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長崎市嘱託員事件

〈長崎地裁•平成 17 年(行ウ)第 3 号〉意:見〔書:

松 尾 邦 之

ま え が き

原告側依頼により,期限付任用長崎市嘱託員の再任用拒否事件の意見書を長崎地裁に 提出する機会を得た。本稿は,その意見書である。

期限付任用国家公務員の再任用拒否事件に関しては,すでにいくつかの論考を発表し てきた。今回重ねて類似の公務員の再任用拒否事件を取り上げ発表することとしたの は,国家公務員とは根拠法令の異なる地方公務員の事例であること,また当該嘱託員の 任用根拠が「猟官制」や「政治的任用」を排除すべく原則として公正・公平な公募制競 争試験によるものとして設けられた一般職正規職員採用(任用)手続きである地方公務 員法第17条に拠るものとされていたこと,による。この点についての考え方を示すこ

とができた。

本意見書提出直後,国立情報学研究所(現情報・システム研究機構)非常勤職員雇い

(1)  「判例解説任期満了によるパートタイム非常勤国家公務員の任用更新拒否の法的性質

山形大学病院事件・山形地裁判決(昭和61・2・17)」労働法律旬報1155号,「期限付任用・ カ」 短時間勤務国家公務員の任用反復更新後の再任用拒否に対する法的救済試論」香川法学第19

J ¥  

巻第2号,「青葉台郵便局国家賠償請求事件(横浜地裁平成 11年〈ワ〉第4766号)意見書」

香川法学第21巻第3・4号,「『臨時・非常勤職員』の雇止めおよび均等待遇をめぐる最近の 判例・裁判闘争における法的諸問題の検討」労働法律旬報第1552号,「船橋東郵便局事件〈千

葉地裁•平成 14 年(行ウ)第 37 号〉意見書」香川法学第 23 巻第 3·4 号

‑ 39 ‑ 26-l•2-198 (香法2006)

(2)

止め事件東京地裁判決(平成 18年3月25日)が示された。同判決は,任期付公務員に も特段の事情が認められる場合には権利濫用法理ないし信義則の法理が妥当し任命権者 は任用更新を拒絶できないとし,任用更新拒絶の予告や再就職の斡旋等配慮などを欠く 任用更新拒否は許されないと判示したため本件にも影響することが期待されたが,長崎 地裁は従来の判例理論の流れに沿い雇い止めを有効とする判決を下した。

とはいえ,岡山中央郵便局事件岡山地裁判決(平成 14年 10月15日)に続いて国立 情報学研究所事件東京地裁判決(平成18年3月25日)が任期付公務員の雇い止めにも 権利濫用法理ないし信義則の法理が適用されるべきことを示した意義は大きい。国立情 報学研究所事件の控訴審の行方に注目したい。

長崎地方裁判所御中

事 件 番 号 平 成 17年(行ウ)第3号 解 雇 無 効 確 認 等 請 求 事 件 原 告 青 木 薫

被 告 長 崎 市

法 律 意 見 書

2006年3月6日 香川大学法学部教授

松 尾 邦 之

九 七

は じ め に

期限付任用の非正規職員は増加を続け国および地方あわせて六十数万人に上ると推定 される。任用期間も勤務条件も多様であるが,すべて期限付任用であること,ほとんど が一時的・臨時的な行政事務需要に応えるものではなく,その意味でば恒常性を有する 業務を遂行していること,が共通点である。そして,その多くのものが任用更新を繰り 返しながら行政事務の遂行に不可欠な役割を担っていることは何人も否定できない事実 である。

任命権者がその任用(採用および再任用• 更新の)根拠としている(と主張する)法 令や規則・規程等は,(特殊な任期付の正規採用を含む)正規職員や臨時的任用職員の それと比較して任用を許容すべき事由および人員数・期間や更新回数限度など厳格さ明 確さに欠けている。これを「活用」する多くの任命権者は安上がりかつ安易な人事管理 を行うために期限付任用の反復更新を用いて相当長期に継続勤務させ続けてきた。膨大 な期限付任用の非正規職員数はその結果である。また,法治行政・公正中立な人事行政

26‑12‑197(香法2006) ‑ 40 ‑

(3)

の観点からすれば,厳格にチェックすべき国会や地方議会も,時には国民や住民の一部 も積極的にあるいは消極的に「加担」してきた結果でもある。他方で任命権者側の一方 的な都合で任用更新が拒絶されるに至ると,最高裁をはじめ多くの裁判所は任用継続を 求める期限付任用職員の雇用保障要請については軽視してきた。

そもそも定員法や定員条例は何のために設けられたのか,客観的根拠に基づいで恒常 的業務が十分に果たせるものとして想定して設定したはずである。また「猟官制」や「政 治的任用」を排除すべく一般職正規職員採用(任用)手続きは原則として公正・公平な 公募制競争試験によるものとされたのではなかったか。裁判所は,安易な人事権行使を 追認・擁護し,その犠牲を他方当事者(期限付任用職員)にのみ強いて解消を図るとい う正義に反する手法を容認すべぎではなく,却って地方公務員法第 1条の示す法治行政

(民主的かつ能率的な運営)の観点ならびに職員の福祉及び利益の保護に関する根本基 準の確立としての身分保障の趣旨に照らして任用更新拒絶を違法無効と判示すべき事例 は少なくないと考える。

このように法を解釈することは公務員法の本旨に包含される身分保障とその基底にあ る日本国憲法の勤労権保障の要請であり,また自由で民主的な社会の労働法常識として のILO国際労働基準や先進国水準を示す EU法令が示すとおり,人を使用する者はその 契約や任用の形態に応じて雇用者としての適正な雇用維持責任を負うべきという原則の 帰結でもある。裁判所は,憲法・公務員法の身分保障の趣旨および日本と世界の「労働法 常識」を尊重して可能な限り妥当な法令解釈を行うことが求められており,信義則やクリ ーンハンドの原則あるいは権利濫用法理など一般法理の適用によって実現可能である。

これらの観点を踏まえるならば,本件長崎市役所における期限付任用嘱託員の再任用 拒絶は任命権者の自由裁量に委ねられるべきものではなく,信義則あるいは権利濫用法 理による適切な制約が課せられてしかるべきという結論になろう。以下敷術して述べ

る。

本件両当事者の主張の要点

両当事者の主張の要点は以下のとおりである。

田原告青木薫(以下原告とする)の主張の要点 請求の趣旨について

①原告の期限付任用一般職非常勤職員 (6時間15分勤務の「嘱託員」)たる地位の確 認②勤務していたら支給されたはずの平均賃金の支払い,③裁量権を濫用した任用更 新拒絶による精神的損害に対する慰謝料の支払い,④賃金および慰謝料の仮執行宣言を

九 六

‑ 41  ‑ 26-1•2-196 (香法2006)

(4)

求めるものである。

請求の原因について

原告は,被告長崎市(以下被告とする)統計課において平成 11年11月から平成12 年3月までの間に約4ヶ月「臨時職員」として勤務したのち,平成12年4月から本件 任用更新拒絶のあった平成 17年3月31日まで 1年の期限付任用の反復更新により「嘱 託員」として 5年間継続勤務してきた。原告の職務は「庶務,経理,文書の管理,書籍 の管理,統計調査(調査票の点検と審査),統計研究会の事務,及び本庁との文書の受 け渡し」であって,通常の恒常的かつ恒久的事務補助であり年末繁忙期の業務の一時 的・臨時的増大がある等緊急・臨時的な必要性がある場合等を想定した類の性質のもの ではなかった。なお,平成 16年度の任用(募集採用)手続きは,市広報紙で公募,履 歴書および論文(応募動機)による書面審査,嘱託員任用通知書交付という経過で行わ れたが,平成15年度任用までは応募者の履歴書を人事課が選考し嘱託員任用通知書を 交付していた。

長崎市「嘱託員及び臨時職員の任用,勤務条件等に関する要綱」(以下要綱とする)

は,原告らが加入している長崎市労連と被告との「継続任用 3要件」合意をもとに制定 されたものである。この 3要件の内容は,イ.現に職があり,口.本人の働く意思があ

り,ハ.本人に落ち度がない,を充たせば被告は継続任用するよう努力するというもの である。したがって3要件を充たす場合には,要網7条にいう「業務遂行上必要がある 場合には,再度任用することができる」という扱いをするとの意味であった。

原告が従事していた統計課補助事務はその多くが平成17年度も継続的に存在してお り,とりわけ国勢調査で業務量が飛躍的に増加することからして「継続任用 3要件 イ」 の「現に職がある」ものとして任用更新される蓋然性は疑いなく高かった。にもかかわ らず被告は「継続任用3要件」合意を一方的に破棄して,原告ら嘱託員の任用更新を拒 絶し臨時職員に置き換えることでひたすら報酬費削減を図ろうとした。被告によるこの ような任用更新拒絶は信義誠実の原則に反し,裁量権を逸脱し濫用したものであり無効 である。

九 五

(2)  被告の反論・主張の要点

本件「嘱託員」任用は,地方公務員法17条1項の規定に基づく一般職非常勤職員と しての任用であって(要網2条),いわゆる大阪大学図書館事件最高裁判決(平成6年 7月14日最高裁第一小法廷)の趣旨に照らして適法なものである。また本件任用は公 法上の関係であり民間の労働契約関係とは異なる性質の関係である。したがって,平成 17年3月31日の任用期間の満了により,当然に任用関係が消滅したものである。任用

26‑l・2‑195 (香法2006) ‑ 42  ‑

(5)

関係の消滅である以上,解雇権濫用法理の適用はなく,解雇権濫用を理由とする不法行 為に基づく慰謝料請求も失当である。

また,被告の主張する「継続任用 3要件の労使合意」の事実はなく,長崎市と長崎市 労連との侮年の協議は「嘱託員及び臨時職員の任用,勤務条件等に関する要綱」の円滑

な運用を図るための組合に対する説明のためのものに過ぎない。

いずれの主張も失当であり原告の請求は棄却されるべきである。

2 .   最高裁をはじめとする従来の諸判決の到達点とその問題点について

本件嘱託員の期限付任用の任用更新拒絶の適法性判断の前提として,まず従来の諸判 決の到達点とその問題点を指摘しておく。

(1)  期限付任用の適否に関する主要判例の流れ i)東郷小学校事件最高裁第三小法廷判決の要点

東郷小学校事件最三小判(昭和38年4月2日 民 集 17巻3号)は,定年制のない時 代の勧奨退職教員の 1年任期任用再雇用の更新拒否という特殊な事例であった。にもか かわらず,「先例」として事件の多くの判決によって引用されてきた。同判決は,職員 の任用を無期限のものとするのが法の建前であり,期限付き任用が許されるかどうかに ついて法律(地方公務員法)には別段の規定はないが……①それを必要とする特段の事 情が存し,且つ,②それが職員の身分を保障し職務専念を保障するという趣旨に反しな い 場 合 に お い て は , 特 に 法 律 に こ れ を 認 め る 旨 の 明 文 が な く て も 期 限 付 任 用 は 許 さ れ る,と判示して公務員の期限付任用が適法とされる一般的要件を提示していたからであ る。

ii)大阪大学図書館事件最高裁第一小法廷判決の要点

国家公務員につき最高裁の判断が示された。大阪大学図書館事件最ー小判(平成6年 7月14日 判例タイムズ871号)である。同判決は,人事院規則にのみ定めがあり国 家公務貝法本則各条に明文規定のない「非常勤職員(日々雇用職員)」という形態の期 限付任用について,かかる制度を設けること自体が適法であるか否かについては特に判 断を示していないものの,①事務量が正規任用の常勤職員のみでは処理できずまた正規 職員定員の増加が実際上困難であること,②特別の習熟,知識,技能または経験を必要 としない代替的事務であって「非正規」職貝によっても適正に処理できる場合であるこ と , ③ 当 該 職 員 に 任 期 付 で あ る こ と を 明 示 し て い る こ と , と の 各 要 件 を 満 た し て い れ

九 四

‑ 43 ‑ 26‑12‑194(香法2006)

(6)

ば,「期限付任用に係る非常勤の国家公務員である日々雇用職員」については,年度内 を任用予定期間とする期限付任用を反復更新して4年 6ヶ月継続勤務したとしても職員 の任用を原則として無期限とした国家公務員法の趣旨に反しないと判示した。

iii)福井郵便局事件名古屋高裁金沢支部判決の要点

ところで人事院規則にのみ規定があり国家公務員法本則各条に明文規定のない「非常 勤職員」という期限付任用制度を設けることの適法性については,福井郵便局事件名古 屋高裁金沢支部判決(昭和63年 10月 19日 判例時報1289号)が,より詳細に判示し ている。まず① 「一般職に属する国家公務員につき,国公法60条に定める臨時的任用 以外に,期限付任用を行うことは,同法が,国民に対し,公務の民主的かつ能率的な運 営を保障することを目的とし,職員の身分保障規定等を定めていることからすれば,公 務の能率的運営を阻害し,身分保障の趣旨に反する場合には許されない」との原則を明 らかにしたうえで,② 「同法が職員の期限付任用を禁じていないこと,同法附則 13条 が同法の特例を設けることを許しており,人事院規則8‑12(職員の任免)は,恒常的 におく必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任用してはならないとす るが,一定の要件の下で常勤職員についても任期を定めた任用を許容し (15条の 2)'

日々雇い入れられる職員の任用の更新及び任期満了による当然退職 (74条 1項3号, 2  項)について定め,人事院規則8‑14(非常勤職員等の任用に関する特例),同 15‑12

(非常勤職員の勤務時間及び休暇)等において期限付任用を前提とする規定が設けられ ていること等からすれば,右のような弊害がない場合には,期限付任用も一般的には禁 止されていないものと解される」として,③ 「郵政省において,任用規程により任用さ れる臨時雇は,適法な任用と認められる」と結論づけている。

一 九 三

(2)  これらの判例の意義と問題点 i) これらの判例の意義

これらの判決の意義は,期限付任用の再任用拒絶の適法性判断において,任命権者の 完全な自由裁量ではなく,形式的ないし制度的な要件および実体的な要件を充たさなけ ればならないことを判示した点にある。結果的には任用拒絶を受けた労働者側の請求を 退けてはいるとはいえ,これらの要件を充足しなければ違法となる可能性を示したもの である。

まず,形式的ないし制度的な要件として,次の(イ)(口)(ハ)の3点の充足を求め ている。

少なくとも「条件付採用」や「臨時的任用」以外の期限付任用を特に禁止する法

(イ)

26‑12‑193(香法2006) ‑ 44 ‑

(7)

律の規定が存在しないこと

(口) 国公法附則 13条が一般的に例外的任用を容認していると見られる(解釈できる)

ことや地公法22条・ 25条に「非常勤職員」という文言の存在することが期限付任 用を容認していると見られる(解釈できる)こと

(ハ) 期限付任用を具体化する下位規定,国では人事院規則以下の規則・規程,地方に おいては条例・規則・要絹などが制定されていること

次に,実体的な要件としては,次の(イ)(口)(ハ)の 3点の充足を求めている。

(イ) 「それを必要とする特段の事情」が存在すること

(口) 当該職員の雇用および勤務条件が十分に保障されること

(ハ) 国民の付託に応えて民主的かつ能率的運営が保障されること

ii) これらの判例の有する問題点

①まず,形式的・制度的な要件について述べる。

最も問題なのは「条件付採用」や「臨時的任用」以外の期限付任用の制度化にあたっ て,このような任用が認められるべき事由が明示されていないこと,あるいは余りに一 般的・広範に過ぎることである。正規常勤職員任用だけではなく臨時的任用あるいは地 方公務員の場合の特別職非常勤との対比で,法律本則によっては適切に対処し得ない場 合に限って認められるべきものであって明確な制度設置理由が示されなければならない はずである。「恒常的な」職務や業務は,地公法17条の正規手続により採用された正規 常勤職員または正規常勤短時間職員(現在は制度化されていないが)によって本来遂行 されるべきであり,また臨時的任用は反復更新されない緊急・臨時等の行政需要に対処 すべきものとして制度設計されたもの(地公法22条2項)であるから,この点を曖昧 に制度設計したうえで,かつ正規の競争試験に拠らず多数を採用し反復継続して任用更 新するといった運用をすることは法治行政・公正中立な人事行政の根幹を掘り崩しかね ない重大な結果を等閑視するものである。なお,この点は,実体的な要件としての(イ)

「それを必要とする特段の事情」が存在すること,の判断とも関連する。

②次に,実体的な要件について述べる。

第一の,「それを必要とする特段の事情」が存在すること,に関わって

そもそも,業務の増大にもかかわらず正規常勤職員を増員しない,あるいは定員と予 算の観点から事実上増員できないあるいは困難だという事態は何十年にもわたって継続 している。一時的特異な状態ではないのであり,このような人事方針を採用するか否か について任用される側にはまった<権限も責任もないはずである。これを解消して本来

‑ 45  ‑ 26‑12‑192(香法2006)

(8)

の形に是正する法的・政治的責任は任命権者側にあることは明白である。大阪大学事件 最高裁のように「事務量が正規任用の常勤職員のみでは処理できずまた正規職員定員の 増加が実際上困難であること」を認定することは,司法が公務員法の根幹を歪めること

を安易に容認するものであり許されるべきものではない。

第二の,当該職員の雇用および勤務条件が十分に保障されること,に関わって すでにふれたように,任命権者側の都合でこのような非正規の期限付任用は制度化さ れ運用されてきた。自らに都合が良いときは任用を反復更新してこれら職員に継続を期 待させておいて,労働者が任用(契約)文言が期限付きであることを知りえたのであれ ば,あるいは明確に任用継続を(違法に)保障するなどしない限りは,任用継続希望を 拒絶しても「職員の雇用および勤務条件が十分に保障される」と言えるのだろうか。良 識ある判断とは考えられない。

第三の,国民の付託に応えて民主的かつ能率的運営が保障されること,に関わって 議会や住民も結果として非正規期限付任用制度を容認・黙認している点からすれば

「表面的」には民主的な面があるのかもしれない。しかし,住民の自由と権利を尊重し かつ能率的な運営を保障することにば必ずしもつながらない。任命権者は,能率的運営 確保の困難さへの「苦肉」の対処として,恒常的職務・業務の一部のみを切り離し固定 化して期限付任用職員に遂行させ,能率的運営に支障がないと主張し,裁判所も概ねこ れを容認しているが,そもそも「特別の習熟,知識,技能または経験を必要」とするも のであってその欠員が公務の能率的運営の阻害をもたらすような職務や職員は相当に限

られているのであるから,この要件の持つ本来的意義は,職員に対して職務専念を可能 ならしめるよう身分保障を行うことが国民の付託に応える長期的・安定的な公務遂行に つなげられる(可能性が高い)という認識を示すことにある。

3 .   本件嘱託員の任用更新拒絶の適否(適法性)の判断

以下では,前述の「判例の意義と問題点」をふまえて,形式的ないし制度的な要件お よび実体的な要件の両面から本件嘱託員の任用更新拒絶の法的適否の判断を示す。

(1)  形式的・制度的な要件の面から見た本件嘱託員要綱の違法性

i)本件嘱託員任用は,正規職員の勤務時間を勤務して処理するにいたらない業務で

「職自体の恒久性の有無は問わない」(要綱3条 1号 ) も の で あ り , ま た 地 方 公 務 員 法 17条 1項の規定に基づく一般職非常勤職員としての任用であって,いわゆる大阪大学 図書館事件最高裁判決(平成6年7月14日最高裁第一小法廷)の趣旨に照らして適法

26‑12‑191(香法2006) ‑ 46  ‑

(9)

なものであると被告長崎市は主張している。そもそも地公法17条は任用期限のない正 規常勤職員任用の根拠と手続を定められた規定であるから,常識的にはこのような主張 は受け入れがたいもの,強く適法性が疑われるということになる。同条を単なる任用の 手段(通路)と考え,いかなる任用の根拠規定ともなしうることとなってしまい,余り

にも立法趣旨を逸脱するものである。少なくとも 17条による任用と主張するのであれ ば正規職員任用と同等の公正・公平な競争試験や選考試験による採用手続でなければな らないし,「職員の職に欠員を生じた場合」の任用であるとする条文にふさわしいよう な概念の「職」への任用と処遇でなければならない。

適切な期限付任用の活用と処遇という点に関わって,公務・民間を問わない世界的労 働法常識としてのIL0158号条約・同 166号勧告およびEU指 令 (99/70/EC)を紹介 し,本件嘱託員任用の問題点を指摘しておきたい。これら国際文書は有期雇用における 使用者の雇用維持責任を定めたものであるが,自由主義経済社会において有期雇用に普 遍的に共通の問題点とその対処方向を示したものであり,本件期限付任用の適否判断に おいて重要な示唆を与えている。

使用者の発意による雇用の終了に関する IL0158号条約2条3項は,公務員も民間も すべての部門の,すべての労働者に対して有期雇用が解雇制限を回避する目的で利用さ れることを防止する適当な措置を講ずべきことを定めている。同条項を具体化するため に166号勧告3項(2)では3点挙げている。①有期労働契約の採用は「作業の性質,作業 が行われる条件または労働者の利益」を考慮して合理的事由のある場合に限定するこ と,②合理的事由のない場合は期間の定めのない契約とみなすこと,③合理性のない有 期契約を 1回または 2回更新した場合は期間の定めのない契約とみなすこと,である。

また,有期雇用に関する枠組み協約についてのEU指令は,期間の定めのない契約が雇 用の一般形態であることを確認したうえで有期契約更新の弊害除去および均等待遇原則 の適用を定めている。第5条は濫用防止措置として次の3点のうちひとつ以上の措置を 加盟国に義務付けている。すなわち①契約更新を正当化する客観的・合理的理由を定め

ること,②更新可能な最長期間の設定,③更新回数の限度設定,である。

いずれの文書も有期契約を採用するには,客観的合理的事由を有すること,更新回数 および/または最長期間を限定すること,を要件として定めており,違反する場合には,

期間の定めのない契約とみなすこと(転化)を義務づけている。本件嘱託員任用は, ILO 条約・ 勧告およびEU指令の原則に照らせば,合理性に疑いのある有期雇用ということ

になる。

以上述べたとおり,長崎市の嘱託員の「職」と採用手続がかかる要件を充たしている とは言いがたい。しかしながら,両当事者ともにこの点は争っていないことから,この

九 〇

‑ 47 ‑ 26‑12‑190(香法2006)

(10)

点については指摘するに止めておく。

(2)  実体的な要件の面から見た本件嘱託員任用再任用拒絶の違法性

i)長崎市の場合においても,「それを必要とする特段の事情」が存在すると判断す ることは困難である。原告の担当職務は,たとえ市が「補助的」と位置付けたとしても 恒常的業務であることは否定できず,業務の増大にもかかわらず正規常勤職員を増員し ない,あるいは定員と予算の観点から事実上増員できないあるいは困難だという事態は 少なくとも十数年にもわたって継続しており一時的特異な状態ではない。地方公務員法 の趣旨に即した事態解消を行うべき法的・政治的責任は任命権者である長崎市側にある ことは明白である。

八 九

ii)次に,「職員の身分保障」すなわち長崎市嘱託員の雇用および勤務条件は十分に 保障されているか,を検討する。

嘱託貝制度そのものは長崎市の責任で設けられ運用されてきた。自らに都合が良いと きは任用を反復更新して 5年間も原告の希望に応え,嘱託員任用通知書が期限付き任用 であることを明示してさえいれば,任用継続希望を拒絶しても「職員の雇用および勤務 条件が十分に保障され」ていると判断することは,本件嘱託員任用における両当事者の 勤務関係の実態に即した公平公正なものとは考えられない。なお,原告の加入する長崎 市労連との間で「継続任用 3要件」の協議を行い,その法的性質については争いがある にせよ,一定の「了解」の下で運用してきていたことは考慮されるべきであろう。この 3要件運用によって,ある意味では被告の濫用的権限行使が和らげられていたと評価さ れるからである。今回の嘱託員任用再任用拒絶により問題がより一層顕在化したものと いえる。

被告は,本件任用は公法上の関係であり民間の労働契約関係とは異なる性質の関係で あると主張する。しかし,たとえ公法的関係であっても,任用関係は期限到来とともに 必ず消滅するものと解すべきではない。岡田雅夫岡山大学法務研究科教授の本件におけ る意見書も指摘するように司法審査の対象とならないという意味での,まったくの「自 由裁量」という考え方は,行政事件訴訟法30条や通説的行政法学説に照らして現在で は存立し得ないと指摘するところである。また,有力な行政法学説である室井力『特別 権力関係論』勁草書房・ 1968年, 381頁以下も,公務員の勤務関係は公法的特殊性を有 するにせよ基本的には対等当事者間の(契約)関係であることをそれ以前から指摘して きた。これらの考え方に立てば任命権者側もその任用・採用権限を濫用することは許さ れないということになり,民間と殊更異なる法理や法原則を立てる必要のある場合に

26‑1・2‑189 (香法2006) ‑ 48 ‑

(11)

は,その特殊性を認めるべき根拠と範囲を明確にしなければならないということになる はずである。原告が引用・主張している岡山中央郵便局事件岡山地裁判決(平成 14年 10月15日,労働法律旬報1552号)も判示するように,「公法上の任用」においても「期 限付任用は身分保障を妨げないものでなければならないから,信義則や,権利濫用が許 されない旨の民法1条所定の法規整が及ぶものというべきであ」るというべきである。

ところで,私的労働関係において最高裁判所は, 2ヶ月の短期労働契約の反復した当 然更新の結果1年を超えるような相当期間継続となっていた事例において,①あたかも 期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたと認め,②雇い止めが実質的に 解雇の意思表示にあたるとしていわゆる「解雇法理」の類推適用を認め単なる契約期間 満了による雇い止めは許されないこと,③期間満了後においても従前の労働契約が更新 されたのと同様の法律関係となること,を認めている(東芝柳町工場事件最高裁第一小 法廷判決昭和49年 7月22日 民集28巻2号,同旨日立メデイコ事件最高裁ー小法廷 判決昭和 61年12月4日 労働判例486号)。さらに, 1年間の有期労働契約で,所定 労働時間の短い「パートタイム労働者」に対する経営悪化を理由とする雇い止めにつき 十分な回避努力を求めた大阪地裁決定(三洋電機事件平成2年2月20日 労働法律旬 報1236号)等が存在する。本件においても参考とされるべきである。

民間の場合も,「そもそも論」的には民法上「いつにても解約できる」(原則として理 由,時期を問わない)とされる「期間の定めのない雇用」契約(正規従業員の労働契約)

の解除につき,平成 15年に労働基準法 18条の2が新設されるまでは一般原則的な解雇 規制立法が存在しなかった。にもかかわらず,最高裁判所は「使用者の解約権の行使も,

それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合 には,権利の濫用として無効になる」(日本食塩製造事件最高裁第二小法廷判決昭和50 年4月25日 労働法律旬報885号)と判示してこれが定着し立法化されていったので ある。このように労働権保障という憲法上の原理を重視して民法の明文を判例によって 修正することで,労働関係解消の自由(これも営業の自由という基本的人権でもある)

を制限してきたのである。

iii)「違法」状態とそれを解消する責任

条例などに基づき与えられた人員の範囲でかつ適法な人事労務管理システムを遵守す ることで十全な業務遂行ができない場合の責任は,本来制度枠組みを与えた首長と議会 とが負うべきもので,最終的には主権者およびサービス享受者としての住民もその結果 としての不都合を甘受すべき性質の問題である。原告は,本件任用により不当な利益を 得ていたわけではなく,誠実に勤務し当然の労働の対価を受けていたにすぎない。安易

J J  

‑ 49  ‑ 26‑12‑188(香法2006)

(12)

な人事管理から派生した不利益を決して任用(採用)される労働者側に負わせるべきで はない。

解決にあたって,まず第一に,被告長崎市が信義誠実の原則(あるいはクリーンハン ドの法原則)に反して自らが意図的につくりだした「あるべきではない状態」の不利益 を,専ら他方当事者である原告の犠牲によって解決すべきとの主張は許されるべきでは ない。したがって第二に,この状態は,被告の適正な任用を行うべき義務と権限の範囲 内においてもっぱら原告の不利益を生じさせない方法と措置で解消すべき,ということ になる。

4 .   結 論

したがって本件については,まず任用更新拒絶(雇い止め)がなされなければ嘱託員 としての任用が更新されたであろう状態にあったことが認められるべきである。他方で 被告長崎市は信義則に反する一種の権利濫用として本件任用更新拒否を行い得ないとい うことになる。原告らの身分保障(雇用継続の権利)の法的要請に照らし継続的勤務関 係状態の下で被告長崎市は別段の措置(雇い止め)をすることができず,従前の嘱託員 任用が更新されたのと同様の法律関係になったという結論を下すべきである。

八 七

(なお,本意見書の見解では,任命権者の再任用の「処分(意思表示)」がなされない場 合であっても実質的に任用の継続を認める。この点につき補足をしておく。例えば,下 井康史「期限付任用公務員の再任用拒否」(北大法学論集41巻3号)の見解にあるよう

に,行政行為の期限には厳格に設定されている期限と更新を予定している期限があり,

職員が再任用につき一定程度の期待をもつことが無理からぬ状況が客観的に認められ,

そのような期待が保護に値すると認められるような場合,当該期限の更新を予定してい ると認めることができるとしている。また現行制度上も「全く」例外が許されていない わけではなく,例えば人事院規則自体が,「日々雇用」の更新について,「職員が引き続 き勤務をしていることを任命権者が知りながら別段の措置をしないときは,従前の任用 は,同一の条件をもつて更新されたものとする」(人事院規則8‑12第74条2項)と定 めているのである。これは 1日という期限到来により当該任用行為は当然効力を失うに もかかわらず,更新を予定している。実態的には任用予定期間内の日々の更新手続を省 略する趣旨であるとはいえ,任用は重要な法律行為であるからとして様式性や・法令の 拘束性を最大限強調する人事院自身が「その都度」「明確な」意思表示をしないことを 認めている重要な事例である。)

26‑12‑187(香法2006) ‑ 50  ‑

参照

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