第 2 章 ポルフィリン修飾金クラスターの合成と光化学的機能
2.4. 結果および考察
2.4.1. 吸収スペクトルの分解と置換数
図にポルフィリン修飾金クラスター2.6b@A および 2.15@A のトルエン中における吸収 スペクトルを示す。いずれの金クラスターにおいても、520 nm付近に弱い表面プラズモン 共鳴に由来する吸収帯が、近紫外領域にポルフィリン吸着質に由来するB帯 (ソーレー帯) が、そして可視領域にQ帯が観測された。Q帯における4つのピークは短波長側からそれ ぞれQy(1,0), Qy(0,0), Qx(1,0), Qx(0,0) に帰属された。ポルフィリンの金クラスターへの導入 は最大吸収波長のシフトによっても支持される。ポルフィリン発色団に由来する5つの吸 収帯 (1 つのソーレー帯と 4つのQ帯) は、原料のポルフィリン修飾アルカンチオールに 比べるとそれぞれ最大で4 nm深色移動していた。同様の深色効果は他の発色団-金クラス ター複合系においても見いだされる22)。
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図2.6 サイズ排除クロマトグラフィーによる精製後の2.6b@Aおよび2.15@Aの吸収 スペクトル (トルエン中)
0 1 2 3 4 5
300 400 500 600 700
10-6ε(M-1cm-1)
波長(nm)
2.15@A 金クラスターA 2.15@A
15 mM
50 mM 2.15@A
金クラスターA 0
1 2 3
300 400 500 600 700
10-6 ε (M-1cm-1)
波長(nm)
系列2 系列1 2.6b@A
50 mM
15 mM
2.6b@A 金クラスターA
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図2.7 ポルフィリン修飾アルカンチオール2.6bおよび2.15の吸収スペクトル ([2.6b] = [2.15] = 1 μM、トルエン中)
ポルフィリン修飾アルカンチオール2.6bおよび2.15の吸収スペクトルは、tert-ブチル基 の電子供与性に起因する弱い深色効果と濃色効果を除けばほとんど同一である。にもかか わらず、金クラスター表面に吸着したポルフィリン吸着質の吸収特性は両者で明らかに異 なる。特筆すべきはソーレー帯における、400 nm付近のショルダーの増大である。420 nm の本体ピークから浅色移動したこのショルダーは、H会合体励起子のそれとよく似ている
23)。我々のシステムポルフィリン―金クラスター間の側対表面の会合様式はポルフィリン 同士の面対面会合 (H 会合) を許すが、これは金クラスター表面におけるマルチバレント リンケージをもちいた、ポルフィリンの面体表面会合様式と対照的である。じっさい、金 クラスター表面における側対側会合体はJ会合体の形成を示唆する長波長側のショルダー 増大が観測される24)。Q帯においてはこのようなショルダーが見られず、カシャの理論に より説明される励起子結合がモル吸光係数の大きな発色団 (ここではソーレー帯) ほど強 い25)ということと矛盾しない。今回我々の得たポルフィリン修飾金クラスターは表面の全 チオラートリガンドのうち10%程度以下がポルフィリン修飾アルカンチオールで置換され ていた (吸収スペクトルを基に計算)。置換数が小さいのに会合体を形成するのは困難なよ うに見える。しかし、金クラスター表面にある Au-S 結合により連結されたリガンドは表 面を移動することが知られており、相互作用による安定化の寄与がある色素においては部
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
300 400 500 600 700
10-6ε(M-1cm-1)
波長(nm)
2.6b 2.15
×10
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分的に置換された色素複合体においても金クラスター上において自発的に会合体を形成す る場合がある26)。ポルフィリンのπ-πスタッキングにより会合する傾向は、金クラスター 表面におけるポルフィリン環の会合体形成に寄与し得る。会合の度合いは、ポルフィリン 部分における、ピークとそれに付随するショルダーのモル吸光係数の比 ε400/ε420 をとるこ とで評価できる (図 2.8)。リンカーとポルフィリン部分をつなぐアミド結合もまた、水素 結合により安定化する傾向があるので、金クラスター表面におけるポルフィリンの集合に 寄与しそうである。このような静電的相互作用は、ポルフィリン修飾金クラスターの存在 する非極性環境においてはむしろ強く寄与する27)。このような相互作用はポルフィリン間 同士の接近とそれに続く凝集体の形成をアシストする28)。
図2.8 2.6b@Aおよび2.15@Aにおけるポルフィリン吸着質のε400/ε420
図2.8より、2.6b@Aの方がショルダーが大きいだけでなく、どちらのポルフィリン修飾
金クラスターもが置換数の増大に伴ってショルダーが増大していることが分かる。この増 大はいずれのポルフィリン修飾金クラスターにおいても、ポルフィリンが金クラスター上 でH会合体を形成しているとすれば説明が可能である。2.15@Aにおける、弱いショルダ ーの増大はアリール基の立体効果で説明できるだろう。ポルフィリンのメソ位を置換する アリール基は、最安定配座においてポルフィリン平面よりかなりの二面角 (~90 度) を有 している29)。これにより我々は、アリール基の3,5-位にある嵩高い置換基を導入すること
0 0.1 0.2 0.3 0.4
0 1 2 3 4 5 6 7 8
ε400/ε420
置換数
2.6b@A 2.15@A
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によって効果的にポルフィリンの会合を抑制し、また会合体の面間距離を大きくすること ができる30)。カシャの理論はまた、励起子カップリングの強度が色素間距離に依存するこ とを示しており、2.15@Aにおいてショルダーの増大が小さいことと矛盾しない。
ソーレー帯のブロードニング (半値幅の増大) も 2.6b@A において顕著であるが、興味 深いことに、ショルダーの増大とは異なり、半値全幅は置換数の増大に伴って僅かに大き くなるだけである (半値全幅: 13.4 nm (2.6b), 12.6 nm (2.15))、20.8–22.4 nm (2.6b@A)、12.0-13.0 nm (2.15@A))。吸収帯のブロードニングは金クラスターや金基盤への色素修飾などに おいても見られ、発色団と周りの分子との相互作用に起因する、励起子カップリングから 独立した事象である31)。金クラスター上に吸着したポルフィリンは、ポルフィリン―金ク ラスター、ポルフィリン―ポルフィリン相互作用だけでなく、残っているドデカンチオー ルリガンドとも相互作用をしている。ポルフィリン―ポルフィリン相互作用に起因する会 合体の形成は、ブロードニングに寄与しそうだが、ほかの相互作用に比べるとその効果は
(~1.6 nm) 小さいようである。2.15@Aにおけるより弱いブロードニングは、嵩高い置換基
によって、金クラスター表面においてポルフィリン環と他分子との相互作用が抑制されて いることを示唆している。
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