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急性期入院治療中の女性患者の自己嫌悪、強迫症状に対する認知行動療法

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Academic year: 2021

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— 210 — 行 動 療 法 研 究 第43巻 第3号 〈口頭発表〉

急性期入院治療中の女性患者の自己嫌悪、

強迫症状に対する認知行動療法

本園 羊司

(萩病院)

コメンテーター:田中 恒彦

(新潟大学) 【ケース概要】 50代女性。髪を明るく染めあげ服装は派手 で目立つ。多弁で活動的な印象。結婚後2度の 離婚。現在内縁の夫と2人暮らし。子どもは独 立し別生計。診断名:双極性障害、情緒不安定 性パーソナリティ障害。服薬(mg/d):デパケ ン400 mg(#3から600 mgに増量)、レボトミ ン5 mg、デプロメール150 mg、ソラナックス 1.2 mg、ゾルピデム10 mg(#3からルネスタ 1 mgに変更)、ロプヒノール2 mg(向精神薬 以外は省略した)。 兄弟なし。幼少期から高校を中退して家を出 るまで両親からの激しい虐待(暴力、性的、ネ グレクト)を受けていた。中学のときからリス トカット、首つり、飛び降りなど自傷行為を繰 り返したが、社会福祉的な介入はなされていな い。20代から精神科通院、入院治療歴。人格 障害、うつ病、PTSDなどさまざまな診断がつ いた。X−2年、飲酒しないと起きられなくな り、X年、うつ状態がひどく終日横になる状態 になり当院入院。Clから希望があり面接開始。 これまで4度のカウンセリング歴があるが、そ のうち3人とは早期中断している。ケース発表 に関しては本人から書面にて同意を得た。 【面接経過】 #1∼4はヒアリングを行った。Clは自分が親 から受けてきた数々の暴力と虐待について話し 続けた。それは本当に悲惨なものだった。面接 でヒアリング、ワークで生活史の記述を行い、 扱える主訴を探した。#4の冒頭で生活史を記 述する際のきつさが軽減し、「そのときはたい へんだったけど、書いてみたらA4サイズ1枚 に収まるんだと思った。昔のことは今は話さな くていい。退院したら自己嫌悪に陥らず活動的 でいたい」と話され、3コラムを用いた自己嫌 悪のモニタリングをワークとした。 #5∼6は自己嫌悪に対して認知再構成を行っ た。(状況)持ち物検査の後、(自動思考)「教 えてくれたらいいのに」などの他患者への比較 的合理的な自動思考、(感情)怒り、(自動思考) 「人を責める自分は最低だ」「自分が悪い」など の2次的なべき思考やルール、(感情)自己嫌 悪、と概念化を行った。怒りを起こす合理的な 自動思考はノーマライズ(そんなことがあった のならそう思うのも当然ですよね、のような共 感的な言葉)、自己嫌悪を起こす自動思考は認 知再構成していった。このとき、思考が過剰に なりやすい傾向があったため適応思考の算出は 行わず自動思考を指摘するにとどめた。ワーク を通して7枚のコラムを書いたところで自己嫌 悪に陥ることはなくなった。同時に、怒りを感 じたときはこれが普通の感覚かを人に聞くよう になった、自分が悪いと考えて頼めなかった疲 労時の点滴を頼めるようになった、などの生活 の変化も確認された。 正月が怖い(家に人が来る前に掃除や身だし なみに強迫的になり、最後は疲労で動けなくな る)と話されたため、#7∼10では強迫に対して 認知再構成を行った。(状況)息子夫婦が家に 来るとき、(自動思考)「家が汚いと軽蔑される」 「だらしないと思われる」など破局的な自動思 考、(感情)憂鬱や焦り、(行動)細かい掃除を

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— 211 — 認知・行動療法コロキウム’16 in小浜 ずっとする、歯を何度も磨くなどの強迫行為、 と概念化を行った。後半になって「相手のご両 親から親としてふさわしくないと思われる」と いう強い自動思考が抽出された。5コラムとソ クラテスの問答を用いた認知再構成を行い、こ のときも適応思考の算出は行わず反論にとどめ た。(反証)「相手のご両親の家をFacebookで見 たけどあまりきれいな家ではなかった。そんな 家に住む人は家が汚くても気にしないかもしれ ない」「2人で住んでいるので家が汚いのは自分 の責任だけではない」、(反論)「きれいすぎる家 を軽蔑する人も世の中にはいる」などが算出さ れた。次の#9、外出中電気をつけっぱなしにす る、トイレでコーヒーを飲む、掃除を夫に任せ る、など強迫から自由な行動がとれたことを患 者は嬉しそうに話したため、それを増やすこと をワークとした。#10では、「以前は食器をきれ いに洗ってきれいに並べないと寝られなかったけ ど全部そのままにして寝た」「じっとしている と悪い気がしてきていつも動き回っていたけど、 家で横になることができた」などが報告され、 退院、終結となった。アセスメント(#1→#10)。 PHQ9 (抑うつ)=21→3、GAD7 (不安) 16→1、 SDISS(社会機能障害)21→6、QOL=38→61。 【考察】 本ケースからの臨床的な知見の一つとして、 認知再構成で行った技術的な工夫を挙げる。認 知再構成法では状況、気分、自動思考、根拠、 反証、適応思考、気分の再評価(7コラム)と 進めていくのがセオリーであるが、本ケースで は、自動思考の指摘にとどめる、反論にとどめ る、などの工夫を適宜行った。私の経験では認 知再構成法はどこをエンドにするかが非常に重 要であり、反論や適応思考の算出まで進めてし まうとよくならないことがある。それは適応思 考の算出は気分を改善させ、自動思考の指摘は 曝露として作用するなど機序が異なるためと考 えられる。この工夫は本コロキウムでも話題に なったピークエンドの法則であった。本ケース では自動思考をモニタリングし、ノーマライズ して人に怒りを感じることを普通の感覚と思え るようになったことで自己嫌悪に陥ることがな くなったと考えた。 【コメントと議論の概要】 コメンテーターの田中先生からは、マルトリー トメントのため精神症状は何でも出てくると思わ れる点、入院時の主訴、カウンセリングの主訴が わかりづらい点、行動指標がない点を指摘された。 また、思考への介入がスムーズにいったが知的 な問題があったのでは(知的な問題があると教 示や助言が入りやすくラベルやルールがすぐに 変わることがある)とコメントいただき、最後 に認知行動療法は何によって保障されるのか、 と問題提起された。西川公平先生からは、Thの 声のトーンによってClの訴えを消去していった のではないか、自己嫌悪はいつどこで何をする ことなのかを決めて頻度を数えること、問題が なくなることや何かをしなくなるだけでなく、 自己嫌悪に陥らなくなって何ができるようにな るかをデータにすることをコメントいただいた。 フロアの先生から、行っていたのは認知再構成 法ではなくモニタリングなのでは、とコメント いただいた。私は結果的に認知が再構成される ことをもって認知再構成としていたが、機序と 手続きは異なり、認知行動療法では手続きを明 確に示すことが大事であることの示唆を得た。 そのほかにも主訴にあったデータやアウトカム をとる、機能分析に基づいて介入する、などの 意見をいただいた。その都度訴えに対応してい る感じがある、との意見があった。私の面接で は大きく外れない範囲で毎回ホットな話題を扱っ ているが、皆さんは患者の訴えをとりあわずに 面接をしているのか次回聞いてみようと思った。 【謝辞】 コメンテーターの田中先生からは発表まで何 度もメールをいただき、「認知行動療法の必要 十分条件とは」という大きな示唆をいただきま した。司会の岡本利子先生には発表に不慣れな なか多大なサポートをいただきました。お礼申 し上げます。

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