に つ い て は 、 4 章 8 項 2 節を参照していただきたい。ここでは、以下のことを強調するにとどめておく。 胎児に先天性障害及ぴ疾患が発見されたという告知は、両親に強い悲しみを与、えるものである。最初に両親に伝えられる先天性 障害に関する情報及びその告知方法が、女性(胎児の両親)が出産あるいは人工妊娠中絶を決断する際に決定的な役割を果たすこ と に な る 。 139一一『妊婦と胎児一二人の個人-j 先天性障害に関する情報が幅広くかっニュアンスに富んだものであることが重要であることを考、えると、診断結果告知の際には、 担当産婦人科医師及ぴその病院勤務の福祉士の両方が出席することが適切であると本委員会は考える。遺伝学担当の医師がいる場 合には、その医師と連絡が取れるように取り計らっておくことが望ましい。繊細なケ
l
スにおいては、精神科医師及ぴ身体障害者 ケアや社会適応訓練等に関する知識及びその経験のある福祉士と連絡を取っておくことも良いであろう。 胎児の先天性障害に関する情報が現実的かつニュアンスに富んだものであることがどれだけ重要であるかを示す例として、次の ようなケl
スが挙げられる。ある女性が、胎児にタl
ナl
症候群あるいはクリネフェルタ│症候群の兆候が発見されたことを理由 に人工妊娠中絶を希望しているとする。以上の症候群は男性女性共に非常に稀な染色体異常のタイプであり、無精子症及ぴ不妊症 を意味するものであるが、それ以外はほとんど正常と変わらない。つまり、その子供達は概して正常な生活を送ることができるが、 子供をつくることはできないということになる。そのようなケ│スにおける情報提供の目的は、両親が子供の持つ障害に関してニ ュアンスに富んだ理解をすることにある。 両親がそのような情報を吟味し理解するためには、時間が必要である。よって、それが妊娠期間の比較的後期である場合でも、 出産あるいは人工妊娠中絶に関する決断を下す前に数日の熟考期間が与えられるべきである。またその熟考期間中に、両親に対し 心理的指導の提供が勧められることが望ましい。 両親が胎児の持つ先天性障害または疾患に関わらず出産の決意をした場合、あるいは胎児の持つ障害の発見が遅れたため、出産 以外に子段がないような場合には、妊娠期間中及ぴ出産後に心理的援助が提供されなくてはならない。第12巻1号一一140 厚生省は、以上のような指導に関する助言及ぴ指針を提供するべきである。 教 以前にも述べた通り、胎児診断が倫理的に容認できるような方法で実施されるためには、胎児診断に際して情報提供及び指導を 行なうことが非常に重要な意味を持つ。その情報及ぴ指導の形式や提供方法を考えるのは、医療関係者にとって大きな課題である。 女性が妊娠した際に最初にコンタクトを取る医療関係者は、産婦人科の助産婦であることが多い。つまり、女性に胎児診断に関 する情報を最初に提供するのは、助産婦の仕事であると言える。 妊婦あるいは助産婦の
AFP
スクリーニング検査に関する知識及ぴ検査に対する態度に関して、本国スウェーデンで実施された 調査では、スクリーニング検査に関する助産婦の知識レベルには大きな差があることが明らかになっている。全助産婦のうち五0
1
六O%
が、妊婦に正確な情報を提供するのに十分な知識を有していた。また同調査により、AFP
スクリーニング検査に関す る知識レベルは、最初の産婦人科来院の際が最も低く、以後目に見えて上昇することが明らかになっている。この理由のーっとし て は 、ATP
検査などに関する知識が他の妊婦から伝えられる可能性が挙げられる。妊婦がスクリーニング検査の実施を拒否する 理由として最も多く見られるのは、検査結果に対する恐怖心であり、多くの妊婦が検査の実施を希望するのは、子供が五体満足で あるという保障を得たいという熱意からである。 以上の調査はAFP
スクリーニング検査に限定して実施されたものであるが、胎児診断に関する助産婦の知識レベルを上げる必 要があるという一般的結論をこれより導き出すことができる。 胎児診断に関する知識が助産婦にとってどれだけ重要であるかを考慮すると、胎児診断の心理的側面、または人工妊娠中絶や障 害児の置かれている立場など、胎児診断に関連する問題等に関する基本的知識を助産婦教育のカリキュラムに取り入れる必要があ ると本委員会は考える。 胎児診断の分野における急速な技術発展、及ぴ多くの助産婦が十分な知識を有していないことを考えると、ガイダンス・補習教 育・学習日などの形で助産婦の再教育が実施されるべきであろう。その場合、胎児診断や人工妊娠中絶に対する障害者団体の見解 育 等 8などを取り入れることが適切であると本委員会は考える。 女性がその後胎児診断を受けるために医療施設を訪れる際には、産婦人科医師が彼女達に応対することが多い。つまり、女性(胎 児の両親)が決断を下す際に必要な基礎知識として、胎児診断の医学的・倫理的・心理的側面に関する詳細な情報を提供すること はその担当医師の仕事である(本章 4 節 2 項 参 照 ) 。 診断により胎児に先天性障害または疾患が認められた場合においても、正確な情報や適切な指導の提供は重要な意味を持つもの である。この場合、情報及ぴ指導の内容が、女性が出産あるいは人工妊娠中絶の実施を決断する際に決定的な役割を果たすことも ありうるからである。 141一一『妊婦と胎児一二人の個人ー』 少なくとも倫理的及ぴ心理的側面を考慮する場合において、医師の負う責任は重大なものである。繊細なケ
l
スでは、前節にも 述べた通り、精神科医や福祉士あるいは遺伝学者などが、指導を行なうに際して大きな助けになるであろう。その上、医師自身が 障害者の置かれている状況に関するより深い知識や理解を持つこともまた必要なことである。そのような知識や理解は、再教育や 学習日などの形で各医師に伝達されるべきである。 本委員会はここで、情報の伝達方法は情報の内容と同じくらい重要な役割を果たすことを強調しておきたい。よって、医師及ぴ 助産婦の再教育には、価値観などの問題に対する意識を高めるような学習内容を取り入れるべきである。その内容の例としては、 ﹁胎児診断の際に、人が無意識に持っている価値観により自我がどのように左右されるのか﹂、﹁意図の有無にかかわらず、医師や 助産婦の持つ価値観が妊婦に対して与える、直接的・間接的影響﹂などの問題が挙げられる。 当然のことだが、胎児診断に携わる職員の再教育に関しても、様々な倫理的問題に焦点を当てて行なわれるべきである。 人工妊娠中絶の前後に実施される指導に関しても、特別な配慮及び知識が要求される。この問題については本章9
、ロ節で詳し く述べることとする。第
7
章
私立病院等で実施される胎児診断について
現在までのところ、私立病院等における胎児診断実施が適切であるかどうか、国からの指針はまだ示されていない。第12巻l号一一 142 超音波検査が私立病院等で実施されることに対し、本調査委員会は何ら反対する理由は見いだせないと考える。それは、以前に も繰り返し述べた通り、超音波検査実施の主な目的が妊娠期間の測定や妊娠経過が順調であるかを調べることにあるからである。 人工妊娠中絶を目的として行なわれる胎児診断は、医学的・社会心理学的・倫理的に微妙な問題である。そのようなタイプの胎 児診断に対しては、何らかの形の社会的管理が必要であるというのが本委員会の見識である。胎児診断が私立病院等で行なわれる ことに、何ら支障はないと本委員会は考、えるものである。しかしながら、その実施には厚生省の認可を必要とするよう定めるべき であろう。そのような処置により、医療活動が必要最低限の倫理的・医学的条件を満たしているかどうか監督するという、厚生省 にとって最も重要な業務を遂行するための基礎が築かれることになるであろう。この問題に関して法令が制定されるべきである。
第
8
章
移植的胎児診断
概 移植的胎児診断の適用問題は、子供をつくる目的で胎外受精(試験管受精)を行なう技術の発展に伴い、浮上してきたものであ ヲ 也 。 略 その技術は以下のようなものである。女性の胎内から卵を摘出し、胎外でその卯を受精させる。その受精卵が数個の細胞に分割 した後に、その細胞片を取出し、何らかの遺伝的疾患が発現していないかどうかを分析する。疾患因子が確認されなかった場合に は、分析に使われた細胞片を除いた残りの受精卵を女性の子宮に戻し、その後の発育経過を見守る。 今までに知られている限り、この技術が実際に人間に対して利用されるには至っていない。しかしながら、これまでの研究の成 果により、この技術は人間に対しても適用可能であることが一不されている。胎外受精に関する法律案審議の際、厚生省長官はこの 問題に関する調査の続行の必要性について発言している。 察 遺伝倫理委員会はその最終報告書の中で、﹁細工された﹂受精卵、すなわち分析や実験の対象となった受精卵は胎内に再移植する 2 考べきではないという提案を行なっている。 本調査委員会は、調査報告書﹁胎外受精児﹂の中で、その点において遺伝倫理委員会と同様の見解を持つものであると述べてい る。つまり、分析や実験に用いられた受精卵は再移植されるべきではないという見解である。 この問題に関する法律案審議の際、厚生省長官は、胎外受精は自然な形で子供をつくることが不可能と診断された夫婦にのみ、 その適用が勧められるべきであり、その技術は現段階において診断目的に利用されるべきではないと発言している。その理由とは、 胎外受精技術が人間淘汰につながることを防ぐというものである この調査で明らかになった事実によると、受精卵を移植的に診断する技術はまだ人体に適用される段階には至っていない。よっ て、分割した受精卵のうち、移植的胎児診断の際に利用された部分が胎児の発達にどのような影響を与えるのか、まだ確認はされ ていない。それが確認されるまでは、以上のような胎児診断は実施されるべきではない。 その点を除いては、移植的胎児診断の利用法または利用範囲に関して議論するには時期早々であると本委員会は考える。 この分野における研究成果を見守るのは医学倫理委員会の役割であると本委員会は考える。研究成果の基本的評価が行なわれて 初めて、その技術の医療・診断的適用が倫理的に容認可能なものであるかどうかの判断を行なうべきである。 143一一『妊婦と胎児一二人の個人-j
第
9
章
自白人工妊娠中絶と胎児診断
概 以前にも述べた通り、現行の人工妊娠中絶法において、女性は妊娠一八週まではその理由に関わらず人工妊娠中絶を行なう権利 を有するものである。人工妊娠中絶手術が女性の健康に重大な危険を及ぼす可能性がある場合に限り、その実施が制限されること がある。妊娠一二週以降に人工妊娠中絶が行なわれる場合には、福祉士による調査の実施が義務づけられている。 ほとんどの人工妊娠中絶(一一二五四一件のうち約九O%
、一九八七年)は妊娠一二週以前に実施されている。その時期の人工妊 娠中絶に適用される方法は、妊娠一二週以降に適用されるものに比べ、単純かつ女性にとって肉体的負担の小さいものである。そ れと同様、その手術法が与える心理的負担も軽いものであることが多い ( 5 章 5 節 参 照 ) 。 略第12巻 1号一一 144 福祉士調査 5 章
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節で明らかにしたように、人工妊娠中絶実施を考えている女性には原則として福祉土との面談が勧められる。妊娠二一週 以前に人工妊娠中絶を行なった女性のうち、三分の一がこの勧めに応じている。 妊娠一二週以後には原則的に福祉士調査の実施が義務付けられているのにも関わらず、実際に福祉土と面談を行なっているのは、 妊娠一三 i 一八週目に人工妊娠中絶の実施を希望する女性のうち半数以下である。それ以外にも、担当医師がそのような調査実施 の必要性を認めない場合も存在する。 2 3 本調査委員会の提案 現行の人工妊娠中絶法は、妊娠一八週以前の人工妊娠中絶を自由に行なう権利を認めるものである。自由人工妊娠中絶について 議論を行なうことは、本調査委員会の任務には含まれていない。 ここで議論すべき問題は、すなわち、初期人工妊娠中絶に際して行なわれる福祉士調査に関してである。 妊娠一二週までに人工妊娠中絶が実施される場合、女性に対し、福祉士と面談を行なう義務は課せられていない。以上のような 規定がないのにもかかわらず、妊娠一二週以前に人工妊娠中絶の実施を希望する女性の三分の一は、手術の前に一度あるいは数度、 福祉士面談を行なっている。 妊娠一二週以降の人工妊娠中絶に際する福祉士調査が原則として義務づけられている主な理由としては、以前にも述べた通り、 より徹底的かつ危険性の高い手術法を適用する必要があること、及ぴ胎児の発育に伴い、女性にとって手術実施の決断を下すこと が困難になると考えられることなどが挙げられる。手術に伴う危険性に関する医学的判断を下すにあたって、より確実な支持を得 るために、女性の現在の状況に関する調査を行なうことが、この場合適切であると考えられる。 それに対し、福祉士調査と胎児診断との直接的関係はないものと考えられる。 現行の人工妊娠中絶法が施行されるようになった時点において、胎児診断の技術はさほど発達していなかった。その当時、染色 体異常を発見するのに有効な診断法は、羊水検査法のみであった。羊水検査法が実施されるのは、早くとも妊娠一六週以降であった(それは現在も同様である)。検査の結果が出るのは、妊娠一八週以降である場合がほとんどである。そのような時期に人工妊娠 中絶を実施するためには、厚生省の認可が必要となる。そのような認可は、常に福祉士による調査の結果に基づいて下されるもの で あ る 。 145一一『妊婦と胎児一二人の個人ー』 同様に、超音波検査や
ATP
検査などその他の胎児診断法も、妊娠一二週以降、つまり福祉士調査が義務づけられている期間に 実施されるものである。 以上のことから、地域的差異こそあれ、胎児診断の実施後に人工妊娠中絶を決意した女性の約半数が、手術前に福祉士と商談を 行なっていることが明らかになる。 胎児診断技術の発達、及ぴ妊娠一二週以前に胎児の持つ重大な先天性障害を発見することを可能にする診断法(繊毛生検)など の導入により、状況は一部変化した。 胎児が染色体異常やその他の重度疾患を有しているという告知を受けた女性は、たいていの場合、ひどいショックを受け、心理 的に不安定な状態に陥る。人工妊娠中絶の実施の知何を決断しなくてはならないという状況は、その生、涯涯の中でも最も困難な状況 の 1 つ で あ る と 舌 以前にも述べた通り、人工妊娠中絶を希望するすべての女性に対しては、その妊娠期間にかかわらず、福祉士と面談を行なうこ とが勧められている。妊娠一二週以前に人工妊娠中絶を希望する女性のまた、この勧めに応じることが多い。 妊娠一三週以前に実施された胎児診断により、胎児に染色体異常が発見されたことを知らされた女性もまた、その期間以降に人 工妊娠中絶の実施の如何を決断する際と同様に、困難な状況に立たされることになる。よって、本委員会は、そのような場合にお いても、妊娠一二週以降と同様、福祉士面談の実施が必要であると考える。 たとえ胎児の持つ先天性障害が微小なものである場合についても、女性が最終的に人工妊娠中絶を実施するかどうかを決断する 前に、福祉士との面談の機会を持つことが重要である。 また、心理社会的理由により、女性自身が出産の意志やその可能性について判断できかねているような場合においても、最終的 な決断を下す前に福祉士と面談を行なうことが必要であると言われている。第12巻1号一一146 人工妊娠中絶法第二条によると、女性の置かれている状況及び周囲との関係について、福祉士による特別調査が実施されること になっている。しかしながら、そのような調査が実際に行なわれるようなことはない。その代わりに、調査は福祉士との数度にわ たる指導的面談という形で実施されている ( 5 章
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項参照)。面談の内容などに関しては、病院のカルテへの記入という形以外で記 録されることはない。福祉士面談に関連して、医学的判断が下されることはありえない。 本委員会は、妊娠一二週以降に実施される人工妊娠中絶に際し、形式的な調査を行なうよう義務づける必要性はもはや存在しな いと考える。その代わりに、女性に対して福祉士と商談を行なう機会を与えるという慣例的に取られている処置を法文に明記する べきであると考える。 妊娠一二週以降に人工妊娠中絶の実施が希望されるような場合には、原則的に福祉士による調査の実施が義務付けられている。 しかしながら、適切な手術方法について考慮した結果、あるいは特別な理由により、人工妊娠中絶実施に何の支障も見られないこ とが明らかな場合には、そのような調査は省略することができる。妊娠一二週以降に人工妊娠中絶を行なった女性の半数以上がそ のような調査の対象になっていないことを考えると、以上のような例外がかなり広範囲にわたって適用されていることは明らかで あ る 。 福祉士調査の実施をもはや義務付ける必要はない、というのが本委員会の見解である。福祉士面談は今日では、女性(胎児の両 親)が人工妊娠中絶の実施の如何を決断する際のサポートとしての役割を果たすようになってきている。そのような背景に反して 女性に福祉士面談の実施を強制するのは無意味である。その代わりとして、福祉土面談はあくまで人工妊娠中絶を希望する女性に 対する勧めとされるべきである。 本委員会の実施した調査によると、人工妊娠中絶を希望する多くの女性が福祉士面談の実施を勧められている。その 3 分 の 1 、 あるいは年間1
万人の女性がその勧めに応じている。 人工妊娠中絶を希望する女性に対する福祉士面談の勧めは、ランスティングがその財的資源に応じて提供しているサービスの一 環である。よって、人工妊娠中絶以外の理由で行なわれる福祉士と患者との面談と区別される必要はないと本委員会は考える。福 祉士面談は非常に重要な役割を果たすものであり、人工妊娠中絶を希望する女性に対してその実施を勧めることを義務付けるべきであるというのが、本委員会の結論である。
第叩章
胎児診断技術の発達に関する追跡調査
胎児の診断という分野における医学技術的発達は、近年急速に進んでいる。特に、遺伝子工学を通じて、胎児の持つ先天性障害 を発見する全く新しい可能性が示されることとなった。そう遠くない未来、胎児の持つ先天性障害をその大小や程度にかかわらず 発見することが可能になるであろうことは予想できる。また、胎児診断の技術が発達するということは、本調査委員会が以前に取 り上げたような倫理的・社会的・心理的問題が、今にもまして注目されるようになることを意味するものである。 本委員会は、その調査報告書﹁人工受精法﹂の中で、この分野における技術の発達があまりにも急速であったために、社会側か らの管理や法による規制が間に合わなかったことに対して、遺憾の意を表明している。胎児診断に関しても、それはある程度同様 で あ る 。 147一一『妊婦と胎児一二人の個人-j 胎児診断が倫理的に容認される医療活動となるためには、どのような研究が行なわれているのか、またそれで得た技術が医療活 動の一環としてどのように適用されるのかを、社会が管理・規制していることが前提条件となる。以前にも述べた通り、胎児を﹁完 全体﹂からかけ離れたものとするすべての先天性障害を発見する目的に、胎児診断の技術を適用することは倫理に反するものであ ると本委員会は考、える。それよりも、何らかの理由により重度の先天性障害を持つ子供を養育することができないと考えている女 性(胎児の両親)が、胎児が先天性障害を有している可能性に対して心の準備を行なえるような条件を整、ぇ、同時に女性(胎児の 両親)に選択の可能性を与えてこそ、倫理的に容認される医療活動といえるであろう。 この問題が存在学的見地から常に議論の的となることが重要である以外に、この分野における現在進行中である技術の発達を追 跡することが必要不可欠であると本委員会は考える。第一に、研究面における発達を追うのは、医学倫理審議会の職務であろう。 また、本国の様々な病院において、胎児診断が医療活動の一環としてどのように適用されているのかを追跡調査することもまた重 要である。その技術がどの病院でも同等に適用されるよう、できる限り努力するべきである。 ランスティング連盟や医学倫理評議会と協力し、追跡調査を行なうのは、医療における監督官庁たる厚生省の義務であると、本第12巻1号ーー 148 委員会は考える。医療活動を倫理的に容認されるようなものとするために必要な場合には、指針書を発行するべきである。進行中 であるこの技術の発達によっては、この分野に関する法規が必要かどうかが明らかになるであろう。
第日章
胎児及ぴ新生児における先天性障害に関する記録について
記録の必要性 本国スウェーデンにおける胎児の先天性障害に関する記録は、これまでのところ不完全なものであった。妊娠一八週以降に発見 され、妊娠中絶実施の動機となった先天性障害に関しては、その時点における人工妊娠中絶に厚生省法的評議会の認可が必要なた め、記録が行なわれる。それに反して妊娠一八週以前に実施される人工妊娠中絶に関しては、系統的な情報が存在しない。 その例外は、羊水検査や繊毛生検の際に発見された細胞分化による先天性異常である。そのような発見は、一九七八年より中央 細胞分化登録への記録が行なわれている。その上、選択的人工妊娠中絶のうち何件かは、先天性障害登録所に報告される。 一九六四年、当時の医療庁は、ある精神安定剤の胎児への悪影響が問題となった際に、先天性障害を持つ新生児に関する報告を 促す旨の文書を各医療機関に対して発行している。初期の時点で先天性障害発症の頻度の変化を知り、それに基づいて先天性障害 を引き起こす要因の早期発見を可能とする条件を整えるという努力の一環として、医療庁は産婦人科における小児科相談を行なっ ている病院に対し先天性障害に関する報告書を医療庁まで提出するよう指示した。 胎児に悪影響を与、える新要因があるのか、それとも環境よりも遺伝による影響が先行するものなのかどうかを明らかにするため にも、先天性障害を持つ子供に関する記録を行なう必要がある。 しかしながら、そのような変化を発見するためには、妊娠一八週以降に人工妊娠中絶された胎児及ぴ先天性障害を持つ子供に関 する記録を行なうだけでは不十分である。もし先天性障害が妊娠初期の時点で発見されたため、多くの胎児が人工妊娠中絶の対象 とされたとなれば、新生児に関する先天性障害発症頻度の変化を見積もることは困難である。大脳を備えていない子供(無脳症) の出産件数の大幅な減少は、おそらく胎児診断技術の発達の成果であろう。 同様に、選択的人工妊娠中絶が実施されることにより、胎児の先天性障害が明るみに出ないことも考えられる。脊椎破裂(一一分脊椎)やダウン症候群を有する新生児の数は、そのような先天性障害の発症頻度が女性の出産年齢の上昇に伴い増加している可能 性があるのにもかかわらず、ここ近年増加の兆しを見せていない。胎児診断の技術の発達により、そのような先天性障害の多くが 早期発見され妊娠一八週以前にそのような胎児が妊娠中絶の対象となることが多くなってきているせいであろう。 先天性障害の蔓延及ぴ先天性障害の時代による変化に関する信頼性の高い状況把握をするためには先天性障害を持つ新生児に関 する記録だけでなく、胎児の記録を加えてこそ完成するものである。 また、胎児期における先天性障害に関する記録は、他の理由においても価値のあるものである。 先天性障害を持つ胎児に対して治療を行なう可能性を発展させるためにも、そのような統計的根拠の存在は貴重なものである。 それ以外にも、特に研究者サイドからは、胎児診断により得られた結果と胎児・新生児に対する最終的診断名を比較できること が望ましいという意見もある。 149-W妊婦と胎児一二人の個人 』 記録の内容及びその形式 本調査委員会は、以上に挙げたような理由により、胎児における先天性障害に関する国家レベルの記録が行なわれるべきである と考える。同時に、現存の新生児における先天性障害に関する記録も、双方の記録を比較することができるよう、全国規模で実施 されるべきである。 胎児における先天性障害に関する記録には、一定の手順で収集された胎児期の先天性障害に関する情報が含まれているべきであ る。その情報は、総合・総計され、発表されるべきである。その発表には主に、胎児診断を実施した動機、胎児診断の結果、及び 最終的診断名が合まれているべきであると本委員会は考える。 それには、胎児における先天性障害のすべてのケ
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スが報告・記録されなくてはならない。そのためには、病院及びその他の医 療機関における胎児診断担当の医師に対し、ケース報告が義務づけられなくてはならないであろう。 胎児における先天性障害に関する記録は、現存の新生児に関する記録と同様、厚生省に密接に結びついたものであるべきである。 2第12巻1号一一150
第ロ章
妊娠一八週以降に実施される人工妊娠中絶
人工妊娠中絶法等 以前にも述べた通り、妊娠一八週以降に人工妊娠中絶が実施されるためには、特別な理由が必要であると人工妊娠中絶法に規定 されている。しかしながら、胎児が胎外でも生存可能であると判断される場合、母体の生命あるいは健康に重大な危険を及ぽす恐 れのあるというような緊急事態を除き、人工妊娠中絶が実施されるようなことがあってはならない。近年では、胎児が重度の先天 性障害を有しており、生存可能な状態であると見なされないような場合を除き、妊娠二二週以降の人工妊娠中絶は実施されないの が 慣 例 で あ る 。 後期人工妊娠中絶の上限を規定した背景には、中絶手術の際に胎外でも生存可能な胎児が取り出されるようなことがあってはな らないという考えがある。人工妊娠中絶手術により生体反応を示している胎児が取り出され、現在またはそう遠くない未来に未熟 児ケアの技術が発達してそのような胎児を生き延びさせられる可能性が出てくることを懸念し、より確実な手術実施期限の上限を 定めるべきであるというのが、立法者の見解である。 以上のような背景、及び女性が胎動を感じるl
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最初││の胎動は妊娠一八週以降に感じられるのが一般的である││のに関連 して浮上してくる心理的後遺症の危険性を考慮し、自由人工妊娠中絶の上限を妊娠一八週目と定めたのである。 これからも引き続き、大部分の中絶手術が妊娠初期に行なわれることが期待されるとは言っても、妊娠一八週以降に人工妊娠中 絶手術を実施することが必要不可欠な処置となる場合も出てくるであろうことは、考慮にいれておかなくてはならない。そのよう なケl
スとしては、優生学的適応事由または胎児性適応事由などが挙げられる。その他の例として、様々な理由により人工妊娠中 絶の実施が妊娠後期に入って初めて早急の問題となった場合などが、法制定前の議論で取り上げられている。これらの理由により、 特別な理由が存在する場合に限って人工妊娠中絶の実施が認可されるよう、法文中に明記されることとなった。 特別な理由が存在する場合に限って人工妊娠中絶の実施を認可するというのは、女性が人工妊娠中絶の実施を希望する理由を述 べ、厚生省がその理由を審議し、子術の実施を否定するような根拠があるような場合にはその軽重を比較判断することを意味して151一一『妊婦と胎児一二人の個人一』 いる。胎児が人工妊娠中絶実施の時点で胎外でも生存可能であると判断される場合以外に、審議の際に重要と見なされるような事 実や状況を法文中で明白に定義する必要はないと、立法者は判断している。 妊娠一八週以降に人工妊娠中絶を行なうためには、厚生省の認可が必要である。認可問題の審議は、一九八一年より厚生省法的 評議会により取り扱われている。その評議会議長は、実績と経験のある判事が務めている。議長を補佐するものとして、厚生省勤 務の精神科医が、審議されるケ
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スに関して説明を行なう。評議会はその他、女性議員やその他の政治家などの非専門家、厚生省 科学評議会のメンバーでもある遺伝学の代表者、及ぴ厚生省勤務の産婦人科・妊娠調節を専門とする医師から構成されている。そ の上、外部からは、産婦人科医師及ぴ福祉士が参加する。 人工妊娠中絶の認可を申請するためには、女性自身の申請とその署名以外に、福祉士による調査報告書及ぴ医師の診断書が必要 である。福祉士調査は、女性の置かれている状況や人工妊娠中絶を希望する動機などの情報を、評議会に提供する役割を持ってい る。担当産婦人科の作成した診断書には、妊娠期間(胎児の推定年齢)、胎児が胎外でも生存可能であると見なされるか否か、及ぴ 人工妊娠中絶手術の実施に対し何らかの医学的障害事由が存在するかどうかなどの情報が記載されていなければならない。最近実 施された超音波検査の結果報告も、医師の診断書と共に提出されなくてはならない。妊娠期間の長さ(胎児の年齢)に関する医師 の判断を基に、評議会は胎児が母体外でも生存可能か否かを判断する。 調査委員会に対する指令の詳細 厚生省常任委員会は一九八六年から八八年にかけて、家族計画と人工妊娠中絶及ぴ人工妊娠中絶問題に関して調査を行なったが、 内閣は人工妊娠中絶実施の上限等に関して熟考する目的で、その調査・考察の続行を本調査委員会に委任した。 厚生省の常任委員会は家族計画と人工妊娠中絶に関する報告書の中で、未熟児ケアの技術は明らかに急速な発達を遂げており、 現行の人工妊娠中絶法に基づいた後期妊娠中絶実施の決定が、胎児が母体外でも生存可能であるとされる時期近くに下されるよう になるであろうことを指摘している。女性の利益と胎児の利益との間に起こるこのような衝突を、慣例によってのみ解決しようと いう態度は間違っているというのが、常任委員会の考えである。胎児に関する調査委員会が以上のような問題に関して考察する際、 2第12巻 1号一一 152 妊娠一八週という上限問題に関して再審議するべきであり、晩期妊娠中絶実施の条件に関してより明白な規定を行なうべきである と、常任委員会は考えている。 常任委員会は人工妊娠中絶問題に関する報告書の中で、自由人工妊娠中絶の上限(妊娠一八週目)問題を再審議し、その上限を 下げることを検討する重要性を強調している。また常任委員会は、晩期妊娠中絶実施の粂件に関しては、明確な法規定が必要であ ると主張している。 3 考 察 現行の人工妊娠中絶法に規定されている自由人工妊娠中絶の上限(妊娠一八週日)とは、以前にも述べた通り、胎外でも生存可 能な胎児が子術によって取り出されるのを防ぐことを主な目的としたものである。それは、法によって、中絶手術で生命反応を見 せる胎児が取り出される可能性に対し、より確実な手術実施期限の上限を定めるための処置である。また、女性が後期妊娠中絶を 経験することにより、心理的な後遺症に悩まされる危険性が高まることも考慮に入れた上で、妊娠一八週目という上限が定められ た 以上に述べた上限規定の主な理由と、人工妊娠中絶法が特別な状況下(厚生省の認可)において、妊娠一八週以降の人工妊娠中 絶実施を認めているという事実とは矛盾するものである。このようなケ l スでは、胎児が胎外での生存が不可能であるという確実 な保障のないまま中絶手術を実施するということになる。 現在科学の観点からすると、妊娠二三 l 二四週目の胎児は、胎外でも生存可能であると言われている。現在及ぴ近未来における 未熟児ケア分野の発達を考慮しても、生存可能性を示すこの期限が今よりも早い時点に設定されることは考えられない。酸素呼吸 を可能とする生体的基礎が、妊娠二三一週に入るまでは未完成であるというのがその理由である。この時期における胎児の気管支も まだ未発達である。最先端の未熟児集中治療の技術をもってしでも、そのような胎児を生き延びさせることは不可能である。以上 の理由により、法的評議会は胎児が重度の先天性障害を有しており生存不可能であると見倣される場合、もしくは妊娠状態の継続 が女性の生命あるいは健康に重大な危険を及ぼすような場合を除いて、妊娠二二週以降の人工妊娠中絶手術の実施を原則的に禁止
し て い る 。 晩期妊娠中絶に関して、本委員会は上限が二つあることを述べ、それぞれについて考察を進めるつもりである。 実際のところ、第一の上限(妊娠一八週日)は、胎児の生存可能性を保障する性質のものではなく、いわば倫理的・心理的・医 学的理由によるところが大きいと言える。 倫理的視点によると、人工妊娠中絶は妊娠期間が進むにつれてその実施が疑問祝されることが多くなるものである。胎児が母体 外でも生存可能であるとされる時期に近付くにつれ、胎児が﹁小さな人間﹂として扱われることが多くなるからである。女性(胎 児の両親)の利益と胎児の利益とを比較考量する必要性もより大きいものになっていく。このような背景に対し、妊娠一八週に定 められた自由妊娠中絶の上限は、女性が選択の自由を失い、妊娠中絶の実施に特別な理由が必要となる正当な平衡点であると言え 守 合 。 153一一『妊婦と胎児一二人の個人ー』 心理的視点によると、妊娠一八週以降に人工妊娠中絶を行なうことは、その以前に行なうよりも、女性にとってより大きな障害 を伴うものである。その時期に女性は、一般に胎動を感じるようになり、それにより自分の中に生命が息づいていることを強く認 識し始めるものである。その時点で適用される中絶子術方法では、胎児を母体から取り出す前に死に至らしめることとなるため、 そのこと自体が心理的負担になる可能性もある。﹁小さい人間﹂が殺され、胎内から取り出されるという光景は、心理的後遺症を引 き起こしかねない。 医学的見地により妊娠一八週目を上限とする理由の一つとしては、この時期以降に実施される人工妊娠中絶手術がより危険性の 高いものになることが挙げられる。 それに反して、第二の上限(現行の慣例による妊娠二二週目)は、人工妊娠中絶法において妊娠一八週日を上限と定めるに至っ た主理由と同様、胎児の生存可能性を確実に保障する目的で定められたものである。 厚生省常任委員会は、本委員会に対し、人工妊娠中絶実施の決定が胎児が胎外でも生存可能であると見倣されるような時期に下 されることのないよう、妊娠一八週目という上限を下げることを検討するべきであるという指令を下している。 今日及ぴ近い未来において、妊娠一八週目という上限は、胎児の生存可能性を確実に保障するものであると言える。このことは、
第12巻l号一一 154 今日、胎児の年齢を正確に診断することが可能であるという事実などと深い関係がある。よって、常任委員会の述べた理由により 自白人工妊娠中絶の上限を下げる必要を、本委員会は認めない。 同様に、心理的あるいは医学的見地からも、妊娠一八週目に定めた上限を下げるような動機は存在しないと主張する。 人工妊娠中絶の実施が絶対的に許可される上限に関しては、現行の人工妊娠中絶法に﹁胎児が胎外でも生存可能であると判断さ れる時点﹂を境界線とすることが定められている。以前にも述べた通り人工妊娠中絶実施の上限は原則的に妊娠二二週目と定めら れている。しかしながら、胎児の生存可能性に関しては、個々のケ
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スを検証し判断しなくてはならない。例、えば頭蓋骨欠損や無 脳症などの重度先天性障害を有している胎児では、妊娠二二週以降に出産された場合でも生存できないことが多い。つまり、その ような先天性障害を有する胎児に関しては、妊娠二二週目が人工妊娠中絶実施の上限にはなり得ないということである。 胎外でも生存可能である胎児が妊娠中絶される際に起こる、女性の利益と胎児の利益との閣の衝突を解決するのに、慣例をもっ て行なうことは間違っているというのが、厚生省常任委員会の見解である。 医学界で交わされる議論の中では、人工妊娠中絶実施の絶対的な上限を定めるのは法に任せるべきであるという意見がよく聞か れ る 。 以前にも述べた通り、胎旧んが胎外でも生存可能であると判断される境界線は妊娠二二週から二三週目であると言われている。こ の時期以前に出産された胎児が生き延びる可能性は、近未来に起こり得る技術の発達を考慮に入れたとしても、ごく小さいもので あると判断される。 超音波検査により、妊娠期間の長さ(胎児の年齢)がより正確に診断できるようになったことで、二週間の安全限界を設けるだ けで十分であるというのが医師遠の意見である。 無論、より急速な医学の発達に伴い、将来未熟児ケアの技術が今よりも発達し、胎旧んの生存可能性の境界線を下げるようになる 可能性を無視することはできない。よって、法によって人工妊娠中絶実施の絶対的上限を規定するべきではないというのが、本委 員会の見解である。その代わりに、胎児の生存可能性に確実に保障するような上限を定める権限を、医学の専門家に与えるべきで あろう。法的評議会は、この分野における医学の発達を追うと共に、必要な場合には慣例によって人工妊娠中絶実施の上限を下げるよう努めるべきである。 また、晩期妊娠中絶実施の条件に関して明確な規定を行なうよう、本委員会に対して指令が下されている。 人工妊娠中絶法によると、妊娠一八週以降に人工妊娠中絶を実施するには、実施を希望する特別な理由及ぴ厚生省の認可が必要 で あ る 。 155一一『妊婦と胎児一二人の個人