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2016年度 夏季自然観察研修会「佐渡の自然を訪ねて」について 研究発表一覧 第46回関東理科教育研究発表会千葉大会

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Academic year: 2018

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……… 第46回関東理科教育研究発表会

1 はじめに

 現代生物学においてiPS細胞など分子生物学的な分野の発展は目覚ましく,世間の耳目を集め,教科書に も年々新しい事項が盛り込まれていくのは至極当然のことである。それに比して生態学の分野の新しい研究 が教科書に加えられることは滅多にないと言ってよいだろう。また,新規に採用された若手教員の専門分野 を聞くと研究室での研究に終始することが多かったと語る者が少なくない。このような状況において,生徒 に生態学の楽しさを伝えきれているだろうか。いや,そもそも生態学の分野に限らず,教員が生物学の授業 を余すところなく展開する上で,生物の面白さ・奥深さを教員が実体験する機会を提供し,参加してもらう ことは必要不可欠であり,それをもって生物学の発展に寄与すると確信している。本発表では,神奈川県高 等学校教科研究会理科部会「生物研修委員会」が実施してきた研修旅行の内容と,それをもとにして作成し た教材の報告を行う。

2 研修旅行の歴史

 当委員会では教科書に載っているものは見るべきものであるとの信念から,海外研修旅行と国内研修旅行 を数十年にわたり主に夏季休業中に実施してきた。海外研修では台湾,インドネシア,アラスカ,雲南,ネパー ル,マダガスカル,タンザニア,ギニア高地,アマゾンなどに赴き,エコツアーの魁となった。また,国内 研修では2~4泊で大雪山,知床,釧路湿原,利尻・礼文島,白神山地,鳥海山,秋田駒ケ岳,早池峰,日 光,尾瀬,立山,南アルプス,神津島,伊豆,鳥取~笠岡,屋久島,奄美大島などで研修を行った。1泊で 館山のウミホタル研修をしたこともある。いずれの研修においても参加者は大いに見識を深め,自らの研究 の一助とした。

3 2016年度の国内研修旅行

 今年度は佐渡島において,トキについて一日半と,日本海の海岸生物について一日の研修を行った。

① 佐渡トキ保護センター 野生復帰ステーション

  まず,環境省の自然保護官と保護センター参事に講演をいただいた。トキNipponia nippon はかつて東 アジアに広く分布しており日本でもありふれた鳥であったが,日本の個体群は2003年のキンの死亡により 絶滅した。そののち国家プロジェクトとして中国の個体群

を譲り受けて繁殖・放鳥に取り組み,2016年現在野生下の 個体数は約200羽を数えるまでになった。そのうち放鳥ト キは約120羽,野生下で誕生したトキは約80羽である。野 生復帰ステーションでは毎年6月と9月の年2回の放鳥を 実施しており,各回20羽弱の個体を野生に戻している。こ の20羽弱という数字は順化ケージの収容力を考慮したもの で,増えることはない。トキはとてもデリケートな鳥であ

り,職員の服装が異なるなどのほんの些細なことで興奮し,ひどいときにはパニックに陥り,ケージの網 にぶつかり,落下し,内臓破裂で死んでしまう。ゆえに飼育には細心の注意を払っている。もっとも中国 の順化施設は規模が桁違いに大きく,そのような配慮は不要の由。当然,野生トキの個体数も日本を大き く引き離しており,2000羽を超えている。ちなみに中国のトキと日本の絶滅したトキの遺伝子には兄弟程 度の差しかなく,別亜種とするほどの差もないとのことであった。また,近いうちに韓国でもトキの放鳥

2016 年度夏季自然観察研修会「佐渡の自然を訪ねて」について

神奈川県立藤沢清流高等学校 

近藤 和弘

 

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千葉大会

が開始される予定である。

  なお,佐渡トキ保護センターだけではリスクがあるので,佐渡市トキふれあいプラザ・長岡市トキ分散 飼育センター・いしかわ動物園(石川県能美市)・多摩動物公園・出雲市トキ分散飼育センターで分散飼 育がなされている。いずれの繁殖個体も野生に放鳥するためには佐渡の野生復帰ステーションで順化訓練 に入る。佐渡以外で放鳥がなされないのは,トキの生きていける「環境」が十分に揃っているとは言えな いからである。その「環境」とはひとえに地域住民の熱意である。

② トキふれあいプラザ

  トキを飼育するにあたってその参考にするべく飼い始めたトキの近似 種3種がそのままここで飼育されている。参加者1名がケージに入り, 実際に近似種への給餌体験をさせていただいた。トキふれあいプラザは 佐渡金銀山とともに佐渡の二大観光施設のため人慣れしているとはい え,やはり繊細な鳥であり,給餌する人がいつもと違うことがわかった ようで,最初は興奮し鳴き声を上げていた。トキの骨格標本や剥製も展 示されており,嘴の微細構造からトキは触覚で餌を採っていることが理 解された。また,実際にトキがドジョウを捕まえるところも観察できた。

③ トキ交流会館

  ビオトープ作りの体験と水田の生物調査を行った。トキの放鳥が佐渡でし かなされない理由の一つは,地域を挙げての環境保全への取り組みが,他地 域ではなかなか行われないからである。例えば全島の米作農家で「朱鷺と暮 らす郷づくり」の取り組みがなされており,水田への江(中干しの際の水生 生物の避難場所)などの設置,年2回の水田の生物調査,化学農薬・化学肥 料の地域の基準からの5割削減をすること等で,佐渡米の認証を受けられる。 つまり,島のそこかしこで一年中トキの餌場が確保されていることになる。 放鳥しても,暮らしていけないことには定着しない。トキの生息地たる環境 が市民の力で維持されているのが佐渡島である。

④ 新潟大学理学部附属臨海実験所

  船からと岸辺からとのプランクトン採集,磯でシュノーケリングしながらの動物採集,採集種の同定等 を行った。日本海の夏の海は波もなく穏やかで,日本海の干満のなさと相俟って潮間帯がとても狭く,神 奈川の海では見られない生物の分布様式があった。

4 研修の教材化

 実物を示すのが一番で,生物室にどれほど生物(標本)があるかが生物教育の充実度のバロメータになろ う。研修先から可能なものは持ち帰り,展示・回覧している。しかし昔ならいざ知らず,生物の移動には慎 重になるべきであり,多くの場合,映像資料が主となる。その為,パワポ教材にすることが多い。いずれに しても教員が自分の体験から語るので,当然のことながら生徒の反応は,教科書をめくるだけのときよりも 前向きで,様々なことを吸収している。教材は自作するに如くはない。

5 研修旅行の課題

 参加者の数は1990年代までは30人を数えていたが,昨今の様々な状況(教員数の減少・業務の多忙化等) からここ数年は十余名となっている。当委員会では特に若手教員の参加を促す必要がある。日本の教育を背 負っていく彼らには,早いうちに実物に触れる経験をしてもらいたい。

参照

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