第 3 章 金クラスター表面のリガンド交換反応を利用した活性酸素発生制御
3.4. 結果および考察
3.4.1. 3.3@Dの合成における吸収スペクトルの経時変化
図3.1にポルフィリン修飾アルキルジスルフィド 3.3と1-ドデカンチオラート保護金ク ラスターDのリガンド交換反応における、吸収スペクトルの経時変化を示す。第2章にお けるポルフィリン修飾アルカンチオールを用いた場合とは異なり、室温においては反応の 進行を認めなかった。これは、チオール/チオラートリガンド交換反応よりもジスルフィド /チオラートリガンド交換反応の方が反応速度が小さいためであると考えられる。加熱条件
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下においては遅いものの吸収スペクトルにおいてはっきり確認できる吸収帯を観測するこ とができた。反応温度 80oC の場合にはポルフィリンが消費しつくされていることが示唆 された (図3.2)。これでもなお、交換反応の十分な進行には1 日程度を要し、チオールの 場合 (数分から1時間程度) よりも交換反応速度は小さかった。
図3.1 3.3@D合成における吸収スペクトルの経時変化
(ジクロロメタン中、475 nmで規格化)
0.0 0.5 1.0
300 350 400 450 500 550 600 650 700
吸光度
波長(nm) 60oC
24 h
0 h
0.0 0.5 1.0
300 350 400 450 500 550 600 650 700
吸光度
波長(nm) 24 h
80oC
0 h
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図3.2 3.3@Dの最大吸収波長(419 nm)吸光度の経時変化 0
0.2 0.4 0.6
0 5 10 15 20 25
吸光度(419 nm)
反応時間(h)
系列1 系列2 60oC 80oC
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図3.3にリガンド交換反応後の3.3@DのΦΔを示した。又、それぞれの濃度における各 試料のΦΔの算術平均をとり、これを 3.4濃度に対してプロットしたものが図である。3.4 を添加しない時、即ちポルフィリン修飾金ナノ粒子のΦΔは0.08であり、ポルフィリン修 飾金ナノ粒子は殆ど一重項酸素発生能を持たない事が分かった。これは、ポルフィリンが 金ナノ粒子の近傍に束縛されることでポルフィリン-金ナノ粒子間のエネルギー移動が効 率的に起こる為であると考えられる。ポルフィリン修飾金ナノ粒子と 3.4 とのリガンド交 換反応による生成物のΦΔは反応の前後で大きく変化した。また反応は10 mMで殆ど飽和 し、その生成物ΦΔはおよそ0.3である事が分かった。これはテトラフェニルポルフィリン
のΦΔ (= 0.70) に比べると小さいが、この結果はポルフィリンが金ナノ粒子表面より脱離し
てもなお系内の金ナノ粒子との間でエネルギー移動が起こっている事を示唆している。
図3.3 ポルフィリン修飾金クラスター3.3@Dと1-ドデカンチオール (3.4) によるリガン ド交換反応に伴うΦΔの変化 ([3.3@D] = 20 μg/mL、トルエン中、反応時間 = 10時間)
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 1 2 3 4 5
一重項酸素量子収率ΦΔ
[3.4] (mM)
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図3.4 にリガンド交換反応に伴う紫外可視吸収スペクトルの変化を示す。リガンド交換 反応に伴って、3.3@Dのソーレー帯の半値全幅は15.4 nmから13.5 nmに減少した。これ は、テトラフェニルポルフィリンのそれと同一である。このことから、リガンド交換反応 によってポルフィリンが定量的に金クラスター表面から脱吸着されていることが示唆され た。
図3.4 リガンド交換反応に伴う紫外可視吸収スペクトルの経時変化と差スペクトル ([3.3@D] = 10 μg/mL、[3.4] = 135 mM、トルエン中、室温)
表3.1 にポルフィリン修飾金ナノ粒子と種々の硫黄化合物とのリガンド交換反応生成物 のΦΔをまとめたものを示した。概して、ジスルフィドを用いた場合、対応するチオールを 用いた場合に比べ生成物のΦΔは小さくなった。これは、ジスルフィドが嵩高く、又硫黄原 子上の電子がジスルフィド結合をとることによって安定化されている為であると考えられ る。ジスルフィドの中でも3.7を用いた場合に比較的大きなΦΔを与えていることは、リガ ンド交換反応効率が硫黄原子周りの立体障害だけでなく、硫黄原子上の電子状態に依存す る事を示唆している。チオールの中でも3.13を用いた場合のΦΔは小さくなったがこれは
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
300 400 500 600 700 800 900 1000
吸光度
波長(nm) 10 h
0 h
-0.04 -0.02 0 0.02 0.04
350 400 450 500
Δ吸光度
10 h
0 h
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主に立体障害が影響しているものと思われる。カルボキシル基を有するチオール、即ち3.8 及び3.10を用いた場合のΦΔは特に大きく、これはエネルギーの受け皿となる金ナノ粒子 が凝集、系より排除されたことに起因すると考えられる。3.11を用いた場合は金ナノ粒子 の凝集、即ちリガンド交換反応が起こったにも関わらずΦΔが小さな値を与えた。これは、
3.11が分子内にジスルフィド結合を有するために交換反応が起こってもポルフィリンが金 ナノ粒子表面より脱離できないためであると考えられる。3.10はジチオールであり、金ナ ノ粒子を架橋する可能性が示唆されていたが、本実験においてはそのような現象は見られ なかった。これは、3.10のチオール-チオール間の距離が1-ドデカンチオラートリガンドに 対して短い為であると考えられる。
表3.1 3.3@Dと種々の硫黄化合物によるリガンド交換反応後のΦΔ
RS or RSSR’ ΦΔ
3.4 0.24 ± 0.02
3.5 0.05 ± 0.03
3.6 0.24 ± 0.01
3.7 0.14 ± 0.03
3.8 0.42 ± 0.10
3.9 0.07 ± 0.01
3.10 0.59 ± 0.02
3.11 0.10 ± 0.03
3.12 0.30 ± 0.01
3.13 0.15 ± 0.01
反応条件: [3.3@D] = 20 μg/mL、[RSH or RSSR’] = 1 mM、トルエン中、室温、
反応時間 = 10時間