ポルフィリン修飾金クラスターの合成
と光化学的機能化に関する研究
山梨大学大学院
医学工学総合教育部
博士課程学位論文
平成
29 年 3 月
篠𠩤 英
目次 第1 章 緒言 ... - 1 - 1.1. 序論 ... - 1 - 1.2. 発色団の光化学的機能のチューニングの現状 ... - 1 - 1.2.1. 外部刺激による光化学的機能のチューニング ... - 2 - 1.2.2. 一重項酸素発生とその応用 ... - 3 - 1.2.3. 金クラスター ... - 10 - 1.3. 問題提起と本論文の構成 ... - 12 - 参考文献 ... - 14 - 第2 章 ポルフィリン修飾金クラスターの合成と光化学的機能 ... - 19 - 2.1. 序論 ... - 19 - 2.1.1. 金クラスターを用いた一重項酸素発生制御 ... - 20 - 2.1.2. ポルフィリンと金クラスターの複合化 ... - 20 - 2.1.3. 本章の目的... - 21 - 2.2. 合成 ... - 22 - 2.2.1. クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)の合成 ... - 22 - 2.2.2. 金クラスターA (2.5 ± 0.5 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成 . - 23 - 2.2.3. 金クラスターB (2.5 ± 0.9 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成 . - 24 - 2.2.4. 金クラスターC (5.6 ± 2.2 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成 . - 25 - 2.2.5. 5-(4-ニトロフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリン (2.2) の合成- 26 - 2.2.6. 5-(4-アミノフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリン (2.3) の合成- 27 - 2.2.7. 3-ブロモ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]プロピ オンアミド (2.4a) の合成 ... - 27 - 2.2.8. 3-アセチルチオ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]
プロピオンアミド (2.5a) の合成 ... - 28 - 2.2.9. N,N’-ビス[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]-3,3’-ジ チオジプロピオンアミド (2.7) の合成 ... - 28 - 2.2.10. 3-メルカプト-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]プ ロピオンアミド(2.6a)の合成 ... - 28 - 2.2.11. 6-ブロモ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ヘキサ ンアミド(2.4b)の合成 ... - 29 - 2.2.12. 6-アセチルチオ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル] ヘキサンアミド(2.5b)の合成 ... - 30 - 2.2.13. 6-メルカプト-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ヘ キサンアミド (2.6b)の合成 ... - 30 - 2.2.14. 11-ブロモ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ウン デカンアミド (2.4c) の合成 ... - 31 - 2.2.15. 11-アセチルチオ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニ ル]ウンデカンアミド (2.5c) の合成 ... - 31 - 2.2.16. 11-メルカプト-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル] ウンデカンアミド (2.6c) の合成 ... - 32 - 2.2.17. tert-ブチルクロリド (2.8) の合成 ... - 33 - 2.2.18. 3,5-ジ-tert-ブチルトルエン (2.9) の合成 ... - 34 - 2.2.19. 3,5-ジ-tert-ブチルベンズアルデヒド (2.10) の合成 ... - 34 - 2.2.20. 5-(4-ニトロフェニル)-10,15,20-トリス(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ポルフィ リン (2.11) の合成 ... - 34 - 2.2.21. 5-(4-アミノフェニル)-10,15,20-トリス(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ポルフィ リン (2.12) の合成 ... - 35 -
2.2.22. 6-ブロモ-N-{4-[10,15,20-トリス(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ポルフィリン-5-イル]フェニル}ヘキサンアミド (2.13) の合成 ... - 35 - 2.2.23. 6-アセチルチオ-N-{4-[10,15,20-トリス(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ポルフィ リン-5-イル]フェニル}ヘキサンアミド(2.14)の合成 ... - 36 - 2.2.24. 6-メルカプト-N-{4-[10,15,20-トリス(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ポルフィリ ン-5-イル]フェニル}ヘキサンアミド (2.15) の合成 ... - 36 - 2.3. 測定 ... - 37 - 2.3.1. 吸収スペクトルの測定 ... - 37 - 2.3.2. 蛍光スペクトル・蛍光量子収率 (ΦF) の測定 ... - 37 - 2.3.3. 一重項酸素量子収率 (ΦΔ) の測定 ... - 38 - 2.4. 結果および考察... - 39 - 2.4.1. 吸収スペクトルの分解と置換数 ... - 39 - 2.4.2. 蛍光スペクトルと蛍光量子収率 ... - 44 - 2.4.3. 一重項酸素量子収率(ΦΔ) ... - 46 - 2.5. 結論 ... - 47 - 参考文献 ... - 48 - 第3 章 金クラスター表面のリガンド交換反応を利用した活性酸素発生制御 ... - 52 - 3.1. 序論 ... - 52 - 3.1.1. 活性酸素発生制御における外部刺激の種類 ... - 52 - 3.1.2. 消光剤としての金クラスター ... - 53 - 3.1.3. 本章の目的... - 53 - 3.2. 合成 ... - 54 - 3.2.1. 金クラスターD (2.5 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成 ... - 54 - 3.2.2. 5-(4-メトキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリン (3.1) の合成 ... - 55 -
3.2.3. 5-(4-ヒドロキシフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリン (3.2) の合成 .... - 56 - 3.2.4. ビス[(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル] 3,3’-ジチオジプ ロピオナート (3.3) の合成 ... - 56 - 3.2.5. ポルフィリン修飾金クラスター3.3@D の合成 ... - 57 - 3.2.6. ジドデシルジスルフィド (3.5) の合成 ... - 58 - 3.2.7. 3,3’-ジチオジプロピオン酸 (3.9) の合成... - 59 - 3.2.8. ジヒドロチオクト酸 (3.10) の合成 ... - 59 - 3.2.9. ジヒドロチオクト酸n-ブチルエステル (3.12) の合成 ... - 59 - 3.2.10. N-アセチル-L-システイン n-ブチルエステル (3.13) の合成 ... - 60 - 3.3. 測定 ... - 60 - 3.3.1. リガンド交換反応に伴うΦΔの変化 ... - 60 - 3.3.2. リガンド交換反応に伴う紫外可視吸収スペクトルの変化 ... - 61 - 3.3.3. 様々なチオールとの交換反応 ... - 61 - 3.4. 結果および考察... - 61 - 3.4.1. 3.3@D の合成における吸収スペクトルの経時変化 ... - 61 - 3.5. 結論 ... - 66 - 参考文献 ... - 68 - 第4 章 金クラスター界面にポルフィリン系超分子構造を有する光化学的機能制御シ ステムの設計と合成 ... - 71 - 4.1. 序論 ... - 71 - 4.1.1. ロタキサン... - 71 - 4.1.2. 本章の目的... - 74 - 4.2. 合成 ... - 74 - 4.2.1. 金クラスターE (1.9 ± 0.6 nm トリフェニルホスフィン保護金クラスター) の
合成 ... - 75 - 4.2.2. 1,2-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン (4.1) の合成 ... - 77 - 4.2.3. 1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタン (4.2) の合成 ... - 77 - 4.2.4. ペンタエチレングリコール (4.3) の合成 ... - 77 - 4.2.5. ペンタエチレングリコールジトシラート (4.4) の合成 ... - 78 - 4.2.6. ベンゾ-24-クラウン-8 (4.5) の合成 ... - 78 - 4.2.7. ジベンゾ-24-クラウン-8 (4.6)の合成 ... - 78 - 4.2.8. ホルミルベンゾ-24-クラウン-8 (4.7) の合成 ... - 79 - 4.2.9. ホルミルジベンゾ-24-クラウン-8 (4.8) の合成 ... - 79 - 4.2.10. ポルフィリン修飾ベンゾ-24-クラウン-8 (4.9) の合成 ... - 79 - 4.2.11. ポルフィリン修飾ジベンゾ-24-クラウン-8 (4.10) の合成 ... - 80 - 4.2.12. 1-ブロモ-10-フタルイミドデカン (4.11) の合成 ... - 81 - 4.2.13. ビス(10-フタルイミドデシル)ジスルフィド (4.12) の合成 ... - 82 - 4.2.14. ビス(10-アミノデシル)ジスルフィド二塩酸塩 (4.13) の合成 ... - 82 - 4.2.15. ビス[10-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジルアミノ)デシル]ジスルフィド (4.14) の合成 - 82 - 4.2.16. 10-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジルアミノ)デカン-1-チオール (4.15) の合成 - 83 - 4.2.17. 10-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジルアミノ)デカン-1-チオールヘキサフルオロリ ン酸塩 (4.16) の合成 ... - 83 - 4.2.18. 1-(アセチルチオメチル)-4-(クロロメチル)ベンゼン (4.17) の合成 ... - 84 - 4.2.19. 4-(クロロメチル)フェニルメタンチオール (4.18) の合成 ... - 85 - 4.2.20. N-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジル)ドデカン-1,12-ジアミン (4.19) の合成 .... - 85 - 4.2.21. 4-(クロロメチル)-N-(12-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジルアミノ)ドデシル)ベンズ アミド塩酸塩 (4.20) の合成 ... - 85 - 4.2.22. 1-(4-(12-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジルアンモニオ)ドデシルカルバモイル)ベン
ジル)-4-(ピリジン-4-イル)ピリジニウム (4.21) の合成 ... - 86 - 4.2.23. 1-(4-(12-(3,5-ジ-tert-ブチルベンジルアンモニオ)ドデシルカルバモイル)ベン ジル)-1'-(4-(メルカプトメチル)ベンジル)-4,4'-ビピリジン-1,1'-ジイウム三六 フッ化リン酸塩 (4.22) の合成 ... - 86 - 4.2.24. ポルフィリン修飾金クラスター (4.23) の合成 ... - 87 - 4.2.25. ポルフィリン修飾金クラスター (4.24) の合成 ... - 88 - 4.3. 測定 ... - 89 - 4.3.1. ポルフィリン修飾金クラスター4.23 の酸塩基反応に伴う吸収スペクトル、 蛍光量子収率 (ΦF)、一重項酸素量子収率 (ΦΔ) の変化 ... - 89 - 4.3.2. ポルフィリン修飾金クラスター4.24 の酸塩基反応に伴う吸収スペクトル、 蛍光量子収率 (ΦF)、一重項酸素量子収率 (ΦΔ) の変化 ... - 90 - 4.4. 結果および考察... - 91 - 4.4.1. ポルフィリン修飾金クラスター4.23 の酸塩基反応に伴う吸収スペクトル、 蛍光量子収率 (ΦF)、一重項酸素量子収率 (ΦΔ) の変化 ... - 91 - 4.4.2. ポルフィリン修飾金クラスター4.24 の酸塩基反応に伴う吸収スペクトル、 蛍光量子収率 (ΦF)、一重項酸素量子収率 (ΦΔ) の変化 ... - 94 - 4.5. 結論 ... - 97 - 参考文献 ... - 98 - 第5 章 結言 ... - 101 - 関連論文 ... - 103 - 謝辞 ... - 104 -
- 1 - 第1章 緒言 1.1. 序論 光合成系の複雑な分子集合体を構築するのには時間がかかったのだろうか。地球最初の 生命の誕生からしばらく遅れて光合成を行う生物が誕生した。初めは電子供与体として硫 化水素を用いていたようがやがてこれは水に代わり、藍藻の死骸等からなる鉱物であるス トロマトライトが見出される。光合成の代謝経路は現在でも生物の中で最も複雑なもので ある。太陽からは絶えず光が降り注いでおり、地表における最も大きなエネルギー供給源 である。光化学という用語は我々が知覚することのできる可視光線 (400 nm-750 nm) に加 えてより短波長の紫外線 (100 nm-400 nm) とより長波長の近赤外線 (750 nm-2500 nm) が 関与する反応について用いることが多い。植物の光合成を例に挙げるまでもなく、光で起 こる有機化学反応は非常に重要な反応である。光反応は熱反応に比べて大きなエネルギー を有し、異性化、環化、転移などに熱反応とは異なる特有の反応性を示す。また光は何よ りも早く瞬時に目的の場所に到達するし、その指向性から自由に方向を操ることができる。 光と相互作用するには光子を吸収しなければならない (グロトゥス=ドレーパーの法則) が、特に有機分子における、光吸収をつかさどる部分を発色団と呼んでいる。発光素子、 受光素子、光導波路、光増幅器などの光デバイスは現代の情報化社会における重要な構成 要素の一つである。こうした社会的な要請もあって、化学者たちは発色団の光化学的物性 の制御に注力されてきた。 1.2. 発色団の光化学的機能のチューニングの現状 発色団とは色素が色を持つために必要とされているπ 電子を含む原子団である。アゾ化 合物、キサンテン類、ポルフィリン類が代表的である。こうした色素は光デバイスへ応用 されているが、光化学的としてはとくにその極大吸収波長や発光波長、量子収率のチュー ニングに興味が向けられる。また、近年では外界刺激により可逆的なチューニングが可能 な色素に注目が集まっている。下に代表的な例を示す。
- 2 - 1.2.1. 外部刺激による光化学的機能のチューニング a. 光応答性 光によって発色団の物性を変える物質の一群はフォトクロミック分子として知られて いる。よく知られたフォトクロミック分子であるアゾベンゼンは、シス-トランス異性化に よりその光吸収特性が変化する1)。トランス体はπ-π*遷移に由来する近紫外領域の光を吸 収し、シス体はn-π*遷移に由来する青色光を吸収する。スピロピランは光開環反応により メロシアニンとなり色調が劇的に変化する (図 1.1) 2)。 図1.1 アゾベンゼンおよびスピロピランの光異性化反応
- 3 - b. ソルバトクロミズム 色素におけるソルバトクロミズムでは、溶質分子のエネルギー順位が溶媒分子との相互 作用により安定化または不安定化することにより吸収される光の波長が変化する。特に顕 著なソルバトクロミズムを示す色素としてはライヒャルト色素、またはベタイン 30 とし て知られる 2,6-ジフェニル-4-(2,4,6-トリフェニルピリジニオ)フェノラートが挙げられる。 この色素は溶媒の極性によって紫外領域から近赤外領域まで最大吸収波長が変化する 3)。 この性質は溶媒の極性を調べる際に用いられる。 図1.2 ライヒャルト色素(ベタイン 30)の構造 他の外界刺激としてはサーモクロミズム (熱) 4)、ピエゾクロミズム (圧力)、エレクトロ クロミズム (酸化還元反応) 5)などが挙げられる。 1.2.2. 一重項酸素発生とその応用 a. 一重項酸素の性質 酸素分子はフントの規則により、基底状態で2 つの縮退した π*軌道にそれぞれ1 つずつ の電子が平行に収容されている三重項状態3Σgをとるビラジカルである (図 1.3) 6)。π*に収 容されている2 つの電子が持つスピンの一方が逆向きになった場合、1Δgと1Σgの2 つの一 重項状態が考えられる。これらを総称して一重項酸素と呼ぶが、この内安定なのは 1Δgの 方で、一重項ビラジカルである1Σgは不安定で速やかに1Δgへ失活する。1Δgは3Σgよりも 約1 eV だけ高いエネルギーを持ち、対応する波長 (1270 nm) の発光を伴って 3Σgへと戻 る。又、1Δgは空のπ*を持つので求電子的な性質を有する。1Δgの寿命は水中よりも有機溶
- 4 - 媒、特に無極性溶媒中において長いことが知られている 7)。このことから、生体膜の疎水 環境において寿命が長くなることが考えられる。1Δg は求電子的なので電子に富む官能基 を持つ分子と容易に反応し、特にフラン誘導体との反応速度定数は108 (M-1s-1) オーダーに も達する8)。実際にはもっと高次のポテンシャルを持つ一重項酸素、例えば1Σuが存在する が、ここでは一重項酸素の内最も低次の2 種のみについて述べた。これら一重項酸素は他 の励起状態の酸素に比べてかなり低いポテンシャルを有する。酸素それ単独から一重項酸 素を発生させることは困難である。一重項酸素のポテンシャルは約1 eV だが、これは熱的 には大きすぎる為に光による励起に頼らざるを得ない。しかし光励起においてΣ-Σ 遷移、 Σ-Δ 遷移はいずれも角運動量保存則に反する為禁制であるし、また g-u 間の遷移もパリテ ィ禁制で許されない。異なるスピン多重度間の遷移も禁制である。酸素は一重項励起状態 に近い三重項励起状態も持たないので項間交差により一重項酸素を発生させることも出来 ない。そこで、一重項酸素のポテンシャルよりも大きく、かつそれに近いエネルギーを持 つ三重項励起状態を生じるような物質を系内に共存させると三重項-三重項エネルギー移 動により容易に一重項酸素を発生させることが出来る。三重項励起状態を生じやすい物質 はそのポテンシャルのすぐ上に一重項励起状態を持つので、必然的にその励起は可視光で 行うことが出来る。この様な物質を光増感剤と呼び、その代表例としてポルフィリンが挙 げられる。ポルフィリンのほかにはメチレンブルー、ローズベンガルがよく知られている。 化学的に発生させることも可能で、次亜塩素酸と過酸化水素の反応、亜リン酸トリフェニ ル-オゾン付加体、芳香族エンドペルオキシドの熱分解、酸素のマイクロ波放電などで発生 させることができる。求ジエン体、求エン体として働く。ディールス・アルダー付加物と して環状ペルオキシドを、エン様反応生成物としてヒドロペルオキシドを生成する。
- 5 - 図1.3 分子状酸素の基底三重項および励起一重項・三重項の電子構造 b. 光線力学療法 光線力学療法は一重項酸素の最も有益な応用方法かもしれない。紀元前 15 世紀インド の書籍アタルヴァ・ヴェーダには、Psoralea corylifolia の種子抽出物(ソラレンを含む)を用 いた尋常性白斑の治療法が記されている。エジプトにおいても、ソラレンを含むAmmimajus が同様の治療に用いられていた。光線力学療法によるがんや皮膚疾患の治療に関する研究 例としては、1903 年から 1905 年タッペイナーによるものが見いだされる 9)。ヘマトポル フィリンは1841 年に純粋な形で単離された。1913 年マイヤー-ベッツは自身に 200 mg の ヘマトポルフィリンを注射し、その光毒性が2 カ月続くことを示した10)。1924 年にポリカ ールは注射したヘマトポルフィリンが腫瘍に集積するのに気づいたが、腫瘍治療には大量 のヘマトポルフィリンを投与せねばならず、副作用の大きさから実用的ではなかった 11)。 シュバルツが、市販のヘマトポルフィリンに含まれる不純物が腫瘍に集積していることに 気づきその後、ヘマトポルフィリンのオリゴマーが特に有効であることが突き止められ、 σu* πg* σg πu 3
Σ
g 3Σ
u 1Δ
g 1Σ
g σu* πg* σg πu σu* πg* σg πu σu* πg* σg πu- 6 - フォトフリンとして用いられるようになった12)。これとは別に、両親媒性のポルフィリン もよい成績を与えこちらはレザフィリンとして実用化されている。 図1.4 光線力学療法に用いられる光増感剤 c. 汚水処理 太陽エネルギーを用いた汚水処理は環境負荷の小さい方法として注目されている。スペ インのプラタフォルマ・ソーラー・デ・アルメリア (PSA) では太陽光による光増感反応を 用いた工業廃水都市排水の無害化に関する研究が進行している。PSA における SOLFIN プ ロジェクト、ドイツにおける PROPHIS 反応器はいずれも太陽光による光増感反応を利用 した化学合成に関するものである。フェノール類を含む工場排水は製紙、色素製造、石油 精製において生じる主な有害物質である。固定化ローズベンガルやフタロシアニンを用い たフェノールの酸化に関する研究もおこなわれている13)。水中で硫化物を硫酸塩に酸化す る反応は汚水処理において重要である。硫化物を含む排水は主に石油精製、コークス製造、 皮革なめし、食品製造において発生する。イリーブらはZn(II)-2,9,16,23-フタロシアニンテ トラカルボン酸を用いて硫化物やチオ硫酸塩を硫酸塩に酸化できることを示した14)。
- 7 - d. 殺虫剤、除草剤 光線力学療法に類似して、一重項酸素の毒性は殺虫剤や除草剤生体内に用いられている。 光線力学除草剤は、植物体内に過剰のクロロフィルやヘムの代謝中間体を蓄積させる。蓄 積されたテトラピロールは光増感剤として働き、光照射によって一重項酸素を発生、組織 を酸化し植物を死に至らしめる。すべてのテトラピロール誘導体の前駆体である5-アミノ レブリン酸 (ALA) は除草剤として作用する 15)。殺虫剤としての光増感剤としてはキサン テン類が最もよく研究されている。こうした光増感剤は光に対して不安定であり、従来の 殺虫剤で問題視された環境への残留・蓄積がないとされている。最近ではポルフィリン類 も研究対象となっており、その幅広い可視光吸収特性に優位性がある。ポルフィリンの蓄 積方法としては 2 種類あり、ひとつは除草剤と同様、過剰の ALA を投与しプロトポルフ ィリン IX の蓄積を期待するもので、もうひとつは直接ポルフィリンを投与する方法であ る。N-メチルピリジルポルフィリンやスルホナトフェニルポルフィリンなど、親水性のポ ルフィリンは効果が小さいことが知られている。それに対し、meso-[ジシス(4-N-メチルピ リジル)]-シス-ジフェニルポルフィリンジトシラート (DDP) などの両親媒性誘導体は効 果が高いことが知られている。これは光線力学療法による腫瘍細胞の破壊において、親水 性の高い光増感剤に効果がないことに類似している16)。 図1.5 殺虫剤・除草剤として用いられる物質
- 8 - e. 医薬品の合成17) 一重項酸素を用いた医薬品の合成例はこの 10 年でかなり増えてきたが、まだ新参者と 言える。生物が一重項酸素を積極的に利用している例は見当たらないが、その反応生成物 であるエンドペルオキシドやヒドロペルオキシドには生理活性を有する物が多く見いださ れる。例えば、プロスタグランジンのエンドペルオキシド誘導体は他のプロスタグランジ ンの前駆体となる。一重項酸素は求核性が高く、電子豊富な種々の基質に付加する。これ らの反応は穏やかな条件で選択的に進行するので、合成化学的に有用である18)。駆虫薬で あるアスカリドールは長らく天然で見いだされる唯一の有機ペルオキシドであったが、ツ ィ ー グ ラ ー に よ っ て テ ル ペ ン と ク ロ ロ フ ィ ル の 光 増 感 反 応 に よ り 作 ら れ た 。 海 綿 Chondrilla、Plakortis から単離されたコンドリリンやエピコンドリリン (プラコリン) はマ ウスの白血病細胞に選択的な毒性を有することが知られている19)。抗マラリア薬であるア ルテミシニンの合成にも利用されている20)。 一重項酸素発生制御の現状21) 光増感剤を用いた一重項酸素の発生は光増感剤、光、そして酸素の3 要素が不可欠であ るが、近年では更に要素を加えた一重項酸素発生を制御する手法が提案されている。 a. 自己失活 励起状態の光増感剤分子は基底状態の光増感分子との相互作用により失活する。普通、 こうした失活には増感剤分子同士が近くにある必要がある。ポルフィリンナノディスク22) やポルフィソーム23)にみられるポルフィリンの凝集体はこの条件を満たしている。ポルフ ィソームにおいては99%蛍光が消光されているが、細胞との相互作用により凝集体構造が 解消し、一重項酸素量子収率は12 倍に達する。 b. エネルギー移動 フェルスター型の共鳴エネルギー移動現象を用いると、光増感反応の制御が可能である。 クエンチャーを光増感剤の近くに配置すると、共鳴エネルギー移動によって励起三重項状 態が失活する。結果として基底状態の酸素が励起光増感剤分子と出会う確率が小さくなり、
- 9 - 一重項酸素の発生が抑制される。エネルギー移動効率は光増感剤分子とクエンチャーの距 離の逆六乗に比例する。クエンチャーとしては、受け取ったエネルギーを無輻射過程に利 用するようなものが好まれる24)。こうした電子移動は通常、アミンのような非共有電子対 から起こる。ダブシル系色素であるブラックホールクエンチャー1 (BHQ1、最大吸収波長 534 nm) やブラックホールクエンチャー2 (BHQ2、最大吸収波長 579 nm) はよく知られた 非蛍光性消光剤である (図 1.6)。 図1.6 ブラックホールクエンチャー (BHQ1、BHQ2) の構造 c. 電子移動 光誘起の電子移動は、光励起された電子がドナーからアクセプターへ移動するプロセス である。電荷分離状態を生成する。電子移動は効果的に励起状態をクエンチする。逆に、 電子移動をブロックすると一重項酸素が発生する25)。こうした電子移動は通常、アミンの ような非共有電子対から起こる。 d. 一重項酸素スカベンジャー 上の三つの方法はいずれも励起状態の光増感剤分子をクエンチすることによって一重 項酸素の発生を抑制する。一重項酸素を直接クエンチし、望まない反応を抑制する方法も 考えられる。カロテノイドはよく知られた一重項酸素スカベンジャーで、動物や、光合成 中心の光化学系における抗酸化剤として働く。例えば、β-カロテンの消光速度定数は 1 ~ 3 × 1010 (M-1s-1) にも達する26)。
- 10 - 1.2.3. 金クラスター a. 金クラスターの歴史 17 世紀にヨハン・クンケルはガラスを製造する際、原料に金を王水で溶かしたもの(塩 化金酸)を加えることで鮮やかな赤色を呈すことを見出した。少なくともこの頃には塩化金 酸に適当な処理を行うと赤色~紫色の沈殿や、コロイド溶液が得られることが知られてい たようである27)。19 世紀、金クラスターの調製法の化学的検討がマイケル・ファラデーに より初めて行われた。彼は、塩化金酸水溶液を黄燐の二硫化炭素溶液で還元することによ り金コロイド、現在で言う金クラスター溶液を得た28)。その鮮やかなルビーレッドを呈す コロイドは彼を大いに惹きつけ、多くの実験や理論的検証に駆り立てた。また彼は、得ら れたコロイド分散液が電解質の添加によって不安定になることを見出し、これに高分子を 添加するとコロイドが安定化されることも見出した。金クラスターがなぜこの様に呈色す るのか。この問いに最初に答えたのは20 世紀初頭、ミー理論で知られるグスタフ・ミーで ある29)。彼は1 つの金クラスターと光との相互作用をマクスウェル方程式に当てはめ、こ れを解くことにより金クラスターの光学的特性を説明することに成功した。金クラスター における電子の励起はその伝導電子の集団的励起モード、即ち表面プラズモン共鳴として 理解されている。プラズモンとはプラズマ振動の素励起である。金属は多数の自由電子を 有し、これらは相互作用し合って集団的に振動している。この金属におけるプラズマ振動 の励起はそれを量子化した素励起、即ちプラズモンを以って記述出来る。金属薄膜や金属 クラスターにおいては、バルク金属とは様相の異なるプラズマ振動、つまり表面プラズモ ンが存在する。プラズマ振動により自由電子が振動すると、それに伴い電磁場の振動が起 こる。結果、電場はナノ空間に局在することになる。金属微粒子において、その表面プラ ズモンは閉じた系に存在するので特に局在型表面プラズモンと呼ばれる。1990 年代以降の 研究者の努力によって、現在ではその粒径や形状の制御が可能となった30)。 b. 金クラスターの合成法 ファラデーは、塩化金酸の水溶液を黄燐の二硫化炭素溶液で還元する2 相法によって金 クラスターを合成した。現在最も標準的な金クラスター合成法は、還元剤としてクエン酸 を用いる方法で、1951 年にトゥルケビッチにより初めて提案されたのでトゥルケビッチ法
- 11 - とも呼ばれる31)。この方法では使用する試薬が比較的安全で、しかも簡単に単分散の金ク ラスターを得ることが出来、条件の選択により容易に粒径制御が可能である為32)、生物工 学の分野を中心に広く利用されている。また、クエン酸と金クラスターとの相互作用は弱 いので、適当な処理を行えば様々な分子を金クラスター表面に修飾することが出来る。金 クラスターの合成において、金との親和性の高い保護剤を用いると粒子の成長が抑制され る為に粒径の小さな金クラスターが得られる。この様な微細な金クラスターの合成法とし て現在多用されているのはブラストらに提案された2 相反応法である33)。相間移動剤とし て働く臭化テトラオクチルアンモニウムを用いて水溶液中に溶解したイオンをトルエン等 の有機相に移動させ、アルカンチオール及び還元剤である水素化ホウ素ナトリウムの存在 下に室温で撹拌すると直径 2 nm 程度の金クラスターが容易に合成できる。長鎖アルカン チオールを用いて保護した金クラスターは極めて安定で、鎖長が長い程安定性が高い。ブ ラスト法で調製したアルカンチオラート保護金クラスターはそれまでのミセル、ポリマー、 小さな分子で保護された金クラスターや、気相成長法で合成した金クラスターとは異なり 有機溶媒より再沈澱、再溶解を繰り返しても不可逆的な凝集を起こさない。金クラスター の生成過程はまだ詳しく分かっていないが、核形成→成長→保護層の完成による成長終了 というメカニズムが支持されている。チオール濃度が高いほど、核の成長が抑制されるた め小さな金クラスターが形成される。又速やかに還元剤を加えたり、低温で反応させたり するとより小さな金クラスターが得られる。還元の際に反応を速やかにクエンチすると非 常に小さな金クラスターが得られる。ブラスト法は様々な保護リガンドに対して適用出来 る34)。嵩高いリガンドは一般に小さな金クラスターを与える。更に、金だけでなく、銀や、 金-銀合金等より成るクラスターも合成出来る35)。これらも金クラスターと同様に空気中、 溶液中で安定である。又、近年では数個から100 個程度の金原子より成る原子レベルでサ イズが規定された金クラスターの単離、結晶化が達成されている36)。金クラスターはその 直径が 1 nm 以下であるが、それ以上の大きさの金クラスターの単離は未だ達成されてい ない。 c. 金クラスター表面におけるチオール吸着質の構造 保護剤としてチオールを用いて合成した金クラスターにおけるリガンドの金表面への 結合様式について、元素分析におけるリガンドの組成が原料のチオールよりも水素1 個分
- 12 - 少ないことや、赤外分光法おいてS-H 伸縮が観測されないことは比較的早くから知られて いた。これらの事実から、リガンドはチオールではなくチオラートイオン、或いはジスル フィドとして金表面に結合しているだろうと考えられていた。実際、その様な金クラスタ ーを熱分解するとチオールではなくそれに対応するジスルフィドが遊離する。また、核磁 気共鳴分光法の発達によって、硫黄原子に隣接する炭素原子の化学シフトが大きくシフト し、又その運動も制限されていることが明らかとなった。更に金表面においてS-S 結合が 存在しないことが発見され、その後長らく金クラスター表面にチオラートイオンが配位し たモデルが支持されていた。X 線構造解析を用いた金クラスターにおける各原子の絶対配 置の決定は、サイズが原子レベルで規定された金クラスターを大量に単離する必要があっ た為に近年まで実現しなかった。泳動法や選択的結晶化によりAu25(SR)18やAu38(SR)24等 が単離、結晶化され、X 線構造解析によってその構造が決定された。Au25(SR)18では、正20 面体構造を持つ Au13クラスターの表面に-SR-Au-SR-Au-SR-のユニットが 6 個橋掛け状に 結合している37)。それよりも大きいAu38(SR)24やAu102(SR)44ではAu のコアを Au(SR)2と Au2(SR)3の混合物が取り巻いている38)。 d. 金クラスターの応用 金クラスターの実際への応用は、金自体が高価なこともあって、使用量が少なくかつ高 付加価値なものに限られる。その特徴的な光化学的特性を応用した例はあまり多くないが、 金クラスターの、金原子1 つ当たりの光捕集効率は、サイズにほとんど依存しないことが 知られている。これは逆に言えば、大きな金クラスターはそれ一つを一分子として考える と非常に大きなモル吸光係数を有するということで、イムノクロマトグラフィーの呈色剤 として、インフルエンザや糖尿病、妊娠検査キット等に用いられている。こうした金クラ スター自体の光化学的特性の利用は既に広まりつつあるが、発色団の光化学的機能のチュ ーニングに金クラスターを用いた例はあまり多くないが、その例として表面プラズモン増 強効果を利用したDNA 配列検出 39)と金クラスターの消光作用を利用したバイオイメージ ング40)を挙げておく。 1.3. 問題提起と本論文の構成 本論文は全5 章より構成されている。以下に本章 (第 1 章) を除いた各章の概要を述べ
- 13 - る。 第2 章 ポルフィリンと金クラスターを修飾する方法として、安定な Au-S 結合を介して連結し たポルフィリン修飾金クラスターを設計・合成した。単純な長鎖アルカンチオールである 1-ドデカンチオールを保護材として用いた、1-ドデカンチオラート保護金クラスターを原 料とし、ここにチオール基を導入したポルフィリンをポスト合成法により導入した。光吸 収特性、蛍光量子収率ΦF、一重項酸素量子収率ΦΔを測定したところ、ポルフィリン修飾 金クラスターの構造 (リンカー鎖長、置換基、金クラスターのサイズ、置換数) がポルフィ リン修飾金クラスターの光化学的特性に影響を与えることを明らかにした。 第3 章 金クラスター上のポルフィリン吸着質の脱吸着を金クラスター表面リガンドの再交換 によって行ったところ、一重項酸素量子収率ΦΔの回復することを見出した。また、再交換 に用いるチオールの種類により、回復の程度が異なることを示した。 第4 章 ポルフィリンを金クラスターとトポロジカルに連結した超分子システムを用い、散逸を 伴わないポルフィリン-金クラスター間距離の制御を検討した。二級アンモニウムとクラウ ンエーテルよりなるロタキサン構造を用いた。アンモニウム部分における酸塩基反応によ って、酸性環境下において蛍光と一重項酸素発生が活性化されることを示した。 第5 章 本研究で得られて成果を総括し、全般にわたる考察を行った。
- 14 - 参考文献
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- 19 - 第2章 ポルフィリン修飾金クラスターの合成と光化学的機能 2.1. 序論 発色団の光励起と緩和は光化学反応における中心的な事象であると考えられている。色 素の光化学的性質の精密なチューニングは、光学、光触媒、バイオイメージングなど、幅 広い分野に応用可能である。この目的のため、置換基効果、光異性化、ソルバトクロミズ ム、超分子化学的アプローチなど、様々な手法が検討されてきた 1)。こうした努力にもか かわらず、高度な分子設計や煩雑な合成操作が要求されることから、コントロールは未だ 限られたものであり、大きなチャレンジとなっている。 より新しいトレンドとしては、有機色素と無機物である金属クラスターを組み合わせた 手法がある2)。金属クラスターは1 nm から 100 nm の粒子である3)。金属はこのサイズ領 域において、バルクとは全く異なった光学的、電気化学的を示す。金属クラスターの特筆 すべき性質として局在表面プラズモン共鳴により増強された電磁場が挙げられる 4)。実際 への応用に関して、金はその高い安定性から数少ない候補とであると考えられている。こ の四半世紀の間に発展したブラスト法により合成されたアルカンチオラート保護金クラス ターはその高い安定性で知られ、そうした目的で多く用いられている 5)。表面のアルカン チオラートリガンドは、チオラート/チオールリガンド交換反応によって簡単に他の分子に 交換することができる。この特性から、我々は金クラスターを新しい機能性分子設計にお けるプラットホームとして利用することができる。複数種のリガンドで修飾することが容 易なのもチオラート保護金クラスターの特徴の一つである。望みの性質(溶解性、極性、電 荷、多分子との親和性)はそれぞれ独立に金クラスター表面に導入することができる6)。 光増感反応は光線力学療法において鍵となるプロセスである。まず光吸収によって一重 項励起状態となった光増感剤分子は項間交差によって励起三重項状態となる 7)。励起三重 項状態から基底三重項状態の分市場酸素へのエネルギー移動により、光増感剤分子は基底 一重項状態に戻り、分子状酸素は活性な一重項酸素となる。一重項酸素は活性酸素の一種 で、細胞内の小器官や生体分子、例えばミトコンドリア、タンパク質、脂質、核等に不可 逆的な損傷を与える。近年では、光線力学療法における術後の望ましくない光毒性を軽減 すべく、光増感剤の光増感効率制御に注目が集まっている。光毒性の低減は、光線力学療 法ががん治療の第一選択肢となるために必須である。
- 20 - 2.1.1. 金クラスターを用いた一重項酸素発生制御 金クラスターは蛍光を高効率に消光することが知られているが、我々の知る限り、金ク ラスターを一重項酸素発生のクエンチャーとして用いた例はない。また、金クラスターの 吸収波長範囲がポルフィリンのそれと重なっているために、ポルフィリン吸着質の金クラ スター表面における真の光化学的性質を知ることはできなかった。 2.1.2. ポルフィリンと金クラスターの複合化 今堀らはトルエン中でビス(ポルフィリン)ジスルフィド 1 の共存下、AuCl4-を水素化ホウ 素ナトリウムで還元することにより (1: AuCl4- = 1: 2)、表面が 1 のみで修飾された金クラ スター2 を得た (直径: 2.4 ± 0.6 nm) 8) (図 2.1)。彼らはまた、2 を 1-ドデカンチオールと共 に 48 時間反応させることで、ポルフィリン修飾アルカンチオールとドデカンチオールの 混合リガンドで保護された金クラスター3 を得ている。 図2.1 今堀らが合成したポルフィリン修飾金クラスター
- 21 - 金原らはフェニル基のオルト位にリンカーを導入したテトラフェニルポルフィリン誘 導体 SC0P および SC1P の N,N-ジメチルアセトアミド溶液とクエン酸保護金クラスター (10.5 ± 1.0 nm)水溶液を 120oC で反応させることで、ポルフィリン修飾金クラスターを得て いる9) (図 2.2)。 図2.2 金原らが合成したポルフィリン修飾金クラスター 2.1.3. 本章の目的 本章の目的は、チオラートサイトの一部がポルフィリンチオラートで占められたポルフ ィリン修飾金クラスターの合成と、その光化学的機能の評価である。
- 22 - 2.2. 合成 2.2.1. クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)の合成10) 塩化金酸4 水和物 (506 mg, 1.23 mmol) を 95%エタノール (2.5 mL) に溶解し、氷冷撹拌 下トリフェニルホスフィン (677 mg, 2.59 mmol) の 95%エタノール溶液 (15 mL) を滴下し た。生じた沈殿を濾取し、ジクロロメタン/メタノールより再結晶することでクロロ(トリフ ェニルホスフィン)金(I)を無色針状結晶 (597 mg, 98%) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温): δ/ppm 7.44-7.58 (m, 15H, ベンゼン).
- 23 - 2.2.2. 金クラスターA (2.5 ± 0.5 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成11) クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I) (250 mg, 0.505 mmol) のクロロホルム溶液 (12.5 mL) に 1-ドデカンチオール (250 mg, 1.24 mmol) を加えた。ここにボラン・tert-ブチルア ミン錯体をクロロホルム (12.5 mL) とエタノール (5 mL) の混合物に溶解したものを一度 に加え、室温で 24 時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣にエタノール (40 mL) を加えることにより生じる沈殿を遠心分離により集めた。集めた沈殿をエタノールで繰り 返し洗い原料や副生成物を除くことで金クラスターA を黒色蝋状固体 (61 mg) として得 た。TEM による観察で平均直径を計測した結果 2.5 ± 0.5 nm (n = 200) であった。 図2.3 金クラスターA の透過型電子顕微鏡 (TEM) 像(スケールバー = 20 nm)と粒径分布 0 10 20 30 40 50 60 0 2 4 6 8 10 12 14 個数 直径 (nm)
- 24 - 2.2.3. 金クラスターB (2.5 ± 0.9 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成5) 30 mM 塩化金酸水溶液 (45 mL, 1.35 mmol) に 50 mM テトラオクチルアンモニウムブロ ミドトルエン溶液 (120 mL, 6.00 mmol) を加え激しく撹拌した。水層より金(III)イオンが完 全に消失したら、有機層に1-ドデカンチオール (255 mg, 1.26 mmol) を加え 15 分間撹拌し た。新鮮な0.4 M 水素化ホウ素ナトリウム水溶液 (37.5 mL, 15 mmol) を一度に加え室温で 3 時間撹拌した。有機層を分離後減圧濃縮し、残渣にエタノール (200 mL) を加えること で生じる沈殿を遠心分離により集めた。沈殿をエタノールで繰り返し洗い、最後にサイズ 排除クロマトグラフィー (バイオビーズ S-X1, トルエン) により精製後濃縮することで、 金クラスターB を黒色蝋状固体 (312 mg) として得た。TEM による観察で平均直径を計測 した結果2.5 ± 0.9 nm (n = 200)であった。 図2.4 金クラスターB の透過型電子顕微鏡 (TEM) 像(スケールバー = 20 nm)と粒径分布 0 5 10 15 20 25 30 35 0 2 4 6 8 10 12 14 直径 (nm) 個数
- 25 - 2.2.4. 金クラスターC (5.6 ± 2.2 nm 1-ドデカンチオラート保護金クラスター) の合成12) 金クラスターB (150 mg)、テトラオクチルアンモニウムブロミド (1.5 g) および 1-ドデカ ンチオール (1.5 mL)の混合物を 150 oC の湯浴中で 1.5 時間加熱撹拌した。室温まで冷まし てからエタノール (30 mL) を加え遠心分離により沈殿を集めた。クロマトグラフィー (BioBeads S-X1, トルエン) による精製の後、トルエン/メタノールより再沈殿することで金 クラスターC を黒色蝋状固体(122 mg)として得た。TEM による観察で平均直径を計測した 結果5.6 ± 2.2 nm (n = 200)であった。 図2.5 金クラスターC の透過型電子顕微鏡 (TEM) 像(スケールバー = 20 nm)と粒径分布 0 5 10 15 20 25 30 0 2 4 6 8 10 12 14 直径 (nm) 個数
- 26 - スキーム2.1 ポルフィリン修飾アルカンチオール 2.6a-c の合成 2.2.5. 5-(4-ニトロフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリン (2.2) の合成13) 2.1 (2.00 g, 3.25 mmol) をクロロホルム (安定剤としてエタノールを含む。200 mL) に溶 解し氷浴上で冷却した。溶液をマグネチックスターラーで撹拌しつつ、発煙硝酸 (d = 1.52, 2.5 mL) を 1 時間かけて滴下した。反応は薄層クロマトグラフィー (溶離液: ジクロロメ タン) により追跡した。原料が消失したら、反応混合物を水で洗い (5 × 200 mL)、有機層 を硫酸ナトリウム上で乾燥した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフ
- 27 - ィー (ワコーゲル C-200, ヘキサン/ジクロロメタン = 1/0 ~ 1/2) により精製することで 2.2 を暗紫色結晶 (1.09 g, 51%) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温): δ/ppm -2.80 (brs, 2H, 内部 NH), 4.00 (brs, 2H, NH2) 7.72-7.84 (m, 9H, ベンゼン), 8.21 (m, 6H, ベンゼン), 8.40 (m, 2H, ベンゼン), 8.64 (m, 2H, ベンゼン), 8.74 (m, 2H, ポルフィリン), 8.86 (m, 4H, ポルフィリン), 8.89 (m, 2H, ポ ルフィリン). 2.2.6. 5-(4-アミノフェニル)-10,15,20-トリフェニルポルフィリン (2.3) の合成14)
2.2 (1.09 g, 1.65 mmol) に濃塩酸(40 mL)と塩化スズ(II)2 水和 (2.35 g, 10.4 mmol) を加え、 不溶物に構わず80oC の油浴上で撹拌した。この間盛んに塩化水素が発生した。一晩撹拌の 後、反応混合物を1 M 炭酸ナトリウム水溶液 (600 mL) にあけ、ジクロロメタン(2 × 500 mL) で抽出した。有機相を合わせ、硫酸ナトリウム上で乾燥の後溶媒を減圧下留去した。 残渣をジクロロメタン/ヘキサンより再結晶することで 2.3 を暗紫色結晶 (1.04 g, 100 %) と して得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 7.05 (m, 2H, ベンゼン), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.99 (m, 2H, ベンゼン), 8.21 (m, 6H, ベンゼン), 8.83 (m, 6H, ポルフィリン), 8.94 (m, 2H, ポルフィリン). 2.2.7. 3-ブロモ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]プロピオン アミド (2.4a) の合成 塩化チオニル (1 mL, 14 mmol)、3-ブロモプロピオン酸 (0.500 g, 3.27 mmol)、および触媒 量のN,N-ジメチルホルムアミド (1 滴) の混合物を室温で 1 時間撹拌した。過剰の塩化チ オニルを留去し、残渣を乾燥クロロホルム (5 mL) に溶解した。別のフラスコに 2.3(100 mg, 0.16 mmol) と乾燥ピリジン (1 mL) を乾燥クロロホルム (20 mL) に溶解したものを氷冷 しておき、先の酸クロリド溶液を撹拌しながら滴下した。更に1 時間撹拌の後、反応混合 物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロロメ タン) により精製することで 2.4a を紫色粉末(101 mg, 87 %)として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 3.08 (t, 2H, COCH2), 3.84 (t, 2H, BrCH2), 7.69 (brs, 1H, CONH), 7.71-7.82 (m, 9H, ベンゼン), 7.91 (m,
- 28 - 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.8. 3-アセチルチオ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]プロ ピオンアミド (2.5a) の合成 2.4a (101 mg, 0.132 mmol) をテトラヒドロフラン (10 mL) に溶解し、ここにチオ酢酸カ リウム (100 mg, 0.88 mmol) のエタノール溶液(6 mL)を加えた。これを窒素雰囲気下で 3 時 間還流後、反応混合物を塩水にあけた。クロロホルムで3 度抽出し、合わせた有機相を硫 酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー (ワ コーゲル C-200、ジクロロメタン) により精製することで 2.5a を暗紫色結晶 (88.1 mg, 87 %) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 2.43 (s, 3H, COCH3), 2.85 (t, 2H, COCH2), 3.35 (t, 2H, BrCH2), 7.55 (brs, 1H, CONH), 7.71-7.82 (m, 9H, ベンゼン), 7.89 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.9. N,N’-ビス[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]-3,3’-ジチオジ プロピオンアミド (2.7) の合成 3,3’-ジチオジプロピオン酸(16.7 mg, 0.795 mmol)、塩化チオニル(1 mL, 13.8 mmol)および N,N-ジメチルホルムアミド(1 滴)の混合物を室温で 3 時間撹拌した。過剰の塩化チオニルを 減圧留去後、残渣を乾燥クロロホルム (1 mL) に溶解した。別のフラスコに 2.3(100 mg, 0.16 mmol)と乾燥ピリジン(1 mL)を乾燥クロロホルム(20 mL)に溶解したものを氷冷しておき、 先の酸クロリド溶液の一部(0.1 mL)を撹拌しながら滴下した。更に 1 時間撹拌の後、反応 混合物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロ ロメタン/メタノール=100/1 ~ 20/1) により精製することで 2.7 を紫色粉末(87 mg, 76 %)と して得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.82 (brs, 2H, 内部 NH), 3.08 (t, 2H, COCH2), 3.35 (m, 2H, SCH2), 8.23 (brs, 1H, CONH), 7.50-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 8.00-8.08 (m, 6H, ベンゼン), 8.18-8.24 (m, 4H, ベンゼン), 8.65-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.10. 3-メルカプト-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]プロピ
- 29 - オンアミド(2.6a)の合成 方法A (2.5a より) 2.5a (50 mg, 0.066 mol) を脱気したテトラヒドロフラン (1.5 mL) に溶解し、ここに脱気 した水酸化カリウム (60 mg, 1.1 mmol) メタノール溶液 (3 mL) を加え、窒素雰囲気下で 15 分間加熱還流した。溶媒を減圧下留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー (ワコー ゲル C-200、ジクロロメタン) で精製した。最後にジクロロメタン/メタノールより再結晶 することで2.6a を紫色粉末 (14 mg, 30 %) として得た。 方法B (2.7 より) 2.7 (10 mg, 0.0070 mmol)、2-メルカプトエタノール (0.10 mL)、触媒量のトリエチルアミ ン (1 滴)、およびテトラヒドロフラン (0.5 mL) の混合物を窒素雰囲気下、室温で一晩撹 拌した。溶媒を減圧留去し、残渣にメタノールを加えることで生じる沈殿を集めた。沈殿 をジクロロメタン/メタノールより繰り返し再沈殿を繰り返すことで 2.6a を紫色粉末 (8.5 mg, 85 %) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.84 (t, 1H, SH), 2.83 (t, 2H, COCH2), 3.02 (m, 2H, SCH2), 7.60 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベン ゼン), 7.88 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.82-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.11. 6-ブロモ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ヘキサンア ミド(2.4b)の合成 6-ブロモヘキサン酸 (500 mg, 2.56 mmol)、塩化チオニル (1 mL, 13.8 mmol)、および N,N-ジメチルホルムアミド (1 滴) の混合物を室温で 1 時間撹拌した。過剰の塩化チオニルを 減圧留去し、残差を乾燥クロロホルム (5 mL) に溶解した。2.3 (100 mg, mmol) とピリジン (1 mL) を乾燥クロロホルム (20 mL) に溶解、氷冷したものに先の酸クロリド溶液をゆっ くり加え、1 時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮して得られる残渣をシリカゲルクロマ トグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロロメタン) により精製の後ジクロロメタン/メタ ノールより再結晶することで2.4b を暗紫色結晶 (119 mg, 93 %) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.65 (q,
- 30 - 2H, CH2), 1.90 (q, 2H, CH2), 1.99 (q, 2H, CH2), 2.53 (t, 2H, COCH2), 3.50 (t, 2H, BrCH2), 7.47 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.88 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼ ン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.12. 6-アセチルチオ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ヘキ サンアミド(2.5b)の合成 2.4b (119 mg, 0.147 mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (10 mL) とチオ酢酸カリウム(100 mg, 0.88 mol) のエタノール溶液 (6 mL) を混合し、窒素雰囲気下で 3 時間還流した。反応 混合物を塩水にあけ、クロロホルムで繰り返し抽出した。有機相を合わせ硫酸ナトリウム で乾燥後濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロロメ タン) により精製の後ジクロロメタン/メタノールより再結晶することで 2.5b を暗紫色結 晶 (114 mg, 97 %) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.58 (q, 2H, CH2), 1.72 (q, 2H, CH2), 1.91 (q, 2H, CH2), 2.37 (s, 3H, COCH3), 2.53 (t, 2H, COCH2), 2.95 (t, 2H, SCH2), 7.47 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.89 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.13. 6-メルカプト-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ヘキサ ンアミド (2.6b)の合成 2.5b(114 mg, 0.142 mmol) を脱気したテトラヒドロフラン (3 mL)に溶解し、これに水酸 化カリウム (120 mg, 2.14 mmol) のメタノール溶液 (6 mL) を脱気したものを加え、窒素雰 囲気化で15 分間還流した。反応混合物を酢酸 (0.5 mL) で中和し、減圧濃縮の後にシリカ ゲルクロマトグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロロメタン) により精製した。ジクロ ロメタン/メタノールより再結晶することで 2.6b を紫色粉末 (71 mg, 67 %) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.41 (t, 1H, SH), 1.61 (q, 2H, CH2), 1.76 (q, 2H, CH2), 1.88 (q, 2H, CH2), 2.53 (t, 2H, COCH2), 2.62 (t, 2H, SCH2), 7.47 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.91 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25
- 31 - (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.14. 11-ブロモ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ウンデカン アミド (2.4c) の合成 11-ブロモウンデカン酸 (0.500 g, 1.89 mmol)、塩化チオニル (1mL)および触媒量の N,N-ジメチルホルムアミド (1 滴) の混合物を室温で 1 時間撹拌した。過剰の塩化チオニルを 留去し、残渣を乾燥クロロホルム(5 mL)に溶解した。2.3 (320 mg, 0.500 mmol) の乾燥クロ ロホルム溶液 (60 mL)にピリジン(1 mL)を加えたものを氷冷し、ここに先の酸クロリド溶 液を撹拌下ゆっくりと加えた。更なる1 時間の撹拌の後、反応混合物を減圧濃縮し、残渣 をシリカゲルクロマトグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロロメタン) により精製した。 ジクロロメタン/メタノールより再結晶することで 2.4c を紫色粉末 (389 mg, 87%) として 得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.5-1.60 (m, 12H, CH2), 1.75-1.95 (m, 4H, CH2), 2.52 (t, 2H, COCH2), 3.43 (t, 2H, BrCH2), 7.45 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.89 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.15. 11-アセチルチオ-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ウン デカンアミド (2.5c) の合成 2.4c(389 mg, 0.44mmol) のテトラヒドロフラン溶液 (15 mL) にチオ酢酸カリウム(150 mg, 1.32 mmol) のエタノール溶液 (9 mL) を加え、窒素雰囲気下で 3 時間還流した。室温まで 冷ましてから塩水中にあけ、ジクロロメタンで繰り返し抽出した。合わせた有機相を硫酸 ナトリウム上で乾燥後減圧濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ワコーゲル C-200, ジクロロメタン)により精製した。最後にジクロロメタン/メタノールより再結晶する ことで2.5c を紫色粉末 (368 mg, 95 %) として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.28-1.55 (m, 12H, CH2), 1.59 (q, 2H, CH2), 1.86 (q, 2H, CH2), 2.33 (s, 3H, COCH3), 2.51 (t, 2H, COCH2), 2.88 (m, 2H, SCH2), 7.48 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.90 (m, 2H, ベンゼ
- 32 - ン), 8.13-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール). 2.2.16. 11-メルカプト-N-[4-(10,15,20-トリフェニルポルフィリン-5-イル)フェニル]ウンデ カンアミド (2.6c) の合成 2.5c (368 mg, 0.42 mmol) を脱気したテトラヒドロフラン (10 mL)に溶解し、これに水酸 化カリウム (0.4 g, 7.12 mmol) のメタノール溶液 (20 mL)を脱気したものを加え、窒素雰囲 気化で15 分間還流した。反応混合物を減圧濃縮して得られる残渣を 1%酢酸で中和し、ジ クロロメタンにより抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後濃縮し、シリカゲルクロ マトグラフィー (ワコーゲル C-200、ジクロロメタン) により精製した。最後にジクロロ メタン/メタノールより再結晶することで 2.6c を紫色粉末(225 mg, 64 %)として得た。 1H NMR (400 MHz, クロロホルム-d, TMS, 室温) : δ/ppm -2.78 (brs, 2H, 内部 NH), 1.25-1.50 (m, 12H, CH2), 1.34 (t, 1H, SH), 1.49 (q, 2H, CH2), 1.63 (q, 2H, CH2), 1.87 (q, 2H, CH2), 2.53 (t, 2H, COCH2), 2.53 (m, 2H, SCH2), 7.47 (brs, 1H, CONH), 7.70-7.80 (m, 9H, ベンゼン), 7.91 (m, 2H, ベンゼン), 8.14-8.25 (m, 8H, ベンゼン), 8.80-8.90 (m, 8H, ピロール).