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雇用保障とその課題(PDF:509KB)

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雇用保障とその課題

小宮 文人

提 言

 雇用保障とは,従来,人々が雇用を得て,それ を維持することを保障することを意味すると考 えられていた。憲法 27 条 1 項の労働権は,憲法 25 条 1 項の生存権保障を労働者に対する具体化 する規定と考えられたからである。しかし,次第 に人間の尊厳(憲法 13 条)の観点から,労働者の 自己実現という人格的利益をも保障するものであ るとの見解が広がってきた。とりわけ,第 87 回 ILO 総会で Decent Work(ディーセント・ワーク =「働きがいのある人間らしい仕事」=①働く機会 があり,持続可能な生計に足る収入が得られること, ②職場の権利の確保,③ワークライフバランス,セー フティーネット,自己研鑽の可能性,④公正な扱い と男女平等な扱い)の保障が提案され,2008 年に「公 正なグローバル化のための社会正義に関する ILO 宣言」として採択されたことなどもあり,わが国 でも,Decent Work の保障は,憲法上,すべて の国民に保障された基本的人権とみるべきである としたり,憲法 27 条 1 項の内容は憲法 13 条,14 条 1 項及び 25 条の要素を具備するものと解すべ きであるとする見解が強くなった。  それが憲法 27 条の労働権と同一とみるか否か は別として,今日,雇用保障は,労働者の雇用の 獲得と維持だけではなく,国は適職就労,安定し た雇用,雇用条件差別のない雇用,雇用を推進す る社会保障の整備等を行う必要がある。しかし, 現状を見ると,正社員の長時間労働,過労死・過 労自殺や頻繁な転勤による家族問題,不安定で劣 悪な処遇の非正規労働者の増加等の問題が深刻に なっている。したがって,Decent Work に立脚 した雇用保障のためのより一層の改革が急務とさ れていることは明らかである。確かに,わが国に は,その改革を難しくしている要因もある。具体 的には,歴史的な経緯から,欧米のような産業横 断的な組合が成立せず,各企業が労働者の定着や 忠誠心を高めるための囲い込みを行ってきたこと 等から,社会的に標準化した職(ジョブ)の概念 やそれに見合った職務賃金の考え方も確立されて こなかったし,また,解雇の法的規制自体は厳し いとはいえないのに正規労働者の企業間流動性が 生じ難い。特に問題なのは,経済成長が低迷して からは,正規労働者の労働の弾力性が極度に重視 され,また,量的弾力性の観点から非正規労働者 が多用され,そして,ジョブとそれに対応する賃 金が明確でないことから,企業は益々低賃金の非 正規労働者の利用へとシフトして行く。  とはいえ,その途についたばかりで極めて不十 分ではあるが,均等待遇とは区別されたパートの 均衡処遇という概念や有期労働者の不合理な労働 条件の禁止という形で,その労働条件格差を是正 する工夫はされてきた。あるいは,例えば,現在 議論されている「限定正社員」の提案も,正規労 働者の空間的時間的に無限定な就労状況を改善す るという意味では,Decent Work の雇用保障に 繫がるようにみえないこともない。しかし,労働 時間や勤務地の限定された「限定正社員」を創り 出しても「無限定正社員」の無限定度は高まり,「限 定正社員」という新たな非正規集団を創り出し, Decent Work の雇用保障とは正反対の方向に行 く可能性もある。前述のような雇用の現状を改善 するためには,そうした置換的な施策をいろいろ 重ねるだけでは済まない。やはり正面から非正規 労働者の雇用の安定化と正規・非正規労働者間の 労働条件格差解消という法的な施策をさらに強力 に推し進めることによって,企業が低賃金非正規 労働者を多用し,正規労働者の無限定的に使用し やすくしている原因を除去していくことが不可欠 であると思われる。その意味で,均等処遇への歩 みこそが雇用保障の最大の課題であるというべき であろう。 (こみや・ふみと 専修大学法科大学院教授) 1 日本労働研究雑誌

参照

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